魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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前半部分はいつぞや没った場面の再利用。

具体的にはバゼットとの訓練シーンとかそんな辺りをリライトしつつということです。

そして未だに手に入れていないのだが、知ってしまった新事実。

三田先生―――!!! 一年後かぁ(涙)

というわけで新話お送りします。


第185話『カーニバル・ファンタズムⅥ』

 

「げぷっ!!!」

 

 深雪にぶん殴られて、吹っ飛んで意識が飛ぶ。ああ、こりゃ今度こそダメかな。そんな予感の元―――意識が飛んでいき、見えたのは……見覚えある道場。

 これは夢か? それとも死後の世界とは、思い出深いところに行くものなのか?

 

 そんな想いで振り向くと、そこには―――見覚えある人が一人、かなり……訂正、『ちょっとだけ若い』容姿で着ぐるみを着込んでいた。

 もう一人は全然知らないが、自分の魔法の杖ならば、かなり既視感あるのではないかという人が、とんでもなく『エロい衣装』で立っていた。

 

「うかつな選択肢で即BAD END。このばかちんがぁ! と遠坂さんから罵られそうな刹那を助けるセーフティスイッチ。それこそが、このジャガーマン道場であーーーる!!! そして私は道場主であるジャガ村タイガーである!!」

 

「お、押忍! 自分は、ジャガ村師匠の一番弟子であるモーストデンジャラス・ビースト1号。気軽に『りーちゃん』と呼んでください『先輩』!!」

 

 布地が少ない衣装、何かの獣を模したらしきコスチュームから、ぷるんっと弾けるマシュマロに眼を奪われながらも、ツッコミを入れざるを得ない。

 

「紹介された名前から、その愛称が着く要素がどこに!? というか大河おばちゃんも、 バカなことをやってないで、ぶげっ!! 夢か死後の世界のはずなのに超痛い!!」

 

「うろたえるな小僧ーーー!! 時はまさに世紀末、されど正気でいられるなんて運がいいぜYOU!! 」

 

「先輩は、とんだtough boy(たっぽい)ですね師匠。ですが深雪さんの拳で倒れるとは、やはり武器を使った方が良かったのでは?」

 

「それじゃダメだよ、りーちゃん。拳を突き合わせてこそ分かるものもあるんだから、そんな刹那に足りないものは―――うーーん。特に無いかな? そういうゲームじゃないからね。これ」

 

「マルタリリスランテ丸も同然の深雪さんに対する配慮(デリカシー)は欠いていたのでは?」

 

「仕方ないんだよ。刹那は、かわいい子や気に入っている子はいじめたくなっちゃう遠坂人間なんだもの。遠坂さんの血と士郎の血がいい感じでMIXされれば良かったのに、梶くんと雄馬くんのごとく」

 

 何の話だよ。もう何だかツッコむ気力も無くなるほどに頭が痛くなる道場主(既視感あり)と、その弟子のマシュマロ(全く見覚えなし)。

 

 そんな二人から目線を外して見ると、現世への階段を見つける。胡散臭さ八割以上ながらも、こんな所にいつまでもいられない。

 

 そういう想いで、一歩を踏みしめると……。

 

「あれ? 帰っちゃうの刹那? もう少しここにいればいいのに」

 

 気楽な調子で言う大河おばちゃん(ヤング)に言われて、少しだけ立ち止まる。

 

「いいんだよ。あんまり強くなろうとしなくても。理想は尊いとしても、それを行うために自分を捨てることは、遠坂さんも望んでいないんだから」

 

「――――」

 

 背中に掛けられる言葉に、泣いてしまいそうになる。

 

 だが、それは許されないことなのだから……。振り返り甘えたくなるそれを打ち捨てて、それでも……。

 

「大河おばちゃ――――」

 

「ダメですよ先輩!! アナタは、BAD ENDコーナーから出ることを選んだんですから、ジャガ村師匠を見ることは許されません!!」

 

「結局、ここは何なんだよ!? つーか、あんたは、だれ――― うわっ! やわらかっ―――じゃなくて!! くそうっリーナと同格かもしれない胸とか卑怯すぎだろ、わぶっ!!」

 

「はいはい! お帰りはこちらですよ!! では―――頑張ってください。私も応援しています。アナタが幸せを掴むことを――――」

 

 そんな言葉と同時に薄紫色の髪をした少女は笑顔のままに―――刹那を現世への道を戻すのであった……。

 

 † † † †

 

「―――気は済んだか?」

 

 白昼夢のごときヘンな夢から復活すると、腕を組んで引き攣った笑みを浮かべる深雪の姿。

 

「普通に立ち上がっている!! 遠坂先輩は不死身なのか!?」

 

「ああ、別に『聖剣の鞘』を仕込んでいるわけじゃないが、それなりに『自動治癒』の機構は備わっているんだよ」

 

 間柴深雪も一頻り俺を殴って気は済んだようで、息を整えている。

 

 周りにいたペンギンたちも『落ち着け』と言わんばかりに羽をはためかせて、鳴き声を上げている。

 

「言っている意味は分かりにくいですが、納得しておくとして―――ロード、こちらの方は―――」

 

「そもそも! 刹那君が、あんな大笑するから悪いんじゃないですか!! 殴ったことに対して私、謝りませんよ!!」

 

 泉美の言を遮る形で威嚇するように腕を振り上げる深雪が近くに迫る。

 

 荒ぶる鷹のポーズならぬ荒ぶる人鳥(ペンギン)のポーズを取る深雪に、『しーしーどーどー』と落ち着けと言っておく。

 

 顔を真赤にするぐらいならば、そんな格好をしなければいいのに。

 

「いや、考えてみろよ深雪。お前は学内では超絶ブラコンの完璧超人の美少女で、魔法科高校の支配者(フューラー)と想われていて、影ではデーモン閣下の転生体、地上に降り立ったカーズ様とも言われているんだぞ。

 そんなお前が、こんなイロモノすぎる衣装を着て昂揚していたらば、知っている連中は誰だって大笑いするわい」

 

「後半が全然、賞賛・礼賛に聞こえない……」

 

 香澄の呟くようなツッコミを聞きながらも、その事を言われた深雪は少しだけ詰まる。

 

「そ、それはそうかもしれませんね。イメージって大事ですもんね。ちなみに聞きますけど、リーナがこんな格好していたら、どう思います?」

 

「愛しくて愛しくて俺も同じようなペンギンパーカー(ver ペンペン)を着るかな?」

 

「お前も氷人形にしてやろうかー!!!」

 

 デーモン深雪閣下のエターナルフォースブリザード(局所)をいなしてから、なんでそんな『霊衣』を着込んでいるのかを聞くことにする。

 

 いい加減、事情を聞いといた方が話が進む。何より先程から親の仇を視るかのようにしている泉美がイタすぎたのだから。

 

「そうですね。奇しくもこんな摩訶不思議アドベンチャーな現象を起こした衣装の発端は、アナタの専門でしょうからね。聞いてもらいましょう。では回想スタート。

 ホワンホワンホワンミユミユ〜〜〜」

 

 深雪の頭から煙のようなものが出てくる様子を幻視しながら、彼女からことの発端を聞くことになる。

 

 

 † † † †

 

 ハロウィン・パーティーの開始まで一週間と迫り、平日の放課後。休日の登校も費やしている現在において、衣装を作れるのは今日ぐらいだろう。

 

 パーティー前の最後の日曜日。これを利用して仮装衣装を仕立てるのだ。首尾よく兄を『ひん剝いて』寸法を手に入れた深雪は、意気揚々と馴染みのブティックに向かった。

 

 大きな袋。いわゆる衣装の生地に糸にと様々なものを入れたものを持っていた深雪は、誰にも邪魔されたくない思いを発しながら向かっていた。

 

 もちろん、美少女が一人で歩いていたらば声を掛けたくなるのが男の性というもので、そんなある種『鬼気迫る』深雪に声を掛けて、あえなく辛辣な言葉のオンパレードで轟沈をする。

 

 彼が浮上してくる時にはドM属性の深海棲艦(♂)になっているだろうが、まぁそんなことは深雪には関係がない。

 

 いざ、兄と自分の衣装を仕立てるべく進撃するのみだった。

 

 

「こんにちは、頼んでおりましたものですが、店長さんいらっしゃいますか?」

「おや深雪ちゃん。いらっしゃい。要件は窺っていますよ」

 

 ブティックの門を潜ると、思案顔で端末を弄る女性が気づいて、こちらに顔を向けながら声を掛けてくれた。

 

 ブティックには彼女以外のスタッフはいない。昔からの顔なじみで、更に言えば、この女性は四葉の息がかかった人物なのだ。

 

 だから深雪もここでは安心して買い物ができる。

 

 最近では、この手の偏執的なまでの隠蔽工作が逆に疑念を抱かせるんじゃないか? と四葉家中・一門衆全員が気づき始めたが、まぁそれでも、芸能人の髪の毛を『売り捌く美容室』が噂に上る時代もあったのだ。

 

 何から探られるかは分からない。特にここまでの情報化社会となると―――どこから情報が漏れるかは分からない。

 

「テーラーマシンの使用ですね。場所は分かりますか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 

 多腕式の自動工作機械たるそれの巨大さは、家庭用のものであってもスペースは取るわけで、こういった専門ショップともなると奥のスペースなのだが――――。

 

「ふぅむ…………」

 

「……」

 

 何となく今日は、思案顔の店長が気になってしまった。本当ならば、早速兄と自分の衣装を仕立てて細かなフィッティングをしなければならないのだが……。

 

 端末を前にして考え事をしている原因を聞くことに。

 

「ああ、ごめんなさい。お客様が来ているのに、こんな顔をしていては接客業失格ですね」

 

「いえ、お構いなく。ですが、店長さんが悩んでいることは知りたいですね」

 

 ここは深雪及び母である深夜も安心して買い物をしていた店なのだ。思い出がある場所の主がこんな顔をしていれば、解決してあげたくなるのが人情というものだ。

 

 観念したのか店長は口を開いて、原因を話してくれた。

 

 ことの発端は、この店の端末にある衣装のアップデートをした時のことだ。

 衣装のアップデート……即ち、ここで深雪と同じくテーラーマシンを使って何かの衣装を作る人間のためのデフォルトの衣装の登録は月に一回。

 

 時には、大人気のVRゲームやライトノベルのキャラなど、2090年代の日本でもある流行り廃りの速さ次第で、店舗も様々な変化が求められるのだ。

 

 最近では葉桜ロマンティックのアニメ化と、SAOの第54期が放送されたことによる変化が起こったぐらいだろう。

 

 それはともかくとして、店長はそれらのアップデートと同時に送られてきた『不可解な衣装』が気になっていたのだそうだ。

 

「私も客商売を生業としている身。若者の流行りには敏感にアンテナを立てているつもりですが……この『ペンギンパーカー』には、本当に見覚えがないのですよね」

 

 そして簡易端末の画面をくるっと向けてきた深雪の眼に入ってきたのは、確かにペンギンパーカーであった。

 

 フードにつぶらな眼を描き、バイザーをクチバシに見立てて、必要以上にだぼついた袖がペンギンの翼腕に見立てられていた。

 白と黒と黄色でのみ構成された身体に、アクセントとしてなのか蒼いバタフライリボンがフードの側面に着けられている。

 

 なんてイロモノ極まる衣装であり、この真冬の時期に着るものでもないことが、事更に不可解さを招いていた。

 ペンギンがいくら南極に住んでいるからといって、この衣装では寒さも凌げまい。

 オマケにペンギンなのに『リヴァイアサンスーツ』という名称なのだ。

 

「私も見たことはないですね。どんなフィクション作品の衣装なんでしょうか?」

 

「達也様ならば、ああ失礼。深雪ちゃんのお兄さんならば、分かるかと思ったんだけどね」

 

 四葉としての敬称と荷物持ちをしてくれていた少年の姿を覚えてくれていた店長に苦笑しながら、更に話を伺うと頼んでもいないのに既に素材も注文されていたらしい。

 

「不正アクセスでは?」

 

「だとしたらば、そのハッカーはヘンな人間ですね。だってお金は既に支払い済みなんですから、不利益といえば精々在庫を圧迫するぐらいですし」

 

 何とも不可解な事態。しかし―――その女店長は気づいてしまった。

 

 そう言いながらも、深雪の眼は『がっつり』そのペンギンスーツに向けられていることに。

 

「…………ペンギンなのにリヴァイアサンですか……」

 

「み、深雪様?」

 

 四葉の家中に詳しくないとは言え、彼女の親のことも既知であった店長は、そういった敬称で気付けを行いたかったのだが、彼女は視線を端末から外さなかった。

 

 そして言ってのけた。

 

「店長さん! その素材から衣装インストールまで、私買います!! せっかくのお気に入りの店に不利益を醸すのは心苦しいですから!!」

 

「えええ―――!! これを作るんですか!?」

 

 普通のパーカーよりも『コスプレ感』ありすぎるものを作ると言って聞かない深雪に、ご乱心めされたか? と言いたいのだが、もはや深雪は止まらなかった。

 

 すぐさま己の端末を操り決済をしてきたことで、もはや店長としては、素材を渡さざるを得ない。

 

「では今度こそ、機械をお借りしますね♪」

 

 そうして店の奥に引っ込んだ深雪を見送ることしか出来なくなる店長。

 

 深雪が向かった先には、テーラーマシンの最上位機種たる12本のアームを備えたものがあった。別名『阿修羅弌霧銀』

 

 作業台の上に布地をセット。デザインエディターを立ち上げる。

 

 データをマシンに読み込ませる。

 

 兄のハロウィン衣装。深雪の衣装―――そして。

 

「どこの誰のデザインであるかはわかりませんが、この衣装、私の心の琴線に触れました。

 作り上げてみせましょう!! リヴァイアサンスーツverメルトリリス!!!」

 

 そして衣装は仕立て上げられていく。12本の腕が動き3着の衣装を作り上げるまで、時間は然程かからなかった……。

 

 ・

 ・

 ・

 

「といったことがありまして、女神と天使のような衣装でいると注目度がすごすぎましてね。B組の後藤君を見て、持ってきたこちらを機を見て着たらば―――」

 

「クエックエッ」

 

「キューキュー」

 

「ギエピー!」

 

 などと嘶きを上げるペンギンの群れが召喚されたということらしい。最後の一羽は違うような気がするが、まぁとりあえず危害があるわけではないようだ。

 

 しかし……。

 

「よくそんな謎な衣装を作ろうと思ったな。ちなみに言えば、その衣装は一種の魔術礼装『霊衣』というものになっているぞ」

 

「や、やっぱりそうだったんですね。なんてことなのかしら……けれどこのペンギンパーカーは、いいものなんですよね」

 

 偶然か意図してか、いや意図されたものなのだろうが、裁縫の糸の配置、縦糸と横糸の配置から偶然できた図形が『魔法陣』となってしまっていた。

 

 確かに時に縁起や霊相、地脈の関係で意図しない『霊障』が起こることはありえるのだが、そういうのは土地のセカンドオーナーが事前にコンサルタントとして色々やっているものだ。

 

 事実、大地主であった祖父・時臣は宝石商という表向きの職業の他に、経営コンサルタントとして土地を貸し出している商業施設に赴いては、さりげなくそういう風な災いを防いでいたそうな。

 

 もっとも後に母の後見人となった神父が杜撰な管理をしていたせいか、母の代ではかなりの実入りが減ったとかなんとか。

 

「とはいえ、封印するには強力すぎるな。この魔法陣」

 

「そんなものがあるんですか? ボクには見えないんだけど」

 

「よく目を凝らせば見えるよ。頭のつぶらな眼から背中に入る形でな。六芒星に繋がる糸筋が見える」

 

 香澄は『失礼します』と言ってから深雪の背後に回って、眼筋に魔力を込めて見抜いたことで「おおっ」と感嘆の声を挙げていた。

 

「好奇心旺盛なお嬢さんね……で、刹那君。この子たちは一体……」

 

 戸惑い気味な深雪の言葉に対して、ここぞとばかりに深雪の前に躍り出るコートを羽織った泉美。

 

 その眼は先程よりもきらめいている。

 

「七草家の一員である七草泉美です! あの深雪先輩、いえ深雪お姉さまと呼ばせてもらってもいいえしょうか! いえゴッデス深雪、ヴィナス深雪様と呼ばせてもらってもかまわないぐらいです!!」

 

 手を組み合わせて、深雪を憧れの眼で見てきたことで流石の深雪も引き気味である。

 

 確かに彼女は、多くの同級生から畏怖や畏敬の念、憧憬の目線で見られることが多いが、純粋に思慕の念で見るものはいない。

 寧ろ彼女の方こそ思慕の念を以て魔王長官総統閣下(刹那命名)を慕っているので、そうなるとは予想外だったのだろう。

 

 魔王元帥陛下長官(リーナ命名)曰く、深雪は同性からの評価は高いのだが、それでも『肌が雪女みたい』などと言われることもあるほどに、まぁ純粋に慕われたということはないそうだ。

 そんなわけで、そういう風に見てくる泉美に純粋に戸惑い気味である。一昔前の格式高い女学校の上級生と下級生のごとき関係であり、百合の花の匂いが何故か鼻を突くのだった。

 

「え、ええと。とりあえず七草さ『泉美と呼んでください。深雪先輩の知る七草は3人はいるんですから』―――そ、そうね……」

 

 正確に言えば深雪も御当主の若かりし頃のことを知って、彼女らの父親とのことも聞き及んでいるそうだ。

 

(こんな風に叔母様もアタックを受けたのかしら?)

 

(さぁ?けれど、であればまた『違った未来』だったんじゃないの?)

 

 考えるに、場合によっては眼の前の双子や前会長も存在していなかったかも知れないのだ。

 深雪からの短波の念話を受けて答えながら、とりあえずどうしたものかと思う。

 

「とりあえず何か疚しいことをしていたわけではないが、こいつらをどうしたものかと思う。ペンギンと双子」

 

「倒置法でペンギンと同列に扱われた!?」

 

『『『キュピーキュー』』』

 

 落ち込むなよブラザー(女だけど)と言わんばかりに、慰労のつもりか香澄をポンポン叩くペンギンたちのシュールな絵面を見つつ、とりあえずペンギンを『帰還』(リターン)させるように深雪に言うが……。

 

「やろうと思えば出来るんですけど、お兄様に『生魚』を調達してもらうように頼んでしまったもので」

 

「さっきから見えないわけだ」

 

 こんな状況になっても妹の前に現れない理由がようやく知れた瞬間だったが、状況は好転していない。

 

 というわけで―――。

 

「まぁとりあえず変装してはいるわけだし。ほれサングラス、俺もそろそろピザの方にいかなきゃならないんだが、お前を放っておくわけにもいかんしな」

 

「流石は男前のロード・トオサカ、いえ刹那先輩。お姉さまのために尽力するとはGJですね」

 

「お姉さまって―――泉美さん。とりあえずアナタのお姉さんを私は良く知っています。家族であるアナタの方が、更に知っていると思いますけど―――。

 自分という『姉』がいるというのに赤の他人を姉と慕うのは、先輩からすればあまり気持ちがいいものではないと思いますよ」

 

 突き放すような深雪の一言、それに対してうぐっと少しだけ呻く泉美。九校戦で見知った深雪は女神のようだったと礼賛する泉美は少しだけ落ち込むも……。

 

「た、たしか深雪先輩は、今年度の入学総代を勤めたとお聞きしております……」

 

「ええ。ただ私がトップを取れたのは、その時だけ―――中間や期末では、遠坂刹那に実技で頭を押さえつけられている状況です」

 

 なんの話であったかは分からぬが、それでもそれを確認した泉美が『笑み』を浮かべるのを刹那は見逃さなかったが、それ以上に恨みがましい眼を少しだけ向けてくる深雪に、舌を出して意趣返し。

 入学時は色々と特殊な状況だった。だが刹那の身には遠坂家二百年以上もの研鑽が詰まっているのだ。

 

 言っては何だが『ぽっと出』の半世紀程度の家系に負けるようでは遠坂の名折れである。

 何よりエルメロイレッスンの為にも、学業は疎かにしていないということを示さなければならない。

 

 元々の世界での研鑽も含まれているが、最終的には―――俺も遠坂人間ということだった。親父は泣いてもいいと思う。

 

 大きめのサングラスを掛けて、変装を完了させた深雪を見てから―――この双子はどうしたものかと思っていると……。

 

「よし! こっちも準備は万端ですよ!!」

 

「香澄ちゃん……その衣装はなんですか?」

 

「これ? さっき司波先輩が間柴深雪(?)になって、遠坂先輩を殴っていた時にどこからか現れたんだよね。

 これって『大昔』の女子用の体操服『紺のブルマー』と『蒼ジャージ』ってやつだとおもうんだけど」

 

 さっきの深雪の話(四葉云々はぼかし)を聞いていたというのに、この子は―――だが、喜色満面で着込んだ衣服を見せつける七草香澄のジャージの名札に『FUJIMURA』と書かれているのを見て―――。

 

(まさか、な……)

 

 と心底の苦笑を浮かべるしかなく、ジャージの背中に『○』という囲いに『虎』と書いてあるのは全力で見逃すことにするのだった……。

 


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