魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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来訪者編~~Sixth order 真月譚・外典Actress Again~~
第210話『老兵たちの挽歌』


学生の一年間の終わりは12月でとはいかない。

 

入学及び新学期が始まったのが4月からならば、その手前ぐらいで終了となる。

 

当たり前のことを思いながら駒を動かしていく。

 

冬場は色々ありすぎた。

 

ハロウィン・パーティー、クリスマスのちょっとした戦い。その後に―――空港でのこと。

 

流石に新年明ける前に実家に帰した方がいいという進言もあり―――、まぁバッティングしたわけである。

 

雫の留学は既に伝えられていたことだったが、行くのが年明け前だとは知らず―――。

 

「北山くんにもう少し諦め心があればよかったのだろうな」

「見事に被ったわけですよ。俺の場合は便をずらしても良かったんですが……」

「それでも、シールズくんのご実家には早く行かねばならなかったよ。遠坂くん」

 

分かりきっていることを言われる。目の前にいる髭面の御仁。口ひげに顎髭にと豊かに蓄えた男の名前は―――知らぬわけではない。

 

「で、まさか俺と一局指したいがためだけに、ここに呼んだので? 校長先生」

 

「それもある。君ほどの指し手は中々にいないからな。ダ・ヴィンチ先生といい勝負だ」

 

ヒゲに着きかねない勢いで玉露を飲みながら盤面は動いていく。

 

「まぁ『目立つ生徒』、何かしら『色々な生徒』と一局指しながら『見る』というのも、校長の義務だよ」

 

「さいですか……じゃあ、いい機会だから聴きたいんですけど、校長と烈のジジイは仲悪いんですか?」

 

「悪いな。私はあの方が嫌いだよ。どれだけ理があちらにあり、合理であろうと『情理』が無いのが、あの人―――九島 烈だ……」

 

ただ単に十師族ぎらいだからというほどのものでもないようだが、それをどうやら話してくれるそうだ。

 

深いソファーに身体を預けて、思考を働かせるように言葉が紡がれる。

 

「昔の話だ。私―――僕には、仲がいい友人がいた。彼は、僕だけでなく色んな人と交流を持っていた人間だから烏滸がましいかもしれないが、僕は―――彼を親友だと思っていた。

そうだな……いまの―――キミと司波達也君との関係にも似ていたか」

 

校長室にある大きな窓。ソファーに腰掛けながらも、その光景は見える。

 

青空が広がる今日は、いい天気であった。

 

その天気を眩しそうに見ながら校長は口を開く。

 

「まだ十大研究所が、活発に動いている最中、魔法師研究というものが倫理性を無視していた頃。エレメンツのあとの世代が世に出ていた頃だ―――当時の魔法師の地位など現在に比べれば強烈に低かった。

今のように『携帯出来るCAD』もなく『魔法教育』すらも手探りであった時代―――魔法師の『人権』を得るための派閥は2つだった」

 

それは時代の生き証人の言葉であり、聞き逃してはいけないものだった。

 

一つは、研究所の目論見通りに『防人』『護国の戦士』としての功績で、国に魔法師を根付かせるというプラン。

 

これはかなり現実的なものである。移民政策が多くありしアメリカ合衆国においても、日系移民が『戦争』に赴くことで権利を得てきた時代もあった。

 

鉄血を国家に捧げることで、為政者の慈悲に頼るだけでなく、己の価値を示すことで同胞であると示す道。

 

推進していたのは―――九島 烈ということだ。

 

もう一つは、軍事分野における価値を認めつつも、それだけに拘泥しては後々先細る。『異能の戦士団』として見られるだけだ。

 

そうなるならば多様な教育を魔法師に受けさせることで、各分野にて少し、ほんの少しの『魔法』の手助けでの優位性程度で構わないのだ。

 

そうであれば多くの魔法師たちは人類社会に溶け込める。テクノロジーの進展だけでは、どうにもならない『隘路』ともいえる『点』を解消できる。そういう存在でもいいはず。

 

「魔法師だからと治安維持分野(軍・警察・保安庁)だけではない場所にいても構わなくしたい―――そう思っていたのが、九島 健―――シールズくんの祖父で、僕の親友だった男だ……」

 

懐かしい思い出に浸り、当時の気持ちに再帰している校長先生は―――本当に穏やかな顔をしていた。

 

正直言えば、着ている衣服と目の鋭さといい―――見様によってはヤクザの大親分にしか見えませんぜ、と誰もが口を揃える百山校長だが、こういう好々爺な面もあるのだと気づかされる。

 

「いい友人だったんですね」

 

「いやぁそうでもないな。僕が勉強している時、家の外から『オーイ!! モモヤマ――!! 街にナンパしに行こうぜ――!!』などと大声で言ったり。

『北海道まで古き善き自転車で行ってみよう!! ケイデンス上げていこうぜアズマ!!』などと、アホなことから無謀なことまで、本当に苦労させられたよ……」

 

おーい磯○、野球しようぜ。なノリで言っていたとか、破天荒すぎやせんかと思う。

 

「その苦労も―――いい思い出なんでしょうね」

 

「まぁな。あの経験があったからこそ、今の地位に齧りつくことが出来た。失敗もあった。決して良きことばかりが出来ていたわけではないが……それでも親友の言葉は裏切れなかった―――」

 

眼を瞑り当時のことを語りだす校長……歴史の秘話が明かされるが、当人からしてみれば、悲しい親友との別れであった。

 

 

『合衆国に行く!? 何で!?』

 

『色々あったとしか言えないな。パツキン美女とよろしくやるにはいい環境だしな。待ってろボインちゃんたち!!!』

 

『ケン』

 

『―――悪い。昔みたいに、そういったことでは誤魔化されないよな』

 

『当たり前だ。キミが戯けて言うときは、何かしらの深刻なことがあるんだ……』

 

川縁の草原に寝転がりながら語る2人の男たち。

 

少しだけ表情を改めた片方が語ることは、片方の男にとっては、想像の埒外ではなかった。

 

戦争において功績を持ち、戦果をあげてきたことで、巷では『魔法将軍』『魔戦将軍』とも言われている九島烈の主導のもと、十大研究所の魔法の有力家を選抜した上での合議及び相互監視制の『組合』を作るという話は―――多くの魔法師たちの耳にも届いていた。

 

『兄貴としては、政府筋には護国の為と地域防衛の為などなどと言って、有力家系には、恐らく『魔法師の地位向上のため』などと言っておくんだろうな。

団結の力で以て、国家・国民に自分たちの存在を認めさせる―――『悪くはない話』ではあるだろう』

 

だが東も健も、その話には抜け穴がある。あまりにも雑な落とし穴があると気づけていた―――。

 

現実に国際連合や国際機関の殆どが『金権化』して場合によっては、選挙運動の資金援助・ロビー活動などを受けて、その国家や団体の意見ばかりに振れてしまっては中立な立場での活動など無理なのだ。

 

第一、如何に相互監視を持つと言っても、何処か一つが出し抜こうとして強大化を図ろうとすれば、力の均衡(バランス)は容易く崩れる。

 

崩れてしまえば、その一つを止めることは難しくなるだろう。

 

『これは魔法師の平易化・一般化じゃない。『特権化』だ! こんなものを―――烈センパイはやろうってのか……!?』

 

電子ペーパーに記されたものを見て、東は慟哭する。やり方は違えど、求めているものは同じだと思っていた。

 

理想にたどり着くための手段は違くても、志は同じだと思っていたのに……。

 

裏切られた気持ちが渦巻く。

 

そして―――。

 

『この十大合議制度を通すために、お前を、ケンを―――実の弟を、国から追放する……。そんなこと、許されていいもんか……!!』

 

きっといずれ、魔法師たちは血を分けた親類……『親兄弟』との『骨肉の争い』をする。

 

団結を誓い、同じ血筋にあるものを大事にしてきたからこそ、緩やかな代替わりも出来ていたのだ。

 

特権化を果たせば、その家の主という地位は、欲深く求めていくものに成り下がる。

 

だというのに、その魔法師の先駆者が、自分の理想を遂げるのに邪魔な弟を政府と一緒になって国から追放する―――。このことは悪しき先例として、根付くに決まっている……。

 

『仕方ないさ。軍功をあげた兄貴に比べれば、俺なんてただの研究者で学生さ―――邪魔な考えを持っていれば、魔法師社会に相容れない2つの山、2つの天が出来ちまう』

 

『それでもいいはず。いいに決まっている!! 多くの先例が示す通り多様性を無くしたものは、なんであれ緩やかに死滅するだけだ!!

お前の考えは―――間違いじゃない……』

 

風が―――吹きすさぶ。東にとって、今の親友は見たことがない顔をしていた。

 

己の運命を自覚して、悟って―――諦めて―――、いや、その顔は消え去っていた。

 

何か―――『明日』を見ているかのような顔に、はっ、とさせられた。

 

『今はまだ―――兄貴の考えは間違いじゃない。その考えでしか魔法師は社会に溶け込めないならば、それでいいんだ。

その考えが不幸な人間を作り出すことも承知している……どうやっても詰め腹切らざるを得ない人間も出てくる―――けれど、長くは持たない。

固く考えるなよアズマ―――まだ魔法師が生まれて一世紀も経っていないんだ』

 

『―――ケン……』

 

『急いては事を仕損じるとも言うだろう……俺たちが幸せになることを望まないわけじゃないさ。

それ以上に大切なのは次の世代に可能性を託せるかどうかだ。

あきらめず最後まで見届けるんだ。これから生まれてくる魔法師たち―――それと関わる全ての人を―――』

 

先程まで降り注いでいた雨の下、『虹』が架かる空を見上げる親友につられてアズマも、それを見る。

 

そこに―――何を見ているかは分からずとも。『何か』があると……。

 

そしてその言葉を―――忘れてはならないのだと。

 

『魔法師が生きるには、まだまだしがらみが多すぎる。手助けをする人間が必要だ……。

堪えてくれ。その場に留まれ。俺はもうこの地に戻れないけれど―――お前ならば出来る。

決して成功だけを望むな。結果の善し悪しだけで成否を判断するな―――いつの日か来るんだ……。

日本の、いや世界の魔法師たちを巻き込んだ大きな変革の嵐が巻き起こる―――』

 

『ケン……』

 

『予感があるんだ。予言じゃない。明確じゃない―――だけど、何となく分かるんだよ……だから―――俺の『後輩たち』を見届けられる所に、兄貴とは違う『上』に行ってくれ。

あいつら(学生たち)が自由にやるためにお前も助けになってくれ―――これが外れたらば、お空より高いところで、お前に一番いい酒奢ってやるからよ―――ついでに言えば、弁天様かおユキちゃんみたいな天女かラムちゃんみたいな鬼美女をナンパしようぜ♪』

 

『お前は『どっち』にいってもそれかよ!? というか何でうる星やつら!?』

 

『るーみっくわーるど大好きだろう?』

 

『好きだけど!!』

 

完全に手球に取られる形ではあったが、それでも親友との別れが、湿っぽすぎるのもイヤだった東は、その後―――数日を経て空港にて『金髪美女が俺を呼んでいる!!』というアホを送り出すのだった……。

 

メールや連絡自体が出来るとはいえ、面を合わせて酒を飲み合う機会が失われることは、本当に辛くなることも分かっていたのだった……。

 

 

「その後は、キミも知ってのとおりだ……。僕は、設立間もない魔法科高校の教職員になり、その後、様々な転勤や転属などなどを繰り返して11年前に、この一高の校長に就いた。

ケンが言っていた予感が的中する日はいつになるか分からない―――もしかしたらば、そんなものはなく、いつかお迎えが来てケンと一緒に酒でも飲むか―――そう思っていた時に―――キミが現れた。まさか親友の孫と一緒にやってくるとは思っていなかったがね」

 

すっかり冷めてしまった茶を飲みながら語る百山校長の言に、少しだけ反論をしておく。

 

「リーナの『じいじ』が予言したのが、俺とは限りませんけどね。もしかしたらば、ダ・ヴィンチかもしれませんし、達也かもしれませんよ?」

 

「司波くんも一角の人物だろうが、彼は選民意識が強すぎる。本人に自覚があるかどうかは分からないがね。

彼の『革新』では、魔工を磨く科を作る程度だろうな。それでは、二科の―――伸び悩むものを掬い上げられない。笊の篩に掛けて、下に落ちたものから『原石』を見いだせるのはキミだろう?」

 

単純に現代魔法の基準における笊の目が荒すぎるだけだ。もう少し微に入り細に入り見ていけば、何かがあるのだ。

 

そういう意味では、降霊科の冠位指定のように、試練じみた『観察』は必要だった。

 

もっとも降霊科の……というより貴族主義派閥の考えはあまりにも現代魔法師の上層に似通っている。

 

骸骨ロード(クソジジイ)からすれば、『………たわけが、あのような……擬い物と、我らを同列にするな……』などと言ってくるだろうか。

 

「何はともあれ、そういった話は―――俺よりもリーナに聞かせたほうがいいですね。

結局、俺は九島の人間ではないんですし」

 

「シールズくん……アンジーちゃんと画面越しとは言え、私は会ったことがあるんだよ。

健のヤツが自慢げに抱きながら見せてきて……『あのヒゲの珍しい動物が、爺ちゃんの友達だよ』とか言ってきて、『ヒゲーーー!!』(Beard)などと笑って指差しながら言われたんだ……ちょっとしたトラウマだよ」

 

「今の分別あるリーナは言いませんよ。そんなこと」

 

俺の女を何だと思ってるんだ。そういう思いで『最後の駒』を動かして『詰み』に持っていった。

 

「むっ、ま―――」

 

「待ったを掛けても、逃げ道ないですよ校長」

 

「確かに……きっちり玉が詰まされてしまう―――やれやれ……まいりました」

 

「今度は飛車角落ちで相手してあげましょうか?」

 

「それは流石に『私』が情けなさすぎるので勘弁願う」

 

制服の上着を掴みながら言った言葉に苦笑を漏らす校長。

 

だから、まだ一年の終わりまで少しあるが言っておく。

 

「まぁこの一年……自分が不足なくあれこれ出来たのは、百山校長のお陰だと思っていますよ。

オレ一人じゃ―――ウェイバー先生のようなことは出来なかった」

 

「ロード・エルメロイ2世。彼ともう少し早く会えていればと思うよ……だが、キミを残せたことが一番の成果なんだろう」

 

半人前の自分で出来ることなど然程ないのだ。今更ながら、あの教室で学んでいた自分が、ここにて出来ることなど―――。

 

「リーナの爺さんの予言が俺かどうかは分かりませんが、精一杯これからもやらせてもらいますよ」

 

その言葉で満足したのか将棋盤を片付ける校長先生。

 

「北山くんの代わりにやってくる留学生だが、三名―――全員、B組に在籍させることにした。頼んだぞ」

 

「爆弾発言残さないでください」

 

「三名とも女子。しかも美少女だ。頼んだぞ」

 

「何を頼まれているのか意味不明になる言動!」

 

「アクが強い生徒は全てB組におしつけようという暗黙の了解が、職員室には存在している!」

 

「なにサラッととんでもねーこと暴露してんだ!!」

 

「最初っからキミとアンジーちゃんが、B組にいるのは必然だったのだ―――まぁそこは半分、冗談だとしても、三名はエルメロイレッスンを求めてもいる。A組にいる司波深雪くんよりもキミが適任だと思ったのだよ」

 

嘆息して、それが本題か。そう思って納得しておくのだった。

 

「それじゃ失礼します」

 

ソファーから立ち上がって一礼してから退室をすることにした。

 

「ああ、励めよ青年。まだまだ君たちの時代は始まったばかりだからな」

 

校長室の扉。前時代的ともいえる重厚な手押しのそれを退けて刹那は、これがエルメロイ先生の境地かと阿呆なものを考えるのだった。

 

 

再び1人になった校長室にて百山 東は、敢えて刹那には語らなかったことを思い出していた。

 

それは九島 健の言葉……。それは、予言を確かなものとしていたのだ。

 

『それとさ。俺は『見たんだ』……。

俺の孫娘―――とても可愛い子が、いずれ七色の宝石にも似た『魔法』を携えた少年と一緒に―――日本にやってくるってな。

そいつが挑むのは、日本だけでなく全ての魔法師の世界。変革は起こるぜ……親友(あいぼう)

一世紀を数えようとする時代に―――現代魔法、古式魔法に関わらずその『歴史』をすべて背負って―――この世界に戦いを挑むものが現れる……!!

俺の言葉、忘れないでくれよ―――アズマ……』

 

そうして堪えてきた。

後進の為に身を粉にしてきた。一科、二科の違い。校章のあるなしを是正しようと思えば出来た……。だが、それを越える人材が日本(ここ)から出てくることを期待した。

 

健の予言だけに頼らず誰かが疑義を持ち、何かを変えようとするということに……。

 

しかし、十師族の長男と長女がやってきても変わらないことに気づき、結局―――ダメなのだと気付いた。

 

そして―――運命の日が来たのだった……。

 

 

「ったく―――遅すぎるぜケンちゃん。けれど耐え忍んで、そして待った甲斐はあったよな……」

 

少年の頃のような笑顔と言動をしてから窓の外、眼下にていちゃつき合う2人の男女を筆頭に歩いている集団を見る。

 

変革はまだまだ続く。時代を動かす少年少女たち―――その側に、また3つの宿星が寄り添う時は近づくのだ……。

 

 

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