魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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というわけでエイプリルフール企画は消え去った。

同時に各社、本気度があるところと温度差があったなぁ。まぁ大変ですからね今は―――。

そんな中、シマライブは―――GJだったなぁと思いつつ、お詫びの新話お送りします。


第216話『夜の一幕・blood』

シオンとの逢い引き……ではなく待ち合わせの約束は既に、エーテライトの交感で伝えあっていた。

 

「まさか、こいつを正しい目的で使うことになるなんてなぁ」

 

「霊子ハッカーだったかしら? それをくれた人は?」

 

「彼女曰く、『エルトナム』の名を受け継ぐものにこそ伝承されるものという話だ。まぁ要するに、人の中身(うちがわ)を全て覗き見れることからそう名乗っているらしいな」

 

歩きながらの会話。剣呑な内容を話しながらも、夜風の冷たさに身を縮こませてしまいそうになる。

 

「そして、そんな『より良い未来』を模索するアトラス院の錬金術師が、俺に接触を図る理由とはなんぞや? ということなんだよな」

 

「……魔法師を駆逐するために協力しろとか言われるんじゃない?」

 

「それはないかな」

 

彼らは霊長の世の末がどのようなものであれ、関与はしない。人類が終末を迎えたとしても、その滅びのあとに立ち上がるものを作るのが彼らの理念だ。

 

その為ならば、霊長がどのような『形』になろうと構わないと思っているのだ。

 

「今の世界で、もしも戦略級魔法の乱発で世界が砕けたとしても、アレはその跡に『星を滅ぼした愚か者共、此処に眠る』という『稼働する石碑』を造りかねないからな」

 

手段が目的に変わりかねない阿呆な連中なのだ。

 

そんなアトラス院が自分に関わる理由など……。

 

「アリすぎよね」

「あるよなぁ」

 

何だか分からないが、まぁとにかく―――妙なことに巻き込まれそうなのは間違いなかった。

 

待ち合わせの場所は、都内であればどこにでもありそうな公園の一つ。すこし前のクリスマスでレオと宇佐美を助けた場所にも似ている。

 

というか都内の公園なんて、どこもこんなものだ。都会の風情というか余裕を持たせるためか、変な緑化運動的なもので緑を増やしたことで、不貞の輩が屯するスポットにもなっている。

 

もっとも、今となってはあちこちにソーシャルカメラがあるわけで、大それたことは出来ないが……そこをどうにかすることも可能なのだ。

 

「んでやってきたはいいんだが―――」

 

「シオン、いないわね?」

 

気配を探ったところ、誰の気配もないことが分かる。

 

人払いの結界を張られることは予想通りだったのだが、それにしても誰もいなくなると―――。

 

「セツナ!!」

 

リーナの声の前から分かっていたことだが、前面を制圧する弾丸の列。音速を越えてやってくるそれを炎の魔法陣―――遠坂の家門を模したものは、焼き尽くして灰に返す。

 

手を翳した前から来たものは、それで封殺出来た。

 

前に敵がいる―――。それを理解して―――。

 

「Intensive Einascherung―――」(我が敵の 火葬は 苛烈なるべし)

 

魔法陣から弓弦を引くように魔力線を掴んで張り上げる。

 

そして解き放った時に、炎の矢は十数―――否、数十現れて猛烈な勢いで掃射を開始。

 

見えぬ敵を見つけ出すべくあちこちを発破する。地面が爆ぜ上がり、すり減り、樹木が叩き折られていく様―――の前に―――。

 

「SHOOT!!」

 

声を出さなくてもいいのだが、『声』に魔力を乗せることも習得しつつあるリーナ的には、最近では手動でのCAD操作込みで、音声出力的なものを含めると魔力の『ノリ』がいいそうだ。

 

そこまで来れば思念操作的な礼装の方がいいかもしれないと考えつつも、上空より降り注ぐ雷霆が、さらなる大地の発破を行う。

 

「がっ!!」

 

「ラニ!?」

 

「そこか!!!」

 

公園の路地から外れて脇の林に入り込める最初の場所に、下手人はいたようで―――即座に魔弾を叩き込む。

 

「―――」

 

放たれた一撃。しかし、それらは封殺された。ぱしゅん! という霧散するかのような様。

 

何かしらの防御礼装を用意していたということか。

 

そこにいたのは、何とも煽情的な姿をしたエキゾチックな女子2人であった。

 

熱砂の大地で日除けをすると共に、己の美貌を簡単に晒さないためのもの。目出しだけをするローブを纏っている。

 

ここで紳士的な男ならば、そのローブを剥ぐという無粋な真似はしないだろうが。

 

「生憎ながら、俺は祖父さんほど紳士じゃないんだな。

Die Flau steht vor dem Spiegel(女は鏡の前に真実を晒す)―――」

 

左手にある「月長石」の魔力を発動。魔術的な防御を持った衣類を『弾き飛ばす』術が、少女2人を『月光』のスポットライトの下に置いた。

 

一人は、同級生に今日なった子だ。衣装は、当たり前のごとく一高の制服ではないが、こちらも制服―――『軍服』じみたものを感じる。

 

だが、今の時代にはかなり流行りではない白のミニスカートに紫のニーソックス……絶対領域が眩しすぎる美少女がいた。

 

イメージカラー通りの紫系統の衣類が重ならずに美に映えるのは、一種の芸術であろう。

 

もう一人は、同級生―――シオン・エルトナムとは違い、矮躯と言っても良い少女だった。

 

衣装の系統としては、シオンと同じく『丈が短い』。そして露出『強』というぐらいに、色々と肌見せが多い女の子である。

肌の浅黒さは、エスニックを思わせるもの。熱砂の大地でもシオンがエジプトなのに対して、少女はインドの民族をイメージさせる。

 

髪はゆるくウエーブを果たしながら長く下がっている。

 

魔眼持ちなのかそれとも―――とりあえずメガネを掛けて、額には仏僧の修行の証たる『チャクラ』を思わせるものがあった。

 

―――簡潔に言おう。年齢的にアウトである。

 

「もしもしポリスメン? とかされたらば、一発でアウトだぜ」

 

「その場合、私達の衣類を剥いだアナタが官憲のお縄につくのでしょう」

 

そうだね、と心の中で同意するぐらいに正論を、インド系統の『錬金術師』がクールにメガネをくいっと上げながら言ってくる。

 

その間シオンは、刹那の放った魔弾で足を怪我したインド人を右にしながら治療をしていた。

 

「なんでこんな辻斬りバンザイみたいな無法な歓迎を受けにゃならんのだ?」

 

それを見ながら話を長引かせたいだろうシオンの思惑を察する。

 

「仮説一番、私達のような異能力者の出会いは、まずはお互いの力を確かめあってからの方が友好的になる。

仮説二番、ボーイ・ミーツ・ガールの基本は、銃火を交わし合ってこそ。

仮説三番、あなたは、このような出会いを何度か経験していると思われる」

 

図星と言えば図星ではある―――高度な演算で『未来予測』をするアトラスの錬金術師の面目躍如だが、あまりいい気分ではない。

 

「仮説四番、あなたがこの『並行世界』に来訪してから、真っ先に出会ったのがアンジェリーナ・シールズと推論。

仮説五番、そのアンジェリーナを助けるために、あなたはお節介を焼いた。ちょっとした『任務』の手伝いと思われる。同時に男女としても接近を果たす」

 

「エヘヘ、なんか照れるわネ。ワタシたちのラブラブな仲が察せられるなんて、どこぞのフランスハーフとはオオチガイだわ」

 

喜ぶところだろうか? 頭を掻いて顔が緩みきったリーナの気分を害するのも悪いと思いつつ、シオンの話の続きを促す。

 

「仮説六番、ゆえに刹那をNTRするには、こういった出会いの演出は必要不可欠。

仮説七番、長い仲ゆえに冷めつつある時は来ているわけで、少しだけ違う刺激を欲しがる男に、今の私の格好は目の毒の限り。ラニ=Ⅷというデンジャラスロリータもプラスすることで、刹那は私の掌中です」

 

「恐縮ですシオン師父」

 

「右ストレートでぶっとばす! 真っすぐいってぶっとばす!!!」

 

シオンとラニなる少女の不穏極まる言動に、数秒前の喜びは何だったのかと言わんばかりに、跳ね上がるリーナのサイオンオーラ及びオドの賦活。

有り体に言えば『アークドライブ』の状態に移行したことで、2人は若干後ずさる。

 

「演算開始――――。

一番 逃走

二番 逃走

三番 逃げちゃダメだ。だが逃げろ。(CV 蔵馬)

四番 言われなくてもスタコラサッサだぜ

五番 逃げるんだよォォォ――――ッ!!(CV ㈱AGRS社長)

六番、七番は回答を拒否―――」

 

「師父、明日なんですが私、中学で出来たお友達からお茶の誘いを受けているんです」

 

「ならば――――策は一つですね」

 

言ってからこちらに堂々と背中を向ける2人―――。くるり、とでも擬音が着きそうなターン。というかラニ=Ⅷの服の背中には、Ⅷとローマ数字が書かれている。

 

それを目にした瞬間―――。

 

「たった一つの策……それは―――」

 

「「それは?」」

 

思わずリーナと共に問い返してしまう。それぐらい次の行動が読めないシオンとラニの行動だったのだが……。

 

「逃げるんだよォ!! ラニーーーーッ!!!」

 

「逃げるは恥だが役に立つんですねシオン師」

 

本当に予想外の行動だった。

 

一瞬だけポカンとして、高速で自己加速でも使ったのか、それとも『リミッター』を外したのか分からないシオンとラニを見送っていたが……。

 

「ワタシがチェイサー(猟犬)になるからセツナはバックアップ! 頼むわよ!!」

 

「了解」

 

言いながら刻印を使った『天牛金弓』を携えて、妨害と同時に駆け抜けようとするリーナのフォローをする。

 

速いが、決して射抜けないわけではない。しかし、射抜くわけにはいかない。

 

手加減をするために―――停滞・束縛のルーンを刻んだ魔力矢を叩き込んでいくが、その時―――。

 

シオンとラニが『分身』を果たす。否、その術法を刹那は知っていた。

 

(レプリカント・イマジン)

 

エーテライトの『糸束』を投射することで、ある人物の『義体』を投影する術。

 

シオンがエーテライトを持っていたことからラニもとは予想していたが、いきなりの『デコイ』の放出に、リーナも戸惑ったが―――。

 

容赦ない弓射―――後ろから放たれたミサイル発射の如きものが、義体を全て吹き飛ばして縮れた糸へと返す。

 

「バカですかっ!? アナタは―――」

 

唇の動きから余波で凧のように吹き飛ばされたシオンの言葉を推測する。

 

「シオン師!?」

 

だが、そんなことを言っている内に、(くう)を舞うシオン相手にリーナは突っかかる。

 

空中にいながらにして拳を握りしめながらの滞空格闘戦。

 

蹴り技が主体のシオンに対して拳で突きを放つリーナ。

正しく人外魔境の戦いの最中―――強化した視力が見てしまう『しましまパンツ』に眼を奪われて―――。

 

「セツナ―――!!!」

 

こちらの思考を察したリーナの怒号の如き声。それを狙ってエーテライトで拘束を果たすシオン。

 

剛性はよく知っている。

 

「捕まえましたよ。アンジェリーナ―――」

「アッソ」

 

呆気ない拘束、刃物を首にでも突きつけるためなのか、密着させようとしたシオンに素気ない返答。

 

事実、密着を果たそうとした時に―――リーナは握り込んでいた拳を、シオンの脇腹に押し付けた。

 

一瞬のスキを突いて真正面を向かれたがゆえに―――コレ以上ない衝撃がシオンを襲った。

 

「――――」

 

肺が酸素を取り込まない現状を前にして、シオンの思考が高速で演算を開始する。

 

「シオン師!!」

 

「だ、だめだ! ラニ―――こっちじゃないんです!!!」

 

創造主を助けるためのホムンクルス特有の思考―――否、ラニの優しさに感謝しつつも、それではダメだったのだ。

 

「にゃああああ――――!!!」

 

シオンの中で解は出ていた。この状況、リーナが援護状況を容易に受けられない密着状態の中、刹那が弓を放つことはないのだと分かっていたから―――。

 

つまりは『第3勢力』の介入。新戦力を近場に投入すること。

 

それは、高機動を持ち打撃力を持ち、リーナを確実に救出出来る存在。

 

高位の使い魔。

 

精霊に格上げされた人間霊。

 

英霊―――境界記録帯による介入であった。

 

 

サーヴァント・ランサーの位にある霊体が、リーナを馬に乗せた上でシオンとラニを鎧袖一触していくのだった。

 

 

「俺もカンが鈍ったな」

 

「お兄様。どういうことですか?」

 

「簡単に言おうか。深雪―――お前の魔法力は、コレ以上なく『増大』している。英霊マルタの置き土産かもしれないが、ともあれ―――お前の設定を上限値に引き上げても―――」

 

「も?」

 

「……少々足りないんだよ。大型CADでの競い合いとはいえ、地力をそのままに『投射』出来るタイプの術者には、すごく相性が悪い」

 

今日の結果を考えるに、三人の留学生……恐らく三人が使っているマクシミリアンの『十の秘指』には、何か特殊な『感応石』が組み込まれている。

 

もしかしたらば、感応石ですらないのかもしれないが。

 

それらを用いて術式を解き放つ時、『魔法』は正しい形で世界に顕現するのだった。

 

しかし――――。

 

「今の深雪にとって『規格通り』のホウキは、はっきりいって鈍ら刀にしか為りえないよ」

 

いざとなれば、CAD無しでも『とっておき』を発動させられる達也が言えた道理ではないのだが、ともあれ―――難儀をしてしまう。

 

今の深雪は10の力で放出出来るものを4か5で打ち出している。

それも無意識で、だ。セーブを掛けているわけではなく、CADの規格に則って放出しているからこそ、悩ましい限りだ。

 

「リーナが持つ『星晶石』のようなものが必要ですか?」

 

「ああ、ソフト部分は俺でもアレコレできるが、ハード部分はどうしても、な」

 

だが、今まで達也としてもお座なりにしてきた分野であり、何とかしたいと思っているものだ。

 

ゴノレゴ13が刀剣の名工に愛銃『アーマライト』のパーツの最高位の研磨を頼み。

 

無免許の名医(ブラックジャック)が、己の使う手術道具、特にメスを神域の刀工に鍛えてもらうことで、最高位の腕を振るえるように―――。

 

一流の人間には一流の道具が必要なのだ。

 

魔法師の世界では、如何にホウキそのものは『容れ物』に過ぎず、入れる『ソフトの仕様と量』が重要とはいえ―――。

 

使う人間の作業の瑕疵になるならば、どうにかせねばならないだろう。

 

(レッドは、エクスカリバーを欲している。いま、刹那にそれ関連(魔具鍛造)で接触することは余計な疑念を持たせるだろうが―――)

 

それでも、達也にとっての一番の価値観とは、妹のために動くことなのだから……。

 

友人に煙たがられたとしても、そこは言っておこうと想うのだった……。

 

その裏で―――闇に蠢くものたちが行動を開始して、否応なく達也も深雪も巻き込まれていく―――。

 


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