魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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コロナが恐ろしすぎる。

不況の影響は、まだまだ出ないが―――今は、命を守ることが第一だな。

人が多ければ多いほど、感染者の率は高くなる。当たり前に確率の問題だが、大都市はそれが恐ろしいな。


第219話『夜が来る!-TWO-』

「おはよ〜〜セツニャ〜〜。おめざのチューはなし〜〜?」

 

「猫化しとるがな。まぁ夜ふかしした上に、切った張ったが多いからな」

 

2階から降りてきた色々とはだけているリーナにハニーミルク一杯を渡しながら、自身も覚醒のために牛乳一杯を飲み込む。

 

そうしながらも目は、がっつりニュースサイトに焦点を当てておく。

 

「ダ・ヴィンチも仕事をしていないわけではないのですが、中々……吸血鬼のねぐらを断定できませんからね」

 

上級死徒の寝蔵となると、それは確実に妖精郷にも届く幻想の城だ。この東京にんなデカイ建物(りょういき)が出来れば、刹那ならば気付く。

 

ただ……。

 

「巨大都市であるがゆえの『影の部分』は、大きすぎるからな」

 

結局の所、この大きすぎる都市はあちこちに人の目の届かない場所を作っているのだ。

ソーシャルカメラは当たり前のごとく作動しているが、それでもそれが覆いきれない場所や、意図的にそういった場所も作り出している。

 

もちろん、当たり前の話で違法なのだが、ソーシャルカメラを物理的に破壊しているところもある。

 

特に『違法なサービス』ないし『違法すれすれのサービス』の提供は社会において、ある種の必要不可欠な面がある。誰だって人には出せない趣味があり、それを発散させたいところは必要なのだから。

 

そういった『場所』はどこにでもあるわけで、そこの住民たちは、脛傷持つものが多く、口裏合わせを行うことも多々ある。

 

つまりは、最期に当てになるのはニンゲンの目と足を使っての地道な索敵ということになる。

 

「まぁ例のブラックホール生成実験という『体』で行われたことは、よっぽどだな。異次元生命体と『死徒』を呼び出してしまうんだから」

「セツナと『同等のこと』を欲したわけよネ―――気持ちは分からなくもないけど」

 

だが、アプローチとしては『悪くない』。刹那の秘奥は、本当ならば『悪魔』『精霊』という存在が持ち得る『異界常識』なのだから……もっとも今となっては、意味のない話だが。

 

「……パラサイトが固着出来なかった死体が出てきたようだな」

 

「というか、元々それなりの数はいたとも聞くわよ。隠蔽しきれないと見たわけネ」

 

「悪いがパラサイトなんてのは、ある程度は黙殺しても仕方ない『小物』だ。しかし、これを狙って死徒が動く以上、警察や日本の魔法師とかち合うことは在り得るか」

 

場合によっては勢力図が混沌としてくるような気がする。あまり考えたくはないが、パラサイトとかいう『第五架空要素』の成り損ないを守るために戦わざるをえない可能性もある。

 

「カツトパイセンやミス・マユミは、こっちに接触してくるわよねー……なんて答える? ワタシ、腹芸(フェイク)が得意じゃないから、ある程度の模範解答がほしいワ」

 

「知りません。存じません。個々の事案に関してはお答えを差し控えます。でいいんじゃない?」

 

「なんて『カンリョーテキトウベン』!」

 

「どうなるかわからないんだ。そもそも接触があるかどうかすら分からん―――が、そういう時は念話で隠れて会話しとこうか」

 

そんなやり取りに対して、一応は『義の武将』と信じられているカゲトラは『やれやれ』という風に嘆息をしてくるのだった。

 

再びの朝。日は出ているが、『無惨』を行うものを前にして、『鬼滅の刃』を振るえない現状が嘆かわしかった。

 

† † † † †

 

登校してクラスに入ると、話題は当たり前のごとく都内を騒がす『吸血鬼』で持ち切りだった。

 

「おはよーす」「Goodmorning! むしろゴッドモーニングってのが欲しいところだけど」

 

平板な調子、いつもどおりの刹那に比べて、テンション高めのリーナ。ここで如何にも『寝不足』なんて感じで居たらば、何かしらの疑念を持たせる。持たせるのだが――――。

 

「ZZZZZZ〜〜〜」

 

思いっきり机に突っ伏す形で、眠り続ける錬金術師1人。肩を落として脱力せざるを得ない。

 

そんな錬金術師の紫苑色の髪は解かれており、おもしろがりの後ろの席のエイミィによって、編み込まれたりして弄られている。

 

それでいいのか、錬金術師。そんな内心でのツッコミを入れつつ、席に着くとこちらにも話題は飛んできた。

 

きっとE組の方でも、達也辺りにエリカが絡んでいるんだろうなと想えるタイミングでの、斎藤からの絡みであった。

 

「相津とちちくり合ってなくていいのか?」

 

「なんちゅーこと言ってくれてるんだこの男!

ただ単に連絡事項が多いから話し合うことが多いだけよ。相津君とは!」

 

一度だけ顔を真赤にした剣術部のボーイだが、その後には、斎藤―――剣術部のガールのにべもない言動で『ずずーん』と沈むこむ剣術部の純情少年。

 

がんばれやとしか言いようがない感じである。とはいえ、持ってきた話題が分からぬ刹那ではない。

 

「吸血鬼に関してならば、皆目見当がつかないな」

 

「魔術世界に、そういう存在はいなかったの?」

 

「現実的に考えれば、吸血を行う生物は自然界に多く存在している。真夏の夜の悪魔、『ザ・モスキート』()(ひる)もそうだしアメンボだって、血吸いで己の身体を維持している。ようは自己保存の為の行為だ。そういった連中の大型化とかあるんじゃないか?」

 

「けれど、そういう採血跡に当たる部位が見当たらないと、ニュースペーパーには書かれているけど」

 

わざわざ消す必要もないことだけど、そういう十三束に対して、その通りであった。

 

「オカルト過ぎて訳がわからんな」

 

「いや、アンタそういうのの専門家じゃない」

 

続いては桜小路からのツッコミ。まぁ言われてみればその通りだが、事実は明かせない。

 

「吸血鬼だとすれば、全身の血を抜かれているのが『通説』。そして死体はグールとなって動き出す。

一割だけで『お腹いっぱい』なんて、『マスターモスキートン』じゃあるまいしなぁ」

 

なんてレトロなネタ。誰もがそう思うぐらいに昔のアニメーションのネタを出されて苦笑い。

 

「刹那は、吸血鬼―――という存在がいるとは思っていないんですか?」

 

ふと―――その質問を投げかけてきたのはレティシアであった。思わず視線をそちらにやってしまうほどに、見事な入り方であった。

 

だが、それに真に入り込むことは出来ない。明らかに『催眠誘導』の眼を発動させていた。

 

一種の暗示だ。レジスト出来ないわけではないが、レティシアのそれを咎めるほどのことではないだろうと思う。

 

「まぁ居たとしたらば、この世は全て吸血鬼だらけのディストピアになってると思うが―――俗説である、吸血鬼に血を吸われたものは吸血鬼になるということを念頭に置けばな」

 

「そうですね。例えば一人の吸血鬼が一日一人の人間の血を吸って、『もうひとりの吸血鬼』が出来るとします。

これを吸血鬼になった人も繰り返すとなると、一ヶ月で地上は吸血鬼の楽園ですね」

 

それは決して埒外の想像ではない。近年では、未知のウイルスが驚異的な感染力で、死体を動かすことすら可能にする『ウイルス感染』というのは、近年の吸血鬼伝説の端緒ともいえる。

 

「けれど、こういう風にも考えられません? 発見されている『死体』の方たちは、『吸血鬼になれなかったから死んでしまった』。

吸血鬼になれる人となれない人とがいて、『なれる人』は吸血鬼に襲われても死体は発見されないんです―――『今』も、どこかで生きているから」

 

「……でも、それは『居たら』の話だ。吸血鬼は空想上の怪物だろ?」

 

そう返さざるをえないレティシアの強烈な言葉。

『飲まれている』ことを自覚する。このB組のクラス全体が、レティシアで満たされていることに今更ながら気付く。

 

「―――ええ、そうです。吸血鬼は現実に居たらとんでもない怪物です。

いてはいけない――怪物なんです―――」

 

その目に『聖印』が浮かんでいるのを確認して―――口を衝こうとした瞬間。

 

「はーいみんな、席について―――!! 世間の話題に敏感になるのは仕方ないが、何事もないように過ごすことも重要だ。

夜遊びはしない。なるたけ一人っきりにはならない。例え『魔法師』であってもどうなるかわからないんだからね―――それじゃ、ホームルーム始めるよ」

 

ロマン先生も色々と苦労しているだろうに、生徒に注意勧告を出してくれる辺りに感謝だ。

 

全員が一種の『催眠状態』だったが、それが解かれて『はっ』としたかのように着席をした。

 

とりあえず、これで『どっか』からの追求は止みかなと思いつつも、これで終わることは無いだろうなと感じる。

 

ただ、それで収まらない人も、この一高にはいるわけで―――。

 

そちらが……怖かった。いや、まぁ追求されてもどうにでもなるかもしれないが。

 

 

呼び出しを受ける。しかも秘匿通信での呼び出しであった。

 

宛名は『十』と『七』。来るように呼び出された場所が場所だけに、どうしたものかと思う。

 

『十師族から接見の申し出があった』

『ワタシも同行する?』

『キミがいなきゃ心細いな。そして何より―――留学生三人も連れてこいとのことだ』

 

短波の念話を送り合いながら、午前授業の終了まで残り七分であることを確認。

 

どうやって連れ出したものかと思いながら、百舌谷教師の授業を右から左に受け流す―――。

 

そして昼休みに入ると同時に、留学生三人に声を掛ける。

 

「ちょっとー! シアちゃんとモーちゃんとシーちゃんは今日、私達と予定あったのに――!」

 

「すまんエイミィ、前・会長と前・会頭とが、卒業前に件の留学生と話したいっていうもんでな」

 

「曰く『あーちゃんばっかりズルいわー! 私も外国の魔法師と話してみたいー』って言っていたから、もちろん三人次第だから無理強いは出来ないケド」

 

七草先輩のイメージを著しく毀損する言動だが、まぁそんぐらいは許してもらいたい。

しかし、三人次第なわけで……。

 

「ワリぃなエイミィ。一高の以前の『ロード』ってのは、日本の魔法師社会でもロードの子息・子女なんだろ。来なさいと言われて、挨拶一つもなしなんて不義理と無礼は出来ない」

 

騎士的な言動といえば良いのか、礼節を弁えた文言と片眼を瞑っての仕草に、エイミィも『うー……仕方ないかぁ』と渋々納得する。

ゴールディもまた『サー』の称号を持つ家だけに、その辺りは理の上で納得したようだ。

 

「シオンは?」

 

「エイミィとヤヨイには申し訳ないですが、無視するのはマズイでしょう」

 

苦笑するかのような言葉と態度。だが内心は―――。

 

『全面的な協力はムダな被害を出すかも知れませんが、それとなく警告を発することで人死を減らせるかも知れません。この会談―――拒否するのは合理的ではありません』

 

エーテライトを通じて放ってきた文言。確かにそれは一理あるのだが、あいにく『出てくんな』といえば言うほど、反骨精神ではないが、何か『お宝』があるのではないかと『でしゃばる』のが、日本の魔法師の特徴なので―――逆効果かもしれない。

 

そう一応は言っておくのだった……。

 

まぁシオンも礼節はあるらしく、そこを拒否は出来ないとしてきたのだが―――。

 

3人目は意外であった。

 

「モードレッドもシオンもそちらを優先するならば、私は皆さんとの友誼を尊重しましょう。確かに三人全員と話してみたい気持ちは答えたいのですが、あまり、こちらも不義理は出来ないでしょうからね」

 

レティシアの言葉にB組一同は、『せ、聖女サマ!!』『深雪が女神ならば、レティシアは本当に聖処女様だね!!』とか喝采を浴びせまくっている。

 

ただ本人は、刹那の放った『分かった』という言葉に、『引き留めてもくれない』と一瞬だけ不満げな顔であったのは黙っておくことにした。

 

「ウチの姉貴みたいなこと言うなよっ。まぁ……そういう考えもアリか!」

 

「では、行きましょうかセツナ」

 

「って二人してヒトのハズバンドの腕を取るな!!」

 

自然体な様子でそんなことをされて、どうにも抵抗する暇が無かった。特にレッドは、女を感じさせない引っ張りであり、その顔の風貌に『色んな人』を思い出して、ぐるぐると回るものを感じるのだった。

 

 

「それは、ステレオな見方ですよミスタ・カツト。

確かに英国はメシマズが共通した他国からの見え方ですが、2000年代初頭から始まった『モダンブリティッシュ』の運動は、食の世界にも及んでましてね。他国の技法を貪欲に学んで、料理の調味を向上させようと動いていたんですよ―――まぁ世界的な寒冷時代と、第三次世界大戦の影響で、ブリテン島も『食うや食わずや』の時代に逆戻りしたんですが―――今、再びそういう運動は英国にあるんですよ」

 

横から聞いていて思うことは―――『誰だ。コイツ?』である。

 

モードレッドの何とも紳士を思わせる応対。昨日までの印象を崩される……『織田信長』かと思わせる変化の仕方に、驚くばかりだ。

 

こちらでの食事とあちらでの食事。どうだろうか?という問いかけに対して、十文字先輩も少しばかり面を食らった様子だ。

 

初日の授業の様子や風聞で聞こえてくる人物像とは違うそれが―――色々だったのだろう。

 

「いや、不勉強で『すまない』な。

何せ、日本の魔法師は海外渡航が原則禁止になっているものでな。

海外の世情はネットや現地からのレポート頼みな点も多くて」

 

「お構いなく。私も他国のイメージは結構、ステレオな印象でしたから。流石に侍はおらず―――けれど『忍者』は生き残っているなどとは思っていませんでしたから」

 

(まぁ誰しもそう思うよな)

 

どうやら昨日の剣術部の教練で、達也が『忍者』(ハゲ)を師匠に持つことをどこかから聞いたらしい。

 

レッドの言葉に嘆息気味に考えてから、クラムチャウダーを吸い込んでおく。インスタント調理によるものだが、味は悪くない。

 

「ソカリスさ「シオンで構いませんよ」―――ならば、私もマユミでいいけれど―――私の妹たちがいる学校に転向してきたラニ・エイト・ソカリスって子は……」

 

「私の妹です。日本とエジプトの学位の関係上、こんな時期(受験シーズン)に転校してきて申し訳有りません」

 

ラニ=Ⅷが言っていた「友達」が、あのやかましい双子だったことが判明した瞬間だった。

 

「いえいえ、そんなことないわ。ただ『ラニっぱち』なんて変な岡っ引きみたいな渾名着けられて、嫌がっていないかな……とも思うわ」

 

江戸っ子かと思うも、どちらかといえば双子は江戸っ子であることは間違いなかった。

 

申し訳なさそうな真由美先輩に、微笑を零すシオンは『ラニが嫌がっていないならば』と言って安堵させるのだった。

 

そうして食事と雑談もそこそこに、2人は『本題』に入ってきた。

 

「四人は、巷で騒がれている『吸血鬼事件』をどの程度知っている?」

 

「報道されている以上のことは知りませんが」

「セツナに同じく」(me too)

「特に大使館などから連絡はありませんでした」

「私も同じく―――、しかし事実はともかくとして、吸血鬼とは興味深いですかね」

 

刹那から始まりリーナ、レッド―――シオンで終わった返答に対して、真由美は少しだけ神妙になって口を開く。

 

『吸血鬼事件』……血液消失での「犠牲者」は、報道されている数のちょうど三倍の二十四人。

 

犠牲者は東京都内、それも都心部に集中している。

 

そして犠牲者の半数以上が、七草家と関わりある「魔法師」であり、そうでなくとも魔法師あるいは魔法の資質を持っていた人間が犠牲になっているらしい。

 

「はあ。つーことは吸血鬼とやらは、魔法師を狙っていると?」

「私の家の方では、そう見ているわ。何より―――私の家と関連している魔法師が犠牲になっているならば、少しナーバスになるわね……」

 

言葉に一番、最初に反応したのは―――シオンであった。

 

「成程、その言葉の意味する所は、私達のような日本に縁故を持たない留学生が怪しい。

特にエジプトからやってきた私と妹が怪しいと睨んでいる。つまりマユミは私及び私の妹が、あなたのご令妹を狙っている―――そう言いたいんですね?」

 

「そ、そこまで言っていないわよ!! 確かにさっき十文字君との話し合いで、強化兵か魔法師、外国人である可能性が高いとは言っていたけど!!」

 

シオンの予想外に冷たい目線に晒されて狼狽する真由美を横にしながらも、十文字先輩は素知らぬ顔で湯のみ茶碗を傾けるのみだった。

 

「シオンが狙っているかどうかは置いておくとしても、七草先輩の家の魔法師(かんけいしゃ)が「狙われている」というのは被害妄想なのでは?」

 

「と―――いうと?」

 

刹那の言葉に、茶を飲み終えて喉を潤した克人が問いかける。それに対して自信をもって答える。

 

「先程、言っていたじゃないですか。犠牲者は東京都内に集中しているって、犯人が複数か単独かは議論の余地がありますが―――吸血鬼というからには犯行時間は『深夜』なんですよね?」

 

「そう聞いているな」

 

「だとしたらば、必然的に犠牲者に七草家の関係先が多くなるのは仕方ない。

『都内』にいる登録魔法師の中で、果たして『七草家』と『関わりを持たずに済む魔法師』が『どれだけ』いると思いますか?

そして何より、いくら交通機関が21世紀初頭から『発達』したとはいえ、深夜まで都内にて『元気』に動き回る魔法師が、出先機関含めて七草家関連と繋がりを持たずに済むわけがない。

お兄さん―――今でも『研究所住み』なんですよね?」

 

その言葉に『あ』と今更気づいたかのように声を上げる七草真由美。

 

こんなのは単に『確率の問題』であって『陰謀論』と絡めるものじゃないと告げると、顔を真っ赤にして手で覆う姿。

 

数秒前の自分の推理を恥ずかしいものだと思っているのだろう真由美は、横にいる克人に問いかける。

 

「も、もしかして克人君は、分かっていたりしたのかしら?」

 

「まぁ弘一殿が『手広く』色々とやっていることは分かっていたからな。我が家(十文字家)と違って子派閥・孫派閥も含めれば、『どこまで』を七草家と絡めて語るかの問題はあった―――『すまないな』真由美」

 

十師族の地域防衛の『理屈』と地域の『総人口』を考え、その上で『魔法師』だけが狙われているとなれば……何かの共通項はどこかに出てくるものだ。

 

「気づいていたんならば早くに言ってよ!! 赤っ恥掻いちゃったじゃない!!」

 

「す、すまない! 本当にすまない。何故か今日はこのフレーズが主に出てしまう日で、『すまないさん』であることが、本当にすまない」

 

びしびしと手で克人の肩を叩く真由美の打擲。それを一身に受ける様子に―――『漢』だぜ十文字克人、と誰もが思うのだった。

 

「で、この話の帰結は?」

 

「あ、ああ。十文字家と七草家は、この事件に対して協力することを決めたんだが―――遠坂、お前の助力を願いたいんだが、な」

 

いまだに叩く真由美を宥めながらの克人の言葉を聞く。

 

それに対して刹那の回答は―――。

 

「お断りします。というより、そちらの事件よりも―――『こちら』の方が重大だと思いますからね」

 

「……続発する『行方不明者』……魔法師ではないが、こちらが『重大』なのか?」

 

「それなりには。場合によっては『狙い』が重なることもあるかもしれませんが、俺とリーナ、そしてシオンは……このギャングスタどもの消息を追いますよ。USNAからも書面が届いちまったんで」

 

その言葉に流石の真由美も手を止めて、こちらを探ろうとする視線をしてくる。

 

「……一つ聞くが、かなりマズイことなのか?」

 

「まだ『確証』はありません。ですが―――場合によってはサーヴァント以上の脅威になるかもしれません」

 

「………俺と真由美が追う『敵』と、お前が追う『敵』は『違う』んだな?」

 

「それだけは断言しておきます。しかし、俺の追う『敵』は―――あなた方には手がつけられない。それだけは念頭に置いておいてください」

 

「……分かった。お互いの健闘を祈っておこう」

 

「克人君……!?」

 

その言葉を最後に会食は終わりを告げた。ある意味、どころか『かなり生意気な口を利いた』かもしれないが……ともあれ一年が退室した部屋に三年2人は残った。

 

 

「良かったの?」

 

「あそこで強気に協力を請うたところで、アイツが頷くとは思えんな……シオン・エルトナム・ソカリスが協力者だったのは、意外だったがな」

 

真由美と克人が考えるに、この事態は『サーヴァント』関連だと思っていたのだ。

クリスマスにも、それ関連の事件の一つに彼は首を突っ込んで、色々だったことは聞いている。

 

その上で、英国からやってきた『モードレッド・ブラックモア』と仏蘭西から来た『レティシア・ダンクルベール』の容姿は、横浜騒乱の時に見た『アルトリア・ペンドラゴン』という少女騎士の容貌に似ていたのだから……。

 

そちら(英霊)関連だと考えていただけに梯子を外された想いだ。

 

「とにかく俺たちは、『吸血鬼』の方を追っていればいいだけだ。そうすれば、『魔法師』の被害は止み、あいつらの方に世話も焼けるだろう」

 

「そうなればいいんだけどね……」

 

「ああ、言わんとすることは分かる。この一件―――完全に終息するのは俺達の卒業式前後までかかるかもしれん」

 

問題は長引く。それを何となく肌で感じて身を引き締めるのだった。

 


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