魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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日笠さんは声優じゃありません。

芸人です!!(真剣)


そんな風に思っていた中、訃報が一本、悲しい限りです。勝手ながら増岡弘さんのご冥福をお祈りいたします。




第213話『アトラスの錬金術師』

「刹那から事前に聞いていたとはいえ、とんでもない騒ぎだな」

 

「留学生三人いるならば、一人ぐらいはこっちに回してくれても良かったのにぃ」

 

 無茶言うない。不満そうな顔をするE組の切り込み隊長たるエリカの言に思う。

 

 第一高校という日本の魔法教育の最前線(フロントライン)にやってくる以上、相手にもそれなりの能力値は求められるのは当たり前の話だった

 

 そして、その中にスパイというか刹那の『聖剣』を求めるものはいるのだろう。

 

 本命は英国だろうが、後の二国はどうなんだろうか。

 

「ダ・ヴィンチ先生はどう思いますか?」

 

「個人的な意見を申させてもらえば、『魔工』技術特化の学科があれば、『一人』はそっちでも良かったかもね。

 エジプトからの留学生『シオン・エルトナム』は、そういうタイプだよ」

 

 美月の質問に教壇にて教師も同然、というか2科の講師を自主的に請け負っているレオナルド・アーキマン。もはや愛称としてのダ・ヴィンチ先生が定着してしまった御仁は言って退けた。

 

「まぁ少しばかり『早すぎた』か『遅すぎた』かは、彼女の主観次第か。

 さて―――我々も実習授業の手筈だが……。『見に行くかい』?」

 

 面白がるような声と言葉で言ってくる先生。

 

 端末に示した一学年のカリキュラム予定表。予約している練習室などで教室ごとのダブルブッキングが無いかの確認のためでもあるが、これが、今回ばかりはいい方向に働いた。

 

「ダ・ヴィンチちゃん。いいのか?」

 

「気掛かりを残したまま『実践』したところで筆先が乱れるだけさ。いい線を引くためには、まっさらな気持ちでキャンヴァスに向かわなければいけないんだしね」

 

 レオの言葉に更に面白がるような声で云うダ・ヴィンチちゃん。

 

「とはいえ何もしないわけにはいかないからね。『オプトメトリー』は、欠かさず行っていこう。『カーシュナーズ』は五月蝿いから『ビジュアルメモリー』をやりながらだ!」

 

 言いながら準備がいいなぁと思うぐらいに多くの図形の紙―――点と線で描かれたそれを何枚も出してくる

 ダ・ヴィンチ先生に少しだけ感謝である。

 

「さぁハリーハリー! F、G組の面子も待ちくたびれているぞ!!」

 

 まるでドラクロア作の『民衆を導く自由の女神』のように杖を振り上げるダ・ヴィンチちゃんの先導のもとビジュアルメモリー……歩きながらでも出来る『眼』と『脳』を鍛える特訓を施しながら一科の実習室に向かうのだった。

 

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 実習室は騒然と混乱と驚愕に包まれていた。有り体に言えば、まぁ―――驚天動地の騒ぎだったのだ。

 

 A組との合同実習授業。バーサークフューラー『司波深雪』に率いられてやってきた面子曰く留学生の実力を知りたいとのこと。

 

「まだ俺たちもどの程度のものか分かっちゃいないんだ。時間を置いて少し練習してからにしようぜ」

 

 さすがに急すぎると深雪を窘めようとするも、その前に聞きつけた『赤騎士』が威勢よく言ってくる。

 

「いいぜ! セツナ、そいつらとやらせろよ!!事情はよく呑め込めないが、ちょっとしたケンカを売られているのは理解したぜ!!」

 

 桜小路とエイミィから授業の内容説明を受けていたモードレッドが、A組を振り向きながら言ってきた。

 

 その顔に光井と深雪は息を呑んだ。光井は、あの横浜にて『衛星写真』じみたもので戦場を俯瞰していたそうだ。

 

 感受性が豊かというか、誰かさんへの称賛と礼賛のバリエーションが豊富な彼女だ。見えてはいけないものを美月同様に見てしまうのだろう。

 

 深雪は、自分の記憶映像と横浜での一件を覚えていたのだろう。

 

 その姿は少女騎士にしてブリテン島の騎士王の姿に似ていたのだから。

 

「モードレッド」

 

「止めんじゃないなセツナ。オレはこのB組に世話になっている身だ。つまりは、オレのリーダーは、アカハかセツナってことになるわな。それを遠巻きに侮辱されて黙ってられっかよ!」

 

「随分と喧嘩っ早いですね。ミス・ブラックモア」

 

「そいつは認識の違いだな、『アイスドール』。

 民間・軍事の境を問わず、自分が認めた指揮者・指導者に対する侮辱は、イコール『自分への侮辱』だ。

 英国の船乗りたちが帆船を使って『星』を開拓していった時代から受け継がれた伝統さ。

 キャプテン・ドレイク(海賊船長)を頭に担ぐからこそスペインを打ち破れたわけだ」

 

 そう言われれば、深雪としては何も言えない。彼女にも自分が認めた『キャプテン』がいるわけで、それに対する無理解極まる言動に対しては怒りを向けるのだから。

 

 ともあれモードレッドの言動は深雪を敵視したもので、深雪を旗頭としているA組は気色ばむ。

 

 激突は不可避のようだ。

 

「まぁ居候(イソウロウ)の身分としては『オオヤ』に義理を立てなければいけませんよね」

 

「そういうことですね。そして何より私の解が間違いでない限り、私は私を変更することはない」

 

 ストッパーが誰一人いない。こんな危機的事態は、刹那も―――まぁ初めてではなかった。

 

 エルメロイ教室及びノーリッジの学派は出来る限り全ての学派と協調しつつ、様々な学科の『問題児』を伸ばしてきたのだが、それでもカレッジ総出での『カチコミ』が無かったわけではない。

 

 よって、深雪が戦いを挑んできた時点でこうなるのは、必然だったのだ。

 

「―――深雪は『行動』が直線的すぎる。もう少しタフなネゴシエーションってのは、どんな共同体でも必要だと思うがな」

 

「me too!」

 

 教室それぞれで『カラー』(気風)が違う以上、こうなることはいつでも在り得た。

 よって勝負に入ることになってしまうのは必然である。

 

「そもそも今日の実習は、二人一組でなければ出来ないからな」

 

 これで良かった反面、何をあいつはカリカリしているのやらと思う。

 

「勝負形式は?」

 

「5対5の星取り戦形式でいきましょう」

 

「セット数は?」

 

 その言葉に深雪は指三本を立ててくるが、即座に刹那は手のひらを出して五本に増やすと―――。

 

 手のひらに指2本を叩く深雪。対抗するように刹那が手のひらに指4本を―――。

 

「なんで二人して値段の吊り上げみたいになっているのよ!! 皆の実習時間が削られるから、3セットマッチの2セット先取でいいでしょ!!」

 

『『たわらばっ!!』』

 

 スパンっ! スパンっ! と小気味良くどこからか出したハリセンで叩いてくる光井に、深雪ともども頭を叩かれた。

 

 ともあれそれでようやく頭が冷える。

 

 というわけでメンバーの選出となっていく。お互いのクラスで寄り集まりながら、どいつがどの順番でという話し合い。

 

「『ラインクラッシュ』は、移動系魔法に長けた人間ならば、容易にこなせるというものじゃない。

 三人以外は言わずもがなだろうが、改めての再認識だ」

 

 刹那の言葉にB組一同は頷く。

 

「そこで俺が提案するのは――――」

 

 簡易な説明をして全員に納得をしてもらう。其の上でそばにある端末に「大将、副将、中堅、次鋒、先鋒」のメンバーを入力。

 

 あちらもどうやら決まったようでランプが点灯する。

 

『ラインクラッシュ』のレーンは7つ。どうやら最大級にやり合いたいようだ。

 

 

 ・

 ・

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「なぁ達也、あれはどういう実習なんだ?」

 

「有り体に言えば、相手陣地に置いてある『ターゲット』を倒そうとする、玉の押し合いで打ち合いだ」

 

 宙に並行に張られた『レーン』と云う名の『2本の糸』。

 

 もちろん普通の糸ではなく、ちょっとやそっとの魔法の影響を受けた程度では『断線』しない。

 現代テクノロジーが生み出した『蜘蛛の糸』。カンダタラインと呼ばれるものである。

 

 そういった2本の糸の間にビー玉サイズの硬球―――いくらかのサイズ変異はあり―――を流していき、相手側から放たれた硬球を押し出しながらターゲットを叩き落とすものだ。

 

「硬球そのものの移動力も重要だが、それに対する『情報強化』。同時にレーン自体もどのように自分の領域にしていくかも問題だ」

 

 レオの質問にさらなる補足をすると、次なる疑問は幹比古からだった。

 

「最終的には干渉力だけの勝負にならないかい?」

 

「一概にはそうも言えないな。強すぎてラインが切れれば、切った方の『ペナルティ』になるし、かといって弱すぎれば相手に押し切られる」

 

「張り手や頭からのブチカマシだけでは勝負は決まらない、『バチバチの相撲』なわけね」

 

 両国国技館の力士にまさか千葉道場の関係者がいるわけはなかろうが、エリカのわかってる発言が飛んできた。

 

「土俵に対する『力水』や『清めの塩』も重要なんだよ。様々なものに対する見極めと、干渉力の精緻なコントロールが要求されるいい実習だよ」

 

 ただ単に金属球を支配して相手側に押し出すという『押し相撲』よりも見応えはありそうだ。

 

 何よりやってきた留学生三人の実力を測るにはもってこいである。

 

 使うレーンは七つ。マルチに魔法を掛け合うことも要求されるとなれば―――。

 

 A組陣から出てきたのは『森崎 瞬』。相変わらずの面構え―――に見えるが、夏休みと横浜での一件で、まずまず何かを悟った風ではあるようだ。

 

 とはいえ、一科、二科の区別にこだわりが強いのは相変わらずだが。

 

「クックック、猪武者で有名な森崎が出てきたか、誰か相手をしてやるがよい」

 

「では私からいきましょう」

 

 何で三国志の軍師と武将みたいなやり取り?

 

 というか順番は既にコンピュータに打ち込まれているので、中2階の回廊状見学席にいる自分たち二科生にもオーダーは既に見えていた。

 

 エジプトからの留学生『シオン・エルトナム・ソカリス』。

 国が国だけに、肌の色は浅黒いと思いきや―――。

 

(まぁアラブ人というのは色んな血が混じっているからな)

 

 有名な世界三大美女にして、エジプトはプトレマイオス朝最期のファラオ『クレオパトラ』も、ギリシャ系の白人であったことは有名な話だ。

 

 とはいえ、熱砂の大地にいれば、段々と肌の色もそれに準じてくるのも環境に対する適合というやつである。

 

 軍師扇にて前に出たシオンが大型CADの前に立ち、森崎と同じく己の専用CAD、そのストレージだけを読み込ませている。

 

 登録されている術式だけでも問題ないはずだが、本格的にやるならば、それもありか。

 

 七つの並行レーン。そこにお互いにターゲットを置いた上で、初弾を置き石のごとくおいておく。

 

 補充の給弾は手元で操作できるので、場合によっては連射もありうる。

 

「ではお互いに準備はいいかな?」

 

 審判役のロマン先生の言葉。お互いが審判に礼をした上で、カウントが始まる。

 

 10カウントが―――ゼロになった瞬間、火蓋は切って落とされる。

 

 サイオンの昂りが、離れていても達也を揺さぶる。

 

 シオン・エルトナムというニンゲンのサイオン―――乾いたエジプトの大地を思わせ―――。

 

 

 ―――黒い、黒い大地(ブラックランド)―――

 

 ―――霊長が死に絶えた星で―――冥界の砂―――

 

 ―――仮定を思い続ける■■―――滅びきった未来像―――

 

「なっ―――」

 

「わっ、スゴイですよ! シオンさん、七つのレーン全てに干渉して、硬球を機関銃のように連射していますよ」

 

「しかも、森崎君の硬球の干渉力を精緻に測った上で、それを+10程度の偏差でレーンから叩き落としていくか。術式の組み立てが偏執的なまでに整っている……」

 

「―――?……」

 

 達也が見えたものは一瞬のことのようだ。その間にも勝負のシーンは展開されていたようで、美月と幹比古とが感心した風に言ってくる様子。どうやら白昼夢のようなものから現実に戻ってきたようである。

 

 ともあれ、見えてきた様子では、手を差し向けたエルトナムの干渉力は、確かに相当なものだ。

 

 森崎も何とか対抗しようと術の早撃ちが入るも、それを見透かしたように、エルトナムの硬球はより『硬いままに速度を上げて』レーンを滑りいく。

 

 それは七つのレーンで同じではなく、『それぞれ』で違うのだ。

 

 森崎の干渉力は一科としては及第点だが、しょせんは『及第点』なのだ。彼を超える事象への書き換えに特化した術者ならば、実は二科にも数十名はいる。

 

 もしも魔法の早撃ち勝負前に決着がつくようならば、彼は勝てないだろう。

 

 術式の深長を会得するには、森崎家はあまりにもCADありきの血統になりすぎているのだった……。

 

 つまり、森崎瞬の干渉力の限界を見極めた上で、七つのレーン全てで硬球の『力加減』を変えている。

 

 およそ『人間業』ではない。一科の人間でも、その事実に気づいているものは少ない。

 

 まるで『七つの独立した脳』でも持っているかのような芸当だ。

 

 森崎は進ませまいと、ターゲットを撃たせまいとレーンに干渉を仕掛けて進行を止めようとする。

 

 己の硬球だけは進めるようにと苦心しながら陣を仕組んだが―――。

 

『5番 破棄―――演算 再構成―――再演算開始』

 

 呪文、なのか? いや違う。達也が『強化』した聴力でエルトナムの言葉を読唇術込みで聞いた結果。

 

 その意味を斟酌する前。それと同時に硬球は七つのターゲットを打ち砕いた。

 

 森崎側の陣地に入り込んだ硬球は、ことごとく『城門』のごときターゲットを叩き壊していき、七つの門は砕かれた。

 

 パーフェクトゲーム。手加減したわけではない。そもそもそんなことをすれば、深雪がどうするやら。

 

 ともあれ、勝敗は決した。

 

『7−0』が刻まれたスコアボード。そして勝鬨の声は―――。

 

「高速思考停止―――全ては計算通りです」

 

 その言葉で終わりを告げた。

 

 その時、達也が注目していたのは刹那が何を言うかであったが、軍師扇で口元を隠したままで、何も掴めなかったが。

 

 近くにいたリーナは、刹那が呟いた『言葉』を正確に聞いていた……。

 

「巨人の穴蔵。アトラスの錬金術師か……」

 

 それは、この世界においてありえざる存在であったはずなのだから―――。

 

 

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