魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第209話『聖夜異変―――エピローグ』

 一夜明けた東京都。昨日まで降り続いていた雪は止んでいたが、積もった雪景色は人々の心を弾ませる。

 

 その一方で転びそうなものも出ていたのだが……。

 

「うわっ!? ワッ、ワッ、ワッ、とととっ……」

 

「運動神経いいはずなのに、こういうのは無理かぁ」

 

「言いながらもダキトメてくれるアナタがダイスキ♪ ウインタースポーツの時にはワタシを指導シテ♪」

 

 路面を滑りそうになったリーナを抱きとめてのやり取り。周囲の人は『バカップル』がいるという視線。

 

 気にしてはならない。というか、この辺りの人々は良く知っているのだ。

 

 喫茶店アイネブリーゼ。こここそが待ち合わせの場所であり、ここいらの界隈では刹那とリーナは既に有名人なのだった。

 

 あんまりうれしくない限りだが。

 

 ともあれ、冬の装いながらもシャレた服装をしたリーナと共に、雪をざくざく踏みしめながら進んだ先で扉を開くと、ドアベルが鳴り響き来店となる。

 

「いらっしゃい。遠坂君、リーナちゃん」

 

「どうもお久で、メリークリスマスです。マスター」

 

「Merry Christmas♪」

 

「相変わらずのアツアツっぷりで、オジサン嫉妬しちゃうねぇ。待ち合わせの相手はあっちだよ」

 

 その言葉でトレイを渡される。

 

 上には自分とリーナが良く頼むものが載せられており、分かっている対応に感謝しつつ、マスターが指定した大部屋とでもいうべき場所に向かう。

 

「よぉ。お互い夜明かしの後は疲れるな」

 

「全くだ。が、少しばかり話し合おう。今回の件に関してな」

 

達也とのやり取りをしつつ席に座っていく。会話は途切れない。

 

「レオのDT卒業記念じゃなかったか?」

 

「本人いないのに祝ってどうすんだよ。それにまだまだ未確定の―――おいリーナ。何だその目は?」

 

「イエイエ、何でもゴザイマセンヨー♪ 」

 

 空いている椅子に座りながら、にやけた顔をしているリーナの意味を刹那はよく分かっていた。

 

 まぁ夕姫もよくやったもんである。実際、全てが終わって尾上氏が保護された後に出てきた宇佐美夕姫。

 

 一応、毛布を掛けられていて少しだけ薄汚れた尾上氏は、妹分であり恋慕を抱いている少女が駆け寄ってきたことに喜色を出したのだが―――。

 

『レオ、大丈夫!?』

 

 その一声と向かった先にいる少年の姿。

 

 驚愕の表情と共に鼻水を垂らすギャグ顔を見せるマネージャーである尾上アサヒ氏は、少しだけ可愛そうだった。

 

 マンガ家 稲田浩司先生のタッチになってしまった尾上氏は、セレスアートの黒服たちに同情されながらも、結局―――とりあえずアレコレと事情は立て込んでいるからと西城家の屋敷、刹那の実家のお隣さん(藤村組)にも似た家に匿われるのだった。

 

『ウチの担当アイドルに手を出すなよ!!』

 

『アサヒうるさい!!! さっ、レオ行こっ♪』

 

『ユ、ユウヒ―――!!!』

 

 哀れな限りの叫びを挙げるも、唯一生き残ったセレスアートの『社員』としての役目もあったので、尾上氏は寿和さんと響子さんに連れられていったのだった。

 

 保護された女の子たちも落ち着き次第、親御・保護者の元に送り返されるとのこと。

 

 ほんとうの意味での重要参考人たるフィリピンマフィアの頭目の身柄は黒羽の双子が抑えていたので、そこから様々な人身売買のルートの壊滅に役立つだろう。

 安宿先生の旦那『ハクタロウ』刑事と―――赤提灯のラーメン店の人物―――『目暮警視』という名だと知り、担がれていたことを知るも、あそこまで見事なハードボイルドだと何も言えなくなるのだ。

 

 表向きの一件はそれにて終了した。当初の四葉に降された指令が官憲の手に渡った形だが、それでも予定は達成された。

 何もかもが予定からひっくり返ったが―――四葉のスポンサーはそれを良しとしたようだ。

 

 だが裏向きの事情を既に察していた……。

 

「神代秘術連盟―――イリヤ・リズは、多くのサーヴァントとマスターをスカウトしているのか」

 

「だろうね。あの人の目的は十師族よりも直線的だ。やり方は迂遠だけども、求めていることは一つ。『魔法師の山』を崩すことだ」

 

 表向きの権力を『口先』だけでは「求めない」と公言している十師族の『専横』は、多くの表向きの関係者たちを苛立たせている。

 単なる『政治屋』の汚職絡みの案件ではないぐらいに、血生臭い事案にも発展すること間違いない。

 

 だがそれ以上に、『魔法師の統括者』あってこそ国防がどうにかこうにかなっているという現状は、ジレンマであった。

 

「杉屋善人―――名前から察するに『杉谷善住坊』の子孫と思ったほうがいいんだろうな。嘘か誠かは分からぬが―――雑賀孫市を引き当てた以上、そういった血筋であることは間違いない」

 

 神秘領域から離れつつも、魔法師研究がある種の『聖杯』を擬似的に作り上げていた。

 しかし、その一方で『触媒』との絡みもある。

 

 考えるに、本来の目的は『中間』でやめておこうとしたのではないかと思う。

 遺伝子操作の不安定性は、宇佐美夕姫の例で分かっている通りだ。

 

 求め過ぎれば『外れすぎ』、かといって何もしなければ『真っ当なまま』。

 魔法師の遺伝子操作は、最終的には物理現象の操作に振り切ってしまって、本来の目的は南極あたりに『ブッ飛んだ』。

 

 結果的に、『亜種の霊長』として世界に認識されたのだ。もちろん、中には英霊の霊基と反応しやすい存在もいるが……。

 

「最終的に、呼び出せるもの宿すものは限定されちまってるんだろうな」

 

「俺ではムリか?」

 

「俺の見立てでは無理だな。お前ほど物理現象操作に特化した魔法師というのは、完全に英霊からは『外される』―――まぁもしかしたらば、どっかには『奇特な英雄』もいるかもしれないが」

 

(思い当たるフシがあるんだろうな……)

 

 無言で刹那に対して思ってからコーヒーを飲む達也。

 

 だが、刹那の見立ても分からなくもない。結局の所、達也にとって魔法なんてのは解明された現象操作術なのだから。

 

 しかし、サーヴァント相手に無力なのは、何とももどかしいものがある。

 

 刹那が何かしらの『付与』をした弾丸ならば効くのだが……。まぁ深雪が直接害された事案でないならば、専門家に任せておくのが適当だろう。

 

 とはいえ、達也としてはこの後の展開次第では、そうも言っていられないかも知れない。

 

「十師族以外の山を作り、その山を以て十師族を打破する―――それも恐らく、何の咎めだてもさせずにな」

 

「ソンナこと可能なのかしら? 神霊基盤の確立だけでも、かなりの功績のはずでしょ?」

 

 神霊に依った『魔法』のバージョンを作り出す。そここそが神代秘術連盟の意図であると刹那から説明を受けていたが、それはいうなれば『プロ野球の2大リーグ制度』程度だと思っていた達也だが……刹那はもう少し踏み込んできた。

 

「既に大亜―――中国大陸では内戦が勃発している。貧すれば鈍する。衣食住満ち足りていなければ、戦の機運が出るのは、あの国では昔からの話だからな―――問題は、戦場に『サーヴァント』が出没していることだ」

 

「……―――……!!!」

 

 刹那からの言葉を受けて一瞬だけ何を当たり前のことを―――と思っていた達也だが、『その可能性』を考えて戦慄する。

 

「お兄様?」

 

「今はまだお互いを傷つけることに必死で、地続きの国、インド連邦や新ソ連に手出しをしてはいないが……」

 

 覇権を狙うことが常の国是。どこの『地域軍閥』が国家樹立を宣言するかは分からないが、2020年の新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)を、他国の軍事兵器だなどと面の皮が厚いことを宣う国なのだ。

 

 監視システムで、ちょっとばかり終息した風になった時にそれなのであるから……。どこが覇権を握っても面倒な話である。

 

「あるいは『火中の栗を拾う』ために、派遣されるかもしれないな」

 

 最初は、まぁ国防軍だろうが、何かの判断間違いで人道支援の名目とやらで陸戦部隊を送り込むことになれば、矢面に立つのは魔法師だろう。

 

「日中戦争の先例が生きていればいいんだがな……」

 

「―――『もう一回』潰しに行く?」

 

 にやけた顔で言う刹那に、達也は少しだけ憤慨するようにしてから言葉を返す。

 

「祖父・大叔父のような真似がいまの時代に出来るかっ。第一、お前サーヴァントがいるとか言っているじゃないか―――お前が協力してくれるならば、百歩譲ってそれでもいいが―――ああ、分かったぞ……そういうことか」

 

 権謀術数に通じているようで、微妙に通じていない達也の理解がようやく追いつく。

 周囲の面子も達也が口に出したことでようやくカンが働いたようだ。

 

「……十師族が尻込みする事態、サーヴァントの案件に奴等は出てくるのか」

 

「可能性の話だがな。実際、インストールを併用したところで真正の英霊とは比較にならない」

 

「アンジェリーナさんでも?」

 

「戦い方次第―――だけど、結局ワタシがフェイカーとの戦いでインストールしたゴーストライナー( 英霊)は、王貴人(オウキジン)を倒しきれなかったモノ」

 

 亜夜子の質問に、手を両側に開きながらの両肩竦めを見せるリーナ。演技ではないだろう。

 

 しかし達也及び刹那、深雪も知っている。

 

 彼女のインストールした中にはとんでもないドラゴンアイドル(?)がおり、エリリーナと化した時に、アルキメデスを狼狽させ、呂剛虎を倒してのけたのだった。

 

「ともあれ―――神代秘術連盟は、『どっち』に転んでも対処出来るようにしていると見たほうがいいだろうな」

 

「権力闘争とか生臭すぎるな」

 

 ショートケーキを食べていた榛有希の言葉に全くもってその通りだった。

 

 彼女の所属は、ある種のアンダーグラウンドな仕事を請け負う『会社』らしくて、現在『四葉』の庇護下にあるのも『色々』あってのことらしい。

 

 召喚学部が降霊科の下部組織になったようなものだろうかと身近な例を考えてから、『どう』転ぶかも分からない事態に戦々恐々としていたところでどうしようもない。

 

 

「天下国家の大計に関して、俺らがどうこう言える立場じゃないしな。行けと言われれば行くだけさ」

 

「そりゃお前みたいな余裕ある人間だけが言えることだ。その上で聞くが、あの時『火矢』を射掛けてきた女武将はサーヴァント。その来歴は分かるか?」

 

「ランサー」

 

 達也の質問に対して答えるために、刹那は適役を呼びつけた。

 

 頭の上にデフォルメされた姿で出てきたランサー景虎は、いつもどおりに酒を傾けていた。

 

『話は呑みながらも聞かせてもらっていましたよ。まず分かることを述べていけば、あの女武将は私の『時代』よりも古い英霊でしょう』

 

 安土桃山時代、戦国時代とも称される時代よりも古い時代となると、かなり絞られてくる。

 

「根拠は?」

 

『あのサーヴァントが弓弦を引っ張っていた大弓ですね。あれは、いわゆる『蒙古軍』が九州に襲来する前の武士のものです。

 あれほどの大弓は、よほどの武芸者でなければ弦を引っ張ることすら出来ないでしょうね。

 女だてらにそれを出来るなど、まだまだ『神代』の『幻想種』の血も濃い時代の武士でなければ不可能』

 

 前に八雲に聞いた限りでは、古代の日本には妖怪などの幻想の存在がおり、国の権力者・呪術師も通じていたという話だ。

 

『かつては『神』と交わることで、その超常の力を現世に残していた時代がありました。古事記などに伝わる天津神と国津神の伝説は、それなんですね。

 そして―――神ではなく『魔』と交わることで、その超抜能力を手に入れてきたのも武士や呪術師たちなのですよ』

 

「……『魔』と交わる……?」

 

『各地に残る伝説の中には、そういったものは多いでしょう。頼光四天王の一人、ゴールd……『坂田金時』とて、父親に雷神赤龍を持ち、人喰い山姥を母としていたと伝わっていますからね。他にもその源頼光とて、『丑御前』という牛頭天王の血を引く『姉』を持っていたほどです』

 

 それは魔法師にとっては、幻想どころか想像の中にすら存在していない話であったが、そうであるという確証は目の前にもあった。

 

 幻想の世界。まだ神・妖・人の境界が未分であったころの話というのは、達也と深雪にとってはもはや『当たり前』に受け入れられることであった。

 

 

『特に生粋の魔である『鬼』『鬼種』というものは、ヒトと生殖構造が似ていたので、かなりの異種交配が行われていたと聞きますよ』

 

「そうやって世代を重ねるごとに『混血』としての在り方―――『外見的』には見えなくなるんだな?」

 

『私の時代には、ありがちなイメージである『角』を生やした鬼の特徴を持った武将は見えませんでしたね。その頃には日ノ本からも、神代の『表層』(テクスチャ)は剥がれ落ちていましたから―――せいぜい『赤毛』のものは、『混血』の特徴として知られていました。『紅赤朱』とも称されていましたかね』

 

 混血、鬼種、クレナイセキシュ(紅赤朱)……現代魔法師の感覚としては俄には信じがたいものばかりだが、それを真実としてしまうぐらいには、そういったものを見てきたのだ。

 

『彼女が腰に携えていた『古刀の造り』から察するに、『鎌倉時代』の武士でしょう。その上でリーナ達がみた『首がもぎ取られた死体』の膂力―――伝説の通りならば『旭将軍』の愛人と見受けます』

 

「巴御前」

 

 その言葉で全員(刹那、リーナ除き)が索引して調べてしまう。確かに巴御前は、そういった伝承があるのだが……。

 

『まぁ白状してしまうと、私は彼女のことを知っているのですよ。あちらはどうだか知りませんが、『別の時間軸』での戦いにて、彼女と同じ旗の下で戦いましたから』

 

 そんなカゲトラスマイルの下、とんでもないネタバラシを受けて思わずズッコケてしまうのだった。

 

 英霊というのは本来、呼び出された後に『座』に帰れば、それまでの記憶や記録、様々な『変化』というものを消去された上で、再びの呼び出しに答えるそうだ。

 

 故にどこかの戦いで、刹那の父親(未来の姿)と縁が深い英霊―――アルトリア・ペンドラゴンなどと会ったとしても、双方が知らない可能性もあるとのこと。

 

 だが、刹那曰く『あの人の『原点』が、少女騎士にもあるんならば、親父の方は覚えてるかもね』などと素っ気ない言い方であった。

 

 ということを黒羽の姉弟と有希以外は考えていたのだが、なにはともあれ巴御前を従えているマスターも、現代魔法師の側と敵対関係にあるということだ。

 

『さらに推測させてもらえば、あのゲーマー未亡人は、正しい意味でのサーヴァントではないと思われます。『英霊が召喚する英霊』……インペリアル・サーヴァントとでも申しましょうかね』

 

「そんなことも可能なのか?」

 

「歴史に偉大なる『王』として君臨した存在、まぁピンからキリまであるが、集団・軍団を率いた存在というのは、時にその軍団そのものを『宝具』とすることも出来る。

 マケドニアから出て、多くの英雄を束ねながらオケアノスを目指した『征服王イスカンダル』

 アルゴー船の船長として、ギリシャ神話に轟く英雄たちをまとめ、大航海を成し遂げた船長『イアソン』

 ピスロトフス、ムステンサル、アリファティマ、パンドラス、ミキプサ、ポリテテス……数多の国の『王』を『将兵』として『指揮』し、あまたもの魔獣・巨人・魔術師という超常の存在を『兵器』として運用し、大連合軍を作り上げた大ローマ皇帝『剣帝ルキウス・ヒベリウス』

 呼び出されるクラス()にもよるが、軍団を組織したことが有名な英霊ならば、その軍団を宝具とすることも可能なのさ」

 

 その言葉に達也としては、言葉を発した『遠坂刹那』を見て『納得』しておく。

 

 ともあれ、巴御前を『サーヴァント』として従えるなど、もはや一人しか思いつかない。

 

「木曽義仲、源義仲か……」

「京都という土地ならば、かなりのマイナス判定を受けるだろうな」

 

 木曽軍の蛮行というのは義仲の旗本の指示ではなく、『勝手についてきた浪人崩れ』の行いだというのは多くの歴史家が言うことだが、『スレブレニツァの虐殺』然り、上が高潔な人物であろうと下にいる連中はただ単に獣欲を満たしたいだけの連中ばかりなのは、今更な話だ。

 

 有史以来、この問題は『軍隊』というものを作る上で付きまとうものだった。

 

「なんにせよ。明確なケンカを売られたわけでもないのに、あれこれ難癖をつけることも出来んか」

 

「けれどよ。杉屋って男は人身売買の主犯に成り下がってたんだぜ。お咎めなしって変だろ?」

 

 榛有希の言葉が割り込んできた。それは解決したようで解決していない表向きの事情。

 

「圧力だな。察するにご姉弟は、噛ませ犬に仕立てられたんだろう」

 

「スポンサーは僕らと京都を秤にかけたんですか?」

 

 静かな怒りが空気に満ちるも、その程度のことで怯む刹那ではない。少年らしい『誇り』を傷つけられたがゆえの悋気に苦笑しつつ、自分にもこんな時代はあったかなと思っておく。

 

「現代魔法師の最高峰たる四葉がどこまでサーヴァントに追い縋れるか、もしくは窮地に陥ることで『一化け』するか……そんな所だろう」

 

 そもそもサーヴァント及び神秘領域が極まった存在に対して、大方の魔法師が無力であることは既に理解されているはずなのだ。

 

 そのスポンサーとやらは、随分と『深すぎる見識』がある。

 

「何より、君の家『黒羽家』が『サーヴァント』を求めているのは分かっていたから、釘を刺すか、もしも手に入れた時には、何かしらの陰謀の道具にしようと思っていたんじゃないかな?」

 

「魔術回路による演算か?」

 

「いいや、思考のトレースってやつだよ。一種のヒューミントだな」

 

 陰謀家と陰謀に使われる駒。それは時計塔でよくよく見ていたものだった。

 

 四葉のスポンサーというのは、恐らく『イノライ』のババァのように幾重もの陰謀の網を張り巡らして、数多のものを奸計に利用する類だろうが、その精神構造はどちらかと言えば、愉快犯的ではない―――恐らく『高潔な存在』を気取っているのだろう。

 

 もっともそれは、『サンゴ礁』(生存社会)という環境を守るためならば、数多の『魚』(いのち)を『サンゴ礁』の一部だと考えるタイプだろう。

 

 あまり好きになれないタイプだ。

 

「見抜かれていましたか……けどサーヴァントを欲するのは僕と姉さんじゃないです」

 

「欲しているのは貢叔父貴か、そりゃ当主の座が欲しいならば、そういった力は欲しても仕方ないかも知れないが」

 

「もっと言えば、『色々』あるのですよ達也さん。当主の座には興味ありませんが―――」

 

 四葉の家中のことには興味ないが、後継問題というのは、色々と考えてしまうことだ。そういう意味では、頭の上にいるカゲトラの心を察しつつも、パフェをリーナと『あーん』しあって無視しておくのだった。

 

「いずれにせよ。別に文弥・亜夜子(おまえたち)の失点じゃないのは、叔母上とて理解してくれるはずだ」

 

「一筆(したた)める?」

 

「いや、今回はお前らには世話になったからな。これぐらいは俺と深雪からも言付けておくさ」

 

 そんな達也の心底の苦笑を以て、話自体は終わりを告げた。

 

 結局、未来の脅威になるからと手出し出来るような事態ではない。

 もちろん、このまま日本だけでなく世界各地に出現しているかもしれない『英霊』(サーヴァント)『使役者』(マスター)を陣営に引き入れていけば、十師族及び現代魔法師側は崩されるだろう。

 

 古式魔法師の側でも『極まった連中』は、いずれ現代魔法師を崩すべく動く―――分かっていても手出しは出来ない。

 

 その状況は徐々に……醸成されていくのだろう。

 

「ソレで、タツヤとミユキに伝えなくても良かったの? もう一つの目的『あの場に居合わせた』魔法師のガールズたちを利用した『ホムンクルス』(クローン・トルーパー)に関して」

 

「言って混乱させるのも悪いだろう。採血を受けていた目的が、それなのかすらも不確定なんだ」

 

「ソレもそうだけどネー……試している?」

 

 面白がるような顔をしてこちらを見てくるリーナ。

 それに対して、同じく面白がるような顔をしておく刹那。

 

「同盟相手にも明かせんこともあるさ。別にシスの暗黒卿(ダース・ティラナス)を気取って『ジャンゴ・フェット』のことを黙るつもりはないが―――」

 

「が?」

 

「あえて語らぬことで達也がどれだけ洞察出来るかを、少しは知ってみたいんだな」

 

 結論・友人に対するちょいとした意地悪であった。

 

 今ならば、ライネスがオルガマリーに『やっていたこと』の意味を何となく分かるのだった。

 

 ただやりすぎると、オルガ姉は『セツナアアア!! ライネスがいじめてくるわよ―――!!』などと、あまり帰っていない母国の『猫型ロボット』に縋り付くように泣きながら抱きついてくるのだった。

 

 アレで刹那の性癖は『狂った』ような気がするのは、押し付けられる『胸』の感触がとんでもなかったからに違いない。背が伸びるまでは顔に埋められていたのだから―――。

 

「甘やかすだけが、いい友人じゃないだろ? 時には、『してやったり』というので、相手に気付けをするのも一つだろうしな」

 

「ったくアクシュミ(悪趣味)ね!」

 

 そうは言うが、リーナも嫌悪感があって強くは言わない。深雪とのやり取りで、そういうのは何となく周知していたからだろう。

 

「さてと―――んじゃ家を出る準備は済んだよな?」

 

「of course! パパとママに会うのも夏以来だものねー……マゴの顔が早く見たいとか言われたらばドウしようかしら?」

 

「お前の親父さんは、『まだ早い』とか言いそうだけどな」

 

 嘆息しながら、まとめた荷物を持ち上げて真っ赤な顔をして頬を押さえるリーナに現実を認識させておく。

 

「モー! そこは夢見させてヨ――!!」

 

「さっ、早く行こう。リーナの無事な姿だけが、2人の安心材料なんだからさ」

 

 結局、親なしのオーフェンに出来ることなど、無事に預かっている娘さんを守ることだけなのだから―――。

 

 よって―――。

 

「……お嬢さんの出立は年明けと伺っておりましたが?」

 

「はっはっ!! まぁアレだね。雫も魔女の娘だけに、思い立ったが吉日で(ブルーム)を使って旅立ってしまうんだよ! 無論、古めかしい赤いラジオは持っていかないがね」

 

 北山潮氏の快活な笑みと同時の、アレコレと『光井』と『御母堂』から世話を焼かれている雫を見ながら、どうしたものかと思う。

 

「まぁ実を言うと、『匿名』の通報で君とアンジェリーナちゃんが帰郷するってのを聞いてね。そういうことだよ」

 

「途中までは案内できますが―――というかあちらの現地法人にも人はいるでしょうに」

 

 匿名の通報。それだけで『誰』の仕業か分かりすぎた。

 

 あんにゃろと呪詛を込めながら心中でのみ舌打ちをしておく。

 

 ともあれ、雫が向かう留学先であるバークレーは、リーナの実家があるシアトルと同じく西海岸である。途中まで案内するのは大丈夫だろう。

 

「最近の情勢では特に魔法師に対する『ネガキャン』は行われてはいないが―――親心というやつだ。頼むよ遠坂君」

 

「言われずともそこまでの護衛はやりましたよ。ご安心を」

 

 現地で何があるかはわからないのだ。年末年始を海外で過ごそうとする人々でごった返す中、現地の状況は『良くも悪くもない』。

 

 そこまで心配することでもあるまい―――そうしながらも雫に向けられるそういう親心は、少しだけ羨ましかった。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 Interlude―――Next order―――prelude……

 

 実験は成功したはずだった。

 

 その力は合衆国の新たなる力となるはずだった。

 

 だが違った。自分たちがやったことは地獄の釜を封じていた蓋を開け放った行為なのだ。

 

 震えながら、あちこちで響く悲鳴と何かが砕け散る音をやり過ごしながら、最期の平静を保つために、ペンと古めかしい紙を以て記録を付けている研究員。

 

 この紙すらも残らなくなるかもしれない。だが、この行為に意味があると信じなければ、自分は―――。

 

 分かったことを書き記せるだけ書き記していく。手に入れた紙は血と汗と涙に濡れており、判別を不可能にするかもしれない……それでも、最期の力を振り絞って見つけた頑丈な金庫に紙の束を放りロックを掛けておく。

 

 書いている途中で気づいたことだが、もはや老齢―――70を越えようとしている自分が、あの『化け物』たちの襲撃から、ここまで逃げおおせられたこと自体が奇跡的だった。

 

 ああ、今ならば分かる。もはや自分は、『奴ら』と『同じ』存在に―――。そして自分の『親祖』が近づいてくるのを感じて―――。

 

 そうして―――金庫に紙束という『証拠』を入れた男の『ニンゲン』としての『最期』を研究所内の記録映像で確認した『ベンジャミン・カノープス』もとい『ベンジャミン・ロウズ』は、最大級のイレギュラーを呼び寄せたと頭を痛める。

 

「デーモンを喰らう『ヴァンパイア』―――『死徒』か」

 

 異界知識によって犯人を見出したベンジャミンは、カメラに映る『一人の少女』を見る。

 

 半世紀以上は前のジャパンのスクールガールのような服装をして『地面に着きそうな長すぎる茶髪』を『ツインテール』にしている少女。

 その手が血塗れであり、血のように真っ赤な目で、こちら(カメラ)を見ていることに恐怖を覚えるのだった……。

 

 ……Next order―――prelude―――end.

 

 


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