魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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一万字近く書いているが、なかなかに進まないなぁ。まぁあまりギチギチでもよくないが、何とかしたいと思いながら、入学式編は終わり―――劣等生サイドでも優等生サイドでも書かれていない他クラスの始業一日目を描くことに少し不安を感じる。

まぁエイミィと十三束を中心にして描けばいいだけなのだが…。


第13話『入学式―――終演』

 

「郷に入っては郷に従えというのは日本の慣わしとはいえ……納得できるものでもないわね」

 

「そこは抑えてくれ。俺だってむかっ腹立っているんだ……」

 

 

 この『一科生』専用と『定義づけ』された席の一番後ろで、呟きながら後ろを振り向くと、そういった事を教えてくれた男子が、更に後方の席でオレンジ色の髪と黒髪の眼鏡をかけた女の子二人に話しかけられていた。

 

 眼鏡―――2090年というこの時代において、一番に発展したのは『機械工学』ではなく『生体工学』であった。

 

 

 即ち先天的かつ後天的なものであろうと、『眼科』治療においては抜本的な治療が取られて、弱視や乱視・近眼などは完全に過去のものとなっていた。

 

 

 かつては、それらで生じる不都合を無くす視力・視覚矯正の為にあった『眼鏡』というものは不要となり、現在のところ、眼鏡を必要とするものは何かしらの先天的な『魔眼』の持ち主ばかりである。

 

 

 刹那も『魔眼持ち』であるが、達也の隣にいる子のように『魔眼殺しモドキ』が必要なわけではない。自分で『開閉』は可能なもので、融通は利く。

 

 

(そういえば達也も七草会長の『術』が見えたんだよな……)

 

 

 刹那のルーンを見た時の眼筋の色彩から『妖精眼』の亜種に近いのかもしれない。何となく程度に考えてから再び前を向く。

 

 前を向いたら向いたでリーナに秋波……とまでは言わないが、そういった色目を向けてくる一科の前の方に座る「意識高い系」な連中。

 

 

 貴族主義派……ほど極端ではないのは、更に上位に『十師族』に『師補十八家』、『百家』という正真正銘の『貴族』がいるからだろう。

 

 

(まぁそれでも、ここの『前の席』に座れた時点でエリート意識が出来ちゃってんだろうな)

 

 

 辟易する態度を「まぁまぁ」とでも言うかのように嗜めるリーナ。まるで若夫婦。とでも見えたと誰もが言うものを見せていた。

 

 そんなリーナと刹那たちの隣。未だに中段にも余りがあるなか、仲良しグループなり同じ中学どうしでわいわい話している様子もある中に……リーナではなく刹那に怪訝な視線を向ける者が一人いるのを感じつつ―――。

 

 

「ごめん! 隣いいかな!?」

 

 

 などと横合いから話しかけてきたのに対応が遅れた。活発な様子の目も覚めるような赤毛の少女―――そしてすごく特徴的な『眉毛』をしていたのが言う。

 

 

「俺は構わんが―――前じゃなくていいのか?」

 

「いやー前はさ、なんか気後れするんだよねー…もう少し時間を掛ければ仲良しになれそうだけどさ」

 

 

 それは分かる理屈である。同時に、これだけのルビーヘアとなると目立って仕方ないだろう。可愛さという意味ではリーナと勝負できるが、美貌という点では33-4でリーナの勝利だろう。

 

 そんな刹那の勝手な値踏みなどお構いなしに、赤の少女は快活な笑み―――どこか猫を思わせるものを見せながら語る。

 

 

「自己紹介させてもらうけど、私は明智英美―――長ったらしい本名もあるけど、気軽に『エイミィ』って呼んでね。遠坂君、ミス・シールズ」

 

「何で、今日会うヤツ全員―――オレみたいなアベレージ・ワンの名前を憶えているんだか…」

 

「そうよね。ミユキも知っていたのはただ単にUSNA出身ってだけじゃなさそうだし、あっエイミィ。私の事はリーナでいいですよ」

 

 

 刹那の隣に座りながら手を軽く振りながら自己紹介したエイミィに疑問符を投げる刹那とは対照的にリーナは女子特有のシンパシーで仲良くなろうとする。

 

 もしくは刹那の隣に座ったことで警戒心を持っているかのどっちかである。

 

 

「まぁラッキースターだの、ヴィーナスガードだのあれこれ言われているけど、やっぱり魔法科高校に入学する『魔法師』の卵って何かしら尖がっているのよ」

 

「尖る―――まぁ意味合いは分かる……しかし、それならば、俺は『魔女術』を専攻しているんだがな」

 

 

 ノーリッジにおけるエルメロイ教室の精鋭たち―――歴代異能ゆえの『霊体喰い』(ゴーストイーター)のグレイ、魔術師の異端にして『トリックスター』フラット・エスカルドス、ストーカーオブストー……いや失礼、『狼王』の異名を持つ日も近いスヴィン・グラシュエート。

 

 

 ……などなど考えれば確かに『平均的』な魔術師などいなかった。それはつまり魔道に限らずどんなことでも同じである。

 

 似たようなものを学んだところで、トップには立てないのだから、己だけの『牙』を磨く―――そういうことだ。

 

 

「リーナは、今回の総代の次席―――『系統魔法』は万遍なく得意でしょ?」

 

「まぁ一通りは、知覚系統はあまり得意ではないですが」

 

「あれは系統外じゃないか、まぁエイミィが言った通り、確かにリーナはノーマルに優秀だ。で、逆に俺が『見えない』から皆して不審がっている、と」

 

 

 慧眼だねワトソン。と言わんばかりに指を鳴らすエイミィ。その様子はサマになる探偵らしいものだった。バリツは使えるだろうか、と思いながらもエイミィは話を続ける。

 

 

「ザッツライト! そういうわけで―――私としては刹那君の秘密を暴きたいわ! バッチャンの名にかけて!!」

 

 

 言っている事は探偵として正しいが、『明智』の姓を持った人間が言うべきセリフではない。それならば俺とて『ジッチャン(暗殺探偵)の名にかけて!!』とか言いたいわ。

 

 バゼットから聞くところによれば、その『狩り』の仕方は凡そ魔術師としては異端だったそうであるのだから―――。

 

 

 などと言わなければ―――。目の前の現実を直視しなければならないのだから……。

 

 

 

「エイミィ―――あなたとはお友達になれると思っていたのに残念だわ」

 

「――――!? え、ええと! そう! 異性としての刹那君には興味ないわ!! 本当よ!! 信じてリーナ!!」

 

 

 貫禄がついたことをスターズの一員として喜ぶべきか、それとも今にもエイミィに精神干渉しそうなことを咎めるべきか―――悩みながらも、とりあえずリーナを抑え込む。

 

 嫉妬されるのを嬉しいと思いつつも対人関係はちゃんとさせたい。

 

 

「ストップだ。とりあえず、エイミィ。好奇心猫をも殺すという言葉もあるぐらいだ。自重してくれ」

 

「う、うん……ごめん」

 

「それとリーナも、それぐらいで怒るな。確かに俺は、田舎から出てきた世間知らずさ。どれだけ見識が広まっても、『まだまだ』なんだよ。誰かに探られても仕方ない―――痛くなるような腹はないけどな」

 

「……私こそごめんエイミィ。そしてセツナもごめんなさい―――そうよね。あなたのことは、私だけが知っていればいいものね……」

 

 

 刹那の言葉で顔を赤くして胸に手を当てるリーナを見てエイミィは想う。

 

 愛が深すぎる。―――大恋愛の末に結ばれたと、『のろける』エイミィの両親に似た雰囲気を感じて砂吐きそうになった所に―――何人かがエイミィの隣にやってくる。

 

 どうやらそろそろ入学式が本格的に始まるようだ。そしてエイミィは―――まだ諦めていない。

 

 

 この二人から漂う秘密―――特に刹那の方は、実家の『完全なる秘宝』に繋がるものを感じたのだから―――。

 

『魔弾』につながる糸を手放すわけにはいかないのだ……。

 

 

 そうエイミィが考えている内に、講堂の中央にライトが当たり―――式の始まりが近いのを感じた。

 

 

『静粛に、ただ今より国立魔法大学付属第一高校 入学式を始めます!』

 

 

 教員か生徒か、どっちかは分からないが広すぎる一種の議事堂にも似た講堂の一番前―――登壇の場。

 

 日の丸の国旗の下に八枚花弁の紋章の校旗が掲げられた所に、多くの人間達が上っていき―――様々な言葉を紡ぐ。

 

 

 その言葉で『使命感』を燃やすものもいれば、『退屈感』を患うものもいるだろう。

 

 そういった塩梅で刹那とリーナは、言葉だけは立派だけど。などと、ニヒリスティックに考えながら、とりあえず知り合いの答辞ぐらいは真面目に聞かなければいけないなと思って、その答辞は真面目に聞くことにしたのであった……。

 

 

 † † † †

 

 

 式は滞りなく終わった。終わると同時に昔風に言えば生徒証であるIDカードの交付を受けるべく、まとまったり散り散りになりながら、窓口に赴く。

 

 

 その様子は―――まぁ民族大移動とまでは言えないが、それなりに盛大なものだ。話し声がちょっとしたオーケストラとしてBGMとして鳴り響きながら、歩いていく。

 

 

 一科二科合わせて200人近くが移動するのだから、その声も騒然としたものだ。―――中でも、登壇して新入生代表として答辞を述べていた人間は早速も大女優扱いであった。

 

 人という人が、深雪の周りに集まっていた。まさしく時代と学校を代表するスターである。

 

 

「オードリー・ヘップバーンかよ」

 

「あるいは、キング牧師か」

 

 

 達也は冷や冷やものだったろうなぁ。と『察しが良すぎる兄貴』としての苦労を偲んでおく。

 

 この学校における『差別撤廃』の『核心』というのは―――そこではない。生徒一人一人の意識改革がなったとしても、それは『逆差別』という事象もありえるのだから。

 

 

 リーナと感想を言いながら、窓口でカードの交付を受けた。書かれたカードには自分が何組かを示すものが出ていた。

 

 

「ワタシはB組だけど、セツナは?」

 

同じくだ(same as)。良かったよ。まぁ学校側も気を遣ってくれたと思うべきかな」

 

「えっ!? ワタシとの恋仲が教員の先生方にも筒抜けとか、それはプライバシーの侵害じゃないかしら?」

 

 

 多分違う。そしてそういうことを大声で言うな。少しして嫉妬の視線が刹那を貫く。

 

 自分抱きをして恥ずかしがっている様子のリーナに、若干の頭痛を感じながらも、違うことを説明する。

 

 

「確かにリーナの日本語は口頭でも問題ないが、やはり日本語の微妙なニュアンスが分からない可能性もある。その為にも、俺と一緒にさせたんだろう」

 

 

 もしもリーナが『正式な任務』での『留学生』だったならば、更に言えば来訪するのが落ち着いた時期であれば―――『総代』であり、成績優秀な『深雪』と同じくなっていた可能性もある。

 

 

「実際、入学試験の後に俺だけ日本語の習熟度を試験させられたからな」

 

 

 一応、アメリカ国籍を取得していただけに、それを危ぶんでいたのだろう。よってこうなったということは……リーナのチューターを自分がやるのだろう。

 

 

「同時に、俺としても願ったり叶ったりだ。リーナと一緒にいられて―――心配しなくてすむよ」

 

「えっ―――」

 

 

 とくん。と高鳴る胸を感じて胸を押さえて頬を赤くするリーナ。来日する前の飛行機でのことを思い出して、更に高鳴る胸。

 

 

 何人かが、『スナハキソウダワー』などと言いそうな場面に対して―――。

 

 

「リーナがいてくれないと授業履修とか出来ないからな。ほら端末の操作でも複雑なのは俺が触ると爆発するじゃないか、本当に不安で不安で仕方なかったんだ」

 

「そっちかいいいいい!!!!」

 

 

 スパン!と小気味いい音をさせてハリセンで笑顔で安堵していた刹那の頭を叩くリーナ。

 

 それに対して『ズコー』と120年前のリアクションを取る魔法科高校の生徒達。

 

 なんだこの夫婦。などと思いながら何とか復活を果たすもの達―――これに三年間付き合わされるのかと誰もが苦笑してしまう。

 

 

 IDカードを受け取った後の、何とも言えぬ弛緩した空気の中に切り込むのは、一人のイレギュラーである。長身の男の登場に二人は視線をそちらに向けた。

 

 

「お前ら、いつもこんなことしているのか?」

 

「いや、状況が状況だったからな。式の前には『探偵』に絡まれたし」

 

「それは気の毒だったな」

 

「妹の答辞で、一瞬でも焦っただろう達也よりはマシかな?」

 

 

 皮肉で返すと苦笑、しかしやり返したいぐらいの気持ちはあるのだろうが―――それよりも先に、紹介される。

 

 

「刹那、リーナ。紹介するが―――」

 

「千葉エリカよ。はじめましてアンジェリーナさん。遠坂君」

 

「柴田美月です。よろしくお願いします」

 

 

 紹介されたのは達也が式の前にイチャこらしていて深雪にも答辞する前に遠くから睨まれることとなった原因の美少女二人であった。

 

 

「どうも。エリカにミヅキね。アンジェリーナ・クドウ・シールズ。リーナでいいわ」

 

「初めまして、遠坂刹那です。呼び方は―――まぁ適当にどうぞ」

 

 

 改めてみると両極端な二人である。エリカの動きの所作は武道に通じるものだ。対する美月は『魔眼』持ち―――。

 

 

 そんな二人は、どうやら達也と同じクラスらしく、これから教室に行くかどうかを迷っているとのことだった。

 

 ただ達也は予定が決まっている風だった。2090年代というのは魔法科高校だけでなく多くの教育機関で変革が行われており、いわゆる式の後にクラスメイト全員でホームルームなどという制度は無い。

 

 今や高等学校の生徒は、大学生と同じく履修科目を己で選んで単位を取るという制度に完全にシフトしてしまっていたのだ。

 

 

 よってこの後は、帰りたければ帰ってもいいということでもある。ただホームルーム自体が無いわけではなく、端末も開放されている。

 

 クラスの同輩と打ち解けたければ、集まってもいい。違いは担任がいないということだ。

 

 一応、バランス大佐に対するオンラインかつ秘匿の回線を使っての報告もあったので、今日は適当に帰るかぐらいのことをリーナと話していた刹那だったが―――。

 

 

「達也はどうするんだ? 深雪はあんな感じだが?」

 

「一応、一緒に帰る約束をしていたんだが、まぁあれではな……」

 

「えっ!? 司波くんの妹って総代のあの子なの?―――早生まれと遅生まれ?」

 

 

 正解と一言返す達也。その対応から察するに、こんな質問は日常茶飯事なんだろう。

 

 

「リーナは驚かないんだな?」

 

「まぁ聞かされていたからね。そう言う事情ならば成程と思うわよ」

 

 

 達也の質問に講堂前で聞いていたことだと返すリーナ。短い間といえ随分と親しくなっていたもんだと思う。

 

 やはり自分の次席は気になるのだろうか――――。

 

 

「タツヤとの関係を聞いた代わりにセツナとの関係を聞かれたけどね」

 

「ちなみに予想なんて誰もがしているけど、ふたりはどういう関係?」

 

 

イタズラ猫のような表情と言葉で聞いてくるエリカ―――、別に隠すことではなく宣言する。

 

 

『『夫婦(予定)』』

 

「恋人とかカレカノこえてるし!」

 

「分かりやすかったけどな」

 

 

 刹那とリーナの答えに、エリカと達也は、そんな反応。そして美月は―――刹那の眼を見ていた。

 

 

(気付かれたか?)

 

 

 魔眼持ちは、魔眼持ちを引き寄せる。異端は異端だからこそ『孤立』し結び合う。だからこそ警告を発する。

 

 

「あまり気にしない方がいいよ柴田さん。俺の眼は、あまり『見たくない』ものを『見ないよう』にしているんだ」

 

「えっ、ああ―――すみません。刹那君の眼が、すごく綺麗なオーラに見えたので、つい……司波さんも達也さんも同じく綺麗なオーラの表情に見えたので、不愉快でしたかね?」

 

 

 重傷だな。俯いて謝る柴田美月の眼は、もはや眼鏡では『殺しきれない』ものばかり見えている。

 

 まさかあの『殺人貴』の如く魔眼殺しでも殺しきれなくなるものではないだろうが、あまり見られることで、こちらの『眼』が自動発動するのは嫌だ。

 

 そして、達也の方に話を向けた途端に―――達也が明確な『殺気』を放った。柴田美月にだ。

 

 

(こいつ―――)

 

 

 緊張をさせられるだけのものを感じて、それとなくリーナも美月の側に一足で近寄れる立ち位置に移動。刹那も牽制―――として『意』を放つ。

 

 

「えっ!? 遠坂君!?」

 

「―――」

 

 

 武術の技を知っているだけに、エリカが『意』を敏感に感じて動揺していた。向けられた達也は、観念したように嘆息する。

 

 

「冗談だよ。お前たちも『敏感』だな?」

 

「お前なぁ……」

 

 

 理知的な人間が『理性的』とは限らない。ハンニバル・レクターはどこにでもいるのだから―――。

 

 などと肩をすくめて、おどける達也に冷や汗を流してから、やはりこいつは―――イレギュラーだと再認識。同時に達也も『二人』に対する脅威度を上げる。

 

 

 そんな風なやり取りをしている間に深雪が人垣を抜けて、息を切ってやってきた。どうやら無理やりの脱出だったらしい。

 

 

 そしてその後ろには―――怖い笑顔を向けてくる七草真由美―――。

 

 うん。激おこですね。今にも異界の邪神でも召喚しかねない七草会長のプレッシャーは、達也と刹那を貫く。

 

 

「……深雪、生徒会の方々とのご用があるんじゃ? まだだったら時間を潰しているぞ」

 

 

 リーナがいたことが原因なのかどうかは分からないが、エリカ、美月とも早速打ち解ける深雪。

 

 美少女四人が『きゃっきゃ』している様子は中々に眼が楽しいものではあるが、こちらとしてはそうも言ってられない。

 

 

 達也の言葉で、深雪の後ろに続く『金魚のフン』をなんとかしたかったが――――。

 

 

「大丈夫ですよ。遠坂クン、司波クン―――今日はご挨拶させていただいただけですから、ええ、本当に―――また日を改めます」

 

 

 言葉だけは丁寧で、こちらに遠慮したように聞こえるも、『首を洗って待っていろ』と言う風に聞こえるのは俺だけなのか。

 

 しかも用事というのは恐らく『生徒会関連』で、そこに関わりなく特にグループの主導に関係ない刹那にまで声を掛けたあたりに……七草会長の思惑を見抜く。

 

 

「それでは、またいずれゆっくりと、もちろん……あなた達二人とシールズさんも加えてね……ええ本当に…」

 

「か、会長!?」

 

 

 不穏な空気を感じたのか二年の先輩。

 見様によっては、さっぱりした美形だろうが、どこか神経質な様子も受ける男が狼狽するほどにサイオンとプシオンが異様なオーラとなりて場を脅かす。

 

 

「最高級のお茶を用意して待っていますので、絶対に来てくださいねぇ……」

 

 

((((遠慮したいぐらいです))))

 

 

 四人の心が一致してコンバインオッケーとか出来そうなぐらいだった。もしくは念仏唱えて動かすロボとか―――。

 

 

 毒でも盛ってきそうな様子の会長が踵を返して学舎に戻ると、それに続く金魚のフンたち。その中でも筆頭だろう神経質男―――が、『きっ』、と睨んできたことを皮切りに全員が睨んできやがった。

 

 ともあれ―――それが見えなくなると同時に文句を言う。特に激しかったのはリーナである。

 

 

「何よアレ? 感じ悪いとかそういう問題じゃないわ! 中指立ててやりたかったわよ!!」

 

「やめろよ。アメリカもそうだが冗談じゃすまないからな」

 

「けれど、あれがスクールカーストの上位にいる連中の態度なの!? 己の行いが独善的なものだと分からない連中の典型よ!」

 

「……まぁ分かる理屈だ。上位にいるからこそ求められるのは下に対する思いやりだよ。だからこそ、日本には傑物が生まれてきたんだけどな」

 

 

 下位にいる連中を見下して搾取するだけならば、それは悪徳を行う領主でしかない。無論、支配者だから何でも思うままにしていいなどという理屈を持つ人間―――『独占』しようとするものは、絶対に歴史に悪影響を残す。

 

 『世界の可能性』(人理)を狭めるものは、そういう所から発生しやすい。

 

 

「そもそも―――『花』の有無で人間の価値を見るような人間は、独善の極みだ。反吐が出る。人間の可能性はかように無限だと言うのを知らない無知の極みだ」

 

「……やっぱり変だな。お前―――この魔法師社会で、才能の有無は絶対だというのに、そこまで言えるなんて……」

 

「そりゃそうだろ。いちど関ヶ原で敗れたが260年かけて徳川を潰した薩摩と長州。小国の出でありながら『最果ての海』が見たいなどと言って、ユーラシアを制覇した大王。狩猟民族ながらも様々な知識を以て大帝国をなした蒼き狼―――なべて、人類の可能性というのは無限大だよ」

 

 

 神話の時代を超えて、人間が英知を以て作り上げた世界。

 

 その中で魔法師というのが、果たして―――人類の可能性を広げるものとなるのか、どの『カッティング』でも見えぬことだ。と内心で自嘲しながら―――。

 

 最後に分かりやすいフォローを入れる。

 

 

「まぁ、難しく考えなくても、今の能力の高低が将来どうなるかなんて分からんわな。それを補欠だのスペアだの言うなんてアホらしい限りだ」

 

「へぇ。やっぱり変わってるわね……やっぱり古式の魔法師ってそういうもんなのかしら?」

 

「知り合いに同類いたりする?」

 

「まぁ一応」

 

 

 エリカの言葉で、旧い馴染みといったところを予想しておく。予想してからリーナへのフォローを入れる。

 

 

「そういうわけだリーナ。あまり怒るな。この国の魔法師も一筋縄じゃないだけだ。俺も少しだけ想うところある―――『本当』にダメならば、協力してくれるか?」

 

「もちろん。何でも言いなさいよ。前にリクエストされていたバニーガール衣装でお世話もしてあげちゃう♪」

 

 

 その言葉で達也を除いて全員が赤くなる。達也の心は、『本当にダメな時』に刹那が何をするのかということである。

 

 この国にはこの国なりの理屈がある。だが、変革を望むものがいないわけではない。

 

 そして魔法科高校が魔法師社会の縮図であっても、それが『正しい』などという話は無い。

 

 

 一科生でありながら魔女術という異端中の異端を持ちこんだ新入生。更に言えば出身はUSNA、語る言葉は歴史の真髄を知るかのようで―――知れば知るほどに色々と見えなくなる同輩の存在が、脅威でありながらも達也にとっては興味深く思える。

 

 

 そうして嫌な空気や堅苦しい空気を霧散させるかのように提案されたエリカが前々から探し当てていたという茶店に赴いたのだが……。

 

 

「やめよう。エリカ―――この店だけは危険だ。何が危険かは具体的に言えないし表現できないが、とにかくダメだ」

 

 

 案内された喫茶店の名前を見た瞬間。ネコアルク ザ・ムービーの狂言回し『ネコ・カオス』のポップが並ぶ陽気ながらも年季のはいった店。

 

 雰囲気はかなりいいはずなのに―――刹那は、リーナの視線も構わずエリカの肩を掴んで必死の説得をする。

 

 

 喫茶店の名前は、アルファベットで『Ahnenerbe』―――しかし英語読みではなく『ドイツ語』で読んで日本語的に発音すると―――。

 

 

『アーネンエルベ』―――遺産を意味する言葉だった……奥から出てきた店長―――ジョージという人に掴まり、結局入ったわけだが……。

 

 

 刹那の懸念とは何だったのかと言わんばかりの、美味しい料理とコーヒーに舌鼓を打つことになる。

 

 ただ……達也的には店員だという『緑髪』と『オレンジ髪』の少女がどことなく気になった。これが原因かな?と思いながら刹那を見ると―――。

 

 

『やれやれだぜ』

 

 

 などと諦めたかのように、トムヤムクンに舌鼓を打っていた。しかも幸せそうにである……。

 

 

「中華でなくていいのセツナ?」

 

「たまには、タイ料理もいいもんさ。お口の中が即チェンマイ♪」

 

 

 そんな会話を聞きながら、達也だけでなく魔法科高校の生徒全員にとって入学式という一大イベントは、自分達だけは、このように穏やかな時の中でエピローグとなるのであった……。

 

 

 


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