魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

256 / 414
第237話『フルマジック・パニック‐Ⅳ』

 

 

「夏のイルカサマー♪♪ 私のイルカは勇敢ですよ―――!!!」

 

 ペンギンの次はイルカかよ!?

 誰もが驚愕するビックリ術の応酬。

 床面を海面(うなも)のようにして出てきたイルカは『キューキュー♪』と鳴きながら、レティの手招きに応じていた。

 

「さぁ行きますよ!! リース!! 集いし星が絆を繋ぎ、祈りとともに未来へ駆ける!! リース・ホーリーレイ!!」

 

 レティシアが展開した光輪。巨大なものが幾つも頭上に展開して、そこからシロイルカの突撃が始まるのだった。

 

「イルカ突撃隊!! レッツゴー!!」

「くっ! かわいいイルカさんを使って攻撃するなんて!卑怯な!!」

 

 ペンギンを使っているお前に言えた義理かよ。そんな目が届くも、構わずペンギンとイルカが突撃しあい、そうしながらも2人は魔法を打ち出し合い、相手を穿とうと蒼光と白光が交錯する。

 

(領域干渉においては深雪は勝っている。だが、レティの形成する『結界』は並の強度ではない)

 

『敵が能力を出す前に叩け』というのは魔法師の間では正論だ。

 だが、それを覆すように、圧倒的なまでの干渉力を元に後出しジャンケンで勝ってきた深雪にとって、こういったひりつく戦いというのは経験が無いだろう。

 

(そこで『脆さ』が出るかどうか、だな―――ああ、けれど一つだけあったか)

 

 九校戦におけるリズリーリエとの戦い。彼女との戦いで何を得られたかにもよるだろう。『減速領域』を展開することで、イルカを止めようとするが……。

 

「ぶべっ!!」

 

 ビーチボールがどこからか飛んできて、『減速領域』をもろともせずに内部にいる深雪に叩き込んでくる。

 イルカが空中で跳ねながら叩き出してきたボールは、『強烈な魔力』を伴った『飛び道具』として深雪に襲いかかる。

 

 『減速領域』(ディセラレイション・ゾーン)とは対象領域内の物体の運動を減速する魔法である。

 

 だが深雪がこの魔法を使ったならば、減速対象は気体分子に及ぶ。

 気体分子の運動速度と気体の圧力は正比例の関係にある。

 閉鎖空間内の気体の圧力は気体分子の運動速度の二乗に比例する。

 分子運動を強制減速された領域内の気圧は下がり、圧力勾配に従って周囲の空間から空気を取り込む。

 

 しかし―――そういった理屈を全て覆すのも魔導の儘ならぬところだ。

 

(確かに物理法則の面、『人理』という側面では、その法則は紛れもなく『正しい理屈』である……しかし―――)

 

 突き詰めれば、魔術にせよ現代魔法にせよ、魔導における『式』というものを魔力(チカラ)で作り上げて、限定された空間に解き放つことで、自らの理想の事象を起こすことだ。

 

 だが、その一方でインチキ臭すぎることに、限りなく『直接的な手段』で『奇跡』を起こせるのも魔導の理屈ではある。

 

 世界を作り変える感覚。それを持つものこそがソーサラス・アデプト全ての条件だ。

 己が願った『奇跡』(りそう)を叶えるために世界は『層』を成す。

 

 その際に地球全てに張られた『テクスチャ』が問題となる。

 

 世界は二層となり、不要となった『層』を排斥して現象を世界に打ち付ける……。

 

(その際に現代魔法師の場合は、打ち付ける理想が、どうしても『地球表面』にある人理版図(テクスチャ)から抜け出れてはいない。ここが神秘層―――『星の理』を『介して』現象を発動させる魔術師との差になる……)

 

 とはいえ、現代に残る『魔術』の大半は、そこまで『星』に寄ってはいない。彷徨海バルトアンデルスのように、神代の理にまで遡りはしないのだが……。

 

(どうしても質のいい魔力を相手にすると、如何に現代魔法で優秀でも、『物理法則』で対抗できないチカラなんだよな)

 

 巨人が投げた投石(岩)ですら、巨人という神秘の塊が投げたという『事実』から、強烈な魔力を帯びてしまう。

 

(減速領域にしても、仮に深雪がもう少し暴風の魔神『テュポーン』に関しての知識があれば、効果も違ったんだがな)

 

 知識(ウィズダム)という意味では、物理現象に偏った女である。

 

 刹那がどうでもいいことを考えている間にも戦いは転換する。

 『小技』ではレティシアに食い破られると分かった深雪は、受けに回らず果敢に攻めに回ることにした。

 

 直径にして3mはあろうかという氷柱を虚空に作り上げて、それを一気呵成に叩き出す。

 

 その数12本。氷のジャベリンというには、あまりにも巨大な尖頭砲弾は、レティシアのカテドラルを揺るがす。

 

 着弾すると同時にこちらの要塞を揺るがしたことに、レティシアも瞠目する。理解したならば、こちらも打ち据えるのみ。

 

 エンジェル・ハイロゥ(御遣いの光輪)を展開することで打ち出す光線の威力を上げる。

 

 決着はそろそろ着きそうだった。

 

 ・・・・・

 

「マクシミリアンからのセールス及び講義の受講要請? なんでまたこんな時期に?」

 

「まぁ色々ありましてな。どちらかと言えば、代議士からの要請という方が正しいでしょう」

 

 事の発端は、中国での内戦勃発であった。

 まるで開戦日時を示し合わせたかのように、第一高校が文化祭という遅れたハロウィンパーティーを開いていた時に起こった国際的なビッグ・トラブル。

 今となっては、大亜細亜連合との間に外交的繋がりはない。もちろん有形無形で様々な情報収集や潜入工作はあったのだが……。

 

「共通で国交を結んでいる第三国で、外交筋からの情報収集は行っているし、接触とて行っているだろうに」

 

 言葉でダ・ヴィンチは桂馬―――2方向に飛び越えが出来る駒を動かして、百山の本陣前に陣取らせた。

 

「おっしゃる通りです。だが―――あちらも『混乱』をしているようでして、確かな情報が入ってこない……」

 

「成程、彼の国は2020年に起こしたコロナウイルス流出騒動において、自国の不満を逸らし、暴動に起こさせないために『他国への軍事行動』をエスカレートさせた……狙われた香港は溜まったものではないからね」

 

 思い出すに、その時には刹那も香港在住の魔術師を保護するために狩り出されたことがあった。

 天体魔術の一門にいた死霊魔術師『フェルナンド・李』の要請もあり、向かったことを思い出す……。

 

「もっとも、そんなことで民衆を宥めすかせるはずもなく、中国大陸は『分裂状態』に陥ったからね」

「貧すれば鈍する。余裕がなくなれば社会不安は現実のものとなり、豊かなところから奪おうとする……人類の悪性ですな。ともあれ、そういった危機不安から『万が一』の場合に魔法師の戦力化を目論んでいるようです」

 

 ダ・ヴィンチの歩を飛車で取る百山のさばきを当たり前のごとく理解して金将(きん)で取る。

 

「その政治屋の俗物が何を企んでいるかは知れないが、まぁマクシミリアンはそれなりにお得意さんだ。便宜を図らなければ、マズイでしょう」

 

 その言葉を最後に全ての決は整ったのだ。

 

「感謝します。ダ・ヴィンチ先生」

 

 深々と頭を下げる百山校長に、頭を上げてくれと言うダ・ヴィンチちゃん。

 勝負ごとをしている際に、それは不味かろうという想いもあったのだが。

 

「ウチの坊やの勝手を許してもらっているんだ。それぐらいはお構いなく。ちなみに、その政治屋の名前は何でしょうか?恐らく、ハロウィンパーティーの際に妙なちょっかいを掛けてきた人間だと思いますけど」

 

 ちょっとした興味もあったダ・ヴィンチは問いかける。

 自分が、後世にはルネサンス期などと呼ばれる時代に活動できたのは、当時のローマの支配者でもあったミラノ公がパトロンとなってくれていたからだ。

 

 いつの時代も芸術家というものは困窮しており、出資をしてくれる相手を何が何でも欲するのだ。

 狩野永徳(エイトク・カノー)とて、足利将軍家(アシカガショーグネイト)から金を貰って大傑作を作っていたそうだから……並べてお金あってこその芸術大作なのだった。

 そんな興味からの問いかけだったのだが……驚きの答えが出てきたのだ。

 

「野党勢力の一つに過ぎませんが、反魔法師ポピュリズムを利用して、現在注目されている政党『民権党』の代議士―――『■■■■■・■■■■■■神田』という人間です」

 

 聞いた瞬間にダ・ヴィンチは―――それは本当に『日本人』なのか?と疑問を持ちながらも、少しだけ考え直す。

 日本の政治では覆面レスラーや芸能人がリングネーム、芸名の『その名前』のまま議員になることも、『アリ』なのだった。

 もっともそれは『地方議会』だからこそまだ許されていることだが、流石に国民議会の議員まで、そんな名前とは……。

 

(死徒なんてものが暴れまくる都内でコレ以上の混乱は避けたいんだがね。とはいえ、最大級の問題は『シオン』だ……彼女は何かを隠しているな)

 

 敵ではないが味方ではない。なんて『単純』な関係ではない。そこを詰めきれていないのだ。

 百山校長の『玉』(ぎょく)を詰みに持っていきながら、ダ・ヴィンチは考える。

 

(ズェピアが『現象』になった原因……やはりそこが問題だ)

 

 再び負けた百山校長(15連敗中)は、『今度こそ勝つために!』などと言いながら棋譜並べをしているのを見て、インスピレーションが走る。

 

(―――今度こそ、か)

 

 死徒となって『永遠』を生きる連中が、そういう情熱に走ることなどあり得るのか?

 

 情報が必要だ。とにかく深く深く探らなければ、手遅れになってしまうかもしれない。

 そうしてレオナルド・ダ・ヴィンチという英霊は、先程から放たれる強大な魔力のぶつかり合いを、少しだけ呆れつつも懐かしく思う。

 

 あの頃……カルデアには多くの英霊たちが集っていた。『探偵』に言わせれば、システム・フェイトが呼び出す英霊は、あまりにも野放図であり、有り得ないものばかりであると断じてきた。

 

 いま考えれば、アレはかなり異常なことだったな……確かに英霊をあるクラスに嵌める上で、必要な作業は分かる。

 だが、多くのクラス適性を持つ単一の英霊(そんざい)が、百貌のハサンのように『霊基分裂』しないで、それぞれの人格と自我を持ちながら『全盛期』の姿で現界していたのだ。

 

 例をあげれば、クー・フーリン。

 

『彼』は『ランサー』『キャスター』『バーサーカー』としての側面を持った英雄であることは分かっていたが、カルデアに召喚された英雄クー・フーリンは少なくとも『四騎』。

 

 いずれも『我こそが英雄クー・フーリン』という自我を持った存在である……。

 

「―――いかんな。少し考えが逸れた。にしてもミユキ君とレティシアの戦いは―――昔を思い出させるな」

 

 首を振って頭に浮かんだことを消しておく。理論、考察を思い出すことはいつでもできる。

 ただ……いまは少しだけ遠い眼をしながら、あの頃のことを思い出して―――職務に戻る前に……。

 

「ロマニのところに行くとしようか、『シバのレンズ』を作成してもらっている手前、茶の一杯でも淹れてあげよう」

 

 面白がりの性分を、思う存分発揮することにするのだった―――。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「―――Adramelec―――Aladiah―――」

 

 今にも戦術級魔法を打ち出す寸前だった2人のうちレティの方を打ち消したのは、刹那の方であった。

 深雪の方は達也の担当ではあったが、最終的には―――。

 

「術の余波を喰らわずに済んだのは僥倖か」

 

 発動速度では若干上回っていた深雪のニブルヘイムの凍気・冷気の類までも、『魔力』に還元して吸い取ってくれたのだから。

 

「も、申し訳ありません! お兄様!! お怪我は!?」

「無い。どうやら―――現象全てが魔力として、あの2つの宝石に『吸収』されたようだ」

 

 見ると、刹那の手の中には赤橙の『日長石』と青白『月長石』が握られており、そこに魔力を封じたのだろう。

 

「勝負は引き分けでいいだろう。戦術級魔法の撃ち合いにもつれた時点で、終了だ」

「私の『ヘミソフィア』を皆さんに披露したかったのですが、仕方ありませんね」

 

 恐らく魔法の名前なのだろうが、何というか……色々と『アウト』な気がする。ただ興味を覚えるのは開発者としての(さが)としか言いようがない。

 

 インデックスにも登録されないEU方面で開発された魔法……。

 それに興味を覚える前に、深雪に告げる。

 

「余裕綽々なレティに比べれば……などとは言わない。だから―――手を借りたくなった時には借りるさ」

「はい―――ただレティとの『チカラの差』は、少し悔しいですね」

 

 負けず嫌いの深雪の言葉に苦笑しながらも、戦うものは―――『剣』は揃えられていても、チェックを掛けることが出来ないもどかしさが、どうしても募る。

 別に博愛主義というわけでも、極端な人道主義というわけでもない達也からすれば、どこで誰が死のうと構わない―――だが、足元に人喰い虎がいるという事実に、どうしても『不安』があるのだ。

 

(……刹那以外の情報源が必要だ。ことの発端たるマイクロブラックホール実験においての『ナマの情報』が……)

 

 だが四葉の情報源は、所詮は国内に限られる。当主である叔母は、どうやっているかは知らないが、遠くからも『情報』を得ているようだが……今回は当てには出来ない。

 

(―――雫だな……)

 

 雫のいるカリフォルニアバークレーとネバダ州はかなり近い。

 

 USNA軍とて事態を全て隠蔽出来たわけでもあるまい。ならば巷間に出回る噂があるはずだ……。

 

(雫からすれば、刹那に連絡を貰った方が嬉しいんだろうけどな)

 

 だが、昨今のアイツは、ハードワークが終わらなさすぎる。

 

 全てが終わった後に、何かの連絡を着けさせればよかろう。

 もしくは無理やり引っ張ってでも雫と連絡させるかだ。

 

 そんな風に考えながら達也は、現在―――レティシアに引っ付かれて宝石をむしり取られそうで、それを見たリーナが怒るという様を見ながら……。

 

(やっぱり無理やり引っ張るか?)

 

 と、少しの苛立ちを覚えるぐらいには、ハーレム野郎だったのだ。

 

 だが、ヤツの地獄はここからだ。なんせ10日ほど後には、例の日がやってくる。

 

 それは聖人バレンタインの没した日であり、日本のお菓子メーカーにとって最大級に力を入れていく日……。

 どこでこんなブームが作られたのか知らないが、一世紀以上も前のお菓子メーカーと癒着した広告代理店の広告戦略を、未だに『時代遅れ』とは断じない。

 古臭い習慣とは誰かが言っても同調しない日。

 

 ―――セント・バレンタインデーがやってくるのだから……。

 

「ホワイトデーのお返しはアイツにとっちゃ地獄だな」

「お兄様も少しは血の池地獄に浸かる必要があると想いますけどね。中学時代のことをお忘れで?」

 

 言いたいことも言えないこんな世の中に、ポイズンブレスを盛大に吐くデーモン深雪閣下なのだった。

 

 他校の女生徒が行うかもしれない出待ちの対応・対策なんてのが生徒会メンバー(女子のみ)で行われて、疑心暗鬼を生じて三高の一色たちの動向を確認していたなんて噂も聞こえているのだ。

 

 ……お疲れ様、及びご苦労さまという意味を込めて達也は苦笑しながら、それが真実だった場合と仮定して、妹の頭を撫でるのだった。

 

 例えその耳に……。

 

「まぁアーサー王とフランスというのは縁が深いからな……『傷知らずのアグラヴェイン』が最後まで渋っていたランスロット卿の円卓就任も、フランス(国外)との貿易を彼が仲介することで円滑になったぐらいだからな」

 

「ランスロットはアーサー王伝説終焉の引き金を引いた元凶でありながら、アーサーにとっては無くてはならない存在だったからな」

 

 刹那とモードレッドの会話。そしてそれを興味深そうに聞いているエイミィ―――。

 一頻りアーサー王伝説に関して話したあとには、同時に同じ方向を向けば、いたのはレティシアであり……。

 

「「「おのれフランク王国」」」

 

「3人の英国人が私を攻め立ててくる!! 美食で知られる我が国土に挑みかかるか、粗野な食事のイングランド!!」

 

 何の戦いだよ? そう突っ込まざるを得ない会話を聞きながら、やはりモードレッドとレティシアは、アルトリア・ペンドラゴン(アーサー王)に似ているんだよなと達也は結論を出すのだが……。

 

『似ていませんよ!! 特に胸とか、全然違いますからね!!』

 

 などという幻聴を受信するも、それを気の所為として達也は歩き出す……今日の夜に向けて―――。

 

 




next……『Farce/melty blood』 start

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。