魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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100万UA突破ありがとうございます。

皆さんの有形無形の応援のおかげだと思っています。

ただその一方で、この話数で100万突破というのは、あまり誇れる結果じゃないんだろうなとも考えますよ。私よりも少ない話数で、その数字を取っている人もいるわけですからね。

同人の世界とはかくも厳しいものです。

無駄口はここまでにして、新話どうぞ。


第234話『フルマジック・パニック‐Ⅰ』

 

「と、まぁそんな感じです。USNAに責任追及したところでお金が入るだけじゃないでしょうかね?」

 

 延々長々とまでは言わずとも、かなり時間を費やした達也の説明。画面越しのリアルタイムでの受け取りをすべて終えて、映っている妙齢の女性は、小首を傾げながら深いため息をついた。

 

『地球を一つの生命(いのち)に見立てた場合に現れる超越種族『真祖』……随分と、私たち魔法師は『お上りさん』なのね』

 

 この世には解明されきれていないことは多すぎる。

 現代魔法師は、全ての物理事象を再現出来ると豪語する集団だ。それゆえ『世事』の森羅万象を解明出来たとしがちだが……。

 

 そもそも『現生人類』(ホモサピエンス)の祖先と『旧人』との間には繋がりがないとされている。

 

 人類史の始まりからして我々は不明なのだ―――。

 

(もっとも、その原因を知ってしまったがな)

 

 セファールという異星より来る白い巨人が、先史文明全てを滅ぼし尽くした。その際に、古代ギリシャの神々は抵抗をしたが、戦神すら討ち果たす巨人の前に、命乞いしてでも生存を願ったものがいたとか。

 

『霊墓アルビオン……刹那さんは、そこで盗掘を行っていたというのは事実かしら?』

 

「事実ですね。とはいえ、ヤツからしたら先鞭をつけていただけですよ。白竜の遺骸は、掘り進めていけば、地球の深層にまで達するらしいですからね。先乗りをして道路舗装……いずれ『チーム』を組んで発掘作業をしたいそうです」

 

 だが、その舗装作業も順調にいったのは、所詮は浅層を漁っていたからにすぎない。

 

 だが、『この世界』で初の『アルビオンの侵入者』にして『生存者』(サヴァイバー)なのだ。

 得られたものは多かろう。なんだか考えれば考えるほど少しのムカつきを覚える。

 

(まぁ迷宮の中には、ありったけの幻想種がいただろうからな。その苦労を考えれば、それぐらいの利益はあってもいいんだろう)

 

 如何にサーヴァントインストールを用いても、幻想種の脅威ぐらいは、達也も認識しているのだから。

 

『―――分かりました。ならば、そちらは『そちら』で対処しなさい。不安や恐怖を具現化する吸血鬼と、可能性の別世界からやってきた吸血鬼。どちらも私たちには手が余るでしょうから』

 

「―――承知しました」

 

『ではよい夜を』

 

 ヴィジホンに映る妙齢の女の姿が消えるまで頭を下げていた司波兄妹だった。

 

 そして、先程の言葉の中に、聞き捨てならない言葉が紛れていたのだ。

 

「そちらは『そちら』で、か」

「叔母様は、動かすのでしょうか?」

「流石に貢叔父貴が止めてくれれば……と思いたいが、無理だな」

 

 アルズベリ・バレスティンで見たような吸血鬼たちの謝肉祭が東京で繰り広げられるならば、達也と深雪も既知の双子も無事ではすまない……。

 

 というより確実に死ぬだろう……。

 

「―――」

 

 その可能性を考えて、我知らず拳を握りしめてから……深雪にこれからのことを話していく。

 

「刹那は魔術的な方面から『削り』と『探り』を行っているようだが、シオンの話通りならば、錬金術師の『工房』は、魔力だけでなく『電力』も大量に必要らしいからな」

 

「エネルギーの使用率からの拠点探しですか?」

 

「ああ、吸血鬼女が、グールを保管しておくところが必要だからな。陽光を避ける『路地裏』であっても、ソーシャルカメラはあるわけだ……東京都内に絞ったとして、被害者の状況等々から『ねぐら』を探れるはずだ―――……はずなんだがな……」

 

「お兄様?」

 

 居間に戻りソファーに座り込みながら考えるに、そちら方面での探りを入れていないわけがない国防軍ないし情報部隊の類が、未だに『連絡』一つ入れていないことが、気がかりだ。

 

「響子さん及び独立魔装の隊員は完全な味方ではないが……この事態に何の動きも無いのは気になるな」

 

「……『出資者』のご意向なのでは?」

 

 深雪がおずおずと、どこか恐れているように言ってくる。八雲の言う所によれば、確かにそちら側からの圧力もあり得る……。

 

 だとすれば、出資者は最初から死徒の脅威判定を分かっていたことになる。

 それはそれで謎なのだが……。

 

「刹那に泥を被せて全ての解決を望む。まぁ無くはない話だ」

 

 だが、据わりが良くない話ではある。あまりいい気分にはなれそうにない。

 

「刹那は、敵の正体を明かして、目に見える全ての家に『停戦命令』を出した。従うかどうかは各家次第だが……」

 

 刹那の忠告という名の『停戦命令』を聞かなかった、『目に見えない勢力』が刹那の邪魔をすれば、それは致命的な事態に近づくのではないか……?その懸念こそが、『引っ掛かり』となる……。

 

「魔術師ならばともかく、吸血鬼……死徒なんて魔法師には手にあまるぞと言ってやりたいんだがな」

 

「それを額面通りに受け取る人間ばかりじゃないですからね。お兄様のように、他人の魔法を見ては、それを『魔法カスタム大好きー♪』なんて人間もいるのですから」

 

 実妹から毒(?)を吐かれて、自分こそが、首突っ込み、茶々入れ……それらの筆頭であることを自覚する。だが、今回に限っては無理だろう。

固有結界(リアリティ・マーブル)なんて規格外は何も見えなかったのだから、登録も無理だろう。

 

 更に言えば、吸血鬼の復元呪詛は、場合によっては『塵からでも復活できる』などと言われては……。

 再成の上位概念であると考えてから思考を打ち切り、深雪と私的な話をする。

 

「で、お前は何か用があったんじゃないか? 叔母上の連絡で中断してしまったが、言っていいぞ」

 

「あっ、そうでした。頼んでおいた特注CADの調整の程をお聞きしたくて」

 

「既に出来上がっているよ。いままで放ったらかしにしていてすまないな」

 

「お疲れなのは分かっていましたから」

 

 刹那から渡された『感応石』以上に反応数値がいい『基材』を利用した深雪のCAD。バージョンアップさせたそれは幾度かの試験を経て、ようやく完成していたのだ。

 

 笑顔で言ってくれる深雪に申し訳ない気持ちを持ちながらも、工房に赴くまでもなく、手元にあったケースから恭しく汎用型の礼装を取り出す。

 

「こちらがご所望の品物です。ご確認を。お姫様?」

 

「もう! お兄様ってば!! さっきの深刻な空気台無しですよ!!」

 

 オーダーメイドの高級アクセサリー、高級な縫製服を渡す『クチュリエ』の気分で深雪に差し出したのだが、真っ赤な顔で笑いながら怒るという高度なことをされて、こっちもどうしようもなくなる。

 

「にしても、これを使う機会がないな……」

 

「お兄様は、私を戦いに連れて行かないのですか?」

 

「……考え中だ……」

 

 上目遣いで言ってくる深雪に頭を縦に振れないのは、此度はかなり不味いからだ。

 

 正直言えば、深雪は自分よりも『戦力』になるだろう。

 新たに登録した『甲星竜』と『人鳥』の術式は、確かに神秘領域の存在を脅かすだろうが……。

 

 深雪がゾンビになった場合のことが、どうしても嫌で戦場に出したくないのだ。

 

 自分の『逆行』で『元の状態』というのを定義出来るかどうかも疑問だ。

 

 というか多分ではあるが、『出来ない』。

 

 死者でありながら『生きている』という矛盾状態に対して、自分の『再成』が効くならば、その際の『ペインバック』(逆流)は、どのようなものか。

 

 それは即ち『達也』は死んで、そして生きるという永劫状態になり、術者たる達也のその状態から、魔法そのモノが矛盾状態を解決出来ずに砕け散るかもしれない。

 

 死徒のゾンビ作りではないが、死体を動かす技術というのが中国大陸にはあるらしい。

『僵尸術』というやつらしく、刹那がこの世界に来て最初の外道働き(本人談)で、叔母の腹を切った中華系アメリカ人の魔法師……大漢の方術師が、そんな術を使っていたそうだ。

 

 人伝手であり詳細こそ詳しく知れないが、新ソ連の生体兵器『コシチェイ』『ヘカトンケイル』とも違うらしいが、想像の上ではそんな理屈展開だった。

 

 死んでいるのに『動いている』ではなく。

 

 死んでいるのに『生きている』……そういうことになれば、達也の再生は通じまい。

 

 そもそも『魂魄』というものの実証すら不確かなのだ。

 

「俺の再成では、お前がゾンビになった場合に元通りにならない。『稀』にだが、そういう過程をすっ飛ばして吸血鬼(死徒)になれる才気あふれる存在もいるそうだが―――とにかくお前が此度の戦場に出るのは……俺は不安だ」

 

 妹が生ける死者になることに不安を吐き出すも、妹は退かなかった。

 

「分かっています。だから……私が『勝てたらば』、それを許してくれませんか?」

 

 その言葉の意味を斟酌するに、誰と勝負をするのか一瞬分からなかった。

 そもそも何の勝負……まぁ魔法だろうが、誰と魔法の質と差を測ることで、自分からの許可を得られると想っているのだろうか。

 

「レティシア・ダンクルベール」

「この前の勝負に、こだわっているのか?」

 

 別に魔法実技で決して深雪が最強無敵というわけではない。

 刹那とて『手打ち』で『組み立てる』ならば、深雪に10回に1回は負けることもある。

 

 そう考えれば、その手の勝敗にこだわるなど、『らしくない』と思えた。

 

「あの時の敗北は、深雪の心に深く傷跡のように刻まれました。日本の魔法師として、このままにしておけません……」

 

「そんな、お前が代表格だと誇示せんでも」

 

「私の名前にもある『雪』という言葉には、『(そそ)ぐ』『洗い流す』との意味がありまして、受けた恥をそそぐことから『雪辱』という―――やるからには完全に勝ちますよ」

 

 握り拳を作ってまで言うことなのだろうか。静かな闘志を燃やす深雪に対して、戦う場を設けられるかどうかだろう。

 

(完全な私闘を許可することが出来るだろうか)

 

 そして、それをレティシアが受けるかどうかである……。

 

 

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「あれから丸3日が立ったわけダケド、何か分かったかしら?」

「ああ、君が何故か『しばらく自分がいるときキッチンに入るベカラズ』なんて言うから捗ったよ」

 

 その言葉に『ギクリ』とした後には、バツが悪そうにしてからテーブルにある『おひたし』に箸を伸ばすリーナの姿。

 

「あっ、リーナ。今日のおひたし味付けしてないから、醤油かけたほうがいいよ」

「いいわよ。この青々とした野菜臭さが口に新鮮なのっ!!」

 

 まぁかつお節は上にまぶしてあったから、それでいいというのならば、何も言わんが……。

 

 口の中が『甘ったるい』のだろうと、一応は察しておくのだった。

 

「私は遠慮なく掛けますよー! ああ、やっぱり「おひたし」には味がありませんとね!!」

 

「お前は、もう少し塩分を考えて摂れ!」

 

 醤油をかけ過ぎている『しょっぱいもの』好きなサーヴァント(お虎)に、ツッコミを入れてから話の続きをすることにした。

 

「人理否定世界『ブルーグラスムーン』のズェピア・エルトナム・オベローンが見たものとは、やはり歴代のアトラス院長と同じのようだ」

 

人類の滅亡(アルマゲドン)だっけか?」

 

「そう。結局それを『覆すための方策』を、アトラスの錬金術師たちは希求している。こちらの『シオン』も概ねそんな感じらしいがな」

 

 だが、その為に作られたものは、世界を惨たらしく焼き尽くす封印礼装であった。

 七度焼き尽くしても足りないほどの『兵器』。

 

 ―――アトラスの封印を破るな。

 

 苦言を呈する先達の提言を少しだけ甘く見ていたが、それも今では身に染みて分かっている。

 

「つまりは……今の状態というのは、ズェピアにとっては『緊急避難的な状態』なのではないかという話だな」

 

「ミストみたいな状態での不老不死が?」

 

「ああ、何かの緊急の案件で、『一度死んだ』死徒『ズェピア・エルトナム・オベローン』は、保険として備えていた式でタタリという現象に昇華……いや没落したんだろう」

 

 焼き魚から器用に骨を外して身だけを食べる景虎を見ながらそう言っておく。

 

「死徒とて無敵ではないから、それはワカルんだけど……そんな死亡する『事態』ってナンなのかしらね?」

 

「予測はある。『推測』にまで落ちるけどな」

 

「ソレは教えてくれないノ?」

 

「リーナが混乱するだけだから、イマは言わない♪」

 

「セツナのイジワルー♪ あくまっこ♪」

 

 顔を近づけて言ってきたリーナに卵焼きを与えながら言うと、更に返される卵焼きを嚥下したあとの早口である。

 

 そんな様子を傍で見ていたお虎は……。

 

「そういう言葉だけが剣呑なイチャイチャパラダイスしないでくれませんか? いいかげん『点穴』を突きますよ」

 

 長尾は日ノ本にて最強……覚えておかなければ、容易く死んでしまう。

 

 尚、次世代主人公の妹が最強格とかとんでもない。サイコパスな眼で言ってくる景虎に『はい』と心を一致させながら同じく言う刹那とリーナ。

 

 カゲトラちゃん、目怖っ! などと考えつつ、朝食は恙無く終わるのであった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「監視者を派遣しているとは思いますが、これ昨夜の戦闘の様子です。家中の方々とご検分を」

 

「助かるわ。名倉さんも『長尾殿の韋駄天のごとき瞬脚に追いつくには、老体に堪えます』なんて言っていたし」

 

 記録用メモリを苦笑する七草先輩に渡しながら、ふと妙な取り合わせではあるなと思い立つ。

 入学して以来、割と関わりはあったほうだが、この人と対面で2人というのは無かった。

 大体は、リーナか達也が横にはいたような気がする。

 

「グールに関しては任せているから問題ないんだけど、こっちは吸血鬼αの対処が難しくなっているのよ……」

 

「一応ローテーション組ませて、エリカと幹比古も動いているでしょうに……―――学習してきているな。もしかしたらば、近日中に『何か』が起こるかもしれません」

 

 廊下で話しながら今後の展開を予想して、警告しておくのだった。

 

「何かって…?」

「ついに明確な『存在』のカタチを取るかもしれないということです。ダ・ヴィンチが言っていた通り、『不安』『恐怖』……それを『再現』しようとしてくるでしょうね」

 

 明確な能力値にするべく『魔的な人間』の情報を収集してくるはず。つまりは、具現化しようとしている存在の情報はそろそろ貯まりつつあるのかもしれない。

 

「それは……戦えば戦うほど、あちらは強力になっていくのよね。そこまでは分かっていたわ」

 

「だから、俺は『吸血姫β』の方だけに専念していたわけですが、まぁ―――エリカも幹比古も、克人先輩も……情報を盗まれていたんでしょうね」

 

 だが、これは仕方ない話だ。寧ろ被害が増えて取り入れた体が多ければ多いほど、強力な存在に成り上がるのだから……。

 

 だが逆に言ってしまえばチャンスでもある。

 

 タタリが明確な体を取るということは、情報が『固定化』されるということだ。その霊子の総量がどれだけあるかは知らないが、まとまったカタチになるならば、それだけの霊子を消滅させる機会になるのだから。

 

(問題は発生・再生する『噂』が、何であるかだよな)

 

 一番あり得るのは……あのヒトが再生される可能性だよな……。

 スペックは明らかに劣るだろうが、それでもあり得ざる可能性として論外には出来ない。

 

 そんな風に1人考えていると、七草先輩は不意に話の話題を切り替えてきた。

 

「そう言えば私と刹那君って、こういう風に2人だけってことは無かったわね?」

「そういやそうでしたね。まぁ入学してすぐに俺はアナタをいじめたわけですからね。対面なのが俺は気後れしていたわけですよ」

 

 十数分前には刹那が至っていた結論に、ようやくたどり着いた真由美に対して原因を明らかにする刹那。

 

「ホント、あの頃はエキサイティングしすぎていたわ……私の理想は、間違っていたのかしらね?」

 

 こちらを覗うようなポーズに探るような目と顔が刹那の視界に入る。特に何も感じないが、そういうことを気のある男以外にはしないほうがいいだろうと思えた。

 

「さぁてどうでしょうかね、今では先輩がそういう風になった経緯(いきさつ)ってのも、分かる気がしますよ。しかし、それで救われる人間は、この学校には殆どいないってだけです」

 

「……その推理はどうやって導き出したの?」

 

「―――数字落ち(エクストラ)

 

 その言葉に眼を見開いて、怒りとも悲しみとも何とも言えない表情を浮かべる七草真由美。

 

 先程の話にも出てきた名倉氏。そして生徒会の同級生である市原鈴音……そして関係者の間では、手勢が多いと称される七草の家。

 

 その手勢の殆どが、そういった風な分家筋とも没落家系とも言える人間ならば、この人がある種の『名誉回復』『地位復帰』を後押ししたいという気持ちを持つだろうことは、なんとなく程度には推察できた。

 そういう人間に囲まれていれば、そんな考えを持つにいたるだろうけれど、『そこ』(没落家)『ここ』(候補生)を混同したのは明らかな誤解だろう。

 

 そういう旨を伝えると、天井を仰ぐ真由美先輩の姿が見える。

 

「ズルイわ。そんな風に私の心情まで解体するだなんて、それを言われたらば、私には何も出来ない……」

 

「アナタの理想が間違っていたわけじゃありませんよ。……けれど、そのために大事なものを見落としていたんじゃないですか?

 先輩が欲しかったものは、魔法師全てが団結するために、一人一人に『備わってある能力』に『相応しい役割』を与えることだったんですか?

 それとも、魔法師一人一人に『これからどうなるか』を『選択する権利』を与えることだったんですか?」

 

 言うたびに天井を仰ぐ角度が着いていき、ついに廊下の壁に頭をぶつける七草真由美の姿。

 

 前者は権力者によって能力開発されてきた末に、『必要ない』『力足らず』と考えられた時に上から出てくる下劣な考えにも通じる。

 

 もちろん、社会に出れば、そんなことは否応なくあるものだ。本人の望んだ進路に進めるとも限らない……けれど、だからといって最初から『希望』を持つことを無駄事とするには、あまりにも拙速すぎた。

 前者が真由美の考え……もちろん慈悲が無かったわけではないが、それでも少し無情に過ぎたからこそ、後者を刹那は示したのだ。

 

「明日がどうなるか分からないからこそ生きていける。もしかしたらば、不幸なことが起きるかもしれない。いいことなんて無いかも知れない。けれど―――『何か』があると思えるからこそ、『ヒト』はどこまでも進めるんですよ」

 

 箱に封じられた最後の厄『前知』…未来を知る力が与えられなかったからこそ、ヒトは明日を信じられる……だが、『先』(みらい)を『知ってしまった』ならば、それはアトラスの院長とおなじになるのだろう。

 

「まったく……時々、刹那君の年齢が分からなくなるわよ。アナタ、本当は年齢を詐称しているんじゃないかしら?」

 

「まさか、そんなメリットが何処にあるっていうんですか」

 

 余談で、本当に余談程度であるが、東北を統括する魔法科高校の一つ、『第5高校』には、数年前に年齢詐称した『卒業生』がいたのではないかと少しの話題になったが、明確に『何某』(なにがし)がそうであるとは分からなかったので、既にこの話題は都市伝説となっていたのだ。

 

「あるいは、2010年代から2020年代―――平成時代から令和時代にかけての過渡期に流行った転生憑依英雄(リボーンヒーローズ)という可能性も!」

 

「アタマ大丈夫ですか? 実は脳みそに蛆か蟲でも埋め込む魔法実験でもしました?」

 

「埋め込まれていないわよ!! な、ならばどっかの光の巨人の協力者だったりとか―――」

 

『ご唱和ください 我の名を』―――なんてのは、レオと服部会頭の新部活連の主要メンバーに任せるべきだろう。

 

 などと頭の中で出した結論を言う前に……。

 

「セツナァアアア!!! 私を助けてくださあああい!! 雪の魔女が、ありのままの私の点穴を突かんと迫ってきますよ―――!!! 明日の朝刊に『ドッキリ! 極東の地で聖女陵辱!』なんて見出しが―――!!!」

 

 半分泣き叫ぶような声をあげながら、三年の教室棟に猪突猛進ガールよろしくやってきたロングの金髪。レティシアに勢いのまま抱きつかれて、そのまま拘束される。

 

 長く編み上げた三編みのテイルが刹那の右腕を拘束してきたのだ。移動魔法系統の『念動力』なのだろうが、意思持つかのように『生物的』に動かされると、キメラの尾か、バジリスクの蛇身のようにも感じる。

 

 刹那の一高制服のシャツ部分に『ぐりぐり』と顔を埋めるレティに、何がなんだか分からない気分。

 

 だが一つだけわかることもある。

 

 ずどどどどど……凡そ大人数が群れを成して、三年の教室棟に駆け上ってくる音が響く……。

 

「ここは、直に戦場になる……即時退避を」

「何でかしらね。こう…元凶に言われると素直に従えなくなるわー」

 

 気持ちはよく分かる。だが―――決意の時は来るわけで―――。

 

 遠坂刹那は、この世界に来てから何度目になるか分からぬ、種の存続を掛けた戦いに挑むのであった。

 

 ……もちろん、例えその中に未来の伴侶がいたとしても、という間抜けなオチが着いたとしてもだ。

 

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