魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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新イベントの発表。

なんでこんなピンポイントにとある作家大喜びのことをやっちゃうかな。

いやまぁ私も嬉しいですけどね。CEOは持っていますから。

短いですが新話、お送りさせていただきます。


第190話『Carnival Phantasm-Ⅲ』

 地下劇場。そうとしかいえない『場』に変更された上での砂嵐の踊りと歌声に対して、黄色い声援があちこちから届く。うるさいぐらいに

 

 無機質な灰色と黒で構成された『場』。その最前で砂嵐は芸を見せて、その奥……『魔王の玉座』としか言えない場所にはホログラフと作業用アンドロイドを複合して作られたオーケストラが演奏を奏でていた。

 もちろん実際に演奏しているわけではないのだが、それでもそういう演出が、彼らを魅力的に見せていた。

 

 バックオーケストラと前面の砂嵐と……全員が黒系統の衣装。曲もどちらかといえば、悪を犯してでも全ての咎に鉄槌を、仇を討つ……けれど、平穏な日々に戻りたいという願いがどうしても残る……。

 

(復讐鬼として、自らがどうなってもいいから恨みを晴らしたい。けれど、その為に泣く人々や自分を愛してくれた人の願いまで踏みにじりたくない)

 

 ピカレスクロマンの真髄というのは、『そこ』にある。

 アレクサンドル・デュマが著した『巌窟王』とて、どうしても全てを復讐に傾けようとしても人間性を捨てきれない復讐者であるエドモン・ダンテス。

 

 かつての恋人にして仇と結婚したメルセデス、仇の一人によって不幸に見舞われた亡国の少女エデ……。

 多くの人間の労る視線に、どうしても復讐をすることに何の悔いも残さずというわけにはいかなかったのだ。

 

 ……そんな刹那の述懐などお構いなしにイケメン五人衆の幻惑するような動きのダンスは妖しげなセクシーさを醸し出す。

 マイムを応用したような動きも、それに一役買っている。買っているのだが……。

 

「なんでアイツ『マサキ』なのに『アイバ』くんのポジションじゃないんだよ」

「もしくは『オオノ』くんのところが適切なんですけどね。なぜか『マツジュン』ポジション……というのは、我が校の一条親衛隊が求めたことなんですよ」

 

 舞台袖で次の出演を待つ愛梨と共に話すに、キックロールをする将輝に対して感想を述べた。

 

 三高エレガント・ファイブがこんな芸をやっている背景には、間近に迫るフェアウェルパーティー……俗な言葉で言えば『追い出しコンパ』の際の、三年を送別するための芸事が必要だという意見が出てきたからだ。

 

『戦国時代の武士も宴会を盛り上げるために一発芸を何かしら持っていたんだ。

 戦場で敵の御首級(くび)を取ることだけが、出世の道じゃなかったんだよ。

 さらに言えば、一高の遠坂みたいにお前たちに特級厨師レベルの料理人力を求めたとしても無理だからこそ―――』

 

 前田千鶴の字名通りに『鶴の一声』で決まったことに、2020年を境に一度は休止したアイドルグループの曲とダンスの完コピを命じられたのだ。

 

 食戟のマサキになれなかった一条君にちょっとだけ同情しつつ、その中に愛梨も含まれていることに今更だが意外な思いだ。

 

「そんなに意外ですか?」

 

「こういう大道芸(ジャグリング)みたいなのを嫌っていそうだったからな。ついでに言えば後ろから『本物』が出てくる『ものまね紅白歌合戦』的すぎるから」

 

「べ、別にそこまで私、カタイ人間じゃありませんよ。ただ本物に迫ろうとする気迫もなく、相手の上澄みだけを追う行為が嫌いなんです」

 

 

 意外な答えに驚くも、それを表情に出さず『分かったよ』と言っておく。

 憤慨している一色愛梨だが、緊張はないようだ。流石にマジックフェンシング競技の全国区。

 

 こういった大舞台での度胸はあるようだ。

 

「水尾先輩や倉沢さんなど三年生が快く卒業するために、鍛え続けてきた私のエンジェルボイス――――」

 

『イイ男たちの熱気あふれるダンスに婦女子の皆々酔いしれただろう!! 今一度、大きな拍手と―――』

 

『『『『『来客の皆さん。今宵は僕たちの魔法の声を思い出して、心地よい眠りに身体を預けてくださいね』』』』』

 

 サービスたっぷりすぎる砂嵐の最後の殺し文句に、一きわ大きな黄色い声援が飛ぶ。キャーキャーという言葉の大きさに圧倒されて、そして出番だとして注意をしようと愛梨に近づいたのが仇となり―――。

 

「今は―――アナタの為だけに歌い上げます―――私の愛しのロジェロ―――」

 

 舞台袖を見ていた愛梨が振り返り、気付けをしようとして手を伸ばしていた刹那の懐中に入り込まれる。

 

 制止することも出来ずに、そのままに少しだけの背伸び。朱いハイヒールを履いていたことで容易に刹那の唇に触れてきたのだ。

 

 横で作業していた演出組が呆然とするぐらいに、いきなりなイレギュラーキスの場面。

 

 ……触れてきた唇の熱さと痺れるような甘さが、刹那の総身を駆け抜ける。

 

『では!! 次にやってくるのは再びのディーヴァの歌声!!

 乙女の心意気を見せます!! 即ち女意気!! その歌声にはゼウスも魅了されよう!!

 赤き稲妻が世界を貫く『エクレール・アイリ』の登場だぁああああ!!!!!』

 

 大スクリーンで、可愛すぎて美しすぎる『ご尊顔』をどどんと見せているネロだが、そんな顔が、顔を赤くして眼を閉じながら刹那の間近にあったのだ。

 

 しかもマウストゥマウスは継続中―――が終わり、反論とかこちらの動揺を出させないように早足でステージへと向かう愛梨の後ろ姿を見送ることしか出来なかった……。

 

「自分の担当アイドルに手を出すってPとしてどうなのよ?」

「俺から手を出したわけじゃないのに……」

 

 意地の悪い笑みを浮かべながら魔女コスの平河(妹)が『イーヒッヒッヒ!』といわんばかりに言ってきたのに、そんなことしか言えなかった。

 

 頭を掻いてから赤面したのを誤魔化しつつ、将輝たちエレガント・ファイブにタオルを差し出して、『周囲の状況』はどうなっているのかを、それとなく達也に聞いておく―――どこにでも『不逞の輩』というのは現れるものなのだから……。

 

 

 † † † †

 

 

『カラフルな純情―――咲き乱れてくぅ――♪ ダイスキなんてアリガトウ! わたしも ずっと 『スキ』だよ♪♪』

 

 ヴァーチャルアイドルよろしく着こなした衣装で歌い上げるエクレール・アイリの姿に観客はヒートアップだ。

 一般の人でも『知っている選曲』に、一般の人でも『知っている魔法師』の登場が色々なものを集めるのだろう。

 

 国営放送でも準決・決勝戦を放送するぐらいには、マジックフェンシングこと『リーブル・エペ』は、一般的な『魔法競技』だ。

 剣道に魔法を組み合わせた魔法剣術が未だに一般化されていないのは、それが国防の要にもなっているからであり、その上であまりにも早く動きすぎてカメラでも追い切れないという点があるからだ。

 

 そもそも日本の魔法剣術の要が、そういった風に衆目に晒すことを嫌っているので、スポーツ競技としての魔法剣術は一般的ではないのだ。

 その観点で言えば、一色愛梨はかなりの有名人だった。

 

 

「私も若ければ、あのステージで歌っていたのに……けれど一色さんの姿は昔の私を見てるようだわ」

 

「「「何十年前の話だっけ?」」」

 

「そんな昔じゃないわよ!!」

 

 

 観客席にいる妙齢女子軍団。通称「グータンヌーボ会」(命名・刹那)は、寝言を抜かしやがる藤林響子にツッコミを入れてから、歌い続ける一色愛梨に集中する。

 

「まぁキョウコの年齢を抜いたとしても、あの赤い皇帝陛下とミス・アイリの声は「アナタ達」に似ていますよね」

 

「私にあんな胸元開いた服を着ろと!?」

「私にあんなヒナギクライブ衣装を着ろと!?」

 

 小野遥と藤林響子がシルヴィアの言動に驚愕をして問い返す。

 

 名指しされたわけではないのに一発で分かるとは、まぁ余程耳が悪いものでもなければ、声音が似ていることは分かる。

 超絶ロボットクロスオーバーものでは、様式美となったものだ。

 

 まぁそんなことはともかくとして、誰も別に着ろとは言っていない。年齢的にもキビシイことぐらいは、シルヴィアもミアも「よーーーく」理解(わか)っている。

 そんなわけで、話題はあの「赤い服のアーサー」に似た美少女は誰なのか? ということだ。

 

 シルヴィアとミアは理解しているが、あの時……刹那の隣に現れたアーサーは、厳密には「アーサー」ではない。

 

 だが、ダ・ヴィンチ=オニキスの説明によれば、いわゆる「アルトリアの顔」をした英雄というのは、かなりの「人数」が確認されているという恐ろしい話をされた。

 

『アレに関しては私の元・職場が『特殊』だったからかもしれないのだがね。

 ともあれアルトリアに似た顔が多いというのは、アーサー王伝説には数々の伝説・神話・伝承などなどが混合されているからだ。

 地域も時代も違う様々な神話英雄伝説(マイソロジー)が似たようなものになるのは、これら全てが「 」という原初の場所から流れたものを読みとったからともいえる』

 

 英雄の伝説は時代が経てば経つほどに様々なものが付属していく。だが、その『信仰』こそが、サーヴァントという人類史の影法師に様々な『色』を着けていくともえいる。

 

 そのパターンで言えばネロ・クラウディウスというローマ皇帝こそがアーサー王伝説の端緒となったからだ……という理屈じみた説明をしていても、うんうん唸るのは、その説明をしたダ・ヴィンチその人だったりするのだ。

 

 唸る理由は、結局……そういったセオリーだけでは説明が着けられないケースを多々見てきたからだろう。

 

 『創造主』(社 長)の趣味なのかもしれない。というワケワカメな結論を汗を掻きながら言ってきたときには、アビゲイルも困惑気味であった。

 万能の天才を自称して、その歴史的な事実が裏付けされていたレオナルド・ダ・ヴィンチですら思い悩むぐらいには、英霊たちの面貌というのは解明できないものなのかもしれない。

 

 そんな解析よりもミアとしては気になることがあった。

 

 

『―――本日、満開! オ・ト・メ・無限大、見ててね! ―――』

 

 

 歌詞の一番目を歌いきって二番目に移行する際の間奏にて、カンカンにも似たダンスを披露する。

 

 もちろん令嬢ゆえか合わないと思ったのか、足を高くあげたりスカートを翻すようなものは無かった。どちらかといえば、タップダンスにも似ているか。

 

 それを見てから―――何となく顔付近に刹那のサイオンが付着しているようなものが見えたのだった。

 

 それは、リーナがセツナとにゃんついたあとの様子にも似たものだった。

 

 セツナのサイオン……魔力というのは通常の魔法師に比べて濃すぎるのだ。魔術回路という疑似神経回路から精製される魔力は、通常は見えないはずのサイオンの色というものを多くの魔法師に認識させる。

 

 その上でミカエラ・ホンゴウという日系アメリカ人は……。

 

「そうだ! これだ!! リーナ・ロズィーアンとセツナ・ストライダーの物語には、ライバルキャラが必要だったんだ!! 荒廃したマッドマックスじみた世界でも、男どもをかしづかせる女版ラオウのような存在が!!」

 

「「「何の話だ―――!!!!????」」」

 

 勢いよく立ち上がり、エクレール!! というコールをするミア。

 

 いつもどおりのSF小説『パラサイト』を下地にした二次創作のアイデアに着想したのだが、その『着想の原因』に関しては、『気のせい』ということで済ませておくのだった。

 もっともミア以外にも遠目であっても、何かしらのそういうことを洞察出来る存在が、この黄金のステージホールには何人かいるのだから……無駄ごと過ぎた。

 

『―――ゼンブ咲ケ♪ 疾風(かぜ)吹くゴールへ!』

 

 客席から出る口笛を吹くような『Fu~~♪』という合いの手の後に……。

 

『本日、満開! ワ・タ・シ・無限大! 見ててネ―――♪』

 

 歌い上げると同時に白いドレスの少女が、腕をスポットライトの方に掲げた。その何かを掴もうとする所作に誰もが眼を奪われた後には―――彼女に仕組まれていたストロベリーブロンドの偽装が剥がれて金色の女神がステージに存在するのだった。

 

 魔法の作用かホログラフの剥がれなのか、それはオーディエンスたちには分からないだろうが、その神然とした佇まいに、誰もが言葉を一瞬無くす……。

 

 そして溢れ出るような歓声。溜め込まれたことでそれは一際大きなものに聞こえる。

 

 さながらヤカンから吹きこぼれる湯と同時に聞こえる沸騰音といったところだろうか。

 

 その声に後押しされながら一度は袖に戻っていく一色愛梨だが、湧き上がるアンコールの声で戻ってきた。

 

「残酷な天使のテーゼ」がかかるを見てから、『あちらの状況』はどうだろうかと? 響子は気にかけるのだった。

 

 

 




歌詞引用

アニメ『ハヤテのごとく!!』前期EDテーマ『本日、満開ワタシ色!』

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