魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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そろそろアメリカ編の終わりも近づきつつある。

第一高校編ももうすぐですかね。

そして水着ジャンヌ―――ダメだ。全然でない……今月二回目の万札ガチャをすべきなのか……!?(必死)



第8話『NAKED STAR-Ⅲ』

 見れば見るほどに醜悪なタコである。というより見ているだけで『引っ張られそうな』異界の邪神である。

 

 

(ルルイエ異本―――その写本でもあったのかね。正直、この世界には『似つかわしくない』存在だ)

 

 

 情報操作では、どこかの化学工場からの工業廃水や漏れ出た薬品で出来たモンスターとかで落ち着かせるのが妥当だろう。

 まさか異界の邪神を召喚した魔法師がいますなど言えるわけがない。

 

 

「にしても、あれって何なのかしら? セツナは分かる?」

 

「異界の邪神。ラヴクラフトが見た宇宙の脅威だ」

 

「前に言っていたクトゥルー神話なの?」

 

 

 首肯してから、姫抱きしているリーナと共に触手の脅威から逃れる。そうしているとユタ州の軍隊―――州軍が出動してきたらしく、ハイパワーライフルや手持ち式のミサイルランチャーで海魔を抉っていく。

 

 

『OPEN FIRE!!!』

 

 

 言葉で整列した陸軍の銃器が中心街に入り込もうとしている海魔に火力のシャワーを浴びせていく。

 

 確かに効いていないわけではないが、流石に海魔の巨大さの前では水滴で石を穿つようなもの。

 

 

 しかし、その気持ちに答えないわけにはいかない。水滴で石を穿とうという意思と勇気で怪物に立ち向かう人々の心を無下には出来ない。

 

 

「オニキス、まだか?」

 

『――――よし、コンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!! オールライト!!!』

 

 

 瞬間、魔法の杖が『平行世界』から引っ張ってきた魔力が刹那の身体を充足させる。

 

 

 適当な建物でリーナを下してから、海魔を見下ろす。まさしくダゴン神の堕ちた姿。人の想像力が豊穣の神をあのような姿にしたのだ。

 

 

「セツナ―――」

 

「……サポートが必要だ」

 

「え?」

 

「俺一人じゃ、あのモンスターを倒しきれない。ウェイトリーが身を捧げたあのモンスターは真正の魔。滅ぼしきるには、力が足りない」

 

 

 正直、この言葉を言うのは幾らかの勇気がいる。けれども言わなければ―――どうしようもない……。

 

 

「俺を助けてくれ」

 

「―――何を当たり前のこと言ってるのよ。私はあなたの『上官』よ。隊員のミッションの後事をするのは、当然なんだから!!」

 

 

 先程まではどこか不安げな何をしていいのか分からない顔をしていたというのに、今は晴れ晴れとした顔をしているリーナ。

 

 要は方向性さえ定まっていれば、どこまでも突っ走れる人間なんだよな。と思いながら指示を伝える。

 

 聞いた後には、少しだけ顔を赤くしたリーナの姿。

 

 

「まったく、『女の命』を使おうだなんて―――いいわよ。私の命をセツナにあげるわ」

 

「頼んだ」

 

 

 短い言葉で応じながら、海魔へと飛んでいく。リーナの話によれば、ウィルバーはこちらを知っていた。

 

 イブン・ガズイの霊薬を嫌がらせのように撒く装置を置いていったのを勘付いていたからか、それとも―――『それ以前』から知っていたか。

 

 どちらかは分からないが、それでもやるべきことをやる。

 

 

投影、現創(トレース・オン)―――全投影幻創待機(マキシマム・リロード)

 

 

 魔術回路の奔りが、幻想の武器を作り出す。この世界に来て『あまりにも異質すぎるレアスキル』だろうと分かった瞬間から、隠すことにしていたものを―――『こっそり』使っていたりした。

 

 その為のスタンドプレーでもあった。だが―――ここに来て秘奥を晒す。もはや出し惜しみをして勝てる相手ではない。

 

 

 剣の丘―――少しの『変化』を見せた心象風景の中から、海魔に効くに足りうる武器を想像していく。

 

 

 こちらを明確な脅威と見たタコが、触手を槍のように虚空に突きだしていく。ファランクスのように隙間ない槍衾に対して―――。

 

 

 雷閃が迸り、根元から焼き切った。リーナの得意の雷霆魔法である。そうして槍衾の中に安全圏を作り降り立つ。

 

 

 同時に―――。

 

投影・現像(トレース・オフ)

 

 

 言葉で『作り上げていた』幻創の武器が、現実を侵食して出現。更に刹那の周囲を円状に包んで切先を外側に向けていた。

 

 

 その数100では足らぬほどの武器の数々。近場で見る者はいなかったが見ていれば、その武器の持つ膨大なサイオンの量とエイドスの密度に『悲鳴』を上げていただろう。

 

 

穿ち撃て(シュート)!!!」

 

 

 命令に従い武器は海魔の身体を穿っていく。

 

 炎の剣が焼灼をしながら、海魔の肉体を血液諸共に蒸発させれば―――。

 

 氷雪を生み出す剣が、海魔の肉体を氷結させながら砕き―――。

 

 雷の神器が、天上より降す『裁き』として海魔の肉を貫通。身の奥深くで爆発する。

 

 

 世に言われる英雄・女神・闘神・戦神などが振るいし幾多もの武器やそれに相当する器物。

 

 総称して―――『貴き幻想』(ノーブルファンタズム)

 

 

 人々が忘れし神代・古代・中世・近代―――時代の区別を超えて人々が幻想の逸話として覚えていたものが、『現代』―――人理の行き詰まりもなく22世紀を迎えようとしている世界に再現された。

 

 ・

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 その光景を見ていたリーナは、思わず赤くなるのを止められずにいた。

 

 それぐらい幻想的な景色が広がっていた。

 

 

(ダンシング・ブレイズで操っている風ではないわ……それにセツナはスターズの必須スキルの一つを『大道芸』なんて言っていたし)

 

 

 確かに、あれ程の魔力の器物を難なく縦横無尽に操って、海魔に絶叫をあげさせている以上は仕方ない。

 

 

 だが、それ以上にリーナの眼を惹きつけたのは、その浮遊して時に海魔の身を穿つ武器を手に取り、振るう刹那の姿である。

 

 スターズの中でも『剣術』の腕で刹那は『悪くない』程度、時にカノープス少佐に稽古を『つけてもらっている』のだが……。

 

 

 今の刹那の剣腕は、それを上回る。

 

 

 あたかも太陽や大地の神。先住民たちが信仰していたものたちへの『祈祷』のように『舞』を続ける。

 

 

 海魔の触腕も身も、数多の剣を持った瞬間に流麗な刃の軌跡を見せる。水飛沫にも似た輝線の後にはざんばらになる海魔の身体。

 

 

 刹那が舞を捧げる度に、堕ちた神は鎮まっていくかのようだ。

 

 

「綺麗……っと、それだけに眼を向けているわけにはいかないわ……」

 

 

 いつまでも見ながらサポートしていたかったが、リーナにはやることがある。リボンを解いてロールをストレートに戻す。

 

 

「まったく、女の命をなんだと思ってるんだか……けれど―――」

 

 

 意味はあるんでしょ?

 

 

 無言で面白い思いで問い(クエスチョン)を放ったリーナは、腰に帯びていた標準装備であるダガーを手に持ち、自身の金髪に添えて―――刹那に言われた通りの量と長さを取った。

 

 目分量であるが、標的との距離を測るよりは楽な作業である。熟練した兵士は、火薬の量を秤も見ずに弾丸の中に入れることができる。

 

 クセであり慣れ。習熟すれば自ずと技術は図られる。

 

 

 そうしてリーナは髪を一房刈り取った。同時にそれを渡されていた『リボン』に包み込み―――タイミングを待つ。

 

 海魔が放つ『霧』がとんでもない濃度で周囲を覆いながらも、その中で合図を待つ。

 

 

 † † † †

 

 

 宝具を『幻想崩壊』させて内部で痛痒を与えていき、既に体積を六割は吹き飛ばしたのだが、やはり倒しきれない。同時に再生するのも押しとどめなければいけない。

 

 

 恐らく、『神造兵装』による『総体消滅』ならば、その限りではないだろうが、こんな街中に現れてはそんなことは出来ない。

 

 

『刹那!!』

 

「ハスタァ!!」

 

 

 オニキスの警告の次に来た。風の弾丸を避けてぬらめく体表の大地を滑るようにする。

 

 

「こもりっきりでいてくれると思っていたのだがな」

 

「きさまがあらわれたことで、わがかみはおいかりだ。ゆえになだめてさしあげねばならぬ……きさまの身をもって!!」

 

 

 熊のような体格ながらも毛むくじゃらの不潔感ばかり先立つ男が言いながら、風の弾丸、切り裂きが刹那を襲う。

 

 

「お前の事情なんぞ知るか、だがリーナを泣かせたことは怒っているんだ……! お前の身勝手なカルト信仰を『封印』させてもらう!!」

 

「我が神への門―――あけさせてもらうためにも……!」

 

 

 俺を使えば『外なる神々』が来るって言うのもおかしな話だ。しかし、その『可能性』が無いわけではなく、それに気付ける者は……。

 

 

(少なからず『あちら』の『俺』を知っているということだ)

 

 

 誰なのか。誰何するのは後だ。その前に――――。

 

 

 合図を撃ちだす。既に準備は整っている。こいつが根こそぎ持っていた『土地』の魔力も奪取済み。

 

 

 小さな―――それでもリーナならば見逃さない閃光を上空に解き放ち―――破裂。一瞬の光でも気付き、その手に持っていたリボンごと髪を上空に投げた。

 

 

 来た――――確信を持って遠坂刹那は秘術を解放する。

 

 

幻想進化、(じかんをとめ) 幻創強化、(じかんにとどまり) 過去再現、(せかいをだまし)過去再生(せかいをかえし)未来逆光(すすめ)未来逆行(すすめ)―――創世、創生、(顕現の時は) 創製、創成(来たれり)―――」

 

 

 リボンの髪に術をかける。呪文はこの上なく世界を改変し、刹那の身体すらも変革せんとするものが現れた。

 

 魔術師の身体の延長線上にあるもの。特に髪などは一線級の触媒。更に言えば女性の魔術師であれば、その髪は年月を経るごとに神秘を増す。

 

 リーナに渡したリボンは母の遺髪を元に『なめして』作り上げたもの。

 

 

 それに現在時制で生きているリーナの髪を咥えさせることで、『最高位の炉』を作り上げて既に火が灯された状態になっていた。

 

 

「な、んだあれは―――」

 

 

 ウィルバーに答えずに上空に出来上がった魔法陣に浮かぶ炉に―――『双剣』をくべた。

 

 

『セツナ!?』

 

 

 驚きの声がリーナからやってきたが構わずに、刹那は、双剣をくべた炉に己の身を投げ入れた。

 

 

 双剣―――父も愛用していた干将・莫耶。その『可能性』を最大限に引き出せないかと考えたのが始まりであった……。

 

 

 ―――干将・莫耶。二刀一対の双剣のこの伝承は有名すぎる。

 

 

 時代や訳者によって解釈が違えども、共通するものがある。それは人の身体、それも鍛つ鍛冶師の大事な人間を犠牲にして鍛えられしもの。

 

 時に鍛冶師の妻、時に妹、はたまた夫婦ともども……。

 

 

 干将・莫耶は鍛えしものが持つ『大切なもの』を犠牲にすることで、その真価を発揮する『退魔礼装』なのだと気付いた。

 

『喪失』を起源に持つ刹那は、これを徹底的に解明することに成功。

 

 その結果、分かったこと。そして実践するに辺り必要な術式を整備。刻印に刻み付けることで成功を果たす。

 

 

 しかし、分かった結果と実践するかどうかは別問題。特にそういったよろしくない起源をもつ刹那だけに、使用は躊躇われた。

 

 限りなく犠牲を抑えるためには―――そしてそんな『化け物』―――それこそ『人類悪』=『ケモノ』に使うかもしれないとなれば、実践は不可欠だった。

 

 

 結果として―――、犠牲を抑えるためには、それしかなかった。己自身も『犠牲』にしての『神器鍛造』。

 

 火にくべられながらも、刹那は躊躇わず一つごとに没頭。手に確かな感触を覚える。重みが乗る。神秘の『重層』が、眼に走り―――。

 

 炉から出た。

 

 

 目の前の空間を切り裂くと同時に眼下にいる大海魔を見据える。その手にあるのは、銀色と金色にどこまでも輝く陰陽を抱く双剣……その枠に収まらない巨剣であった。

 

 

「ば、か、なぁあああああ!!! ぎゃあああああ!!!」

 

 

 本能的な恐怖からウィルバーをなけなしの『養分』と化した大海魔を見ながらもやるべきことは定まっている。

 

 

「ひとーーーつ!!!」

 

 

 金色に輝く陽剣を無造作に一閃。いつにない手応えで、海魔の身体を四割切り裂き、大地にも深々とした裂傷を加えてしまった。

 

 

「ふたーーーつ!!!」

 

 

 もはや何の容赦もなく触手で抵抗を試みる海魔の身体を踏みしめながら再びの一閃。横薙ぎの一撃が再び四割を灰燼に返し、遠くの岩山を切り裂いた。

 

 何かしらの被害が出ていないかと少しだけ不安になるが、銀閃で既に殆どの身体を失った海魔にとどめを刺すべく―――。

 

 

「みぃいいいっつつつ!!!」

 

 

 銀と金の光剣を重ねて、一刀一閃。

 

 

 両手で持った二刀の重ねが海魔の身体を真っ向一刀両断。存在の核は―――イカタコと同じく眼球の間だったらしく、確かにそれを砕き裂いた感触があり、この世界との(よすが)を失った海魔は、存在を維持できずにその身を霊子に変えて消え去っていった。

 

 

 足場を失い地面に着地。警察や州軍もここまでの刹那の光景を見守ってくれていたが、この後はどうなるか――――。

 

 

(派手にやりすぎたな)

 

 

 戸惑いを隠しきれていない彼らの前から姿を消す。それが次善の策だろう。

 

 

 そんな刹那の前にリーナがやって来た。飛行ではなく一種のブーストによる加速滑空。

 

 殆どロケットのような勢いで地上に来たリーナ。その眼は本当に心配なものとなっていて、すまない。と一言だけ言ってから再び抱きしめる。

 

 従容として、その抱きしめに従って腕を首に回すリーナ。体勢は整った。

 

 

「もう……」

 

 

 観念したリーナを見てから、名乗りと言うか口上を告げる。

 

 

「さらばだ! ゴッサムシティの人々!! プリズマキッドはいつでも魔性の脅威あるところに存在し、神秘の秘宝を盗みつづけていく!!」

 

「ま、待ってくれ!! キッド!! プラズマリーナ 君達は一体―――」

 

 

 警官隊のリーダーの一人が、言い募るのを耳にしながらも、最後の名乗りは忘れない。

 

 

「通りすがりの剣と宝石の魔法使いだ。覚えておいてくれ!!」

 

「と、通りすがりの美少女魔法戦士です!! とりあえず今日のことは忘れてください!!」

 

 

 その言葉を最後に飛行魔術を展開して飛び立つ。眼下にいる人々が、『ありがとう!!』だの『アタシのキッド様が!!』『プラズマリーナ萌え~』などと言っているのを聞きながらも飛んでいく。

 

 

 ……後に、この時の事件を間近で見ていたあるクリエイターが、全世界上映のとんでもない映画を公開することになりそれはPart3まで続くことになり―――、極東におけるある兄妹の眼にも止まり、デートの口実になるなど知らぬことであった。

 

 

「同時上映は……そうだな。アレだ!! 未来からきた奇怪な化けネコが、グータラな少年を助けるためにやってくる……その化けネコは未来のとんでもない武器、『黒い銃』だったり『大陸を切り刻む剣』だのを一杯持ってきて、そこかしこに混乱を招く―――題して」

 

 

 などとpart3における同時上映作品の制作を任されていたある映画監督は―――ある時、どこから出てきたとんでもないアイデアを実現しようとしていた。

 

 

「そう―――題してNECOARK――、日本語で表記するならば『ネコアルク』―――ネコアルク-THE MOVIE- これでアカデミー賞はいただきだぁあああ!!!」

 

 

 狂気の作品制作は止まらず……運命との邂逅の時は近づいていく……。

 

 

 

 


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