魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
読めば分かる。読まねば分からない―――というわけで新話、お送りします。
今夜も夜明かしかなと愚痴りながらも、鑑識が既に調べたあとの被害現場にいながら千葉寿和は考える。
「これで7人目か。どう思いますか?」
「吸血鬼……そうとしか言えない犯行だな」
「問題は吸血鬼じゃない。老若男女問わずの行方不明者の続発だ」
今夜の現場である血吸いの被害者が出ている一方で、昨今の東京都内では『行方不明者』が続発している。
その中には魔法師のメンバーも含まれていて、少しばかり各関係機関がピリピリしているという現状もある。
クリスマスの人身売買組織『フィリピンマフィア』どもを解決したというのに、再び何かの策動を予期させるものを感じるが……。
「血吸いの犯人には、どうにも『意図的なもの』が感じられるが、行方不明者の方は―――なんといえばいいか、場当たり的な……快楽主義的なものを感じるな」
安宿警視の言葉に、寿和も同意する。老若男女問わずと言ったが、主な行方不明者の年代は『中高年の男性』が多い。
ようは『いい年したオジサン』方が主だったりする。
その片方で未成年、成人の学生も見受けられる―――。
大規模なギャンググループ……『悪い遊び人』的なものも一夜にして忽然と消えている―――集会所にある血塗れの惨状と、ところどころに散らばる肉片とが、犯行の『詳細』を物語ってもいるのだが。
「さてさて―――専門家に渡りをつけたいところですが……」
「十師族にまず話さず、『彼』に直接話を通そうとすると、途端に不機嫌になるんだよな」
フリーランスの立場である彼を己の戦力と思っているのか、それとも何かあるのか、ともあれ―――。
お巡りさんにとっては歯がゆいが、事態に有効な手を打てずに夜は過ぎていくのだった。
† † † †
「くっ……男二人が女一人を左右から捕まえる。これが『嬲る』の文字の起源なんですね。ヒエログリフの解読よりも恐るべき語源!!」
「ナーンカ、どこかで聞いたような言葉だわ」
「me too」
バインドという抗魔布で拘束されたエジプト娘2人。
シオンの言動は入学直後に深雪とエリカに捕まったリーナが宣ったものだ。
地面の硬さを存分に味わっているシオンとラニ。
ともあれ――――。
「何がしたかったのさ。キミら?」
結論はそこに落ち着くのだった。
観念したのか、それとも何か思惑があるのか―――ため息一つ突いてから、シオンから口を開く。
「私としては、貴方がリーナを伴って来るとは思っていなかったのです。
メイガス―――かつて、学問としての『魔術』を伝承させようとしても『させられなかった』者たちの『子孫』たる貴方が神秘を漏らさないためならば、ここに
リバーブローを食らったからか、回復させたとはいえ、恨めし気な視線がリーナに届いていた。
「まぁ一般的な『魔術師』ならば、それが『正しい』な。だが、別に正しい道ばかり歩んだって、それが良好な結果になるとは限らんのだしな」
魔術協会、アトラス院、彷徨海……魔術協会の三大部門の内、
一般的に開かれていた魔術協会に比べれば、残り2つは閉鎖的にすぎた。
それゆえの言動―――というわけでもあるまいが、と思いつつ続きを促す。
「その上で、私としては貴方のようなジョーカーの『無力化』ないし、『協力』を要請したかった。
いざとなれば、か、身体を使ってでも―――どうにかしたかった……」
顔を赤らめながら、『出来れば上手に、優しくしてください』とか言うシオンにげんなりする。
それを見て、がしがしっと刹那のブーツを踏んでくるリーナ。ルーンの加護が効いた鉄甲入りのそれは、特に痛みを伝えない。
そのうえで、穴倉に閉じこもるこいつ等が出てくるということの異常さを認識する……。
「……錬金術師が『協力』を求めるなんて、よっぽどのことだ。一つ聞きたい。
あちこちに『魔術都市』を作っていた先達諸君らは、『教会』との諍いで死んだんだな?」
「そう考えてよろしいかと。だが、しぶとく生き残ったものも隠れ住んでいる。ブラックモアなどその典型でしょう?」
「まぁそうだな」
「真祖種族の発生もありましたが―――早々に衰退してしまったというのが現状です。原因は不明ですが、『死を徒に運ぶ輩』も、真祖側からの発生はありませんでした」
『人理の発展』が急速すぎたというのが、錬金術師の見解であった。
それに対して、今は疑問は挟まないで、次の言葉を促す。
「そのせいか、一大信仰の総本山は魔術師との戦いに総力を傾けて、現世にある『神秘の分野』は殲滅されてしまったのです。
魔法師及び貴方―――及びダ・ヴィンチが探ったとしても、痕跡一つすら跡形もなく無くしてしまえば、それで終わりです」
自分が諳んじれる『時計塔の年表』を思い出すに、色々な『変化』が、懐かしきクロックタワーの成立を邪魔して、この世界を成立させた。
その事実に少しだけ寂しい想いを覚えてしまう。
「しかし、それゆえに『教会』もまた衰退を果たしました。
光と闇、聖と邪、神と魔のバランスが崩れたことで、彼らの教義の『加護』は崩れていきました―――そして
そこまで聞けば分かった。そして『子機』越しのダ・ヴィンチも『唸っている』ようだった。
とりあえず言っていることに齟齬はない。隠されている事項はいくつかあるかもしれないが―――。
「と―――私の来歴に関する裏の世界史の話はいいんですよ。
私が『アトラス院の錬金術師』であることは、間違いなく分かったでしょうから」
「ああ……そこまで分かっていれば、何も隠しようがないからな。もう一点―――詰めとかなければならないものもあるが」
「私も『漂流者』であるという疑問ならば、後で穴蔵に来てみればいい。というか確認しにいかなかったんですか? 彷徨海と違って見つけやすいと想うんですけど」
呆れるような顔のシオンに言い訳させてもらうならば、別に確認しに行かなかったわけではない。
ただアラブ同盟の中核をなすエジプトに『USNAの魔法師』が入るということは、色々と疑念をもたせた。
それゆえ自由な調査も出来ず、シフトをやむを得ず欧州に向けざるを得なかったのだ。
『それ以外にも、色々とあの頃は忙しかったからね。砂漠を行くダ・ヴィンチロマンスカーの作製もまだまだだったから、余計に』
遂に口出してきた、子機の向こうにいる一高の教師であり、魔法の杖の面白がるような言葉。
それを聞いて少しだけ気を楽にする。
『それでウチの坊やに協力を願うことなんだ。よっぽどのことだろうから、先ずは私に話を通し給え。これでも自称・保護者だからね』
「それは―――『こちらの状況』を片付けてからの方が、いいかと」
その言葉でバインドを解いて、2人を自由の身にしておく。
空気がざわつく。乾いた空気に湿った空気の混ぜ合わせ―――。
尋常の気配とは異なるものが公園内に充満する。
22世紀を目前にするテクノロジーのはずの街灯が、チカチカと点滅をする。
『異常の気配』に耐えきれず、無器物も悲鳴を上げていたのだ。
大気に『死』が混じる。自然に発動する魔眼。警告を放つ双腕刻印。
(セツナが、この上なく反応している―――間違いないわね)
異端の存在が『都内』にいる。間違いなく『魔宝使い』が自ら動かざるをえないことなのだと気づく。
「リーナ、あんまり離れるなよ」
「All right」
特に抗弁することではないので、リーナもそれに従う。
現れるものが何であれ―――セツナの近くこそが、自分の居場所なのだから。
「―――
魔術回路の叩き起こし、全力で回転を果たす。
迷宮のように入り組んだそれらに光が灯った時に、あちこちから平常ではない人体の群れがやってくる。
暴徒のように一直線に、されど動きは理性を持たない獣のように、『食欲』だけを満たすために、掴みかかるような腕の動きだけ。
完全に―――
その数、30鬼ほど。
(汚染度が深すぎる―――上級死徒クラスか)
『親』となったものの力量が、グールの『毒素』で分かる。こんなのが―――この『世界』にいるわけがない。
そう理屈付けながらも、黒鍵を投影。先制打として―――投げ放つ。
強化した身体で解き放たれる『投擲』。打ち込まれるは聖別された小剣。吹き飛ばされて、血を撒き散らしながら破裂を果たすグール8体。
そして灰に変える様を見ながらも、干将・莫邪を投影。近づけることもなく斬りつけることで灰に返す。
足さばきの軽妙さを上半身の撥条と連動させることで、短剣の捌きは殺しの技へと変わる。
決して真正面に立たず、斬りつける時でも『斜』から入ることを心がけていく。
『―――君の得物を使っての戦い方は危なかっしいなぁ。まぁ、俺のような奇手頼みの戦い方でも覚えておけば、生き残れるかもよ』
手慰み程度に暗殺術を仕込む、村での同盟相手を思い出しながらの殺撃。思わず他の三人が止まってしまうほどに見事な剣舞。
そして、それ以上だったのは――――。
「不浄のもの、夜魔の眷属に成り下がりし骸よ。その身に与えし打擲、屍体に鞭打つことを許し給え。
――――南無阿弥陀仏」
念仏を唱えながら、健脚の限り、身の動く限りを以て剣を、槍を、鉈を、直刀を振るってグールたちを仕留めていくお虎の姿だった。
(やはりサーヴァントは規格外ですか―――だが、これならば――――)
確実に『出来る』。アトラスが起こしてしまった禁忌の実験……その不始末を着けられる。
「申し訳有りませんリーナ。私は貴女の恋人を屍山血河に送り込まざるをえません。
そのことを貴女に一番最初に言うべきだった―――」
「シオン―――ナニが起こっているの……?」
不安げな顔をするリーナ。その顔に謝罪をせざるをえないのは、彼女も義理を通さざるをえないことだからだ。
「『刹那の世界』では上級死徒でしかない存在。『観測された世界』では、死徒■■■祖が一鬼『■■■■の夜』。その討滅を依頼したいのです―――彼らは、北米大陸ネバダ州――」
その言葉を受けて―――リーナは、今夜の予定にすぐさま、上官及び大統領補佐官とのオンライン会議を付け足すのだった―――怒りの文句と共に―――。
そんな想いを受けながら―――公園に現れた食屍鬼は全て滅ぼされた……。
† † † †
「ひ、ひいいいい!!! な、なんだ、なんなんだよぉおおお!!!!!」
「え? ただの『食事』だよ。アナタたち言ったじゃない。「私と気持ちいいこと」がしたいって、そして「私もあなた達と気持ちいいこと」がしたいって返した。ほら、ナニも『思い違い』はないよ?」
マッスルアンプという、筋肉をトレーニングする装置をあちこちに着けて筋力を強化してきた男は、情けなくも鼻水と涙を―――尿と共に盛大に撒き散らしながら、絶叫をする。
盛大なまでの恐怖を、最大限の恐怖を、在り得ざる現象に対する理解のなさから来る恐怖を―――存分に味わっていた。
あれだけ鍛え上げてきた筋肉。厳つさで威圧するファッションも、何もかも意味はない。
最初は、2096年という時代では見かけないファッションをした女子を引っ掛けたいという思いからだった。
夏頃に、女子大生ほどの女を手篭めにせんと、魔法師の男子から奪おうとして盛大にやり返されたタカは、それ以来、そういった魔法師関連の相手には手を出さないと心に決めていた。
そうでなくとも、その魔法師の高校生は、民間警備保障の世界では名の通った会社の『御曹司』だったらしく、更に言えば引っかけようとした女も『裏社会』関連の女だったらしく、官憲は執拗なまでに自分たちを目の敵にしてきた。
適当な罪状―――微罪の類であっても、この上なく拘束された上に、拘置期間も延長に次ぐ延長。絶え間なく続く調書取り。それに付随する尋問。
社会の闇というものをこの上なく味わい、うんざりして、更に言えば、接見する担当弁護士も次々に変わるということが『どういう意味』なのかを、血の巡りの悪い頭でも理解した。
全身から冷や汗を流してから、全面自供をせざるをえなかった。
もはや、こういう突っ張った生き方はダメなのだ。どこで地雷を踏んでもおかしくない阿呆な生き方。
母ちゃんや父ちゃんに頼んで習わせてもらった空手の道を穢した行いの報いなのだ。
そう悟りつつも、せめて―――自分たちのような存在を認めてくれる女性を見つけたい。
その人に、最期の操立てをして―――こんな馬鹿なことは終わりだ。
そうしてウォリアーズは、『女神』に会えたのだ。
2000年代初期のJKのようなスタイル。
ミニ丈のスカートに白いソックス。白ブラウスの上から黄色系統のカーディガンを着込んで『赤いタイ』を着けた人。
本人曰く―――。
『私? いちおう18歳以上だけど?』
女性に歳を聞くという無礼をしたにも関わらず、朗らかな笑顔で返してくれる。
全員が90度のお辞儀をした―――。
■■■の姐さんと呼んでしまいたくなるほどに、女神なお人は「野外」でも構わないと言い、それではあまりにも―――ということで塒としている廃工場にて清掃装置を作動させて、全員で掃除をしていた時だった。
―――惨劇が繰り広げられたのだ。
青山も、東出も、川谷も……全員が、足を一瞬で叩き折られて90度直角に曲げられたうえで、その首筋に噛みつかれたのだった。
それだけで、全員が死んだ。
そして最期に残された『タカ』もまた、足を叩き折られて這いずって、どうにか外に出ることも出来たはずだが……筋肉を持っていたがゆえに抵抗が強すぎて、それが出来なかった。
惨劇を起こした少女は手と口元を真っ赤にしていく。
舌先で吸い残した赤い液体を舐める仕草すら艶美なものだが、この場で唯一の生者である『タカ』にとっては恐怖のジェスチャーでしかない。
「さてと―――タカくんだっけか? キミだけを生かしておいた理由は―――ずばりいえばコレです!」
さも面白いことのように取り出したのは、タカが持つ携帯端末であった……血塗れの手で持たれたことで、赤く染まるそれをどうしろというのだ。
「私の『時代』と違って、随分とケータイも進化したんだねー。まぁともあれ、これを使ってキミと同系統の、頭の血の巡りは悪そうでも、それなりに健康体の人間たちを大量にココに呼んで欲しいんだよ♪」
「――――」
その意図を察せられないタカではない。この女が何者であるのかは分からない。想像することは出来ても、それを否定したくても出来ない。
死んだはずの青山、東出、川谷の足が元通りになり、あらゆる傷が癒やされて―――そして自由意志のない人形のようになる様を見せられた。
「それさえやってくれれば、キミだけでも生かしてあげるよ?」
「う、ウソだ。ウソに決まってる!!!! ―――こ、こんなことをして、俺だけを生かす理由なんてあるわけがない。ないんだ!!」
「けどキミはこのままだと死ぬよ? 私が爪を立てた相手は、時間経過と同時にミイラにもなるぐらいカラカラに吸い取られちゃう。第一、その足じゃ―――長くないよ?」
真っ赤な目が、笑いながら契約を迫る。
自分たちが声を掛けたのは女神などではない。正真正銘の悪魔なのだ。
気づいたところで、全ては遅かった。生き残るためには、この女の犬になって―――そんな生き方は―――。
「―――くたばれ!! このビッチが!!!」
そんな逡巡の中、タカの頭に過ぎったのは、夏の日に出会った『森崎』とかいう小僧のことだった。
魔法抜きであっても、鍛えているとはいえ体格で勝る自分を圧倒した小僧。
最期には情けなくも、尻もちを突いたまま後ずさってものを投げつけていたが―――あの時の掌底を思い出して、上半身の力だけで打ち付けようとしたが。
ごぎゃっ!!
そんな音で腕は真上へと向いた。
ハエでも払うかのような腕の一振り。それだけで最期の抵抗は終わり、腕は情けない主を見捨てるかのように身体から離れて、宙を舞った。
「あっ、そろそろ死体にしないと」
そのままに噛みつかれて、全てを吸い取られる感覚を覚えながら絶命を果たす。
ただ単に、『死徒』という化け物の血袋にされるという運命が押し付けられていく……。
ウォリアーズというギャング崩れの若人たちの頭目、『石橋鷹史』という男。彼の生には、最初っから最期まで何の意味もなかったのだった……。