魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
メンテナンス明け一発目……うん、お察しの通りである。
何だか私のアカウントは微妙にフランス系の英霊に縁が無いんですよねぇ。
第10話『知ることで引かれあう異端』
与えられた資料。想定される事態―――何より転居先の選定などなど多くの事は、既に終わっていた。
かなり前から計画されていたんだろうな。と思えたが―――工房はどうしたものかと思う。九段下付近にでも住めれば、霊場としては最適だが……。
(まぁ後で考えておこう。いざとなれば地脈を『引っ張る』ことも出来るからな)
適当にコミューターが使えたり、駅に近い所がいいだろうと思い、用意された住居の一つに丸を付けて事務方への提出書類とする。
「極東の一大経済圏にして、様々な分野で『世界』の一角を担ってきた国家。そしてこの22世紀を迎えようとしている時代で『魔法技術』においても世界をリードしている」
「我が故郷ながらまずまず何とも言えぬ強大っぷり……にしても何で公表されていない戦略級魔法師がいるなんて察することが出来たんだか?」
「三年前の沖縄海戦における異常なエネルギーの検出。それが参謀本部の耳目を引いたんだ」
この時代、沖縄における『在日米軍』というものは完全に無くなっていた。とはいえ、日米には安全保障条約があるし、体制及び共通の『敵国』を持つということで同盟関係はなっていた。
ある時には中華の冊封に組み込まれ、ある時には薩摩隼人によって服属させられ、合衆国の占領下に置かれる。
結果としてではあるが、彼の国であり大地は一大経済圏でもある日本に取り込まれる形となった。
「参謀本部の分析官たちはセイレムにおける『ヘヴィ・メタル・バースト』、
一度に、二つもの『似て非なる』戦力級魔法のサンプルデータを得たことで、実像あやふやな戦闘の一端が発覚した。
特に沖縄海戦のエネルギー総量は前者に酷似していたと言う。
「その上で当時、沖縄本島を訪れていた人間達のリスト―――つまり航空会社の乗客名簿から『容疑者』をリストアップしたようだな」
「……かつてのNSAなんてのは、足を使っての『探偵』じみたことをしなかったのになぁ。こんな風なジェームズ・ボンドもびっくりなことをするなんて」
「シギント―――即ち通信暗号などの解析だけでは、『実像』には迫れないことを分かったのさ」
笑みをこぼしてばかりのカノープス少佐との話で、理解したが―――海戦が始まる一週間前後のもので手に入れた飛行機の乗客名簿、その中でもリストアップされた人員の中に、『容疑者』を見出した。
「―――
「……少し見方を変えれば、『日本語』に通じていれば『かもしれない』というのにも確かに行き着く……『分家』か『隠し名』か―――まぁ『魔王』じたいは本名を名乗っているがね」
かつて故郷にあった
正式名称『マキリ』―――それを思い出していた。魔術世界において『名前』というのは重要なファクターとなりえる。時に『起源』にそった名前を与えることで、その力を強めると言う考えもあるが、そちらに『引っ張られる可能性』があるとして、禁忌となりえる。
退魔の四家―――自分の名のアイデアとなった人間の家、『両儀』においても雄性雌性、両面で通じる名前を与えられたものは、当主の資格ありとなる。
逆に、先に語ったマキリ=『間桐』のように『苗字』『姓』もまた重要な意味を持つ。
魔術世界においてはあまり一般的ではないが
つまるところ―――「己が何者」であるか、即ち概念としての成立に姓というのは意味を持つ。かつて日本の武士たちが成人すると同時に幼名から、正式な名前をいただくのと同じく、姓と名前は意味を持つ。
『力』となり。『概念』となる。信仰心を抱く。
だからこそ天下一の成り上がりものといえる『秀吉公』は最終的に『豊臣』の姓をいただき、そのライバルであった家康に至っては『松平』の姓を変えて『徳川』。『元康』の名を変えて『家康』―――。
その名前は『力』と『概念』となり、『神君』となりて江戸300年の歴史を『信仰』と共に刻んだのだ。
「ともあれ、怪しいだけなのに、随分と積極的な接触を持てと言うもんだ―――特に『司波』の方に」
何かの確証があるのだろうか。と感じてその両名を見る―――詳細な情報……なのかどうかは分からないが、とりあえずびっしり挙げられたプロフィールを見る内に……。
なんだこいつは?―――そんな内心の驚きが出てしまう。
思わず苦い顔をした刹那をカノープス少佐は怪訝に見ていた。それにも関わらず刹那は、挙げられていた人間の異常性を『見抜いた』。
「
「セツナ君が鼻を鳴らすとは―――、アウトサイダーの可能性かい?」
カノープスはこの四年、三年間程度の間に刹那が相手に対する『危険性』を示す時のサインを見抜いていた。それゆえの反応で返したが、刹那は苦い顔のままだ。
「ええ、この男は
「つまり?」
「この男―――いや少年は、全てにおいて一位を獲ろうと思えば獲れるだけの実力を持ちながら、周囲に埋没しようとしている。実際、初等教育と中等教育とで乖離がありすぎる」
電子ペーパーの資料を苛立たしげに手の甲で叩く刹那に言われてカノープスも見る。
確かに、初等教育においてはトップクラスの成績ばかりを叩きだしている。しかし中学になった瞬間から違いが出てくる。
教育レベルが上がったが故の、少しの落ちぶれ―――とは思えなかった。意図的に『目立たない』ようにしている。
更に言えば、それは極端な乱高下だ。10位以内から落ちたかと思えば2位3位―――1位を取ることもある。まるで沸騰したり冷却したりの安定の無い株式のようだ。
ある種のインサイダー取引の如く思える。
「恐らく司波達也は『何者』かに言われて、そうしている。この男は『自己顕示欲』が強い一方で、犬のような『忠誠心』で『克己』している―――実に両極端な人間だ。異常者ですよ」
『呪い』でも掛けられてるのか? そう思わせる人間だ。FBIのプロファイリングなどを用いれば、恐らくこの男の実像が分かるだろう。
カノープスも見ると、確かに少しの異常さを感じる。これらは一種の異常犯罪者に見られる特徴。
そうすることで、社会に溶け込み捜査線上に出てこないようにするのだろう。
「まぁどちらにせよ……接触すれば分かりましょう。基本的に自己顕示欲が強い魔法師。そんな連中ばかりの学校に来れば、その力を見せなければいけない事態になるでしょうし」
事前情報によれば、時計塔における12の学科の争い―――特に
どちらかと言えば、
「その場合、心配なのはセツナと……のほうだな。荒事になった時に、その力を発揮しなくてもいいようになるか心配だ」
「
何かを言い掛けたらしきカノープスであるが話は続いていた。
言い掛けたことに疑問を覚えながらも、とりあえず置いてから、風体の方は大丈夫だろうと刹那は思った。
巷に出回っているCADというものすら使わずに己独自の礼装を使うことも何かしらの疑念が出ないかとカノープスは感じるが、『完全な古式魔法』ということであれば、致し方ないという理屈に収まるかもしれない。
だが―――遠坂刹那の行くところ『騒動』あり。魔性の運命と自嘲していたが、事実―――何かに刺激されたのか、多くの外法師たちは触発されて出てくる。
結局のところ―――いい意味でのトラブルメーカーなのだろう。膿を出していくということでは―――。
「……ところでなんか最近、リーナに会えてないんですけど―――そんな長期任務でしたっけ?」
「……その、だな。まぁ総隊長にも色々あるんだろう。あまり気にするな。三日後の送別会を楽しみにしておけ明けて二日後には旅立つんだからな」
実際、正規受験で入学する以上、あまり時間を掛けられない面もある。そういった意味では参謀本部の仕事の速さは素晴らしかった。
目立つボンクラがいる一方で、合衆国のトップエリートというのは本当に勤勉で仕事が早い。働き者ばかりだ。
しかし、どこか焦った様子で歯切れの悪いカノープス少佐に怪訝な想いがある。
「うーーん、せめて別れる前に会いたい。そりゃ仕事だから不意の単身赴任は仕方ないとはいえ―――」
「まぁ私の娘と他のスターズ女性隊員だけで勘弁してくれ。チェンジは無しだ」
「なんか前にすごい愚痴を聞かされたような気がしますよ」
カノープス少佐の娘もジュニア・ハイスクールに入ったことで、少し艶めいてきた。
だからこそ昔のお兄ちゃんみたいな感じであまりスキンシップをしてもらうとドギマギすること請け合い。
「ああ、もうパパとお風呂に入らないと言われた時にはすごくショックだった……」
「それは、父親として
「セツナ君と一緒にお風呂に入りたいと言われた時には怒りがこみ上げた……」
「それは、父親として
なんだこの頓智みたいな会話。などなど思いながら本部デスク―――総隊長の席が空であることが少し寂しかった。
その様子を見ていたアークトゥルス大尉は重傷だな。と感じた。ただ―――心配なのだろう。その事は分かっていたのでメディスンマンより賜りし戦士として、盛大に祝ってやろうと思った。
ダークマター鍋は、己の自慢料理なのだから―――しかし皆には不評。解せぬ。
そんなこんな多くの人達の見送りがありながらも―――旅立ちの日は近づいていた。
† † † †
「USNAからの―――新入生ですか?」
『ああ、前々から掴んでいた情報なんだが……受験勉強の真っただ中のお前に伝えるべきなのかどうか迷ってな』
「留学ではなく、こちらで正式な学位を取得したい―――なんとも不可解な話ですね」
『全くだが、学びにやってくる人間を無下にも出来ん。今ごろ外務省はてんやわんやだろう』
「それで任務でしょうか?」
『いいや、とりあえず今は何も無い。一人は『クドウ』の関係者だ。そしてもう一人はそのクドウが抱き込んでいる……とも言い切れんらしい…』
藤林響子が、『どちら』の立場で動いているか分からない以上、その言葉にも確信が持てないでいる風間少佐の心中も察することが出来る。
十師族絡みのことで、あれこれと嫌悪を示す少佐なのだ。画面越しの顔に苦渋が滲む。
『とりあえずこちらでまとめたプロフィールを送る。恐らく入学試験会場にも来るはずだから、今はそれとなく見てくれれば幸いだ』
「了解です」
『すまんな達也。人生で重大な時に、こちらの都合の些事や懸念で煩わせて』
「お構いなく。実技はどうか分かりませんがペーパーは完璧ですから」
実際、本当に今のところは妹の『家庭教師』までやっているようなぐらいだ。反面、実技―――予想されるテストは、芳しくないだろうと思えた。
そんなことをおくびにも出さずに大隊の責任者。達也にとって、『オヤジ』と呼べる人間の願いぐらいは聞く余裕はあるだろう。
『ではお前と妹君に『サクラサク』春が来ることを大隊一同願っているよ』
「ありがとうございます」
少しだけおどけた風間少佐の敬礼と一緒の言葉に礼を言うと家に備え付けの巨大モニターから消え去る。
同時に達也の手持ちの端末に情報が送られてきた。
解凍をするとそこには二人の男女のプロフィール―――写真つきで存在していた。
ソファーに座り込みながらとりあえず今は軽く読んでおく。
女子の方は、とりあえず写真で見る限りでは『美少女』。贔屓目無しで自分の妹―――『司波深雪』と『双璧』を為すぐらいはある。
もう一人。男子の方をさっ、と目を通すぐらいで終えておこうとした『司波達也』だが―――そちらを見た瞬間に息が詰まるのを感じた。
一目見ただけで分かった。こいつは
理論派で、どちらかと言えば訳のわからないものに対して、完全な理屈を求める達也にしては、『直感』などという曖昧なものを、信じてしまうぐらいに危険な存在に思えた。
合衆国国籍だが、完全な日本人だ。もしも十坂という意味ならば、分からなくもないが―――、こいつは、『何か』が違う。
「……お前は、何者だ?」
自然と口を衝いて出た言葉。だが、答えるものなどいるわけがない。遠坂刹那について考えれば考えるほどに、正体が分からなくなる。
風間少佐の依頼は―――少しばかりハードに思えた。接触を持つのは入学してからでも構うまい―――。
などなど考えていたが、実の兄が電子スクリーンに男の姿を投影させて熱心に見ていたのを目撃して―――。
『お、お兄様が同年代の男子を見て深刻そうになっている…!! もしや、そういう―――いいえ、ありえないわ!!! け、けれどそうだとしたら、ああ!! どうしたらば―――』
などと、リビングに入る戸の横で、一人暴走しがちになっていた妹のフォローに向かわなければいけなくなった。
何故わかったかと言えば気配云々以前にリビングが凍りつきそうになっていたからだ。