魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
もはやPSPも骨とう品となってしまったこの時代においては―――いいものである。
観客席……と言えるものはないので、殆どの連中は壁に寄りかかりながら、格闘ゲームの背景のようになっていた。
しかし両者の力量を考えれば、魔力の余波で破壊が起こりかねない。それは、背景のモブも同然の全員に届きかねない。
よって―――。
「―――
魔術回路を立ち上げてから左手に持っていたトパーズとエメラルドの混合鉱石を地面……演習場の床に落とす。
変化は一目瞭然であり、丁度……長方形の箱の内側に同じ形状でも少しだけ小さい『型枠』が入り込んだかのように四辺に防御式が刻まれた。
壁からすれば3mほどの余裕はあるが、それでも安全かどうかを不安視してか、それとも
「ぎょわ―――!? 手、手が消えたぁ!?」
「空間を歪曲させてるから。引けば元通りだよ」
「―――あっ、ホントだ」
エイミィの体を張った実験の結果、少しのざわつきが聞こえる。
「ちなみに全身を入れるとどうなるのかしら?」
「フフフ、それは異次元空間を彷徨うパラサイトのような存在に成る―――な訳はない」
桜小路に面白がって説明する前に不安そうな顔をした面子が多いので、真面目に説明することにした。
「もしかして外の空間と繋げたのかい?」
「そんな所だ。演習室が安心安全ってわけでもないからな。緊急避難措置だ」
式紙を飛ばして『向こう』の空間に到達させた幹比古の言葉に頷いておく。
「随分とハイレベルな術を簡単に使う……」
空間歪曲の類は『魔法』に近いものだが、ある程度のセンスがあるものであれば、出来なくはない御業だ。
もっともこの場合は、繋げた先が所詮は『演習室の外』…渡り廊下いっぱいに広げただけなので、戦いの余波次第では流れ弾が来る可能性もある。
なんてことを言うと呆れるように達也は口を開く。
「それを防ぐために俺とお前でジャッジするんだろうが」
「わーってるよ。時間は―――大丈夫だな?」
両者に聞くと―――十字架を胸に掻き抱いていたレティが瞑想から帰ると同時に眼を開く。
そして深雪も瞑想から帰ってきた。
その『深度』は互角だろう。両者が準備完了となっている。
「双方、既に知っていると思うが、一応ルールについて説明しておく。色分けされたエリアの外に出てはならない。相手のエリアに入るのも、赤のエリアに出るのも失格となる。相手の身体に触れるのも禁止だ。武器で触れるのも失格となる。ただし」
そう言って達也はチラリと深雪の顔を見た。
「魔法で遠隔操作する武器・『使い魔』は違反にならない」
達也はすぐに双方を等しく視界に収めるポジションへ視線を戻した。
「最後に、致死性の攻撃、治癒不能な怪我を負わせる攻撃も禁止する。危険だと判断した場合は強制的に試合を中止するからそのつもりで―――」
その辺りの匙加減は、テクニカルジャッジにもかかる。
次に達也が視線をやったのは、反対側のセンターラインに立つことにした副審役の刹那であり、見られたことで制服の両袖を捲くって刻印の励起状態を示す。
緑色の輝きと赤き輝きを見たことでうなずく達也。どうやら安全は保証されたようだ。
その後には審判の指示もなく定石通りにお互いのエリア中央に移動する2人。
改めて両者の礼装を見ると深雪は、いつもどおりな汎用型CAD。腕輪型ではなく携帯端末のようなものは見慣れすぎたものだ。
逆にレティのは特化型に似ていながら、汎用型規模のストレージを備えるもの。
この国ではあまり一般的ではなく、更に言えば刹那も入学当初は使っていたのだが、やはり『術』の『キレ』が悪くなるという感覚が出てきたので、早々に『イラネ』としてしまった経緯がある。
結果として、自分の『異常性』は多くの人間に知れ渡ったわけだが……。
ともあれ、そんなことはともかくとして…ソロモンというCADは稀代の発明家レオナルド・ダ・ヴィンチが、同じく開発者アビゲイル・ウィリアムズと共に作り上げた逸品だ。
その希少な生産数とハイエンドな性能からアメリカ政府ですら露骨に他国への供給を嫌がったという顛末まで残されている。
達也もその辺りに興味津々らしいが、その一方で深雪の敗北も求めてはいまい。
面倒な男だ。
だが戦いは否応なく始まる。主審の腕が『始め』の言葉と同時に、断頭台のように落ちて魔法戦が始まる。
―――先手を取ったのは深雪の方だった。
直情径行型の彼女のことだからインフェルノやニブルヘイムだのを初っ端から使ってくると想ったのだが。
そういった意味では意外な
連射といったが、20数発もの空気弾を一斉に打ち放したのだ。
それに対してレティはそれを受け止めるように腕を前に伸ばして忙しなく指を動かしていた。
レティの周囲に形成された障壁がそれらを掻き消した。
その結果が―――深雪を『焦らせる』。
だが障壁とて全方位を同じ密度でカバーしているとは思えない。空気の塊がレティの全周囲を飛び交い蟻の一穴を突かんと動き回る。
そうでありながらもレティは防御だけでなく攻撃を開始する。
「トルナード!!」
音声認識システムを常備しているソロモンは、術者の声に応じて術を起動させる。
打ち込まれるのは横に発生する『竜巻』2本。
その圧は離れていても全員が感じるほどだ。等間隔で深雪の左右を通り過ぎる大気の渦。
決して運痴というわけではないが、それでも身体的バネがあるか? という深雪にしては珍しく魔法を使わず踏ん張っていた。
(レティシアの狙いを見抜いていたんだな深雪)
達也は称賛混じりに深雪の踏ん張りの理由を察していた。
(左右の竜巻流は、深雪を害するためではなく逃げ道を潰すためにあり、どんな魔法でも使っていれば、その一手遅いところに切り込まれていた)
竜巻流がもしも深雪の真正面に放たれていたならば、当然打ち合いか防御されるのが筋。
あくまで狙いは深雪を『動かさず行動不能』にすることが目的だったのだ。
同時に左右の気流による吹っ飛ばしを回避しようと『魔法』を使えば、その間隙にレティは叩き込んでくる。
ゆえに本命の一手。
レティシアは、五指を一杯に開き、腕を伸ばしてもう片方の手は肘部分を上から包んでいた。
―――力ある魔弾が装填されて深雪に狙いを着けていた。
もしも魔法を使って竜巻を何とかしていれば、その一手遅いところに叩き込まれていたのだが……。
(俺の
それに追随するかもしれない『人間』が―――いま、目の前にいる。
腕を既に上げて発砲準備を終えているレティに対して深雪は、先程の攻撃で踏ん張りながらも端末を前に構えていた。
((負けん気が強い))
深雪の指が動き、レティの腕が撓み―――。
―――双方の弾丸が放たれる。
氷の魔弾よりも早く光球の弾丸が放たれる。当然、応じる深雪の氷の魔弾。
魔弾には術者それぞれの『クセ』が投影されるものだ。
魔術師的には初歩の技であり『魔術』ですらない『手業』と揶揄されることも多いが、初歩なだけにその『破壊力』も人によってキャパが跳ね上がるのだ。
(互角以上、深雪はこういう単純な
圧倒的な魔法力があるからこそ、その有り余る現象改変力で相手を封殺出来ることこそが深雪の強みともいえる。
(刹那の魔弾は既にインデックスにも『登録』され新術式だ。それゆえに深雪のような『絶対者』にも通用するものだ)
いざとなれば相手の魔法を己の改変力で封じることも出来る深雪にとって刹那のもたらした魔弾は、相性が悪いものだ。
体の内側から放たれる『マックス・カスパーの魔弾』は、絶対的な力を持つ魔法師を倒す術の一つだ。
(そもそも高位の存在が持つ『呪的防御』に対して、唯一の対抗手段とは『己の肉体』のみ、己の肉体を介して直接『チカラ』を叩き込めば)
悪魔、魔神、天使、神霊……程度によりけりだが、討ち果たすことも可能なのだ。
CADという器物が持つ最大の弱点。
それはどう言い繕ったところで、中継基地の役割として存在している以上、己の『内側』から放出される魔力とは相性が悪いのだ。
情報が2次3次と複製される度に劣化するのと同じく、目には見えぬ『劣化』が、どうしても『差』として出る。
破壊力や規模としては『同格』にしか見えなくても、そこには『目には見えぬ差』が出る。
光球の他に光線を吐き出しているレティの攻撃が、深雪の防御障壁に着弾していく。
片や深雪の魔弾はレティの魔弾で迎撃されていく。
(口径と銃口の数ではレティの方が上だ)
(―――そこからどうする深雪?)
光線……エネルギーの矛が、深雪の障壁を壊すかと想った一瞬、レティは思いっきり飛び退いた。
バックステップ。ラインを超えることはないもののその行動に誰もが驚いた。
その時、数秒前までレティがいた場所から飛び上がるものがいる。白煙を棚引かせながら飛び出たものはミサイルかと見紛うものだが、出てきたものは空中でアクロバットな飛行を終えると深雪のエリアに『着地』を果たす。
そこにいたのは―――。
『『『『『キュピー!』』』』』
白と黒のにくいあんちくしょう。
黄色は成鳥してから入る色……。
ペンギン目ペンギン科オウサマペンギン属……。
コウテイペンギンの雛鳥がいたのだ。
まだまだヒナだが、荒ぶる鷹のポーズを取ってレティを威嚇する様子は………。
「「「「か、かわいいいい―――!!」」」」
随分と女子たちに人気なのだった。目がハートマーク(想像)になるぐらいには、深雪が呼び出したのはファンシーな召喚獣(?)だったのだ。
「か、かわいいですが、どれちょっと触ってみま―――どわぁ!!」
手を伸ばそうとしたレティに対して冷凍ブレスを浴びせるペンギンたち……如何にかわいかろうと、リヴァイアサンの眷属は、そうそう敵に懐柔されない怪獣なのだ。
「お、おのれ! この ペンギン目ペンギン科オウサマペンギン属コウテイペンギンのひな鳥が!!
当方に迎撃の用意ありですよ―――!!」
わざわざ学名の和名を言わんでもいいのに律儀に説明したレティが、容赦なく魔弾を叩き込もうとするも……。
「ノッてきたわね!! さぁいくわよいくわよ!!」
『『『『『キュピー!!!』』』』』
テンション高めの深雪の指揮の下、ペンギンたちは飛翔をして魔弾を躱していく。
そしてレティの展開している障壁に啄みという突撃を四方八方から打ち出していく。
「私の展開した
「私の打ち出した空気弾の風圧すらアナタには届かないと分かれば、すぐに対処しますよ!!」
最初の攻防の時点で深雪は、レティの『防御力』を段違いなものだと位置づけた。
(確かに空気弾みたいな圧縮された『現象』というのは、魔法としての『カタチ』を崩されたあとには、自然現象としての『カタチ』を取り戻して世界に還元される)
(レティの周囲四方八方……特にあまり意識が向いていない下方にも放っていたのは、どこかにあるかもしれない死角から相手に現象の圧でも届かないかと探っていたのか)
主審と副審の出した結論は、全員に伝わらずとも何人かは見抜いてそれを周囲に説明していく。
結果として『そよ風』一つすら届かないことを悟った深雪は、『メルティ・リヴァイアサン』の術式を投射する準備をしていた。
魔弾の撃ち合いは、それを隠すための
(深雪にしては、随分とはっちゃけた技を繰り出したもんだな)
ケンカをする上で頭数なんざいらないとして動き出しかねないのが彼女だったと思うのだが……。
「忍法『口寄せの術』を使うとは、深雪! 私はアナタを少し見縊っていましたよ!!」
忍法・忍術にそんなものはない。と返したい達也だが、深雪のリヴァイアサンで食い破られそうな結界を保持するレティは、興奮して言いながらも深雪のニブルヘイムにまで防御を張り巡らしている。
(―――やりすぎか?)
(だが防御は出来ている。流せ)
達也が懐に手を伸ばしたのを見て、ハンドサインで刹那は返す。
「モンジョワ! 流石は私の
勘弁願うと言いたいレティの言葉に壁の向こうにいるリーナが今にも襲いかからんとしていたが、瞬間―――。
「さぁ私もそろそろいっきますよ――!! とっておきの
快活に余裕を持って戦うレティに対して、笑みを浮かべる深雪……。
輝きを増すレティの指輪。
軽快に深雪も端末に指を滑らせる。
どうやら決着は近そうだ―――。