魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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今回、若干の短さ―――というよりも続きを書いてはいるんですが、テンポが良くないなと思い、前半部分だけを投稿。

後半に関しては加筆してから投稿しようと思います。むしろ、これを後にすれば良かったんだけど、描きたかったんだよなぁ(苦笑)


第232話『北山雫の華麗なる食卓』

 

 留学すれば何かの心機一転になるかもしれない。

 

 そう考えていた時期が雫にもあったのだが、どうにも……想いは募るばかりだ。

 

 いっときは彼への想いを断ち切ろうと考えたこともあった。

 特に自分の母は、あまり刹那にいい感情を持っていなかった。

 

 それは、達也に対してもそうなのだが、刹那の方に好意があると言った時の母の顔は……正直、雫にとっては思い出したくないものだ。

 

 時差の関係で、日本は週明けの月曜日、米国では未だに日曜日の時間……、雫は何気なく外でご飯が食べたくなり、レストランに入ったのだが……。

 

「刹那の作った『かつ丼』(カツドゥーン)の方が美味しいかな……」

 

 決して『テレビディナー』の類を出すような店ではないのだが、どうにも味気なさを感じるのだった。

 

 割り箸を手に丼を持っていた雫だが、反対側の席に誰かが座ったことを意識して丼から顔を上げた。相席を嫌がるわけではないが、席は余っているのに―――。

 

 相席してくる理由は―――留学先で知り合った男友達(?)だからだ。

 

「やぁティア。グッドイブニングだね。夕食だと見受けるけど、ご相伴しても構わない? 日本からのゲストに孤独な食事を供するのは忍びないからね」

 

「グッドイブニング。レイ―――カツ丼食べてる粗野な女で悪いけど、大丈夫?」

 

「全然、僕もここの日本食(ジャパン)は好きだからね」

 

 向けてくる屈託のない笑顔に少しだけ警戒心を和らげながらも、何の用向きなのやらと想う。

 

「君と食事を一緒にしたかった。それじゃダメかな?」

「それは嬉しいけど、私はあまりお喋りが得意じゃないから」

 

 かつ丼をモリモリ食う女子に顔を近づける男子のことを少しだけ思い返す。

 

 レイモンド・S・クラーク。金髪の髪に白く透けるような肌。言っては何だが典型的なアングロサクソン系の白色人種の男は、何が面白いのか雫とたびたび接触を持つ。

 

 積極的な口説きではないが、まぁ好意を持たれていることは分かっていた。

 

「そうかい? けれど君はセツナ・トオサカのことになると多弁になるよね。少し―――いや、かなり嫉妬してしまうけど……決して口数が少ないわけじゃない……」

 

 明らかに表情を曇らせるレイに少しだけ申し訳ない思いだが、想いは当分の間、消えそうにないのだ……。

 

「彼と、彼の私的な助手であるアンジェリーナ・クドウ・シールズもそうだが、彼らはアメリカの魔法学生の間でも謎の存在だよ」

 

「そうなの?」

 

 意外な話題の振り方に雫は問い返す。アメリカの魔法教育も日本とほぼ変わらない。

 ジュニアハイスクールまではそういう教練は学校ではなく、よくて私塾に通う程度なのは日米共通。

 

 同時に魔法師教育はハイスクールからというのも共通だった。だから2人を知らない人間ばかりでも雫は特に驚かなかった。

 

 十師族、二十八家、百家、千家のような意味合いの姓も無いのだから、来歴などさほど分からなくても当然だと思っていたのだが。

 

 そんなレイは典型的なアメリカ人らしいトークで雫に話題を向けてくる。

 

「うん。ただアンジェリーナの身元割り出しは簡単だった。何せ彼女のお祖父さんは、日本の魔法師の名家で米国に来た方だからね。彼が開いた魔法の私塾は、結構評判だったんだよ」

 

 それは雫も既知の事実だった。そして余程、魔法師の世情に疎い人間でもない限りは、九島の『お家騒動』は知らない話ではなかった。

 

「―――問題は、『トオサカ』だ」

 

 一拍置いて話し始める前に、レイはテーブルに届けられた『かき揚げ天丼』の蓋を開けてその香りを雫にも届ける。それが一種の儀式であることは分かっていたが……。

 

 演出が過ぎると思わざるを得ない。

 

「彼は、公式・非公式―――どちらで『検索』を掛けても、3,4年前にいきなりこの米国に現れたとしか思えない足跡なんだ。まさしく謎の人物なんだ」

 

「……それで?」

 

「詳しい話とか疑念を省けば……僕は彼がある種の『Cheater』だと思っている」

 

「……刹那は、別に『チート』をやっているわけじゃないと想う……」

 

 レイモンドの言葉に『ムッ』とせざるを得ない。

 

 如何に一度はフラれたとはいえ、それでも友人ではある男子なのだ。まるで何かの怪物でも語るかのようなレイモンドに噛みつきたくなるのは仕方ない。

 

「怒らないでくれよティア。疑いの眼を向けたくなるのは仕方ないんだよ。

 なんせ僕たち、米国人(アメリカンズ)には確固たる『歴史』がない。積み重ねた伝統というものが無いんだ。―――なのに『彼』だけは、アメリカ国籍を持ちながら、そういう『歴史』と『伝統』を持って魔法師の世界を変革しているんだから」

 

 雫の険相に、一度だけアメリカ人らしい大仰な降参のポーズ(ホールドアップ)をしてから、天丼に箸を入れるレイモンド。

 魔法師としての嫉妬と男としての嫉妬が混ぜ合わさって、最近の彼はいつも以上に『情報収集機器』にのめり込んで、過去のあらゆる『蓄積』された情報を精査して嗅ぎ出していった。

 

「このかき揚げ天丼の上のかき揚げのように様々な具材を混ぜるかのごとく、彼はあらゆる魔法……魔術に傾倒している。異常なことだね。ダンブルドアとヴォルデモートを混ぜ合わせたような存在だ」

 

「―――それで? あなたの結論はなんだったの?」

 

 お道化た答えだが、雫は聞いていて愉快ではない。

 

 小海老と三つ葉が見えているかき揚げの部分を見せているレイモンドに、心底のムカつきにも似た思いを覚えながらも、答えを促す。

 

 それに対してレイモンドは、自信満々な様子……で自分の出した答えをひけらかす。

 

「彼は―――『異世界からの来訪者』ないし『外宇宙からの訪問者』という表現が正しいと思う」

「そう」

 

 あからさまに興味が無さそうな声を作ってレイモンドに返す。少しだけ驚きながらも彼は引かなかった。

 

「……怖くないのかい?」

「全然」

 

 即答すぎて、レイモンドは少しだけ『トオサカ』に対して恨みを覚える。

 

 こんな話……若干の荒唐無稽さはあれども、女の子だったらば少しの恐怖を覚えるはずなのに……。

 

 レイモンド・S・クラークの誤算は、雫のこれまでの経験によるものだからだ。

 有り体に言ってしまえば、感覚が麻痺しているのだ。

 

 根源接続者、人類悪(ビースト)、境界記録帯、捕食遊星ヴェルバー、セファール……。

 

 自分たちの世界は、かなり脆く出来ているのだ。そういう認識があるのだ。

 

 そして刹那の理論などを鑑みるに、『過去時代』の人間である可能性も考えられる……。

 

 あるいは、純粋に別次元でも異世界とも言える魔法の国からやってきた魔法の王子様……メルヘンすぎる想像だが、そんなことを考えた場合、相手役はあの金髪ツインロール娘になるので、そこは考えないようにした。

 

「僕としては、こういう話をすることで君からトオサカを引き離したかったんだけどな……」

 

 苦笑して返すレイモンドだが、そういうのは逆効果である。

 

「そんなことで怖がらないよ。私は―――そして他人の悪評を吹き込むことで、人の心を動かそうとしても無駄。私は、刹那がどれだけの心で……いろんな人々に関わってきたかを知っているから」

 

 だからこそ、『エルメロイレッスン』などという『望む山』に登りたくても足掻いている人々に登山ルートを教えて、道案内をして登頂するという達成感を教えてきたのだ。

 

 魔法であっても魔術であっても優れた技法や技術は『独り占め』。

 それが本来的な生物、生命としての在り方とも言える。

 

 だが、それではままならない部分もあるのだから。

 

「私も商売人の娘だからね。刹那のやり方は、かなり『合理的』だと思っているんだ。

 近江(オーミ)商人(マーチャント)っていう昔の商人は、『三方良し』っていう考えで商売をやっていた。これが今の経営哲学にも通じるものがあるんだよね」

 

「聞いたことがあるよ。売り手(カスタマー)買い手(バイヤー)にとって満足がいく取引……本当の意味で相手の求めるところを提供することで、『世間』にも顔向けできる商売としていくってヤツだね」

 

 物知りであることをすかさずアピールするレイだが、その考えに深さはないとして少し否定をしておく。

 

「それだけじゃないよ。本当の意味するところは、自分ひとりだけが富めていても、他も豊かにならなきゃ何の支払いも出来なくなってしまう……。本質的な豊かさは他のもの……個人、企業、国家……魔法師全てからちゃんとした支払いがあってこそだから」

 

 一見すればコミュニズムにも通じるかもしれない理屈だが、大いに違う。この理屈は、WW2で勝ちすぎた合衆国が陥った貧困状況から導きだされたものだからだ。

 

 勝ちすぎてあちこちで経済市場・基盤も壊しすぎた合衆国は、他国からの支払いが期待できなくなってしまったのだ。

 

 つまり支払うべき『金』が無くなっていたのだ―――。

 

「だから、刹那を私は信じるよ。私が好きになったマジックキッド(魔法少年)は、魔法社会を豊かにするために生きている……時代が生んだ快男児だって分かっているから」

 

 その言葉に悔し紛れにレイモンドは、かき揚げ天丼を掻き込む。真っ直ぐな眼で見てきた(ティア)にどうしようもなかったのだ。

 

 このかき揚げ天丼のように様々な具材(そくめん)を持つ『トオサカ』に、色んな人を虜にする男に、『絶対』に負けない、負けたくないという想いを持ちながら、飲み込むのだ。

 

 雫はその様子に少しの男気をレイモンドに感じておくのだった。

 

 そうしていると、レイは箸を箸置においてから片手で机上の端末を軽快に操る。

 こういうことは刹那には無理だったなと感じつつ、送られてきたデータを拝見する。

 

 画像データであった。

 

「君の友人も不安がっていた事項、ニホンのTOKYOを中心に起こっている吸血鬼騒ぎだが―――『これ』が原因だと思う。

 出処(でどころ)は明かせないけど、ネバダの『空軍基地』で行われた『実験』のあとに撮影されたものだ」

 

「実験?」

 

「詳しいことは、『トオサカ』辺りならば知っているはずだけど」

 

「刹那はレイほど機械端末を操るのは達者じゃないから、どうだろう……?」

 

 その意外な言葉にちょっとした優越感を持つレイモンド少年だが、既に雫はその画像に注目していた。

 

「それは先程の嘲りの弁償金だと思ってくれていいよティア。

 それじゃ―――グッドナイト、ティア。僕が今夜の夢に出てきてくれると嬉しいね」

 

「グッドナイト、レイ―――よい夜を―――」

 

 支払いをすませて颯爽と立ち上がり店を出るレイモンドを見送ってから、それなりに気を利かせたのか画像処理した画像の殆どを見てから一番に眼を惹いたものは、一枚だった。

 

 

 研究所なのか基地施設なのか……南盾島での経験からでもよく分からなかったが、それでもその基地施設から多くの人間たちが逃げ出す(?)としか言えない様子の中―――遠景ではあるが、メタリックな衣装を纏った女性が月明かりを施設の屋上で浴びていた。

 

 画像を拡大すると、その眼は金色に輝き一筋の涙を流していた……。

 

「銀髪の女性………」

 

 一房だけまとめ上げた銀色の髪が前に流れる美人の姿に眼を奪われた……。

 

「誰に見せればいいんだろう……?」

 

 順当に考えれば、達也か刹那……だが、この2人に正直に見せるのは『致命的』に思えた。

 

 なぜだか分からないが、そんな予感がしてから……言われたとしても、この画像だけは見せないでおこうと思うのだった。

 

 そんな雫の心とは裏腹に、日本では重要な分岐点が決まろうとしていたのだった

 

 

 

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