魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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地球国家元首かぁ―――。

まぁ逆光の歌詞は、『彼女』の歌なんだろうな。で■■は―――。そういうことか。

妄想した内容ならば、少し前の同人界隈での問題作『グランドオーダー/オルタナティブ』にも通じる内容かも

けど純粋に何かしらの『生存』の可能性があることが純粋に嬉しい。

やったね米ちゃん(米澤 円さん)。出番が増えるよ(爆)

というわけでコロナに怯えつつの新話どうぞ。




第222話『夜が明けて』

「順調そうだねー『シオン』」

 

「当然です。私の計算に狂いはないですよ『さつき』。とはいえ―――『さつき』を襲った人間は、かなり人の世の守護側(人理肯定派)のようですね」

 

「やっぱり、『この世界』でも私たちは生き延びられそうにないかぁ……」

 

「―――いいえ、そんなことはありません。『すべての人にすべてのものとの可能性を』、そのシミュレーションのもと、得られた計算式―――だからこそ『■盾の騎士』、私とさつきの元に、いまいちど帰ってきてください―――」

 

傍から聞けば、その会話は全てが意味不明であった。見ていれば、即座に発狂をするほどに醜悪な光景。

 

少女たちが会話をしているのは、暗い暗い『地下世界』。その周囲は、現代ではありえない趣をしていた。

 

林立する柱の数々は『神殿』を思わせる一方で、近代的な設備、多くの電子機器が置いてある。

 

立体投影型のキーボードなどは、錬金術師には必須のものだ。三角形のシンボル、五芒星を元にした魔法陣、六芒星の魔法陣……多くが宙を浮かぶ―――幻想をイメージさせるものの、それらを打ち消すものがあちこちに『食料庫』のように並べられていたのだ。

 

 

それら一つ一つは、あちこちに継ぎ接ぎだらけの死体であり、血袋の為なのか……鳥の血抜きのように宙吊りの状態。首の血管を切った上で、血を上水道のように一箇所に流している……終着点には「クリスタル筒」があった。

 

水晶(クリスタル筒)の中にある『銀色の騎士』は、復活を遂げるべく『力』を蓄えるのだった

 

災厄を招く日々は近い……。

 

その後ろで―――笑みを浮かべる『■』の姿を三鬼が知らずとも……。

 

† † † †

 

翌日、当たり前だがレオは学校を休んだことをエリカのメールから知る。原因は世間を騒がす『吸血鬼』に襲われたからだと言う。

 

(メールの届きが登校してから一時間後とは)

 

最初に達也辺りに「一報」を入れてから、行動を誰何したというところだろう。容疑者リストに自分も入れているのか、あるいはただの探りか、ともあれ―――。

 

面倒なことには変わりなかった。

 

そこから時間は早くも通り過ぎるわけで、今日の授業は全て終わりを告げた。

 

「今日の講義は私とロマ二で(おこな)っておくよ。キミは西城の見舞いに行き給え」

 

「分かったが……」

 

放課後になったことで、予定をどうしようかと思っていたところにこれである。

 

願ったりかなったりといえば、その通りだが―――。

 

「私は行かないほうがいいでしょう。病室のキャパはどれだけかは分かりませんが、あまり大量に寄せても悪いでしょうからね」

 

「分かった。妹さんによろしく」

 

「はい」

 

シオンの綻ぶような笑顔に救われながらも、状況はよろしくはない。

 

「―――オレも見舞いに行きたいんだが、やめといた方が無難だな……」

 

次に見えてきたのは、嘆くように苦笑をするレッドの姿であった。

 

魔力の質からして、昨日の魔戒騎士もどきはコイツだと想うのだが、確証はない。

 

「レッド―――お前は『エクスカリバー』がほしいんだよな?」

 

「ああ、そうだ」

 

「その『理由』とはなんだ? 正直に答えてくれ―――ソレ次第だ」

 

夕焼けが出来上がりそうな教室で、朱金の少女を真っ直ぐに見つめながら、刹那は問いかける。

 

殆どの面子は先程、ダ・ヴィンチの先導で大講義室に向かっていった。

 

それゆえ2人に注目する人間は―――B組には殆ど居なかったのだが……。

 

窓際に立ちながら『堂々』と聞き耳を立てるレティシアの姿があるぐらいか。

 

それを知ってか知らずか―――レッドは答える。

 

「オレ―――いや、アタシはかつて『ある英雄』の霊媒に、再臨の道具として運用されていた……結局、それは為されず、ロンドンに叩き出されたわけだが―――アタシは『故郷』に帰りたい……。

何より―――この身に宿る『竜の魔力』を制御するためにも―――エクスカリバーは必要なんだ」

 

答えになっているか、信じてくれるかはわからない。と苦笑するレッドに刹那の中で答えは決まる―――。

 

 

「ガリア支配を象徴する『宝剣』―――持っているか?」

 

「!! ああ!! いまは―――とてもじゃないが、『使える』状態にはないんだが、アタシの使い魔が「保管」している。力ある『地金』(じがね)が必要ならば、使ってくれ!!」

 

「分かった。俺としてもいい経験になるはずだ……あとで日にちを決めて鍛え上げる―――お前の剣を、お前だけが持つ『約束された■■の剣』を」

 

眼を輝かせて刹那を見てくるレッドに宣言する。

 

久々に『エンチャンター』として「いい仕事」が出来そうな人間が出てきたもんだ。

 

「まぁ英国政府からも、エクスカリバーを獲れと言われていたんだが―――伝説の剣は使い手とセットじゃなきゃいけないよな?」

 

「いざとなれば、俺も連れて行く所存だったか?」

 

「生憎、オレのバディじゃリーナに勝てねぇ。あのヤンキー娘、育ちすぎだろ!!」

 

一因を担ってしまった刹那としては何もいえなかった。ともあれブリティッシュヤンキー娘の来歴を正確に察してしまった。

だが、彼女の戦力も利用させてもらう。この事態に絡む神秘領域側の存在であるならば、それは必定なのだから―――。

 

「んじゃな! レオンによろしく!!」

 

彼女はレオのことをそういう風に呼ぶ。別にどうでもいいことだが、その呼び方は、少しだけ意外なものだった。

 

半年以上も友人でありながら、それを思いつかなかった自分たちは、アレであった。

 

「友達甲斐のないヤツなのかも」

 

教室から出ていくレッドを嘆息気味に見送って―――自分も、そろそろ中野の病院にいこうと荷物をまとめた瞬間。

 

「いやいや! 何でそこで私を丸っと無視するんですかね!! レティはものすごく怒っていますよ!!」

「いてててて!! 肩を思いっきり掴むんじゃね―!!!」

「フフフ!! これぞ正罰の痛み! 刹那の中にある心の疚しさが、その痛みの根源ですよ!!」

「普通に筋力と握力のミックスだと想うけど!」

 

マッスルパワーをまるで神秘の力と同列に語るのはいかがなものかとレティシアに抗議しながら、君は何の用だ? と視線で訴えると、赤い顔をしながら一度だけ咳払いをして口を開くレティシア。

 

「モードレッドは、どうやら私と同じようなタイプのようです。

ですが、私はもう少し切実です―――刹那……私の背中を診てくれますか?」

 

「―――後日にしてくれ」

 

どう考えても厄介ごとのニオイのレティシアの背中。

 

『初日』から分かっていても、あえて突っ込まなかったのは、人それぞれ『秘密』があるからだ。

 

明かせぬことは色々あるし、探られたくない腹はいくらでもある。

 

要するに―――下衆の勘繰りは好かないのだ。しかし、今日のレティシアは退かなかった。

 

むん! という擬音が着きそうな勢いで、こちらの眼前に迫るレティ―――豊満な胸が少しばかり刹那の身体に当たることに性的興奮を覚える。

 

狙ってやっているんだとしたらば、恐ろしい。

 

フランスの大統領は娘の胸に『核ミサイル』を装備させているようだ。

 

だが、そんな軽口もたたけそうにはない。

 

「いいえ! 今でなければなりません!! 主の御加護を以て、『災厄』を打ち払わなければ―――来てはならぬものを『来臨』させかねません!!」

 

「なに?」

 

「私が何も知らないとでも思いましたか? 刹那、私は感じているのですよ。

この街にはびこる『死を徒に運ぶ者』のことを!」

 

瞬間、こちらに背中を見せたレティシアの衣服の一部が裂ける。

 

魔力の放射で制服の上―――上着からインナーにいたるまでを破き、紙吹雪ならぬ服吹雪として舞い散った。

 

「―――お前―――」

 

「これが―――私の『覚悟』です。我が身に宿りし英霊ジャンヌ・ダルクの『力』―――それを正しくするためにも、刹那……この身全てを貴方に預けます」

 

預けられても困る。後ろを向きながらも、豊満な胸……リーナ、美月、光井クラスのものが垂れずに形を維持しながら横に広がる様子に―――とりあえず嘆息。

 

「お前のスタイルがすごくいいのは分かった。とりあえず―――リーナ、入ってきなさい」

 

「え!? な、なんでこの場面でいるんですか!?」

 

刹那は背中―――つまり廊下側に声を掛けた。レティシアは窓側を向いていたわけだが、刹那の言葉の意味に気づき少しだけ振り返った瞬間―――うん、見えたわけである。

 

手で隠せと思いながらも、自動ドアが開け放たれた先には―――能面のような顔をしたリーナがいた。

 

正直に言おう。

 

おっかない。

 

「セツナ。レオの見舞いの時間は迫ってきてるわよ? そんな女―――放っておきましょう」

 

「むむむ。聞き捨てなりませんよリーナ。その発言は著しく貴女の人格を損ねるものです!! それに第一、刹那は了承してくれたんですから」

 

「してない」

 

「魅力的なパリジェンヌの柔肌を見た時点で、契約はなされたようなものです」

 

なんつう理屈だ。とはいえ、刹那の頭の中に、先程から『レティを助けてあげてください』『主は申しております。死徒を倒すために『聖女』を使え、と』

 

精神感応(テレパス)を通じて、こちらに訴えかけてくる言葉に辟易しながら、そして刹那を取り合うように腕を引っ張り合う2人の金髪に更に辟易しつつも―――。

 

(要件が立て込みすぎだろ……)

 

事情が色々とある女子留学生三人。だが、いずれも集約すべきところは決まっていた。

 

 

―――人理否定世界『ブルーグラスムーン』―――

 

そこより舞い降りた『吸血鬼』に刃を突き立てるだけだ――――だから……。

 

 

「いい加減! 服を着ろ!!!」

 

そう言うことで場を収めたのだった。いや、収まるかどうかはわからないのだが。

 

ともあれ、これがレオの入院している病院に行くまでの一幕であった。

 

 

「というわけで、色気より食い気なレオには華よりも何かメシの方がいいかなーとか思いながらも、結局、見舞い花にしたわけだ」

 

「ふむ。何かそのラインナップには意味があるのか?」

 

「『吸血鬼』にやられたんだ。 茜と山査子の花はデフォルトだろ?―――もちろん棘がないから純粋に魔除けとしては意味がないけどな」

 

セルビア地方の吸血鬼除けとしても知られている二輪の花をメインにして、多くの種類で束ねられた花は、美意識というものに乏しい達也でも見事なものだと想えるのだった。

 

それを感心しながら見ていると、エレベーターに乗り込む前に、何か売店で買い物でもしていたのか、見知った顔、エリカと合流する。

 

中野の警察病院とはいえ、何かと入用な人間は多いのだろう。そして心配するように、メールとは別に口頭での確認をする美月を見ながら、エリカの言葉には特に不審な所はない。

 

刹那は―――まぁ普通であった。傍目には、何の動揺も出していない風だが、エリカと美月の会話を細かく聞いている印象はあった。

 

(シロではないが、クロでもない―――何か隠しているな)

 

だが、いまこの場で追求するのは如何にも無粋すぎた。

 

ともあれ、友人を見舞ってからでいいだろうと思いつつ、レオの病室に向かうことにした。

 

当たり前のごとく、患者の容態が急変した時を除けば作動している入室確認機能で確認を取ると―――「おう! 大丈夫だぜ!!」

 

存外、元気な声が響いてきた。

 

(案外、宇佐美が見舞いにやってきており、あたふたするもんだと思っていたんだが)

 

達也のそんな『お約束』を予想したものは、一時間前に行われていたりする。

バーチャルアイドルでありながら生身のアイドルとしても売出し中の人間は、レオを『献身的』に看病した後に、マネージャーに連れられて出ていったりしたのだ。

 

あまりにもニアミスした事案、エリカ曰く一応の付添人としてレオの姉貴もいたそうだが、着替えやらを取りに行くために、一度家に帰ったそうだ。

 

「酷い目にあったな」

 

「みっともないとこ見せちまったな。まぁ自信過剰だったってことだな。用心用心」

 

ただレオなりの正義感に基づいて、エリカの兄『千葉警部』に協力したのだ。それを笑うことは出来ない。

 

しかし―――。

 

「怪我はないように見えるな。サイオンの循環にも澱みは見えない」

 

達也としては『モノホン』の『吸血鬼』を想定して、そういう診断結果を下した。こんなことは、ここの魔法医でも違うドクターでも下しただろう。

 

レオ曰く『一人……覆面の黒ずくめを殴っていたらば、そいつに触れただけで『力』が抜けたとのこと』

 

最期には攻撃していたナックルを掴まれて力が抜けた。

 

その言葉で接触型の吸引魔術、収奪・略奪系統のものを、エルメロイレッスンより学んでいた達也は即座に思い浮かべた。

 

しかし、次の言葉には耳を疑った。

 

「手刀を繰り出されて、もうダメか、と思ったんだがよ。その瞬間―――覆面の後ろから腹を突き抜けて『女の手』が生えていたんだよ」

 

「い、いいの? そんなこと喋ってしまって?」

 

「同じことを刑事さん、そして七草、十文字(草の字)の両先輩にも話したしな。今更だ」

 

ほのかは、話の機密性よりも、話の不気味さそのものに怯えているような印象だった。

ここ最近の現代魔法の『不景気』っぷりと来たらば、あり得ないぐらいにとんでもない低迷期なのだ。

 

もちろん古式魔法の側がいいというわけではないのだが、ともあれ―――レオの語る所……レオの見えた限りでは茶髪ツインテールの少女が、そうして血飛沫をあげながら五臓を『止めたのか』、動けなくなった覆面の首筋に噛み付いて『吸血』(BLOOD DRAIN)を行ったとのことだ。

 

「―――『あいつの行く手に茜と山査子の棘があるように』―――レオ、花活けてくるよ」

 

「ああ、頼んだぜ。それと―――『サンキュー』な。助けられたよ」

 

「―――魔除けの花の礼にしちゃ大袈裟すぎだろ」

 

花瓶を手に病室の外に出ていく刹那とリーナ。あれで誤魔化せたとは刹那も思っていないだろう。

 

ともあれ、容疑者第一号を除いての会話が始まる。

 

「―――その後に、『狼を模した鎧騎士』が現れて、多分……覆面を殺害した「女の子」と戦いを演じたんじゃないかな?」

 

レオが『回復陣』の中から起き上がった時には、渋谷の森林公園は戦闘機の爆撃と暴乱暴風に晒されたかのように滅茶苦茶になっていたそうだ。

 

「……美月、悪いがレオの言う人間たちの『姿』を作ってくれないか?」

 

「はい。わかりました!」

 

達也からのお願いに、九校戦の時に刹那から貰ったスケッチブックを取り出して、レオから詳細な情報をもらいながら現代の『モンタージュ写真』を作ってくれる美月。

 

その片方で達也は、幹比古に問いかける。この世界の古式魔法の分野にも吸血鬼……『死徒』の情報があるのではないかと期待してのことだったが―――。

 

幹比古が出してきた結論は、達也にとっては肩透かしを食う結果となった。

 

「パラサイトか……」

 

ヒトに取り憑くことで、その人間の性質を変化させる超心霊的存在。

 

しかし、それは――――。

 

「それは『英霊の魂』が被術者を『適応化』させることと何が違うんだ?」

 

深雪を見ながら達也は幹比古に問いかける。

 

英霊マルタ―――聖女の魂が司波深雪(いもうと)を守るためとして『取り憑いた』ことを考えるに、その手のことは決して無知ではない事象だった。

 

「その辺りは古式魔法の国際会議でも色々と紛糾はしているんだ。刹那やリーナを見れば分かる通り、一定の術式を知っている人間は、その身に過去の偉人・英雄のスキルや武具を『降ろす』『借り受ける』ことはインヴォケーションという術式として定義されてしまったからね。

一概に『悪い』ことではないとされてしまった面はあるんだけど―――勝手に悪意を持って人間に取り憑くものは、あまりいいものじゃないよ」

 

それはその通りだった。

 

やはり死徒の情報はないと見たほうがいいのだろうか。

 

受肉した精霊『真祖』の力を吸血という自己犠牲(サクリファイス)で得てきた超常の能力者というのは、飛躍した想像のようだ。

 

「達也はどう思っているの? 何というか今日の君は、僕から『特定の情報』を引き出したがっている風に見えるから―――考えを聞いておきたい」

 

「―――」

 

一瞬だけ沈黙して、あからさますぎたかと思いつつ、自分の『推測』を語る。

 

「パラサイトとやらが何かのコミュニティ……同じ者同士集まって、サークル活動でウェ~イとパーティーピーポーでもしているかどうかは知らん」

 

緊張を解すためにお道化た達也だが、あまり効果はないのを見て少し残念に思いながら、後半は真面目に行く。

 

「しかし、レオが最初に交戦したのが『世間で知られる吸血鬼』―――だとするならば、次に現れたのは『ちがう吸血鬼』だと思っている。明朗な言葉ではないが、色々と『力』の略奪手段とか違いすぎるからな」

 

「英霊―――サーヴァントという可能性は?」

 

「……断言は出来ないが――――素の手で胴を背中……分厚い背筋から『貫通』出来る英雄なんて聞いたことがないな。第一、その姿はこれだぞ」

 

説明の途中で美月が書き上げたスケッチの絵を全員に見せる。

 

そこにあったのは確かに可愛い女の子であった。

 

みんなから愛される系の女の子だろうか。少しばかりほのかにも似ているが、髪の量が違いすぎる。

そしてその明言は他でも為されていた。

 

† † † †

 

「つまり、我々が追っている『吸血鬼』以外に、その『吸血鬼』を『餌』とする『吸血鬼』がいると?」

 

七草家に存在している秘密会議の部屋。真由美に言わせれば『生臭陰謀部屋』という場所にて、十師族2家の主要メンバーによる会議が行われていた。

 

弘一の問いかけに、検死を行ったお抱えの学者が答える。

 

「前者を仮に『吸血鬼A』と呼称させてもらうとしまして、症状に関しては、前回の説明及び手元の資料を参照してもらえれば分かるのですが、数日前から出てきた後者を『吸血鬼B』と仮称させてもらいます――――」

 

学者の説明によると、『A』のことは前よりどういったものかは研究されてきた。

七草家が独自に回収してきた『死体』の検死で分かったことだが、『A』の脳髄には、人間としては在り得ざるものがあったとのこと。

 

詳しい説明……脳科学と外科分野をざっくりと掻い摘めば、『脳髄に寄生するかのような物体』が存在していたとのことだ。

 

それが生物なのか無機物なのか、はたまた何かの『プシオン』情報体なのかは不明だが、本来の脳髄にはない『何か』が存在していたというのだ。

 

「そら恐ろしいものだな。子供の頃に読んだ怪奇小説ないし、それを『題材』にしたライトノベルを思い出す…」

 

「私見ですが、あながち間違いではないかもしれませんね。Aによって『吸血』されて『死亡』した人間の脳にも、同じような空洞が見受けられましたので」

 

「……己と同じモノを増やしている?」

 

「あるいは、従来からいる『寄生虫』のように『乗り換え』を行いながら、移動をしているのかも知れません」

 

科学者の私見は『いずれにせよ。想像の域は出ません』という言葉で締めくくられ、問題の『B』に関しての話となる。

 

「今回吸血鬼Aの死体を作り出した『B』。これのおかげで、Aの目的や行動を類推出来ましたが、こちらは単純です。

Bは『捕食』のために『A』を襲っています」

 

―――捕食。如何にも聞き慣れない単語に怖気が走るのを止められない。

 

単純な人間社会であれば、まず当たり前のごとく『ヒト』を食べるなど根源的な恐怖を発する考えだ。

 

眉唾ではあるが、日本ではなくどこかの国では、地球寒冷時代に『食用人類』というおぞましい研究がされていたとも聞く。

 

極度の飢えと寒さは真っ当な倫理観を全て捨て去るのか。もちろんゴシップかもしれないが……。

 

そんな真由美の埒もない考えとは別に、科学者は最期の言葉を言ってのけた。

それはあり得てはならない『人の世』にあらざる者の一つだ。

 

「数週間前から続いていた街の不良グループの連続失踪―――いえ、もはや『連続殺人』に該当する案です。

残っていた『首筋』、頸動脈にある噛み跡が完全に一致しました……お伽噺かもしれませんが、状況から察するに、こちら『吸血鬼B』は、本当の意味でのヴァンパイアです」

 

奇しくも仮称とされていた吸血鬼Aは、ある種の意味合いを持ってしまった 『Absurb Crisis』(不条理な危機)という名付けが似合い―――。

 

吸血鬼Bは―――『Blood Drain』(吸血鬼の夜)という単語が似合いそうだった。

 

単純に、大スクリーンに映し出されている英単語を組み合わせたものだが、それが大当たりとなり。

 

『東京最悪の夜』を迎えることになるなど、真由美も克人もこの時は予想だにしていなかったのだ……。

 


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