魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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というわけで書きあがってしまった外伝。ぶっちゃけ特典小説知っているヒトならば、かなり端折っていることがわかり、更に言えば改変も多いだろうことが分かるものです。

それでもいいというのならば、どうぞ。



夢十夜――壱『夢の始まり』(原典:DVD特典『ドリームゲーム』より)

 この世は全て胡蝶の夢なのかもしれない―――。

 

 夢か現か判別できないことの例えとして知られている。中国の古い思想家が唱えた言葉である。

 

 こういっては何だが、有史以来、あの大陸において戦が無かった時代など殆ど無かった。時の王朝の不安定さはいつも通りで、そこかしこで起きている戦は民草に困苦を押し付ける。

 

 つまり……何が言いたいかといえば、かの国においては、とてつもない悲惨な状況の全ては、実は同じ人間がやっていることではなくて、胡蝶のごとき小さな存在の見ている夢なのではないかと……。

 

 そう考えなければ明日を生き抜くことも出来ない。厭世論、悲観論、こういうのがある種の終末信仰の発端となるのだから、まずまず困った話である。

 

 

 ――――閑話休題。

 

 

 さて、話を戻せば、そんなことを考えるぐらいには達也は困っていた。様々な状況への推理及び推測の類を重ねるに重ねて、ここがいわゆるVRゲーム。

 

 SA〇という、達也たちからすれば半世紀は前に流行った、仮想現実に入り込めることを主題とした『SFファンタジー小説』という、矛盾した表現しか出来ないものに良く似ていた。

 

 意識だけが、どこかの仮想現実に入り込む。実を言うと既に、『現実の歴史』はSA〇を実現していた。

 

 RPVG―――ロール・プレイング・ビデオ・ゲーム。そう称されるべきものは、魔法師の開発以前から人々の想像力を養っていた。

 

 ゆえに、それを発展させていけば、自ずと仮想現実の世界で『ロール・プレイング』をしたいと思うのは必然であり、ロールプレイング・ヴァーチャルリアリティ・ゲーム。

 

 略称『RPVRG』が、当たり前の如く存在していた。達也自身は興味ないものの、級友や中学時代にもそういった風なものを好む者はいた。

 

 

 ああ、だからこそ、この世界はあまりにも異質すぎた。肉体の感覚はあるくせに、ヒドイ浮遊感で地に足をつけていないようでいて、確実に大地を踏みしめている。

 

 そして何より、そのゲームをやるには、当たり前の如く仮想型の端末を使う必要があるのだ。

 

 すなわち達也が好まない類の端末なのだから、これは自分の意図した状況ではない―――ゆえに―――。目の前の現実はちょっとした悪夢だった。

 

 

「ガンド乱れ打ち!! か――ら――の!!! 奥義『極死無双』!!!」

 

「ソードバレットフルオープン!! シュート&ブレイク!!!」

 

 きゅどどどどどどど!!!! ずどどどどどどど!!!! 

 

 往年のスレイヤーズで多用された戦闘効果……擬音表現でしか表せない惨状が、ありったけ目の前に広がっていた。

 

 本来ならば、恐らく達也辺りに襲い掛かっていただろう巨大狼や巨大猪が、涙目になりながら逃げ回っている。

 雨霰と降り注ぐ呪弾と剣弾の全てが、大地を抉りに抉って土煙をあげさせていた……。

 

 恐らくこの世界における敵なのだろう……有体に言えば『魔物』が、もはや狩人に追い回されている犬と豚にしか見えなかったのだ。

 

 

「恭順をしめしなさーい!! 具体的には、背中を大地に寝かせた状態で「ちん〇ん」するぐらいの恭順をして私の乗り物になれ――!!!」

 

「恭順をしめすのだわ―!! 具体的には、背中を掻っ捌いてロースとヒレが同時に楽しめる部位を差し出して、『僕の肉を食べなよ』と言うがいいわ!!」

 

 豚肉でTボーンステーキって出来たかな? そんな疑問はさておき、先程までいた森を抜けて平原に出た達也を見た両モンスター(?)は、助けてほしそうにこちらを見ていた。

 

 同時にこれは仲間にするイベントでもあるのかな? いやないな。

 そして何より、そんな二頭を追い回す金と黒のツインテール娘。まだ小学生かな? と言える存在が怖すぎた。

 

 顔立ちは―――見覚えがあるようでいて、無いような―――誰かに似ていると言われれば、『二人』しか思いつかない。技能もそれに違わないものだ。

 

 だから―――まずは猪の方を締め上げて、窒息死させる。どうやら金ツインテは腹が減っているようなので、そうするのが手っ取り早かろう。

 

 結構な速度で半ば突進するようにやってきた猪を落とすと同時に、狼の方はどうしたものかと思っていると―――。

 

 

「死なせてしまってもいいわよ。乗り物にするならば、ウールヴヘジンにするだけだもの」

 

「先程はティミング(飼い馴らし)するみたいなことを言っていたが?」

 

「反抗的すぎるもの。『魔女』は使い魔にする存在に情を寄せすぎてはいけないのよ」

 

 そういうどっかで聞いた理屈を披露する黒ツインテの言葉で、同じく骨を締め上げるサブミッションで絶息させたのだった。

 

 

「お見事」

 

「褒められる技じゃないよ。で―――君たちは……」

 

 

 誰なんだ? そういう問いかけが野暮に思えるぐらいには、その言葉を発する前に、ツインテたちは行動を開始していた。

 

 猪の肉を目にもとまらぬスピードで解体をしていく。

 猪の獣脂ですぐに切れ味が悪くなるところを、次から次へと真新しいナイフを出してきて、10分もしない内に巨大猪は、肉塊、骨、皮―――頭に分類されていた。

 

 野性児的な面は見えないが、手慣れた作業風景である。

 

 肉塊は、すぐさま食べられるところはすぐに焼いていく。森を抜けた先は草原であり、火種は一杯あったので、適当な火の魔法―――『魔術刻印』を発動させたそれで、火元を作り上げて即席のBBQを行っていく。

 

「手際いいな」

 

「けれど鳩は殺せない。ユウウツだわ」

 

「イッツアメランコリー」

 

 良く見れば、金は、髪からはっきりと分かるのだが、黒も外国人―――アングロサクソンの特徴がある。顔立ちと眼の色彩に、だ。

 

 つまり、この二人は―――、『双子』ということである。

 

 

「ハイ! おじ様どうぞ!! とりあえず悪くなりそうな部分は錬金術で腐敗を抑えつつ、悪くなっていれば、同じく錬金術で食べられるようにするのだから、今は食べるのだわ」

 

 と言って―――恐らくシシカバブ。串に刺された豚肉を渡してくる金髪の女の子のご相伴に預かり、食べる。

 塩をいい『塩梅』で振ったらしく、そのシシカバブは美味しかった。串自体は森の枝からだったらしく、喰い終わればその辺に捨てられるのは、中世世界ならではの簡便さである。

 

(おじ様ねぇ……まぁこのぐらいの子には、俺がそう見えるのかな?)

 

 決して老成しているとか、16歳に見えないような容姿だとか、そういうことではないのだと信じたい―――。切実である。

 九亜や四亜には、ちゃんと「お兄さん」と呼ばれていただけに、ちょっと考えてしまうのであった。

 

 そんな風に双子の黒と金が草原に座りながら、シシカバブを食い終わるまで問いかけを発さなかった達也の後ろで―――再生された『狼』が、乗り物となっているのだった。

 

「ボーンサーヴァントの術式。成功だわ! これで人家があるところまで楽ちん!! 

 名前は、ヴォルケンリッターの一員『ザフィーラ』とでも呼んであげるわ!! 光栄に思いなさい!」

 

『kugugug……』

 

 再生された骨格だけの狼は、どこから声を出しているのか、妙に色っぽい声で項垂れるのだった。ずびしっ! と人差し指でザフィーラと命名した女の子は早速再生された狼、一応ライオンほどの大きさはあるものに跨った。

 

 続いて金の方も、食肉や骨(猪)を括りつけていざ出立と言わんばかりに跨る―――。ちなみに言えば、達也が跨るスペースは無かったりする。別にいいけど。

 

 

「じゃーねー、どこかで見たような気がするおじ様」

 

「またどこかであうのだわー」

 

 そんな言葉で狼を用いて走り去る双子。砂埃をあげるほどの疾走をする……その後を追う気はないのだが、何なんだろうか……どうにも既視感ある双子であった。

 

 やれやれ。と思いながら双子と同じ方向に歩を進めていくと―――馬車がやってきた。古めかしい四頭立ての御者が操るもの。

 

 少し形態を変えれば『戦車』(チャリオット)にもなる豪壮なもの―――それにある『箱』。幌ともいえるものから出てきたのは――――。

 

 

「お兄様!! ああ!! ようやく戻って来てくれたのですね!! お兄様!! そのように異界の装束に身を纏ってまでも、この国に帰って来てくれたなんて感無量です!!」

 

 

 とりあえず最愛の妹(ドレス姿)であった。妹は、どうやら自分とは違ってこの世界のNPCとでも言えばいいものを『ロール』している様子。

 

 それによると―――。

 

 ・深雪はこの『国』の姫君らしい。そして達也は、追放刑を受けた際に忘却の呪いを掛けられた。

 ・この『世界』では、深雪と達也は兄妹ではなく、兄妹のように育った『幼なじみ』ということ。

 ・達也はこの『国』に仕える将軍の遺児らしく、父親である将軍は、蛮族との戦いで命を落とすほどに勇敢な戦士だった。

 

 三つ目を聞いた瞬間、達也の中ではあの龍郎がそんな立派な人間だとは到底思えず、『もぞっ』とした気持ちになるのだった。

 

 

「蛮族が雇い入れた邪悪なる魔物『ゲーティア』の放った『ローエングリン砲』から軍団を守るために、愛用の盾を翳して―――」

 

『へへっ、やっぱ俺って不可能を可能に……』などと末期の言葉が、そんなので跡形もなく消え去ったとのこと。

 

 続編とかで『実は生きていた』とか言われなければいいなぁ。と達也は切実に想いながら、母親『アオコ・ラミアス』もまた、渾身の一撃でゲーティアを吹き飛ばすものを放って死んだとのこと。

 

 全てが他人事すぎて、実に想像しにくいのだが、この世界における地位や階級と言うのは、やはりセオリー通り『世襲制』であって、将軍の遺児たる達也は、その地位を受け継ぐはずだったのだが……。

 

 

「右大臣め……よくも私のお兄様に嫌疑などかけてぇ。もしもこれでアレが黒幕だったならば、市中引きずり回しの上で首だけを地表に出した上で、ニワトリに眼玉を突かせてやる!!」

 

「中々にハードな拷問死罪だな……」

 

 だが、時代設定的にはなくはないだろうと思えた。

 ともあれ、深雪の話を要約すると、ある時、近衛隊長の地位にあった達也が祭壇警護の任に就いていながら、『古代の英知たる魔法』の秘蹟を用いたらしき攻撃が、国境の砦に放たれた。

 

 この世界の魔法は本当に選ばれた人間にしか伝えられない『秘術』らしく、要するに王族の特権とも言える。『ギフト』であり、簡単にその辺の庶民などが修得できるものではない。

 必然的に、誰かが口伝や知識を横流ししたのではないかという疑惑が持ち上がり、その中でも王族が秘蹟を与えることが出来る人間―――王に選抜された存在が疑われた。

 

「それが俺か」

 

「はい。お兄様は魔法の秘蹟を知る選ばれた存在です。それゆえに最初こそ馬鹿馬鹿しい推測でしたが、その内に―――」

 

「いいんだ深雪。そんな中でもお前だけは信じてくれたんだろう。魔法を知り、平和条約を結んでいる八大国家を疑って、いたずらに戦火を広げようとしなかった判断を責めてはならないよ」

 

「お兄様……その言葉だけで、深雪がどれほど救われるか……」

 

 

 馬車の中でラブい空気を作り出しながら、最終的には国境警護隊の失態を隠す虚偽報告であったらしく、声高に、これ幸いとでも言わんばかりに、達也の追放を主張した右大臣が何となく怪しかった。

 

 そもそも、これが一連の共謀でないことなど、まだ確定していない。よって―――何かあるんだろうな。と思えた。

 そして現在は、全ては虚偽であり謝罪の意味も込めて、達也に復職及び将軍職への就任を願い出ているらしい。

 

 それだけ国防が不味い状況になったのか、深雪の権力発揮なのか―――不明ながらも、現在は城へ向かっている最中―――。

 

 道中『ホーン・ベア』なる如何にもな魔物が襲撃してきたのを受けて、護衛隊の奮戦に混じる。その辺に落ちていた棍棒を得物に、『角熊』と呼ぶにふさわしい魔物を撃退。

 

「さすがです! お兄様!! やはり忘却の呪法を以てしても、その身に叩き込まれた技は衰えておりません!!」

 

「大したものではないよ」

 

「いえいえ、ムーンウォーカーと呼ばれるホーン・ベアを倒す手際は、やはり戦の申し子ですから!! さぁ皆さん!! お兄様を讃え―――」

 

「すまないが戻らせてもらうよ。後は頼みます」

 

「ハッ! お任せを!!」

 

 

 馬車の護衛隊に言ってから、一高にいるときのごとくハッスルしそうな深雪を車台に無理やり連れ込んで、先を急がせる。

 

 やれやれと思いながら、ダメだぞ。と言い含めると、膨れ面をする深雪に困りつつも、城までの道のりは割と平穏に進んだ。

 

 城砦都市―――ルクセンブルクやデュッセルドルフなどに見られる様相から察するに、本当に蛮族が襲ってくる世界なのだと気付く。

 

 

 城内に入ると、『現実』において既知であった人間、レオとエリカが近衛騎士隊の同僚だったらしく、隊長であり同僚として比較的フランクに接してくれた。

 

 そんな訳で早速情報収集をすることにした。とりあえず最初に聞くべきは――――あの双子の行方だった。

 

「レオ、ここ数時間程度だが、金髪と黒髪の少女二人とか見なかったか?」

 

「? いや特に―――ああ、待てよ。確か右大臣が、一週間前に―――」

 

 

 思い当たる節があったらしく、額を押さえながら苦しげに語るレオを遮るように、謁見の間にて達也の知り合いにはいないビジュアルの人間が出てきた。

 

 白い長衣を着た初老の男。着ているものがもう少し豪勢な飾りでもあれば、本当に奸賊・奸臣の類だと思えたかもしれない。

 

 だが、その男こそがこの世界での達也を追放処分にした元凶―――右大臣であった。

 

 右大臣と深雪の口論イベントがスタート……正直言わせてもらえば、右大臣の方が、公平に見れば正しいことを言っている。

 

 しかしブラコンが過ぎていると周りから評されている深雪の言は、公平ではない。

 私心に狂った王女ではあるが、ともあれ、一応はカリスマ溢れる深雪の言動は多くの矛盾や理にそぐわないものがあったとしても、多くの人間を『扇動』した。

 

 

「呆れた王女だ!!! 生かしておけぬ!! 者ども出会え―――!! 出会え―――!!!」

 

 どちらかといえばヨーロッパ圏の文化をモチーフにしていたというのに、この段になって、何だか江戸時代劇の悪代官のような物言いをする右大臣の号令で、多くの兵士たちが謁見の間を制圧する。

 

 どうやらかなり多くの兵士達を抱きこんでいたようだ。そしてそれ以上に、この国の王族たちの評価が心配になるのだった……。

 

「我々は、もはやあなた方、古代人たちの末裔の奴隷では無い!! 城内の心ある者達と手を取り合い、我々は皆で政治を行っていくのだ!!」

 

 この国の行く末はどうなるかは分からないが、文明的レベルから察するに、どうせまた似たような支配者が出るだろうことが予測された。

 

 ヒトは、どれだけ『民主的共和制』を謳っていても、21世紀を越えようとする時代でも『貴種』の血というものに弱い。

 

 看板―――民族の歴史を一度でも『体現』してきたという人間の血には、やはり弱いのだ。よって深雪も達也と同じく簡単に殺されはしないだろうが……。

 

 しかし……。

 

 

「どっひゃあああ!! 深雪! あんたどんだけ悪政を行っていたのよ!? 兵士達の殺気が恐ろし過ぎるわよ!!」

 

「お前だって近衛騎士以前に国民だろうが! ああ、けれどやっぱり達也に軍の年度予算の八割を注ぎこむのは、反感が出るよなぁ……俺も芋ぐらいしか食えなくなっちまったし」

 

 滅んでしまえ。この国。というか埋めてしまえ。

 理性的な感覚ではそう達也が想っていても、深雪の悲しみを晴らすためにも、必死になる兵士たちをメイスや手刀で気絶させていく。

 

「悪いな。今度からは、もう少し皆の事を考えるように進言しておこう」

 

 そう言って、義勇を持つ兵士達を全員昏倒させると―――右大臣の姿はもはやなかった。それどころか、右大臣であったものが変化を果たしていく。

 

 獣性魔術ではなく変化魔術―――パレードとかとも違う。人間の体構造から表面積にいたるまで、細胞数が膨張していく様子が見えた。

 

 

「一軍の将たる者が直接戦う―――などというのは下策中の下策だが、そうも言っていられんか。出番だクロ、キン」

 

「アイアイサー!」「お給料分は働くわ!」

 

 という声が大臣だったもの(巨大白鬼)の後ろから響き、ボス戦に随行する中ボス的な立ち位置で自分達を迎え撃つ双子。

 

「アレだぜ達也隊長! あの『クドバーバラ』の姉妹こそが、右大臣の恐るべき私兵だ!!」

 

「とにかく右大臣を集中攻撃するわよ!! とはいえ……本当に、見覚えがあるような無いような―――変な双子ねぇ」

 

 四人が感じる、見覚えはないのに見覚えはあるという矛盾した表現しか出来ない双子の登場に、全員が緊張する。

 

 

「イクゾォオオオオ!!!!」

 

 右大臣白鬼から響く怒号で戦闘が開始―――。結果から言えば、右大臣白鬼は、あっさり倒された。

 

 いや、あっさりという表現は適当ではない。死にそうになるたびに、左右にいる双子が回復術を放って、切り裂かれた身体を再生させ、霜焼けどころか凍てつく冷気を吹き飛ばし、防御術を重ね掛けしてくるのだ。

 

 はっきり言おう。ボスよりも、こいつら(金黒の双子)の方が強敵であり難敵であった。

 

 

「右大臣復活ッッ! 右大臣復活ッッ! 右大臣復活ッッ! 右大臣復活ッッ!」

 

 などと手拍子に合わせて、死に体の右大臣にバケツ一杯の果汁水(ポーション)をがぶがぶ飲ませて蘇らせて――――。

 

「も―――1回!! も―――1回!! 右大臣君のちょっといいトコ見てみたい―――♪」

 

 などと手拍子をしながら、蘇生術に似たものを掛け続けて、何度も右大臣をよみがえらせる手際―――はっきり言おう……。

 

 

『『『『鬼かっ!!!!!』』』』

 

 

 四人全員の一致した意見であった。しかし、それに対して双子は―――。

 

 

「オニはこっちでしょー? 熊っぽいけど概ねオニってか、なんとなーくオニっぽいからオニよー」

 

「大体、アタシたちは雇われているんだもの―――依頼主を守っておぜぜを貰わないと――」

 

 

 両側から指さされたその依頼主が「いい加減。倒してください」とでも言わんばかりの泣き顔を見せて、こちらを見てくる辺り―――この『あかいあくま』は……。

 

 呆れつつも、達也は容赦なく『バリオン・スピア』を展開。

 それを見た双子がオーバーアクションで反応する。

 

「ワオ! 達也おじ様の秘奥の一つよ。避けるか防御よ『■リン』!」

 

「わかったのだわ! 『■ンナ』」

 

 良くは聞き取れない単語……名前であったが、目を見開いて驚くというよりも、『宝物』を見つけたように眼を輝かす双子は―――。

 

 

 達也のスピアの撃ち出しに先んじて―――。

 

 

『『I am the bone of my sword.――――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!!』』

 

 

 最大硬度の『花弁の盾』が七枚展開されて、手を重ね合わせて魔術を発動させた双子だけが、撃ち出された弾丸の威力を食らわずに無事に済んだ。

 

 もはや謁見の間はごちゃごちゃどころか、嵐に晒されたかのようにボロボロであった……豪奢な絨毯は紙切れのようにあちこちに散らばり、延焼の元にもなっている。

 

 更に言えば、天井は吹き抜けとなり、玉座は粉微塵に砕けていた……。

 

 右大臣であったものを倒したのに、割に合わない結果に思える(つわもの)どもが夢の跡……。

 

 

 

「戦いの後は、全てが虚しい……」

 

「「「「ならばやるなぁあああ――――!!!!」」」」

 

 寂寥感を滲ませた視線を青空にやる双子。歳に合わない仕草をする2人に対して怒涛のツッコミが入ったが……ともあれ一件落着? 

 

 双子たちはどうしたものかと思っていると―――。

 

 

「依頼者が死んじゃったならば、どうしようもないわね」

 

「そういうことで、依頼はキャンセルされたのだわ」

 

 

 そんな気楽な双子の様子の後に、次なるイベントが始まる。どうやらこれにてこの『ゲーム』は大団円を迎えたらしく、姫である深雪が、達也の胸の中に飛び込んできて―――。

 

 何故かその深雪の唇に吸い寄せられていく自分を達也は認識しつつも―――そんな周りで、ごそごそ動く双子が気になる。

 

 全ての兵士達が祝福の喝采を二人に浴びせる。そんな中、あちこちの部屋に入って何かを持ちだしていく双子の姿が……あからさまに不審だったのだ。

 

「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめっとさん」「めでたいなあ」「くっくぐえええ! (ペンギン)」「おめでとう(親父と見知らぬ女性)」などと言われている中……。

 

 最終的には我慢が利かず、深雪の唇から強引に離れることで、叫びを挙げることが出来た。

 

「って―――何をやっているんだ―――!?」

 

「し、しまった!? 火事場泥棒しているのが、見つかっちゃったわ!」

 

「右大臣が溜め込んでいた、賄賂から何から懐に収めちゃったから余計にだわ!! しかも深雪おばさまの『ロマンスの神様』をロマンキャンセルしちゃったから、そちらからも怒りのオーラが!!」

 

 

 見るとザフィーラ(蒼狼)の背中に『ごまん』と金銀財宝の袋を乗せている姿が見えた。

 

 完全な泥棒であったので、この対応は間違っていなくて、しかし深雪の不満をどうしたものかと思いつつも――――。

 

「王国左将軍として第一の命令を出す!! あの双子の賊をひっ捕らえて国の財を取り戻すのだ!! あの金銀財宝は、これからの王国に必要なものだ!!」

 

「その通りです!! 私とお兄様との甘やかな新婚生活の資金を、あのなんか見覚えある双子から奪い返すのです!!」

 

 そうして、草原の王国をひた走る双子を追いかける国民たちという画で、EDを迎えていく様子を感じる。

 もしもこれがゲームであるならば、今頃フィールドを走り回る様子の横に、黒画面でスタッフロールが流れている頃だろう。

 

 ああ、よかった。本気でそう思えるぐらいには、深雪とのキスが不可避だと思えていた達也の想いが―――、ガラスを割り砕く音が響き、眼を覚ます。

 

 

 ―――朝の目覚めは最悪ではないが……。普段の達也ならばあり得ない乱れた寝姿。布団も放り出された様子―――しかし、夢の内容は鮮明に覚えているはずなのに……重要人物であるはずの双子の輪郭だけがぼやけるのは、これ如何に。

 

 だが……登校したらば、刹那とリーナに「ありがとう」と言いたい。そんな朝の気分―――。

 

 しかし、あまりにも真に迫った夢見だけに、事態は何か魔的なものが関わっているのではないかと思うのだった……。

 

 

 




ちなみに言えば原典であるドリームゲーム1において、ラストで達也は深雪と絶対不可避のマジでキスする5秒前の状況に至り―――。


(ふ・ざ・け・る・なぁ!!)
唇同士が触れ合わんとしたまさにその時。達也は全精神力を動員して叫んだ。

……などと心の中でとは言え、感情の限りで回避を図ろうとするところがあったのですが、今作では双子のよくないハッスルでロマンキャンセルされた次第です。(え)

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