魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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長らくお待たせして申し訳ありませんでした。

マイクロソフトの陰謀により(え)、夜中ほとんどPCが使えない状態に陥ったほどでして、10への無償アップグレードで当分は様子を見ます。

現在のPCもそこまで新しい型ではないので、ダウンロード版を買うかどうかは、今後次第ですね(笑)

というわけで最新話どうぞ。


第191話『Carnival Phantasm-Ⅳ』

 

『そちらの状況』という響子が気にかける場面において達也は、少しだけの落胆を覚えていた。

 

 流石に『呂』や『周』などとは相性が悪かったのだろうが、ここまでの手並みを見させてもらうと震天将軍という字名も伊達ではないと思うのだった。

 

「劉師傅、そちらはどうですか?」

 

「ああ、今しがた片付いた」

 

 かつての廃工場……。一高を一度は叩きのめした闇の女王とでも言うべき存在が作り上げた『神殿』。

 

 そこに集っていた『大亜のゲリラ』……特殊部隊を十分ほどで熨した劉雲徳は、手を叩きホコリを払ってから拘束された連中を見ながら呟く。

 

「人民軍の兵隊の質も落ちたものだ。私が将校ならば、全員海ならば甲板磨き、陸ならば基地施設のモップ掛けからやり直しだな」

 

 未だに中華の軍隊では、そんな前時代的なことをしているのかと思うも、軍隊というのは時にそういう『上下関係』にうるさい『理不尽な体育会系』なのだ。

 

 そんなことを思いつつ、ここに集った特殊部隊が何をやろうとしていたのかといえば、中華の道術体系と東南アジア系の土着信仰をハイブリッドさせたもので、ここにあった様々な残留思念を『ゾンビ』として使役しようとしたようだ。

 

 儀場に祀られている霊薬やシンボル及び、発動している魔法陣など、刹那が見れば―――。

 

『うわっはぁ♪ 緻密で繊細な喚起儀礼式。しかしながら、これだと面倒くさい想念付きで、術者に従順には従わ無さそうだなぁ』(達也想像)などと言ってきていたかも知れない。

 

 ともあれ『雑事』を終えて、何気なく劉師傅の手を見ると、あの戦いで失われていたはずの片腕が再生を果たしていた。

 

「? ああ、これかい? 宝石太子が『片腕で鉄鍋を振るえんでしょう』とか言って、何かの『球根』のようなものを植えてな。

 機械の義手よりは、まぁ悪くはないだろうな」

 

 意外なことというわけではないが、この時代のサイバネティックス技術というのは、そこまで発達してはいない。

 

 世界的寒冷化という恐怖から資源に対する管理が厳格化されたことと、一種の機械化してまで延命を図るという『無意味』さと『忌避感』を持つ世代とのせめぎ合いで、医療サイバネティックスの方向は『再生治療』の方向に向けられた。

 

 ある種の万能細胞の存在や、魔法師という『遺伝子改良』の人類の誕生が、それらに拍車を掛けた。

 

 特に儒教思想の強い中華大陸では、劉師傅はそういった世代の一人なのだろうと思えた。

 

 山中、柳、真田などがやってきて、捕らえた連中を連行していく様子。それを見ながら、お互いに手持ち無沙汰な劉に達也は問いかける。

 

「……劉師傅……現在の大亜、いや中国大陸はどうなっているんでしょうか?」

 

「それは―――キミの『本家』からの探りかな? 司波達也君」

 

「いえ、私の興味です。場合によっては大量虐殺の主因にもなっていたもんですから」

 

 やらなくて良かったと思う反面。自分が「ダメ押しの一撃」を旧・朝鮮半島、現・大亜細亜連合統治地区に叩き込んでいれば、今の内戦状態も起こらなかったのではないかという、小僧なりの生意気な結論だった。

 

 すっかり日が落ちたことで冷たい風が自分たちを撫でるも、自分たちの間に緊張が走る。

 

 既に戦略級魔法を失っていたとしても、先程見た手際ならば壊し屋、殺し屋としての腕前は落ちていないようだ。

 

 一触即発―――というわけではないが……首筋をお互いに引っ掻くようなそんな様を感じるのだ。

 

 老いたとは言え、戦略級魔法師にして震天将軍の殺し名すら持つ男だ。

 

 知らずに達也も緊張するが……。

 

 劉雲徳は、笑みを浮かべてその気の張りようを霧散させてきた。

 

「そう緊張するな。敵に相対したとしても、目に見えて張り詰めるようでは、忠実な猟犬であらんとしても野良犬と変わらんぞ」

 

「……」

 

「まぁ談笑している相手の顔を笑顔のままに掻き切れるようなタイプよりは、まだいいだろうが……現地との通信状況を鑑みるに、どうやら南北で分断しつつあるらしいな」

 

 そこまでの情報は、政府筋から軍部や『四葉』本家にも降りていたが……。

 

「だが、南北分断の背後で東南アジアも独立の機運を出して、チベット・ウイグル連合が、この混乱に乗じて分離独立を図ろうとしている。

 台湾も、これを機に福建省の一部以上を刈り取ろうと画策しているようだ」

 

「―――」

 

 その情報は、それらよりも踏み込んでいた。何かしらの道術を利用した通信方法があるのだろうが、そして劉師傅は更に踏み込んできた。

 

「呂が王貴人を使役していたところから察するに、『英霊』の『召喚』は、あの地で複数行われたのだろう。でなければ、ここまで組織だった独立活動が行えるわけがない――――」

「サーヴァントを使役しているマスターが中華大陸にいると?」

「あるいは―――『獣』が発現をしたか、だな」

 

 全ては『仮定』に過ぎない。だが、アレほどまでの強固な『結び』でどうにかなっていた国が崩壊する理由や原因は、考えて見るに、ある種の『チート』以外にはない。

 

 火縄銃という『チート兵器』が、鎌倉・室町から続く合戦礼法を過去の遺物としたように、現代魔法では辿り着けない領域。

 

 神秘領域の存在が、物理世界を、苦界を蹂躙しはじめたのだ……。

 

 

 地の底から吹き付けるような冷たい風が―――達也と劉師傅を再び撫でていた。

 

 冷たい風に熱を与えるように、魔法師に対しての戦いの嵐はまた吹き荒れるのだと理解できた……。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 愛梨のプログラムの終了直前に、『どこかの世界』ではマギクスアイドルプロデューサーだかマネージャーだかをやっている達也が舞台袖に帰ってきた。

 

 魔力の波動。流れから察するに、三分前に撤収したらしき達也が、先程まで切った張ったをやっていたなど分かるまい。

 

 敏腕マネージャーよろしく黒スーツにサングラスを掛けた姿に、なりきりすぎだろとツッコミを入れたい気分だ。

 

野暮用(・・・)は済んだかい?」

 

「ああ、問題なくな。一色の二曲目途中に間に合ったのは僥倖だ……が、刹那」

 

「うん?」

 

「口紅ごとキスマークが着いているぞ」

 

 バツの悪い顔をしながら、強引ではないが手の甲で口を拭いておく。

 

 この薄暗い舞台袖においても、それを見抜けた達也の眼力は伊達ではない。まぁ眼を使ったサイオンの流れで見抜いたのだろうが。

 

「やったのは一色か?」

 

「記録映像見る?」

 

「拝見させてもらおう」

 

 普段は技術者として鎬を削っているくせに、なんでこういう時だけはツーカーで言い合えるのか、疑問だらけな平河と達也のやり取り。

 

 そんな平河の近くに居たネコアルク……動物型ロボットである『アニマロイド』が、眼をライトのように輝かせて映像を投影する。

 

「うにゃにゃにゃ。少年の熱い青春時代をプレイバック! プレイバック!! 思わずヤケドしちまうぜ! 眼が焼けるようD☆A☆Z☆E」

 

 どんなエモーショナルエンジンを積んでいるのか分からぬが、多くのメディアに出てくるネコアルクよろしく妙ちきりんな言動と同時に―――薄暗い舞台袖の壁に、ばっちりその瞬間が写し出されていた。

 

 何かこうしてみると映画のワンシーンか、兄弟子たちが時折やっていた恋愛SLGのゲームCGにも見える。

 まぁ俺も時折混ざってやっていたわけだが……そんなふうにも見えるシーンが、舞台袖の人間たちに見られるのだった。

 

 それに嘆息をしてから、刹那は達也に後事を押し付ける。

 

「―――悪いが達也、光井と深雪はお前がマネージメントしたい方がいいだろう。俺は少し休憩する」

 

「損な性格だな。それはお前が言う心の贅肉じゃないか?」

 

「黙っているような不実はしたくないんだよ。そして、黙っていたことを詰られる方が心の贅肉だよ」

 

 背中を見せる刹那の姿に苦笑してしまう。

 

 リーナに黙っていたままにすることが何よりの『無駄事』とする刹那の時折見せる不器用さは、記憶の中で見てきた魔術師の姿とは全くの真逆だ。

 

 ただ、それでは少しばかり一色が可哀想じゃないかな? と思うも、ほのかの想いに応えられない達也が言えた義理ではなかったので、その背中を黙って見送ることにするのだった。

 

 そして戻ってきた一色愛梨は、そこに愛しのセルナがいないことを達也に詰ってきて、どうすりゃ良かったんだと嘆いてしまう結果は変わらない。

 

 

 † † † †

 

「あら? 刹那君、マネージメント作業はいいんですか?」

 

「達也が帰ってきたからな。押し付けてきた」

 

 その言葉にアイドル衣装の光井の眼が輝き、呆れるような半眼で見てくる深雪と対称的すぎた。

 

 深雪は、達也が数分前までかかずらっていた案件に関してを何気なく理解しての話だろうが、光井ほのかは単純に愛しのダビデ王がやってきたとか、そういった程度の感覚だろう。

 

「まぁ君ら二人が達也の翼なんだからな。よろしく頼んだ」

 

 自分を棚に上げといて何ではあるが、トライアングルという図形は宇宙でもっとも強固な図形であり、十字教の教義においても『三位一体』(主、御子、聖霊)などがある。

 光の三原色が混ざれば、その色は白。穢れなき魂の輝きとなりうる。

 

 よって―――、とりあえず行ってよしとするのだった。

 

 三角関係も場合によっては『いいもの』が出来上がるのだろうが、最終的には、この二人次第というところか。

 

 刹那は無理だ。もうリーナとアイリの2人は、アノ頃の実母と小母との関係のプレイバックでしかない。

 

 控室の一つ。リーナがいるところに深雪たちと入れ替わるように入室しようとする前に、ちゃんとノック(音声確認)をしておく。

 

「リーナ、いるか?」

 

「セツナ、入って入って(Come Come)♪」

 

 喜色をのぞかせる声音だが、怒るかな? と思いながらも入室をする。

 

 そこには出番待ちのSAKIMORIならぬお虎フルドレスバージョンと、愛しのエリーならぬドレスアップアンジーがいた。

 

「マスターどうかされましたか? 奥方と粗相をしたいのならば、私は霊体化しておりますのでご随意に」

 

 誰がこんな『本番前』に『本番』をするものかと思いつつも、先程あったことを話す。

 

 話そうとした時には……。

 

「言いたいコトはわかってるワヨ。アイリとキスしたんでしょ?」

 

「見ていたのか?」

 

「……ウン、グーゼンにもね……分かってるわよ、あっちからのイレギュラーだってのは。けどムカつくわ。セツナは気付いていなかっただろうけど、アノ時、バックステージの向こうにいたんだもの」

 

 いじけるようなリーナの声に胸が痛んでしまう。

 

 つまり、愛梨はリーナが刹那の後ろにいることに気づきながらも、キスを十秒ぐらい続けていたのだ。

 その後は、こちらの反論を許さぬようにステージに向かう段取り。とんでもない役者である。

 

「なんで俺みたいなどうしようもない馬の骨にちょっかいを掛けるかね」

 

「自分のアセスメントは、セイカクに出すべきだと思うワ」

 

 椅子に座って髪を梳けといわんばかりにブラシを出してきたリーナ。

 

 別に殊更、反抗することではないので、それをやることにする。いつでもサラッサラの金色の髪。

 いつでもロールを作りながら、解いて髪に指を這わせてもとまることなく、毛先まで梳ける髪に何となく母を思い出す。

 

 ロンドンに来てからは、ツインテールをやめてストレートにしていたという母(父親・談)の髪を弄ることも一種の教導だったが、それ以上に傍目に一通りは完璧な母が、刹那のような未熟者を頼ってくれることが嬉しくて、グレイ姉弟子やイスローさんに聞きにいった程だ。

 

「有り体に言えばマスターは、多くの人を惹き付けやすいのでしょうね。魔性を引き寄せると同時に、妖しさも身に着けるといえばいいのか―――アナタの記憶の中でそういう人いませんでした?」

 

 ちょー居た。(爆)要は、自分は遠野志貴と同じ類なのだった。

 魔術に関わることで人生が狂わされる『尋常の世人』という類だと思っていたが、愛梨はどちらかといえば、そんな自分に関わることを是とする。

 

 言うなれば―――。

 

『セルナァアアアア!! なんで出迎えてくれないんですかぁああ!? アナタの代わりに司波君がいて、絶望した!! 全然違うメンズがいて絶望した!!』

 

 ……やっぱただの諦めの悪い女の子なのかも。

 

 下手すれば地雷になりかねない愛梨との今後の付き合いを考えざるをえない金切り声に対処するべく、ドアの外にリーナと共に出るのだった。

 

 

 Interrude―――

 

 ドアの外に出ていくマスターとその奥方の姿を見ながら、景虎は笑みを浮かべておく。

 だが、その一方で少しの不憫さを一色愛梨なる令嬢にも覚える。

 

 この時代ではない。この時空ではない。されど、『此処』においてランサー=長尾景虎は、『あるマスター』と契約を結び、聖杯に関わる戦いに望んだ。

 マスターは、これまた呼び出された時空の人間ではなかった。擬似的な時間旅行を行い、合縁奇縁の撚り合わせの末に来訪した存在だった。

 

 茶色の髪に、短い履物……ミニスカートという南蛮の衣装を着ている子を、景虎は不憫に思った。

 彼女の運命は場合によっては、不浄の夜魔。物の怪の類の慰みものになることもあり得るのだった。

 

 というよりも、景虎があった時点で、彼女はそういう人外の存在だったのだが……。

 

 ともあれ、景虎は何かと泣いて泣いて、それでも立ち上がっては戦う少女と共に『帝都』を駆け抜けた。

 

 その記憶は座に還った後も景虎の中に残る優しい記憶だった。

 そんな少女の姿を再び見ることになるとは想わなかった―――。

 

『お虎さんは、シオンやリーズさんみたいに頼りになるけど、私だって何かしたいんだよ!! だって私とあなたは―――じゃないですか!!』

 

 その声と言葉を思い出す。そしてマスターの記憶の中にいた遠野志貴という御仁。

 その『知己の一人』は、渡された手紙を見て泣いていた……知己は、景虎も知っている人物だった。

 

 

「あなたの泣き顔をふたたび現世で見ることになるとは思いませんでしたよ――――『さつき』……」

 

 外にいたならば、風に攫われるような言葉を呟くお虎は、今は会えない『友人』を想いながら歌い上げることに決めた。

 

 今宵の風月は、『三日月』―――なんとなく夜魔のものとしては半端な彼女を思い出してしまうのだから――――。

 

 




最期まで読んでいただけた人ならば、なんとなく察するもの。来訪者編における伏線みたいなもんです。

我々は、さっちんが「ファイナルさっちん」として月姫リメイクを駆け回る時まで、信長さんと共に駆け抜けることを誓います!!(え)

というわけで今回はこの辺でしつれいします。

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