魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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とりあえず出来上がったのであっぷ。




第206話『聖夜異変―――Ⅷ』

「イヤ! アタシはこれからこちらにいる西城レオンハルト君の家に行って、大人の階段登る! 私はピンシャン(?)!」

 

「そんなお嬢、いや『ユウヒ』ちゃん! キミにとって『アサヒ』さんとの日々は、何でも無かったのかよ……!?」

 

雪降る街中で黒服三人が土下座をして懇願してくる。

黒服三人は、レオ曰く街中で張っ倒した人間で、ユウキ曰く所属事務所のタレントのガード。

 

黒服三人と宇佐美夕姫が主に喋っている様子を傍から見る形で、彼ら以外の面子はラーメンを啜っていた。

 

寒空の下、赤提灯の店で食うラーメンの味は格別すぎたが、こんな寸劇を見せられては、味も少しばかり色褪せたものに感じる。

 

こうなってしまった経緯を説明するには、時間を40分ほど前に戻さなければならない……。

 

ホワンホワンホワントオサカ〜〜〜

 

もはや様式美となってしまった回想に入る前のSEを口にしながら、遠坂刹那は思い出すのだった。

 

 

「ナルホドな。概ねは飲み込めた。ここに来るまでにユウキから聞かされた事情とかを聞けば余計にな……」

 

雪よけのベンチ(休憩所)の前で、腕組みして一応の納得をするレオの顔。疑問はいくつかあるだろう。

 

何でそんな危険極まる仕事を『達也のいとこ』がやっているんだ? とか、サーヴァントが絡むほどの事案に何で発展しているんだとか……だが、それ以上に聞かねばならないことがレオにはあった。

 

「ユウキ、お前……魔法師だったのか?」

 

「魔法師になれなかった『遺伝子調整体』……それが私なんだよ。レオ……」

 

自嘲するような笑みと己の身体を忌まわしく思うような仕草とが、彼女の魅力を引き立てる。

狙ってやっているのだとしたらば、かなりのモテカワではある。

こういうのを見せられれば、大勢の男子は何が何でもその顔を晴らしたいと思うに違いない。

 

この中で、その術中に嵌っているのは顔を赤くしている黒羽文弥だけなのだが―――。

 

「魔法技能を獲得出来なかった調整体魔法師の失敗作。(ルナ)シリーズの不良品。それがアタシ『宇佐美ユウヒ』なの」

 

そして宇佐美が語る言によると、望んだ魔法技能が会得できなかったのは、遺伝子改良における容姿のパラメーター値というものに『ポイント』を割り振りすぎた。

 

要するに宇佐美ユウヒという人間の『初期数値』は決まっていたのだが、その与えられていたポイントを全て容姿デザインに割り振ってしまっていたということだった。

 

その最初期のポイント数が『どれぐらい』なのか、分からなければ、こういったことは往々にして起こり得る。

ジーンテクノサイエンスの欠陥というやつである。

 

人間は本当の意味で『人間を意のままに出来ないのだ』。

 

「研究所で求められていた魔法技能が発現しなくて、それで―――しかも、私は『第1世代』で『親』なんてものはいないの。

試験管の中で『遺伝子を調整』されて、『機械の子宮』に満たされた羊水の中から出て、産声をあげて―――その後、容姿の良さだけを理由に今のプロダクションに売られて―――」

 

それ以上の言葉はレオが止めた。

何も言わずに腕組みしていた腕を開いて、泣きじゃくりそうな少女を抱きしめて、そのままに―――きつく抱擁をすると宇佐美夕姫は泣きわめいた。

 

聖なる夜。女の子にとっては色々と『特別な日』にもなるはずの今日に枕営業を強要された上に、事務所の社長は殺害された。

 

色々と限界だったのだろう。同時に、宇佐美夕姫が自分たち魔法科高校の生徒に対して向けていた感情も理解できる。

 

あの中には、自分と全て同じと言わずとも、『遺伝子調整』された上で生を受けた存在もいるはずだ。特に数字を持っている存在は、そういう存在だと―――見聞もしていたはず。

 

羨望と嫉妬―――そういう眼があったのだろう。

 

魔法師という存在は、『ナチュラル』な存在ではない。

 

この辺りで四葉は『魔法師は兵器』という考えを持っているが、それでも望んだ能力を持たずに生まれてきた上で、『人格改造』してまで『違う能力』を付与する非人間性と比較すれば、どちらが良かったのだろうと思うことはある。

 

どちらが『当人』にとっていいことなのか―――。

 

疑問に答えは出ない。

 

唯一分かることは――――。

 

「えーと、録画ボタンはどれだっけか?」

 

「これだ。沓子とエリカにも流すんだから、しっかり撮れよ皆の衆」

 

了解(ラジャー)!!』

 

―――機械音痴な刹那では、レオとユウキの愛のメモリーの録画はとちらざるを得なかったのだ。

 

「もーーーう!! 空気読んでよ!! 特に遠坂さんとリーナちゃん!! 司波さんと深雪ちゃん!!」

 

「だってなー。俺としては三高の四十九院と上手く行ってほしいしな」

「Me too。ユウキを無視するわけじゃないけど、トーコに対してちょっとフェアじゃないわ。アンフェアよ」

 

((どの口が、そんなことを言えるのだろう……))

 

同じく三高の女子(一色愛梨)に敵愾心マックスのリーナが言えたセリフではないと、呆れるように思う司波兄妹だが、事態に対する事情説明を終えると、彼女に選択をさせなければならない。

 

「宇佐美夕姫さん……西城先輩と抱き合っているところ申し訳有りませんが、アナタの身柄は狙われている……」

 

「私達ならば、とりあえずの身柄の安全を保証したいところですが……」

 

「サーヴァントは厄介だな。ご姉弟」

 

『『仰るとおりです』』

 

イタズラな笑みを浮かべて言うレオに、ため息と同時にそんな事を返す黒羽の双子。

 

結局の所。どこまで付け狙われるか分かったものじゃない―――のだが……。

 

「ランサーとアーチャーの会話を聞く限りでは、敵さんは宇佐美に興味なさそうな様子だったがな」

 

「そうですね……。まぁ略取誘拐に対する案件は続行ですが、宇佐美さんはもう大丈夫なのかな……?」

 

文弥君の不安げな疑問に答えたのは、達也でも刹那でも無かった。

 

『私との一騎打ちを拒否してまで『用事』の完遂を優先した。恐らくマスターの方で何かしらの『行動』を起こしたのでしょう。詳細こそ不明ですが、うさみんはレオに任せてもよろしいかと』

 

当て推量ではあるが、霊体化しているランサーの判断の正しさも理解できていた。

家という意味では、プロダクションの『寮』があるそうだが、『あんなこと』があった上では少し帰りにくい。

 

「んじゃレオ、家に連れてってやれよ。上手いこと誤魔化しとくからさ」

 

「ウソつくんじゃねーよ! 思いっきり『面白そうだから脚色して言いふらそう♪』って顔しているぞ!!」

 

一高名物。遠坂刹那だけが持つ『あかいあくまの笑み』

これを浮かべている間の刹那は、一切の精神的ダメージを受け付けないのである。(事実)

 

そんな『あかいあくまの笑み』を見た宇佐美夕姫は決意する。その脚色した事実の中に『真実』を含めてやろうと。嘘から出た真にしてやろうと。

 

「私は構わないよ―――むしろ―――レオには、私の『ハジメテ』を受け取って欲しい……」

「ユウキ!?」

 

達也以外の全員が色めき立つ宇佐美夕姫の言動。

ちなみに言えば、黒羽文弥は妄想力を逞しくしていたのか鼻血を出して、隣にいた榛有希に鼻を拭かれていた。

 

どんだけ純な男子中学生だよ。呆れつつも構わず事態は動く。

 

レオとユウキ。その決意と決断はどうなるのか―――。

 

「レオは気にしなくていいんだよ。私を愛するとか、恋人にするとかはまだ考えなくていい……。

ただ、私が好きな人に、私のハジメテを貰ってほしいからそう言っているだけ―――芸能界の悪習で、そんなことになるぐらいならば、その前に――――」

 

ずるい言動である。

傍から聞いている面子にしてみれば、宇佐美夕姫は狡猾だ―――ズルい女である。

 

レオが感じる重荷や責任を逃している片方で、自分とすることは『ボランティア』とは少し違うも『手助け』をしてくれと懇願している。

『情け』をくれと言う女の要求を断りきれるかどうかだ。

 

宇佐美が枕営業させられそうになっていたのは事実。

その重すぎる事実の前では、そういった風な願い事は通るかもしれない。

 

揺れ動く西城レオンハルトの気持ち。レオの実家がある草加市まで赴けば、自分たちも後顧の憂いはなくなるのだが―――。

 

そして何より友人のDT卒業は間近なわけで、先程までの三高の友人に対する義理立てが消滅せざるをえない。

 

えなかったのだが……。

 

そんな中、古めかしいチャルメラの音が鳴り響く。

 

カップルばかりが居た公園の様相が人外魔境になった後にやってきたのは、赤提灯の店。あったかそうな様子を見せる屋台を引っ張りながらラーメンおじさんがやってくるのだった。

 

芳しい香りが鼻を突く。同時に全員の腹がシンクロする形で鳴り響いた。

 

もはや俺たちの腹は『ラーメン腹』になってしまっている。よし決めた。今夜はあそこをオアシスにするのだ。

 

東京砂漠に開かれた荒野のオアシス。言うなれば荒野のグルメである。

 

「お腹空いたワ……アイムハングリー」

 

「あれだけケバブを食べたというのにお腹が減る理不尽……!! これがグルメ細胞の悪魔!!」

 

「女性陣、明日の体重計を考えなくていいのかい?」

 

しれっと釘を刺すも、わざわざ先程まで修羅巷だったところに来てくれたオヤジさんを素寒貧にするのは心苦しい。

だから、明日の体重計の心配はロマンキャンセルされるのだった。

 

「とりあえず―――どうするかは、食ってから決めてもいいんじゃないか?」

 

「……そうだな。ちなみに刹那も達也も戦いに向かうんだよな?」

 

「流石にこのまま放っておくのも寝覚めが悪いだろう。敵は英霊の分け身―――現代魔法師で対処可能な事案ならば余計な口出しはせんが、どう見ても『俺向きな』案件だしな」

 

『血の滾りを解消させない限りは、どうにも腰の座りが良くないですね―――』

 

戦闘狂のサーヴァントを引き当てた刹那の苦労を、レオも達也もなんとなく察しておく。

だが、そんな(イクサ)欲丸出しな景虎とは別に、今の男子も女子も―――『食欲』を満たしたいのだった。

 

雪を踏みしめながら椅子の追加と雪よけの傘、暖房器具を設置して待ってくれている店主の元に赴く。

 

「―――やってる?」

 

「ああ。適当に掛けな」

 

暖簾をのけてそんなことを言うと、口髭を蓄えた恰幅のいい店主は麺玉とスープの準備をしているのだった。

 

ここまで準備してもらって、食わずに帰るのは情がないな。そう思い―――注文10人分以上をこなす店主にちょっとだけ感激するのだった……。

 

そして点心(おかし)として刹那が『あんまん』を食べていた時に、彼ら―――セレスアートの『タレントガード』がやってきたのだ。

 

彼ら曰く、社長である弓場大作氏が殺害された現場で事情聴取を受けていた『尾上アサヒ』という宇佐美のマネージャーが連れ去られたらしい。

真夜中ではあるが白昼堂々の犯行に、駆けつけていた消防や警察は面目丸つぶれ。

 

だが、そんなことは今はどうでもいい。

やったのが、サーヴァントの手の者ということであるかどうかだ。まぁ十中八九『月シリーズ』のもうひとりを狙った以上、マスターの仕業だろう。

 

しかし、そんな大胆な行動をすれば、あっちこっちに『検閲』という名のソーシャルカメラの『警戒網』が展開される。

 

「何を考えているのやら……」

「抜き出した情報によると、フィリピンマフィアが港に来るそうだ」

「終点は取引場所か」

 

達也が端末に表示したもので全ては知れた。本牧埠頭―――再びの横浜にやってくる外国の怪しげな船に、もはや呪われているんじゃないかと思ってしまうほど。

 

「で―――宇佐美はどうするの?」

「………」

「聞いていると、マネージャーである尾上氏はお前の兄貴みたいなものなんだろ。俺らが救うだけならば難なくだが、ここまで尽力してくれた人の安全を確認しなくていいのか?」

「………」

 

男二人から責めるように言われて確かに薄情かと思ったのか、宇佐美は嘆息をした。

 

「兄貴分を気取っているけど、本質的には―――私に懸想しているんだもの。私は少し頼りないけど『お兄ちゃん』として見ていたのに……今回のことで―――幻滅しているんだよ!!」

 

それは分からなくもない。特に女性陣は深く深く頷いている。世間には様々な兄妹関係がある。まぁ普通に考えれば、年ごろの妹が兄に対する態度として深雪は異端だろう。

 

そこに枕営業の話である。兄貴分としての威厳は地に落ちている。

 

「マネージャーも苦渋の選択だったんですよ。魔法科高校のマジックライブ―――今の主流のサイバースペースライブを越えてきたそれに対抗して、雪兎ヒメではなく宇佐美夕姫として売り出したいって……もちろん、酌だけにして、他のことに及ぼうとした時には守る手はずだったんです」

 

本当にそれだけで収まるだろうか。というか、そんな大胆なことを出来る人間かどうかも疑問。

 

だがそれでも―――。

 

「お前とそういう関係になるかどうかは、まだわかんねぇけどさ……兄貴見捨てて『しけ込む』ってのはどうかと思う」

「レオ……」

 

ラーメン(3杯目)を食い終わり、ニットを脱いだ宇佐美の頭に手をやりながら、そんなことを言うレオ。

男気溢れている。

 

「だからさ―――まずはマネージャーさんとやらを助けてやろうぜ」

「うん……レオがそう言うなら」

 

その様子に口の中が甘くなる。頬に手を当てて真っ赤になる宇佐美夕姫。

 

砂吐きそうになる様子に―――。

 

「人生という名の列車はまだまだ走り続けるものだな。ということでそこのお三人。これから走り回ってお勤めに行くんだろう。

こいつ食ってからこの少年少女たちと行きな。時は金なりと言うが、急いては事を仕損じるぜ。男が動く時は―――色々と詰め込んでおかなきゃ吐き出せる気合も吐けないんだからよ」

 

言いながら土下座していた黒服達。夕姫曰く『サテライトキャスト』の『レセプター』という存在。

子機とも言われていたという、調整体魔法師の成り損ないに差し出される熱々のあんかけラーメン。

 

 

場を弁えた絶妙な合いの手。男三人を気遣えるマスターの男気溢れる対応に、誰もが驚愕する。

砂糖まみれだった口の中が一気に『固茹で卵』になるのだった。

 

(((((ハ、ハードボイルドオオオオオオオオ!!!)))))

 

((((マスターがハードボイルドォオオオ!!))))

 

「マスターじゃねぇ。目暮の親父とよべや少年少女。事情は良くは分からねぇが、家族みたいな存在は大事にするべきだぜ」

 

「夫婦がいつまでもラブラブになるには!?」

 

「そいつは色々あるが、長い時間を掛けて『燻す』ように真心を込めて接することだぜ。そしてたまには女房にグチこぼして、話聞いてもらって花もたしてやるのもコツの一つだな」

 

「「「「ハードボイルドォオオオ!!!」」」」

「「「「刑事コロンボなみのいぶし銀を感じるぅうう!!!」」」」

 

言われながら、燻製されたゆで卵を燻製した『塩』で味付けしたのを出されて、全員で誓いを立てるかのように食っておく。

 

「ハラは決まった(膨れた)ぞ! 目指す場所は本牧ふ頭。とりあえずレオのDT卒業のためにも後顧の憂いを無くす!!」

「まだ決まっちゃいねーよ!! というかオレがDTだと決めつけるな!! ごちそうさまでした!! またいつか食べに来ます!!」

『『『ごちそうさまでした―――!!!』』』

 

全ての勘定をすませて騒がしく出ていく、年齢にバラつきがある少年少女たちを見送る『目暮屋』の親父は―――全員の姿が見えなくなると同時に端末を開き、ある番号に掛ける。

 

「―――『チャップリン』より『ソード』へ。標的は、横浜本牧埠頭に移動をした模様。敵戦力は最大級。

歩調を合わせつつ、解決に導け―――抜かるなよ」

 

符丁を組み合わせつつも、要件を正しく言ってのけた。

 


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