魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
なんだか本当に久々な気分でクラスでの授業を受けた刹那だが、未だに問題は解決されていない。
あの三高女子とのカレーパーティーから二日後の、ようやくの魔法科高校再開の日。
クラス内でも色々と目立つ人間である刹那は、入学初頭のごとく再びの注目の的となっていた。
B組の面子からの視線の理由はわかる。刹那の机の前にかじりつくかのようにこちらを見ている探偵の動作から、自ずとわかってしまうのだった。
「じーーーー」
「何やってるんだよ。探偵?」
「人間観察じーーーー」
口癖になっちゃってるよ。というツッコミすら野暮な麻呂眉のエイミィに、いい加減やめろと言っておく。
そして、エイミィの持っているだろう疑問に答えることにするのだった。
「お前が疑問及び聞きたいと思っていることは分かる。黄金の剣───『エクスカリバー』に関してだな?」
言葉を発した瞬間に、B組に一瞬の緊張が走る。
「そう! 桜町付近のシェルターからリーレイちゃんの祖父さん達を助けるために移動して、港付近に移動した私達は見たんだよ!! せっちゃんが、黄金の剣を構えて、戦国武者鎧を纏って巨大な狐を倒す所を!!」
随分と詳細に見られていたものだ。何かしらの
「で!? あれはエクスカリバーなの!? ブリテン島の伝説の王、アーサー・ペンドラゴンが振るっていた―――あの常勝不敗の剣!?」
「―――なわけないだろう。伝説を丸ごと信じるならば、アーサーが振るっていたエクスカリバーは、カムランの丘の戦いの後に、円卓の中でも忠節を司りし隻腕の騎士『ベディヴィエール』によって、湖の乙女『ニムェ』に返されたと伝わっているんだから」
ペラペラと神話伝承を諳んじれる刹那の姿に、エイミィは少しだけ気圧される。まさかそこまで詳細に語られると、エイミィも反論や疑問の言葉を出せなくなる。
「そ、そりゃそうだけど……」
流石に英国出身でもあるエイミィは、その手のことに明るい。ストーンヘンジを動かしたというバチ当たりではあるが、伝説や伝承に関して無知ではないようだ。
「ありゃその名前を冠しただけの『イミテーション』だよ。言うなればあらゆる創作物において『エクスカリバー』なんて名前の武器は存在している。
それと同じく、俺もあの黄金の剣を『エクスカリバー』と評しているだけさ」
「そうなの……? うん? そうなのかな? 納得いくようないかないような、なんだろうこの感覚……」
フラットな胸の前で腕を組んで唸るように考え込むエイミィ。
丸め込まれている感覚は否めないのだろう。
とはいえ実際、多くのファンタジーに関わらずSF……細分化していけばロボットSFなどでも、そういった神話伝承の武器は、『著作権』に捕らわれない自由な武器名として登録可能であり、多くの『エクスカリバー』が登場している。
他にもグングニル、ダインスレイフ、アロンダイトなど少しの変形を施した上で、『機動兵器』『巨大ロボット』の『武器』『武装』の名前とされてきたのだ。
「むぅ……それじゃせっちゃんは、そういった英雄の武器を作り出そうと努力しているってことなの?」
「そういうことだ。達也がCADの起動式にあれこれ手を加えるのと違って、俺は武器そのものを鍛造することに長じているのさ。
第一、アーサー王が『ビーム』を放ってピクト人の王や卑王ヴォーティガーンを倒していたとか、ロマンはあれども、『現実的じゃない』だろう?」
達也が未来に向かって邁進するのに対して―――刹那は過去に向かって遡ろうとしている。
そういう納得で一応は収まったようだ。しかしエイミィという探偵でも追求しきれないことがあった。
果たして遠坂刹那は、『本物のエクスカリバー』を見たことがあるのかどうか。そういったツッコミを入れるには、様々な創作物で『エクスカリバー』の『勝手な想像図』が巷にあふれているのだから……中々、そういった着想には至れなかった
「エイミィが、『本当』に聞きたいこと。俺がアーサー王かどうかということならば、答えはノーだ。エクスカリバーを使って肌が黒く、髪が白くなるなんて……アーサーのイメージじゃないだろ」
そして、自分のあれは一種の『代償』である。言うなればスレイ〇ーズにおけるギガ・ス〇イブを使った後のリナ・インバースみたいなもの―――という説明を付け加えるとエイミィは苦笑の嘆息をする。
「見抜かれていたか……なんか、せっちゃんの方が探偵っぽいなぁ」
その『推理』は完全に外れである。と宣言すると、目を閉じての嘆息で、それを受け入れるのであった。
「いつかは、ブラッキーが持つような『ちゃんとした黄金の剣』を作り出してみたいもんだよ」
「あれは『エクスキャリバー』じゃなかったかな……?」
会話にはまるチャンスを窺っていた
「警備部隊で一時はマサキリトと同じチームだったんだっけ?」
「まぁね。一条くんから帰り間際のことは聞き及んでいるよ。出来れば、僕たちも呼んでほしかったなぁ……」
「そうよ! 遠坂!! あんた、三高女子に金沢カレーを作ってもらって家でカレーパーティーしていたとか、そんなビッグイベント―――アタシも食べたかったわよ!!」
『『『『リア充爆発しろ!!』』』』
十三束の言葉の後に、デカイリボン(今日は緑色)を頭に付けた桜小路がこちらを指差しながら吐いた言葉にB組一同大合唱。
「悪かった。ただ全員を俺とリーナの愛の巣に呼べるかよ。まぁ今度のハロウィン・パーティーでの料理で勘弁してくれ」
その言葉で、女子陣は少しだけ機嫌を直すも、そもそも多くの綺麗どころと遊んでいたということに、どうしても嫉妬心を燃やしてしまう男子勢とで完全に別れてしまうのだった。
「おまけに一条君からの、この画像。写真―――嫉妬ばかりだよおぉおお!!!」
「お、落ち着け十三束! やましい気持ちはたいして無い!」
「少しはあるってことかー!!」
最終的には十三束鋼までもがしっと団に入ってしまったことに狼狽してしまう。
ともあれ、基本的にB組は、そこまで恨みつらみを残さない所もある。
A組のように百舌谷教官によって意識付けられたエリート意識など無く、『ロマン』の影響なのか、水に流す事が多い。
「まぁアンタが基本的に気前のいい男だからね。最終的には、そうなっちゃうんでしょうね」
桜小路の少しだけ呆れるような言葉に、まぁそうだね。と返しておく。
ある意味では、ロマン先生には感謝しなければならない。
来年度からは、ノーリッジの方の講師職になってしまうことを考えれば、寂しいものもある。
少しだけセンチメンタルになっていたところに、特徴的な髪型(染めている)の男子が近づいてくる。
「それにしても、授業中もアレコレと考えられているご様子でしたな。一つ悩みを打ち明けるのも、これ即ち友情、ワンチームではござらんか? 遠坂殿?」
後藤。お前この前までどハマリしていた「英雄史大戦」の影響なのか、闇の人格(ファラオの魂)で通していた風だったってのに、まーたキャラ変したんかい。
内心でのみそんなツッコミをしつつ、B組が誇る『メタモルフォーゼ』後藤 狼の言葉に、ふむ。と想いつつ、この男の知恵を借りるのも一つかと考え直す。
柔軟なまでの『魔法特性』を活かした現代魔法の運用はなかなかのものであり、『ツボにはまれば』A組の準主力たる森崎も圧倒できるぐらいの力はあるのだった。
そんな柔軟な発想ができる後藤君に、かくかくしかじか。話すと―――。
気取った態度を取って愚問愚答と言わんばかりに後藤君は、「クックックッ」と笑い声を上げてくる。
似合わない限りの声の後に、そして後藤君の名案が提示される。
「ハロウィン・パーティーのメインイベントなど決まっているぜ! ハロウィンといえば『仮装』がメイン。
だが、仮装で真なる『美』が隠れてしまってはダメであろう。
着飾った美も時にはいいが、我々魔法師は本当の意味での美を―――拙者の審美眼を以て、優れた『美しき五人』を揃えて、非魔法師の人々に理解をしてもらう。
一種のイメージ戦略。帝国歌劇団の新設も同様なことを行う。題して――――」
後藤君の名案の締めくくり。タイトルコールに全員が固唾を飲むなか……。
「――――
桜小路
そして、その石化後藤にヒビが入ったイメージを幻視。
石化後藤は『うごくせきぞう』に進化を果たし、B組の自動ドア近くまで動き開け放ち―――少しだけ出たあとには……。
「桜小路殿のアホ―――――ッッッ!!!」
ドップラー効果で涙を流したままに走り抜ける後藤君を、見送らざるをえなかった。
「「「「ご、後藤クーーーーン!!!」」」」
誰もがB組きっての面白キャラの
負けるな後藤。耐えろ後藤。恥じるな後藤。
その案は、一条将輝も出して深雪から冷視線を受けたネタなのだ。あの瞬間のお前は、一条将輝に匹敵していたのだ!(不名誉)
「ちょっと可哀想じゃないかなー?」
「あのね。ミスコンテスト、ミスターコンテストなんて、実につまんなすぎでしょうが。これだったらば英雄史大戦の英雄応募の方が、いいわよ」
そうだね。二人共エントリーされる可能性は皆無だもんね。
エイミィと桜小路の会話に、そんな風に内心でのみ思いながら、果たしてどうしたものかと思っていると、何とも気楽な調子でB組の担任が、大型のヘッドホンを耳に当てながら入ってきた。
「いやぁヒメはいいねぇ。この言いたいことも言えないこんな世の中に差し込んだ一筋の光だよ」
そう言えば、2090年代の流行りとも言えるCGドール。自分の生きていた時代にあるバーチャルユーチューバー。Vtuberの進化系とも『先祖返り』とも言えるものが、この世界でも流行っている。
刹那の生きていた時代ではないが、兄弟子たちの時代では『VOCALOID』という電子音声、もちろん音元はプロ歌手や声優から抽出したものを使って歌わせるものがあったそうである。
特にカウレス兄さんは――――。
『俺の作り出したフランケンシュタイン少女のVOCALOID、フランちゃんは、キミの国が代表するジャパニメーション『マクロスプラス』の『シャロン・アップル』なみの『自我』を獲得したんだ!!
これを使って―――アカシック・レコードの旋律に至るぞ!! 鳴り響け俺のメロス!!』
完全に封印指定ものですねという言葉を掛けたが、寮の部屋の中で興奮しきりの眼鏡男子の手伝いをしながら、どうなるやらと思っていたのだが……。
(結局、フランちゃんは、カウレスさんの為だけにしか歌えない。悲しきフランケンシュタインの怪物となってしまったとさ)
そんなことを思い出して……一つのピースが嵌る。そして―――。
『歌というものは、全ての人類に許された『魔術』の一つだ。いや、魔術というのは烏滸がましいな。もはやこれは『魔法』だよ。
では―――ツバキ。歌とは何だか分かるかね?』
『はい。ええと主観はいろいろあると思いますけど、声、つまり空気の振動によってリズムとメロディーを取る『芸術』じゃないでしょうか。もちろんベートーヴェンが晩年には、耳が聞こえなくなっても作曲を続けて、世紀の名曲『第九』を作り上げたことを考えても―――』
『歌とは、即ち文化。文化の力は、国を、民族を、時代を超えて―――世界を振動させる。揺り動かすものだ。
我々が恒常的に使う呪文とて………』
仏頂面の講師が進めるエルメロイ教室でのレッスン。それを思い出した。
そして、次いで見える場面。時計塔の中庭の草むらの中で、ホワイトアルバムという『ポップソング』を歌い上げる銀髪の姉貴分。その周囲で楽器を弾き鳴らす人々の姿……。
その時、パズルが嵌った想いだ。
「ところで、後藤が飛び出していったんだけど、何があったんだい?」
「はいセンセー。アカハちゃんが、後藤君をいじめましたー」
「エイミィイイイイ!! 事実は事実だけど、そういう言い方はどうなんだー!?」
「ダメだよ桜小路。我がB組は、一高の中でもキャラが濃ゆくて、押しの強い、面白い連中が多いと職員室で話題なんだから、その繋がりは大事にしようね」
「失礼な!」「人を色物芸人みたいに評して!!」「とんだ風評被害でござるー!!」
いつの間にか戻ってきた後藤の最後のエールを以て、B組は、そういう連中の巣窟と認定されるのだった。
「イギリス帰りの迷探偵、レッドリボン軍総帥、フルメタル・ショタ、鏡像魔神ゴトウライドウ……確かに、言い得て妙だな」
「さり気に自分とリーナを除くな! あんたらがこのB組の中核の砂糖製造バカッ……―――あれ? そう言えば先程からリーナの姿が見えないわね? ………飽きられたの?」
面白そうな悪戯っぽい笑みを浮かべて、挑発してくるレッドリボン軍総帥を睥睨しつつ事実を語る。
「ほほう。中々に笑える冗談を言ってくれるなぁ。レッド総帥―――もう帰りのホームルームだけだからな。先に生徒会に行ってもらってるんだよ」
移動教室の後に深雪がやってきて、どちらかヘルプミーと言っていたので、送り出したのである。
「ほっほう。オアツイですなー♪ 夕日以上の熱さでヤケドしちゃいそうDAZE☆」
オヤジかと言わんばかりに、自分のデコをぺちんと叩くエイミィにげんなりしつつ、本日のまとめをロマン先生からいただく。
「そう。刹那とアンジェリーナを筆頭に、このクラスは変な意味で、男女の区別なく『団結力』がある。
ゆえにB組は――――『ちんちんかもかも』ということだ!」
瞬間、B組生徒全員からの信頼度が激下がりする1年B組ロマン先生。
無言で帰宅準備が行われ、ちょっぱやで出る皆を前に、夕日が沈む教室に一人残るロマン先生の眼からは涙が溢れるのだった……。
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「それで、妙案は思いついたの?」
「ああ、『Let It Be』ただ。『それ』だけだったのさ」
答えなど最初から出ていたのだ。
かつての魔法師―――それ以前の魔術師、神代の
CADは確かに便利な道具だ。だが、それがもたらした『災厄』は、人類の分断を呼んだ。
結論だけを打ち出す機械が、過程があることを、全ての人に何一つ教えていない。それがディスコミュニケーションを作り出し、すれ違いを発生させる。
―――理解を求めるならば、『口』を開かなければならない。沈黙を破り、
エルメロイ先生の言葉が、刹那の頭の中で再生された。それは止めたくても止められなかった人を知っているがゆえの後悔。
死なせたくないのに死なせてしまった人を持つからこその言葉だった。
「己の言葉を届ける術を、例え口頭で示せなくても、自分たちは思い返すべきなんだよな」
独り言は無人の廊下に吸い込まれた。先程まで一緒にいた桜小路と別れて、生徒会室に入ると……。
「セツナ、プランは出来た?」
「細かな詰めはまだあるが、とりあえず俺の提案するメインイベントの主題は決まった」
一番手前にいたリーナが、腕を取りながら回るように、こちらの顔を見上げながら聞いてきた。
「それは―――?」
一番奥にいたビッグボス(なりは小さい)にも、直視するように見つめられ、その眼を逸らさずに、口を開く。
「ボス、我々はいうなれば『力あるマイノリティ』です。しかし現状をそのままに受け入れていては、未来は明るくありません。
このイベントは、今回のことで魔法師というものに恐怖を覚えた人に対する理解を求めることでもあります―――即ち―――同じ文化に理解を示す『人間』であることを示す。分断を回避する術は――――『歌』にあります。
我が一高が誇る歌うたい十三使徒を招集してコンサートを開くのです!!」