魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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今更ながらrequiemとのコラボが決定していたとか。

なんか全然、騒がれていなかったから。収集があまかった。

ちなみに一巻はちゃんと読みましたよ。というかrequiem読んでいる人が少ないんだろうなぁ。


第214話『異質なるものたち』

シオンが先陣をきってくれたお陰で次に弾みがついたわけだが、次鋒たるべき『後藤 狼』はといえば―――。

 

「伊達さん……オレ……オレ……伊達さんになれなかった―――よ……」

 

『『『『後藤クーン!!』』』』

 

何故かどっかのプロボクサーのようなていで倒れてしまう後藤君に誰もが駆け寄る。

 

担架を持ってくる連中まで出るとか、なんでさ。

 

A組の宮田が戸惑う様子にロマン先生が、戻って大丈夫だと指示をする。

 

「ツボにハマればゴトウもかなりスゴイんだけどね」

 

「いや、彼はあれでいいんだよ。安定性なんてのは二の次でいいのさ」

 

寧ろ、せっかくの魔術特性を殺す方が損である。

 

決して気分屋ではない。彼が目指すべきは、そういったものだからだ。

 

変幻自在のマジカルスター。そういった風なものでいいのだ。

 

「安定的に力を引き出すよりも、己の特性に沿ったものの方が、魔法のノリも違うものさ」

 

「セツナの指導方法は独特ですね。我が国の方針ならば、ゴトウは矯正されているはずですから」

 

感心したように言ってくるレティシア。今更ながらすごーくダ・ヴィンチに声が似ていて、何ともやり辛い。

 

普段から聞いている声が、少女らしいみずみずしさとクリアなものに変わると、変な気分になるのだ。

 

「俺の指導方針じゃない。先生方が求めている『お行儀の良い』生徒を集めたのがA組ならば、俺たちB組は、反逆していくのさ。

別にテストの点数だけはクリアしていれば、個々の得意術式の練達には何も言われないからな」

 

『刹那。その指導教員の前で、そんな堂々とした『不良宣言』しないように、百舌谷先生も胃をきりきり舞いさせながら、アレなんだから』

 

アレって何だよ? と誰もがロマンに思うもシオンが2セット速攻で先取した戦い。

それに比べれば、後藤くんの戦いはかなり『縺れた』のだからいい勝負であったのだ。

 

それぐらいは言うべきであろう。

 

「では中堅、後藤君の仇を獲ってもらおう」

「ようやく出番か。誰が来ても容赦はしないぜ!!」

 

レティシア、リーナよりもワイルドなブリティッシュヤンキーたるモードレッドの声に対して、A組から出てきたのは―――。

 

「お、お手柔らかに………」

 

悲しくなるほどに局部が巨大な小動物。矛盾した表現だが、そうとしか言えない光井ほのかが出てきたのだった。

 

「……どうする?」

「遠慮なく叩いてしまっていいわ♪ あの浮ついた無駄肉を叩く機会を待っていたのだから」

「モーちゃん。遠慮なくどうぞ♪」

 

流石のモードレッドも相手があんまりにも気の毒に思えたようだが、B組のフラットチェストコンビたる桜小路とエイミィがマーダーライセンスに判を押してくるのだった。

 

(まぁオーダーワン(一科生)にいる時点で、あちらさんも、それなりなんだろうけどな)

 

そんな風にモードレッド・ブラックモアは、一人思いふけっていたのだが、大型CADの前に立ち、魔力を叩き込む。『起こした魔力』は―――大丈夫だ。

 

どうやら壊れない。しかし念の為に、『10の秘指』(ソロモン)を嵌めておく。

 

別に『こんなモノ』は必要ないのだが、マイノリティであることを悟らせないためには、『平凡』を演じることも必要なのだ。

 

そして―――叛逆の騎士に『変わりつつある自分』を隠すために、モードレッド・ブラックモアは魔術式を展開するのだった。

 

 

仔獅子のような印象を抱く少女―――どうにも一高のフォーマルカラーたる緑が決定的に似合わず、制服規定をぶっちぎってインナーガウンとブレザーの代わりに赤いジャケットを着込んでいた。

 

着膨れしないのだろうかと思い、更に言えば、どうやって校章たる八枚華をジャケットに着けたのかとか、色々な疑問があるが……。

 

そんなことは些末であるぐらいに……。

 

「オラオラオラオラオラ!!突っ込め突っ込め(RUSH RUSH)!!」

 

「ぎゃーーー!!! ただの硬球のはずなのに、圧が凄まじすぎる!!」

 

朱雷を迸らせながらレーンを走るブラックモアが干渉した硬球。

 

そのサイズは、この実習授業でも最大級のサイズだ。卓球のピンポン玉ほどの大きさはあるだろう。

それらが、猛烈な勢いで20mの境を渡ってほのかの城門を叩こうとしている。

 

もちろんほのかも対抗するように硬球を移動させて進撃を頓挫させんとするのだが、そんなものは、なんのそので弾き落とされていく。

 

既に3つ。ほのか側のターゲットは砕かれている。

 

自分の陣地に置いたものは、ここから見える限りでは一高男子の制服らしきものを着た人形に見える。

 

フィギュアとかではなく、ぬいぐるみの系統だ。

 

……詳細は伏せたままのほうが良さそうだ。

 

何よりもはや、ほのかは一つの取りこぼしも許されない。

 

「モードレッドか……結構、けったいな名前だよな」

 

転落防止柵に身体を預けながら何気なく言うレオ。

だが、それはほとんどの人間が思っていたことでもある。

 

「アーサー王伝説に出てくる叛逆の騎士の名前ですからね。様々な創作物にも出てくる、それなりに有名ですし」

 

翻訳家の母を持つ美月は、その手のことに詳しい。

 

イギリス文学、フランス文学と西欧のものに、それらの単語は度々出てくるものなのだろう。

 

そう考えると『女の名前』に『モードレッド』は奇体だ。

……だが達也は、あまり気にしない。

 

アーサーという少年騎士王がアルトリアという少女騎士であった事実、何より眼下にてほのかを追い詰めているモードレッドという英国少女は、そのアルトリアに顔が似ていたのだから……。

 

4つ目のターゲットが朱雷の竜を思わせる硬球の突貫を受けて砕け散る。

 

『た、タツヤさあああん!!!』

 

……世の中には多くの『タツヤ』がいる。きっとアレは、一高の制服を着させられた『上杉達也』に違いない。

 

そう悲鳴をあげてぬいぐるみの綿とかが飛び散る様を悲しむほのかに対して思っておく。

 

「いや無理があるでしょ。遠目からでも誰のデフォルメぬいぐるみなのか丸わかりだもの」

 

ヒトの思考回路にツッコミを入れてきたエリカ。

 

呆れるような顔に少しだけ機嫌を察する。どうやらレオの個人端末に『宇佐美』から連絡が来たようだ。

 

困ったような嬉しそうな顔をするレオだが、とりあえず今はまだ授業中であるとして、携帯電話のメールタイプ、無音設定が出来るようなものが出てきた頃からある『授業中の私的通信』をやめておくように言う。

 

「すまん。確認程度だったんだが」

 

「機嫌悪いのがいると、アレだからな」

 

「誰が機嫌悪いのよ!」

 

十分に機嫌が悪いと指摘した所で、エリカは認めないんだろうなと思っていると、下の階で2セット目が始まる。

 

戦っているほのかは恐らく相当な重圧を感じている。自分の慮外の存在とでも言えばいいのか、未知なるものに対する不安感は、彼女は持ちやすい。

 

それをどうにかするために『個人崇拝』という遺伝子的な服従が強要された。

 

エレメンツに掛けられた遺伝子的な鎖というのは、ある種の脆さの裏返しだ。

 

誰か全面的に信じられる。信用を寄せられる相手がいれば、その力はとてつもないものだが、その信用を欠くことあれば―――力は激減する。

 

それは相手に依存していることの脆さだ。

 

人間誰しも独立独歩で生きていけるわけがない。

 

自分は自分などと言うが、誰かに過度の信頼を寄せすぎた存在がどうなるかは、言わずもがなだ。

 

一番の好例は宗教家たちが主だろう。彼らの信仰がいきすぎれば強固なものとして君臨する。

はたまた魔法師たちが誕生した時に『神の不在』を呪ったか。

 

どちらにせよ……『信じすぎて』はダメなのだろう。

 

(と、ほのかに言ったところでな。結局、エリカとの戦い、九校戦でのバトル・ボードでの敗因を告げきれていない)

 

そして何より、十大研究所よりも前に作られたエレメンツが、世代を超えても未だにそういった遺伝子を持っているのだから……何とも悩ましい。

 

そう思っていたが、2セット目で『ほのか』は根性を出してきた。

 

モードレッドの『ドライブボール』の勢いは凄まじい。レールを焼き尽くさんばかりながらも、焼くことはなく疾走を果たす。

 

ある種の情報強化というか焼けないようにする『何か』をしているのだろう。

それが何なのかは分からないが、ともあれその勢いを減じさせるべく、ほのかは強化したボールを叩き出していくことで、モードレッドのボールを止めようとしていく。

 

だが、『サイオンの質』が違いすぎるのか、圧倒的なまでの熱量。赤熱したようにも見えるボールが七つのレーンで飛んでいく。

 

規格外(EX)すぎるその力強さは、先程のシオン・エルトナムとは違いすぎる。

 

力任せの強引なまでの剛力を以て相手を叩きのめす。

 

「とんでもないわね。あの金髪……」

 

「現代魔法の能力評価値を、魔力の量と質で完全に覆したからね」

 

エリカが髪を掻きながら忌まわしそうに言って、幹比古が詳しいことを言ってくる。

 

「あれだけ豊富な魔力量ならば、ちょっとやそっとの『質の差』なんて完全に覆せるだろうな。

術式の質の差ではなく魔力の質の差で覆そうだなんて、土俵違いなんじゃないか?」

 

「確かにな。だが、結局―――何を以て『正道』とするかなんだよな。森崎に干渉力を高める術を修めようとするのが『畑違い』となるように、本人が描いたものがテーマに沿わなければ、どうしようもない」

 

古式魔法―――魔術とも違うかも知れないが、便宜的に同一としておくそれが、本気で牙を剥けばこうなるのだろう。

 

更に言えば、ダ・ヴィンチの黙って真贋を見抜くような目線がモードレッドに注がれている。

 

その目が見抜くものは何なのか―――。

 

ともあれ決着の時は来たようだ。盛大なまでの魔力量。原子力空母にも似た生成であり『精製』を以て―――。

 

いっそう力を込めるためか、手を向けて兵士たちに下知を、檄を飛ばすかのように、呪文のように威勢よく口を開くモードレッド。

 

『Take That, You Fiend!』

 

キングズイングリッシュともクイーンズイングリッシュとも言える流暢な言葉。

 

意味合いとしては『これでも食らいやがれ!!』。かなり口汚いものだが、実際―――最期の方には、ほのかの弟ご愛読の漫画雑誌(電子版)。

 

『コミックボンコロ』に出てくる低学年向けホビーの『ワザ』か『カード召喚』を思わせるもの。

赤龍のような『オーラ』を纏って硬球は走り抜けて、7体のタツヤが砕け散るのだった。

 

「タ、タツヤさ―――ん!!!!」

 

砕け散るタツヤというぬいぐるみを前にして、泣いてしまうほのか……。

 

その様子を痛ましく思ったのか、A組一同の目と顔が、懇願するような、一方で尊大な視線がこちらに向く。

 

マナ・コストを払わずに『シバ・タツヤ』を召喚しようとするその態度に、どうしたものかと思う。

 

「ほのかさんは、タツヤ人形を生贄にしたわけですから上級モンスターとして行ってあげたらどうですか?」

 

「A組からのご指名だ。行ってきたまえ♪」

 

美月とダ・ヴィンチ先生の言葉で、二階から簡易な魔術を以て勢いを殺しながら降り立つ。

 

そのヒーロー参上のような登場の仕方に、皆の反応は色々だったが―――、一階の実習場に降りたことで気づく。

 

(濃密な魔力―――こんな中、ほのかは硬球を動かしていたのか……!?)

 

実習場が全て『モードレッド・ブラックモア』で満たされた感すらある、それの前で刹那は―――。

 

公平を期すためか、気付かれないように宝石―――あれは月長石か?を数個ほどではあるが、机の上に広げて『吸収』しているようだ。

 

気になることをやっているようだが、今はほのか優先であるとして、A組の方に向かうのだった。

 

 

達也に抱きつく光井というイベントを見ながらも、副将戦は行われたのだが……。

 

副将として出した十三束とA組の北郷との戦いは、善戦したほうだが、やはり生来の資質、想子を飛ばしづらいということが災いしたのか―――。

 

北郷相手では分が悪かった。

 

「一学期から比べれば格段の進化なんだがな」

魔弾(フライシュッツ)を放てても、全身の装甲板(シャッター)はすぐに閉じちゃうのね」

 

魔術師ならば、それを応用して『んなもの学ばなくてもいい』と想える。

 

寧ろその性質を利用して新たな術式に昇華出来る。

獣性魔術など良さそうなのだが……。

 

「ご、ごめん。負けてしまった」

 

「気にするな。今日のB組は俺含めて男子一同、ブレーキになってしまっている」

 

「そ、そういうもんかな?」

 

言ったことで女子陣から半眼の苦笑いを受けてしまう。まぁ事実だし、と刹那は思いつつ、話を進める。

 

「放出自体に問題ない。如何に体質がサイオンを引きつけたとしても、人間であろうとなかろうと、全ての多細胞生物は『代謝』を行っている。

引きつけたサイオンそのものが、最終的にどう消費されるかを決定づけられる存在こそが魔法師だからな。

代謝行動という『変化』『変身』をどう制御するかだからな」

 

「―――うん」

 

「俺としては、どうせならば『鎧騎士』みたいなものをすればいいのにと想えるが、家伝の取得を目指すならば―――そろそろ、『次の段階』でもいいかもな」

 

次の段階。

 

刹那にとっては『児戯』であるとしていた『魔弾』を羨ましく思っていた時期から、もはや半年以上が過ぎていた。

 

その間、かなりの鍛錬を受けてきた―――そして次なる段階という言葉を受けて、鋼は―――高揚するが―――。

 

「と、その前にレティシア、君の番だ。俺たち男子の不甲斐なさがためにすまんな」

 

「気にせず。シオンが精緻さで、モードレッドが豪快さで魅せたならば、私も自分の力を皆さんに魅せたいです」

 

振り向いて見せた笑顔にB組一同が、顔を赤くする。それぐらいに魅力的な女子だ―――。

 

「これで声がダ・ヴィンチみたく聞こえなきゃなぁ……」

 

「me too!」

 

若干、2名ほど(刹那、リーナ)は違う感想を出していたのだが―――まぁともあれ、A組はようやく曹魏の大将とも言える『曹操孟徳』(しばみゆき)を出してきた。

 

「曹操を出してきたのならば、我が方も『劉備玄徳』を出すことで対抗せねばな」

 

「あんた孔明の役どころじゃなかったの?」

 

「時には中山靖王の末裔でも、将として扱わなければいけない我が身の非才がうらめしい」

 

桜小路に対して嘘くさい演技をしながら、軍師扇を口元に当てる刹那。

 

深雪とレティシア―――今まで、彼女と対称的な存在としてリーナが持て囃されてきた。

 

美貌と魔法力。この2つで比肩しうる存在。

 

だが、この2人も見れば見るほどに対称的だ。しかし―――。

 

(彼女のキャパシティがどれだけあるかだな……)

 

傍目だけでそんなこと分かるわけがない。しかし―――。

 

(何かはあるんだろうな……?)

 

最近では一高の名物講師ともなりつつある2人。

 

―――理屈のロマン。

―――感性のダ・ヴィンチ。

 

そんな風に渾名される2人が、こそこそ話しあっていたのだから。

 

何かはあるのだろう……このレティシアにも。

 

そもそも仏国人というのは、刹那にとって『突然変異』が出やすい環境にも想えるのだ。

 

あの『カレー』も、吸血鬼狩りをする前はただのパン屋の跡取り娘だったのだから。

 

コレに関して刹那は一度、ブリテン島からドーバー海峡を渡って『よろしくない因子』が漏れ出ているのではないかという論文を発表した。

 

むしろその『よろしくない因子』をどうにかするための抑止力という可能性にも言及したものだが、まずまずの評価をウェイバー先生からは貰ったものだ……。

 

などと述懐していると、2人の姫君の会話が始まる。

 

「お手柔らかに―――マドモアゼル・シバ―――」

 

「こちらこそよろしくおねがいしますね。ミス・ダンクルベール」

 

一見すれば、傍から聞けば、淑女同士の普通の会話にも聞こえるが、お互いに『ガッツリ』とレーンと対戦相手を睨みつけているところに、ケンカに対する意識を感じる。

 

「さてさて、どうなるやら―――」

 

勝敗の行方は分からない。だが、こちらから見えているレティシアの背中―――そこに走る魔力の『線』は非常に精緻なものを作り上げていたのだから―――蓋を開けるまでわからないだろう。

 

モードレッドと同じく、ソロモンを手にはめた上で大型CADを起動させるレティシア。

 

その実力がいよいよ披露されるときが来たのだった―――。

 

 

男は逃げていた。逃げざるをえない状況に追い詰められていたからだ。

 

この大都会において、男が明らかな生存に対する危機を覚える程度には切羽詰まっていた。

 

このままでは―――死ぬ。そして―――それは現実のものになろうとしていた。

 

「た、助けてくれ!! 我々と『アナタ』は協調出来るはずじゃないか!? なぜ我々を―――グールにしようとするんだ!!??」

 

路地裏に追い詰められた一人の男が叫ぶ。だが、追い詰めた人間は知ったことではないとして、手についた液体を舐めておいた。

 

「生きるために人間を捕食し、人間を乗っ取る。けれどアナタたちを完全に害する存在も、『多くない』みたいだしね。

それだったらさ―――『憑依』した後に、アナタを『支配』した方が簡単じゃない―――手駒も増えるしね♪ こういうのシオンならば、『合理的思考』ですとか言ってくれるかも!」

 

人間的な『死』への恐怖を持つ自分たちは、確かにこの世界では確固たる自我を持つために、人の身体、それもエーテルをそれなりに備えた『魔法師』という存在を求めている。

 

だが、それでもこの女に殺されることは本能的な恐怖を呼び覚ます。自分の有りようが変えられる様。

 

多くの同胞たちが、女の手下にされて『血袋』としての用にされているのを見た瞬間から絶望を覚えた。

 

「家畜を屠殺して自分たちの食料にするのと同じく、アナタたちも『魔法師』という『飼料』を食べて、肥え太ったところを私が食べる。食べちゃう。それだけだよ―――」

 

「い、いやだいやだ!! いやだいやだいやだいやだ!! こ、こんな死―――」

 

瞬間、服にあった抵抗力を素通りして、心臓を貫く五指を見た。見下ろしていた。あっけないほどに掴まれて五臓六腑を支配されたあとに首筋に―――噛みつかれる。

 

噛まれた瞬間から全身の穴という穴が開ききった感覚。

『血』だけではなく魂の一滴にいたるまでを飲み干す行為。痙攣した身体では何も出来ない。

 

だが声を発しておく。最期の呪詛というやつである。

 

「現象存在体……―――タタリ、ワラキアのよ―――」

 

呪詛の言葉は最期まで呟かれずに、男と男に『憑いていたモノ』は、あまさず全て―――眼の前の女の配下になりさがっていった……。

 


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