魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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ハルトモ先生が、バビロニアのドラマCDのシナリオ担当か……。

『エルキドゥッシュ!!』(語呂悪っ)

小林画伯の声でエルキドゥが、鎖でぐだとマシュとギルを拘束するんだな。(マテ)

タイころでのあれを思い出しつつ最新話どうぞ。


第174話『シトラス・シリウス』

 何気ない話をしつつ自己紹介すると、やはり二人(ひびちか)の所属している学校に話題が集まる。

 

「ラ・フォンティーヌ・ド・ムーサ女子学院って言ったら、現代の『堀越学園』とも言われる芸能関係者の集まる学校ですね。

 それじゃお二人も何かの芸能事務所に?」

 

「いいや、普通にアタシとひびきも進学コースだよ。ただ芸能関係者に知り合いがいないわけではないから」

 

 2090年代ともなると学校教育も多様化されてきた。人口が減少したこともあり、専門教育というものが高等学校の頃から実施されている。

 

 魔法科高校はその最たるものだが、他にも文科高校、理科高校、教養科高校、体育科高校など専門性の高い高校が一般的になっている。

 一昔前のドイツの教育制度をなんぼか『軟化』させたものが、現在の日本の教育制度なのだ。

 

 今頃…シルヴィア、ミア、響子と『グータンヌーボな女子会』(レトロ)を行っている小野遥も魔法科高校の受験に失敗して理科高校に進学した人間だったりする。

 そのままでも幾らかの医療従事者としての資格は取れたのだが、まぁ高度な精神医療を求めて大学にまで行った彼女の心境はどのようなものだろうか。蛇足である。

 

「ふーん。要するに文化祭ってことね。岩石のようにおカタい魔法科高校にしちゃ随分とはっちゃけたことするもんだね」

 

 ハロウィンパーティーのことを話すと、カウンターにてコーヒーを淹れていたチカは、そんな風に返す。

 

 その言葉の若干の棘にレオは苦笑せざるを得ない。

 

「外から見ると、俺らってそう見られているんだな」

 

「まぁね。なんていうか格式ばってるというか、厳ついというか、制服からして、いつの時代の帝国士官だよ、とか思うし」

 

 レオの苦笑気味の言葉に更に返すチカに、あの『I/Kデザイナーズブランド』の制服は変更したほうがいいのではないかと思う。

 

 いや、誰もが若干思うことである。あんなもので動き回ればすぐに裾が駄目になってしまうのだから、経済困窮な家庭では必死である。

 

 特に荒事に巻き込まれやすい自分たちは。

 

「確かにな。はいからさんが通る的な時代で言えば『軍人さん』みたいなものか」

「かといって街なかで、ハリー・ポッターのホグワーツな格好されても困るけどね」

 

 そりゃそうだ。と誰もが苦笑してしまう。その一方でチカの言葉から思うに、もう少し一般の人々にも自分たちのことを知ってもらう努力は必要なのだろう。

 遺伝子操作された人間ばかりではない―――という枝葉末節なものを知っている人間も少ないならば、これは問題だろう。

 

「けどラ・フォンの制服は可愛いんだよね。さっきの桂木さんが入ってきた時の服は、ちょっと憧れるよ」

 

「人気ではあるからね。というか栞さん、ずいぶんと食いついてくるね……」

 

 クールな表情のままだが、興奮気味のしおりんに全員が意外な想いだ。

 

 よく見れば今日のお出かけファッションも少しばかり皆よりは洒落ている。寧ろ、都民・近郊民たる一高勢の方が若干、少し洒落ていない。

 

「読モになりませんかー? っていう勧誘が多かったぐらいです。けれど学業は疎かに出来ませんからね」

 

「残念?」

 

 愛梨の苦笑するような言葉を受けて、刹那は栞に問いかけると。

 

「まさか。確かに学生モデルってのは、ある種女の子の憧れだけど、今は魔法師として伸びていく方が楽しいもの。

 素敵な男の子も近くにいるわけだしね」

 

 言いながら刹那の近くに来て、『魔眼』というほどではないが、全てを数式化出来る眼を向ける栞。

 

 隣にいたリーナが少しだけむくれるも、そこまで目くじらを立てないのは、色々な打算があるのだろう。

 

 一番の敵は一色愛梨だと想っているとか、そんなところか。

 

「アタシもそんなに詳しいわけじゃないけど、魔法科高校でそんな校内をオープンにしちゃっていいのかしら?」

 

「ラ・フォンでも、芸能人のタマゴがいるとはいえ、学園祭とかあるんだろ?

 確かに国防云々を考えれば、学外の人間へのチェック態勢を厳にするのは止むをえないところもあるが、そういったある種の『閉鎖主義』が、色んな硬直化を生んでしまう。それは無くしたいところだ」

 

 学校のセキュリティ、生徒の保護というのは現代に至るまで様々取りざたされている。

 

 これは別に、魔法科高校だのなんだのというレベルの話ではない。

 

 学校教育というものにおいて、果たしてどれだけの学内セキュリティが求められているかということである。

 

 時に小学生児童というまだまだ肉体が未熟な人間を狙っての凶行があった頃に比べれば、現在はまだマシだが、その反面――――。

 

 高等学校の専門性が上がり、同時に扱われるものもかなり高度になり、結果として外部の人間をあれこれと寄せ付けないことになるのだ。

 

 その中でも、魔法に関しては国家機密レベルのデータベースというものがある魔法科高校は、どうしても神経質にならざるを得ず、同時に縄張りを守る野良犬のようにあれこれと噛みつかざるを得ないのだ。

 

「俺たちゃ喧嘩犬かよ」

 

「まぁ事実の一側面は突いているよね。確かに僕の家も、古式魔法師としての側面を出す前は、お賽銭泥棒とかに神経質になっていたからね」

 

 レオの苦笑交じりの嘆息に幹比古は少しの同意。結局の所、相手の善性に期待するしか無いのである。

 

 そんな風に想っていると――――。

 

「ふーん。随分と大層なことを考えてんのね―。確かにアタシらも、盗撮犯やろくでもないナンパ師なんかをふん縛る時もあったけれど、そんな風な御大層な考えはなかったわ」

 

「そうなのか? ラ・フォンティーヌともなれば、生徒の個人情報なんかは取引材料になると思うが」

 

「司波くんって結構、怖いこと考えるね……」

 

 古式ゆかしくカウンターの前でフルーツパフェを作っている千鍵が、苦笑交じりに言う。

 

「確かに、そういう考えはあるよ。アタシのお姉ちゃんなんかも、そういった不埒者はぶん投げていたけど―――それ以上にさ、『お祭り』なんだよ。その事を全然分かっていないね」

 

 言われて何人かが目からウロコが落ちる。

 

「御大層なことを考える前に、『自分たちの安全安心』だけでなくて、お祭りに来てくれる人たちを楽しませよう、とかそういった心持ちがないとさ―――さっき言った『外』の人たちに理解なんて示せないわよ」

 

 がつん! とハンマーでぶっ叩かれた気分だ。チカは、ホイップクリームをアイスの上に掛けて行きながら話す。

 

「あんまり言われたくないだろうけど、確かに世の中には反魔法師団体っていう人もいるわよ。そういう人たちは、よろしくないこともやってくるかもしれないわ。

 アタシのラ・フォン(ガッコー)にだって、『時代遅れ』なフェミニズム運動の人間もやって来ているわよ。こんな風に女性の『性的側面』を見世物にするのはどうなんだってね。たかだかチアダンスをしただけなのに」

 

 憤慨するような千鍵の様子に、ひびきは見守るようにしている。大切なことを言う千鍵の邪魔はしないようだ。

 

「そいつらに対してどう言っているんだ?」

 

 芸能関係者御用達のガッコーにおける教訓を少しだけ聞きたくて、誰もが耳を傾ける。

 

 世界は残酷な側面を持つが、それに対して力で対抗するだけならば、どうとでもなるが遺恨は残ってしまう。

 

 ならば――――。

 

「んなもんは無視すりゃいいのよ! 相手がこちらの邪魔をしてきたならば、それを排除する!! それだけよ。大声あげて己の主張ばかりを叫ぶならば、それはただの騒音被害なだけで、こちらのやっていることを邪魔するならば、学校業務及び自治に対する不当な介入だもの――――そんだけよ」

 

 至言である。甘い結論ではない。そしてそのぐらいの手合をどうにかすることは出来る。この上なく気持ちのいい笑顔を向けるチカに降参するばかりだ。

 

「持ち物検査を徹底するぐらいならば、特にアレコレ言われないだろう……んでもってトーシロ相手に、わざわざCAD頼みでなくてもなんとかなるだろう面子も多い」

 

「体格いいのが揃ってるしな。風紀委員の見廻り組も、増員すればいいだけだろう。物事を深刻に考えすぎなのは、魔法師の欠点だな」

 

 全員が苦笑のため息を漏らすのは仕方ない。なんせ一度は学校を襲うテロリストなんてのもいたんだから、神経質になるのはしょうがないのだ。

 

「素人意見でも役に立ったみたいで何より♪」

 

「チカちゃんすごい!」

 

「声帯模写とか、高度なことをするな!!」

 

「あざりーっ!!」

『キシオッ!!』

 

 千鍵によって投げつけられたケータイ電話。アンティークなそれが声をあげたような気がするが、気にしてはいけないような気がする。

 

 そしてパレードの変化なのか、声をひびきに真似た刹那の行いが、チカの怒りを買うのだった。

 

「まったく。とんだ能力の無駄遣いね」

 

 チカの怒り混じりの言動に、深雪は苦笑しつつ同意をする。

 

「それに関しては同感ですね……となると、刹那くんの円卓料理では、インパクトが薄いような気がしてきましたよ」

 

「メシを一緒に食べることで一種の融和をしたいという想いは間違いじゃない。そして刹那の中華ピザは美味しいだろうからな―――『メインイベント』は違うものにした方がいいな」

 

 司波兄妹の意見修正に考え込む。

 

 中条会長からの頼み事。結局の所、一と二の制度に囚われずに自由な発想でお祭り企画が出来る自分たちに任されたのも事実。

 

 概ね、各部活やクラスの出し物などは、通常の文化祭と同じくなっているからいいが、メインイベントが弱いということが露呈してきた。

 

「魔法師云々に関わらず、お祭りの参加者全員が楽しめるものか……」

 

「ミスター・ミスコンテストとかは?」

 

「それだと遺伝子操作された美だとか、穿った見方をされてしまうような気がするよ、エリカちゃん」

 

 エリカの意見に、魔法師であってもそういったものではない『天然』(第一世代)のグラマーガールにして魔法師たる美月がツッコミを入れる。

 

 最終的には、帯に短し襷に長しな意見ばかりが出てくるのだった。

 

「魔法科高校って、どこも都内の一高みたいに『大きな建物』を持っているの?」

 

 何気ない質問を投げかけるのはチカではなくビッキーのほうだった。

 

「いやー、やはり首都圏や大都市というよりも、『金』が集まりやすい都市の学校は他の所よりも大きいかの。

 金沢も大都市じゃが、近畿地方を代表する兵庫の『二高』。そして、首都圏を統べる都内の『一高』は、学校規模が二割ぐらい大きいと見える」

 

 ミックスパフェを沓子の手前に置いたビッキーの疑問に、沓子はスプーンを取りながら別のところ(三高)の人間として答える。

 

 建前上は、どこの学校も同一の規模ではあるとしているが、増築や改築の頻度。同時に地域ごとに担うものもあれば、段々と差異は出てくるものだ。

 

 そう考えれば学校規模に応じた『デカイこと』をしたい。狭い規模でのイベントは却下であろう。

 

「まぁこういう事は、エルメロイ教室で『ダンスチーム』などを組むこともしていた刹那くんに丸投げしましょう。私だとお兄様と一緒に出場できる一高のミスター・ミスコンしか思いつきませんし」

 

 それでもって、一高のベストカップルになるという野望を晒す深雪に、おにょれと思いつつ、こういったことはフラット兄さんの分野だったなと気づく。

 

 同時に『グ、グレイたんと踊れるなんて、い、生きててよかったぁ』などと感涙を流す兄弟子を呆然と見ながら、オルガマリーに教えられる形でステップを覚えるのだった。

 

 そんな思い出に浸りつつ、期限を定める。

 

「腹案はまとめられないな。取り敢えず学校授業が再開する二日間ぐらいは練らせてくれ。それまでには決める」

 

『答えなんてもう出ているような気もするけどね。ところで二人ともCADというものは知っているかな?』

 

「一般人とは言え、一応は。呪文を用いずに――――」

 

『しゃべるケータイ電話』に慣れていたからなのか、オニキス=ダ・ヴィンチの質問に答えるチカの声も遠くに聞きながら、どうしたものかと考える。

 

 煮詰まるほどではないが、ここまで混沌だと―――気分転換がしたいわけだ。

 

「セルナでも解決できない悩みはあるんですね」

 

 イタズラっぽい笑顔を向ける愛梨に苦笑しながら刹那は答える。

 

「そんなんばっかりだよ。むしろ今はまだいいのさ。解決させてくれない悩みも多かったわけだしな」

 

 救えるはずだったのに救う手を拒否した人々の顔を思い出して、シニカルにならざるを得ない。

 

 そんな顔を、金沢からのお客さんに見せるのは、よろしくないな。ということで愛梨に一つワガママをすることにした。

 

「このままじゃダメだな。腹案を纏めようにも、煮詰まりすぎる―――というわけで、アイリ」

 

「はい? 何でしょうか?」

 

「九校戦の時に言っていたことだけど、俺にご馳走してくれないか?

 君が言っていた得意料理―――『金沢カレー』を」

 

 朗らかな笑みを刹那に向けていた一色愛梨に衝撃が走る。その言葉を受けて、一色愛梨の魔法演算領域が稲妻の如き計算式を導き出す。

 

 君のカレーを食べたい。

 ↓

 俺の家で作ってくれ。

 ↓

 寧ろ君を食べたい。

 

 選択肢

Aどうぞ遠慮なく、私を愛してください 

B…今日こそ言えそう。LOVE ME PLEASE

 ↓

 同衾・既成事実

 ↓

 妊娠(一姫二太郎)

 ↓

 責任婚(学生結婚)

 ↓

 HAPPY END(BGM キャンユーセレブレイト)

 

「そ、それは吝かではないんですけど、セルナ……私、今日は無地の純白なんて地味な下着なんですよ……? そんな私でも愛してくれます……?」

 

「いや、ナンの話よ!? アンタの中での思考回路はどうなってるのよ―――!?」

 

 手を組んで懇願するかのように刹那を潤んだ眼で見る一色愛梨から引き離すように、リーナは首に巻き付くように抱きついて引き離す。

 

「だまりなさいアンジェリーナ。アナタのように、昔から一緒にいるというだけで同棲をしている卑怯者には―――このチャンス邪魔はさせません!!」

 

 どれだけいちゃつこうが、退かぬ媚びぬ省みぬな一色愛梨は、やはりリーナのライバルなのだろう……ビジュアルも若干被っているし。

 

 そもそも刹那とリーナは二人とも同じ家に住んでいるから、これはどうしようもないんじゃないかなーとも一同考えるが。まぁ、本人がやる気を出しているならば、問題はあるまい。

 

 いや問題だらけなのだが……ここまで来るとツッコむのは野暮というものだ。

 今にも取っ組み合いのケンカにでも発展しそうな金髪美少女二人のにらみ合いから眼を逸らしつつ、達也は刹那に問いかける。

 

「俺達もご相伴に預かっても構わない?」

 

「寧ろ一緒に晩酌しよう……。最初っからそのつもりだったけど、今は切実にお願いしたい……」

 

「石川県民の心の味! 金沢カレーとなると、豚カツにキャベツも必要じゃな」

 

無問題(モーマンタイ)。とりあえず材料は帰りがてら買っていくとして、圧力鍋もあるし、フライヤーもある。ついでに言えば、トンカツソースはリーナが常時10本はストックしている」

 

「ソースの味って男のコなのよ。とか言いながらセツナだってちょくちょく使ってるじゃない」

 

「江戸時代の醤油や戦国時代の清酒の頃から、日本の食品加工技術って世界が誇るものだよ」

 

 達也の見立てでは、刹那は豚カツ一枚揚げたとしても自家製ソースでも作っていると想っていただけに意外な想いだ。

 

 少しだけ怒るように言うリーナに返しながら、刹那は何人来るかを確認してきた。

 尋ねるまでもなく三高生は当たり前のごとくとして全員が挙手をするのだった。

 

「大丈夫なのか―――体重?」

 

「失礼すぎる! ウェイトコントロールぐらいは出来てるわよ。あんまり美月みたいに『ブレスト』に脂肪が着くのも剣士には死活問題なんだから」

 

「エリカちゃん!!」

 

 わざわざ指差ししてまで名指しをしたエリカのナチュラルセクハラに対して、幹比古の眼が美月の胸を凝視すること10秒長かったことは……男子全員の秘密にしておくのだった。

 

「ワシとしては柴田の胸が羨ましい……半分、分けてほしいぐらいじゃ……」

 

「沓子ちゃんまで、そんな恨めしげな視線を向けないでよ。もう……リーナみたいに刹那君に揉まれて大きくなったわけじゃないのに……」

 

「「アタシ(オレ)達をオチに使うなー」」

 

「むしろトドメを刺してますね。その胸が自然に出来たとか! 一高女子の女子力はバケモノか! というかセルナから離れなさい!! アンジェリーナ!!」

 

 そんな風にやんややんやと言っている司波兄妹除きの面子。

 司波兄妹としては、先程まで見ていた記憶映像の中にエリカ以上の剣技・剣術を振るう『ぱっんぱっつん』のボディの英雄たちの姿を考えるにそういう問題では無いのだろうかなと考えてしまう。

 

 特に刀を振るうのは『日本の英雄』のはずだから……そんな場違いな感想を抱きつつ、結果として古式ゆかしく(?)カレーパーティー。略してカレパとでも言うべき2010年代頃の高校生文化(?)を行うことになるのだった。

 

「チカとヒビキも来る?」

 

「当然、ハロウィン(文化祭)は、これでも芸能学校の一人として審査させてもらうよ」

 

「違うよ。カレーパーティーに来るかってことだ」

 

 その言葉を受けて人の悪い笑みを浮かべていた千鍵は、虚を突かれたような顔をしていたが……。

 

「ここのアルバイトもあるんだから、そっちにはそうそう行けないよ。加賀からのお客さんの歓待してやりなよ」

 

「さいですか」

 

 ひらひらと手を振る千鍵にあっさりとした対応。この辺りの世慣れしたところは、経験なのだろう。

 

「あっ、セツナくん。後で金沢カレーのレシピ教えてね。注文された時に対応したいから」

 

「お前の調理スキルはどうなってるんだよ? トラ―――ひびき……」

 

 口を衝いた何かの単語を途中で押さえて、日比乃の名前を言い直す刹那。そんな刹那に対して、人差し指を口の前に持ってきてウインク一つをする日比乃ひびきの様子に意外な想いをしたところで―――。

 

「えっ―――!?」

 

「―――ミヅキちゃんも『お口にチャック』だよ? 今は『入り口』も違うし、『鍵穴』も『合い鍵』もないからね」

 

 何かに気付いたらしき美月が声を上げたのに対して、日比乃ひびきの少し神秘然とした様子に呆気に取られつつも……。

 

「「またの『アーネンエルベ』へのご来店をお待ちしていまーす♪♪」」

 

 看板娘二人の快活な言葉を後ろにしながら、魔法使いたちは、一路刹那の家へと向かう。

 

「お兄様、何があったんでしょうか?」

「さぁな。天然の魔眼持ちにしか見えないものなんだろう……」

 

 ドイツ語で『遺産』という意味を持つ『アーネンエルベ』。

 

 ナチスの『神秘研究機関』もその字名を抱いたことがある言葉であることを思い出す。

 

 そして、深雪の言葉に嘘をついたが、達也の眼には、日比乃ひびきの髪色がオレンジモカから―――『白銀』のような色になって眼の色が赤に変わっていた。

 

 正確には、日比乃ひびきの姿に重なる形で、そういうものが幻のように見えていた。

 

 


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