魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
しまった。その切り口があったかと目からうろこである。
まぁ当たり前すぎる事実だが、ぐだおこと「藤丸立香」は、凛の男体化イメージだもんな。実をいうとウチの刹那もビジュアルイメージは――――。
そんなわけで次話をどうぞ。
追伸
最近、バトルを書けていないせいか、すごく反動が怖すぎる。レオ短編は暗殺計画の影響でバトルが多めになるかもしれない。
まぁ、web版における話を改定しても宇佐美とレオがにゃんつくだけなのを強化するだけになってしまいそうなんですよね。
―――ほのか、深雪、お前が、お前たちが、オレの翼だ!―――
刹那の入れ知恵なのかもしれないが、それでもその言葉は自分とほのかを高揚させた。
愛しいあの人を思うからこそ、真冬に作られし水上と氷上のプリマは、声を震わせながら人々に熱き舞を披露する。
野暮ったい黒色の衣装……袖が長くて、裾も長い衣装。
ただし『局所的』に露出度が激しいそれは修正された。
『流石に『原典衣装』じゃポリスメンがやってきちゃうからねぇ。槍のような『トゥシューズ』は、キミお得意の氷で作った方がいいだろう。『メルト』もそれを許すだろうさ』
メルトリリスという『人物』は、どんな人物だったのか。衣装から察するに、とんでもなくエロい人だったのではないかと思う。同時になんというかハリネズミのように刺々しさも感じた。
ダ・ヴィンチちゃんより渡された衣装は、それを想起させる……と同時に言い知れぬ『親近感』とでもいうべきものを感じたのだ。
『―――カタチもなくて 痛みもなくて―――ひと掬いの蜜を垂らした―――』
その歌詞が呪文であるかのように、深雪の衣装に変化が現れる。
バレエダンサーとしてのレッスンを『お嬢様教育』の一環として習っている深雪ならではの体幹と同時に切り替わる霊衣再編。
黒色の『みにくいアヒルの子』が、時を経て純白の『白鳥』へとなるかのような衣装の変更に誰もが息を呑む。
『『
観客席の一角で、二昔前のアイドルの追っかけのような衣装をした双子がペンライトを振りながら声を挙げていたのを確認したが、とりあえず気にしないでおいた。
妹に付き合うかたちなのか、やけっぱちも同然な香澄に少しの同情をしつつ、純白のプリマは氷で構成された槍のようなトゥシューズで脅威的な
現在のステージには水が満たされ氷が張ることもある。
深雪の魔法が意識の高揚と同時に発動しているのだが、魔法師ではない観客には、それが演出なのか、それとも魔法であるかはわからない。
だが、そんなことはどうでも良かった。
そこにいたのは女神のような美少女だけだ。それが分かっていればいい。その輝きに心を奪われていればいいだけなのだ。
(嗚呼、サイッコーのステージだわ!生身の肉体でなくとも、心を蹂躙する喜びが私を満たしてくれる!! 私だけが世界のプリマよ!たまらないわ!! エトワール―――アナタも輝きを見せなさい!!)
『誰か』の声が内側で響く。その声はひどく『深雪』に似ていて、己の声なのか、それとも他人の声なのかが判別できなくなる。
だが。
(当然です!! 私こそが世界の美少女!! お兄様の偉業を世に伝える愛の伝道師!! それだけは譲れませんからね!!)
その声は、深雪を持ち上げる。
当然だ。
自分の輝きは兄の魔法の輝きにも通じるのだ。
己が輝くことは―――司波達也の輝きを伝えることなのだから。
深雪の衣装が更に変わる。先程までは氷上のプリマの装い。アイスダンサーのようだったのに、現在は水上のショーダンサーに変わる。
水と氷の響宴が、深雪のステージを彩る。スポットライト以上の観客たちに熱さを伝えていく……。
ステージを華麗に大胆に滑走していく深雪の背中には、今にも飛び立たんという翼が見えるかのようなイメージが全員に焼き付いて―――。
『いつか届くように、 いつか解るように、小さな目印をつけて――――』
『まだ知らぬ 景色の中で』
『蹲って 怯えていても―――』
愛しき人。深雪の蕩けるような愛を捧げるべき人はただ一人、この世界にただ一人の『悲しき人造人間』
だが、その身は確実に悲鳴を上げている。心では泣けない自分をいつでも嘲笑いながら『シカタナイ』と自嘲するくせに―――人間ではない魔術師としての生き方をしながらも、情を持つ刹那を羨ましく思う心があるのだ。
親しい人間が『どこか』に行くたびに、慟哭できる刹那を羨んでいるのだ。
だが、そんな人に自分は寄り添いたい……世界の果てまでもついていく―――。
『どうか 甘く 踊りましょう この世界で……』
切なげな歌声と共に長い間奏が入り、終幕の、結びの一言を天上にいる神々に捧げるかのように吐き出す。
されどそれは兄への聖句としてのものだ。
『私の
この身一つで兄の安寧と兄が開放されるならば―――どこまでも困難を乗り越えてみせようという想いは、正しく観客全員に伝わっていく。
盛大なまでの拍手。割れんばかりの歓声と共に『水色の髪の乙女』は、ご見物全てに手を振りながら、舞台袖に戻っていく。
『溶けるような愛の旋律。そして旋転するかのような舞踏! 全てが規格外すぎた!! しかし、その向ける愛は重すぎて我が母を思い出す……とはいえ、演者が最高のパフォーマンスを見せてくれた後には、余も歌いたくなってきた―――!!』
MCのあまりにも『マズイ』宣言に、皇帝陛下の絶叫兵器(誤字にあらず)を思い出す面々が舞台袖に多くいすぎた。
彼女が戦姫絶唱するとき、世界は砕ける。固有結界と似て非なる大魔術というこの空間において、彼女の力は絶大すぎる。
『皇帝ファンタジー』で、ここいる誰もが意識を『あっちの世界』にはばたかせる前に―――。
『待て待て!! バビロン・マグダレーナ! この会場を『じごくえず』にするつもりか!?』
『むむっ! その声は――――ドコのドナタかな?
なんだか聞き覚えがあるようでないような。ゴエティア的な何かを感じさせるSONATAの名は!?』
『僕の名前などどうでもいいさ。いやまぁともあれ、キミの歌劇に対する想いは分かっているが、今回は、魔法科高校の面々が主役だ。
控えてくれると嬉しいんだが』
『心得た』
『物分り良すぎるな!? TANGE!!』
『仕方あるまい。余は感動に打ち震えている……この人理が極まったとも、腐りかけているともいえる世界。
歌は―――
―――人類も捨てたものではないと、『色んな人々』に伝えるのだ!! 魔法科高校の良心にして、なーんか『どっか』では、壮絶な死を迎えたはずなのに蘇った男。おおっテリブル!!
ともあれその名を叫ぼう『栗井健一』またの名を―――『ドクターロマン』!!! 曲名は『ミトコンドリア』―――!!』
ドクターロマンのファインプレーで、アナザーディメンションへの旅立ちを回避できたことに、刹那、ダ・ヴィンチ、リーナ、リズとが親指を立てる。
「かの情熱の皇帝は、自分が建てた黄金の劇場で自ら歌劇を執り行い、そして退屈なのか席を立つ観客たちを見て―――『余の公演を愛するローマ市民に最後まで見てもらうために―――扉をすべて閉めるのだ!(ニッコリ)』とか言ったらしいからな……つまりは、皇帝陛下は歌唱センスが壊滅的なんだ……」
「そこまで言えば、私にももう理解できました。まさかガーネットのパーソナリティが、暴君ネロだったとは……というかネロ皇帝って女だったんですか?」
「そういう風な『世界』もあるんだろ。ほら、日本って結構『昔』っから英雄とか豪傑を『女体化』する文化が多いし」
2010年代より隆盛を見せつつあった、様々な無機物の擬人化ゲーム。無論、それ以前から『三国志』の英雄を美少女にしたり、それより前には新選組が女なゲームもあったのだ。
日本人特有の『味噌ラーメン』的な思考とでもいえばいいのか、歴史モノも好きだが、美少女が一杯出てくるゲームも好きだ。
しかし、これは両立しない。
歴史物では『信長の野望』というガチガチにかたいゲームが市場にあり、それに類した作品ばかりがメインストリームである。
逆に美少女ゲームは、『絵』は最新に胸キュン出来る『萌え』なものが流行り、『シナリオ』においては泣かせにくるか、恋愛の王道もあれば、陵辱を尽くすものもある……が、どちらにかだけ偏っていても中々に売れない。
ならばどうすればいいのか?
答えは簡単だった。
『英雄たちを『美少女』化した上で、ものすごいシナリオゲームを作ればいい』
味噌汁とラーメンを一緒に食いたいという思いと同列であった。
もちろん、ラーメンに合う味噌と味噌汁の味噌とで違うし、ダシにしたってかなり違う。
だが、要点としてはそういうことなのだ。
「英霊というのは時に、人々の『信仰』によって形作られたものもあるからな。
アイリの血に流れる片方の母国の英雄ナポレオンだって、史実では『太っちょのチビ』っていうのが一次史料で証明されているけど、多くの人が思い浮かべるナポレオンといえば、白馬に跨り皆を先導する姿。
ジャック=ルイ・ダヴィッドの絵画だからな」
「―――『ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト』―――」
「多くの人が信じる可能性の具現であるがゆえに、そういう姿で再生されるんだ……が、まぁ……『誰』が望んだのかは知らないが、ネロ皇帝は女の姿なんだよな……」
在任中は、キリスト教徒だけでなく宗教家を徹底的に弾圧したバビロン・マグダレーナだからこそ、せめて美少女にしたかったというところなのかもしれない。
だが、その施政そのものは民衆から評判が良かった。
彼女の破滅の主因というのは、やはり周囲の環境の悪さゆえとしか言いようがない。
ネガキャンされまくったネロ・クラウディウスの本質とは改革者だったが、その改革が元老院からの多くの反発を生んだともいえる。
教師であり信じていた元老議員たる哲学者セネカの自刃が、彼女の孤独を深めた。
「………何か魔法師にもつながる話ですね」
「正しいことをしていたとしても、その理解者がいなければ容易く滅んじまう。
市民からの絶大な人気があれども、自分と同じ為政者に同志がいなければ、どうしても……『終わり』が早くなるよ。謀略と毒を親族や親しい人間に向け続けていれば、明日は我が身という恐怖を抱かせる」
魔法師は、色んな連中から疎まれたり好かれたり、やっぱり疎まれることが多くても、何かを『共有』しなければ、どこかで『魔法師』は『魔法師だけ』の『居場所』ばかりを求めてしまう。
それはネロ皇帝の孤立にも繋がるものだ。
そんな内心での感想を聞き取ったのか、念話が飛んできた。
―――余は、どうしてもローマ市民たちの愛が理解できなかった……余は彼らを愛した。伯父上……偉大なるカリギュラ帝がいなくなって親しい親類がいなくなった余は、往来にて笑い、怒り、泣くこともある顔が見える市民を愛した―――。
―――だが、それでもその愛が、どうしても市民の『幸福』に繋がらないことを知るべきだったのだな……―――。
―――余は、それでも己の生に悔やんではいない。しかし、余の前で
セネカも、そういう気持ちだったのだな……。―――。
アイリと契約しているからか、その念話は刹那にも聞こえてきて、暴君と言われた人の心が解るのだった。
そうしていると、ロマン先生の演奏が終わりそうであった。
「流石はロマニ、一切のクレイジーさなどない安定的な歌唱だ。全く以て安心して聞けるな」
そんな感想を『ウンウン』と頷きながら言うダ・ヴィンチちゃんだが、一高全員は知っている―――。
ロマン先生が、『個性』を出そうと『安定感』を崩そうとした瞬間に―――。
『もっと―――『普通』でお願いします』
『なんで僕にはクレイジーが来ないんだよ……十文字もキレッキレの見せ場を用意されているのに―――!!』
『だまらっしゃい!! このイロモノ企画を本物に近づけるための演出プランのためにも、ロマニ、キミには『監獄学園』のシンゴのごとき普通さでいってもらうぞ!! ほら、ビタミンMを飲んで普通になれ!!』
『どういう理屈!?』
一番演出家であるダ・ヴィンチとやりあったのが、教師枠である栗井先生であることが印象的な限りであったが―――、何となく演出プランは解るような気がした。
ある種の緩急の付け方なのだろう。
最初にレオの曲でアクセルを踏んだ後には、緩めたもの歌唱として『十文字メドレー』と『桐原・杉田のコミックソング』が挟まれてからの、壬生先輩の名曲での踏み込み、三高エレガント・ファイブをつなぎに……アイリから続く、光井、深雪の『三人官女』のあとのロマン先生……。
この後はアクセル踏みっぱなしのラストオーダーになるはずだ。
―――Grand Orderの時は近づく。
今回の楽曲に関しては一応、かなり文字を変えたりして検索をかけたのですが、どちらでも出てこなかったので、結構悩んでおりますが、何かあれば一度、削除しようかと思いますので、とりあえず楽曲名などを挙げておきます。
Variety Sound Drama Fate_EXTRA CCC ルナティックステーション 2013収録
哭 / メルトリリス(CV.早見沙織)