魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
7月に三つ巴の決戦の予定のはずなのに、ドクターアンバーが、チャイナ気分でハイテンションのままにBUKANにて撒いただろうネコロナウイルスで、
ちなみに言えば、ネコの言動はウソが100パーセントというのがドクターの研究成果だそうな』
新話どうぞ。
―――事情説明とか諸々に関しては週明けでいいだろう?―――。
本当ならば今すぐにでも色々と問いただしたいことはあった。だが、達也だけでなく誰もが疲労を果たしていた……。
あの好戦的なブリティッシュヤンキーたるモードレッドとて、『ボーダー』なる輸送車に乗り込んだあとには、身を縮こませて脱力していた。
隣にて器用に位置取りをして主人を労る、鎧犬だか狼が少しだけ印象的ではあったか。
明確な意図を持たずに、不意の巨大魔人(比喩)どうしの戦いに巻き込まれたエリカと幹比古も同様であり、週明けとはいえ月曜日に来れるかどうかは微妙なところだった。
ケロッとしているという意味では、リーナとレティが一番普通に見えた……。
ただ2人も時にため息を突くぐらいはしていたところ、疲労は当然あったのだろう。
見たままの姿が、本人を示しているわけではなかったのだ……。
全員を自宅近くまで送り届けてくれるダ・ヴィンチ女史の気遣いに感謝しつつ、最後に送り届けるのが達也になったのは、偶然ではないだろう……。
「ここで構いませんよ。降ろしてくださいレオナルド先生」
『了解。まぁ家の前まで行くと、君の妹からのアレコレが長そうだからな』
自宅から20mほどは離れている路上に止まるごつい車輌。完全に路上駐車だが、認識阻害の結界を展開しているらしく、どの車も平然と通り過ぎているのだ。
そもそも走っている車両は、ほとんど見えないぐらいの時間であるのだから。
後部ハッチが開け放たれて、再びの現世に対する帰還を果たす達也。別に最初っから最後まで刹那曰くの虚数域に潜航をしていたわけではない。
ようは思い込みなのだった……。
夜空に浮かぶ月を見る。その月には―――『黒い点も線』も見えずに平常通りの三日月が達也の視界に収まる。
「………」
「何か悩みごとか?」
「まぁ悩みといえば悩みだな……だが、今は疲れを取りたいんだ―――話してくれるんだよな?」
「俺も全容を把握しきれていないんだがな。まぁ分かってることぐらいは話すさ。隠すこともあるけど」
後ろから声を掛けられて返すと、予想通りのことを言われてしまう。
「今回の一件、予想以上に複雑だ。元を正せば『同根』なんだが、それにしても……なぜ、舞台を『東京』に移さねばならなかったかが不明瞭なんだ」
「……四葉の家中も騒ごうとしている。抑えたほうがいいか?」
「達也のいとこの
「分かった。抑えられるかどうかは分からないが、一応は言っておく……」
疲れ切った声と言葉を聞きながら、刹那としては大丈夫か? と想いながらも、足取りは何とか保てているようだ。
そう思いながら、達也に『おやすみ』とリーナと共に声を掛けて『おやすみ』と返されて、一応は安堵しておくのだった。
第一……。
(セツナももう少し自愛して! 『魔眼』の使いすぎでオドが八割以上失われているのは分かってるのよ!!)
今にも身を乗り出して、達也に起こっただろう明確ではない不調を取り除こうとする刹那。
そんな刹那のコートを引っ張ってでも阻止するリーナがいたのだから……。
―――少しばかり夜風に当たりながら歩いた家までの道。どう言ったものかと思いつつ、自分が『司波達也』である実感が浮ついている。
あの時……弓塚さつきという女の『世界』に取り込まれた達也に……どこからか『声』が響いたのだ。
その声はとてつもなく既視感を覚える声……。
だが、どうしても『今』の自分とは相容れないようなものを感じる。
その直観を信じてみることもいいのかもしれないが。
「おかえりなさいませ。お兄様」
「―――ただいま深雪」
いつの間にか無意識で家の前までたどり着いていた。明確ではないが、深雪は深雪で何かを感じ取っていたのかも知れない。
夜の東京を震わせる超人たちの激突。それが、この時間まで深雪を起こさせていた原因だと想うと責任を感じてしまう。
だからこそ―――。
「うにゃっ!!! お、おにぃしゃま!?」
「むっ、すまない。思わず引っ張ってしまった」
「おもわじゅっ!?」
深雪が淑女らしからぬ呂律が回っていない喋り方をするのは―――達也が両の頬を引っ張っているからだ。
当然、本気ではない。
女性の肌に痕を残さない力加減だったが、発声に影響が出るのは仕方が無かった。
腕を振り回して抵抗(?)をしている深雪を開放してから、家に入るよう促す。
「まぁ、あれだ。心配してくれるのは嬉しいが、早く寝た方が身体と美容のためだぞ」
「むう。分かりました。……何があったかは、今は聞かないほうが良さそうですね」
「ああ、このままベッドに寝転がりたい……」
「―――私のですか?」
自分のに決まっているだろうという意味で、額を指2本で軽く小突いておく達也。
やられた深雪は特に抗議するでもなく、少しだけ呆然としてから、そういう気安いことをしてくれる兄の様子に嬉しさを覚える。
あのどこまでも恭しく深雪のためだけに何かをこなそうとする兄の様子ではなく、どこか……刹那と一緒にいる時の兄に似ていたのだから……うれしいのだ。
―――翌日にはいつもどおりの兄になってしまっていて非常にガッカリする深雪。
本当の兄妹のように『イタチ突き』をしてくれる兄がいないことは、非常に残念であった―――。
・
・
・
「いや、あのなリーナ。俺は別に風邪とか引いたわけじゃないんだか―――」
「あーーーん♪」
古式ゆかしい『土鍋』より茶碗に小分けされて、十分に熱を冷ました上でレンゲに乗せられたもの……(長い)。
それを差し出すリーナに、風邪ではない。と言うも完全に聞いてくれる様子じゃない。
休日登校もある魔法科高校ではあるが、流石にこの時期になれば、よほどの人間でなければ進級単位の取得は『概ね大丈夫』という風にはなっている。
とはいえ定期試験、いわゆる期末試験が2月の中旬には迫っている……。
迫っているだけで、準備をしていないわけではないのだが。
「土曜は午前授業とはいえ、俺の身体のことで君を縛り付けるというのも、なんかなぁ……あぐっ」
「たまにはワタシにもお世話させなさいよ。いっつもセツナはワタシの面倒を見て、
そういう生々しいことを、食事の場で言ってほしくはない。刹那が半身を起こしているベッドでの昨晩のことを思い出してしまうのだから。
怒るようにして口に放り込まれたレンゲには『お粥』があった。その味わいは結構美味しいわけであって―――。
「―――
上目遣いで不安そうに聞いてきたリーナの言葉に、深い首肯一つを笑顔とセットで返してから、再びお粥が口に近づけられる。
親鳥から餌を与えられるヒナの気分になりながらも、それが悪くないと思えるのは、綻んだ笑顔のままに近づく大好きなリーナがいたからだ。
「それにしてもタツヤ、少しヘンだったわね…何があったのかしら?」
食事を終えて一服、魔女の大釜で作成・常備しておいた頓服薬を飲み終えた刹那を見計らって聞いてきたリーナに、一考しつつ答える。
「おそらくだが『魔眼』が進化―――いや、違うな。『元通り』になったんだろう。眼軸を中心にして盛大な魔力の漏れがあったからな」
「……ダイジョウブなの?」
「不完全な覚醒だ。まぁ恐らく今日には元通りの『エレメンタルサイト』になってるだろ。
死徒という最大級の魔性に触れたことがトリガーになったと考えるべきだが」
リーナが淹れてくれた『緑茶』を飲みながら考えるに、あの男に『可能性』はあると分かっていた。
殺人貴こと遠野志貴の目も、違うものから変化を果たした様子があった。
だが、達也の場合は『変化』というよりも『退化』『復元』という感じである……。
「四葉がこの事実を知っていたかどうかにもよるが……まぁあいつの持って生まれた
「ホント、世話焼き気質というか、他人を見捨てられないところは、アナタの
呆れるかのように苦笑しながら言うリーナに、何も言い返せない。結局、心の贅肉だと分かっていても、刹那はそういう人間なのだから。
「そういえばお虎は?」
「……昨日のことにセキニンを感じて、
「あの忍者寺に、まともな仏像があるとは思えないんだけどなぁ」
毘沙門天の化身が行くにはどうなんだろう?という寺だと個人的には思いつつも、サーヴァントの判断を是とするぐらいには、刹那も甘い男ではあった。
・ ・ ・ ・
―――お寺にやってきた達也と深雪は、ほとんど訪れたことがない、というか『入るべからず』と言われていた本堂にて、特大の魔力が渦巻いていることに仰天するのだった。
閉め切られているとはいえ、兄妹が感じる圧は覚えがある気…。
「お虎さんですか?」
「うん。いきなりやってきて読経をあげたいと言ってね。特に断る理由も無かったから、まぁご覧のとおりだ……」
お経をあげているだけで、これだけのサイオン…いや、エーテルが渦巻くとは……。
いつもどおりの薄い笑みを浮かべる八雲も、これには苦笑いを浮かべるしか無いようだ。
「師匠には聞きたいことがあったのですが、日を改めた方がいいですかね?」
一応は、先達を気遣うぐらいの心は達也にもある。
ここの坊さんたちは、なんやかんやと長い付き合いなのだから。
だが、そんな気遣いを八雲はいらないとしてきた。
「いや、場合によっては僕の方から赴こうと思っていたほどだ。君たちの『上位』の存在は、現在の東京で行われていることに病的な『嫌悪感』を持っている。
ただ僕としては拙速なまでに『清く』なってはいけないと思っているんだ。何事も『水清ければ魚棲まず』ともいうからね……」
昼間にも関わらず、その声はひどく夜の闇を含んだものに聞こえていた。
目の前の僧侶は分かっているのだ。
死徒という
加速度的に強まる嫌な予感―――死を徒に運ぶもの。
その災厄はまだ続くのだ。と……。風に乗って聞こえてくる経が少しだけ不気味に思えた―――。
・
・
・
・
息も絶え絶えに、ねぐらに戻ってきた死徒2鬼は、回復もそこそこに次なる手を打つことを画策せざるを得なくなっていた……。
「大丈夫なのかな?」
「分かりません。ですが、今は方法はありませんから……リーズを再生させるには、時間がかかります。その間の防衛機構を、連中の『鼻』を違う方向に向けさせる必要がありますから」
タタ■の機構を奪って
今から再生させる『存在』と多く関わったのは、恐らく殺人貴と真祖の姫だ。
シオンでは果たしてどこまで出来るかは分からないが―――。
(絶対に未来を取り戻してみせる……あのような『結末』は許せるものか……!)
クリスタル筒の中で再生されつつある『混沌』の姿――――それは……。
「なんで半分機械みたいな身体しているんだろうね……?」
サイボーグだかアンドロイドのようなメカメカしい部分が見える『混沌』の姿に、さつきも困惑気味である。
既視感というほど明確ではないが、さつきも『再生された夜』において、目前の相手と戦ったことがないわけではなかったのだ。
そんな風に弓塚さつきは、狼狽えてしまう。
―――だが錬金術師であるシオンはうろたえない。
アトラスの錬金術師はうろたえないのである。
「私達の時代とは人理の発展が違いますからね。その影響なんでしょう。
……アキハもどこかの『軸』では巨人化していたような、そんなことは無かったような。
そしてジャイアントになっても相対的に見れば、
「え、えええ―――……? シオン、遠野くんの妹への評価低すぎない?」
「ともあれ―――全ては計算通りです。さつきの『髪が延びる』ことも、私にとっては計算通りです」
「そ、そうなんだ。うん、信用するよ!シオン!!」
作り笑いで以て自信満々なシオンのドヤ顔に返したさつきだが……。
内心では『その計算。当たってるといいね』とツッコむことだけは忘れないでおくのだった……。
―――尋常の魔法師たちでは対処不可能な惨劇が、再び幕を開けることは『確定』した。