魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
バトルだけでは絡み切れない何かを描きたい。そんな欲求ゆえ。
はやくレオとウサミンの「逃避行」を書けばいいんでしょうが、まぁ今は雌伏の時―――来訪者編のアニメも次クールではないことは確認済みである(ニヤリ)
そんなこんなで、新話どうぞ。そして奈須さん。遅ればせながらお誕生日おめでとうございます。(ごますり)
「おおおお――――!!!」
「てりゃ――――♪♪♪」
一方は裂帛の気合を以て得物を振るい、一方は軽快な声で得物を振るい、あらゆるものを切り裂いていく。
肉を裂き、皮を剥ぎ、そのままに均一に切られて、微塵に切り刻まれるものが乱舞する。
紙吹雪のように舞い散るそれらが地に落ちる前に受け止めるは――――大きなボウル4つである。
細かく裂かれた鶏肉。芽を取り除き皮を一片残さず剥いだジャガイモとニンジン、そして涙を流す前に細胞を『押し潰さず』に微塵切りにした玉ねぎで山のようになっていったのである。
何故かエリカもお虎も空中で食材を斬るという、どっかの中華料理アニメのようなことをしてくれやがった。
まぁ切れていればいいのである。それだけだ。しかしながらエリカは若干の不満顔である。
「ったく剣士のワザマエを何だと思ってるのよ。お虎さんはいいんですか、こういうの?」
「確かに江戸徳川の世になれば、剣にもそういった『行儀』『格式』はありましたでしょうが、戦国の剣は『なんでもあり』ですからね。特に私は何もありませんよ」
特注の包丁をくるくると回しながら語る『お虎』の答えに、流派の奔りとしては江戸時代の頃のエリカとしては、そんなもんかと不承不承納得する。
「三刀流の剣士も焼き石シチューを作るためにコックの命令に従ったんだ。文句言うない。
次は、キャベツの千切りだ。1ミリで切ってくれ」
「……しゃーないわね。けどキャベツ、そんなに速く切ってしまっていいの?」
「問題ないな。圧力鍋の煮込みも従来よりもはやくすませられる。寧ろ、『全員』の食う量を考えれば、今から水に浸しておくべきだな」
エリカに言いながらカレーを煮込む作業を行う三高女子たちとは別に、刹那と他数名は豚カツを作ることにする。
組としては飯炊き―――およそ2升分の米を、男子勢と分担して行う。
「金沢カレーって、結構『昔』からあるソウルフードですけど、一色さんたちも『カレー』と言えばこれなんですか?」
刹那の隣にてサポートをしてくれていた美月の疑問に愛梨が代表して答える。
「それぞれの家庭で違うと思いますね。ただ群発戦争と寒冷化の影響で、一時期『食糧難』が起こりまして、『失われそう』になったそうなんですよ。
けれどこの苦境だからこそ、美味しいものを作ることで明日の活力にしたいと思って、加賀の食だけでなく、多くの名店の方々が奮迅して、石川県の名物料理として復興させたそうです」
「魔法師だからこそ、こういった『無駄』は『必要』なんだと理解しなければいけないって―――私達は教えられたかな……作り方から先程までの背景に至るまでを」
なんでもかんでも『効率』を考えて生きていては、本当の意味で『生』を謳歌出来ているとは言えない。現代魔法師が失ったものをこうして大事にしようという姿勢は好意的に思える。
「セルナはどう思います? こういう考え」
「いいんじゃないの。知り合いのBBAも―――。
『料理は現代が生んだ『美』の一つ。市井のケバブから高級店のリブロースステーキに至るまで、何の衒いや偏見もなく、美味いものは美味いと言える感性を養え』とか言っていたからな。
まともにあと10年食いたければ、タバコと酒を控えろと言っても聞かないBBAだった」
「ファンキーなBBAじゃな」
沓子のイメージしただろう人物に、いや全くもってその通りと思える。
「かつて、食通の中の食通『ブリア・サヴァラン』も、己の美食に対する拘りと、食通たちに『食』とはこうあるべきと言える格言などを一冊の書に纏めた。
ある意味、これは『食』という『魔法』の『魔導書』ともいえる」
「―――美味礼賛」
博識な達也が、米を研ぎながら言ってくる。その言葉に『正解』と言ってから言っておく。
「本当の意味で美味しいものを食べた時にこそ、人は『食』の根本を、『生きていく』ことの意味を実感できる。
ひもじい時に貧しくあるべきではなく、そういう時こそ、大きく己を張りあげるために美味しいものを作る。
気持ちが落ち込んだ時にその思考に至れた、愛梨たちの故郷の先人たちは誇るべきものだね」
その言葉を受けて三高女子が照れる様子である。
とはいえ、言ってはなんだが……純日本人ではない愛梨が、これを嗜むとは……。
「実を言うとお母様が、金沢に来た時にクリーンヒットした料理がこれだったそうなのです。そしてその後、お母様ごとこの料理がお父様にクリーンヒットしたそうで」
こちらの無言の疑問に対して、一色家の驚愕(?)のヒストリー。まさかまさかのカレーで胃袋を掴むとは……まぁ王道だけど。
顔を赤らめながら、味見をするように言ってくる愛梨。特に何の斟酌をすることもなく、それの味から『カツ』の味わいを変更することにした。
「……メチャクチャ『強い』カレールーだ。別にカツが添え物になってもいいんだが、少し主張させたいから、味付けを変えようか」
「はい。勉強させてもらいます!」
「どうでもいいけど、ミヅキちょっと近いわ。ミキの険しい視線が、セツナに突き刺さりすぎよ」
全然、どうでもよくないことを
どうしよう。今日あたり幹比古から本気の呪殺でも掛けられたらば……。
対抗できないかも(汗)
「んじゃ、ここからは俺が後ろで指導する。味仙人とその弟子の如く、俺の意に応えてくれ」
「はい! 劉師傅! ちなみに白鳳ですか? 虎峰ですか?」
「良く知ってんな! 流石は美術部―――だからなのか? まぁミスター味っ子は不朽の名作だからね」
どうでもいいことを指摘しながら、美月の手際は特に注意や指摘するような所は無かった。
何とか幹比古からの呪い攻撃を回避することには成功した。はずである。視線はきついままではあるのだが……。
「にしても揚げ物で小麦粉を溶くのに冷水を入れるなんて、普通にデータベース乗っていることですけど、中々やりませんよね」
「多分だけど、やっぱり寒冷化の影響だろう。冷たいものを使って料理をするというのに、抵抗感があると思えるよ」
深雪が自作した氷をかちいれた水を使って、良く菜箸で混ぜた小麦粉はいい感じに衣の下地になってくれるだろう。
「お虎、隠し包丁を入れた『ももんじ』を」
「はっ、
なんだこの寸劇は? と思いながらも、下賜するようにランサーが持ってきた肉を検分するに申し分ない。これならばいけるだろう。
バットに入れられた肉を美月の前に出して、味付けは特になしでいいだろうと言っておく。
「塩コショウもいらず?」
「ああ、愛梨たちのカレールーは中々に強い。その味わいには、むしろ柔らかさと豚の旨味で対抗する」
「聞いているだけで美味しそうだな達也!!」
「全くだなレオ。しかし、刹那―――『2升分』も米炊くようなのか?もう終わるけど」
もはや相撲部屋の力士の食事も同然の米の量をとぎ終わったレオと達也が、2090年代の最新式の炊飯ジャーに飯盒を入れた。
炎○炊きと名付けられてるボタンに『情熱BLAZE AWAY』というシールを張っておいたのだが、迷わず押した達也。
「本当だったらば、お前達に三日三晩、神聖な炎を纏って灼熱の炎の舞でも演じてもらおうかと思っていたんだが……」
「「「鬼かっ!!!」」」
男子三人の炎寺(?)の炎を使った舞で炊きあがる米。それは、置いておくとして、ご飯は昔よりも簡単に炊きあがってしまうわけである。
「技術の進歩ってすごいよなー。まぁともあれ、15分後にはご飯が炊きあがるわけだ。安心しろ、『カラ』になるさ。それより幹比古、油を扱うんだから美月を手伝ってくれないか?」
「あ、ああ。ありがとう刹那―――で、ごめん。今日あたり午前二時ぐらいに『参ろう』かと思っていた」
午前二時。すなわち昔の刻限で『丑三つ時』ということである。うん、怖いねー男の嫉妬って。
「オンナの嫉妬も怖いわよ―♪」
「それに関しては身を以て存じ上げてます」
返しながら美月だけでなく、深雪もどうやって揚げるかを興味津々している。
フライアー及び揚げ鍋はあるわけで、まずは手本を見せるのだった。
「揚げ物は、当たり前だが最初は高温でカラッと揚げてから低温でじっくり。そんなことは当たり前で、それが出来れば苦労はしないわけだ」
昔のような温度計は既になく、今では鍋や油の熱分布は調理器具のサーモグラフィで分かる。
火災予防の産物であるが、本当に便利になったものであるが―――それだけではどうにもならないところもあるわけだ。
それを全員に教授する。殆ど自動化されてしまったこの寂しすぎるグルメ時代に、一陣の風を吹かす時である。
「というわけで、今からとっておきのコツを教えておいてやる。一番に、着目するべきは火を怖がるなということ。揚げれば、多少の油が跳ねるのは当たり前だ。それをどれだけ少なくするかだからな―――」
「「「「はい。コーチ!!!」」」」
威勢のいい言葉を聞きながら、油の温度管理―――高温のフライアーと低温のフライアーを上手く扱い、『二度揚げの豚カツ』が出来上がる。
「これは、我が家のような整えられた調理器具があってこそだが、通常の家庭の、まぁオートメーションのHARを使ってもやれる方法は――――」
一つの鍋を上手く扱って同じく二度揚げの豚カツが出来上がるのだった。
「やはり温度管理が肝なのか?」
「そうだな。同時に、先程やっていた冷水が八割だよ。結局、揚げ物は下準備で決まってしまうからな」
ベタついた衣では美味しくないわけである。油を切った上でペーパーの上に置いておいたカツを切り分ける。
「油が殆ど下に吸い込まれていない! 油を切った際のスナップも絶妙ってことかの!?」
沓子の驚愕の声を聞きながら、軽快な音で切り分けられたそこから肉汁が飛び出すわけで、どうやったらばこんな風になるのか。皆で『不思議』がってはいる。
「はい。試食」
「深雪だけでなく皆に、こんな危険かもしれないものを食わせるわけに行かない。まずは俺が毒味しよう」
「ホンネは違うでしょうけど、シツレイね」
「同感です」
率先して『試食』を買って出た達也に、金髪二人は不満げな顔。
達也なりの冗談であり、色気より食い気の顛末ゆえである。
それに苦笑しながら構わず食えと言っておく。
出来たてのアツアツをバクッと行く達也。どこの
「お兄様! どうなんですか!? 刹那君のカツは、深雪のとどちらがいいですか!?」
「俺が今まで食ってきたカツは―――死んでいたのか……!!」
「そのセリフの意味は、深雪には難解すぎて分かりません!!」
「深雪のより断然、旨い」
翻訳された言葉の衝撃に、司波深雪は『マハーカーラ』などと叫ぶ始末。
とりあえずフォローしておくことに。
「まぁ結局の所、一般的な家庭だと一種のセーフティがかかってしまっているんだよな。多分だが生焼けのカツとかを揚げさせないために、最後に高温による加熱を行ったりな」
「ああ、確かに。煮込み料理なんかはそうでもないんだが、揚げ物系はそれが顕著だとも聞いたな」
「そういうこった。俺の場合、リーナに助けてもらって、いくらか
その言葉で深雪は何とか持ち直す。結局の所オートメーションされた調理の少しの『欠点』とは、絶妙な調理よりも、使用者の身体や健康を考えての『お節介』が、時にあるということである。
本当ならばいいことのはずだが、それゆえに料理人のカンは鈍る。料理においては……時には『冒険』も必要なのだ。遊びが料理を楽しくさせる。
「な、ならば! その絶妙な調理技術―――貰い受ける!!」
「うん。そんな心臓貫きの槍を使う前フリみたいなことするな」
何故か失敗のフラグにしか思えないセリフなのだ。実際記憶の中、英霊クー・フーリンは英霊アルトリアを殺すことは出来ずじまいだったのだから。
「俺は適当に、他につまめるもの作るから、豚カツに関しては、まぁ適当にペアを組んでやってみ。失敗してもフォローはしてやる」
「セツナー。ペア♪」
「いや、お前とはいつも組んでるじゃん。たまには他の人の手際を見てみろ」
「セルナー。ペア♪」
「断りにくいけど、流石に付け合わせや箸休めもないカレーはどうなんだい?」
「刹那くん。ペナ♪」
「何の罰則を与えられるんだよ!?」
「あきらめろ―――」
どっかの人斬り抜刀斎のような言葉を吐きながら、菜箸を握る達也。
言葉とは裏腹に前に掛けたエプロンが、『ぷりちー』などと思いながら、結局。そうせざるを得なかったのである。
「寂しかったのか?」
―――カツも半分揚げ終わり、美月と幹比古とがラブいシーン……跳ねた油で少し火傷した指をいたわりあう姿にこっちがヤケドしそうになる中、不意に聞いてきた達也。
意味合いは大体は分かる……。
「そうだな。昔はスラーの学食で、パンプキンドリアとシュリンプチャウダーのどっちが美味しいかを言い合う兄弟子を見ながら、モダン・ブリティッシュの『カレー
特に―――昔のことを思い出すとな……」
お虎のように『ウワバミ』すぎるロード・エルメロイ3世の為に、酒に合う
あの輝かしき日々はもはや戻ってこない。けれど、
魔術師とて繋いでいく生き物。確かにいずれは衰退する種族と言えども……。
(未来は、どう転ぶか分からない。いまある自分の繋がりを確認しなさい。か―――)
結局の所、そういうことである。
そんな風に考えていると、インターホンが来客を示す。
『刹那くん!! いま!! そこに―――エプロン姿の達也さんはいるのぉおおお!!!???』
『ほのか。順番が変。刹那、お邪魔します。とりあえず開けてくれるかな?』
などと繋がりは、こういうところにもあるのだ。同じものを求めるのではない。似たものを作りたいわけではない。
ただ……そこにあるつながりに対して出来ることをしたいだけなのだ―――。