魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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長らくお待たせしました。パソコン周りのあれこれで―――とりあえず申し訳ない限りです。

新話お送りします。

あと一話で来訪者編になるかなーぐらいに考えています。


第208話『聖夜異変―――Ⅹ』

派手な合図だな。

 

外側から加えられる絶え間ない振動がコンテナを派手に揺らす中、コンテナの『中身』は全員が何も感じていない様子であった。この寒空の中……浴衣に着替えさせられている少女たちに紛れた榛有希は、何かしらの薬と術で酩酊状態であることを確認。

 

同時にコンテナの中に珍しい男性を確認。深雪とリーナも確認したことで、近づいていく。

 

攫われてからさほど経っていないからか、男は周りの女の子たちをすこしばかり慰めている様子であった。

 

そんな男に近づくとあちらも気づいたようで、目線を向けられる。

 

「君たちは……」

 

「詳しい説明は省くが、アンタを助けるように依頼されたモノだ。セレスアート所属のマネージャー尾上旭でいいんだな?」

 

「ああ……」

 

「少し待っていろ。アンタの妹分も帰りを待っている」

 

 

その言葉に安堵を果たす旭氏だが、本当の所は……伝えないほうがいいのは目に見えていた。

 

それもまた処世術だろう。

 

そうしていると、ふとした時に一人の少女に眼がいった。

 

有希が注目していても、我関せず―――されど虚ろな眼をしていない。

 

白髪に赤眼。長い白髪を飾り気のない紐で一つに結わえた姿は、どこまでも似合っている。

 

不審感を覚えたのはリーナと深雪も同じだったが―――その間に戦端は開かれるのだった。

 

 

これにて二戦目。刹那と達也は初戦だが、ともあれアーチャーとの戦いに興じる景虎は、完全に獲るつもりのようだ。

 

あちこちで雪が爆ぜ吹き上がり、乾いた金属音が耳朶を打つ。

 

二戦目にしてアーチャーを獲る景虎だが、その勢いが躓きを産まなければいいのだが。

 

そしてアーチャーのマスター『杉屋善人』。出多興業の若頭という地位にありながら、『親殺し』をしてまでも―――何を狙ったか―――なんてのは興味がないとまでは言わんが―――。

 

「レオ、お前に任せるよ。今夜の主役はお前だからな」

 

「宇佐美でDT卒業のためにも、そこの男は倒すべき障害だな」

 

そんな風に友人の花道の首として献上するのだった。

 

下駄を預けられたことでレオは一歩進み出て、中年のスーツ男に立ち向かうことを決める。

 

そして完全にナメられた形の杉屋であったが、それでも3対1で勝てるなどと強くは言えない。相手は、魔法師の界隈にそれなりに詳しい面子ならば、理解できる強力な面子だ。

 

知らずに汗を掻いて……。

 

「夕姫のことは置いておくとしても、お虎さんを助けるぐらいはせにゃならんよな」

 

20mほどの間合いを以って構える剛厚な男―――ただのガキなどとナメられない相手に対して―――特化型CADが『火』を吹く。

 

起動式の読み込み、間髪入れずの発射。

 

魔弾を応用した3点連射。心の臓を確実に停止させるために磨き抜いたもの。

 

一発でも心臓を止めるに相応しい威力のそれを三射撃つのは、杉屋なりの願掛けであった。

 

かつて杉谷善住坊という杉屋の先祖として知られている甲賀忍者は、第六天魔王と称された織田信長を暗殺するという段において、それを失敗した経緯がある。

 

そして最終的には信長によって鋸引きで殺されたとも伝わる。

 

当時の火縄銃は、まぁ当たり前のごとく単発式であった。ならば、今―――、この時代において「殺害」の確実性を目指すならば、三点による確実なものを目指すべきなのだ。

 

確実に心臓を止めるべく放たれる弾丸。それゆえの行いであったのだが……。

 

放たれる魔弾。サイオン弾ともちがう魔力の弾丸は、過たず西城レオンハルトという男に吸い込まれるはずであった。

 

だが、それらの弾丸がレオに届くことはなかった。なぜであるかなど分からない。

しかし、はっきりと『弾かれた』ことを理解した杉屋は、近接戦用の得物を取り出す前に―――。

 

 

「ヤールングレイプル!!!」

 

白金の篭手の一撃で昏倒をするのだった。呆気ない勝利に驚いたのは何もレオだけではない。

達也もまたその力量に驚愕してしまう。確かにレオも、自分たちに付き合う形で様々な戦いに巻き込まれていった。

 

ある意味、実戦経験の濃度で言えば一条を超えているかも知れない。

 

雪を滑るように移動することで放たれたレオの攻撃の威力は、ヤクザもんでありながらも魔法師としても銃士としても優れていた杉屋善人という男を敗北させた。

理不尽な結果を嘆くように、杉屋という男から呟かれるは、恨み言の類であった。

 

「お、おれは、ようやく―――この掃き溜めみたいな世界から足抜けするんだ。上方(かみがた)に―――『京都の組織』に属することで……」

 

「そのために人身売買をやるっつーのは、なんつーかトンチキだなオッサン」

 

任侠団体として廃業届を出した実家を持つだけに、思うところは少しだけあるのか、ぶん殴られて雪で顔に霜焼けを作った杉屋を拘束しながら言うレオ。

 

嘆息するように言っているレオとは別に、達也と刹那は杉屋の言う『上方』『京都の組織』という言葉に少しだけざわつく思いだった。

 

だがマスターが倒されたことで動揺をしたのか、アーチャーの動きは精彩を欠く。

 

全く当たらぬ『弾』を前にして、銃弾の装填が遅れを果たし、次から次へと放たれていたはずの銃弾が遅滞を果たし―――。

 

その隙を見逃すランサー長尾景虎ではなかった。

 

今までは五分の捷さ(はやさ)であったものを七分の疾さに変えて、銃弾の距離を無にした。

 

「―――雷の―――」

 

振りかぶられる七支の槍。防御・回避・躱し―――全てがムダに終わる。その『直感』をもたらすほどにランサーの攻撃はアーチャーに死を予感させる。

 

百戦錬磨の感覚。同じ時代を歩いておきながら、ここまで違うのか―――戦慄が総身を駆け抜けた瞬間。銃剣を使って防御を―――火縄銃の全てが意志持つかのようにアーチャーの前面を壁のように閉じ込めながらも―――。

 

「呼吸―――壱の型―――雷獣一閃!!」

 

上半身の撥条と連動する下半身の強靭さとが、放たれた槍撃を地上に走る雷も同然に見せて、ブレが見えない一撃は一直線に銃壁を割り砕いて、雑賀孫市の心臓に入り込んだ。

 

その勢いごとの心臓貫徹は、物理的な衝撃で言えば巡航ミサイルによる発破力、破壊力を一点に集中させたようなもの。

 

勢いで槍を手放したランサー。期せずして投擲のカタチになったそれは、槍で雑賀孫市の身体を貨物船にまで飛ばして、七つの海を渡る頑丈な船体に磔にしていた。

 

勢いのほどは、3mほどは陥没したのではないかという雑賀孫市の背後の船体から察する。

 

そして盛大な吐血。普通の人間ならば即死だろう怪我のほど、心臓は破裂を起こしてもはや死に体だが、それでもサーヴァントの身体は、それでも生きていた……。

 

「終わりだなアーチャー。お前の霊核は潰させてもらった!!」

 

「て、敵に止めを刺す前から勝鬨をあげるなど、とんだ不心得者だな―――上杉謙信!!! がはっ!!!」

 

「殺す前にお前には聞かねばならぬこともあるからな。刀八毘沙門天の裁き、紅閻魔に裁かれる前に、吐くことを吐け―――」

 

「のぼせあがるな人気者……!!」

 

「悪態を突くなら、もう少し場面を考えるべきだな―――」

 

血塗れの雑賀孫市を冷たく見下ろして、もはや介錯仕るという態度を取り、手には「刀一振り」。

 

刹那が作っておいた数打だが……。気に入ってくれたようで何より―――と思っていると……。

 

刀一閃。

 

磔刑に処されていたアーチャー雑賀孫市の首が、ゴム毬のように跳ねながら雪原に轉がった瞬間。

 

「令呪を以て命ずる―――。アーチャー 雑賀孫市!! 我が身の縛りから自由となれ!!!」

契約解除命令(ディスペルオーダー)!?」

 

杉屋から発せられた命令。だが一瞬遅かったはずだとするも、再起動を果たすアーチャーの姿。

 

磔刑に処されたアーチャーが蠢いて、その後ろから新たなアーチャーが現れた。

 

まるで虚数空間からの出現にも見える―――ともあれ、それを景虎はどういうことなのか見抜いた。

 

「仏師の『ヒトガタ』か!!」

「スペアの身体にまで衝撃が及んだ!! だが――――。一矢は報いる!!!」

 

その時、死体となったアーチャーから『巨大な砲』が出てきた。

 

歴史に詳しくないものでも、それがどういうものかは知っている。そして歴史に詳しいものは、それがどういった由来の武器であるかを知っていた。

 

それは『歴史』を変えた『人理改定兵器』。

 

海賊提督『フランシス・ドレイク』に運用された大砲。

当時、植民地支配による莫大な利益と圧倒的なまでの戦力を有して諸外国を威圧していた『太陽の沈まない国』(スペイン王国)の『無敵艦隊』を沈め――。

 

城作りの名人。そして城落としの名手と称された『太閤秀吉』の戦国屈指の堅城として有名な大阪城。徹底的なまでに防備が考えられて正攻法では崩せぬその城を落とすまでにいたった―――。

 

火縄銃に次ぐ時代が生み出した『チート兵器』。

 

『カルバリン砲』が中空に浮いていたのだった……。

 

「お虎!!」

 

「―――」

 

もはや、銃の距離ではない。概念的には飛び道具だが―――それすらも無効化出来るのか―――。逡巡がマスターに走るが、それに頓着せずにアーチャーは必殺を備える。

 

「蛇龍邪道・大蛇砲!!!」(デミ・カルバリン)

 

砲口に魔力が溜め込まれる。宝具の出現で位置関係から一度だけ飛び退いた景虎の判断が、前進か後退か―――。

 

竜種のレーザーブレス。断続的魔力投射を思わせるものが火を吹く前に―――。

 

「後ろは死路! 前には活路有り!!!」

 

ランサーが選んだのは前進だった。4門も並べられたカルバリン砲が、今にも火を吹かんとする寸前に槍を突き刺す。

 

出来るか―――ブーストを掛けることすら、生粋の武人である景虎を狂わせる要因になることを危惧して、刹那はその一髪千鈞を引く戦いを見つめざるを得ない。

 

「BAAAANGGG!!!!!」

 

雪を吹き飛ばしながら接近するランサーに放たれる、アーチャーの最大攻撃。

 

降雪を溶かしてコンクリートの路面すらも溶かす熱量が解き放たれて、ランサーの逃げ場を失わせた。

 

先手を取られた。その驚愕の思い―――そして迫りくる光波の圧を前にしてランサーは―――。

 

スキル・運は天に在り A

 

スキル・手柄は足に在り A

 

保有しているスキル2つ デュオスキルとして自動発動(オートバフ)

 

ランサーは瞬間、光の速さを越えて、先んじて毘天の宝槍を一番左端から迫る光に対して真っ直ぐ投げ込んだ。

 

振りかぶりなど必要ないほどに真っ直ぐな投槍が、光を割っていき、砲門に入り込もうとしていく。

 

ぎょっとするアーチャー。そして、放たれる光を割っていく槍の軌道を追ってランサーは道を進む。

 

決していい道ではない。それどころか二叉に引き裂いた光の余波は、ランサーを強かに焼き付けていくのだ。

 

だが、それでも左端に至ろうとした段で、カルバリン砲を振り回して残りの火力を振り向けようとした瞬間―――。ランサーは反対方向に移動してのけた。

 

姿勢を低く低くしてのすり抜け。大蛇の如き長大な砲身を移動するために、船体に体重を預けていたアーチャーの失態である。

 

―――どんな体幹してるんだこいつは!?―――。

 

サーヴァントだからとか、軍神だとか言うレベルではない移動の仕方と速度。まるで猫科の動物のような身体の使い方だ。

 

そして左に進路を取っておきながらの右へのあっけない変更。

 

完全にしてやられた。明後日の方向に火力を吐き出すアーチャーに対して右半身に迫るランサーは、その走り出しの勢いのままに―――足元を狙った横薙ぎを―――フェイクとして、下から振り上げる形で刀を振り抜いていた。

 

下半身は前のめりになっていたのだ。そこから下半身の力を使わずに、腕の力だけで胸を切り裂いた。

 

その技は決して曲芸・棒振り芸の類ではなく、殺しの技として成立するものだ。

 

専門家(エリカ)がいなくても、それは男三人わかっていた。尋常な膂力ではないサーヴァントの秘技。時に『手打ち』の技でも殺しの技として成立する理不尽をおぼえながらも、詰みに至ろうとした時に―――。

 

深々と胸を切り裂いたそこから、トドメへと至ろうとしたのだが―――そこに走る、横槍ならぬ『横矢離』。

 

火を先端に灯した火矢が、次から次へと本牧埠頭に降り注ぐ。

 

「―――!!」

 

「レオ! その男を!!」

 

銀世界から一面が赤い世界に変じるほどの火力。まず間違いなくサーヴァントの宝具。

 

「船からだ刹那!!」

 

短い言葉を達也から受けて敵の姿を確認。そこには―――景虎と同系統だろう女武将の姿があった。

 

甲冑も最低限。張り詰めた弓を打ち鳴らして幾つもの火矢を解き放つそれに対して―――。

 

『ギリシャ火』を向けて炎の子弾を叩き出していく。追尾性能も持ったそれが火矢を迎撃していく。

 

周囲で延焼を起こす魔力の炎は――――。

 

「中々に強いが―――」

 

魔力の圧のことだろうが、それでも純粋な自然現象ではない魔力の炎を前にして、少しの苦心をしながらも、達也はそれらを消し去った。

 

先程まで冬であったことなど忘れさせる熱を受けながらも、自分の攻撃が無為に終わったことなどどうでもいいとして、貨物船の甲板から降りてきた。

 

特に魔術を使っている様子はないが、その人ならざる身の前では、そんなことも当たり前なのだろう。

 

 

「ご、御前!!」

 

バインドで拘束されていた杉屋が、その大弓と刀持ちの女に声を掛けた。

 

受けた『御前』という女は――――。

 

「どうやら生ぬるい戦いばかりをしてきたようですが、鍛えればそれなりに使えるでしょうからね。芋すないぱー、通称『芋砂』になれるぐらいはありますか」

 

「で、では!?」

 

「その身柄! この『御前』が預からせてもらいました!! 我が『夫』にして『主』は多くの志士を求めるものです!! 共に『朝陽』の元を歩みましょう!!」

 

言うやいなや、指先を向けてレオが掛けていたバインドの術式、拘束布を『燃やし尽くしてきた』。

 

まるでガンドを放ったかのように魔力の布は、燃えカスとなって地面に落ちた。

 

「―――さて、私の『正体』は分かっていましょう? ならば、この場で立ちはだかり、立ち向かう無謀も分かりましょう。立往生して矢玉を食らう義理もないでしょうしね」

 

サーヴァントであろう女武将は薄い笑みを浮かべながら、こちらを威圧してくる。

 

「手負いとはいえ、サーヴァント2体を相手にこの状況で強気に出られるかよ……」

 

だが勝とうと思えば『いくつかの手段』もあったのだが、アーチャーのサーヴァントの首に刀を当てているお虎も、どうするかを決めかねているのだ。

 

なりふり構わない手段に打って出られることが一番怖いのだ。

 

混沌とした戦況。リーナからの通信が入り、どうやら尾上氏の身柄は無事であることが分かった。

 

『それと船員たちは皆殺しだったワ。もうソッチに向かったと思うけど、サーヴァントが、ネ……』

 

短い言葉で、状況を察した……。

 

「このような細々とした状況で1大決戦など、間尺に合わんでしょう。

ここは退きなさい―――さもなくば―――」

 

さもなくばの次の言葉を聞くまでもなく、杉屋とアーチャー……雑賀孫市は本牧埠頭から消え去り、『御前』と呼ばれていた女武将も消え去った。

 

後は官憲任せだが、どうやら警察機構も彼らを追うことをしないでいる。状況は不可解極まりながらも―――戦いは尻すぼみのままに全てが終わった。

 

同時に……見え隠れしている『裏側』に『銀色の聖杯』がチラつくのは、連想してしまっているからではなさそうだ……。

 

 


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