魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第235話『フルマジック・パニック‐Ⅱ』

 

 

 

 机の上、素材はなんだか分からない。まぁ多分『木』だろうものを人差し指で叩きながら、聞いた話を整理する。

 

「なるほど、話は分かった。深雪は魔法戦がしたい。けれどレティはやりたくない。断ったのに首狩り族よろしく迫ってくる深雪他数名の追手から、逃げて逃げて―――俺のところまでレティはやってきて、まぁその後の『ひと悶着』に関してはどうでもいいな―――」

 

 ため息を突いてから騒動を起こした連中を見ながら言う。

 

「諸君らは、フランスとの間で外交問題を起こしたいのか?」

 

 ぎくっ! とばかりに背筋を正す面々。流石にレティも、それはちょっと困っていそうな辺り、被害者側の立場としてはヘンであると思えた。

 

 話が大きくなりすぎた。そういう気持ちなのかも知れない。

 

「本人が嫌がっているのに無理強いはいかんだろ……」

「まさかそんな正論を刹那君に吐かれるなんて思いませんでした」

「俺は基本的に正論しか言いません」

 

 不貞腐れるような深雪の言動に返しながら、周囲からは本当かよと言わんばかりの疑わしい目線が届く。いや、本当である。

 

「レティはどうなんだ? 俺も一応、君の指導役で、ここの外交官みたいなものだから、やりたくないことは無理強いは出来ないかな―――そもそもどういう形式の戦いにするつもりだったんだ?」

「ノータッチルールによる魔法戦だ」

「エリアアラートなしの即時停止戦か?」

 

 達也からの言葉に疑問を付け加えると、首肯一つを返す達也を見て、それでそこまで避ける理由が分からない。

 

「―――まぁ深雪が鬼のような形相で怖かったのは分かるが」

 

「刹那くん!」

 

「明朗な理由が無いと、この雪女様はこの学校の男どもを氷漬けにしかねない。とりあえず、嫌なことは耳打ちでいいから言ってみてくれ」

 

「セツナ!!」

 

 我が校が誇る双璧の美少女2人が違う理由で憤怒しているのは、ある意味男冥利に尽きるが―――内情は全然違う。

 とはいえ、我が校に現れた『ジャネット』に、あんまり不快な想いもさせたくないのと同時に、ここで深雪と戦わない理由の良し悪しも判定したいのだ。

 

 以前、九校戦前にて『リーナと婚前旅行したいので、欠場します』などと言った手前、こういうことはきっちりせねばなるまい。とんだ『おまいう』案件だとしても、刹那が預からなければならない。

 

「フランス人として決闘(デュエル)が決してイヤというわけではないのですが、私としては……いまの時点で『ミユキ』と戦うのは少々、『よろしくないもの』があるかと思います」

「よろしくないもの?」

「―――cauchemar(コシュマール)に関してです」

 

 最後の方は耳打ちをしてきたので、重要事項なのだと感じた……。レティシアもタタリの詳細を知っているだけに、何か『ある』と気づけた。

 

 啓示とはある種の『未来視』だ。起こり得るべきこと、結末を見せることで相手に覚悟を決めさせる。

 時にそれは自分の未来だけでなく、他者の運命すら見透すものだ。

 レティが見たものは明確ではないそうだが、それでもイヤな予感がするとのこと……。

 

 だが―――。

 

「フォローぐらいいくらでも入れてやる。お前がやりたいことやって誰かに迷惑かかったとしても、俺がなんとかしてやる。我慢している方がどうかと思うぞ」

「セツナ……よろしいんですか?」

「今更だ。それに『いま』の深雪と戦うことは、君にとっていい経験になると思うけど?」

 

 チャンスを逃すこともあるまい。そう言って笑みを浮かべると、苦笑気味の観念がレティに溢れる。

 

「仕方ありませんね。指導役(チューター)であるアナタからもそう言われては、この勝負受けないわけにはいきません―――『御旗のもと』に戦うことを約束されたこの身ですが、この戦い改めて受けさせてもらいましょう」

 

 先ほどとは違い晴れやかな笑顔を取り戻したレティが手を差し出す。

 

「よろしくおねがいします。レティシア」

 

 握手しあうレティと深雪。よけいな事に巻き込んだことで無駄な心配をさせてしまったようだ。

 

「予測するに―――レティに『似た』ものが『再現』される可能性がありますよ?」

 

「それこそ今更だ。レッドもレティも似たような顔(ナルキッソス)で、美月の絵画が共通幻想(コモンファンタズマ)を形成して、この学校に色付けされてしまっているんだ。現れたとしても、それが予想通りの存在ならばやりようはある」

 

 神秘の秘匿―――この世界においては縁遠い言葉だったが、刻みつけられた『基盤』次第では、こうも面倒なことになるとは。

 

 だが出来るもの、やれることをやらないほど意地腐れにはなりたくない。

 

 シオンの的確な『未来予測』に手を気軽に振って、『竜殺し』の概念武装を用意することは忘れておかないことにした。

 

 そんなこんなで、中条会長(ビッグボス)から許可を貰って魔法決闘の手はずは整ったのだが……刹那の秘書官よろしく隣にいた錬金術師(シオン)は聞きたいことを口にした。

 

「ところでレティ、そこまでミス・シバから逃げた理由とは何なんですか?」

「単純に怖かったからだろ?」

 

 そこまでゴネるようなことだったろうかという質問に対して、深雪の『敵』としての理解者の意見を刹那は先んじて述べると―――

 

「ダ・コール! 魚眼で見てくる『ジル元帥』のごとく凄く怖かったです!!」

「ど、どういう意味ですか―――!?」

 

 そんな風に言われるほどには怖かったことを自覚してほしいものだ。被害者その2としての見識を述べたあとには、皆して動き出すのだった。

 

「今日はレッスンが無かったとは言え、騒がしい限りだ」

「お前がそれを言うか」

 

 生徒会室の机にて少しだらけながら言う刹那にツッコミを入れる達也。どうやら自分が動くまでは、こいつも動くつもりはないようだ。

 

「―――歩きながら話そう。一つ所で固まっていると勘ぐられる」

 

 このまま石のように不動の達也というのも悪くはないかもしれんが、色々なところから抗議が来そうなので立ち上がることにした。

 

「刹那、お前に聞きたいことがある―――」

「お前はいつでも質問と疑問だらけだな、達也?」

「お前のせいで俺は常に疑問を持たざるを得なくなった。アンサー(答え)を出すには、情報が少なすぎるんだよ」

「そいつはすまない限りだ。で、聞きたいことってのは―――」

 

 深刻そうな顔をする達也に対して気楽な様子で歩く刹那。渡り廊下を歩くその姿すら注目を浴びるのだが、いまのところ、誰とも擦れ違わないことにイヤな予感しかない。

 だが、達也を急かすのも悪いので歩く速度は合わせていく。

 

「―――いや、やっぱりいい」

 

「歯切れが悪いな。言いたくないならばそれでいいが……」

 

 刹那の言葉に結局、意を決したかのように口を開く達也。

 

「―――『実家』が動き出そうとしているんだ」

「……師族会議から通達は出されたんだろ?」

「そういう時に動くのが『実家』なんだ……そして、現地で動くのはお前も知っている双子だ」

 

 まぁ無くはない話という感想を刹那は出しておきながら、使い魔を七羽放つことにしておいた。

 

「お前や響子さんが電子分野から探れないのは当然だ。アトラス院の礼装、一般的ではないが作れる人間は作れる『エーテライト』……正式名称『エーテル・ライト』は、『あらゆるもの』に『強制接続』(ジャックイン)することで『情報』を抜き出すことが出来る、『霊子ハック』の道具なんだ。

 あちらにも、錬金術師でありながら『半死徒』と化したシオンがいる以上、何かの端末から、都市の『眼』から己の姿や怪しい痕跡を消すことが出来るだろうな」

 

「だが、ただの情報端末に『霊子』があるのか?」

 

「俺の時代ですら、もはや地球上を網羅する勢いで情報の『投網』は放たれていて、その中にはある種の『集合無意識』とも、都市伝説的な『自我を持ったアーティフィシャル・インテリジェンス』なんかも『あり得る』なんてされていたんだ。俺の兄弟子が発表した論文なんだがな。まぁ頭の固い教授陣には理解し難いものだったようだが。

 ともあれ、『広範』に『星全て』を網羅せんばかりに広がった『情報体』というのは、『一個の生物』と考えた方がいい。それを霊体ある『生命』と捉えれば可能だろうよ」

 

 怒涛のごとく吐き出された言葉に呆然とした達也。その理由は……。

 

「機械オンチなお前から、『アーティフィシャル・インテリジェンス』(A I)なんてユビキタスな横文字を聞くことになるなんて……なんというか世も末だな」

 

「オイマテ」

 

「ああ、世界の破滅はすぐ側にあったんだな……」

 

「ナニを感慨深げに言ってるのかな!?」

 

 心底、絶望したかのように眼を閉じる達也に胸ぐらを掴みかねない勢いで返す刹那だが、かなりの誤解がある。

 

 そもそも刹那とて、2010年代から2020年代にかけての情報端末のレベルならば、何なくではないが、それなりに出来るタイプだ。

 

 達也がやるような『ブラインドタッチ』とて習得出来てるわけだが……ともあれ、そんな風に機械端末を操る息子(刹那)を見た()は、異星人とのファーストコンタクトでワーストコンタクトを行ったかのような表情をしていたのだった。

 

 責任者はどこか!!

 

「まぁとにかく……この時代になれば、大体の電子機器には『コレ』と同じもようなものが常用されているだろうからな」

 

『コレ』という言葉で刹那にとっては無用の長物たる『CAD』を示すと、『なるほど』と達也もうなずく。

 

「―――感応石に類する、ある種の『思考読み取り』型のプロセッサは、多くの端末に導入されている。そう考えれば、霊子ハックも可能なのか……」

 

「細かく言っていけば、簡易のAIなんかに霊魂はないとしても、論理思考(アシスト)の類は常備されている。そこからなんだろう……対策に関しては、とりあえず錬金術師は、どんな魔術的、科学的な機器・器物であろうと、『維持』(メンテナンス)から入るという『クセ』がある。路地裏付近にあるソーシャルカメラの『精度』『性能』の向上が見られるものが、近日中にあるはずだ。

その付近が犯行現場であり、その付近は消されていても、『遠距離』『遠望』で少し遠くにあるものに関してから探れば……見つかるはずだ」

 

「こっちのシオンが協力してくれれば容易くないか?」

 

「あちらもこちらの素性を分かっている。錬金術師は高度な予測を幾重にも張り巡らして、論理的思考で最適解を選択しつづける存在だ……こっちのシオンが明確に動けば、『あちらのシオン』がそれで動きを変化させる可能性がある」

 

 出来る限り変数の値を抑えておきたいというシオンの考えを伝えるも、達也は苦い顔。

 確かに、それは刹那も想ったことだが……。

 

(何かを隠している。恐らく背信者(ユダ)はシオンだな)

 

 疑いたくないが、『何か』を隠されている。そしてそれが、動きの鈍さに繋がっているのだ。

 

頼んだ(・・・)

「ああ、任せろ(・・・)

 

 そんな言葉で伝え合い、何とかシオン…ないし、その裏にいる『ナニカ』を出し抜くべく達也を頼りにする。

 

 そんな会話をしながらも、魔法戦闘の場所として指定された第二演習室に到着する。

 

 去年の入学初期に達也と服部が相対した第三演習室より縦に長い。中距離魔法を想定した教室だ。

 

 床は青と黄色で前と後ろに色分けされており、前後の壁から一メートルのエリアは赤く塗られている。

 

 そんなことを思いながらも気づくことが幾つかあった。

 

「観客多すぎないか?」

「別に極秘というわけでもなかったからな。そもそも深雪がB組に赴いて、手袋投げつけたようなものだったんだ」

 

 そりゃなんもかんも筒抜けだわな。と苦笑と共に思いつつ、審判役及び制止役(タオル投入)としての立ち位置に赴く。

 

 青側に立つのはイメージカラー通り深雪。

 黄側に立つのもイメージカラー通りレティ。

 

 その境界線に赴くと分かることもある。青側の壁際に主にいるのは、深雪の信奉者の多いA組などの面子。

 

 黄側には当然、B組やその他の面白がりが多い。

 

 

 その狭間に立つ刹那や達也は『マーブル』(まだら)『幻想』(ファンタズム)といったところか。

 

 そんなことを考えながらも、戦いの時まで残り時間は刻一刻と消費されていくのだった……。

 

 


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