魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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ちなみに今回の話はタイトルで気付く人もいるかもしれませんが『まほよ』EDのsupercellさんの「星が瞬くこんな夜に」を掛けながら書いたりしていたので、聞きながら読んでくれると少しだけ嬉しいですね。

星が瞬くこんな夜に一人ぼっちがふたり。この辺りがいいかと―――まぁ時間的にはまだ昼間なんですけどね(笑)



第9話『Believe,―――それはまるで魔法のようで』

 落ち着けるだけの場所――――ユタ州の名物とも言える連奇の岩山。いわゆるモニュメントバレーの山頂部の一つにて一息突く。

 

 飛行魔術の連続で、いい加減疲れてしまった。ここでSOSを出して後は、スターズのヘリで帰ればいいだけだろう。

 

 リーナを地面に下して何気なく石砂利が少ないところを見つけてそこに腰を下ろす。久々の地面を感じていると―――何か行動を逡巡しているリーナの姿を見て声を掛ける。

 

 

「座んないの?」

 

「座るわよ―――隣行ってもいい?」

 

「問題ないよ」

 

 

 探るかのようなリーナの言葉。そもそもあんな風に登場してあれこれやっていたとはいえ、未だにケンカしていたのだと気付いたのだろう。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 それに気付いて刹那もまた沈黙。

 

 太陽が燦々と照りつける大地。時代が変わって、小氷期とも言える時代を超えたこの世界においても―――西部開拓の大地の跡は色褪せない。

 

 アレクサンダー・アークトゥルス大尉も、元々の血筋としてはここの管理者のような先住民族(インディアン)出身であり、アレクサンダーというのは『合衆国』式の名前であり、『本来の名前』、部族のメディスンマンより賜りし『真名』があるなどとも言われた。

 

 

『お前たちのようなヒヨコどころかタマゴを戦場に出してのうのうとしていては、戦死した場合に先祖の(スピリット)に合わせる顔が無いのだよ』などと言っては、スターズ行きつけの店で旨くも無い鍋を食う男の言葉を思い出す。

 

 

 自分を罰しているつもりか。などと思いながらも、その男の顔を思い出して―――少しだけ嘆息。

 

 

「―――『余計な見栄を張って失敗するのは若者のうちだけで十分だ』―――」

 

「え?」

 

「そんな風に言う人の言葉を本当の意味で実感したのは、あちらの世界で初任務を請けた時だった。結局、実力の高低だけじゃどうにもならないものを感じたよ。今回のリーナみたいにね」

 

「セツナにも、そんな時が」

 

「最初から10の事柄全てを十全に出来る奴なんざいないよ。失敗して、それで挫折したままじゃ駄目なんだよな。どうにかこうにか立ち上がって積み上げていくしかない」

 

 

 経験を、実践を、自分に足りないものは何なのか? どうしたらば埋められるか。そもそも埋めるべきものなのか。

 

 様々な試行錯誤(トライアンドエラー)の結果。どうにかこうにか『一人前』になるしかない。

 

 

「俺はシリウスの任務はあまりにも極端だと思っている。そもそも基本的に志願制の合衆国軍においては退役までの年月はあれども脱走兵なんていないと思っているんだが、そういったことがある以上、これはどうかと思っていた」

 

 

 無論、それでも任務の過酷さからそういったことを考えるものもいるかもしれないが、そういうのはいち早く上官が気付くものだ。そうでなくても、後方に回すように手配したり、一種の除隊処分を課したり色々あるものだ。

 

 スターダストの人間達が望んでか望まないでか『強化措置』を受けた連中であることも知っているが……それでも兵士を無駄死にさせるなど、20世紀21世紀初頭の合衆国の姿から正直考えられないほどの変節である。

 

 

 魔法師という存在が、ネックなのだろう。人種の坩堝であり、更に言えば様々な人権・民族団体なども存在している国の抱いてしまった闇。

 ともあれ、そういったことは積極的にしたくなかった。

 

 

「だから、私の代わりにそういった任務を?」

 

「捕縛できる魔法師で、裁判の証拠も多く立証できるならば生かすさ。そも犯罪者だから裁判なしで殺してもいい。なんて理屈は独善に従った殺人だ……それでもそれは『尋常の世』の理屈だからな。社会が誰かの殺人を望んだ時に、最終的に避けようのない凶事もあるさ」

 

 

 だからこそ刹那は、そういった存在を殺してきた。一人目の『劉 呑軍』から始まり、この2年間で凡そ40人以上もの外法魔法師(アウトサイダー)を葬り去ってきた。

 

 世界が変わろうと異能を持った者が、ロクでもないことをするのは世の常なのだろうか。

 中には新ソ連や大亜連―――珍しい所ではインド・ペルシア連邦の間者も葬った。

 

 

「……けれど、私は―――あなたにもうそんなことしてほしくない……だってセツナはこの世界に已むを已まれぬ事情があって来たのに、そこでも人殺し稼業をさせるなんて間違ってるわ―――」

 

「日系人たちが、かつてWW2において旧日本軍を相手に戦い、アメリカ人たちに同胞だと―――自分達も合衆国人だと認めさせるために鉄血を用いたんだ……伝統に則っているだけだよ」

 

「それでも―――イヤよ……」

 

 

 パレードを解いて普通の服装になって、それでも存在していたスカートの裾を握りしめて俯くリーナ。

 

 

「リーナ……」

 

「そんな優しい声音使っても懐柔されない、諭されない!! だから―――私も『ワガママ』を通させてもらうんだから!!」

 

 

 大粒の涙をぼろぼろ零しながら顔を上げてこちらを見てきたリーナ。その顔に息がつまり―――どうしようもなく今更になって悪いことをしている気分になった。

 

 

「君のワガママ?」

 

「そうよ! これからあなたの任務の同伴として『絶対』に私を伴わせる。それが条件の一つ―――それと、もう一つ出来るだけ隠し事はしないで……辛いなら―――私によりかかってよ……いつもよりかかっているのが私だけなんて不公平だわ……今日、セツナに頼ってもらえて本当に嬉しかったんだから……」

 

「―――………」

 

 

 その考えは甘えなのかもしれない。だが、心のどこかで自分のパートナーを欲していた。けれども本当に大事にしたくて、そういった荒事に関わらせたくなかった。リーナは本当に好きになってしまった女の子だからだ。

 

 能力の有無ではなく、心から大事にしたかった―――それでも、それは相手を対等にしていなかったのではないかと―――。

 

 

『相手に対する優しさも、場合に『よりけり』だよ。魔術師も魔法師も―――全知全能を気取る。そんなことはないと口先では言うが、本質的にそう思う。なぜならば現実をどうにでも出来る手段を持つからだ―――けれどもね。そんなことは無理なんだよ』

 

「オニキス……」

 

『私を作った魔法使いとて、多角的に『世界』を見れたとしても、世界の滅亡を、人理の行き詰りを見ては絶望していた時もあった―――超越者だからと何も感じずにいることなど無理なんだよ……いや、むしろ超越しているからこそ『普通の人間』になってみたい―――同じ世界で同じ視点で『色彩』を見たいと願う『人間』もいたか……』

 

「私は―――セツナをきっと自分と同じ視点でいる人間だと思っていました……それは間違いなの?」

 

『いいや、間違いじゃないさ―――どこまでいっても刹那は、父親を失い、母親を失い、育ての親を失って……『ひとりで泣いている』。孤児の魔術師(オーフェン)さ。ひとりで生きていくことで、自分が正しいと思いたかった。それだけなんだ……けれどリーナも刹那も、それは違うって分かっているだろ?』

 

 

 お互いに救われた。お互いが救った。

 

 

 だけれど―――相手を想うからこそ明かせない秘密を持ってしまうことが相手との距離を勝手に作る。

 

 

 分かってはいた。けれど―――刹那の運命にリーナを巻き込むことを本当に躊躇していた……。そしてその躊躇を無くす為に再び刹那を捕えるリーナがいた。

 

 

「巻き込みなさいよ!! もう―――アナタとワタシは、運命共同体なのよ。『あの時』から……本当は分かっていたのかもしれないわ。『劉 呑軍』を始末した時のアナタはとても憔悴しきっていたから」

 

「リーナ……」

 

「もう、離れないんだから―――絶対に離さないでよね……愛してるわセツナ。あなたの人生に……私を入れて……」

 

 

 抱きついてきたリーナを拒めないのは、やはり最終的には―――そうだったからだ。関わらずに済んだのかもしれないのに関わってしまったからこそ、運命の皮肉もあるというものだ。

 

 

「―――離さない。リーナが好きだから、愛してしまったから、だから離れないよ」

 

「―――うん……すごく嬉しくて嬉しくて―――ああ、ダメ。本当ににやけてどうしようもなくなる……ミノルやキョウコに言われて、あれだけ色々と外堀を埋めて来たのに……こんな簡単に一緒になれるなんて―――」

 

 

 深く深く抱擁をする二人の少年少女。その幼い愛は―――決して破綻することはない。

 

 

 何故ならば―――二人の前途に困難はあれども、祈りは『未来への福音』で満ちている。

 

 

 無いはずの『眼』で、もしかしたらばあるパーソナリティでは『全てを殺す眼』かもしれないが、カレイドオニキスの『眼』には、それが見えていた。

 

 

(私の役目の『終わり』も近いかもしれない―――そうなれば―――)

 

 

 それは刹那の起源による最後の『喪失』(つぐない)となるはずだ。もはや意思を持たない礼装となりえるはず。

 

 魔女の魔力が喪失した時に、本当の意味で独り立ち出来るはず。

 

 

 そうすれば―――。

 

 

(君のところに行くことになるだろうかね。『エメロード』……)

 

 

 遠くはない未来に対して述懐しながら、オニキスは重なり合う二人を見る。

 

 いつもの抱擁とは違い互いの気持ちを打ち明けて、いやーよかったよかっためでたしめでたし。

 

 

 勝ったッ! 第2部 完!

 

 

 おや……様子がおかしい? ああっ!! こ、これは伝説の『えへへ。キス、しちゃった』の前振りとも取れるシーンだ!

 

 

 安心しろ刹那。君の母も若かりし頃の『平行世界』でこんなことはあった。だから遠慮なくこの動画撮影機能に収められるがいいっ!!

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

『……などなど、そんな風なシリアス一辺倒の後のラブシーンだったというのに、この直後に間が悪くハーディ・ミルファク少尉の操るヘリコプター(CAPC〇N製)が、やってきてシーンは破壊されてしまったわけだよ』

 

「しまったなぁ。もう少し遅く着けば良かったよ。とはいえ皆して『急げ急げ』(HURRY UP)だったからな」

 

「しかし―――なんとも初々しく不器用な二人だ……見ていてヤキモキするぞ」

 

 

 ハーディがおどけて言った後に、バランスが言うことで『上映会』に来ていた面子全員が、肯く始末。

 

 そのぐらい、つい二か月前までの二人は『違った意味』で見ていられなかった。今は『別の意味』で見ていられない面子も多い。独り身には辛い光景だろう。

 

 そんな中、既婚者が泣いているのを見てしまう。

 

 

「で、何で少佐は泣いているんスか?」

 

「いつか私の娘にも、こんな場面が来ると思うと少しばかり涙腺が緩むんだよアルゴル」

 

「そっスか……」

 

 

 既婚の家庭持ちゆえの悩みとは無縁ながらも、いつかはそういう時が来るのだろうかとアルゴルは想いながら、何となく空気が乾いているのを感じた。

 

 ―――待て? 確かこの上映会は二人には内緒で行われていたはず。気付くわけがない―――。

 

 

 なのに―――最後尾の壁に寄り掛る黒髪と金髪のスターズ『最強タッグ』―――誰が呼んだか『グレート・クドウ』と『ダイナマイト・セツナ』のコンビ。

 

 

 通称『ザ・マシンガンズ』が怒りの形相で自分達を見ていた。

 

 

 今にも未知のスタンドを出しそうな『ゴゴゴゴゴゴ』とか言う音は二人のサイオンが、この部屋を揺らしている音だろう。

 

 

 アルゴルが最初に気付き遅れて全員が、後ろを向くと同時に固まる。固まらざるを得ないほどに今の二人には何も言えない。

 

 

「最後に―――」

 

「言い残すことはあるか?」

 

 

 もう手遅れだな。とりあえず動画データだけは二人の結婚式の際に流す為にも死守せねば、シシュ-ッ!!(ビッグ・ジ〇ン風)

 

 だからこそ宥めるための言葉を二人と関わりが多いシルヴィアが口を開いた。二人にとっての姉貴分であれば、きっとこの『怪獣』を『懐柔』できるはず!!

 

 アルゴルだけでなく誰もが、一縷の望みをシルヴィアに託したのだが……。

 

 

「とりあえずリーナ、『避妊』だけはちゃんとするんですよ。特に男であるセツナ君がこういうことは気遣うように、分かりましたね?」

 

 

 そりゃ激発を促す言葉だろうが―――。そうして全員、大した手傷も無く失神させられるだけの『魔法』が放たれて―――動画データは、アビゲイル・ステューアット所有のバックアップデータが使われることとなる。

 

 

 

 † † † †

 

 

 そんな風に騒がしくも暖かく、何より賑やかで誰もが悲壮感一つ持たずに戦うことが出来た日々であった。

 

 

 懐かしく思い出すバランス―――集合写真を一度見て、椅子に深く腰掛けながら、眼を閉じる。

 

 

 シールズがシリウスとなり、セツナがムーンとなっての三年ないし四年間に大きな戦いも経験したのだ。

 

『セカンド・アークティック・ヒドゥン・ウォー』

 

『エンジェルガード・オペレーション』

 

 

『ニューヨーク大決戦―――雷帝殺し(ギガントバスター)

 

 

 思い出すたびに嫌な戦い……とも言い切れないのは何故か? 余裕があったからではない。

 

 『勝利の確信』があったわけではない。

 

 

 ただ……スターズ全体が信頼して戦っていた。魔法師とか魔法師ではない。合衆国人であるか否かでもない……ただそこにはお互いの背中を預けて戦いあえた友人がいたからだろう。

 

 

 戦友となりえたのはきっと……一人の少年のおかげだろう。少年が心から愛した少女もまた戦ったからこそ―――全部隊員たちは『生還』できたのだ。

 

 

 だから―――それだけに頼っていてはいけないのだろう。かつて意思持つ魔法の杖の『意識』が封じられてただの魔法の杖になったように……。

 

 

(ここを『卒業』する時が来たんだよ。セツナ)

 

 

 魔神の一族に対抗していたダーナ神族が魔神に勝利したがゆえに、人の世のために妖精の種族として世界に溶け込んだように―――。旅立つ時が来ただけだ。

 

 

『失礼します。セイエイ・ムーンですが』

 

「ああ、今、ロックを外す。はいりたまえ」

 

 

 そうして電子ロックされていた部屋の中に入ってきた―――もはやあどけない少年の頃の眼差しとは違い青年に近づきつつある男子の顔を見て少しだけバランスは綻ぶも、喜んではいられない。

 

 

「単刀直入に言わせてもらうが、セツナ・トオサカ特務大尉―――貴官との契約を一部変更して新たなる任務に従事してもらう」

 

「―――内容を聞かせてもらっても?」

 

「更に単刀直入に言えば―――君には日本の魔法科高校。あちらの魔法師養成のための高等学校に通ってもらい、そこにて日本が公表していない『戦略級魔法師』を探り当てたうえで、同盟国である日本において我々との『信頼関係回復』をお願いしたい」

 

 

 複雑な任務内容だろう。しかし、これは一種の『人道的措置』であり『高度な政治的判断』を必要とする任務内容だ。

 

 ヒューミント、コミントに優れた人材が必要とされる。何より―――『クローバー』の眼を欺きつつ、『クローバー』の興味を惹く。難しいはずだが……。

 

 

 その上で考えたとしても刹那は最適な人材だろう。ただ問題は――――。

 

 

「了解しました。諸々の事はカノープス少佐ですかね?」

 

「ああ、色々と君にも準備がいるだろうからな。彼に聞きたまえ」

 

「では失礼します……」

 

 

 言いよどむ気配。分かっていた。『何を』言おうとしているのか、『何かを』聞きたがっていたのかを。

 

 

 察していても『言えば』―――甘えになってしまうのだから。

 

 

 そうしてバランスは、新たなる任務を『トオサカ・セツナ』に与えて、極東の地に旅立たせる……。

 

 

 人生とは出会いと別れの連続である……。だから―――違う人間に出会わせなければいけないのだ。

 

 




というわけで、今話でアメリカ編は終り、次話から今作において影も形も出てなかった原作主人公がようやく顔を出してくるかと思います。

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