魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第201話『聖夜異変―――Ⅲ』

「おや? あそこにいるのは西城君と確か……」

 

「ラ・フォンの女子、宇佐美といったか。あからさまな程に西城に気がある様子だったが、まさかクリスマスデートをするとはな」

 

「積極的な女子には男子はやっぱり弱いのかしら?」

 

「……人それぞれじゃないかな?」

 

「自分を棚に上げない!!」

 

克人が抱いていた内心の葛藤は完全に見破られてしまっていた。

 

ともあれ、街頭の大型スクリーンにも何か剣呑なことが都内で起こったことが告げられている。

 

近いわけではないが、それでも年ごろの娘を持つ身として『七草 弘一』からの帰宅メッセージが入っていたのが、現在の七草真由美の現状だった。

 

「ホームパーティを拒否してまで男とデートしていることが、いいものだとは思えないんだろう」

 

「自分だって胸元ぱっつん開いたドレスを着た女に誘われれば、ほっぽって出向くくせに」

 

むすーっとふくれっ面をする真由美。

 

苦笑しながら考えるに―――。大人になっても想える人がいる弘一が少しだけ羨ましい一方で、それで家族が不和になるのは、よろしくないことだろう。

 

克人としては、そんな反面教師を覚えつつも真由美を家まで送り届けようという男気だけは見せるのだった。

 

「送り狼にならないの?」

「なれる状況じゃないだろ」

 

向かうのが実家である以上、無理筋な話を覚えつつ……何気なく克人は、遠くの方から後輩を見ておき、帰宅の途につくのだった。

 

 

「そう―――あれは悪どい芸能の世界の風習を正すために、赤坂の料亭の一つに赴いた時のことでした……ホワンホワンホワンヨルヨル〜〜〜」

 

何故か回想シーンに入る前の常套句になりつつあるものを口にする黒羽亜夜子ちゃん。

奇しくも刹那としては『母の親友』と同じ音の名前に少しだけ親近感を持ちつつも、この子が着ているような服が似合わない人であったらしい。(母・談)

 

とはいえ、刹那が見てきた『美綴綾子」という女性は闊達な気風の良い女性であり、まぁ母の言うようなところは知らなかったわけだが。

 

そんな子の回想シーンが再生される。

 

 

雪が深々と降り積もる世界。雪の質が『重い』からなのか、それとも寒冷化のせいなのかは分からないが、それでも靴の裏に感じる雪の感触が足音を消し去ってくれる。

 

「ここの奥座敷にいる助平親父2人を熨して脅しつければいいわけか」

「そういうことだね。とはいえ、調整体の魔法師がいる場面だと複雑だから―――」

 

しかし、自分たちよりも先に此処に張っていた黒羽の手の者たちによると、保護対象の月シリーズは入っていないようだ。

 

料亭の周囲―――隠れられるスペースにて丁々発止の時間を待つ自分たちは、桜田門外の変の水戸藩士の気分になる。

 

もっとも『大老』が乗った『駕籠』を待つ性分ではないのだが。

 

「よし、それじゃ奥座敷に一気に『転移』しようか―――」

 

いつもどおりにそれを行うことにした文弥と亜夜子だが、それに対して『待った』を掛けられてしまう。

 

「ユキさん?」

「少し待った方がいい。いや、どちらにせよ手遅れかもしれん。血の匂いがする……」

 

運動能力と知覚能力を引き上げるタイプのブーステッドソルジャーである榛有希が感じたものは、既にターゲットが殺されたのではないかという話であった。

 

「どういうこと?」

 

「わかんねぇ。ただ嗅覚(はな)を突くんだよ。いい料理の匂いとたっかい酒の匂い、座敷芸者の化粧の匂いに混じって―――濃密な『血の匂い』がな」

 

文弥の強めの質問に対して、鼻を押さえながら有希は答えた。

その感覚を疑うわけではない。修羅巷の場数で言えば双子に比べれば有希の方が若干多いほどだ。

 

もちろん『質』の良し悪しもあるだろうが、ともあれその言葉を否定できるだけの根拠も無い2人としては、そうだとしても『死体』を確認しなければいけないのだ。

 

よって順番に『疑似空間転移』を行い、三人は竹藪の中から奥座敷を目指すのだった。

 

足音は当たり前のごとく立てない。草擦れの音すら聞こえなくする『消音』を施しながら、『縁側』から入り込む。

 

恐らく上客が月明かりを下に酒でも飲む場所だろうか。風雅な場所から暗殺者三人は、事前に手に入れていた奥座敷の間取り図から、ターゲットがいる『松月の間』にたどり着く。

 

ここまで来れば、2人も有希の言葉を否定できない。板間を音を立てずに走り抜けた自分たちの前の部屋から漂う死臭。

 

意を決して。障子戸を開け放ち踏み込む。これで抜刀した攘夷志士でもいれば、本格的に『幕末劇』の体であろう。

 

(((御用(あらため)である!!! 手向かいすれば容赦なく切り捨てる!!)))

 

三人の内心の思考が合致したが、大捕物の体ではない。

 

高級そうな座椅子に身体を預けて事切れている肥満体の男2人。人相は間違いなく、ターゲットのとおりだ。

 

死後硬直などを確認しようとしたが、その前に―――。

 

「ッ!!」

 

死体の周囲で滑りそうになる。よく見ると、2人から流れ出たと思しき血がちょっとした池を作っていたのだ。

 

出血箇所の特定などはまだだが、見える限りでは『眉間』に一発ずつ。それで、こんな出血量など……。

 

(魔法……なのか?)

 

だが、それは合理的ではない。人間は脳によって生きている存在だ。

 

心臓を動かす命令も、呼吸・視界の情報も全て『脳』あってこそ活動・処理出来る身体信号なのだ。

 

よって、下手人が誰かは分からないが眉間を打ち貫いた時点で絶命しており、念押しするように、こんな出血をさせる意味もない。

 

更に言えば、これだけの出血をさせるためには、頭を吹き飛ばすほどの威力がなければ無理だ。

 

死体の程度から察するに、サイレンサー拳銃で打たれたかのように綺麗な弾痕が穿たれているのだから、ますますおかしい。

 

―――何故?―――。

 

フーダニット、ハウダニット、ホワイダニットが分からない。怨恨の線を考えた時に―――部屋の中に三人以外の『生きた気配』が生まれる。

 

思わず臨戦態勢と同時に、『逃げられる』ように心持ち重心を後ろに移した。

 

「幽霊……?」

 

『いいカンしているねぇお嬢ちゃん。今の『セカイ』で、そんな夢見がちな思考をするなんてねぇ。少しばかり嬉しくもなるかなぁ』

 

女の声。偽装している可能性もあるが、姿・形が見えない存在からの言葉に身体が緊張する。

 

『とはいえまずはお仕事だ。アンタ達が、こいつらの『接待相手』? ……じゃあないね。まぁ『南無阿弥陀仏』―――目撃者は殺せってお達しなんだ!! 極楽浄土はいいところらしいぜ!!!』

 

そして、叩き込まれる弾丸の乱舞を前に―――防御障壁を展開しても、それをすり抜けるのだった。

 

「なっ!? ぶっ!!」

 

久しく感じぬ肉体を苛む痛みを前に身体を『くの字』に折って、もんどり打つ文弥。

 

床を転がりながらも相手を探すべく目を凝らす。

 

「文弥!!」

 

『ははっ!! 中々に生き汚いなぁ!!!』

 

喝采を上げながら、次から次へとどこからともなく弾丸を叩き込んでくる下手人。

 

(姿が見えない!! 火線を辿っても、そこにはターゲッティング出来る存在が居ない!!)

 

現代魔法の難点が、亜夜子を苦しめる。CADを弄り、魔法を利かせようとイデア上の改変をやろうとしても、相手がどこにいるか分からない。

 

俗に言えば『認識の壁』というものが、魔法の不発動(エラー)を引き起こしていた。

 

これならばサイオン弾でも放っていたほうが、まだマシだ。しかし、そのサイオン弾を食い千切って弾丸はこちらに届こうとしている。

 

死体は、その余波で細切れになっていく。姿が見えない射手は―――部屋の中にいるかすら定かではない。

 

「撤退よ!! 文弥!! 有希さん!!」

 

玉のような汗をいくつも掻きながら亜夜子は、声を上げる。

もはや、自分たちには手が余る。何が起こっているのかすら分かったものではない。

 

女2人よりも重傷となった文弥を支えるのは、有希であった。

 

「文弥!! しっかりしろ!!」

 

『その手負いの状況で逃がすと思うかねぇ!? 三善、天、人、修―――ソワカ!!!』

 

瞬間、奥座敷全体が『圧縮』されているのを何気なく認識した。

 

何かの『壁』で徐々に包まれていくのを感じた。

 

死ぬ―――。明確な恐怖が自分たちを包んだ時に―――。

 

『一筋の閃光』が、奥座敷すべてに走った。

 

その閃光に包まれて、建材の病葉ごと吹き飛ばされた後は―――雪が降り積もる東京の路面に投げ出されていた。

 

料亭から火が上がっているのを遠くに確認して血まみれの己を認識……。

 

腕が上がらないことを認識した後には、まだ片腕が使える榛有希に、端末であるナンバーに掛けるように頼んだ。

 

「―――アタシだ。ああ、アタシも掛けたくなかったが―――文弥と亜夜子が死にそうなんだ。頼む―――助けてくれ司波達也……」

 

ぼろぼろと大粒のナミダを流すユキの姿に、申し訳ない想いだった。

 

そして了承の意を受けると同時に、周囲に控えていた『会社』の人間と『組』の者の手で司波家に運び込まれるのだった。

 

正規の医療機関ではまず助からない怪我の度合いと、そして達也でも匙を投げざるをえない事態を前にして、こういうことになったのだ……。

 

 

「以上が経緯ですわ。ロード・トオサカ」

「説明ありがとう。確定的だな。敵はサーヴァントだ」

 

亜夜子の説明を受けて司波家の天井を仰ぐ刹那。

 

『だねぇ。しかも『鉛の弾丸』から察するに火縄銃、初期の火薬銃器だろう』

 

コーヒーとは別にリビングテーブルに置かれた『丸い玉』。先程まで黒羽の姉弟と協力者を痛めつけていたものを検分していたオニキスの言葉で察する。

 

「敵はお前と同年代の戦国武将なのかもな」

 

「でしょうね。ただ『種子島』『短筒』を主武器として、『宝具』クラスに格上げ出来る英霊など限られています。

もっとも―――これ(鉄砲)が主武器であるという点は確定ではありませんが」

 

後ろに控えているランサーこと長尾景虎に声を掛けると、そこまでの推察をしてくれたことで推理も捗る。

 

「フーダニット……マスターの有無。その人物は分からないが、推測するにアーチャーないしアサシンのサーヴァントが下手人だな」

 

「ハウダニット―――センゴク時代の『チート兵器』。タネガシマと呼ばれるGUNが、『英霊の武器』に『ランクアップ』(昇華)されたことによる殺傷」

 

「ホワイダニット……何故そんなことをやったのか? それがわからないな……」

 

現代魔法の雄。流石に十師族本流との違いこそあれど、黒羽家の双子もまた『四葉』の後継候補。

 

四葉の分家制度とは、魔術士の『分家制度』に似ている部分もあれば、非なる部分も多い。

 

これは一般社会、特に閨閥を重んじる上流社会でも同じことなのだが、本家に跡取りたるものが居ない場合、分家から有力な人間を当主に据える。

 

しかし、四葉の場合は表向きはそういうことであっても、分家自体も切磋琢磨することで、いうなれば競い合うことで魔法を磨くと言える。

 

足の引っ張り合いにならないように注視せねばならない側面もあるが、それでも達也の目の前にいる黒羽の姉弟もまた四葉の当主になるだけの力量は備えているのだ。

 

そんな2人が手も足も出なかった以上、敵が刹那側の存在であることは明らかだろう。

 

そう達也は結論づけた。

 

「サーヴァント……英霊の分け身でしたか。悔しいですが、私達では何も出来なかった以上、何も言えません」

 

「意地悪な言い方に聞こえるかもしれんが、現代魔法師としてのプライドとかは無いのか?深雪なんていつでも『エンシェントがなんぼのもんじゃい!!』って感じだけど?」

 

「横浜でのフェイカー……王貴人と、そちらのランサー……長尾景虎殿との戦いは見せてもらいました。かくも旧き時代の武人・英傑は侮れぬと四葉家中全てが思ったぐらいですから……」

 

何処かに放たれていただろう映像機器で、あの騒乱は克明に記録されていたのか。

 

達也としても寝耳に水ではあった。一応、あの場面でムーバルスーツのフェイスヘルメットはつけっぱなしだったので面は割れていないだろうが。

 

(あるいは、『他家』も俺をどうにかするために、刹那の力を欲しているということか)

 

筆頭の容疑者は、双子の父親というところか。彼の当主の座に対する執着心は、隠しきれていない。

 

深刻そうに項垂れる2人の内心を察して、話をすすめることにした。

 

「それで文弥、亜夜子。お前たちは何故その芸能関係者に接触を持ったんだ? もちろん『仕事』であることは分かるが……」

 

そしてハウダニットが少しだけ明かされる。

 

芸能界の悪習。枕営業。肉体接待―――俗な言葉で言われることが、あそこ(奥座敷)であったのだと。

 

男娼の男色趣味ではなく普通に女によるものが、女性陣の機嫌をマイナスの底値に持っていく。

 

「女性陣には悪いが、まぁそんなことは、芸能の世界では日常茶飯事だろう―――あまり聞いていて、気分がいい話ではないがな」

 

「そこに何で君たち『CLOVER』が関わるかだ。まさか今更、慈善事業に傾倒したいわけでもあるまい?」

 

「たまには僕たちも慈悲を出しますよ。善きことも悪いことも相応にバランスを取らないと、均衡が崩れちゃいますよ―――と生意気言いましたが、接待のコンパニオンが問題だったんです」

 

文弥が刹那に返すように口を開く。その接待の相手というのは―――『魔法師』……その成り損ないのような存在だった。

 

調整体の魔法師。九亜たちのような存在の研究は未だに続けられており、それ自体は魔法研究の一つとして『是認』はされている。問題は、その魔法研究が齎したものだった。

 

『月』(ルナ)シリーズと呼ばれる調整体は、『衛星詠唱』という『非魔法師』を『魔法で強化した兵士』に変える技術を以て期待されていたのだが……。

 

「失敗したのか?」

 

「そのようです。概要は省略させてもらいますが、『月』と対照になる『太陽』の魔法師から放たれた魔法を、『月』が中継(ハブ)ステーションとなることで、多くの人間に投射するということだったらしいのです」

 

だが、それは失敗した。月の魔法師は予定されていた演算領域を獲得できず、太陽の魔法師も発現した魔法技能は不完全なものであった。

 

「んん???」

 

「それって『アレ』よね? 黄金姫(ゴールデンサン)白銀姫(シルバームーン)術式(コード)?」

 

「まぁ陰陽理論、相反考証というのは、どこの地域にでも似通ったものがあるから、その発想自体は誰でも考えつくものだが……」

 

顔を顰めた刹那の内心を読んだリーナによって、答えは暴露された。その術式の走りは、達也たちも聞いていたもの。九校戦の前にも講習があったものだと記憶している。

 

それに照らし合わせれば、月シリーズの理論は中々に『先んじて』『古い習わし』に基づいていた―――成功していれば、魔法師の方向性は、また違っていたかもしれないが。

 

「イゼルマの術式とやらは、私も九校戦の際に参考にさせてもらいますよロード……さて、問題は、この月シリーズの『失敗作』に関してです……」

 

かの調整体は、芸能プロダクション『セレスアート』が送り出しているCGドールないしヴァーチャルアイドル『雪兎 ヒメ』の『中の人』をやっている。

 

「我々、四葉としては魔法師の人権を蔑ろにして、そのような『魔法師』の『性的搾取』は容認出来ないのです」

 

「厳密に言えば魔法師ではないのに、か?」

 

刹那の突いた点。そこは達也と深雪も引っ掛かっており、当主である真夜の心情的な側面も過分にあるのではないかと想いつつ、そうではない面は推察しきれない。

 

『なんだかこんがらがってきたぞ。キミらの目的は芸能関係者への脅し。そして芸能関係者は調整体魔法師と『ヨロシク』やりたかった。―――では、アーチャーの『目的』とは何だ? そこが問題だ』

 

魔法の杖の整理によって、未だに見えてこない一本の線が示された。

 

しかし、それはまだ見えてこず、被害に遭う予定だった人、未遂で終わった人物の名前を聞くことにする。

 

コーヒーはすっかり冷めきり、レモン水のような味がするが今はこれでもいい。とコーヒー党の達也は我慢比べのように飲み干しつつ、榛からの報告を聞く。

 

文弥の秘書よろしく隣に立っていた彼女は投影スクリーンも併用して答える。

 

「現在は芸能関係者が多く通学しているラ・フォンティーヌ・ド・ムーサ女学院の一年として在籍。

研究所では別の名前だったんだろうが、現在の名前は『宇佐美 夕姫』―――お前さんたちと同じピチピチの16歳JKだ」

 

その揶揄したような紹介を聞いた瞬間、達也は思わずコーヒーを戻しそうになるも、それだけは『キャラ的』に出来ぬと逆流しそうになるコーヒーを分解した。

 

だが、妙なことに魔法を使ったからかむせてしまい、妹に心配させたことは失態である。

 

「It's a Jesus……」

 

「It's a Miracle……」

 

司波家の天井を仰ぐアメリカ人2人も、この合縁奇縁には色々な想いのようだ。

 

ともあれ―――。何が『終着点』なのかはようく分かった。

 

きょとんとした顔をする文弥と亜夜子につい先日の―――プレ・クリスマスパーティーとも言える雫の送迎会を加えたアーネンエルベでの様子を見せる。

 

端末に映し出された少女の1人(レオに密着中)は、榛が映した少女と同一人物だった。

 

「「ええええ――――!!!!!!」」

 

「随分と学生らしいことに興じているんだな……」

 

『おどろ木ももの木さんしょの木』な黒羽の姉弟とは対照的に、冷めた反応を見せる榛 有希の言葉。

 

そして聖夜の異変はまだまだ始まったばかりだった……。

 

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