魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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待たせたなっ

イメージはスレイヤーズにおける『ベゼルドの妖剣』の口絵一枚目のガウリィで一つよろしくお願いします。


第226話『逢魔ケ辻Ⅲ』

夜の帳に響き渡る人外魔境のオーケストラであり、血飛沫があちこちで舞う恐ろしすぎるミュージカル。

 

何を発破すれば起こるか想像もしたくない轟音と大爆音をBGMに、金切り声の限りを以て絶命する不死者たちのそれをバックコーラスにして―――、演者の中でも主役である戦士たちと吸血鬼たちは、それらを聞きながらも勇猛果敢にも相手を抹殺するという意思のもと、血に塗れながら進み続けるのだ…。

 

「―――その後は、「この通り」だ」

 

達也の詳細かつ様々なものを「隠した」状況説明に対して、エリカとしては憤懣遣る方無い思いだ。

失態を演じた以上に、この戦いは自分が始めたものだというのに、すでに主役の座はあちらに移っていたのだ。

 

このまま奴らだけに任せておくなど、エリカの中の気持ちが納得できない。

 

「―――ミキ、あんたはどう思う?」

 

「えっ!? い、いきなりだねエリカ。君が僕に意見を求めるなんて…」

 

「いいから答えて」

 

有無を言わせぬ声に、なにかに「脅えていた」幹比古は、固く結んでいた口を解いて言葉を発する。

 

「僕としては完全に撤退をするべきだと思うよ。エリカの気持ちは僕も同様だ。こんな化け物相手だと分かっていれば、神器だって持ってきたんだからさ―――いや言い訳だ。とにかく……君は死んーーー死にかけたんだ。この夜は逃げっ!!」

 

長口舌を途中で終えざるを得なかったのは、修羅の庭から一鬼―――幹比古とエリカを殺そうとした銀髪の女と同系統の衣装―――しかし髪は青い女が、こちらを見ていた。

そして、その手にヴァイオリンにしか見えない楽器とそれを弾く弓とが見える。

ガントレット越しでも握られるように作られたそれが、ただのヴァイオリンなわけはない。

 

既にその弓が弦を引くものではないことなど当たり前。

 

『達也!! 2人を連れて逃げろ!!』

 

「そうは言うがな。簡単に逃がしてくれる相手でもないだろうな」

 

いきなり3人に対して向けられた念話。

誰の声であるか、一瞬分からなくなるぐらいに海馬社長(?)と言いたくなるボイスであったのだが、その後には高速で挑みかかる騎士の姿。

 

禍々しい衣装の割には、その攻撃には確かな「技」があり、真っ先に狙われた達也は、弓と銃剣を通わせる。

 

シルバー・ホーンのバレルウエイトの下端に仕込まれていた刃。超高水圧でタッピング(鍛造)されたものは、たしかに受け止めた。

 

「面白い得物を持っているものだ。だが、音楽家の腕力! ナメるな!!!」

 

 

力任せの弓の振り回しに逆らわず、達也は体を受け流しながら魔法の照準を着ける。

鎧・武器そのものを分解することは中々に難儀するが、その身を包む霧のような魔力を消すことで、いくらかの優位性は持てるようだ。

 

「音楽家の腕力ってどういうことなのかしら……」

 

『チェロやコントラバスなんかの巨大さを見てりゃ分かる通り、弦楽器の中にゃ肩に担いで、立てていたとしても弦を弾くことすら難儀するものがあるんだ。

ある意味、吹奏楽部が体育会系とされているのは、筋トレは当たり前で、肺活量を鍛えるための呼吸練習もあるからだ。特に音律騎士団ってのは、聖歌(チャント)を朗々と歌い上げながら戦うことも求められているから―――それよりエリカ。お前こそ今まで「学んできたこと」を出して戦え』

 

こちらにアドバイスを掛ける刹那とて、どうやら目前の戦いに集中せざるを得ない状況のようで、言葉が不自然に途切れた。

知識披露が中断してから、向けられた言葉に「ムッ」とする。

 

今まで学んできたこと。確かに2科生としてかなり上までいけたのは、エルメロイレッスンのお陰だった。全てを出して戦えば―――。

 

―――対抗しきれない相手ではない。そういうことを失念していた。

 

「忘れていないようでいて、忘れていたわね……あの「ひたむきな我武者羅(がむしゃら)」を……」

 

八王子クライシス、九校戦、南盾島事変、横浜マジックウォーズ……その全てにおいてエリカが捨て身で挑めたのは、自分に失うものがない2科生であるという建前があったからだ。

どうせ自分が功績を積むことなどありえないのだから、そういう心が無心の勝利を掴ませてきたのだ。

 

「全く、いつから守りに入っていたのかしらね。sword―――advance……」

 

呪文に従って『風鋼水盾』が展開される。手にあるのは音声認識型のCADであり、自分が今日にいたるまでチャージしてきた魔力の水が、鎧として全身を纏い覆う。

そして、空より飛んできた刀。勢いよくエリカの眼前の地面に突き立つ、2尺3寸の素っ気ないほどに飾りがない刀を手に取る。

 

 

「腹を決めたよ。エリカ―――僕ももう少し、踏ん張ってやってみようと思う」

 

「ありがとミキ、今日の武勇伝はちゃんと美月にも報告してあげるよ」

 

「生き証人は必要だからね……」

 

 

勢い込むエリカに着いていく幹比古だが、今日一日で色々と知りすぎて頭が追いついていない部分もある。

騎士がよこしたスクロールでも回復しないエリカ。もはや半死半生どころか既に死人も同然の彼女を回復させたのは―――。

 

(達也だった……確かに、刹那はそういった指導をしてきたけど、こんな死者蘇生も同然の回復現象を起こせるなんて)

 

 

普通じゃない―――。そういった友人に対する恐怖感を押し殺す思いで挑みかかるしかなかったのだ。

放たれる風の刃、達也が消去した魔霧の向こう側に届かせられるそれが、吸血騎士の従者(?)を切り裂きながら、エリカの突撃をサポートするのだった。

 

 

† † † †

 

 

「やるじゃねーかアイツラ! てっきり戦意喪失したもんだと思っていたんだがな!!」

「まぁこんな戦闘を行って戦意を保てるほうが、おかしいとは思うけどな」

 

すでに顔にまで掛けていた偽装(パレード)は剥いでいる。余計な部分に力を入れてリソースを費やす必要はないという判断で、刹那はシグルドのチカラを借り受けながら戦闘をする。

一進一退の攻防ではあるが、魔盾の騎士の指揮する―――おそらくヴェステル弦楽騎士団だろう再生騎士たちは、徐々に再生が追いつかないでいく。

 

綻びは見えつつある。力任せの戦いであちらも余力が無くなりつつあるようだ。

考えの間にもマントを翻しながら光剣を巧みに操り、大英雄シグルドの剣技が魔性の極みを叩き斬っていく。

 

黒髪の聖堂騎士の両腕を上下から断ち切った上で、両袈裟に「X」を刻むように斬撃を走らせる。

 

「がぁっ!!!」

「流石に魔剣と言えども概念武装。効くらしいな!!」

 

言うと同時に首を刎ね飛ばす。一度は消え去った騎士。だが直ぐに魔盾の騎士の近くで霧のように集まり―――。

―――再生は出来なかった。

 

(大体は分かったぞ。騎士たちはあの盾の騎士の呼び出したサーヴァントのようなもの。同時に盾の騎士もVシオンによって再生させられた存在……)

 

大凡のことがわかってきたが、それにしてもとんでもない能力値だ。

だが、それでも戦いの趨勢は傾けられるはずだ。

 

 

「ブリュンヒルデ・ロマンシア!!!」

 

「ぎょわー!! シオーーン!! 助けてぇええ!!!」

 

「さつき!!」

 

 

巨大槍を両腕で抱えてロケットミサイルも同然に突撃したリーナの「教本通り」の攻撃に、相手も壊乱を来す。

公園のコンクリートが溶けながらあちこちに吹っ飛ぶ宝具の一撃に本陣への間が開けた。

 

 

「突っ込むぞ!!」

「オーライ!!!」

 

がら空きとなった「弓塚」氏と「Vシオン」への道、それを見た刹那はレッドとともに駆け出す。

その背中に朗々とした聖歌(チャント)の加護が響く。

 

ある種のバフ(強化)が掛けられたことを意識しながら、「弓塚さつき」に剣を向ける。

 

「させるかぁっ!!!」

 

 

もうあと五歩で刃を振り下ろせると思った瞬間、大盾を振りかざして防がれた。

聖なる盾。戒めの音律を以て魔性と邪悪を打ち払うはずのそれは汚されて、盾の曲面にはビッシリとあらゆる『眼』が象嵌されていた。

 

少し違うが、戦神アテナがペルセウスより返却されたイージスの盾にも思える。

 

石化の視線ほどではないが、『邪眼』の類ではあるらしく、そこから発する魔力が盾を殴打武器であり―――。

 

「―――光あれ(Flat lux).」

 

―――光線兵器として存在させていた。

細かな光条を数多の目から吐き出す恐るべき盾へと変わっていたのだ……。

 

「死徒が神の天地創造を象るか!!!」

 

 

怒りを覚えたが、ゴルゴーンの首の視線の如く、その光条は絶え間なく刹那とモードレッドに吐き出される。

進んだはずの距離を無に返されそうになるぐらいの圧を弾きながら、周囲に群がろうとする吸血騎士たちも近寄らせないでおく。

 

 

「退くこともまた一つの戦いです!! 我が陣に帰りなさい勇者たちよ!! 後ろに向かって前進するのです!!」

 

 

後方より掛けられる言葉。レティシアが旗を掲げながらそんなことを言う辺りに、押し込まれそうなのだと気づき―――三人は勇気を持って後退するのだった。

再び30mほどの距離でにらみ合う一団と一団。

 

 

「せ、攻めきれない……!」

 

焦るリーナの気持ちは誰しもが同様であった。

 

「決して倒せない敵じゃない。けれど、戦い方が……『巧すぎる』」

 

 

上級宝具。それも対軍、対城クラスの一撃ならば滅殺出来る。

それを使えばどうにでもなるかもしれない。

 

―――だが、それを使わせない状況が、ここにはあった。土地ごとの消去を許さない状況が―――。

 

あちらは吸血鬼を集団で倒すことに長けた連中。それは同時に、単騎で圧倒する相手を倒し、拘束する術に長けているということ。

 

(己が死徒になったとしても、それを実行してくるとはね、雀百まで踊り忘れず。かよ……)

 

有り余るパワーを使って戦闘が雑になってくれれば、こちらにも付け入る隙は出来るのだが―――。

 

「令呪を使ってでもお虎を引っ張ってくるべきだったかな……」

 

その場合、今までの信頼関係が崩れ去ることだけは間違いなかっただろうが。だからやらなかった。しかし、今では後悔ばかりだ。

そんな刹那の考えに挟まる一つの念話。レティシアからのものであり―――。

 

 

「―――セツナ、まだこの場には勝利のカードが揃っていません。先程、私は啓示を受けました……赤薔薇の剣士に聖剣が生まれる時に、不滅の夜魔のものたちへの再殺の1手が生まれると」

 

 

その言葉に目を向けるのは、三鬼であり三騎もの戦闘鬼に襲われている『エリカ』であった。

 

もちろん達也に幹比古も戦っているが、彼女の出自を考えれば、赤薔薇というものが意味するところが分からないわけではない。

 

だが―――。

 

(手助けするべきか、否か―――)

 

こういう時に明朗な未来視ではないことを言われると、刹那としても判断に困り、再びの激突へと至る。そうしようとした時に―――。

 

 

「刹那、エリカたちに雑兵が向かおうとしているぞ!!」

「レッド、お前が向かってくれ!! いざとなれば、目の前の連中は俺とリーナだけでもいい」

 

 

あちらは方針を転換して、エリカたちを狙うことに決めたようだ。失いすぎた力を補充するために、魔法師を食う……。

 

分かりやすすぎる思考に、刹那はもはや「異界創造」を繰り出すことも考えて動く。

 

全員が慌ただしく動くさなか、啓示で示された赤薔薇の剣士の領域内で、「一つの奇跡」が鍛造されていく……。

 

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