魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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佐島、劣等生やめるってよ。

……何のネタか分かる人いるだろうか。ともあれ最終巻が出るそうで。

しかし卒業の集合写真を見ると、やはり深雪より、リーナの方がボインちゃんであって劇中の描写と相反するなぁ。まぁ石田先生のお気に入りだからな。リーナは。

あらいずみるい先生もリナが貧乳の設定なのに―――まぁ盛りに盛られる。

↓後書きに続く

新話どうぞ。


第227話『逢魔ケ辻Ⅳ』

 凄まじいまでの魔力の発露を感じる。

 

 七草真由美のナビゲートで走り抜けてきた十文字克人だが、ここまで来れば、もはやナビゲートなど要らない。

 

 それぐらいに修羅巷を感じた……。

 

『私もそっちに行く?』

 

「いや、感じる限りでは知っている『気』が幾つか混ざっている。深夜徘徊を諌めるのに3年2人では、あちらも気まずかろう」

 

『克人くんって、そこまで知覚系統に応用が利いたかしら?』

 

「鈍いだけでは、何事にも遅れてしまいそうだからな……」

 

 そんな風な(おど)けた返答をインカムのマイクに返しつつ、公園に張られた『結界』の向こう側に踏み込もうとした瞬間……。

 

「止めときなさい。ここから先は本当の修羅巷―――食われたくなければ、少しだけここで止まっておきなさい」

 

 先程まで何も感じていなかった。だが、確実に「いた」と思えるような軽やかさで、銀色の少女がそこにいた。

 

 眼前に突如、本当に唐突に現れた少女は、既知の人間であった。

 

 今までに見たことがない服装。白い。真っ白な雪色のコート。

 首元のファーマフラーとロシア帽ともファー帽子ともいえるものも白色であった。

 

 夜闇の中でも輝く銀色の髪と相まって、コウノトリのような赤い眼がアクセントとして映える。

 

「グーテナハト、カツト。こんな夜中に学生が出歩くもんじゃないわよ」

 

「リズリーリエ……」

 

 呆然と名前を呟くしかなくなるぐらいに衝撃的な邂逅。

 

 淑女らしくコートの裾を上げて挨拶するその姿に新鮮さを覚える。当然だ。彼女とはこういったプライベートな場での出会いはなかった。

 

 いつも見るリズの姿は、制服、九校戦のジャージ、それ以外ではピラーズのコスプレ衣装。

 

 そんなところだった。こうしてプライベートな服を着た彼女―――フェミニンな装いというのは、本当に新鮮な気持ちで見れる……。

 

 いつもは纏まっているおさげの髪も解かれているのだから―――。

 

「結界の中の戦いは、あなたが追っている吸血鬼とは『別口』よ。しばらくの間、ワタシとデートしていなさいな♫」

 

 銀色の髪をかき上げてからの手での誘い。笑顔のままにダンスを求めるようなリズに、チャームの魔術でもかけられたかのような気分……。

 

「む、魅力的すぎる提案―――『ちょっとー!! 克人くん!! 今、そこに誰がいるのよ―――!! 映像も途切れて声も聞こえないのだけど、ちょっくらそっちに行くわよ!!!いやな予感が―――』―――」

 

 ここぞとばかりに、なんでこういうときにだけ『カン』が鋭いのか、と嘆きたくなる真由美の声と言葉を聞きながらも、『MIDNIGHT TOKYO』に現れた妖精から『事情』を聞けるのか、それが肝要なのだった。

 

 だが、そんな公的な事情を抜きにしても、リズはとても魅力的な少女で、どうしても克人は巌に徹することができなくなる……。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

(想定外であったわけではないです。計算違いがあったわけでもありません。しかし―――)

 

 よく見れば見るほど、死徒と化したシオンの目には、鎧姿の少年に何かがフラッシュバックするものがある。

 

 置換魔術で、シオンたちの『世界』には起こり得ない境界記録帯(ゴーストライナー)の力をその身に降ろしている少年。その中に……。

 

 その動きの中に「誰か」を思い出す。懐かしき記憶。今となっては思い出すことも稀になるくらいに、それでも知らないわけではない男の影を見る。

 

(志貴……アナタがそこにいるのですね?恐らく彼は『交じる世界』の出身、どちらかといえば『アラヤ』寄り…されど、七夜志貴が遠野志貴になる運命も用意されてしまった―――混線した世界で、アナタはその少年と関わった…その世界では、多分、私は―――)

 

 ―――アナタと関わることはなかった―――。

 

 ―――そもそもいなかった可能性もある―――。

 

 心中でのみ出した結論に胸がうずく。だが、それでも今の自分は……。

 

「さつき、リーズ。全力で戦いましょう」

 

「うん!! ようやくシオンが決めてくれたならば―――」

 

「―――私達は盾であり鉾となろう!!」

 

 日陰(ろじうら)でしか生きることを許されなくなってしまったがゆえの縁を大事にするべきなのだ。

 

 銃のスライドを上げて発砲準備をしておきながら―――。

 

「エーテライトの使い方が雑ですね。霊子ハッカーもここまで質が落ちるとは、此処のアトラス(古巣)の現状は、嘆かわしい」

 

「アナタの世界ほど危機的な状況が生まれていれば違ったのですが、この世界の穴蔵は少しだけ研究に没入出来ているんですよ」

 

「それはウソですね。あなた達は滅亡に瀕している。魔法師などというデミ・エルフ、ホムンクルスの成り損ないが世界にのさばる現状は、「どん詰まり」(DEAD END)でしょうよ」

 

 言いながら紐状武器の典型として、「しなり」、「湾曲」させながら相手を縛ろうとしていく鏡合わせのような2人……刹那の見立てでは、Vシオンの方がバストサイズは上な気もする。

 

「それは年齢による違いです刹那! 私には「未来」があります!!!」

 

 エーテライトを差し込まれているわけでもないのに、なぜわかったという疑問はさておき、向かい合っていた同じく紫髪のシオンは―――

 

「お前の「未来」など知ったことか!!!」

 

 なにかの逆鱗に触れたのか、怒涛のごとく拳銃を放ってくるVシオン。射撃を妨害するように、炎の魔法陣で封殺する。

 

 異能者を相手にするのだから何かが付与されているかと思えば、普通にただの弾丸。しかも、この時代では廃れたともいえる口径の大きさ、弾丸の形状……。

 

 それを認識しながらも、遠坂の家門を模した魔法陣は弾丸をシオンに届けない。防御陣を目くらましにして、接近を果たす。

 

 死徒の膂力に対抗できるかどうかは分からないが……。

 肉体制御に適した錬金術師は、意図的に己のリミッターを外し、肉体性能を上げて戦いに挑める。

 

 ホモサピエンスが持つべき制限を取り払い、大脳辺縁系を肥大化させているのだろう。

 

「爪に気をつけろよ!!」

 

「―――イエッサー」

「ラジャー」

 

 身を低くして駆け抜けたシオンとラニの2人が、Vシオンと取っ組み合いをする。

 

 エーテライトを駆使して体で挑むのを見ながらも……。

 

「よそ見をしている暇はないぞ!!!」

 

 大地を叩く大盾の一撃。寸前で躱してから光剣を振るう。首を刈り取ろうとした一撃。

 当然のごとく躱される。大盾を持っていない方から攻め込もうとするが―――。

 

「させない!!!!」

 

 腕をブンブン振り回したあとにゲンコツを落としてくるJKに邪魔される。

 

 どういう経緯で死徒になったのか分からないが、明らかに強すぎる。

 知らぬ顔ではないことを思い出したことを苦衷に思う。

 

 拳を剣で受け止めたものの体が沈み込む。コンクリートの路面が隆起して持ち上がる。

 

 心が決まらないところもあるが、全てを呑み込んだ勢いで、足を陥没から脱して腕を斬り飛ばした。

 

 同時に、その胸に真っ直ぐな槍のごとき蹴りを叩き込んで、10m以上は吹っ飛ばす。

 

「力はすごいが! 動きが素人なんだよ!! 弓塚さん!!!」

 

「――――」

 

 如何に復元呪詛があるとはいえ、今の刹那の身には大戦士シグルドが宿っている。

 破滅の黎明(グラム)は、魔剣とはいえ吸血鬼の天敵たる太陽の属性を持つ新生魔剣(リライフオーダー)

 

 更に言えば神性掛かりの攻撃は、中々に難儀するはずだ。失った腕に嘆きながらも、真紅の目がこちらを睨むように見てくる。

 それは明らかに人食いの吸血鬼の特徴だ。

 

「さつき!!! おのれぇ!!!!」

 

 明らかに雑極まる突撃だが、槍鍵の切っ先をこちらに向けて放たれるものに、刹那はマントを翻して背中を向けた。

 

 その奇異な行動に歴戦の騎士も戸惑った。

 

 だが―――数秒後には理解をした。

 

「上か!!」

 

 マントは外されてなお、張力を保ちながらリーズバイフェの視界を奪っていた。かつて九校戦という戦いで、見えざる弾を防ぐために友人が使った手だ。

 

 月を光背にして忍者のように身を弛めて、逆手にダガーを持っていた刹那の姿を確認した瞬間。

 

 『死がふたりを分断つまで!!!』(ブリュンヒルデ・ロマンシア)

 

 真正面から大槍を構えて飛び込んでくる2人の乙女。

 

 リーナとレティシアによる双槍撃である。

 

 ブリュンヒルデを降ろしているリーナはともかくとして、レティの場合は有り余る魔力と『旗』を槍に見立てての聖槍突撃(ロンギヌス)でしかないのだが―――。

 

 それでもマントを割り砕き、寸前で気づいて盾で防御しようとしても、それをも砕いて吸血鬼の心臓に鉄杭が打ち込まれた。

 

「リーズさん!!」

 

 盛大なまでの血を吐いた盾の騎士に対して心配する声を上げた既知の顔に構わず、刹那はダガーを降らせて体を縫い付けた。

 

 さらなる苦痛に身を捩らせる銀髪の騎士に対して、体を落としながらの大剣による真っ向唐竹割りが炸裂。

 

 ぞぶん!! という音で左右に分かたれた騎士が塵と灰になりて消え去る。

 

「さつき、リーズならばまた『再生』できます!! 今は目の前に集中して!!!」

 

 轟音とともに振るわれた剣戟は、空間をも切り裂くと錯覚させたはずだ。恐慌する弓塚さつきに対しての連続させての攻撃は―――空振りに終わった。

 

「悪いが!!」

 

 しかし、刹那もその一撃だけで終わらせるつもりは無かった。踏み込んでの一撃が振るわれようとした時―――。

 

 

 † † † †

 

 

「達也、マズイよ! 刹那が首魁だろうあの三人を倒そうとする前に、僕たちが押しつぶされる!!」

「踏ん張りなさいよ ミキ!! DTのまま死んだらば、怨霊になっちゃうわよ!!」

「そんな俗説、初めて聞いたよ!!」

 

 言い合いながらも、幹比古もエリカも死徒の従者相手によく粘る。達也もまた分解と神秘解体を用いて数鬼を倒す。

 

 次にかかってくる一鬼は難物であろう。

 

 金髪のバイオリン弾き。バイオリンからは『ミサイル』が飛んできたりする。

 

 その威力は―――、公園の路面を盛大に砕き、黒色に染め上げるだけの威力はあるようだ。

 

 どれだけの火薬を詰め込めば、こんなことになるのか。

 

(教会の戦闘信徒の中には、近代兵器で異能者を罰するものもいるんだったな)

 

 達也も軍人ではあり、ハイパワーライフルなどの歩兵兵器はそれなりには諳んじれる。魔法師を害するだけの威力と速度を持ったものに対しては、知識として持っている。

 

 だが……およそ2000年代初期だろう時代に、これだけの発破兵器があるなど、驚異的だ。

 

(むしろ世界的な寒冷化で生活物資窮乏に陥ったこの世界は、知らずのうちに兵器技術も退化しているのかもしれないな)

 

 かつては月に行くほどの宇宙開発技術と魂を持っていた世界も、いつの間にか地べた(地球)でゼロサムゲームをすることが当たり前となっていた。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 ミサイルも驚異だと気づいた達也は、それを分解する。

 如何に吸血鬼殺しの火薬量が搭載されていて、少しばかり変なもの(水銀?)が入っていたとしても、それを塵以下に返しておくことで、脅威の排除。

 

 しかし、そのミサイルが不発に終わったことは、バイオリン弾きにとっては別になんともないらしい。

 

(思わぬ飛び道具を前にして、混乱したところで―――)

 

 バイオリンから槍のような杭が飛び出る。

 

 つまりは、そういう戦術ということだ。

 速さはかなりのもの。忍術を修めている達也であっても、この出足の加速には窮する。そうなったところで『杭打機』が発動。

 

 飛び出た杭は、数秒前まで達也の顔面があったところを貫いた。

 

 身を低くした達也だが、圧はこちらにも影響する。

 

 吹き飛ばされそうになりながらも、まずは鎧を消し飛ばす。神秘解体と物質分解の間断ない発動。

 

 これで鎧を消し飛ばす―――が。

 

「妙な魔術を使う!!」

 

 消し飛ばそうとした鎧は、硬すぎるエイドスの情報の前に無為と化して弾かれた。

 

(至近距離から放っても無理か)

 

 現代魔法の理屈ではないが、ほとんど接触状態のままに放った術は、無駄に終わる。そして放たれる蹴り。

 

 真上に突き上げるかのような見事な蹴撃を躱してから魔弾を解き放つ。

 

 躱したと思ったが、腕に痛みが走る。どうやら死徒の膂力は予想以上だ。

 

 風圧だけで、こちらに痛撃を与えるとは。

 

 同時に結論を出す……。

 

(決して戦えないほどじゃないが、こちらには『決定打』がない―――)

 

 サッカーで言えば、ゴールエリアまでボールを運んでもシュートが出来ず、ボールを奪われる。

 

 野球で言えば、毎回のように2人はヒットを打っても続くものが出なくて、本塁に戻れず点は入らずで終わる。

 

 つまりは、ストライカー、ファンタジスタがおらず、スラッガーとも巧打者もいないからこその「膠着状態」。

 しかし、あちらは決してこちらを打ち殺すもの(概念武装)が無いわけではないことが、いずれの決着を付けてくる。

 

 悪循環だ。このままでは―――。

 

 誰かに概念武装があれば……。こいつらの持つような銃盾とでもいうべきものさえ―――……。

 

 その時、全ての物事において理論派であり、魔法に関しても理屈だったものを好む達也に終ぞなき直観が働いた。

 

 記憶の片隅に置かれていた事物。それは―――。

 

 閃きが走った……。

 

「エリカ!! プリドゥエンだ!!! 『聖盾』を『聖剣』として使うんだ!!」

 

 閃光のような閃きが走ると同時に、言葉を紡ぐ。

 

 言葉を受けて水流を纏わせて戦っていたエリカが、気づいたのか驚いたのかはわからないが、表情に変化が現れる。

 

 それでも達也の言葉に対して、彼女が持つCADが起動式を解凍。

 現代魔法の理屈では明らかに遅いのだが、それでも10数秒を掛けてエリカの眼前に形成された黄金の盾―――そのレプリカを前に―――。

 

「アーサー王の盾だと……! 偽性の宝具鍛造!!」

 

「異端だ!! 殺してしまえ!!」

 

「その御業! 悪魔の技法!!!」

 

 見せつけられた聖盾を前にして、明らかに狼狽した吸血騎士たち。

 だが、それにエリカはいつもどおりに悪態をつける状況ではない。

 

 なんせこの『魔法』は、エリカのサイオンを『ごっそり』持っていく。

 あの九校戦以来使ってこなかったのは、その利便性に疑義を覚えていたからだ。

 

 何より疾さで動き回ることを旨とするエリカにとって、これは最後の防御手段なのだ。

 

「あいっかわらず使い所に困るわねぇ!!」

 

 身体にのしかかる倦怠感から大粒の汗をかきながらも、持ち上げた大型のカイトシールドの突端を切っ先に見立てて、振り上げた時に―――。

 

「他人の努力をよくもそこまで悪し様に言えたな!! ヴァンパイア共が!!!」

 

「――――――」

 

 絶句してしまうほどに力尽くでの突破を背後から掛けてくる騎士一人。もちろん吸血騎士ではない。

 あちこちで岩土が魚のように飛び跳ねるほどのチャージを掛けてきたのは…レオを助け、幹比古の危機にも入ってきた魔戒騎士のような人物だった。

 

 その狼のようなフルフェイスの兜には罅が入っており、高速移動のせいなのか、徐々に真っ二つに亀裂が走りながら、割れていき―――その向こうにある顔を知らせた。

 

「騎兵隊の到着だ!! がんばれ モードレッドが参ったぞ!!!」

 

 セリフの通りならば、中華の戟でも持って馬にでも跨っていて欲しいものだが、頼もしい援軍の存在であることは間違いない。

 

 いきなり油断していた背中を突かれた吸血鬼たちの狼狽は計り知れない。

 

 先程まで、とんでもない強打者としてブンブンと剣を振り回していたのは、モードレッドなのだから。

 

 そんなモードレッドがやってきたことで『変化』は起こる。

 

「ぐっ――――――あ、あ、ああああああああああ!!!」

 

「エリカ!?」

 

 吸血鬼の毒でも残っていたか? と思った達也だが、違った。明確なものではないが、精霊の眼が見たものは―――エリカの内側(なか)で何かが荒れ狂う様子であった。

 

 それは『なにか』を生み出そうとするものに見えた。

 

『なにか』は生み出した黄金の盾と反応しあって……何であるかはわからない。だが、荒れ狂う魔力の塊を見た吸血騎士たちは、一斉にエリカに襲いかかろうとする。明らかにターゲットを絞った動き。

 

 マズイと思って男子2人が駆け出す前に―――。

 

「カイゴウ!!!」

 

『オウ!!!!』

 

 モードレッドの纏う鎧が、いくつものパーツに分裂を果たしてエリカの周囲に浮遊。結界を作り上げた。

 

 その早業もそうだが、キャストオフしたモードレッドの姿は、どこのレースクイーンだと言わんばかりに肌色部分が多すぎて、幹比古が鼻血でも流すんじゃないかと思うほどだ。

 

 衣服としての意味があるのかわからない、赤色の紐なしチューブブラジャーのようなものに、アームウォーマーではないが、これまた赤色の腕当て。

 

 首元には金赤のネックガード。

 下は赤色のスカートに正面に降ろされる腰布―――。

 

 はっきり言えば―――昔のファンタジー作品でのビキニアーマーを纏う女戦士もいいところだろう。

 

 冬場にその格好は無いのではないかと思う達也だが、鎧が無くなった効果は確実に出ていた。

 魔力放出の勢いがダンチであがり、膂力で優れなかったことで吸血騎士たちの進撃は止まる。

 

「いまさらながら力任せの限りだね。モードレッドの剣は……」

「ああ、とりあえず鼻血を拭け」

 

 取り繕うとした幹比古の努力を無に返しながら、地面を叩くことで石の礫を弾丸としているモードレッドに合わせる形で、達也も分解魔法を叩き込む。

 

「レアな魔術使うじゃねぇかタツヤ!! エリカが『生み出す』まで持たせろよ!!」

 

 その様子を見たレッドが、ヒュウ♪と器用に口笛を鳴らす。それにブリティッシュヤンキーめと思いながら、達也はレッドに並び立つ。

 

「お前は分かるのか? エリカに何が起こっているのか?」

 

「詳しいことは分からねえさ。けれどな。さっきレティが言っていたんだ。赤薔薇の剣士に『聖剣』が生まれる時が来るってな」

 

 もう少し踏み込めば、モードレッドはエリカが『ローゼン』であることを承知済みであった。

 

 達也は髪色からして、たしかにエリカはそうだろうなと思いつつも、察しが良すぎないかという疑念と、なぜモードレッドが近づくと同時に、そんなことになったのか……。

 

 色々な疑問は多くとも、少し遠くの方、で刹那たちは上手いこと死徒一鬼を消滅せしめて、残るものにかかろうとしている。

 

 そして結界の内側にてエリカの中にあるものと、黄金の盾は反応していき……一つの結果を結実させんと光を増していき……。

 

 黄金の光に赤色の粒子にも似た眩い魔力光が螺旋を描いて―――意識を取り戻したエリカが眼前にあった『光』を勢いよく掴んだあとに、光は明確な形となって、全員の眼に焼き付いた。

 

 振り上げた光は―――剣。詳細に言えば『刀』であった。

 

 しかし、ただの刀ではなかった。かつて彼女が使っていた大刀『大蛇丸』のようなものとも違う。

 

 長尺すぎる刀。エリカの身長と比較しても大蛇丸はデカく長い刀であったが……これはそれ以上であった。

 

 柄の長さも相当。鍔から柄尻までの感覚が長すぎる。それに比して刃の部分も切っ先まで長すぎる。

 

 奇想兵器。その類だろう。

 曲がりなりにも、修次の太郎太刀が戦国武将の武器であったことを考えれば、かなり扱いに窮するのではないかと想う。

 

(だが、その剣に込められた魔力は強烈だ。眼が眩まんばかりだ)

 

 ―――刹那が作り出す『聖剣』の如きものだ。

 

 結論を出した達也と同じく、エリカを明確な脅威と見た吸血騎士たちの突撃が始まる……。

 

「ありがとレッド! 試し斬りしたいから、結界解いて!!」

 

 鎧の結界が解かれると同時に、水流のジェット噴射で飛び出る。

 檻から解き放たれた肉食獣の如き俊敏な動き。先程以上の動きに惑わされた吸血騎士の動揺。

 

 そして刃はたやすく真一文字に振るわれた。

 

 刃の軌跡は黄金と蒼を混ぜたものであり、その剣がプリドゥエンという『魔法』が変化したものであると、その時に気づいた。

 

 よく見れば刃は―――聖盾の色合いと意匠を全て写していたのだから。

 蒼金の刃を持つ刀は、吸血騎士を一刀のもとに斬り伏せて、塵と灰に返す。

 

 聖()()。夜闇の中でも燦然と輝くエリカの魔法が、開眼したのだった―――。

 

 

 

 





↓前書きの続き。

大学編に移行するからこその一度の話閉じなんだろうなぁ。

そうでなければ、広げた風呂敷を畳み切れていない。

ジュビロのように『たたみきれない』などと血の涙を流さなければならない。

流れ星のようなスタンスもありかもしれないが、まぁ―――結局、達也の四葉バレに対する一高の諸人の反応が見たかったのに、何も無しかぁ。(泣)

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