魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第205話『聖夜異変―――Ⅶ』

 行く手を遮った女。それに対して―――明確な恐怖を後ろのユウキも感じた。

 

 怖い存在だと。雪降る公園にて雪兎の少女を守るべく、レオは決意をする。

 

 絶対に守ってみせる―――と。

 

「誰だテメェ……」

 

「誰でも良くないかな? とはいえ、単刀直入に言わせてもらうよ。そちらの少女を渡しなさい」

 

 

 こちらの威嚇を躱して要求を突きつける女―――。

 イメージとしては、エリカをキツくして鋭くした。そういう感じの女だが、何一つ心の琴線に触れない女だ。

 

 

「断る。ユウキ―――さがっていろ」

 

「レオ……」

 

 不安そうな夕姫の傍にいてあげたい気持ちがないわけじゃない。だが―――レオも気付いた。

 

 眼の前の卦体な格好の女の正体に―――。

 

(サーヴァント……どこの英霊だ?)

 

 自分の拙い知識では、類推することすらあやしいものだが、少なくとも目に見えて『直接戦闘』に長けたタイプには見えない。

 

 野暮ったい洋套(マント)で全身を包んでいる。防寒のためではあるまい。恐らくその下に得物がある。

 その得物が、刃物、投擲武器……暗器の類か……分からないが―――それでも―――先手必勝を期して動く。

 

「マグニ・ジークフリート!!」

 

 全身に強化硬化(フォルテストラ)を纏い、強化された蹴り足が雪を吹き飛ばしながら接近を意図する。

 

「―――なかなかの体術だ!!」

 

 サーヴァントもまた慮外の速度でレオの接近に身体を合わせてきた。その手に短刀を持っており、レオの手甲とぶつかり合う。

 

 刹那と達也が合作して作ってくれたこのCADでありグローブは、精密機器であると同時に『武装』としても使えるものだ。

 

 ミスリルとアカガネの合金は―――容易く白刃を叩き折る。

 白刃の細片にかまわず硬化された拳は、勢いそのままに霊体を叩く。流石に人間を殴った感触ではないが、……『手応え』はあった。

 

「へぇ。下間(しもつま)の武僧ぐらいの膂力はあるか!!」

 

「そのマント―――どうやら相当な防御物らしいな!!」

 

 『手応え』はあったが、まるで分厚いタイヤを殴ったみたいな感触であった。

 

 ノーダメージであることは察せられる。

 

 

「正解。まぁタネ明かしをするほど暇ではないのでな―――その命、浄土に送らせてもらう!!!」

 

 言うやいなやマントを脱ぎ去り、地面に落とす女。

 

 そしてマントの下には――――。

 

 多数の銃器。少なくともかなり古い(タイプ)のものが全身に鎧のごとく括られていた。

 

銃使い(ガンマン)!?」

 

「南蛮の言葉で、こういうんだっけかな? えぐざくとりー♪♪ BANG!!」

 

 

 気楽な調子で全身に括り付けられている銃を抜き放ち―――そのまま発砲。

 凄まじく速い『抜き打ち』にレオは―――避けることは出来なかった。踏み止まり、全身を強化して耐え凌ぐ。

 

「レオ!! 私に構わず!!」

 

 全身をしこたまうちつける銃弾が、ことごとくレオの身体に吸い込まれる。

 

 その様子を見て宇佐美夕姫は叫んだが、それ以前の話だ。

 後ろに夕姫がいるとか、そういうことに関係なく、レオの身体は大地に縫い付けられているのだ! 

 

(何だ!? 動こうとしても動けない!! 魔眼の類じゃない!! ならば―――何だ!?)

 

疑問が心をつくも、回答は得られないままに耐え忍ぶ。痛撃が、レオの身体を貫通していくが―――女としても、少しの疑問が残る。

 

(ただの妖術師もどき……にしては硬すぎる)

 

 銃弾の一撃一撃は、この世界の物理法則を蹂躙するもので出来ているはずなのだが……中々に硬いものを見て―――。

 

「ああ、成る程。―――『天魔憑き』か―――浄土に行けるかどうかは知らんが、南無阿弥陀仏―――」

 

 確信したことで、中筒()を持ち、身体を吹き飛ばすことを意図する。意図した瞬間―――。

 

 アーチャーのサーヴァントは、向かってくる『強烈な気配』に対して大鉄砲を向ける。

 

 (―――凶悪だ。こいつは―――!!)

 

 確信を持って言える。あまりにも強烈な魔力の塊。

 神仏の化身にも似たその気配の正体は―――自分と同じ(サーヴァント)

 

「その首!! 撥ね飛ばす!! にゃー!!!」

 

 流星のように角度を付けて天空よりやってきたものの言葉に反応。発砲! 連射!! 次から次へと大鉄砲も短筒も全て射撃する―――。

 

 降りゆく雪とは真逆の赤々とした『逆しまの流星』が空を染める。

 

 だが―――その尽くが、目に見えた凶相の面をした女に届くことはなかった。

 

「寒雪吹きすさぶも、『吉利支丹』たちの祭事である『でうすの御子』の生誕日に、このようなご近所様一堂にご迷惑極まる乱痴気騒ぎ―――許されるものか―――!! 

『でうす』に代わり、この『八華のサンタ』が、悪漢成敗してくれよう!!!」

 

「八華のサンタってなんだ―――!?」

 

「お前は―――!」

 

 飛びながらも槍を投擲。マントが貫かれる―――。地面に落ちたマントが貫かれたことでレオは―――自由の身となった。

 

 理屈はあと。だが、ランサーの正体に気付いたらしき女サーヴァントの瞠目した顔に一撃を見舞う。

 

「ごっ!!」

 

「しこたま撃たれたお返しだぜ!!」

 

 殴られた勢いで雪積もる大地を転がるように滑っていく女。

 

 しかし距離を取ったことで、バネじかけのように起き上がり発砲。

 

 火箭の群れを前に―――。

 

「つまり私が前に立てばいいだけ―――下がりなさいレオ」

 

 レオの前に落下の勢いで立ちふさがった『八華のサンタ』のおかげで、銃弾はあらぬ方向へと抜けていった。

 

 流れ弾がレオとユウキに入ることもないほどに、見事な逸しだ。

 

「八華のサンタクロース―――ここに見参!!」

 

 べべん! とでも擬音が着きそうな名乗り口上と幕入りの仕方の後には、次いで3つの気配が生まれる。

 

「レオ、Are you fine?」

 

「Yes, I’m fine―――問題ないぜリーナ」

 

 既に治癒のルーンを発動させて傷を癒やしていたレオを見てほっ、としてから下がらせる。

 

「すみません。西城くん。私達―――」

 

「構わねえさ。深雪さん―――未知の敵。それにマスターの姿も見えないんだ……警戒するのは、分かるぜ……」

 

 その言葉を受けて、本当に申し訳ない気持ちが三人の女子と戦乙馬に生まれる―――サンタの方は『斥候・先手がやられてしまうのは、戦国の常です』などと言ってのけた。

 

 うん、オニか。と思ってしまう。

 

 いや、まごうことなくオニではあった。

 

 ただし、サンタは指揮官にもかかわらず最前線に立っていた逸話持ちなので、本人の体験というよりも他家のことかもしれないのだが……。

 

 ともあれ、そんなことは『恋する乙女』には何の慰めにもならないのである。

 

「深雪ちゃんとリーナちゃんも―――レオを囮にしていたってこと!?」

 

「ソ、ソーリー……けれどユウキを守ろうとするレオのプライド(男気)を汚すのもどうかというせめぎ合いがあったのヨ……」

 

 レオの言葉で気付いた宇佐美夕姫の怒りの言動が届く。まぁ当たり前の反応ではあった。

 流石の深雪も、そう責め立てられては心苦しかった。

 

 だが―――レオがユウキを制止することで、とりあえず場は収まった。

 

 この間、クラスで言えばアーチャーに属するサーヴァントは景虎に睨まれて動けずにいた。

 

 ……こちらの会話が落ち着いたことでアーチャーは動き出す。

 

「まさか、『鉄砲嫌い』のアナタと相見えるとは思わなかったなぁ。けれど―――それこそが、この戦い(聖杯戦争)の妙味でもあるか」

 

「でしょうね。そして私は別に鉄砲キライじゃないです。むしろ、欲しかったほどですよ!!

 けれど『晴信』の鉄砲隊ですら『粗悪』なものしか手に入れられなかったのですから―――ああ、『サカイ』()が遠すぎる!!」

 

 西日本と東日本の境目とも言える軍事の違い。越後もそれなりに貿易は行っていたが、鉄砲・硝石・火薬・火縄―――それらをまとまった数で揃えるには、あまりにも越後には『金銭』が足らず、南蛮との輸入ルートが『遠すぎた』。

 

 事実、越軍が本格的に火縄銃を運用していくのは、御館の乱が終息し本能寺の変のあとに―――『信長の後継者』として動き出した『羽柴秀吉』に臣従してからだと伝えられる。

 

 その動きの首謀は『直江兼続』という武将であった……。

 

 そんな嘆きを剣を振り回しながら語るカゲトラだが、緊張を隠せないアーチャーのサーヴァント。

 

 時空を越えて激突し合う魔人と魔人。そのレベルの差は歴然としていた……。

 

「軍神、越後の龍―――負け戦は片手で数える程度の戦国最強の武将『長尾 景虎』殿……まさか拝謁の妙に合うとは思わなかった―――」

 

「見たことはありませんでしたが、私もアナタのことは聞き及んでおりましたよ。

 敵に回せば『災厄』味方にすれば『千人力』

 西国一の武士団『雑賀衆』を統率せし、砲術武将『雑賀 孫市』―――あの頃にアナタを雇えば良かったですかね?」

 

「貧乏な越後になんざ誰が行きたがるか。それに銃の補充も出来ないんじゃ、アンタのキライな兵糧攻めだ……寒い……寒さが爆発しすぎてる!!」

 

 吐き捨てるように言われて、それも道理だなと景虎は苦笑ごと納得しながら剣を構える。

 

「さきほどの通りならば私に銃弾は通らない。この身は毘沙門天の加護によって培われた自負心が、現象操作を及ぼすのだ。ゆえに―――快く―――その首よこせぇえ!!」

 

「「「「「こ、こええええ!!!!」」」」」

 

 妖怪『首おいてけ』。何故か達也に似た声で再生される御仁のようなことを言って、白雪を蹴りながら進むお虎(イイ笑顔)に誰もが恐怖を覚える。

 

「ふざけるなよ!! 武田や後北条みたいな鉄砲をロクに扱えない連中と私を同列にするな!! もってけダブル(双発)だ!!」

 

 言いながら短筒二丁拳銃の形で発砲するアーチャーのサーヴァント『雑賀孫市』。

 だが、そうなることが必然のように銃弾は『在らぬ方向』へと逸れていく。

 

 その間にも距離を詰めてくる景虎(イイ笑顔)に対して、アーチャーは士筒を持ち迎撃してくる。

 火縄銃にもいくつかバリエーションがあり、この士筒(さむらいづつ)は、その中でも単騎の侍が運用する内でも最大級のものだ。

 

 腰を落として理想の射撃フォームを取り―――放つ。

 

 当たるはずの『大弾』がそれていった後には歯噛みをしながらも、士筒の『機構』を展開。

 

 ―――今にも首を落とそうと迫る刃を迎撃する。

 

「!?」

「―――Bayonet(銃剣)!? 」

 

 驚愕の表情が、景虎とリーナに走る。

 

 確かにアーチャーだからと接近戦をしないわけではない。

 ライダーだからと騎馬での突撃だけをするわけではない。

 セイバーだからと聖剣をぶっぱするだけが能ではない。

 

 だが、まさか戦国時代に『あり得ざる兵器』を雑賀衆が持っていたなど考えるやつはいない。

 

 とはいえ、英霊のヒストリエは時に現代に生きる人間の想像を全て裏切る。夜の帳を消し飛ばす火花が咲き誇り、足元の雪は既に液体へと変じている。

 

「……リーナ、そんなに変なことなのかしら? 雑賀孫市が、銃剣を持つことは?」

 

常識的(セオリー)とは言えないワネ。

 従来のヒストリーの通りならば、タネガシマ(火縄銃)は『銃口からの火薬・弾込め』それを『カルカ』という槊杖で押し固めて装填(トリガーロック)するものだから―――銃口よりも遠いスタンス(位置)に刃物なんてあったらアブナイでしょ?」

 

 口頭で説明しながらも、リーナが手にしたカンショウ・バクヤ―――2丁拳銃タイプの特化型CADという『実物』でジェスチャーを加えての説明。

 それで深雪も頭に入ってくる。

 まぁ小中学校での歴史を思い出せば、確かにその通りであった。

 

「では、どうやって―――」

 

「よく見りゃ分かる。あの銃剣は『スライド』することで出てくるんだ。あんなデカブツを放りながら、そんなものを動かしているんだ。恐ろしい限りだぜ」

 

 亜夜子の疑問に答えたのは、その亜夜子による治療を受けていたレオであった。

 

 よく見れば、確かに銃床部分を動かして発砲後の大筒を銃剣としている。

 

 つまりは戦国時代驚異のテクノロジー。現地改修とでもいうべきものが、いまのアーチャーとランサーの拮抗を生み出していた。

 

 何丁ものサイズの違う銃を宙に浮かせ次から次へと手に取り発砲するアーチャー。

 ランサーの加護の前では何の意味もないのだが、直接打撃が出来なくとも擦過する銃弾の乱舞の前に必然的に機動が鈍る。

 

 しかし―――。

 

 40挺目の火縄銃を無為に帰したところで、景虎は―――立ち止まった。

 後退して距離をとっての発砲を繰り返して『時間稼ぎ』をしていた雑賀孫市にとっては休憩となれるが―――どういうつもりだと思う。

 

「いや、失礼―――西国一の武将との戦いを楽しみすぎていましたね。雑賀衆とはただの鉄砲傭兵集団ではない。

 彼らは縦横無尽に戦場を駆け抜ける『銃士』。従来の使い方(せおりー)ではなかったのですよね」

 

 一般的な戦国時代の『銃』の使い方とは、遮蔽物越しでの集団射掛けが主だ。

 

 野田・福島の戦い。長篠の戦い。小牧・長久手の戦い。大坂の陣・真田丸の戦い……全て主要な使い方は現代風に言えば『塹壕戦』での運用である。

 

 それに比べれば―――。

 

「カネがあって何丁も銃を、何発も銃弾を用立てられる大名連中に比べれば、雑賀の鉄砲は一発一発が大事であった……けれどな。それゆえに当てるための技術と集中を培ってきた。生きる糧は戦場の中にしかなかったんだからな」

 

 さみしげな顔を向けるアーチャーが語るは悲しき戦国の道理。

 

 そして雑賀衆とは―――。

 

「銃を持った軒猿衆(しのび)―――それが貴様らの本質だな」

「附子の毒すら利かないとか、お前―――本当に『人間』かよ?」

 

 呆れるように銃弾の合間に投げつけていた『石礫』を見せる雑賀孫市。

 

「あいにくこの身は毘沙門天の加護を受けている。

 戦神が定めた戦いの場において、そのような小細工は全て効かぬ!! 『宝具』を出せアーチャー……『雑賀孫市』―――でなければ、この戦いに汝が勝機はない―――」

 

「……殘念ながら、アタシはアンタみたいに一騎打ちを旨としているんじゃない―――それと、どうやら『用事』は済んだみたいだからな―――お暇させてもらうだけさ!!!」

 

 焦っている様子を見せながらも、告げられた『言葉の意味』を考えて誰もが宇佐美夕姫を見たが、大丈夫であった。

 

 身柄に変化はない。少し怯えているが、大丈夫だ。

 

 しかし、それが一瞬の隙となりて逃走を許した。

 

「リーナ!! 司波姫!!! 亜夜子!!」

 

 下知を受ける前から用意していたとは言え、アーチャーの言葉で『よそみ』をしてしまった。

 同時に『魔法』の照準を付けそこねる。この場にマスターとしての透視能力を持った人間がいれば、敏捷ランクでは『B』というステータスが見えているはず。

 

 早すぎて狙いをつけるとかそういうレベルではない。

 

 それどころか―――。

 

「―――不倶、金剛、王顕、」

 

「天台密教!?」

 

 短い呪文をランサーは聞きとがめた。

 再びの結界構築。こちらを縛り付けたことでその逃走は余計に捕らえられるものではなかった。

 

 こんどこそ地面に落ちていた『マント』を粉微塵に切り裂くランサー。

 

「……しくじりました。まさかここまでの結界を構築するものだと分かっていれば、槍で突き刺すのではなく切り裂いておくのだった」

 

『知恵役』がいなかったのが、若干の仇となった。

 

 ワザワザ、防御力があるものを脱ぎ捨てて戦いに赴いたことに疑義を持つべきだったが―――。

 

 ともあれ危機は去ったわけである。

 

 危機が去ると同時に―――古めかしいVTOL機のような調子でやってきた見知った顔に知らない顔。

 

 ボードのような杖のような摩訶不思議なものに四人乗り(1人は宙吊り)でやってきたことに誰もが気づく。

 降り立つ四者四様の姿。

 

 レオが覚えている限りでは、女装した少年は―――街中では見たことがある。

 あちらも気付いたらしく、丁寧な一礼をしてきた―――。

 

 そういうことで西城レオンハルトとしては一言申したいわけである。

 

「事情を説明してくれるか?」

 

 怒っているような笑っているような何とも言えない顔をしつつ口を開いた。

 

「「「「OF COURSE」」」」

 

 とりあえず付き合い長い顔見知り四人から了承を貰う。

 

 そして―――この時、警察は『重要参考人』を拉致されるという失態を冒してしまっていたのだった……。

 

 魔法使いの夜の終幕は近づきつつある……。

 

 

 

 


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