魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
レベルジャスティスで、その存在を知りゲーム性に心動かされた私なので、『ええ、マジか……』と、かなりショックを受けてしまった。
日常生活のアレコレが変わればゲームをしている時間も少なくなる。そしてゲームを買うことも少なくなる。
分かっちゃいても複雑な話だ……。というわけで、新話お送りします。
「ふむふむ。つまりは、私が向かうニホンにて全ては変わるわけなのですね」
『そういうことです。今は表層にしか出れない私ですが、聖心の運命に従い貴女に宿りし
正しき流れ―――そんなものを欲していたわけではないのだが、それでも『背中』に現れた聖痕が、奇異の目で見られることは多かった。
フランスは
現在の再構成世界においてヨーロッパの立場は極めて微妙だ。東に大国ロシアから発展した新ソビエト連邦というものがあり、その影響力は計り知れない。
新たな西欧世界の構築は誰もが求めながらも、なかなかに上手く行かないのが現状だ。
アラブ同盟とて一応は協力関係を保てているが、信じられている教義、はたまた宗派・民族の違いはいつ表面化を果たして瓦解するか分かったものではない。
自分を送り出した父は、統一の象徴を欲していた。
西欧諸国をまとめ上げる―――それは―――。
「まぁ、そんな堅苦しい目的なんて二の次です! 私はジャポンに行ったらばネオ・アキバに、ネオ・イケブクロは乙女ロードで、お父様の稼いだ『税金』をジャポンのサブカルチャーに捧げます!! これぞ主のご意向です!!」
『レティイイイイ!!! 都合のいい解釈をしないでください!! はぁ……取り憑く相手を間違えましたかね……』
(やっぱり悪霊ですか?)
(断じて違います!!)
飛行機の中、用意されたエグゼクティブシートの中で一人で語っていた少女は、如何に個人スペースが確保されて機密性を持っていたとしても、フライトアテンダントの奇異な目を向けられるのだった。
(ニューメキシコ空港のフライトからこっちに回されたけど、バカップルの次は電波少女とか、昨今の我社のフライトには変な乗客が多すぎるわ……)
妙なシンクロニシティを覚えながらもフランスからの来訪者は、UKからの来訪者と同じくニホンへの道をたどるのだった……。
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「まさかグランパに、そんな時代と合衆国移住の理由があったなんてオドロキね」
「聞いたりしなかったの?」
「ワタシにとっては優しい『じいじ』だったもの、グランマに一目惚れしてママが生まれたからとは聞いたような気がするワ」
日本が恋しいという気持ちを出さなかったのはリーナを気遣っていたのか。はたまた百山校長の言の通り、金髪美女に骨抜きにされていたからか。
真相は定かではない。ただ、半々だったのだろうと思っておくのだった。
「セツナも帰りたい?」
「どこに?」
「言わなくても分かってるクセに……」
不安げな顔を見せるリーナ。廊下を歩きながら、そんな会話をしていた矢先の不意打ち。
「そりゃ帰ってみたらば、天文台の封印指定が解除されている……――――いや、そうであっても、もはや帰りたくないんだな」
「ナンで?」
「言わなくても分かってるだろ……」
のぞき込むように向けられていた顔。その頬に手をやる。柔らかな感触、何度も慈しみ、何度もその柔らかさに愛おしさを覚えてきた。
それを捨てることは出来なかった……。
「嬉しいワ。セツナ……この後は顎クイからのキスを……」
「廊下の真ん中でそんなこと出来るかっ」
「やーん。セツナのアブノーマルな趣味が、ワタシのナイスバディを蹂躙するぅ♪」
こちらの頬を触っていた手を逆にとって胸の上辺りに導くリーナ。
そのイタズラっぽい顔に、『このアマ』と少しだけ苛立ちを覚えながら仕返しをすることにした。
「ほほぅ。そこまで言うならば―――いいだろう。こちらとしても遠慮はしないんだが、どうするよ?」
「え―――エエエ―――!? さっきまでのは準備運動!? いやいや!
「長っ」
何をメタなことを言ってくれやがるやら、とはいえ恋人を慰めるぐらいはせにゃ甲斐性なしだよなと思う。
「悪かったよ」
と言って背中に回り込んで髪を撫でながら、腰に手を回す。
『あすなろ抱き』の変形とも言えるものをやって、リーナが体重をこちらに預けてくるのだった。
「ゴメンナサイ。ただ……少し甘えたかったわ」
「家まで待ってほしかったけどな」
「だって――。B組に来る来訪者は3人美少女とか、厄介事のニオイしかしないもの。その中にセツナを狙う
「ハニートラップがあるんだとしても、狙いは明らかだろ。達也とも話したが、他国の狙いは俺が持つ『聖剣』だろうからな」
「英仏の狙いはそれよね―――じゃあエジプトの狙いは?」
「さぁな。ただ俺が絆されそうになっても……」
君さえいれば、どんな
『魔宝使い』が、この世界で得た唯一無二にして絶対の『宝石』が在る限り、男は―――最強の戦士になれるのだから。
無言で告げた言葉。視線でのみ繋げた言葉にリーナは、綻んだような笑顔で理解してくれた。
「マッタク、なんだか心配しすぎて損しちゃったわよ」
「嫉妬されて悪い気はしないが―――もう少し信頼してくれ」
「ハーイ♪」
抱きしめの姿勢を終えて離れ合う恋人どうし。
再びの歩き出し―――その一方で、先程のリーナの言葉に懸念が疼き出した。
ありえるはずがない。『居ない』と分かっていても―――何かの符丁を感じる。
(まさか、な……)
何気なく左手にあるアトラスの礼装を見る。そこにあるのは思い出。
エジプトという土地の過酷さに負けず、否―――その過酷さが生み出した『心』のもと、人類の終末に備え、滅びの後に立ち上がるものを作ろうとしていた『院』の錬金術師の顔を少しだけ思い出した。
「セツナー、エリカたちが呼んでるわ。行こっ」
思い出してそれが直ぐに霧散する。
あり得ないことのはずだから、それ以上考えることは蛇足だった。
だが、それでも繋がりはあるのではないかと期待しておいた。
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翌朝―――留学生の噂はそこかしこに出ていて、様々な噂話で持ち切りであった。
確実に言えることは―――。
やってくるのは三名。
そして性別は、女子―――。
これで学年問わず男子のテンションアゲアゲ(死語)。
そんな男子の浮つきを見て女子はテンションサゲサゲ(死語)。
しかし、三名全員が『一学年のB組』に属するということで、1−B以外の男子のテンションが少し下がる。
一学年でも『建前上』は最優秀の生徒ばかり集めたという『A組』。あの入学総代・司波深雪のクラスではなく『B組』ということで、『何か』を察する男子たち。
だが、そんなことは当の1−Bにとっては、どうでも良かった。
クラスの華が増えるということを喜ばない男子はいないのだ……約1名を除いて。
「留学生かぁ。雫が渡米しちゃったのは寂しいけど、新たな出会いもあるもんだよね」
「魔法大学のゴリ押しで決まったとも聞くけどな」
雫自身は望んでいたとはいえ、交換留学というところまで踏み込む理由は、正直見えなかった。
そして何より自分が三名の
その三名がどこに行くにせよ一緒であるならば、まだなんとかなるだろうが。
「フォロー頼むよ名探偵」
「まっかしといて!! フフフ! アタシのクイーンズイングリッシュは、せっちゃんと同格以上!!」
自分の机の周りで騒ぎ立てるエイミィにとりあえずのサポートを頼んでおく。
顔文字で言えば(>ω<)というべき表情をしているエイミィ。若干、国際色豊かなB組だからこそ出来ることでもある。
というかそれも狙いだったのではないかと思う。
いや違う―――。百山校長は面白がっているだけに違いないのだ。
とはいえ、その思惑に乗らざるをえないのは、性としか言いようが無いのだ……。
「みんなー席ついてー。HR始めるよ」
自動式のドアが開かれ、そこからゆるふわの栗毛持ちの教師が現れた。
教壇に端末などを置いた様子に、クラスメイトはそれぞれで『所定』の席に着く。
この時代ともなると個人データを呼び出す端末は共用なので席順などあってないようなものだが、都合半年以上も同じクラスにいれば、それなりに『ここは誰某の席』ということが根付くものだ。
1−Bのクラスに追加された席3つ。端末の感じは若干新しい。
「さてさて皆して浮ついてるね―。分かるよー。石を使って新たなる英雄たちを召喚するが如き高揚感に身を浸しているようだ。果たして『厩舎』が必要になる英雄なのか、意思疎通が可能なのか! ―――まぁそれはともかく」
言葉を区切ってから咳払いして再び口を開くロマン先生。
「では古式に則り、言わせてもらおう。喜べ男子―――!! 今日は噂の留学生を紹介するぞ―――!!」
『『『『OH! YEAHHHHHHH!!!!』』』』
バカばっかか!? そう言いたくなるテンションアップのスタンディングオベーション。
男子一同(刹那除き)+エイミィの声に刹那は肘付きながらエイミィ除きの女子一同と同じく思う。
「では入ってきてくれたまえ」
『『はい』』『オウ!』
2人ほどは礼儀正しい感じがするが、一人は威勢のいい感じだ。
それに違わず入ってきた姿に誰もが眼を奪われる。
見えてきた顔2つは、刹那・リーナには何ともデジャヴを感じるもの。
そしてもう一つの顔に刹那は『他2つ』とは違うデジャヴを覚えた。
(シアリム!?)
ベレー帽を被って、長過ぎる紫苑色の髪を一本三編みにしてテイルのように背中に下ろしている少女に、心臓を掴まれた気分だ。
「では自己紹介を」
「はい。ドクターロマン。ニホンの魔法師のみなさんはじめまして、フランスからやっていまいりました『レティシア・ダンクルベール』です。
何かと分からぬこと・至らぬ点が多くてご不便お掛けしますが、よろしくお願いします」
最初の自己紹介は、フランスからの留学生だった。
金色のロングヘア。かなりのボリュームあるだろうそれを後ろの方は三編みにして、ベレー帽と同じくテイルのように垂らしている。
若干くせっ毛なのか、テイルにしたもの以外は外側に跳ね気味である。顔立ちは――――『親父』ならば勘違いするかも知れない。
その顔立ちは―――『アルトリア・ペンドラゴン』に似ていた……。
そんな感想を除けばレティシアの顔は整いすぎたものであり、このクラスの金髪とは違い『気品』を感じた。(失礼)
一色愛梨のような女騎士的な苛烈さゆえの高貴さというよりも、『深窓の令嬢』的な『姫君』としてのものだ。
そんなわけで……世界のメジャーパーソンを『諳んじれる』刹那は、『ダンクルベール』という姓に来歴を察した。
「アタシは
よろしく頼むぜ。ニホンのメイガスたち―――特に『トオサカ』とは、仲良くやりたいもんだな」
快活な笑顔を向けられながら言われた言葉に、B組男子一同の視線は刹那に向けられる。
だが、仔獅子のような印象を受けて、動きやすさを考慮したのか既に制服を改造しているモードレッドに対して……。
『『―――『名前』は『顔』の通りなんだな』』と教室にいる『男2人』は思ったが、レティシアに比べれば、何ともワイルドな男勝りの女子。
この魔法科高校にはいなかったタイプの登場。あの千葉エリカよりも、男らしさを感じさせる少女に男子は色めき立つ。
「
『シオン・エルトナム・ソカリス』と言います。現代に大量流布された魔法とは違うアプローチを持っているセツナには大変興味を覚えます。よろしくおねがいしますね」
紫苑の華が綻ぶような笑顔、などと詩的な表現を思わずしてしまうほどの美少女―――に対して『作ってきている』と想えるのは、それが擬態なのではないかという懸念があるからだ。
(どうにも疑わしい眼を向けざるを得ないのは、『隠す気』が三人とも無いからだ……)
「私もセツナのエルメロイ・レッスンに関しては興味がありますので、ご教授お願いしますね?」
分かっていたとはいえ、堂々と公言されるとどうしようもなくなる。
レティシアの言葉で、『と、遠坂ぁあああああ!!!』という怨念籠もった思念があちこちから飛んでくる。
俺に、どうしろというのだ。こんな半世紀以上前の仮面ライダークウガの俳優のCMのような選択を迫られるなど――――。
「ドウもしなくていいのよーー!!! 選ぶべきカードはいつでも『そばにいるANGEL』
「ぐえええ! ヒトの思考に割り込みながら、第四の選択肢を提示されたあああああ!!!」
「コラコラ、恋人の首に抱きつくのはいいが、力加減はあすなろ抱き程度に抑えときなさい」
後ろから抱きついてきたリーナを嗜めるロマン。だが、その言葉でレティシアは『まぁ』と顔を紅潮させていたが、他2人はリーナを刺すかのように見ていた。
その意味は分からないが、あまり友好的とは言い難いだろう……。
「一時限目は、実習授業だ。早速で悪いが、刹那。色々と教えてあげなさい」
「分かりました」
特に抗弁するようなことではない。よってHRは早々に終了となり、一時限目の準備のために奔走することに。
「おっ、早速も実習かよ! 滾るねぇ!!」
「別に殴り合いするわけじゃないぞ。ブラックモア」
「分かってるって、ただよ。競い合うってのは重要だぜ。まぁどういうことをやるかは分かっていないから、どうとも言えないんだがな」
手のひらを拳で叩いて闘志を見せるモードレッド・ブラックモア。犬歯を見せてくるその姿に根っからのファイターかと思っておく。
「どうやらこのスクールでは、魔法能力の高低・上下でクラス分けが成されているようですからね。私たちの実力を皆さんに認識してもらうには、良い機会です」
「君もか、ソカリス?」
「隠すが4割、披露するが6割の『私の判断』。合理的に考えたまでです」
ベレー帽をかぶり直しながら語るその言葉に、どうにも既視感を覚える。
この女に対する符牒は示されすぎている。
「分かったよ。ダンクルベールもそれでいいか?」
「ええ、構いませんよ。私の魔法の腕を見てもらいましょう。……それにしてもセツナすごいですね。モードレッドのクイーンズイングリッシュに、シオンのアラビア語に、私のフランス語と……流暢に話しすぎです」
「翻訳機もある時代で、ムダ特技だと思っているぐらいだよ」
レティシアの感心するような言葉に嘆息気味に返してから、出来るだけ日常会話は『日本語』で話そう。郷に入っては郷に従えだという諺を『それぞれのお国言葉』で云うと……。
『『分かりました』』『了解だぜ!』
「おおっ! せっちゃんの指導役としての本領発揮! リーナ、大丈夫?」
「だ、ダイジョウブに決まってるわよ!! けれど―――」
「けれど?」
「ウウン、なんでもないわ……」
エイミィの言葉に少しだけ言い澱むのは、リーナも知っている人物。彼の記憶を追想した時に見た人物たちの中にシオンにそっくりな人間がいたことだった。
アトラスの錬金術師。終末を回避するために穴蔵にて探求を行っている異端の魔術師に、
そんなB組の喧騒とは裏腹に―――隣のクラスでは―――。
「雫を留学に出したというのに、我がA組の人気と言う名の戦力(?)の低下は由々しき事態。留学生は全員B組所属というこの状況―――! 逆転するには、奴らを叩きのめすしか無い!!」
「み、深雪!? べ、別に深雪の人気に陰りとかは出ていないわよ!! だからステイクール!! 実習授業はケンカするわけじゃないんだからーー!!」
「面白おかしい人材ばかりのB組を打つ時は来た!! いざゆかん!! 天下分け目の『桶狭間』に!!」
関ヶ原じゃないのか!? というツッコミを入れたいのに入れられないA組の面子。
司波深雪の思惑はともあれ、B組との合同実習授業となれば、噂の留学生は目にできるだろうという不純と好奇心の塊で第一高校一学年は動き出すのだった。