魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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前回はかなり恥ずかしい思いをしてしまった。

顔から火を噴くほどの羞恥とはこのことか、これが『IKIHAJI』!

というわけで新話お送りします。




第195話『Carnival Phantasm-Ⅷ』

 ステージは最高潮を迎えている。

 

 二曲目を望む観客の声に答えたい思いで舞台袖はせわしなく動く。

 

 ネロ皇帝ことカレイドガーネットのドムス・アウレアが『変形』を果たしつつあることは、極力知られないようにしなければならない。

 

 それを魔力でサポートしながら、刹那は先程の魔術に関して述懐をする。

 

 刹那が施した『天体魔術』の応用は、確実にステージを彩り、同時に自分の中で『ナニカ』が生まれたのを感じるのだ。

 

 具体的なものは分からないが、照応したナニカが自分の階梯を上げたと思える。

 

(まぁそんなことは瑣末事だな)

 

 七色に輝く魔眼を閉じて、銀河領域のイメージ投射を終えると、次の曲に相応しいのは平河とダ・ヴィンチちゃんのステージ演出である。

 

 仕事が完全に無くなるわけではないのだが。

 

 それでも一応の出番が終わった『演出家』は潔く台座から降りて、バトンタッチをする。

 

「お疲れさまでした」

「サンクス。が、控室で休んでいてもいいんだよ?」

 

愛梨から飲料水を受け取り口に含んでから、何気なく言っておく。

 

「ライバルの歌唱ぐらいは、最後まで直で聞き届けたいんですよ。邪魔だというのならば……去りますけど?」

 

 ここで上目遣いで『ダメですか?』とかやられて、それに『そうです』などと答えられるわけがない。

 愛梨のこういう時の小技が刹那的には弱いのだ。

 

 とはいえ、22世紀を迎えつつある時代の演出道具というのは、格段に進化している。

 

 もちろん機械仕掛けの大掛かりなドローン装置や低空飛行のエアキャリアなどが確実に動くかどうかのチェック要員を省けば、現在の三人ないし五人程度の技術要員で住むというのがなんとも憎らしいかぎり。

 幼い頃に見たアニメの中の『超時空アイドル』のステージも、この時代では再現可能なのだ。

 

 よって手狭ではないが、それでも邪険にするにはどうしようもない愛梨の宣言を受け入れるしかないのだった。

 

「思うにアンタが、『全て』受け入れれば問題解決な気もするんだけどね」

 

「そんなこと出来るかよ……ニホンの貞操観念云々の前の問題だろ」

 

 平河からの言葉に嘆息しながら答える。結局の所……それ(ハーレム)はおふくろの言いつけを破ることになるのだから。

 

「第一、エイミィと十三束の取り合いしているお前は、ハーレムを許容出来るのかよ?」

 

「あ、あたしのことはどうでもいいでしょ! 第一、明智さんと私とじゃ『戦う場所』が違うもの。問題は一色さんとリーナの戦う場所が同じだから―――アンタは今! こうなってんのよ!」

 

 意外と鋭い見識であった。来年度のアトラスこと魔工科の次席生徒になる予定の平河の言葉に、分かってはいたことだが、みんなも分かっていたようで少しだけ嬉しくはなる。

 

「ステージセット完了。MCどうぞ!」

『そなたに百万の感謝を―――』

 

 平河が口元のインカムに言い、返されるネロからの言葉でネクストステージが始まるのだと気づく。

 

「油断するなよ。次の曲は色々と曰く付きだ。見上げればそこには露出が激しい吸血鬼娘がいるかもしれない。上からくるぞ。気をつけろ!!」

『『『押忍!』』』

 

 ステージ衣装のままに、そんな事を言う十文字先輩の言葉。

 まぁ確かに、歌の後には大量の『ノイズ』がオーディエンスを虐殺しかねないものだが、それはどうなんだ。

 

 自分の彼女とサーヴァントの曲に対して、と言いたいことは山ほどある。

 が……むしろその『露出強』の吸血鬼娘を探したいという欲望丸出しの男たちへの女子から降り注ぐ冷視線でチャラにしておく。

 

 

 ともあれネクストステージに対する準備は整いMCが声を張り上げる。

 

 

『まだまだいくぞ!! 双翼は再び声をあげる!! 天幕を挙げよ!  いまこそ熾天の檻から解き放たれるとき!! 『Angelic Remnant』」

 

 そして双翼のステージが再び開かれる。

 

 多くの割れんばかりの歓声と、どこから渡されたのか分からぬペンライトとサイリウムで、双翼の帰還を喜ぶオーディエンスたちの声が―――。

 

 照明のもと照らされた少女二人によって一瞬だけ消える……。

 

『絶対に―――折れないこと……ここに誓う―――』

 

『歌を……』 『――歌を……』

 

『『―――大空、 、高く―――』』

 

 天上にて声をあげしアンジェロが地上に降り立つ―――。

 

 † † † †

 

 エンジェリックレムナント―――積極的な訳すれば『天使の残したもの』

 しかし、歌詞から分かることもある。

 

 スパンコールが散りばめられたドレスながらも、柔らかな翼持つ天使をイメージさせる衣装で歌う少女二人の激唱は、ネオンの光線の中でこそ映えていた。

 

 髪飾りも鳥の羽をモチーフにしている辺り、中々に製作者は洒落者だ。一流の芸人がどうやったらば、最高のパフォーマンスが出来るかよく分かっているようだ。

 

『赤と青』。対象的な色で飾り付けられた美の化身二人は、オーディエンス全員に訴えかけるべく、高台に設けられていたスライダー……滑り台から―――立ちながら駆け下りてくるのだ。

 

 ブーツの摩擦係数などを操作しているのだろうが、それにしても圧巻の体バランスである。

 

 降りてきたアンジェロ二人はアクロバティックな着地をきめる。

 一流のジムナスティックスでもそうそう出来ない演出を、軽々と決めてくれたことに感嘆の声が上がる。

 

 着地の衝撃も何のそので歌い出す双翼―――。様々な光のシャワーを浴びながらもその歌唱に淀みはない。

 

『たえ間なく吹く向かい風―――いくどもさらされながら……』

 

 喉を震わせながら、観客を流し目で魅了せんとする戦国の武将の姿に誰もが何かを感じる。

 歩き出すその所作一つだけでも、『何か』厳かなものを感じさせるのだ……。

 

 大歓声そのものを鬨の声も同然に聞いている長尾景虎。

 こうして見ていると、この女性が戦国において軍神として謳われた存在なのか? そんな疑問を『素性知り』の殆どが思ってしまう。

 

 だが、そうだとしても目の前にある美の限り、歌うたいとしての声音は常に人々の心を震わせている。それだけでも奇跡の御業と呼ぶに相応しいのだ。

 

『それでも、熱く咲いた夢が、、一歩二歩を、踏み出す勇気をくれるーー!!』

 

 代わってリーナの歌声。情熱と艶を思わせる赤と清純さは白羽根を以て意識させる。

 

 光を受けるとも遮るともいえる『しな』を作るアイドルポーズとも言うべき手振りを以て、リーナは色を振りまく。

 

 そうしながらも天使の片割れは、腕を振り上げてオーディエンスを盛り上げる。

 

 これと同じく軍配を以て『我ら越軍にこそ毘沙門天の加護ぞある―――にゃー!!』などと攻撃を仕掛けていたのか。

 

『この声に』 『この胸に』

 

『受け継ぐ愛の音は…!』

 

『羽撃いて』 『舞い散った』

 

『天使の名残羽根―――』

 

 歌いながら更に下界を目指すように、天上の天使たちはエデンの東から飛び立つ。

 

 CGとホログラムを利用した目に見えぬ階段を、1段1段踏み外すこと無く軽快に降りてくる。

 

 光り輝く階段を駆け下りた天使2人。翼ではなく己の『足』を用いて大地に降り立った―――。

 

『そして今、この背には宿るだろう……』

 

『逆巻くセカイを飛ぶツバサが―――!!』

 

 大地に降り立った天使は、人間世界(下界)に来たことで『堕天』をしてしまう。

 

 降り立った大地より光が吹き荒れて、天使からツバサを、白羽を失わせた……。

 

 眼を閉じて従容と受け入れる堕天使(アザゼル)

 

 だが、それでも―――。

 

 リーナとカゲトラが降り立った大地。人理の御業は彼女たちにソラを駆けることを失わせなかった―――。

 

 ホログラムではなく『魔力の羽根』が舞い散る中、大地は―――『飛び立った』。

 

『『翔け上がれー! 帰る場所がある限り―――』』

 

 飛行魔法をキャリア(運搬機械)に積み込んだものが発動を果たして、重力を無視して観客席の上方を飛んでいく。

 

 喝采が飛ぶ。大歓声が飛んでいく。

 

 おおまかには、『六角形』の『円盤』。矛盾した表現だが、そうとしか言えないもので観客たちを視界に収めていく。

 

 衣装から羽を思わせるものが『少々』剥ぎ取られただけだが、その変化に眼を奪われる。

 

『『夢への旅立ちは 怖くない―――!』』

 

 光が上がる中、羽が落ちる中、円盤に乗った2人はステージ全てを周回しながら、声を張り上げて身振り手振りで自分の高揚をオーディエンスに伝える。

 

 光のサイオン粒子を振りながら、別に必要ないのだが……『飛んでいます』という演出のための『噴射』用なのだろうそれが、『飛行している』という実感・体感を全員に与えていた。

 

『『百億の星たちも 同じものはない!』』

 

 合流を果たした円盤同士が再び彼方へと飛んでいく。

 

 天使は堕天を果たしたとしても、人の世を守護するために空を翔ける……。

 

 決して神々の領域を穢したいわけではないのだ。砂漠の悪魔になったとしても、恋した人間の娘のために生きる決意こそが尊いとしんじたいのだから……。

 

『―――「生きる」と云うことは?』

 

『鼓動が、』 『脈打つ!』 『その意味は?』

 

『『―――自分だけの色 のメロディで―――!』』

 

 再び合流を果たす円盤。重なり合う声。

 

 観客席の上にて浮かぶ円盤の上で、激しいライブパフォーマンスをしながら旋律を刻むリーナとカゲトラ。

 

 会場全体が黄金に輝く。下品ではない。輝ける富と栄光の色……二人が持つ黄金の魂が、ネロ皇帝の高揚が観客全員に『黄金体験』(ゴールド・エクスペリエンス)をさせる。

 

『『未来へ奏でる ことだから……』』

 

 芸術に高尚なものやメッセージ性ばかりを見出そうというのは、ある種の下劣な行為だ。

 

 すばらしいものはすばらしい。

 うつくしいものはうつくしい。

 

 一般的な美醜のあり方に則れば、2人のパフォーマンスは最高であった。

 

 この会場に、かつてのポップスターの『英霊』たちがやってきてもおかしくないものを感じる。

 

 その歌詞の一言一句は呪文だ。セカイを震わせ、ギンガに届かんとする祈りに満たされている。

 

 背中合わせになりながらも、視線はがっつりオーディエンスに向けている2人の天使―――。

 

『『輝け…… イノチを歌にして――!!』』

 

 手を広げ、振り上げて最後の聖句を唱えた。

 

 その言葉に応じるかのように、地上に落ちたはずの幻想の天使の羽が浮かび上がり、花弁のように世界を彩る……。

 

『ANGEL VOICE』が世界を祝福する。

 

 正しく夢と現の体現が、そこにあった。

 

 本当に夢見心地にも繋がりそうなその幻想芸術は、『繋がり』だった。

 

 縦軸と横軸の間柄とでも云うべきか。

 

 飛行魔法を用いて天使2人はいずこかへと立ち去る。

 

 その後を追おうとオーディエンスは眼を向けていたが、その前にステージが変遷する様に眼を奪われた。

 

 レオナルド・アーキマンが作り上げた『Venus Feather』で幻想の羽を撒きながらの退場も功を奏するカタチだ。

 

 見事な退場に、拍手、歓声!の大合唱だ。先程までありったけ焚かれていた照明が全て落ちたあとの暗闇。

 

 MCからの紹介もないことが、観客の期待を煽る。

 

 そもそも今回の魔法科高校のライブにここまで人が集まったのは、達也の巧妙な情報工作によって伝説のCGドールが復活するという噂がネットで流れていたからだ。

 

 ともあれ―――舞台袖に天女のごとく戻ってきたリーナとカゲトラ。

 

 カゲトラはともかくとして緊張から開放されたのかリーナの紅潮した顔を見て、水分を……。と思う前に腕を広げながら降りてきたのを見て観念。

 

 カラダを気遣う前に、ココロを気遣ってほしいという無言のメッセージを受けて、刹那も腕を広げて抱きとめる姿勢を取る。

 

『『『笑いの神が降臨しますように!!!』』』

 

 この場面をただのラブシーンにしたくない男子女子の真摯なる願いの下―――。

 

「お疲れ様」

 

「ウン。癒やして癒やして(キュアキュア)……♪♪♪」

 

 何も起こらないのだった。喜劇王チャップリン、榎本健一(エノケン)の英霊は、この舞台にはいなかったようだ。

 

 天より舞い降りた天女のようなリーナを受け止める刹那。

 先程の司波達也と司波深雪の抱き合いは、あまりにも鋭すぎるトウシューズを履いたまま抱き合おうとした寸前で流石に光井ほのかが止めた。

 

 ストッパーたるべき存在も、流石にこの場面では自重した。

 

 そうして秋田書店(?)の(フェイス)になった一色愛梨を除けば、誰もが喝采をあげたくなるほどに見事な退場をしてきたリーナとカゲトラのツヴァイウイング。

 

 次いで始まる演目。これこそがラストである。

 

 劇にせよ舞台にせよ全ての観劇の出来は最後のトリで決まる。

 

 喜劇、悲劇、不条理劇。歌舞伎で言えば、義太夫節、御家物、活歴物……新作歌舞伎であれ、『大詰』をしくじるわけにはいかない。

 

 

「ダ・ヴィンチちゃんは大丈夫なのかしら?」

 

「問題ないだろう。『彼』ならば、万事歌い上げるさ。

 それよりも、『二曲目』ではこれを使えよ。刹那」

 

「ワーオ。『ストラディバリウス』。ガメてもよろしい?」

 

 んなわけあるか、という想いなのか、ロマン先生から小突かれてしまうが、最高の演出道具を貰った以上は、それに相応しい演奏をする。

 

 とはいえ、まずは一曲目からだ。舞台袖にて光が落ちたステージを見ていると……そこに、光が差した。

 

 平河たち演出班の手際に感心する。

 

 月光の(かそけ)き光のごとき差し方の元にいたのは、かつて一世を風靡したCGドール『MAAYA』の姿だった。

 

「思うんだがアビーのお遊びも多分に含まれているとはいえ、あの姿はいいのかな?」

 

「イイと思うわよ。それにCGドール『MAAYA』と同じかどうかは歌でワカルんだから」

 

 このご時世において生身の『アイドル』と呼べるものはほとんど居らず、CGアイドル、もしくは先述のCGドールというものが隆盛を誇っているらしい。

 

 もちろん歌唱、声の質を生身の人間に近づける作業は当然のごとく行われているのだが……どうしても、VOICEというものの『肌感覚』というものは、未だに掴めていないのだ。

 

 それは、未だに人類が己の意思疎通に『口頭言語』を捨てきれていないことから解る。

 

 それはともかくCGドール『MAAYA』のウリは、ずばり言えばその歌唱力にある。

 

 ピュアな透明感ある声は、現在のバーチャルと編集作業で作られた『人工物』と違って、『生身』であることによる『ヒューマニティ』の体現だった。

 

 そして、鍵盤を叩くことで生まれる音が耳に響く。

 

 

 ―――ここではないどこか、ここにはいないだれか―――。

 

 その人へ向けたメッセージであると、ネットの人間たちは解釈をした詩が、朗々と会場を包み込んで。

 

 ―――祈りが……世界に満たされていく―――。

 

 

 




歌詞引用

アニメ『戦姫絶唱シンフォギアXV』劇中歌『Angelic Remnant』風鳴翼 (CV水樹奈々) x マリア・カデンツァヴァナ・イヴ (CV日笠陽子)

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