魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

244 / 414
前回のアンケートは色々と不手際があった。

まずは募集期間を定めなかったことである。そこを何とかしてからだったのだが―――。

ただ賛否両論である以上は、リメイクはやらない方向で行こうかと思います。

竹箒日記によるときのこがFGOシナリオのリテイクをやっていたみたいなんで、まぁそういう方向で行こうかと思います。

話の大筋は変わらないかと―――主人公をスリムアップさせる方向かなーぐらいと考えつつ最新話どうぞ。


第225話『逢魔ケ辻Ⅱ』

 誰かが手招きしている様子を見る。

 

 誰だか分からないが、そちらに行くのはとてもいいことに思えた。甘美なまでの『楽』を約束された事象の彼方。

 

 そこへと連れて行ってくれるような気がしたからだ―――。

 

 誰かの髪が自分と同じようで、同じような顔立ちであることを晴れていく霧の向こうに見える……。

 

 ―――ああ、あれは―――アンナお母さんの―――。

 

 であれば手招きされているのは……当然のはずで―――。

 

 

 その瞬間、「いい加減起きろ」という冷たい天の声が響き―――。

 

「しどぅりっ!!!」

 

 妙な奇声をあげざるをえない頬の痛みを感じた。

 

「なにすんのよっ! って―――あれ? 達也君?」

「ようやく起きたか、正直このまま起きないんじゃないかと思っていたぐらいだ」

 

 無表情クールに見えて、自慢屋の自信家のイケメン魔法師。一高及び日本が誇るかもしれないイレギュラーマギクスの顔が目の前にあった。

 

「なんで達也くんがここに? 確か私は――――」

 

 瞬間、少し離れたところで盛大な爆発音が響いて、魔力を孕んだ土煙がこちらにまでやってくる。

 

「達也、僕の結界もそんなに保たないよ!!」

 

 土煙は有毒なものでもあるらしく、見ると木に上半身だけを寄りかかっていた自分を守るために、幹比古は高度な防御陣を敷いていたようだ。

 

 そして爆発音を響かせている現場には――――。魔力と霊気の化け物が次から次へと闘いを行っていた。

 

 まるで昔に流行ったドラマなどで描かれた新選組の大捕物『池田屋事件』のように、入れ代わり立ち代わり相手に斬りかかっていく様子だ。

 よく見ると、それはきっちり分かたれた集団であった。

 

 片方は、エリカをふっ飛ばした女騎士と同じような衣装をした集団であった。それらは一様に女騎士と同じく禍々しい魔力を放ち、鮮血を思わせる有様―――。

 髪型は一様ではないが、持っている『楽器』にも似た武器は、全部が『弦楽器』であることが共通点か―――。

 

 その集団を統率していたエリカをふっ飛ばした女騎士も、ヴァイオリン―――あのサイズはチェロかコントラバスか―――という、巨大にして禍々しい武器を片腕に盾のように保持していた。

 

 

「なによ……あの闘いは―――」

「既に15分以上も決着が着いていない。膠着状態に陥っている……」

「無限の再生能力を持った相手と、最大の攻撃能力を持った相手とで一進一退なんだ……」

 

 幹比古の言葉で見ると、魔性の弦楽騎士団に相対するは、重装鎧の騎士2騎と空を飛ぶ槍持ちの乙女を先頭にして、旗を持つ金色の乙女が援護をして、その後ろにて『砲台』を用いて援護射撃を放つ2人の乙女―――。

 

 そのうち2人ほどは見覚えがあった……。

 

「レティシアとシオン―――どういうことよ……!?」

 

「恐らく鎧騎士の片方は刹那で、槍持の乙女はリーナだ。完全に変装までしているが、意味はないな……」

 

 夢幻召喚でその身に英霊のチカラを宿すまではいいのだが、何故に変装をするのか―――それにしても凄まじいチカラで強引な突破を果たそうとするも、騎士団の壁は分厚いらしく、鼻先に食いついてもすぐさま押し返される有様だ。

 

 光り輝く短剣を拳で打ち出し、動きを縫い付けたのちに光り輝く大剣で斬り裂く。

 その武たるやなんと完成されたものだ。縦横無()の言葉が似合うぐらいにとめどないものだ。

 

 そしてそれとは違って荒々しくも魔力を盛大に使って相手を切り裂き、それでいながらも徒手空拳も使う狼騎士の姿が―――。

 

「くそっ……このまま観客席にいるわけにはいかないわよっ……」

「言わせてもらうがエリカ、お前は死の寸前だったんだぞ」

 

 それでも向かうのか? その言葉と周囲にある巻物(スクロール)を前にしてエリカは――――。

 

 ―――Interlude―――

 

「やってきたはいいが、とんでもないピンチだ。大丈夫かい? ミキ」

「ぼ、僕の名前はみきひ―――」

 

 と言おうとしたのだが、喉を掴まれていたことと相手の素性の不明さに言葉が出なかったのだ。

 ともあれ援軍であることは間違いなく、その木板と間違えてしまいそうな剣の切っ先を銀髪女に向ける様子だ。

 

「エリカは―――マズイ状況だな。こいつを掛けてから魔力を通しな。とにかく回復呪法を掛け続けるんだ」

「わ、わかった」

 

 そういって何本もの巻物を渡される。どうやら術を刻んだスクロールらしく、幹比古は幼馴染がマズイことから、早く駆けつけることにした。

 

 

 その背中を追おうとした銀髪の騎士の行く手に、剣で遮断機が作られた。

 

「―――待ちな。ここから先は通させない」

「ならば力づくで通るのみだな。貴様はそうそう吸血を許さないのだろうな!!」

「ヴァンパイアが!」

 

 踏み込み。振り下ろされる剣。魔力放出を自在に操るレッドの攻撃が、ヴァンパイアのガントレットとぶつかり合う。

 軋む灰錠。素手でやり合うのはマズイなと感じた吸血鬼は、驚異的な体術で飛び退く。

 

「待ちやがれ! コラ!!」

 

 当然、レッドとて追い詰める。奴が狙うは得物、こちらとの打ち合いに相応しい武器を狙うつもり。

 その手に持たれたのは―――エリカが持っていた刀型CADであった。

 

「呪われろ―――生成・怨讐片刃(チェンジ・アヴェンジャー)

 

 手に持った後に唱えられる呪文で怨嗟の呪いを孕み、魔剣、邪剣の類となりうるエリカの剣を見て、兜の向こうで眉を顰めてレッドは怒りを灯す。

 

「テメェ!!」

 

 少なくともその剣は、あの赤毛の少女の持ち物なのだ。それをよくも―――。

 

「匹夫め!! その手癖の悪さで以て、オレの剣戟を受けられると思うなよ!!」

「キミこそ私が先ほどと同じと思うなよ!!」

 

 現代の付与魔術師が作り上げた魔剣と吸血鬼の手で呪われた邪剣の叩きつけが、空間全てを揺るがし、魔力のぶつかり合いが情報世界ごと現実世界すらも蹂躙する。

 

 突きの五連続。受け手は、上から叩きつけるべく力を込める。

 突きのベクトル全てを真下に向けられることを恐れて、接触を止めて剣を引いた瞬間、返し技のように身体全てを使って捩じ込むような突きが放たれる。

 

 圧はとんでもなく、すんでの躱しでショルダーアーマーの破壊だけに留まったが、一瞬―――肩を持っていかれたような錯覚を盾の騎士―――リーズバイフェは覚えた。

 

「とことん力任せだな!!」

 

「技巧なんざ後付だ! 力こそパワーだぜ!!」

 

『お嬢! 重複表現だ! ここは一つ『マッスルはパワー』にしとこう!!』

 

「マッスルはパワーだぜ!!!」

 

 言い直したあとのモードレッドの攻撃は確かに力任せだ。だが、その『力任せ』が何より恐ろしい。

 

(死徒となった今だからこそ分かるが、これほどの『力』ならば、確かに全能感は覚えるだろう)

 

 そしてその闘いが力任せに成り、教会の騎士たちにとって陥穽となりうる隙を生み出す。あの『直視の少年』もそういう隙を狙って連撃を叩き込むのだ。

 肉体の全能性を超えた超人運動。その前では、吸血鬼は混乱に陥るのだろう。もちろん『ナナヤ』という一族の持つ能力も一助だが―――。

 

「死徒である私にパワーで勝るか!!!」

 

 剣に付与した黒い魔力はジリジリと消え去る。対してレッドの持つ銀色のダマスカス剣は、刃こぼれ一つしていない。

 得物自体の性能が段違いであるのだ。この結果は当然であり、横薙ぎの一撃を受け止めた剣が砕けると同時に―――。

 

「胸がある……なんだ匹夫(オトコ)じゃなくて匹婦(オンナ)だったのかよ」

 

 少し斜めに傾いだ一文字の傷が胸鎧に走り砕けると、そこには明確な膨らみが存在していた。

 眼の前の騎士の性別を勘違いしていたエリカと同じく、モードレッドも間違えていた。

 

「よく間違えられるから然程傷つくことはないが、そういう貴様こそどちらなんだか分からないな」

「女か男か……はたまた両性具有なんて可能性もあるぜ」

 

 戯れる狼牙騎士(フェンリルナイト)の言葉に『レズっ気』を持つリーズバイフェ・ストリンドヴァリは眼を輝かせる。

 爪でその鎧を剥いでやろうと五指を立てて向かおうとした時に―――。

 

「実に―――興味深い!!! ―――ッ!!」

 

 上空から降り注ぐ―――『黒鍵』の群れ、威力は教会の代行者では標準的な深度(2m程度の陥没)の突き刺さり。

 躱しながらも、その強烈な圧を放つ得物を獲って強烈な圧を弾いていく。放たれる剣矢は30本は下らなく、弾くと同時に―――。

 

「―――壊れた幻想(ブロークンファンタズム)―――」

 

 聞こえた声が、リーズから両腕を失わせて周囲に散った剣から起こる魔力の爆発が、総身を痛めつけて焼きあげる。

 

「リーズ!!!」「リーズさん!!!」

 

 その言葉のあとに身に巻き付く糸を察知―――。

 ナイスなフォローだ。こうして戦えていれば、ルーマニアでの『あの時』のような失態も無かっただろうな。

 

 思いながらも、その親友からの救出に身を預ける。

 

「助かったよシオン、さつき―――」

「すぐに再構成をする。さつき、警戒を頼みます」

「うん!! 任せて!!」

 

 吸血鬼3鬼の登場と同時に―――モードレッドの仲間も現れた……。

 

 

 上空より放たれた援護射撃の元が、地面に軽やかに降り立つのを見て、本気ではない悪態を突いておくのはレッドである。

 

「ったくいいとこどりか?」

「仕留めきれていない。どうやら相当に強いな」

 

 こちらが作り上げた炎壁が一時的な遮蔽物になりながらも、炎を嫌ったリーナの中にある英霊が消し去り、向こうにいる死徒の姿を確認する。

 

 確認した瞬間にぎょっ、とする。その中に見えた姿もそうだが―――『やっている行為』に誰もが眼を見開いた。

 

 月明かりの下、怪しげなまでに深い深い接吻を銀の騎士にやるのは紫苑色の吸血鬼。そしてその2人を守るようにツインテールの茶髪の―――時代遅れのJKの姿。

 あちらも、こちらの姿に気付いたようだ。

 

「な、ナニをやっているの? あのKISSに何か意味はあるの?」

「分からん―――シオンは?」

 

 接吻の片方の相手―――恐らく『遠野志貴』と『関わり』を持ったのだろう『シオン・エルトナム』の姿に、こちら側のシオンに尋ねる……。

 

「仮定を述べさせてもらえば、彼女は何かしらの『人体構築技術』を得ているはずです。サーヴァントともまた違う技法なのでしょうが……しかし、私よりも高度なシオン・エルトナムが、『並ぶ川の過去流』にいたとは複雑です……」

 

 対抗心というほどではないが、どうやら彼女としては自分こそが最優秀のシオン―――そう考えていたようだ。どうでもいいけど。

 あちらが此方に気づき、『シオンが2人いる!!』と騒ぐ、一時の出会いしか無かった遠野志貴に泣かされた女性の一人に、少しだけ苦衷の想いだ。

 

「―――律儀に、こちらの準備が整うまで待っているとは、随分と甘いのですね」

「甘くはないさ。そこのツインテールが一番怖い人だ。いざとなれば、そこいらに散らばる巨大な質量を、メジャーリーガーの投手並のスピードでガンガン投げつけてくるだろうさ」

 

 それは現代魔法の理屈なんて簡単に超越した、人間能力の発揮である―――そして刹那の魔眼が、強烈に『弓塚』に反応するのだ―――あれは『異界』持ちだと……。

 

「成程、さつきの力量を正確に見抜くとは―――どうやら、アナタは私たちと同じく『敵地』(アウェー)来訪したもの(ビジター)たちなのですね。親近感が湧きます」

 

 あちら側のシオン―――仮称吸血鬼(Vampire)シオンとでもしておく―――からの言葉にリーナが反応する。

 

「セツナをアンタたちみたいな人喰いのヴァンパイアと一緒にしないで欲しいワ!!」

 

「事実を告げられると少し辛いね。けれど―――私達も期せずして、この地にやってきたんだ。来たくて来たわけじゃないとも違うけどね。

 ここでしか生きられないならば、あとは戦うだけだよ。

 生きるために人間から血を吸い上げて、生きるためにこの地にいるソーサラスアデプト―――確かマギクスというんだったかな? ―――を倒し、生きるために『欠片』を集め、『未来』を掴むために戦う。

 私達の行いが悪であるというのならば、そう断罪してくれて構わない。

 だが―――私達の未来のために、戦うと決めたのだから―――」

 

 深遠な―――まるで出来のいい説法を聞いたような気分になりながらも、呼び出したこちらにも原因はあるだろうが……それでも、この吸血鬼たちはUSNAの研究所の人間たち、都内の人間をありったけ殺戮してくれたのだ。

 

 人間の命に貴賤をつける積りはないし、それでも人が分かりあえる生き物なんて御高説を信じたためしもない。

 

 けれど――――。理不尽な力で歪められた運命のツケだけは、支払わせなければいけないのだ。

 

「ああ、そうかい……こちらとしては、エリカを張っ倒してくれた時点で敵性確認だ。―――上級死徒(・・・・)ズェピア・エルトナムの『娘』、お前たちを封印する!!!」

 

「成程、アナタの『世界』を理解しましたよ魔術師。リーズ!! お願いします!!!」

 

「シオンの願いは私の願いだ!

 来たれ! 夜の中、深き山の中に囚われし、高潔なる同胞の魂! 我が楽団員たちよ!! その魂が贖罪を求めるならば、魔宴のあとに昇華されよう!!」

 

 意気高い詠唱の後に幾つも地面に現れる魔法陣。

 知らない魔法陣―――恐らく聖典系統だろうものから煙が立ち上り、聖堂教会の騎士団の衣装―――神と御子の敵を討つために誓いを立てただろうものが、魔と鮮血の赤に染め上げられてる。

 

 それを着込むのは恐らく生前の騎士たち―――。

 銀髪の女、リーズとかいうのが統率していた連中なのだろう。背景こそ分からないが―――何かしらの災厄に巻き込まれ―――こうなるか。

 

「人の正しき道を説く騎士たちが、こうなるとは嘆かわしい限りだな。俺が言えた義理ではないが」

 

 生前の騎士たちも『再生』させる技法。確かにネクロマンサーならば、不可能な領域ではない。だが、その場合必要な肉や骨―――ようするに取り憑かせる身体が必要だったり、情報量などなど―――『死者蘇生』の領域にあるものだが、完全なる死者蘇生ではない辺り―――ナニカが引っかかる。

 

「考えるよりもイマは行動することが必要でしょ? チガウ? ―――」

 

 そんな思考の迷宮に陥りそうであった自分を戻す、戦乙女のリーナの言葉。

 言われて剣を構える刹那。

 

 臨戦態勢を取っているあちらに対して、こちらも時間稼ぎをしていたところにようやく『バイクライダー』がやってきた。

 参戦は期待しない。ヤツに臨むはエリカの回復である。

 

 そうしてから用意しておいた結界を張り――――。

 先程までとは打って変わり、言葉もなく、ぶつかり合いは盛大な轟音を響かせながら始まるのだった

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。