魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第204話『聖夜異変―――Ⅵ』

「まぁ誰しも、超絶な力を持った存在を諸手を上げて歓迎は出来ないだろう。

クラーク・ケント(スーパーマン)が悪の道に走れば、ブランドン・ブライア(ブライトバーン)になっちまうんだからな」

 

「そりゃ分かるんですけど、父さんも津久葉・新発田の伯父さんたちも、達也兄さんを腫れ物に触るようにしているんですから……」

 

それゆえに、アイツは感情を『封印』させられたと四葉は言うが、全然封印が効いていない。

 

「感情を封印するということは、『人格』を封印するということだが、残念ながらアイツには『人格』が存在している―――唯一与えられたのが深雪(実妹)に対する偏愛だとしても、自己を顧みる『肉体』がある以上、その人格は変質する。どれだけ指向性を持たせたとしてもな」

 

「そういうもんなんですか……?」

 

刹那が胸の辺りを二本指で叩くジェスチャーに、まさか肉体のアプローチが必要だとは文弥も思っておらず話は続く。

 

「細かい説明は省くが、人は『精神』『魂』『肉体』という3つの事物で出来た生物だ。

精神は脳に、魂は肉体に宿る―――つまり『司波達也』という人間、人格、魂をカタチにするものは、遍歴を重ねた知性とその『カラ』である肉体―――知性を生む脳だけでは人となりを表す人格は作られないもんさ。

例えばだ黒羽君。キミは達也みたいなクールで颯爽として闊達に全てをこなす存在になりたいと思っているな?」

 

「はい……けれど、僕はこんな容姿ですし……背丈だけでもなぁ―――あっ」

 

刹那の質問で、沈んだ声音で話していた黒羽文弥も気づく。

 

(聡い子だな)

 

肉体が『人格』を作るならば、自分の姿形を好む人間であれば、外向的になるし―――大まかに言えば社交的になる。逆に己の姿にコンプレックスを持っていれば、内向的になる。内側に籠もる。

 

丁度―――達也と文弥の関係性と同じだ。どうして同じ『四葉の係累』で、こうも違うくなるのか。そう考えたことは多いのだろう。

 

―――女装が当たり前のように似合っているし。

 

「達也があんなんなのは、やっぱり色んなところで外的刺激を受けてきたからだろうな。キミや亜夜子ちゃんみたいに自分を尊敬するように見てきて、多分、普通学校でも運動も勉強もできるクラスの中心になっていただろうからな―――司波家での『教育』がどうあれ、アイツはああなっていたさ」

 

「達也兄さんの人格を構成してきたのは、僕たちが原因―――」

 

「ゆえにアイツは自分が好きなのさ。従姉弟たちに誇れる自分でいたいと思うからこそ、従者には似つかわしくない成績表だったわけだしな」

 

つくづく『隠す』ということに向かない男。そういう典型的な自慢屋ということである。

 

精神(のう)の中の感情を封印したところで、(にくたい)から発する『感情』は封じきれない。何故ならば、そこまですれば―――達也という人間が持つ『能力や人格』(司波達也)は失われるわけだからな」

 

四葉が持たない理屈を教えられて文弥も瞠目する。精神というものを研究してきた第四研究所のアプローチが雑に想える次第。

 

同時に、自分たちが達也を救ってきた、深雪の従者という立場から解放してきたことに嬉しさを覚える。

多くの人が達也を『司波達也』という大元に近づけてきたのだ、と。

 

「そんなわけでキミらの爺さん方のアプローチは少しアレだね。『どうやった』って、達也は己を好むさ。細マッチョの甘いマスクで女子を魅惑して、従姉弟や多くの人からそう見られている自分を認識するんだからな」

 

そんな人間が世界破滅の可能性に直結するだのなんだの、というのは大げさな話だ……。

 

あの海鮮饅頭ダイスキ男に滅ぼされる世界ならば、まぁそこまでの運命だったというわけだ。合掌。

 

(あるいは―――達也に対する『カウンター』として俺が存在しているか、だ)

 

赤い顔で頭を掻いて照れている黒羽文弥に見られないように、頭の中で少しの打算をしておく。

別に『抑止力』に突き動かされる感覚なんてものがあるわけではない。そもそも、あれは自動的かつ無意識に刷り込んでくるものだ。

 

ヒトの運命にすら時に介在するもの―――。

 

 

―――新しき■■を■■たものは―――。

 

「―――で、だ。そんな達也の名言の一つ。九校戦にて青空を見上げながらおセンチに一言『…こういうものは―――さすがに分解出来ないからな……』」

 

「た、達也兄さん……センチメンタルジャーニー!!」

 

何故か感動している文弥君。思考をぶった切る形で、そんなことを言いながらも遂に社長室らしき場所まで到着する。

 

別ルートで入ってきた達也たち―――『状況』は『理解』しているようだ。

 

「……電子の要塞とも言えるセキュリティの殆どが機能している。機能しているにも関わらず―――『何も起きない』……どうなってやがる?」

 

達也に少し遅れて有希もやってきたが、気味の悪いものを見たかのような口調だ。それは事実だろう。

 

外から視認できる警備機器だけでもうんざりしていたのに、中に入れば更に多くのセンサーカメラが存在していたのだ。

 

「ここのトップは臆病な性格だったんだろうな」

 

「まぁ、超常分野とも関わりないわけじゃないからな。魔法師の能力を過小評価していなかったんだろう」

 

しかし、その気になれば『他愛なし』『他愛なし』と言いながら、そのセンサー類を誤魔化して社長室に入り込むことも可能なのかもしれない―――だが……。

 

「御大層なセンサー類も、操る人間が『これ』では、な」

 

達也も『眼』を使って察しが着いたようだ。こうして部外者が堂々と動いているというのに、『社屋』にいる連中は何もしていない。

 

通常通りの活動を『無意味』に行っている。

 

「悪趣味極まるな……」

 

ホラーというものを分かっていない演出家だ。

 

ともあれ、臆病で小心者な社長、三角健三にアポ無しの営業活動を行うのだった。

 

―――『生きていれば』ではあるが……。

 

社長室に入ると、椅子の上にいた中年の男は、驚いたふりをして立ち上がろうとしていたが……手早く有希は拳銃を発砲して肩を貫く。

 

音はもちろん消されているが―――。

 

「て、テメェら!! どこの組のもんだ!? 名乗りっやがれ!!」

 

訛りではないが、少し発声がおかしいことに気づくも、四人の中で一歩進み出た文弥(女装済み)が告げる。

 

「出多興業の三角社長ですね?」

 

「カスティーヨの手のものか!? だったらば、もう少し待ちやがれ!! 商品ならばすぐに用意してやるんだからよ!!」

 

「………人身売買について洗い浚い喋ってくれたら、命だけは助けてあげますよ。もちろ―――」

 

「そもそも『男』でもいいならば、始めっから言っておけ!! しかも船でやってくるだと、ざけるなよ!! お前のせいで俺は二重の危険を踏み抜いたんだ!!」

 

「………」

 

「面子! 面子!! そんなものが重要か!? ふざけるなよ!! 南蛮野郎が!! んなに魔法師が欲しければ、テメーらの『教義』に抵触しようが、ジーンテクノロジクスでやれよ!!」

 

話が噛み合わない―――。その様子を察して、怪訝な顔を見せた黒羽文弥、榛有希。

 

まるで三角は、ここにはいない『幽霊』に話しかけているようだった。

 

壊れたレコーダーが意味不明の音声を繰り返し続けるかのように、この男は普通ではない。

 

それを見てから達也は文弥の肩を叩き、下がるように促す。

 

少しだけ驚いた文弥だが、それとは代わって繰り言が二週目にいたったのを確認した刹那は―――。

 

左手からガンドを発砲。この世界では馴染まない呪詛は、物理的な衝撃ごと三角にあった魔術的作用を消し飛ばした。

 

「なっ!?」

 

「死んだ―――いや、『死んでいた』!?」

 

「この腐敗の具合からしても、死後三日目だな。成程―――死体を応用したヒトガタ作りか」

 

刹那が検死していた死体の腕半分を分解した達也。血一滴流れぬ腕の断面には、古めかしい歯車や動線が埋めこまれていた。

 

「腕ごと歯車なども分解した。が―――俺が出来るのは、『半分』までだ」

 

「魔術の絶対法則。人間を越えるヒトガタは造れても、決して人間と同じモノは作れない―――」

 

人体構造というものは、どれだけ『模倣』をしたところで、人の手が加われば不出来にならざるをえない。

 

あのピクシーですら、血液の流れの代わりにサーボモータで駆動している限り、どうしても中身の構造はごまかせないのだ。

 

「作り物の身体は、血流から筋繊維の動きにいたるまで不出来なんだ―――」

 

「じゃあ、この社屋にいた連中も? 全員―――『人形』なのか?」

 

「だな。こんな『それなりの人形作り』なんて技能を、戦国の鉄砲傭兵が持っているなんて……」

 

魔術師・遠坂刹那の意識ではありえないぐらいに『高度』なものだ。

 

『ふぅん。成程ね―――こいつは悪趣味だ』

 

「……オニキス?」

 

『いや、何でも無いさ。さて、この悪趣味大賞のビルからとっとと出るとしよう。

結界の起点はその男だったわけだし、全て糸が切れた人形のように―――』

 

変な調子の感嘆をしたオニキスに訝しんだのだが、それは一瞬のことで次の瞬間には普段通りの説明役をしていたが……その言葉が途切れる。

 

刹那も察して、達也も気づく。どうやら悪趣味大賞はまだ続いていたようだ。

 

『ぬかったね。結界の起点は崩すべきではなかった。『囲い込む』べきだったんだ』

 

「達也、黒羽君、有希さん―――ここの情報……電子データやら吸い出せる限りのものを持ち出してくれ。時間は俺が稼ぐ」

 

どうせ、電子機器の扱いでは自分が一番の下手っぴだ。そういう刹那の無言での不貞腐れを察したのか、達也は笑みを浮かべつつ―――。

 

「五分で済ませる。ランサーを着かせているとはいえ『当たり』を引いた深雪たちが心配だ」

 

そういう『気遣い』をしておくのだった。

 

社長室から手早く出る刹那を見送って、達也は文弥及び外務省、ついでに言えば警察辺りが欲しがりそうなデータを洗い浚い奪っていくのだった。

 

個人端末の認証を突破するのですらナノセカンド単位でのハッキングを行っていく達也を、文弥は少しだけ恨めしげに見ておく。

 

―――僕らには、そんな表情しないのに―――。

 

そう思いながらも文弥もまた仕事に邁進するのだった。

 

 

社長室に通じるべき左右の通路からやってくる、死体を利用したと思しき人形。一昔前のデパートでは、ありったけあっただろうマネキン人形。

 

現在のARとVRを利用したものとは違い、『頭』まであるタイプ。無機質な白目と半開きの口を開けてやってくる。

 

元・出多興業の社員でありヤクザたちを遠坂刹那は―――。

 

左手に魔法陣と何かの文字……象形文字にも見えるものをいくつも組み合わせた『魔砲』を持ち、そこに魔力を通すたびに魔弾を解き放つ。

 

丁度30分ほど前の火縄銃の話ではないが、火薬の装填、弾込め、火縄への着火―――それらが一連で行われ、流れるように放たれる。

 

文弥の付き添いで九校戦の映像を見ていた有希としては、魔法使いならぬ『魔砲使い』という称号もあり得ると思えていた。

 

左手が、一般的な火縄銃……小筒、中筒の間断無い連射であるならば、右手には―――実体の『筒』が握られていた。

 

有希の拙い知識での認識でも、それは特化型CADとは決して言えないものだった。

 

もう本当にただの筒であった。ドラム缶半分ほどの直径とドラム缶半分ほどの長さ。

 

一応持ち手(保持具)はあったが、そんな原始的な『砲筒』から放たれる火箭は、文字通りの火球の連発だ。

 

時には火炎放射器以上もの火力を発揮して人形を一掃する様子。

 

『外側から見られる心配はないな。どうやら三角なる男はよほどの小心者だったようだ。周囲にこのビルよりも高い建物はない』

 

「PRESSのパパラッチ行為も遮断していたか、おまけにガラスも防弾及びマジックミラーの進化系」

 

偏執的すぎるぐらいに外側から異常が見えないということは、火災や停電などの災害が起きた場合、中々気づかれにくいということでもある。

このことが現在の状況に利していたが、まぁあまり良いことではない。

 

誰しも昭和時代という『レトロ』な時代におきたホテルニュージャパン火災なんてことは、まっぴら御免なわけである。

 

どういう理屈なのかは分からないが、『追尾弾』でもある火球の連発がしこたま火葬をやって、退けた後には―――消え去る灰の全て。

その様子を見てから有希は後ろの社長室を振り返る。

 

同時にドアから出てくるのは男子2人(1人は女装子)。

 

「終わったな?」

「ああ、引き上げるぞ」

 

言うやいなや、達也は眼前の総ガラス張りの壁面に対して『分解』を掛けた。

 

何かの手品の如く、大人が四人ぐらいは通れる穴が空き、そこに巨大なボードのようになった『魔法の杖』が一足先に出る。

 

「まさか―――これが『アシ』になるのか!?」

 

『そのトーリだ! カレイドオニキスの13の秘密機構の内の一つ!! リトル・シャドウ・ボーダー!! ちなみに燃料は君たちの魔力と外部のギリシャ火という『擬似太陽炉』で動くぞ!!』

 

有希の疑問に答える魔法の杖。どこかから誰かが操っていると思っていたのだが―――本当に、この杖が生きているかのように思えてならない。

 

疑問を持っていたのは主な雇い主であり、年下の男子 黒羽文弥も同様だったのだが。

 

ともあれ、他の男二人は疑問とかそういうものがないらしく、刹那の持っていた筒こそが『ギリシャ火』というものだったらしく、ジェット機のアフターバーナーよろしく『尾部』ともいえる石突部分に接続。

 

「文弥、乗れ!!」

 

「は、はい!! ナッツも!!」

 

「お、おう!!」

 

流石に四人乗りはきついか、何かの理由があるのか、遠坂刹那はボードの底部にある吊り具を掴んで姿勢を安定させた。

 

「流石に重力に対して『逆向き』(リバース)を発生させるのは、めんどいからな」

 

『飛ばす前にガラスを修復しておけ』

 

「Anfang―――」

 

短い呪文で、司波達也が分解したはずのガラス窓が修復されていく。

 

「気遣いありがとよ」

「俺の方でやるとしても、完全な分子分解のあとは無理だったからな」

 

短い会話。察するに、遠坂刹那が修復すると見越して、司波達也は分解の『細かさ』を下げていたというところだろうか。

 

ただ達也としては、あえてやることで刹那の術の限界値を図りたかった。仮に修復の魔術を行うとしても、それはどこまで可能なのか……。

 

とはいえ、いまは深雪の元に疾く駆けつけることの方が求められている。

 

ゆえに―――。

 

『『TRANS-AM(トランザム)!!!』』

 

―――魔法の呪文を唱えることで、現場に急行するのだった。

 

「達也兄さん!?」

 

驚愕の言葉を吐き出さざるを得ない文弥ごと―――魔法の杖は東京の夜空を再び駆け抜ける―――。

 

 


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