魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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数日前、お歳暮・早めのクリスマスプレゼントのように多くの高評価をいただいた結果、日間ランキング六位にまで浮上したことは、本当に感謝の限りです。

本当にありがとうございました。これからも精進していきます。


第183話『カーニバル・ファンタズムⅣ』

 

 

「ううむ、ステージ自体は、最高にいいものが作れた。まさしく歌うたい13使徒が旋律を奏でるに相応しいものだ。惚れ惚れするよ―――私の才能に!!」

 

自画自賛。そうとしか言えないレオナルド・アーキマンこと通称ダ・ヴィンチちゃんの言葉に、作業手伝いであり見学組でもあった廿楽は、ダ・ヴィンチちゃんが不満に思っていることが何となく分かった。

 

技術屋としては最高点を点けられたとしても、芸術家・美術家としてのセンスが彼女を満足させていない。

 

つまりは―――。

 

「客席が寂しいのではないですかな? レオナルド先生」

 

「ミスター・ツヅラ。それな!」

 

何年前の人間だ。としか言えないダ・ヴィンチちゃんの言葉。直近では半世紀以上も前。

 

だが『実際』は五世紀は前の『偉人』が、そんな若者言葉を使うことに少しだけ意外な想いを持ってしまう。

 

現在のダ・ヴィンチちゃんの職業上の立場は、第一高校の魔法講師。百舌谷のように主任講師ではないものの、エルメロイレッスンの『一級講師』であり、いずれは魔法工学科―――略して魔工科『アトラス』の主任講師を務める予定だ。

 

色々と問題児でありながらも、魔法社会を色んな意味で駆け抜ける『時代の快男児』遠坂刹那が連れてきたこの女性(?)は、当初は外部講師という立場だったのだが、いくらなんでもネームバリューが大きすぎる相手を、そんな『外様』に置きっぱなしでいいわけがない。

 

百山校長の大英断もあり、異例と特例づくめの講師職への就任が成された。

 

「まぁ元々は、ここの講師の大半は魔法大学の研究員だったそうじゃないですか。私のように、付きっきりの人間がいた方が安心できるでしょう?

ロマニも雪兎ヒメの動画さえ見れれば、その他の職はきっちりやるわけですし」

 

「なんか僕が単純化されすぎじゃないかなレオナルド!? ヒドイよ! その他にもMAAYAが好きなんだけど!?」

 

そんな着任の挨拶をされて、警戒心やらある種の対抗心とも敵愾心とも言えるものが霧散してしまうのは仕方がない話であった。

 

特に百舌谷教官は、その筆頭ではあったが、そんな風なコントを見せられては、どうしようもなかった。

 

「小生も、ここまで波乱に満ちた人生を送るとは思っていませんでしたな」

 

「魔法師が生み出されてから半世紀は経った、この時こそが変革期になるものだ。

エド・ショーグネイトの時代は270年。その270年間の全てが、安定をして混乱が無かったかといえば違う。

小さな揺らぎが徐々に社会に浸透していき、やがては―――ちょっとした不幸を以て、世界に変革は訪れるのだろう」

 

バタフライ・エフェクトというヤツにも通じる理論を言われて、廿楽も考えてしまう。

 

幕府の屋台骨が揺らぎ始めたのは、やはり天保の大飢饉からの老中『水野忠邦』の天保の改革が失敗に終わったことに起因する。

 

歴史家には諸説あるだろうが、廿楽としては、維新三傑や桜田門外の変が起こる前の『大塩平八郎の乱』こそが幕末の始まりだったと思える。

 

そこから水戸藩の独自教育『尊皇攘夷』が、他藩からやってきた門弟たちから各地に伝わっていき、そして倒幕運動に繋がった。

 

(そう考えれば、遠坂君こそが全ての起点ではあったか。ロマン先生の言葉通りならば、異世界からのストレンジャーによって齎された変革)

 

それを是とするか否とするかは賛否別れようが、そもそも『始まりの魔法師』と呼ばれる存在すら、『何者』であったか不明なのだ。

 

そう考えれば、時代の変化がどこから齎されるかなど、些事ともいえる。

 

そして、ステージ設営を行っていたダ・ヴィンチ先生は、どこからか飛んできた杖に話しかけられて天啓を得たようだ。

 

『ダ・ヴィンチよ! お主は受動で人を魅せることは得意でも、己から魅せることは苦手だな。余が熱唱することは出来なくても、舞台演出ぐらいは協力してみせよう!』

 

「流石は『黄金の劇場』を作り上げた皇帝陛下! ご見物(客人)も主役であることを理解させるための演出はお手の物か!?」

 

『オリンピアの聖火にかけて余が、主役を、舞台を演出するということを教えてしんぜよう!!』

 

そんな言葉を言い合っていると、杖の持ち主なのか一色家の令嬢がやってきて、ダ・ヴィンチと挨拶し合う。

 

ステージの仕上げは、まだまだ手の加えようがあったということだ。

 

現状に満足せずにただひたすらに『前』を見続けるその姿勢こそが、変革をもたらすものの特徴なのだなと気付いて、廿楽は甘菓子が食いたい気分になるのだった。

 

 

† † † † †

 

「あいつら、そんな風に俺のことを語っているのかよ」

 

「アタシとしては、随分と面白いやつなんだなーぐらいに思っていたぜ」

 

「魔法師の印象ってどうなんだろうな?」

 

「人それぞれじゃないか? アタシの中学にも、魔法師としての素質というか、想子を扱うことが出来る奴がいたけど、結局医療高校に進学したしな」

 

早々に己の才能に見切りを着けて、違う分野に進学することもありうるが、それを魔法協会が許すかどうかも問題点だろう。

 

組織としての問題点の一つに、魔法師の進路というのがとてつもなく『狭い』ということに長ずる。

 

魔法師の人権がある種限定されていることに加えて、魔法師が自立と独立を求められている一方で、一方的な仲間意識の共有を求められている『矛盾点』もある。

 

組織の中でも不和があるが、魔法師の権利が脅かされれば、彼らは一致団結するだろう。

 

―――それに『反発』する魔法師がいることもお構いなしに……。

 

仮に脅かしてくる側に親類・縁者がいるから、味方は出来ないとしても、それを捻じ曲げてこちらに着けと言うこともありえる。

 

仮定を重ねていけば、そういうこともあり得る。

 

「魔法を扱うことが上手くなければ、魔法師であることも息苦しいなんてのは、どんな世界でもありえるだろ。

置き換えるのが、芸術でもスポーツでもさ」

 

「そういうもんなのかもなぁ」

 

だが、その息苦しさから逃げなかった人を知っていた。

 

どれだけ『お前には才能が無い』と告げられたとしても、『魔術』を知ることが好きだった人を。

世間の人は無駄な努力をしていると笑ったとしても、彼を知る人間は彼を笑わない。

 

恩があるからではない。適切な指導を受けたからではない。

彼が知る懊悩は、いつか自分たちも感じるものだから。

 

そして、そこから逃げずに前を向ける強さが―――。

 

「ゴッホも生きている内は、全然評価されなかった。宮沢賢治だってそうさ。本当の意味で、己の求めるものを求めるヤツこそが『強い』のさ」

 

「生臭な連中ばかりだよな。魔法師は」

 

生きている以上は現世利益を求めるのが普通であり、別にゴッホも宮沢賢治も売れないでもいいなんて考えだったわけではないが、決して『売れ線』に迎合しなかったのは、やはり「これが書きたい」という想いがあったからだ。

 

そんなこんなで話し合いながらも、第一高校の美術部の展示場に辿り着いた。

 

魔法科高校において魔法を使用しない部活は下に見られるが、芸術、即ち美しきもの、胸躍るものは、時代を越えて人間の『心』を打ち震えさせるものだ。

 

「刹那くん。巡回ですか?」

 

「お菓子を持った手で触れることは無いから、安心してくれ美月」

 

「デートですか?」

 

「そんなところだぜ。柴倉センセー」

 

クララの言葉で、自分の画家としての腕前を見に来たのだと気付いた美月は、ついぞ見ぬ挑戦的な笑みを浮かべて案内すると言ってきた。

 

ちなみにいえば、美月のコスプレ衣装は、オーソドックスに魔女っ子である。

 

そんな美月の魔女のイメージに、何故かネズミの意匠がある。

 

まぁ魔女の帽子(ウィッチキャップ)にねず耳と、スカートから尻尾が生えているだけなのだが。

 

(所詮、ヤツはゴールドヒロインの中でも最弱のネズミー系アイドル、『声』(VOICE)的には七草先輩がやるのが筋な気もするが……ってなんだよ。この電波!)

 

内心の葛藤を押し殺しつつ、多くの画や彫刻、退廃的なイメージもあれば宗教画として厳かなものもあるギャラリーを横眼で見ながら、美月の先導に従い辿り着いた所にあったのは―――。

 

「まずはこれ、私達が入学したての頃をイメージして描いたもの。画題(タイトル)は『サクラキミニエム』。です」

 

満開の桜花が散る吹雪の中に、美月の知己の人間たちが歩きだしたり、天を仰いでいる様子。

 

その中で、八枚花弁の校章ではなく『蒼色の花弁』を持っている男だろう人間と、隣に寄り添う金色の乙女とが、逆方向に歩きだしている様子。

 

「成る程。そういうことか」

 

「どういうことだー?」

 

「簡単に言ってしまえば、この入学風景の中で、この二人の男女は『異質』ということを印象づけているんだよ。実際、歩き出しの方向も全員と違うだろう?」

 

「おおー言われてみれば、確かにそうだ。人物を印象づけた風景画に見えて、実は人物画ってことなんだな」

 

だが、そのモチーフに自分とリーナを選ぶ意図は少しだけ分からなかった。

 

現体制に対する反逆児という意味で言うならば、達也組の面子は全員がそうだろうに。

 

校門に素直に入っていく様子がないのがちらほらいるのだから。

 

「そうは言っても、やっぱり一番の反逆者は刹那くんとリーナじゃないですか。討論会での『アレ』が一番の転機になったわけですし」

 

言いながら美月は、次なる一枚絵を見せてきた。そこには、討論と言うよりも裁判所の法廷のごとき絵図があった。

 

「画題は『逆転Winner』。検事『セブンウッズ』でも導き出せぬ『真実』を突きつける逆転裁判の様子です」

 

「トゲ吹き出しに赤字で『異議あり!』とか、美術作品としてどうなんだよ? というか、こんな感じだったか?」

 

「せっちゃんは成歩堂クンだったのか!?」

 

「そんな所ですね。学内では『あかいあくま』と呼ばれるぐらいに、弁舌も達者ですからね」

 

「現代魔法師が舌の根を使わなさすぎなんだよ。言葉は声は、決して、相手を嘲弄したり追従したりするためだけにあるんじゃないんだから」

 

そういう点では、七草先輩も生粋の現代魔法師ということだろうか。

 

いくらある種の表層思考をやり取りできる連中もいるとはいえ、未だに人類の大半は、脳髄に電極を差し込んだり、そういった思考のやり取り―――SFに出てくるようなテレパシー種族に至ってはないのだ。

 

CADは便利なものだが、それゆえに失われたものは多いと刹那は思っている。

 

術式の深度や信仰の欠如などなど、言っていけばキリがないが、端的に言えば口舌を使用しないことで、『根源』から遠ざかっているとも言える。

 

まぁ魔法師がそれを目指す理由も意味も無いのだから、どうでもいい蛇足なのだが……。

 

そして美月の描いた作品は『連作』だったらしく、年中行事の如く、多くのものを思い出させていく。

 

『プリンセス・マナカ』

なぜかあの戦いに出た面子が、フランスの銃士のような格好で立ち向かう姿。

バックには眠り姫のような沙条愛華(ゾンビ女)の姿の更に背景に、わっるい顔をした愛華の顔が―――。

 

『MIX〜CROSS ROAD 風のゆくえ〜』

 

九校戦の様子を映し出したのだろうが、構図としてはバッターボックスに立つ一条将輝。

魔球ならぬ魔弾を手に腕を大きく振りかぶる(ワインドアップ)降谷……ではなく刹那。

それに対して、キャッチャーミットを大きく構える阿部ならぬ達也。そのバチバチの戦いの横に、多くの人間たちの様子。

主にファーストミットを持つレオ。外野から声を掛ける幹比古―――そしてネクストバッターズサークルにいる吉祥寺。

 

浅倉南役なのか、深雪とリーナに愛梨なども描かれている。細かく見ていけば色んな面子がいるのだが……ともあれ。

 

 

ものすごい『抽象絵画』である……。

 

何かを物申したいのだが、何も言えなくなるぐらいに力作なのだ。クララは、『魔法科高校ってスゴイな―』とか感心しているのだもの。

 

周囲にいる人々も感心しすぎである。

 

一高関連行事ではないが、続いては―――。

 

『宙のまにまに』

 

ポップな画風で、九亜や四亜たちが星々の積み木で遊んでいる様子に、ウサギのような宇宙人が見守る様子が描かれており―――。

 

『ロスト・ユニバース』

 

ライトセーバー的な武器を手に、ウサギ型宇宙人を利用するシラクサの数学者に立ち向かう面子の姿が描かれている。

 

普通であれば、これが真実―――ノンフィクションであるとは絶対に分からないだろうが……まぁギャラリーにいる皆さんが。

 

『いい仕事していますねぇ』『正しく心弾ませるものだ』

 

などと言うのだから、それは野暮というものだった。

 

「刹那くんは、どう思います? 私の絵を」

 

「いいんじゃないかな。人の心を弾ませるものは須らく芸術だよ」

 

「色んな意味で『歴史』を破壊していると思いますけど? それでもいいんですか?」

 

旧い価値観で魔導を操る刹那だからこそ、そこにも一家言があると思っていた美月のようだが、その様子に苦笑する。

 

「別に、芸術は貴族・宗教家・権力者だけに寄り添うものじゃないからな。芸術とは、まずその時代の人間の心を震わせるためのものだからさ」

 

ゴッホも、岡本太郎も、あのダ・ヴィンチですら、別に歴史に残る大作や、己が歴代を越えてどこにでも語り継がれる画壇になってやろうなんて思惑があったわけではない。

 

ただの一文、ただ一言、一枚の絵画だけでも誰かの心に残ったならば、それは創作者の『勝利』だ。

 

その一つ一つが誰かの心を震わせた時、美は完成する。

 

誰かの心に残った時に、たとえほんの瞬きであっても、存在したというだけで価値があるのだ。

 

「まっ、偏屈な評論家よりは余程好感が持てる、芸術家で陰謀家のBBAの受け売りだがね」

 

「前に言っていたお婆ちゃんの話でしたか? タバコも酒も控えないとも言っていた」

 

「そっ、イノライ・バリュエレータ・アトロホルムというクソババアだが……まぁ色々と眼を掛けられたかな。

オヤジの素質を見抜いていたフシもあるしね」

 

何の『研鑽』もなく、どんな『心得』を得ずとも、一振りだけで世界を滅ぼす魔剣。それを創造出来る才ある持ち主などと評していた―――。

 

まぁそれはともかくとして、美しいものと言えば目の前にもあった。眼鏡に隠れて見えないが、その美しさは、見るものが見れば見えるものだ。

 

(何か『近い』よな……)

 

誘惑するつもりではないのだろうが、どうにも最近の美月との距離が近い気がする刹那としては、気が気ではない。

 

既知の人間曰く、あの横浜事変のラストでのことの感想を又聞きしていた限りでは、熱に浮かされているだけだろうと思っておくのだった。

 

そして連作のラストは、衝撃的な作品だった。

対立する二つの陣営。大陸と大和が両極にて殴り込みをかけるような構図。

 

キャンバスを二つに割っての構図の作品『進撃の魔法師』の後には―――『無題』の作品があった。

 

「おおー、これセツナか?」

 

「ああ、そうだ……が、美月には『こういう風』に見えたのか?」

 

少しだけ緊張しながらクララの言葉に答えてから、美月に問い掛ける。

 

「みんなは蒼い少女騎士の『影』だけが見えていたそうなんですけど、私には『もうひとり』見えていたんです」

 

まるで幽霊を詳細に見ていましたと言わんばかりの美月の言葉。

 

本当に眼が良すぎると同時に、この構図はアレすぎた。

 

黄金の輝き―――エクスカリバーを振り下ろす和製の鎧甲冑の刹那を真ん中において、左隣には金髪の少女騎士『アルトリア・ペンドラゴン』

 

そして右隣には……白髪に赤外套の男。肌は浅黒い――どことなく『鋼鉄』を想わせる男の姿。

 

三者が三様に、黄金の輝きを手に振り下ろす様子。美月が力を込めて書いたと分かる。

本当に理解できるものだ。構図も練られたものなのだが……。

 

「なんで『親子3代かめ○め波』みたいになってんだか。オヤジ、余計なことすんな」

 

そんな風に『息子』からは悪態を突かれる作品がそこにあったのだった。

美月からタイトルを付けてくれとせがまれた結果、刹那が出したものは―――。

 

『約束された勝利の剣』

 

即採用されて、美術部の展示ギャラリーに大いに活況を齎すのだった。

 

 

 

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