魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

198 / 414
何気なく。というかあるFateマッドムービーを見ていたせいか、めぐさんのブギーナイトが聞きたくなってしまった。

ああ、あの頃エアチェックしていた時代に比べれば、何と便利になったものだ。(爆)

遂にアトランティスも実装されそうな日に新話お届けします。


第179話『プレリュード・ファンタズム』

「へぇ〜んじゃ桂木は、『魔法大学附属』の『祭』に行くのか?」

 

「うん。バイト先の常連さんから優先チケットもらっちゃったしな。使わなきゃ貰った甲斐がないじゃない」

 

 金曜の放課後。ラ・フォンティーヌ・ド・ムーサ女学院という長ったらしいフランス語と日本語が合体した学校にて、緑色のツインテール少女は、気怠げな眼をして話し言葉もどこかダルそうなダウナー系同級生と話し合う。

 

「意中の男でもいるのかー?」

 

「いや、いないわよ。ムカつく男子はいるけども」

 

「クララちゃんも良かったら行かない?」

 

「いくぜー。魔法使いが、真なる意味で美的センスがあるかどうか知りたいからな。興味津々だ」

 

 千鍵の嘆息気味の言葉の後に、ひびきはすかさず何枚か貰っていた予備チケットで誘うと、予想外に食いつく栗枝クララという桃色髪の少女。

 

 理由を思わず尋ねる……。

 

「見たい作品があるのさ。美術部の展覧会があれば、それを見てみたいんだぜ」

 

 意外な目的意識に少しだけ面食らうも、まぁ行きたい人間を無碍にする訳にも行かない。

 

 チケットはもう一枚あるのだが、いつもの面子の一人は、家族旅行があると聞いているわけで……。

 

「あっ、ユキちゃーん!!」

 

 気付いたひびきが、少し遠くにいる同級生を呼んでいた。

 前髪で額を隠して、襟足だけは長くしたショートの女の子。

 

 少し前の『小和村 真紀』の髪型をしていた『美少女』がやってきた。

 

「ビッキー、何度言えば分かるのよー? あたしは宇佐美 夕姫(ユウキ)

 ちょっとだけイントネーション違うよ」

 

「あれ? けど『前』はそうじゃなかったっけ?」

 

「アタシも、そんな記憶があるんだけど?」

 

「私もだぜ。宇佐美の名前はユキだった気がする」

 

 そこまで間違えやすいかぁ。と少しだけ苦笑するユウキ。

 ともあれ、自分の名前は『ユウキ』であるとして、訂正はしておきながら、何で呼びかけられたかを尋ねる。

 

 放課後のラ・フォンの教室にて集う美少女四人。

 

 そこにて言われたことに、少しだけ宇佐見 夕姫は、何とも言えない顔をする。

 

「魔法大学付属の学園祭かぁ……行ってみたいような。行きたくないような」

 

 魔法科高校にいる者たちが知ってるか知らぬかはともかくとして、学外の、特に他の高校生たちというのは、『魔法科高校』とは普通は呼ばない。

 

 一般的な呼称としては、『魔法大学付属』というのがフォーマルなのだ。

 

「セレスアートでの『仕事』の方はいいのか?」

 

「そちらは大丈夫―――まぁいいかな。誘ってくれてるのに無下には出来ないよ」

 

 最終的には仕事もないのに友人の誘いを断るのもアレだなと考えて、着いていくことにするのだった。

 

「友情に篤い友人でアタシは泣けてくるよ―。よかったな桂木。チケット捌けたぜ♪」

 

「別にノルマとかないし、いざとなれば姉貴に渡していたから」

 

 クララの言葉に少しだけ険悪に返す千鍵。

 その言葉で特に『裏』が無かったことに、ユウキは少しだけ安堵する。

 

 ともあれユウキとしても少しだけ思う。もしも少しだけ、神様が『茶目っ気』を出していなければ、自分はここにおらず。

 

 魔法大学付属にいたかもしれないことを。

 

 別に魔法師になりたいわけではない。ただ、そういったものを見て自分なりに何かのケジメが着けばいいかな。というセンチメンタルはあるのであった。

 

「んじゃ明日、朝10時ぐらいに最寄り駅に集合な」

 

 祭の参加者たちは、徐々に揃う。

 

 

 そして祭の主催者たちは……。

 

 絶賛迷っていた。いや、それは正確ではない。

 

 正確に言えば、2人ほどが未だに衣装に関して悩んでいたのだ。

 

 いよいよ明日に迫った日に至るまで、八面六臂の活躍で以て、祭りの実行委員として動いていた恋人たちは。

 

 西に仲違いあれば、それを仲裁しに行き、東に料理に関する質問があれば、それを解決しに行き―――。

 

 戻ってくると同時に、お互いを慰労し合うように一時の口吻を交わしてから、再び北に資料搬入の不具合でヘルプに赴き、南に提出しなければならない資料の不備を何とかしに行き……再び中央である生徒会室に戻ってくると同時に口吻をしていく。

 

 そんな彼氏彼女の事情な日常を越えて、いよいよ明日、本番という段になって、恐ろしいことを思い返していた。

 

「自分たちのコスプレ衣装を全く考えていなかった……」

 

「イザとなれば、インストールで何とかなるかもしれないけど、フゼイがないわよねー」

 

 数日前までは賑やかすぎた夕飯の時間帯において、干物と味噌汁、ついでに言えば青菜のおひたしと、大根ご飯。

 

 何とも純和風の食卓において、家の人間2人は少しだけ憂鬱を覚える。

 

「エイミィは英国探偵の衣装(シャーロキアン)。桜小路はオーソドックスに魔女(ウィッチ)コス」

 

「ハガネは少年探偵『利根川アラン』、ゴトウは悪魔超人サン○ャイン……一人だけ世界観がアナザーだわ」

 

 後藤君を理解するには時間がかかる。刹那はなぜだか知らないが、両方の刻印(両親)から『後藤君とはこういう存在だ』と囁かれているのだ。

 

 なんでさ。

 

「皆してハロウィンだな。他の面子も色々らしいからな」

 

 別に目立ちたいわけではないが、これでもハロウィンの本拠地(ブリテン島)に腰を据えていたのだ。

 

 他と同じコスプレというのは、ちょっとアレである。

 

「そういや深雪も魔女コスと聞いたな」

 

「もしくは女神衣装(ヴィーナス)とも聞いているわ」

 

 前者であれば桜小路は何とも目立たない。後者は、全校が大騒ぎになるほどに目立ちまくり。

 

 まぁ、彼女の絶対君主っぷりは、もはや閣下と呼ばざるを得ない。

 

 いっそのこと第三の選択肢として、白塗りの顔に赤いフェイスライン。ワックスで逆立たせた髪……。

 

『ブワーハッハッハ!! 吾輩、地獄より舞い戻った折に、この少女の肉体を借り受けたのであーる。 貴様も氷人形にしてやろうかー!!』

 

((これはこれでイケル―――))

 

 2人に天啓が走る。だがその瞬間、2人の端末が鳴り響き、メールメッセージが受信される。

 

 同時に合わせるように開くと……。

 

『お兄様が『悪魔のような格好』を為されるので、私は女神か天使のようなコスで行きます。

 もちろん、デーモン閣下のような格好はしないので悪しからず(死)』

 

「「(死)って何()―――!!!???」」

 

 恐ろしすぎるメールの前に恐怖が倍増。ともあれ二人して真面目に考えることに。

 

 氷人形にはなりたくないからね。

 

「言っちゃなんだが、何か皆似たりよったりだよな。後藤みたいな着ぐるみ系も、何人かはするらしいからな」

「うーんメニー悩むわ。セツナは何か……ワタシにしてほしいコスプレとかないの?

 バニーガールとか、ディアンドル衣装とかでもいいわよ?」

「―――そういうのは俺と二人っきりの時にみせて」

「―――Yes my steady♪」

 

 そんな風な見つめ合いの会話をしながらも、食事は終わり―――。

 

 

 ここまで出ていない案となると、そこまで多くない。

 

 いっそ2090年代としては、一周回って珍しいだろう魔術協会制服……通称ハリー・○ッター服、ホグワーツ服でもいいかもしれない。

 

 などと考えていると、自分のハニーミルクと刹那の紅茶を持ってきてくれたリーナに感謝する。

 

 居間にて穏やかな時間を過ごしつつ、肩に乗っかる重みが少しだけ嬉しい。

 

 しかし悩みは解決されない。

 

「何かリクエストはある?」

 

「……あるんだけど、言えばセツナ怒っちゃうかも」

 

「何のコスプレをしたいんだよ……?」

 

 正直言えば、刹那としてはリーナの希望はなるたけ叶えてきた。寧ろ、彼女のお願いならば何でも聞くぐらいだったが……。

 

 そんな自分の神経を逆なでする案件。今までのことから察するに……。

 

「英雄アルトリアのコスプレか……」

 

「な、なんでワカッタの!?」

 

「俺があの英雄に対して、ナーバスになっている時があったからな。君にも当たっちまったことを思い出したんだよ」

 

「イイのよ。アレはワタシも悪かったんだし、お義父さんの元カノなんて、息子としては微妙なキモチよね」

 

 だがこの日本に来てから、ある人間関係を目の当たりにしてしまったがゆえに、自分としてもその辺りは区切りをつけていかなければならない。

 

 でなければ、七草先輩に申し訳が立たない。自分は他人の家をある種、引っ掻き回しておいて、これでは……。

 

「分かったよ。本格的な『ナイツドレス』というのは、中々に無いだろうからな。

 そっちの路線で行こう」

 

「アリガトウ。セツナ……♪」

 

 パレードを必死で習ったのは、プラズマリーナの一件で『魔法少女はもうカンベンよ!』とか言っていたが、こういう時には、自分のしたい仮装を言うあたり、リーナの心の奥底には、変身願望があるのではないかと思う。

 

 首に巻き付くように抱きつくリーナが、面白がるように更に注文をしてくる。

 

「もちろんセツナも、ナイトな姿になるのよネ?」

「君一人だけレディ・アルトリアというのも間尺が悪いだろ」

 

 親父―――無銘の英雄のような赤原礼装など着ても、何なのかすら分かるまい。まぁ『親父の遺品』と紹介するのも悪くはないかもしれないが……。

 

 などと刹那が黙考している中、リーナとしては目論見が当たったことで、少しだけ安堵する。

 

 実を言えば、この英雄アルトリアの衣装というのは、B組全体の要請でもあったのだ。

 

 あの横浜事変において、英霊アルトリアの『シャドウ』(影法師)を見た人間たちは、その正体こそ分からないが、その騎士の姿に『幻想』を見ていた。

 

『眼』のいいものは、それ以外の『もの』も見ていたわけだが……ともあれ、B組の……特にエイミィの要求が通ったことは、いいものだ。

 

 髪色に関しては、ウィッグでもパレードでも構わないだろう。むしろいつもリーナの髪を弄ったり、髪型を変えたりしてくれている刹那(ステディ)の髪を弄れるなど、なんて甘美なことであろうと内心での欲望に浸っていると……。

 

「マスター! この『カゲトラギア』とかいう『絵物語』の衣装がいいです! 個人的には蒼タイツのTSURUGIがイイですね!!!」

 

「髪色的には、こっちのトリガーハッピーの方が良くないか?」

 

「飛び道具持ちなど性に合いません。飛び道具をツルギで打ち破ってこそ―――おや、リーナ? そんな『てっぽう』(トラフグ)のように膨れてどうしましたか?」

 

「な、なんでもないわー『カゲトラ』。当日は、そのスマイルギャングな歌声でヨロシクオネガイするわねー」

 

 居間にいきなり現れたカゲトラ。普段であれば霊体化するなり、『小人化』させているのだが、家にいるときぐらいは普通の人間と同じくさせておきたいということで、魔力循環を弄って『場』を整えていたりする。

 

 そんな『お虎』は、部屋に籠もってTV版 戦姫絶唱カゲトラギアをGXまで視聴していたようである。

 

 完全にランサーから『シェルター』に変わったこのサーヴァントに対して……。

 

(このTSURUGI、空気(ムード)読めてない!!)

 

 あのままの勢いで、『なんか』いたしたかったリーナの意気を挫いたお虎。そんなリーナの思惑に気付いたのか刹那も苦笑しながら―――遠坂家の夜は更けていくのであった……。

 

 † † † †

 

「「えーーー!! ハロウィン・パーティー行っちゃダメとか横暴―――!!」」

 

「この受験の大切な時期に、遊びに出かけるなんてどうするのよ。主席と次席―――狙っているんでしょ?」

 

 似たような顔。似たような姿だが、髪型と言動の違いで何とか認識出来る―――他人ならばともかく、自分は間違えない。そんな自負で2人の中学生の妹に言っておく。

 

「第一、この時期に追い込みを掛けている全ての受験生たちに、申し訳が立たないと想わないの?」

 

「まぁ来年の一高は激戦区だとは聞いていますけど、だとしても『現代魔法師』の枠では―――その、口幅ったいですけど安牌ですし」

 

 ニューエイジ・ビッグバン―――『古くも新しき時代を告げる鐘の音』と称される一高改革の一端は、多くの魔法科高校にも波及していた。

 

 即ち、今までは『弾いていた』BS魔法の使い手、古式魔法師……一芸にだけ長けているような存在まで入れるということが、門戸を広くしていた。

 

 しかし、現代魔法師の枠……一科の方は広がっておらず、完全に『二科改革』となっていたのだ。

 

 もちろん現代魔法師としてオーソライズされた『古式魔法師』たちの中には、一科レベルに達していても『ノーリッジ・エルメロイ』(現代魔術科)に入ることを望むものもいるという。

 

 小屋を貸して母屋を乗っ取られる……そういうことも考えられているのが、現状の魔法科高校なのだった。

 

(そういう考えが、いずれは遠坂刹那やレオナルド・アーキマン改め、レオナルド・ダ・ヴィンチの後塵を拝する原因になると思うのだけどね)

 

 と、直に大学生になる身である真由美が言ったところで、実感など湧かないだろうから、そこは言わないでおいた。

 

 若い人間にとって見えるものなど『いま』だけなのだから。

 

 そうでない人間を何人か知っている真由美としては、妹2人にも同じ視点を持ってもらいたいのだが。

 

「けれど克人さんステージで歌うんでしょ? それと刹那先輩の料理……一度ぐらいは出来たてを食べてみたいよ……」

 

「香澄ちゃん。食い意地張りすぎですよ。お姉さまの言うことが正しいならば、一高に入学。

 いずれ選出されるだろう九校戦や他のイベントでも食べられますとも! そうだと分かっていても、一度は一高がどんなものか知ることも、重要なのでは?」

 

 香澄の言葉を受けての論理展開をする泉美。

 情理両面での説得という双子の連携プレーに、ほとほと困り果てる。

 

 この2人は、一見すれば行儀がいい子なのだが、時に感情の抑制を無くし、公然と魔法を使う子なのだ……。

 

 一般の来賓も多いイベントにて、この2人は『爆弾』になりかねない。

 

 とっても危険すぎる……ということで、明日は竹田と名倉の両執事にお願いして、両名の監視を強めてもらうことにした。

 

 

 ―――長女がいなくなった私室にて枕を抱きしめながら香澄は怒るように、実際に怒りながら、『もうひとりの自分』に語る。

 

「お姉ちゃん、本当に横暴だよ!! こうなれば、是が非でも一高のハロウィン・パーティーに行こう泉美!」

 

「けれど、どうするんです香澄ちゃん? ご丁寧にも家の壁に『ギアス・スクロール』を張り付けて、明日の行動に制限を掛けてきたんですよ」

 

 双子の私室は、生まれてから一緒である。この歳になれば別室にしても構わないはずなのだが……まぁ特に不満もない。

 

 寧ろ魔法力の制御としては、この方がいいのだろう。

 

 事実―――。

 

 ―――双子による魔術とは、喩えるならば鏡合わせの自分との融合だ。揃うことで完璧な存在として君臨できる代わりに、常にお互いの喉元に刃をあてている―――。

 

 そう語って『天秤』を使って講義してきた遠坂刹那のことを思い出す。

 

 即ち―――『自分との融合』をすればいいだけだ。

 

 お互いに顔を近づけて、密談をするように、実際に密談を行う。それはもはや反旗を示すための行動なのだ。

 

「抜け出すのは、そうだね―――」

「成る程、身代わり人形も―――」

「それで、あっちに着いたらばバレないためにもさ―――」

完璧なる演舞(ザ・パーフェクト)―――失敗なんてありえませんね」

 

 事柄一つ一つを確認するように、人差し指を立てながら悪巧みをする双子。

 

 その姿を傍から見ていて、真由美のネコを剥いだ姿を知っているものが見れば―――。

 

『そっくり』

 

 と言われるだろう表情をしていたのだ。

 

 七草香澄。

 七草泉美。

 

 関係者の間では、見たままに、名のままに『七草の双子』と呼ばれる2人の『早すぎる登場』が、カーニバルを彩ることを決定するのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。