魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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展開が微妙に遅いかなぁ。そしてまゆみん暴走。微妙にtamago先生のよんこまな感じになっちゃいましたよ。


そして再びのランキング入り―――展開が遅いのに申し訳ない限りです。


第12話『入学式―――前哨』

 

「納得出来ません。何故お兄様が補欠なのですか!? 入試の成績はトップだったじゃありませんか!!」

 

 

 それが考慮される学校ではなかった。そういうことを何度も繰り返してきた。

 

 

 いつか妹が納得してくれるんじゃないかと、蒸し返される度に何も変わらぬ結論なだけ―――。

 

 

 だから自分達の後ろで――――……

 

 

『魔術王に!!! おれはなる!!!』

 

『魔道女帝に!!! わたしはなる!!!』

 

 

 などと高らかに宣言して帆を張り上げるかのように腕を上げる二人の男女と共に目立っていた。どちらも美男美女―――自分はどうだか分からないが、とにかく目立たず騒がず学校生活を過ごしたいという自分の願いは既に砕けていた。

 

 

 前髪をかき上げるかのように痛む頭を抑えて、とりあえず目の前の問題。言い募る妹につらつらと理論立てて答える。

 

 

 新雪が降り積もるかのような肌をした妹が真っ赤になりながらも、ようやく納得してくれた時には、二人の男女はどこそこに、これこれ。様々な案内板を見たりしながら話しこんでいた。

 

 話し込みながら、こちらに聞き耳を立てている可能性もあった。

 

 

『――――勉学も体術もお兄様に勝てる者などいないというのに! 魔法だって本当なら』

 

 

 思わず妹―――司波深雪を叱責した、兄―――司波達也であったが、マズったかなと思う。特に聞かれてはいけなかった部分だった。

 

 

 ともあれ、興奮しきりであった妹を総代としての答辞のリハーサルに送り出すと―――。

 

 

 もう一方の男女にも、遣いがやって来た。学内関係者だろう成人した女性が、少し焦った様子でやってきた。

 

 

「シールズさん。少しあちら(USNA)での学位関連で相談があるからいいかしら?」

 

「この場ではダメなお話なのでしょうか? ワタシ日本に慣れていないので、あまりセツナから離れたくないのですけど……」

 

「すぐに済むわ。あなたの『お爺様』にも関わる話だから―――お願いできない?」

 

 

 指導教員か、学内カウンセラーか分からないが、スーツに身を包んだ女性が口先を変えたのは、『保護者』である男子だった。

 

 

「……行って来い。爺さんは何もお前に意地悪したいわけじゃないんだからさ、何かあればすぐに『連絡』寄越せ」

 

 

 一度嘆息する様子からそう言い、『小指』を立てた男子に対して『分かった。』と少し不承不承な様子で同じく『小指』を立てる女子。

 

 ただし顔を赤くしている所から察するに何かの『符丁』かと思わなくもない。

 

 

 ともあれ深雪の後を追うかのように女子―――純粋な金髪の留学生―――アンジェリーナ・クドウ・シールズが案内されながら学校に入っていく。

 

 

 その後ろ姿を手を振りながら見送る―――男子。遠坂刹那を司波達也は見る。

 

 

 普通の男だ。外国人の血でも入っているのか、少しだけ顔立ちに日本人ではないものが見えるが、そも魔法師というのは多かれ少なかれ、遺伝子操作の一端を受けて誕生したものだ。

 

 血統交配の人道の善悪はともかく、そうして生まれてきた魔法師と言うのは多くは整った顔立ちをしている。

 

 

 要は美形が多いのだ。当然、先に語ったことを翻すわけではないが、とりあえず達也も世間一般から平均値の上ぐらいに見られているだろうか。

 

 

 なんてことはない『魔法師』だ。こうして見れば、あの時に写真で見た異常性というのは何だったのかと思う。

 

 入学試験会場でも目立っていた方だが、それ以上に目立っていたのはシールズの方だ。

 

 

 聞こえてきた言葉や態度―――名前の呼び方が違えば外国の令嬢とその少年執事にも思えただろう……「あの頃」の達也と深雪のように―――。

 

 

 そんな遠坂が―――振り返る。その所作一つだけで何かしらの訓練を受けた人間だと確信させられる。

 

 

 その時―――達也の眼に入ったのは―――。

 

 

(ペンダント?―――いや『宝石』―――なんだあれは?)

 

 

 達也の『眼』が捉えたのは、遠坂の首に下げられていたアクセサリーだった。そこにあったサイオンの量とプシオンの活性量。

 

 ……何より、それが『解析』出来ないことにあった。

 

 

「―――」

 

「―――」

 

 

 お互いに無言。しかし苦笑しながら手を挙げて『騒がせてすまない』と言うかのような遠坂に『お互い様だ』とでも言うかのように同じく手を返しておく。

 

 

 お互いに――――入学式が始まるまでの二時間をどう過ごすか、悩み、途方に暮れるのは達也の方だけであり、何か目的意識を持って大学キャンパスにも劣らぬ規模の一高を歩いていく遠坂。

 

 少しだけ羨ましい思いをしつつ、とりあえず歩き出すことにするのだった。

 

 

 

 † † † †

 

 

「あれが司波達也くんに、遠坂刹那くんか―――イケメン2人の無言での『会話』なんてそそるものがあるわねー」

 

「お前な。こんな時に何をしているんだ。みんな入学式準備でてんやわんやなんだぞ」

 

「もう殆ど私のやることはないわ。後は式の後のことばかりよ」

 

 

 言いながらも『監視』というか『透視』をやめないでいるゆるふわなパーマを掛けた女―――一高の生徒会長に、傍らにいた同じく女―――さっぱりとした髪型のほうは嘆息する。

 

 

「今日に至る前にも何度か見たり話したりしていたが、本当に謎な連中だな……」

 

「一括りには出来ないわよ。司波さんは司波達也くんと、シールズさんは遠坂刹那くんと―――そういうグループよ」

 

 

『監視』を止めて、生徒会長室にある大型の情報端末を操作して四人の情報を四つのウインドウで展開。

 

 

 そこから見えてくるものとは、『優秀さ』と『異常さ』の両端であった。

 

 

「私は司波深雪さんとアンジェリーナさんは、一際優秀と思っているわ。魔法師として『ノーマル』に優秀なのよ。この二人は」

 

「片方は『クドウ』の家だからな。出身がUSNAというのは、少し気がかりだが」

 

 

 そなえつけのサーバーから飲み物を渡してくれたさっぱりとした髪型の女、『渡辺摩利』に礼を言ってから、一高の生徒会長『七草真由美』は説明を続行する。

 

 

「逆に司波達也くんは、とてつもない『学科成績』。『テキスト』の解読をさせたらば、とんでもないと思うわ」

 

「ペーパーテストで『トップ』を取れても実技がギリギリじゃ、二科も仕方ないか……極端な男だ」

 

「そしてそれと相対するかのように、遠坂君は――――」

 

「全てを『アベレージ』(平均値)で出しているか、こいつ意図的に試験で本気を出さなかったな……」

 

「でしょうね。つまり狙って、平均値(アベレージ)を『割り出した』。その場にいる新入生全員で合格値になるだろうものを察してね」

 

 

 魔法科高校の入試は国際魔法協会の規格に合わせて測定されている。

 

 

 魔法式―――展開される術の構築速度。その魔法式の規模の大きさ=キャパシティ。その魔法の干渉力―――物理的な面積における領域の深長。

 

 

 それらを合わせて現代における『魔法力』としている。かつてはサイオン……魔力の保有量が重要視された時代もあったが、術式補助としてCADという高性能な『呪具』が開発されると、それは一気に陳腐化した。

 

 

 その上で、遠坂刹那は―――ふざけたことに、そんな風にしていたのだ。まるで何かに対する『挑戦』かのように。

 

 

「そして―――どうせお前の事だ。司波も普通じゃないと思っているんだろ?」

 

「まぁね。個人的にサイオンの量を測ってみたんだけど―――『規格外』よ」

 

「遠坂の方は?」

 

「多いんだけど……なんていうか上手く言えないんだけど……『違ったわ』。私達とは―――『収めているもの』が違うからなのかしら?」

 

 

 遠坂のプロフィールに書かれている専攻魔法は『イギリス・アイルランド系の魔女術・黒魔術』―――現代魔法というものが隆盛を誇っている時代に―――『魔女術』『黒魔術』(ウィッチ・クラフト)である。

 

 考えれば考えるほどに分からない人間である。こんな人間が何故に今になって、この日本にやってきたのか……。

 

 

「お前の『実家』なんかは、どう考えて―――お、おい真由美?」

 

「分からないならば、分かるように動くしかないわ。即ち―――物理的接触よ!!」

 

 

 人差し指をバーーン!だかドーーン!!とでも言うかのように立ち上がった喪黒……ではなく七草真由美は、扉の向こう側に人差し指を向けていた。

 

 このくそ忙しい時に、新入生の男子二人に会いに行くべく、出て行こうということを察した生徒会メンバー。その中でも二年の書記 中条あずさは悲鳴をあげそうになっていたが―――。

 

 

「会長。申し訳ありませんが緊急の案件の書類がありますのでご一読を」

 

「リンちゃん。空気読んでよ~」

 

 

 会計である三年生 市原鈴音があずさの苦境を察して仕事を押し付けたことで、場は停滞する。

 

 とはいえ観念したのか、書類仕事に取り掛かる真由美を見て安心する。

 

 

(市原先輩!! ありがとうございます!!)

 

 

 ほろりと涙をこぼしそうになるあずさに対して見えぬ位置で親指を立てる鈴音。

 

 そんな風にフォローしあう生徒会を見ながら、一人だけある意味では外様な風紀委員長という立場の渡辺摩利は、遠坂刹那の持つ魔女術というものに対して……。

 

 

(魔女術……古典的なのでは『魅了』とか『恋の魔法』とか―――いやいや! そんなものに頼らずとも私とシュウは相思相愛だ! その愛と絆は登山ロープより硬くて、日本海溝よりも深いものなんだ!!)

 

 

 なけなしの想像力で出てきた魔法の種類と妄想に顔を赤くしたあとに、ぶんぶんと顔を振る様子に、真由美は嗜虐心というかイタズラ心を刺激されてしまうのであった。

 

 

 そうして七草家の長女が二人のイレギュラーと出会うのは入学式の30分前となるのだった……。

 

 

 † † † †

 

 

 散策がてらの一種の土地の検分。入学式の時にもやったことを再度行ったが―――成程、確かに『魔法』の学校であった。

 

 地脈は当然ながら通らず、一定程度のマナは集められるが……そういった『土地』の霊力など何も考えていない学校である。

 

 

(まぁ仕方ないか、彼らにとって神秘に対する実践は、科学で応用してしまっているんだもんな)

 

 

 それを考えて―――改めて、この世界における『魔法』のことを思い出し直す。

 

 

 魔法―――『マギクラフト』、刹那なりの造語であるが、それの発端は、来る21世紀を前にした1999年『世界の終末』を叫ぶ終末信仰の狂信者たちの核兵器テロを『特殊能力』を持った警察官が阻止したことである。

 

 

 警察官が発揮した異能を『超能力』と規定して、デタント(東西融和)がなっていたとはいえ、未だに冷戦構造濃すぎた『東西』の有力国家は、この超能力の研究を進めて、軍事利用の道へと進めていく。

 

 

 その内に、これらの異能を持っていたものたち……隠れ潜んでいた隠者のような連中が表に出てきて『体系化』『汎技術化』の道が一気に開けてきた。

 

 

 とはいえ、これらの中でも一際強力な―――先の警察官。世の人々は『はじまりの魔法使い』と呼んでいる人間のように核すらもねじ伏せる人間を作り上げるべく人倫を踏みにじる。

 

 この辺りの理屈は、どうやら魔術師も魔法師も変わらない。

 

 

 求めるものが尋常の世の理屈を超えるならば、それらの道徳や倫理観を破ってしまえばいい―――。

 

 

 国家は核すらもねじ伏せるモンスターの製造に躍起になって、それらが人間の中で増殖することなど考えていなかった。

 

 

(そして魔法師を若年から鍛え上げてモンスターにすることを考え始める。その一つが、第一高校のような魔法教育の機関ということか)

 

 

 しかし、先に語った通り、モンスターを作るには、素体の優秀さが問題となる。つまりは『才能』(ジーニアス)。それらの有無が徹底した能力主義となりて、一科二科の違いとなる。

 

 一科二科の違いは、教育機会均等法というものを踏みつぶしている。まぁ、実際の学校教育などでも、『教師の質の良し悪し』が、最終的に生徒の習熟に繋がることもある。

 

 偏執的かつ独善的な教師や、教育という盾を使っての人格蹂躙……そういった教師もいるのだから、『ギャンブル』である。

 

 

 そしてこの学校において『ギャンブル』たるものは、『一科か二科』の差である。

 

 

(一科であれば『優秀』な実践魔法の『講師』が付いてくれる……しかし二科は―――)

 

 

 講師が着かず、オンラインの授業や資料閲覧は出来ても―――あとは『自分で伸ばせ』ということだ……。

 

 

(まぁ『九州出身』としては、こういう『下』から西郷や大久保みたいな傑物が現れると知っているわけだが……)

 

 

 歳が近く、同じような身分どうし、更に言えばその中でも『年長』なり『優秀』なのと一緒に『武士の教師』などがいなくとも、勉強しあうことで――維新三傑の内の二人は出来たのだ。

 

 

 あの坂本竜馬ですら、下級藩士の身分(脱藩済み)ながらも薩摩の家老『小松帯刀』なども動かしてきた。まこと、人間の資質というのは与えられた環境だけで計り知れるものではない。

 

 まぁ―――エリート教育を受ければ、それなりの人材には育つだろうが、こと軍事分野や治安関係に直結することは、そういったことだけでは優秀にはなりえない。

 

 

 思想や思考が固まった人間に変革は出来ないのだ。

 

 

 それを考えれば、徹底した才能主義―――おおいに結構だが―――踏みつぶした草の下で、何が蠢いているのか分かるまい。

 

 

 ドルイドの呪いは―――草木の王。森の主の呪いなのだから―――。

 

 

「愚考が過ぎたな――――」

 

「何を考えていたんだ?」

 

 

 声がした。振り向くとそこにはヤツがいた。

 

 司波達也。ターゲットと思しき人間の一人の登場に、心臓を掴まれた気分だ。なぜここに―――と思いながらも、とりあえず会話を続ける。

 

 

「―――西郷、大久保のことを少しな」

 

「維新三傑か―――あいにくながらこの学校にいるのは三巨頭とかいう人間だがな」

 

「聞いたことがあるよ。とんでもなく「優秀な魔法師」なんだって?」

 

「ああ、うち二人は『ナンバーズ』だ。……で―――その『結論』は何だ?」

 

 

 西郷、大久保から何を見出したのか、問題の本質を掴んできた司波に対して驚く。

 

 別にはぐらかしてもいいが、何だかそれはそれでどうかと思えたので、手を振りながら何の気も無いというジェスチャー付きで正直に答える。

 

 

「本当の『英傑』というのは世間様の『評価』とは別種の所にいる人間。すなわち二科の連中が羨ましいってことさ」

 

「……変なヤツだな。さっきまでベンチで書籍を読んでいたが、一科の在校生に『二科』―――ウィードだと馬鹿にされたよ」

 

「全然、『こたえてない』って顔だ。―――他人の評価なんてどうでもいいって感じだが?」

 

「まぁな。お前もそうだろ。遠坂刹那?」

 

 

 名乗っていないのに名前を知っていたことに疑問は抱かない。ただ疑惑の灰色が『真っ黒』になるぐらいには思う。

 

 

「……名乗ったか?」

 

「いいや、有名人であることは自覚しておけ。ミスター・『アベレージ・ワン』―――」

 

 

 その意味は、恐らく一科(ONE)に入れる『平均値』で、入れたことに対する皮肉交じりの―――やっぱり皮肉でしかなかったが、実に刹那の『本質』を掴んだ言葉でもある。

 

 

「そういう君も理論のペーパーテストではトップだったそうだな」

 

「……深雪の価値観は『世間様』から乖離していてな。まぁそれでだ……魔法理論・工学だけは完璧な司波達也だ。無論、二科生だが、覚えておいてくれ」

 

「改めて名乗るが、全てを平均値で合格した遠坂刹那だ。俺の専攻は古式の『呪い』関連だ。誰かを呪殺したければ一報入れてくれ、三割引きで請け負うよ♪」

 

 

 冗談だろ? と言いながら達也は右手を出し、冗談だよ。と言いながら刹那も手を差し出す。

 

 差し出された手を握り合う。その手を握った瞬間の硬さにお互いが―――『戦士の類』だと気付く。

 

 シンパシーを覚えると同時に、お互いに危険性を覚える。そのぐらいには、分かるものだった。

 

 

「で―――司波、なんでここに? ウチの師匠みたいに理論派なお前の事だ。没入していたんじゃないのか?」

 

「確かに最初は二時間の半分以上をそれに費やそうとしたんだが―――途中で飽きて、目立つ新入生に声を掛けた。それと達也でいい」

 

「そんな友達百人出来るかな。みたいなことをハイスクールでするとは―――印象変わるぞ……俺も刹那でいい」

 

 

 などと言いつつ、本当のところは何なのやら―――草っぱらにケツを落ち着けつつ刹那は探るも、達也としては危険性以上に―――『興味』があった。

 

 一般的に古式魔法は現代魔法に比べて劣っている。発動速度や諸々―――いわゆる『儀式魔法』という体であり正面からの打ち合いでは、確実に負けるものだ。

 

 

 無論、それだけが魔法師としての価値ではないが、荒事よりは隠密・間諜向けのスキルに分類されてしまう。

 

 特に風間から送られてきた『魔女術』というのに興味があった―――のだが―――そんな風な達也の好奇心からの話は中断されてしまった……。

 

 他ならぬ―――違う意味での魔女によって―――。

 

 

「すみません新入生ですか? 男子二人の気安いお話を邪魔したくはないですが、そろそろ入学式ですので講堂に向かった方がいいかと」

 

「そうですか、わざわざすみません」

 

「んじゃ行くか、どうもです先輩」

 

 

 ―――殆ど下半身の力を使わずに上半身の腹筋運動だけで立ち上がった二人は、言ってきた女性の左右の脇を通って―――すたすたと歩いていたが―――。

 

 

『『!?』』

 

 

 お互いに『見えたもの』を前に、一歩後退。思わず魔術刻印を発動させかけた刹那と膨大なサイオンで弾丸を撃とうとした達也。

 

 

 目の前には、高さ3m、幅5mはあろうかという氷壁が出来上がっていた―――。誰がやったかなど考えるまでも無い。振り返ると笑顔の『こあくま』がいた……。

 

 

「せめて自己紹介ぐらいはしてほしかったですね。減点1です。リテイク♪」

 

 

 などと笑顔のままに威圧するも―――。

 

 

「―――すまない達也。愛しい恋人が講堂付近で待っているだろうから先に行く」

 

「―――いや待て刹那。俺だって妹の晴れ姿が待っているんだ。俺が先に行く」

 

 

 端末のコールで事情説明をする刹那。妹と一緒の待ち受け画面を見せる達也。

 

 どちらも人身御供の考えなど微塵も無い『お前の屍を超えて俺は行く』な二人の間に『こあくま』―――七草真由美は入れずにいた。

 

 

 本来ならば、司波達也に対しては入試の成績を褒めて、自分及び生徒会に興味を持ってもらい、遠坂刹那には少しの苦言と共に真面目にやるように言って生徒会に入れるか風紀委員で性根を鍛え直すかを考えていたのだが……。

 

 

 睨みあう男子二人。その狭間でおろおろするとしか言えない様子の真由美。少しだけ怖い先輩として印象付けるために魔法も使ったと言うのに―――意に介していない二人の男子なのだ。

 

 

 やはり見立て通りにして『見えたままの姿ではない』のだと、真由美が確信すると―――。

 

 

「ならば行くか」

 

「そうだな」

 

 真由美に生じた心の隙を察したのか了解しあう。

 

 脱兎のごとく今度は氷壁を左右に避けて走り出す二人の男子。その速度は―――とんでもなかった。

 

 

(速い―――CADの起動すらなかった!? ど、どういうこと!?)

 

 

 更に言えば真由美は完全に無視されたことに怒ってしまい、途中まで加速術式を使うことを失念して、全力疾走で二人を追うことになってしまった……。

 

 

 真由美が見た限りでは。達也の方は何もなかったが、刹那の方は何か靴を履き直すような動作。

 

 

 

 そんな刹那の動作の意味を達也の眼が捕えた。

 

 

「それが噂の魔女術か?」

 

「いや、これはアイルランドに伝わる『原初のルーン』の一つ。早駆けのルーンだ」

 

 

 ルーン『魔法』……学校指定のブーツに輝く文字の意味を達也は分からないが、『つっかけ』を直す程度の動作で発動するとは、前から刻んでいたのだろう。

 

 

「そういう達也こそ、何だよその体術―――古武術の類か?」

 

「よく分かったな。縁あって通っている寺の生臭坊主から教えてもらった『忍術』だ」

 

 

 事前のレクチャーで、現在の『神秘体系』や『武術関連』は網羅してきたつもりだが、まさかそんなものが表に出てこようとは―――。

 

 しかし、達也の動き。今は走りだけだが、どこかで見たことある『動き』であった……。

 

 

 ともあれ、全員の衆目を集めかねない驚異的な速度で講堂前までようやく戻ってきた男子二人。

 

 

 それを見た金と黒の女神たちが話を切り上げて、こちらを見てきた。

 

 

「お兄様!」

 

「セツナ!」

 

 

 どちらかと言えば呼びかけるよりも、驚きの類だがともあれこちらにやってきた二人に対応する。

 

 

「悪い。少し散策しすぎた」

 

「まったくよ。ミユキと一緒だったからいいけど今にもナンパされそうだった」

 

「手が早いな。ここの人達も」

 

 

 手の甲でノックでもするかのように刹那の胸を叩くアンジェリーナを見た達也は、男女の仲でも深いほうなんだろうなと感じる。

 

 

「お兄様、送り出したからといって私が、完全にリハーサル側だけにいるとは限らないんですよ」

 

「だからといって、まさか『ここ』(講堂前)で油売っていろというのは俺に無体すぎないか?」

 

 

 やれと言われれば『やる』が、そういうのを深雪は嫌うことを理解していた。意地が悪い言い方だったなと気付き頭を撫でてすまない。と一言。

 

 そのやり取りと感情数値オーバー300を計測しかねない『兄妹愛』に、刹那とリーナは、『本当に兄妹か?』と少し疑問に思う。

 

 

「お兄様、こちらの方は」

 

「アンジェリーナ・クドウ・シールズよ。よろしくねタツヤ」

 

「深雪の次に『僅差』で次席だったシールズさんか、よろしく―――そして深雪、こっちは」

 

「遠坂刹那です。リーナから聞いているとは思うが、まぁよろしく司波さん」

 

「こちらこそ。『アベレージ』で『一科』に入った傑物として、噂になっている遠坂さんと知り合えて光栄ですね」

 

 

 主席のお前が言うか? と深雪以外の三人が思うが、その言葉の裏に隠れたものを察して少しだけ怖くなる。

 

 

『私の前であなたの『TRICK』は通用しません』

 

 

 どこの獣神官だと言わんばかりの言葉の裏側に、刹那は嘆息。

 

 

 大石内蔵助気取っているわけではないが、まぁ昼行灯が過ぎたかとも思う。

 

 

 だが目立つのは嫌いだ。とはいえ、手抜きをしたことで逆に目立つこともあるか……。

 

 

「ギリギリ合格ラインに届いたってだけだと思うよ」

 

「深雪、あまり勘繰るなよ」

 

 

 刹那の次に口を開いた達也の言葉で収まる司波深雪。しかし『疑われている』のは分かる顛末。そんな中に変化が訪れる。

 

 

「―――それで、セツナ。後ろにいる―――膝を押さえて息を吐いている先輩は誰なの?」

 

 

 リーナの言葉で振り向くと、『自己加速術式』でも使ったはずなのに、全力疾走したかのように肩で息を吐いている女性……。

 

 ゆるふわな髪を前に下げてホラー映画によくいる女の怨霊のような―――女性は―――。

 

 

『『誰だっけ?』』

 

 

 達也と一度だけ眼を合わせてから、疑問符を呈すると―――。一度だけきっ、とこちらを見上げてから―――。

 

 

「第一高校生徒会長!! 七草(さえぐさ)真由美だぁああ!!! 覚えておきなさーーーい!!!! 特にそこの男子二人ぃいい!!! あなた達を絶対に私の「おもちゃ」にしてやるんだからぁああ!!!」

 

 両こぶしを握り締めて、背筋を伸ばして涙目で叫ぶは完全にキャラ崩壊している七草会長。

 

 もうtamago先生(?)版になりつつある……重傷である。

 

 そんな七草会長は、それを捨て台詞としたのか、全力で『青い空なんて大っ嫌いだぁああ!!』と言わんばかりの走りで講堂に入る。

 

 

 だが、それで良かったのかもしれない……。

 

 

 なんせ七草会長の台詞を聞いた深雪とリーナが、氷結と発雷を自然と発生させて、静かに怒っているのを見た。

 

 周囲の在校、新入生問わず悲鳴をあげそうな表情で二人を避けていく様子が気の毒に思える。

 

 

「……愛されてるな」

 

「お互い様」

 

 

 そんな言葉で片付けるんじゃねぇと言わんばかりの周囲の視線を浴びながらも2095年4月 第一高校の入学式は間近に迫るのだった……。

 


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