魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
新調したブルートゥースキーボードに難儀している今日この頃。
新話をお送りします。しかし城爪草先生と磨伸先生の同人誌(サンプル)……。
いやぁいい仕事してますねぇ。(え)
「いやー満足、満足。楽しめたぜ―」
「クララは芸術家を志しているのか?」
「そこまではな。このデジタル万能、CG全盛の時代に油画、水彩画で食っていけるとも思えないしな」
アンティークとしての価値などではなく、本当の意味で心を震わせるものであっても絵一つで食っていける芸術家などそうそういない。魔術師以上に世知辛い懐事情というのが、芸術家というものなのかもしれない。
永遠の求道。報われるかどうか分からぬ研鑽という意味では通じるものがある。
少しだけシンパシーを感じながら、学園出店の一つでチリドッグを食っていると、緑とオレンジが学校見学を終えて、こちらに合流してきた。
同時に宇佐美さんもエリカに連れられて、こちらにやってきた様子。
「おつかれー。何だか疲れた様子だな?」
ボディガードをしていたのだろうエリカの様子に対して、新たなチリドッグを注文してやってきた面子に渡す。
「全くよ。宇佐美さん狙いの男どもの多いこと多いこと、アタシには目もくれないとか『色々』と疲れたわよ」
「ごめんね千葉さん。何というか、私の場合どうにも注目を浴びちゃうんだ。西城さん。ううん。レオがいてくれればよかったんだけど」
その言葉を吐いている最中の宇佐美 夕姫の仕草は、『ごめんね千葉さん』のところで手を合わせて小首を傾げながらの片目瞑り。
『何というか』の辺りで頬に両手を合わせて困った様子を表現して、『西城さん』のところから顔を赤くして嬉しそうに口角を綻ばせる様子。
これだけの『モテ仕草』を自然と行えるほどに卓越した『役者』の類であり、感情表現が巧みに行える存在。
顔立ちは、いわゆる深雪のように『滅多にお目にかかれない美少女』に仕上がっており。
服の上からも分かるスリーサイズは『有り得ない』ほど整っている。
まぁ男ならば、どうにかこうにか関心を惹きたくなることは間違いない。真正の『モテカワ』である。
チリドッグを咥えて少しだけ不貞腐れるようなエリカでは、対抗しきれない。
自分のスペックを理解せず持て余している真正の『モテアマ』とは段違いだ。
とはいえ、それだけ整っているとなると一つの可能性を感じる。即ち遺伝子調整……ジーンテクノサイエンスの領域の存在だ。
(美しいということは、それだけで一種の共感呪術。美しいものをみるということは、自らを美しくすることだ。本人の魂や霊性が浄化される感覚。それこそが我々の感じる美しさの正体)
かつてのバリュエの流派の一つ。イゼルマにて行われていた黄金姫と白銀姫にも通じるが、宇佐美 夕姫という少女を見て感じることは、『冒しがたいほどの美』というよりも、まるで取ってくわれんばかりの小動物感である。
正直言って、そういう意味では深雪の方がそこに通じている。
話しかけがたいまでの美という意味があり、美しさとは暴力なのだと気付かされるものは、彼女にこそある。
(そう考えれば、A組の連中というのは、結構命知らずだったのかもしれない)
今更ながらどうでもいいことだが、ちなみに言えば、刹那は深雪以上に美しい人々を見てきた。
この世で一番美しいもの。美しい人とは『母 遠坂凛』以外に有り得ない。
次点か僅差で『アンジェリーナ・クドウ・シールズ』なのだが。
「で、なんでレオがいないんだ?」
「衣装合わせ。ダ・ヴィンチちゃんが、ステージ衣装の最終チェックとかで連れて行っちゃったのよ」
「リーナもそうだよ。ザンネンだったわねー刹那?」
別にそんなこたぁないけど。などと
「レオは何をする予定なの遠坂さん?」
「ミュージックオンザステージ。現代魔法師なんだけど、アイツいい声しているんだよな」
「レオが歌うの!? ぜ、絶対見るよ!! プログラムは最終の方なんだね!?」
興奮しっぱなしの宇佐美さんの様子に、どんなことがあれば、ここまで『夢中』になれるのか……。
というか既に『西城さん』から『レオ』なんて愛称に変わっちゃってるし。
そんな刹那の疑念とは裏腹に――――後日、更に深い接触をクリスマスに行う西城レオンハルトと宇佐美 夕姫なのだが、この時はまだまだ、お互いの顔と名前を一致させて、一方が焦がれている。そんな程度だった。
それが一変することに刹那とリーナ、ついでに言えば達也も関わるのだが、今のところはそんなものであり、刹那の頭では、彼女らの護衛をどうしたものかと思っていると―――。
「ますたぁあああ!!! お酒がのみたいのデース!!」
「キャラがぶれ過ぎた言動をするなー」
怒号と土煙を上げて、過去に生きた英雄というよりも、ネコの使い魔(擬人化)にしか思えぬお虎が、その身体能力をフルに発揮してやってきた。
お虎の格好は、ノースリーブの黒シャツに白いロングスカート。
要は鎧具足を剥いで、白い陣羽織(?)を脱いだ姿である。
この真冬にその格好はどうなんだ。と言いたいこと甚だしいのだが、サーヴァントであり雪深い越後の地にいた景虎からしたら、この2095年の気候など屁のかっぱなのかもしれない。
しかし、周囲の男どもの視線を存分に集めてしまう軍神殿であることは間違いないのだった。
「お虎、ここは一応学生―――昔風に言えば古刹の学寺なんだが」
そんなところで酒を出せるわけがないだろうと言っておく。
かつての直江兼続と上杉景勝とて寺にて学び、そのことが武将としての才覚に繋がったのだから。
茶の湯で我慢できんのかい。と言うも。
「何をおっしゃるマスター、寺といえば般若湯の湧き出る場所。浄域での禁酒なんぞ、平安末期には破られていたのですよ」
とんだ生臭坊主の集団である。ここがヘンだよ戦国時代。
まぁ、戦国の覇者『織田信長』を苦しめたのも、肉食妻帯飲酒オッケーの坊主であったことを思い出す。
なのにこの銀髪は、長いこと河内の坊さんとは相容れなかったのだから、最終的に人の行動を決めるのは感情なのだな。
と思いつつ、マスターの首をぐわんぐわん揺らすお虎に物申しておく。
「お、お前も歌うんだからと言っても聞かないことは分かる。よって景虎。お前が、こっちのラ・フォンの学生さんたちを見事護衛できたならば、一杯『スキル』で飲むことを許可しよう」
スキルって何だ?そういう疑問が全員に発生しながらも、それを満面の笑みで請け負う景虎。
禁酒のせいで、サーヴァントとの関係が悪化するなど前代未聞過ぎる。
「いいでしょう! 未熟な女人を守るのも武士の勤め。我が槍の勲にかけて、万事勤め上げてみせましょう!!」
親指立てての了承で勢い込む景虎に、計画通りとわっるい笑みを浮かべてから、エリカに問題ないだろうと言っておく。
「まぁ宇佐美さんの注目度はスゴイからね。景虎さんもそうだけどさ。今更ながら越後の軍神が、こんな人だなんて……」
「歴史なんてそんなもんだよ。家康の懐広いぜ伝説だって、どこまで信用あるか分かったもんじゃない」
概ね、東照宮にお参りに行くことが多い刹那が言えた義理ではないのだが、歴史などそんなものだ。
アーサー王が『女』という世界からやってきた刹那からすれば、そういう意識なのだ。
だから……。
「う、うさみですか、なんという忌み名。ですが、お酒の為ならば仕方ありません。そして字名は違うと見た!」
などと一人興奮している景虎を見て、駄目だこりゃと想いながら、まだまだ色々と遊び足りない女子グループを送り出すのだった。
「さて、俺はどうしたものかな……」
リーナは衣装合わせ。お虎がやってきたのは先んじて彼女の方が終わったからだろう。
あちこちにいる知り合いの挨拶に適当に声を掛けながら、ゲストに応対しようとした際に……ある人物からすれば、招かれざるゲストを確認した。
「まぁ別に密告する義理も何もないんだが……」
変装してまでやってきた『双子』の『まほう』の全てを解体するのも忍びないが、来るならば堂々と正門・礼門から入ってこい。
……ということで双子に接触をするのだった。
† † † †
最終的にこっそり出ていくとしても、いずれは家令である二人、名倉と竹内にバレるのは間違いないとしても、姉のマルチスコープをどうやって偽装するのかであった。
能動的に発動させられるこの遠視の魔法を偽装するために双子がやったのは、一種の『コバンザメ戦法』であった。
魔法科高校の行事である以上、やってくるものの多くは魔法関係者が多い。
もちろん今回はそれにこだわってはいない。本当にオープンなものだが、やってくる面子の中に、魔法師がいないわけがない。
逆にサイオンを発することない非魔法師に『くっつく』ことでも良かったのだが、二人が見つけたのは10人ほどの塊となっている集団。
銀髪に赤眼の人外の魅力を発する人間を先頭にして歩いていく連中だった。その内の一人は九校戦で姉と死闘を繰り広げた女であったのを思い出したが、その連中がこれ見よがしに放つサイオンの『場』に自然と溶け込むことで、姉の眼を誤魔化した。
「そもそもお姉さまの『マルチスコープ』は、強烈な魔力の勢いの前では弾かれてしまいますからね。
あの幻影旅団のような方々も気づいていたでしょうが、まぁ何も言わずにいてくれたのは僥倖でした」
「けれどその後に、克人さんにちょっかいを掛けたのはいただけないよ。遠坂先輩と何かを『していた』後に、すぐさまだよ。あの女は敵だ!!」
「まぁそれは同意ですが、そもそもお姉さまと克人さんが本当にそういう仲になるかは不確定ですしね」
泉美としては、あまり見当違いな怒りを向けるのも疲れてしまいそうだった。とはいえ、この場合悪いのは克人の方ではないかとも思う。
(あれは九校戦で一高の覇道に土をつけたイリヤ・リズ。お姉さまの出ていない競技でしたから詳しく撮らずにいた、アイスピラーズとミラージで一位を取った人でしたね)
こんなことになっているならば、録画範囲をもう少し多めにしておくのだった。そう想いながら、イカ焼きをぱくついていた双子―――改めて見ると、この第一高校の規模はバカが付くくらいデカイ。
様々な魔法に関する実践から技術開発までやるのだから当然なのだが、そのキャパは3学年合わせても600人。途中退学者を出したとしても500人弱になるだろう生徒と関係者だけでも、十分にお釣りが出てしまうものだ。
「宝の持ち腐れだったんだろうな。けれど、こういうのボクは好きだな。普通の学生じゃないなんて意識でいてばかりだと、何かつまんないよ」
「私達も、別に処女の生血や生肝を食らって力を得ている訳ではないことを示すにはいいですからね。ただやっぱり「まだまだ」はっちゃけが足りませんね」
「照れがあるんだろ。今まで岩石みたいに内外のイメージ通りのことしかしてこなかったからな。中学までは普通の学生だったのに、ここに来た途端に極端すぎるが」
「それもそうかー。まぁ中学の文化祭なんて素人劇をやったり、合唱やったり―――ん?」
「ううん?」
双子の会話にヘンなノイズが入ったことを理解して、双子はお互いに顔を見合わせる。お互いに似たような顔を認識した後に、後ろを振り返ると色々と既知の人間がいた。
騎士風の衣装ながらフードがあるとか
「遠坂先輩!?」
「よう。香澄・泉美。しかし、驚いたな。この格好で俺だと一発で分かるのか?」
「普通の人ならば、その金色の髪で誤魔化されそうでしょうけど、私達はお互いの顔を見比べる時がいつでもありましたので。お久しぶりです、ロード・トオサカ」
驚きの声をあげた香澄に対して、理路整然というほどではないがネタ明かしをする泉美は一礼をしてくる。
その言葉に成る程と思う。眼の錯視や違和感の発見をするために、『視る』という行為は鍛えようと思えば鍛えられるものだ。
一流の外科医が、レントゲンを見ただけで患者の病理を発見出来るのは、彼らが多くのレントゲン写真を見ているからだ。
それは不健康なものは当然で、健康なものの写真を何枚も何十何百、何千何万という数の『身体』を視ることで、一見しては分からぬ違和感を感じ取ることが出来ると聞く。
(もっとも、既にこの時代の医療技術はレントゲン写真一つとってもかなりの精度を持って、患者の病巣を見抜くらしいが)
ロマン先生も、このシステムを利用した上で、多くの患者を死の淵から生き返らせてきたようだが……。
それでも最後に頼りになるのは『己の眼』のみ。最後にシステム頼りになりがちな錯視を補うためには、己の眼を鍛え上げることが必要なのだ。
「お前さん方が、受験戦争真っ只中だってのに、ここに来るということは聞いていたが、いいのかよ?」
「父さんは、首席・次席を取ることを期待しているけれどさ。七宝の連中がなんていうか『煩い』んだよね」
「香澄ちゃんの言う通り、下馬評通りいけば七宝家の琢磨さんが首席に立つでしょうね」
辟易するように頭を掻く香澄の言葉に、大仰な仕草こそないが泉美も同感のようだ。
魔法能力の試験というのが、予備校や模試にあるわけがない。
だが、公にそういうことが出来る訓練場が私設・公設問わず存在しているわけで、特に魔法協会は、この施設の活用を奨励している。
勿論、財力あふれる数字持ちの家では『私設』訓練場を利用することが当たり前だが。
「まぁ別にそこに関しては俺はノータッチだ。入学試験で『色々』あったからな。望む進路が取れるならば、『ごにゃごにゃ』言わんとこう」
「先輩のことは聞いていますよ。舐めた態度で入学試験を受けたってお姉ちゃん言ってましたから」
「ありゃ今の一年の学年主任がわるいんだ。
「気持ちは分かる気はしますね。その学年主任の方の。どうせならば宝石でも出せば良かったのでは?」
こちらの顔を左右から覗き込むような双子。からかうように言われて苦笑せざるを得ない。
もっとも、最初っから『一科』に入れればいいだけ。という想いだったのだから、その言葉に特に痛痒を感じない。
とはいえ、達也が二科にいるならば、二科を糾合してキャピュレット家とモンタギュー家のごとく戦いを起こすルートもあったかもしれない。
そんなわるい考えを察したのか、双子から『やめといてください』と言われた。
「まぁ七草先輩も本気で止めようとはしていなかっただろうからな。というかお前らはギアス程度では止められない」
「いや、アレは本気だった! ボクたちが、この校舎内で魔法を使用すると思って、混乱の芽を潰そうとしたんだ」
混乱の芽になるつもりなのかよ。香澄に思うも、まぁそれは否定できないわけで、その前に自分が見つけたわけである。
「お前のことだから、十文字先輩にちょっかいを掛ける四高のイリヤ先輩に、蹴りでも叩き込むつもりだったろ。仮面ライダーアマゾンズのように」
「なんでそのチョイスなんでしょうか? せめてもっと蹴り主体のライダーにしてください。キックホッパーのように」
「ボク、そんなことしないもん!! パンチは入れるかも知れないけど!!」
そっちかよと想いツッコミながら、監視員だとして双子の後ろにいた刹那だが……。
ヘンな魔力の『匂い』を感じる。別に放っておいてもいいんかもしれないが、何事にも万が一ということはあり得るのだ。
セントラルヒーティングが効いている校舎ではないが、校庭や広場などが特別寒いようにも出来ていない。
暖気循環システムが効いてきたことを確認してから、それらがあまり効いていない場所に赴くことにする。
「校舎裏とかなんかワクワクしますね」
「一応、俺とリーナのイチャラブスポットなんだがな」
「ナニをやってるのさ!?」
「みなまで言わせんなよ……」
刹那の言葉にボッと一瞬で真っ赤になる双子だが―――もちろん真っ赤な嘘である。
とはいえ、こういう監視があまりされていない場所というのは、何かしらのあくどいことにも使われかねない。
定期的な巡回や一種の監視は行っているのだが……。
「ワザワザ『魔法』を使っているってことは、疚しいことしていますよってことだからな」
「なんだろね泉美?」
「なんであろうと面白そうですね香澄ちゃん」
追い返そうかなと想いつつも、ここでゴネられてもあれなので着いてこさせる。先程のナンパグループじみた連中が、またぞろということもありえるのだから。
そしてこの時代の最先端を行く第一高校の色々と、『昔』の高校らしくてらしすぎる場所に赴くと―――。
「このリヴァイアサンスーツすごいよぉ! 流石、暴竜タラスクのお母さん!!! 一高のエネルギーは全てもらっている!! サーヴァントユニバース!!!」
『『『『クエックエッーーー♪♪♪』』』』
どこから現れたのかは知らないが、多くの『ペンギン』たちの大合唱を受けながら、ペンギンパーカーを纏う少女が、舞い踊っていた。
香澄は口をあんぐり開けて、驚愕して全身が白くなっていた。
大まかに言えば、呆然であり驚愕したというところか。
反対に泉美は、その少女を見て眼をキラキラさせていた。
もう憧れの存在か天上の女神にでも会ったかのような反応である。
二者二様の反応を示しながら―――最後の一人、刹那は笑いを堪えながら……口を開く。
「上手く変装したつもりだろうが、お前のような深雪がいるか!! 魔術王ゲーティアの手し……ばぶっふぅうう!!!
ダ、ダメだ !! やっぱダメだ!! どうしても笑ってしまう !! ぶははは!! さ、最高すよ深雪さ―――ん!!」
盛大な笑いを上げる刹那。地面を叩いて笑いをこらえようとする様子に『笑顔』で深雪は―――グーパンを連発で叩き込むのだった。
その時の様子を後に七草香澄は、こう語る……。
『いやぁ、確かに遠坂先輩も悪かったとは思うんですけどね。普段の深雪先輩を知っているだけにギャップもひとしおだったんですよ。
ちなみに、あの時の深雪先輩は司波深雪じゃないっす。あれは間柴深雪っす!』(錯乱気味)
死神の如き深雪が落ち着くまで―――残り3分……。
最後のフォントに関しては、分かりにくいかもしれませんが、一路大マゼラン銀河を目指すアレを意識してみましたが、分かりにくいかなー。