魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
MenGさんに申し訳が立たないので、よろしくお願いします。
「バランスが言っていた通りならば、厄介すぎる……」
「
悩ましい限りである。コミューターの中で話し合う限りでは、恐らく―――『悪魔』関連だろう。
「映像に関しては、しばらく送信出来ないって言っていたから―――よっぽどのことをやったんでしょうね」
「合衆国の強みであり弱みだな。それぞれの思い描く合衆国の『利益』のために、己の
融通が利かない『お利口さん』ばかりで、溜息が出る。
「セツナの背広組アレルギーも極まってるわね」
「所詮は傭兵待遇なもんで、渡り鳥のはぐれ鳥は、あちこちにクチバシを差し挟むもんさ」
「ソレじゃ、ついでだから無知な
「オーライ。そんぐらいは安いもんさ」
人差し指を唇に当てて小首を傾げる、とんでもないモテポーズをするリーナに、観念しながら説明をすることに―――。
ことの起こりはエーテル……第五架空要素の『実証』より始まる。
神代の終わり。ソロモン王の死去から始まる真エーテルの消滅の代わりに『証明』された神秘実践要素は、その後の世界に多くの影響を与えた。
「BC世紀の頃に『悪魔』とされるようなものは殆ど在りえなかった。今現在の価値観で言うところの、『幻想種』としての『悪魔』ならばいたんだけどな。
シバの女王の母親は砂漠に住む
「けれど、ソレは例えるならば、ギリシャ神話の牧羊の神サマ『パーン神』のイメージを、勝手に「悪魔」のイメージに変化させたキリスト教みたいなモノでしょ? 土着の神サマを悪役として取り込むみたいに」
その通りと深く頷いておく。一神教に否定され、『善悪』の区切りで『悪役』として押し付けられた神々というのは多い。そういう定義で言えば、俗世に蔓延する『悪魔』というのは、人間の想像力や合理性によって作り出されたものともいえる。
「バランスが言っていたパラサイトと似て非なるもの、寧ろタチの悪さで言えば、こっちの方が厄介かもしれん。
魔術世界における『悪魔』。
それは即ち『第六架空要素』。
人々の願いを『歪んだ形』で叶える望まれぬ概念存在―――『これら』に明確な『意思』があるかどうかは、未だに議論の中にあるんだが、ともあれ『悪魔』は人の体を苗床にして『受肉』を果たそうとする。
だが、『受肉した悪魔』は『存在しない』―――」
「―――出来ないのね?」
「ああ、人間の精神―――魂と肉体を変質させられたがゆえの『己』に耐えきれずに、周囲に『魔』―――悪性情報を撒き散らして自壊するのが通例なんだ」
人間の願いを叶えるがゆえに、『悪魔』は
「神は人間を理解し、人間は神を信仰するがゆえに
決して―――『宿命』は飼い馴らせない。AD世紀に現れた悪魔という概念は、人類全てに課された宿命なのだ。
「それを前提とした場合、パラサイトがただの『憑依霊体』である可能性もあるしな。ただ、現れた死徒が、取り憑いた人間を積極的にグールにしているというのは、ちとマズイな」
「マズイの?」
「マズイよ。違う霊体を取り憑かせた人間というのは、狐憑き、犬神憑きのような一種の獣性魔術の発動体だからな。
そんなものがグールになっているならば、元の人間の霊的資質にもよるが、少しばかり強力なものになっている可能性もある。
こちらは
「デーモンライズ?」
「キミが想像しやすい例で言えば、外宇宙神話の末、異星人の影響を受けたものたち―――巨大なイカを使役した魔法師がいただろう?」
その言葉に己の身体を掻き抱いたリーナ。青褪めた顔をしたあとには―――。
「セツナのイディオット―――!!!」
「何でスラングで馬鹿の表現!?」
対面の席から飛びかかるように抱きつかれて、説明が中断するが、ともあれ―――説明を最後までする。
「と、とにかく! その在り方は『真正』の方にも通じかねないんだが、異星人と化するようなもんで―――つまりは、あんまり心配するな―――!!!」
「ならばいいわ」
「いいんかい」
呆気ないやり取りだが、リーナは刹那に一家言ありそうなので促す。それは至言であった。
「けれどね。セツナ、アナタはそろそろ学習するべきよ。
アナタが『事態は大きくならない』『大した相手じゃないぜ』なんて言っていた連中は、その言葉を聞いていたかのように、ナニクソと思ったのか、『強大化』して
そうだね。本当に割りかしそう想う。
少しだけ膨れるような変化をしながら耳元で語るリーナに心底同意する。
どうにもこの辺りの悪癖は母譲りだとも言える。物事を過小評価しがちというか、『ありえない』ことを想定しきれないというか。
ある種、これが自分の中の『うっかり』なのかもしれない。
イヤな結論だった―――だが、今回ばかりは最初っから本気にならざるを得ない。
「死徒なんて人喰い虎以上の災厄、こんな『大都市』に紛れているんだ―――見敵必殺。一も二もなく叩きのめす。アンカーを心臓に打ち込む」
そんな気概を持つと同時に、一高にいたるターミナルにようやく到着を果たす。
「降りるぞ」
「抱っこしたまま下ろして♪」
周囲にも一高生はいるというのに、朝っぱらから出来るか。そう言いたいのに、この笑顔の前には全てのワガママを聞かざるをえなくなるのは、『一つの魔法』だなと思って、ハズカシイことはやらざるをえない。
気概を持ちつつも―――事態は予想以上の速さで進行しつつあるのだった。
† † † † †
「んじゃ、お前ネクロマンサーなのか?」
「ああ、オレの住んでいた村ってのはソウルキャリアーの系譜だからな。幾つか仕込まれているのさ」
「だからか。エクスカリバーを求めるってのは?」
「さぁね。ミヅキの絵を昨日、レティと一緒に見せてもらったぜ。
―――偽物かどうかはともかく、オレの為に『一振り』鍛ってもらいたい。もちろん報酬は出すぜ。ドル支払いでいいか?」
「金の問題じゃないよ。俺の『剣製』は―――少し違うんだよ。レッド」
その言葉に「?」を浮かべながらも、まぁいいとしてくる。
納得したのか、それとも攻勢を一度やめにしたのか、それは分からないが、刹那との会話を終えてから他のクラスメイトとの会話に入るレッド。
モードレッドの性格は、現在の日本の女性の有り様からすれば、かなり異質だが、それでもそのどこか『ワイルドな女子』という女番長的な面が、かなり好評のようだ。
渡辺摩利とも違う点が、B組メンバーにはいいらしい。
「ど、どうしよう……スバルに対する情愛が薄れてしまいそうなモーさんへのこの感情―――まさしく愛だわ!!」
桜小路の少しばかりとち狂った言動を聞きながらも、放課後のクラスはそれぞれで動きが出てくる。
昨日のエルメロイレッスンで三人を交えた授業はいいものだった。
同時にシオンはともかくとして、2人の系統も見えたことは大きな情報だ。
とはいえ―――。
(まだまだナニかを隠されている感はあるか―――)
英霊の『霊媒』『触媒』と化しているレッドはともかくとして、レティシアは『何か』分からない。
ダ・ヴィンチは『正体』を察しているようだが、それを教えてはくれない……。
『膝を擦りむいて、転んで得た痛みだからこそ分かることもあるのさ。グールに対する、東京全領域に向ける索敵マップの完成は少しかかる。
今は地道に―――足と『眼』を使って探ってくれ』
と言ってきた。首っ引きというほどではないが、ロマン先生も巻き込んでのセンサー及びレーダーの開発が、進められているらしい。
それさえ済めば、活動も比較的ラクにはなる。
そう思いたいが、果たして―――。
「セツナ、今日は馴染みの喫茶店に連れてってくれるんですよね。エスコート頼みます♪」
「それはいいんだけど―――」
「アタシに構わなくていいぜ。サーベルクラブとやらの活動に興味があるんだ。外部コーチだっけか? ミス・カゲトラは、結構やるみたいだからな」
B組にいるレッド曰くのサーベルクラブ―――『剣術部』所属の男子・女子―――相津郁夫、斎藤弥生が軽く手を挙げる姿。
実を言えば我がサーヴァントは、あの論文コンペ前の出来事……渡辺摩利、千代田花音、壬生紗耶香を鎧袖一触した立ち回りの後に、剣術・道部構わず自分たちを指導してくれと言われたのだった。
『セツナの護衛がいらない時であれば―――まぁ私のマスターは、よほどの事態でもなければ危機に陥る人間では有りませんからね。いいでしょう』
そういう言動でランサー・長尾景虎は、了承するのだった。
特別抗弁することでもないので、それを良しとしたが―――『戦国時代』の『何でもアリ』な戦技たる剣の技が、今の時代の剣術及び剣道の『水』にあうのだろうか?
そういう疑問もあったが、今のところ問題は起きていないようだ。寧ろ―――。
『紗耶香。アナタの剣は真っすぐなようでいて、『濁り』が見えます。
その理由は分かりませんが、今も少しだけある『恨み』の所作を捨てなければ―――剣の筋は歪んでいきますよ』
そう言って『写経』をさせた上で、素振り千回。『毘沙門天への祈り』をさせた上でやらせていたとのこと……。
ここまで自分を伸ばしてくれた『武』への感謝をした上での素振り千回―――現代魔法師の感覚に慣れきっていた殆どの連中が、それを疑問に思っていた。
当然のごとく、剣術部部長たる桐原武明も疑問を懐き、『やんわり』と問うたのだが……暖簾に腕押し。
カゲトラコーチは聞かなかった―――。もう柏葉英二郎のごとき鬼コーチっぷりだったらしい。
そして2週間を過ぎた日に変化が起きる―――。
明らかな形で壬生紗耶香の剣速が増していたのだ。それは見間違いではない。
しかも、『南無』と唱え感謝を込めた一振り一振りの風切り音が違うようになっていたのだから―――……
『憧れを持つのは大いに結構ですが、それゆえにアナタ自身の剣が乱れては意味がありません』
渡辺摩利という女性の剣に追いつきたいと願う心を「憑き物」として落とした景虎は、色々とすごすぎたようだ。
戦国時代というのは剣を交えるだけが戦ではなかった。人を見るということが、一番の戦といえる。
後世の人間からすれば『愚策』にしか思えないことも、当時の人間からすれば当然のことだったのかもしれないのだから。
そんな風に考えていると、来客が現れる。確か、今日が風紀委員としての最期の『お勤め』であった達也だ。
「よっす。どうしたい?」
「少しばかり話がしたいんだが、構わないか?」
まさか『昨夜』のことがバレたわけではあるまい。そう考えながらも、緊張を押し殺しながら達也に呼び出されて廊下まで行く。
簡潔に言えば、『深雪専用の感応石』を用立てて欲しいということだった。
「市販品ではダメなのか?」
「それに関してはお前の方が『専門家』な気もするがな」
言いながら人のアクセサリー。お袋からの贈り物たるペンダントの鎖部分を触ってくる達也。
制服部分から見えているそれを引っ張る仕草に、レティシアは眼を輝かせて見てくる。
そういう腐っている人々を喜ばせることをするなと思いつつ、卒業生用のメモリアル品からレッドの剣の依頼に、千客万来すぎると想う。
「忙しいか?」
「正直言えば、少しな。ただ深雪のアレに関しては俺も気になっていたからな。とりあえず――――どうも」
「イエイエ、
少し違うが、自分が『荷物』を取りに教室に行こうとする前に、自分の鞄を持ってきてくれたリーナに感謝する。
そうして『四次元ポケット』から小箱を出した。中身はここで開けるなと言っておいてから、中身の説明をしておく。
「ふむ。俺で扱いきれるか?」
「とりあえずやってみろとしか言いようがない……お前にだけは伝えておくが、俺も何かと手が回らなくなるかも知れない」
「厄介事か? まぁ詳細は聞かないでおくが」
平素な顔で言うも、達也の探るような言葉に―――とりあえず、気にするなという意味で手を振っておく。
「それが一番だ―――んじゃな」
「ああ、また明日」
その言葉を最期に、校舎から出る。もうすぐ卒業式を迎えつつある季節。そんな時に、恐ろしすぎる吸血鬼が都内に出つつあります、なんてバッドニュースは―――出来る限り穏便に済ませたいのだ……。
そして向かったアーネンエルベには、ラ・フォンティーヌの面子がいて、最近バーチャルアイドル兼生身のアイドル、2090年代の『シェリル・ノーム』などと呼ばれつつある『宇佐美夕姫』がいたのだが―――。
それは多分に蛇足である。例えFRIDAYのネタにされそうな魔法科高校の男子学生との密着シーンが繰り広げられても―――それをことさら騒がないぐらいの分別はあった……『エリカ』を除いて―――と付くのだが。
・
・
・
・
アーネンエルベでの軽食、そして家に帰ってからの外出。特に家の人間からはナニも言われないで、外行き用―――冬用の衣服を着込んで向かった先は再びの都内。
若者の街として混沌の猖獗を極める街。『渋谷』であった。
戦前、若者向けの繁華街として栄えた六本木、原宿、池袋……それでも今でも深夜に若者がうろつき、集まる景色が見られるのは、渋谷だけだ。
なぜ、そんなことになったかは定かではない。渋谷以外の各歓楽街には、群発戦争で行き場を無くした不法居住者による破壊活動及び、勝手な自治化を官憲及び地元の暴力団とで制圧したからとも言われているし、2020年の中国発のコロナウイルスによる外国人排斥運動の末とも言われている。
ただ明確なことは、何かしらの『大破壊』が行われ、結果として―――渋谷以外の繁華街・歓楽街は、窮屈な印象がある『遊び場』として再建されたのだ。
そんな渋谷を光溢れる
この街にいる面子の中でも、かなりの巨体で高身長を有しているレオは、見るものが見ればかなりの注目の的である。
何かしらの当てがあるわけでもなく『彷徨』するレオであったが―――少しばかり街の様子が『不審』なのを感じる。
有り体に言えば……騒がしくないのだ。
原因は分かっている。あちこちで徒党を組んでいるギャング崩れ、チーマー連中の『チーム』が消え去っている……。その原因は分からないが、それでもいないことが不審な空気を作り出して―――。
渋谷を緊張させていた。
ゆえに―――スーツの上からトレンチコートを羽織る男性三人。若者の街には相応しくないのがいても誰も注意を払わなかった。
だが気づいたレオが声掛けをしたことで、一気に周囲の若者たちが警戒態勢に入るのは、仕方のない話であった。
明らかに捜査中だったらしく、まぁ悪いことをしたなぁと思いながらも、『BAR』と書かれた場所の二階部分。その密室に連れ込まれたことで、色々と察する。
「オレ、未成年なんだけど?」
「安心していいよ。俺も未成年に酒を勧めるほど馬鹿じゃない。なんというかクリスマス以来だね。西城くん。宇佐美さんとは、イイ感じかな?」
「その節はお世話になりました。千葉警部」
四脚の椅子に座りながら、取調室の
「まぁそれなりにいい付き合いはしていると思いますよ。別に一緒にいて気が重いわけじゃないですしね」
「羨ましい限りだね。そして同時に恨めしいよ。君の恋路は素直に祝福したいんだが……エリカがね……」
「はぁ……」
言われてみても『ピン』と来ないわけではない。
だが、それでもエリカが好意を抱いているのは、どちらかといえば『達也』の方な気がするわけで、なんというかトンチンカンな気がするのだ。
「修次が、摩利ちゃんと付き合い出した頃の態度そっくりなんだよね。だから触らぬ神に祟りなし―――といくほど我が家は『広くないんだな』……」
「思うに、アイツのスタンスが定まっていないのが問題だと思いますね。女扱いされたくないんだか、女扱いしてほしいのか―――まぁ女番長だからと、そういう面ばかりじゃないことは分かるんですけど」
「痛烈だね。けれど仕方ないんだ。『一人でも強く有りたい』と思う心と、『誰かに頼りたい、寄りかかりたい』という心との両面が、
俺は前者を鍛えることで恨まれたけれど、間違いではなかったと思う。
後者を修次が請け負ってくれていれば、ということだったんだけどね―――いや、長話して申し訳ないね」
何処の家でも『姉弟』『兄妹』というのは色々な関係性があるもんだ。そう思いながら、ここに連れ込まれた以上は何かあるんだろうな。
寿和の後を次いで口を開いたのは、一高の養護教諭の旦那であった。
「実を言うと最近、都内で不審な事件が起きていてね―――その捜査、特にここいらの繁華街を探し回っていたんだ」
鼻を利かせてね。そうお道化た調子で言いながら、鼻の部分を触る安宿警視に少しだけ緊張を解きながらも、不審な事件の詳細を聞いて、汗を掻いてしまう。
「変死事件ねぇ……」
「奇妙なことに、被害者全員は死因は衰弱死。七人ともかすり傷以上の外傷は一切無い。更に言えば、毒物の反応もなし……死因として考えられるのは、血液の『消失』―――つまり血液を抜かれたか、それとも本当に無くなったか―――どちらにせよ、総血液量から約一割もの血液が無くなったことによる死亡だよ」
稲垣という刑事が端末を操りながら、そんなことを言ってくる。
些かの誤差はあるのだが、人の総血液量は体重のおよそ13分の1だとされている。
体重が65kgなら5kgで、体積に置き換えると4,7リットル。
そして人間の身体に重大な異常をもたらす『失血量』は、総血液の3分の1の量である。
4,7リットルから一割。0.47リットルが無くなる……しかも外傷の類はない。そして被害者は、そんなことになるまで『何の抵抗』も出来なかったのか。
色々な疑問をぶつける前に―――、一番、ありえる可能性をぶつけた。
「……『魔法』による体内血液の消失ということは?」
「実を言うと、数日前まで、部署ではその可能性が一番取り沙汰されていたんだ。特に
だが、その可能性は既に消えていた。何故ならば被害者七人は『魔法師』ないし『魔法師の素質』を持ったものだったからだ。
「君に言うまでもないが、遠隔魔法を受けた場合、あるいは照準を着けられた場合、被術された側の魔法師は、それを外すために、照準位置から大きく離れようとする。
自己加速魔法でも何でも使ってね。あるいは君の友人のように『忍術』という純粋体術で―――エイドス改変の情報を無為に返す」
本当に言うまでもないことだ。だが、それを実戦で出来るヤツが多いかどうかということもある。
「そう。誰も彼もが―――そういう風に動けるわけがない。だがソレ以上に『技術的』な問題がある。
サイオンウォールという壁を『無為』にすり抜けて、血液一割を消失させたとしても、その一割分の血液が『何処に消え去る』のか、そういうことだ」
「まぁ間尺に合わないですね……」
その言葉に、九校戦のシューティングにおいて、ドライアイス弾の質量を加速云々カンヌンにおけることを思い出した。
つまりは、一条の爆裂はあれでかなり『割がいい魔法』だったらしい。
相手の血中酸素や水分を『膨張』させた上での体内四散は、エイドス・スキンの突破の難度を『無視』できるほどの干渉力を持っていれば―――。
「吸血鬼の仕業?」
「噛み付き痕はないんだけどね」
そういうわけで、レオの疑問は既に多くの論が交わされていたことの混ぜ返しだったらしい。そして、本当の意味での猟奇殺人事件だった。
「本当ならば、『専門家』に見てもらいたいところなんだけどね」
「刹那ならば、暫くは無理っすよ。三国からやってきた留学生の守り役をやっていますから」
「怜美が言っていた三人の美少女留学生全員を、彼1人で世話しているのかい……?」
「やっかみの視線が五割増しですけどね」
安宿警視―――眠りの『ハクタロウ』と呼ばれる男性の驚愕の視線に、苦笑しながら答えておく。
ともあれ、自分にも何か気づいたことがあれば、教えてくれないかと言われるのだった。
「協力ついでなんですけど、最近この辺を根城にしているチーマー連中も消えているんですけど、何かあったんですか?」
「こちらも現在、捜査中なんだが……行方不明になっていることしか分からないかな。知り合いでもいた?」
「いいえ、なんか気になっただけなんで」
繋がりは見えない。せいぜい、家族がかなり心配している程度だが……多発するワルどもの行方不明と、何かがあるのではないかと感じて―――肌がざわつくのを感じていた。
(俺も無関係じゃいられないんだろうな)
そんな予感を感じて、西城レオンハルトは、我知らず拳を握りしめるのだった……。