魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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今回からのタイトル。

往年の型月ファンは良く知っているもの。多くのMADムービー作者たちが封印指定され、今で言えば冠位指定もありえるという作品の数々。

そんな頃を思い出しながらのタイトル付けでした。

新話どうぞ。


第238話『Farce/melty blood‐1』

 

「吉田くん、東京タワー公園にシグナルを確認したわ。現在、飯倉交差点方向へ移動中よ」

 

『了解。こちらの現在位置は桜田通り虎ノ門交差点付近です。飯倉交差点へ急行します』

 

 そんないつもどおりの会話となってしまった剣呑な夜の戦い……。そこに刺激が欲しくなってしまった真由美は、何となくの遊び心を発揮することにしたのだ。

 

「3分間待ってあげるから可能な限り早く来なさい♪」

 

 心のなかのマインド真由美が舞い踊りながら、そんなことを後輩に言うのだったが、戸惑う後輩へのアシストゆえか、十文字克人が代わりに応対に出るのだった。

 

『お前は、どこの『お空の王様』だ?』

「言葉を慎みたまえ。君は魔法師の王と口を聞いているのだぞ。敬いたまえー」

『問答無用で切るぞ』

 

 そんな言葉で通信が切れる。どうやら程よく緊張感はほぐれたようで、真由美はホッと息を吐いた。

 

 終わりのない闘争などとは言わないが、明確な戦略目標が建てられない戦いほど気が滅入る話はない。軍事的な言い方ならば『策源地』すら分かっていないのだ。

 家が所有している通信中継車の中で、真由美とて気鬱を吐きそうなのだ。

 

 ……敵は霧のように発生して霧のように霧散する。

 

 明確な実体を持たない『霊体』とでも言うべき存在は、現代魔法師にとって難敵であった。

 サーヴァントのようにある種の『実体』を伴って酒でも飲んでくれていれば、なんだかホッとするのだが……。

 

「お嬢様、こちらを」

「ありがとう竹内さん……」

 

 執事の1人から渡された紅茶を飲みながら考えるに、考えても答えは出ない。

 

 ダ・ヴィンチ経由でネットワークに流れてくる『霊子増大確認図』で、東京全域の反応は一目瞭然。更に言えばグールの反応との区別は着いている。

 グールの反応に関しては、いち早くランサーのサーヴァント『長尾景虎』が対応して、マップで確認してから名倉を向かわせる前に消滅しているのだ。

 

「都内での行方不明者も、『この前の騒ぎ』以来増えてはいませんからね」

「穴熊を決め込まれても困るのだけど、これ以上動く死体が増えても困るものね……」

 

 だが、この死徒による吸血騒ぎが招いた影響は大きすぎる。

 

 明確なものは、まだ発表にはなっていないが、それでも夜毎に街に繰り出して夜遊びをしている『若者』が人知れず消えて、接待型の性風俗ではなくとも居酒屋など広義の意味での『風俗店』への客足は自然と絶えていく。

 

 2020年における中国発の新型コロナウイルス大量罹患騒ぎ……日本で最大の人口密集地であり、多くの意味で表沙汰には出来ない『裏向き』のサービス業も充実している東京は、多くの罹患者を出した。

 

 

 その際の都知事や政府の出した『自粛要請』のごとく、客足は自然と絶えていった。

 

 

 人々はウイルスという見えぬ『敵』に恐れて、『誰』から伝染るのかと疑心暗鬼を生じて、社会不安は顕在化して、多くの人が貧すれば鈍するとなっていく。

 

 

 社会の悪循環である……。

 

 

「ひどいものでは魔法協会が国家転覆の為に、人体実験用の検体を大量に捕縛しているとも言われていますからね」

「あながち間違いではないのが、我が家の失策よね……」

 

 捕縛していた死体を殺処分したのは、刹那から説明を受けてからだ。更に言えば、『教会』の奇蹟とやらで浄化まで掛けられたのだから……我が家のは、マズイ手際だったのだろう。

 

 だったのだろうが……。

 

(確かに『ホトケ』を警察に引き渡さず、バチ当たりにも隠匿していた私達も悪いけれど、もうちょっと説明が早くても良かったと思うわ!!)

 

 魔法師だからと『菩提寺』が無いわけではないのだ。

 当たり前のごとく、そこにいずれは自分たちが収まることも考えれば……ようは、嫌悪感があったのも事実だ。

 

 

(この恨みはらさでおくべきか……! 達也君ともども、あの一年男子2人には積年(一年未満)の恨みを込めて、とびっきり『苦いチョコ』を与えて、(にが)くて苦くて目が回りそうな『ピーナッツ&ビターステップ』を千鳥足で演じてもらうんだから……!!)

 

 

 暗い情念を持ちながらも笑顔で画策する『ご令嬢』の姿を確認した中継車にいる執事一同は、考えを何となく読んで『よしときゃいいのに』と思うのだった。

 

 そもそも七草真由美と遠坂刹那とでは、何というか『役者』が違いすぎるのだ。

 そんな呆れを覚えつつも……。今日も滞りなく終わってしまった。

 

 だが、鋭敏な感覚を持つ現場にいた幹比古は、何かが変だと思えた。

 

 逃げ込むべき魔法師の肉体が無くなっていけば、『タタリ』というものは、徐々に存在濃度を下げていくはずだ。

 だが最後の一手で、ナニカに『具現化』することは既に規定事項……。

 

(刹那やダ・ヴィンチ先生は、沙条愛華やルゥ・ガンフー、王貴人が再生されると想っているらしいが……)

 

 そんな机上の空論だけで上手くいくだろうか?

 

(あるいは、ナニカを隠しているよな……不安や恐怖を具現化するというのは間違い無いかもしれないけど―――)

 

 その不安・恐怖の定義というのも『曖昧』だ。

 

(日本妖怪に出てくる『くだん』に似ているよな)

 

 一般的な『くだん』は、多くのヒトにとって起こってほしくない凶事・不幸を『予言』することで『実現』させてしまう妖怪だ。

 

 この妖怪の『噂』が出てきた当初は、物質的な豊かさがあまり保障されない時代だったので、凶作・飢饉・流行り病などの食えぬ・癒せぬでの『死』を誰もが恐れた。

 

 もちろん、『実現』(けっか)が先にあって『予言』(こうどう)があるのか。

 はたまた『予言』(こうどう)をするから『実現』(けっか)があるのかは議論の余地はある。

 

 だが、インスピレーションが働いた結果とはいえ、幹比古は何となくそんなことを考えてしまう。

 

 何故ならば、有り体に言えば『ヒマ』だからだ。

 

 エリカの魂魄から出来上がった擬似的な『概念武装』―――『心器』『心具』とでも言うべき剣は、恐ろしいほどに霊体を切り裂いていく。

 それを持ったエリカの抗魔力と身体能力が向上しているよう見えるのは、ある種の『起源覚醒』(よびさまし)でもあるからだそうな……。

 

「ただエリカに黙って施術しているってのは、どうなんだろうか?」

「どうせ千葉が言うことを聞かないと思って、栗井教官と共同で時限式の術式を刻んでいたそうだな」

 

 贄となったのは、エリカの『毛髪』。女性の魔術師……魔女にとって己の髪の毛は最高位の触媒であり、それらを介した術式は多い。

 九校戦において一条将輝がやったのもそれだったことを思い出す。

 

 どういうカラクリなのかは分からないが、エリカの毛は生え変わるのが速い。

 

 実際、美容室に通うのは月に4~6回だと言うのだから、新陳代謝がいいとかいうレベルではないのかもしれない。だが、その切られる髪、生え変わる髪……『生まれ落ちる髪』の全てから3割ほどが、自動で発動する魔法陣の中で贄として消費されていたのだ。

 

 そして丹念にエリカの『領域』で鍛え上げられた剣は、モードレッド・ブラックモアとの『接触』で確かな形で顕現したのだ。

 

「プライウェンというのは、アーサー王の盾だからな。いわば英霊の宝具だ。擬似的にとはいえ、『現代魔法』にまで落とし込んだ遠坂の無茶な仕事が、こうして結実したんだ。

 ―――殴られた甲斐はあったな……」

 

 言いながら厳しい岩のような頬を擦る先輩に、苦笑する。

 

(そう言えば十文字先輩も寿和さんに平手で殴られたんだよな……)

 

 ただの防御魔法としては規格外すぎるが、妹の安全を願う兄の心を理解した刹那の努力であった。

 とはいえ、そういった風な適正違いの術なだけに、どれだけ修練してもエリカには、どうにも発動が速くなることはなかった。

 

(だが、いまは―――)

 

 剣は盾から変化したが、盾としての『機能』が無くなったわけではない。

 

 自爆攻撃―――エーテルの破裂という攻撃パターンは最近になって出てきたものだが、エリカの至近距離での爆発。

 

 宿主ごとのそれを前にして、エリカは剣を垂直気味に立てながら片手を柄に、片手を刀身の半ばに添えて―――念じた。

 

 念じると実体ではない魔力盾が剣から発生して、爆発の勢いと発破の熱をやり過ごすだけのことが出来た。

 

 障壁魔法を張っていても身を縮こませるべきそれは、エリカにとって脅威ではなかった。

 

 手早く鎮火を果たして、黒煙が上る前に証拠を隠滅する。

 幹比古は即座に霊体に干渉しようとしたが、その干渉は―――振り払われた。

 

(強大化、もしくは学習している?)

 

 術を組み立てる間に思考した幹比古だが、霊体は光速かと見紛うばかりの速度で一帯から消え去った。

 

「吉田」

 

「すみません。ロストされました……」

 

 不甲斐ない限りであった。刹那ならば、霊体そのものを掴み離さず消し去るだけのことは出来たはずなのだ。

 悔しさをにじませていたが、気にするなという言葉で若干、救われつつも――――十文字はエリカに話しかける。

 

「千葉、戦ってみた所感はどうだ?」

 

「いつもどおり―――としか言えませんが、ただ気になることが」

 

「気になること?」

 

「タタリの霊体が憑依した存在にも確かに感情はあるんですよね。あのスプラッタームービーで確認した限りでは……」

 

 個人を特定させないために覆面を被っていた彼らだが、それ以外にも分からなかったことは表情の如何である。

 攻撃が効いている効いていないの類を確認するに、一番なのは表情が見えることだ。やせ我慢をしていたとしても、『何か』が見えるのが、感覚神経がある存在ゆえん。

 

 変化が見えるかどうかなのだが……。

 

「今日は少し違いましたね……今までは『仕方ないから自決する』という、目が死んだところがあったんですけど―――」

 

 言葉を区切って、エリカは少し汗をかき緊張した面持ちで、それを告げた。

 

「今日のパラサイト(タタリ)の目は違いました。死を目前にしてギラついている……まるで獲物をせしめて、まんまと逃げおおせて勝ち誇る『こそ泥』のように―――『キサマラは要らぬ』……そんな言葉を吊り上がる口角で言ってきたような気がするぐらいでした」

 

 その言葉に男2人は、表情を渋いものとせざるを得ない。間近で戦っていたエリカだからこそ分かる変化……。

 

 ―――キサマラは要らぬ―――。

 

 その言葉は、今まで魔法師の肉体をさんざっぱら利用してきた寄生虫のような連中が、本格的に動き出そうとしていた宣言に聞こえたのだった……。

 

 起こっている事態に対して本格的な対処が出来るはずの『魔法使い』は………。

 

「打ち鍛えるには魔力を込める以上に心を、魂を込めなければいけないんだ!!

俺の剣製っていうのは、剣を作る事じゃないんだ。そもそも俺には、そんな器用な真似はできっこない。

そうだ。俺に出来る事はただ一つ。自分の心を、形にする事だけだった!!」

 

「はい師匠!!! 力を貸してくれ!! クラレントの担い手! 叛逆の英雄!! モードレッドォオオオ!!!」

 

 高温どころか極・高温の鍛冶場、サウナよりも暑くて熱い場所……立っているだけで、汗どころか塩粒すら体に浮かび上がるところにて、槌を力の限り振り上げて振り下ろす作業を繰り返す2人の男女。

 

 剣製の術を、刹那はただ『便利な魔術』としか想っていなかった時期があった。

 

 だからこそ一振り毎に魔剣を鍛え直す作業に執心する。雑念は剣の形を歪める。

 それではいけないのだ。右手の刻印が最大励起を果たして、赤い溶鉱炉のような部屋でも輝きを増す。

 

 魔剣を聖剣に鍛え直す……。とんでもない作業。

 

 その様子を固唾を呑んで見守り、時に鍛え直した剣を入れる水の温度をしっかりと見るリーナ。

 

 最初は刹那も追い出していたのだが、それでも『見る』と聞かぬリーナに与えた仕事。それもまた肝要ではあったので気を抜くことは彼女もない。

 

 三位一体の工房……鍛冶場。エンチャンターとしての腕が冴え渡る。

 

 そうして『外』の時間で『丑三つ時』まで続いた作業は恙無く終わるも……。

 ―――『■■■■■■■』にするその作業は―――『六割』の工程をようやく踏むのだった……。

 

 

 ・

 ・

 ・

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 ふあああああ〜〜〜。盛大なアクビが、四時限目の授業が終わったB組の教室に響き渡る。

 

 その数は『3つ』。

 

 3つのアクビを一つに合わせれば『大魔王の娘』も召喚出来そうな気がするが、それはともかくとしても3人が同時にアクビをするとは、余程の夜ふかしだったのだろう。

 

 だが、その『組み合わせ』が、色々なものを想起させる。

 刹那とリーナがアクビをすれば、『こんちくしょう』と大体の男どもは嫉妬を思い患う。

 

 だが、その中に今回含まれていたのは、B組の留学生の1人、英国よりやってきた金髪の乙女『モードレッド・ブラックモア』である。

 

 まさか、まさか……。誰もが否定したいが、それでも真実を聞きたくない思いでいながらも、誰かが聞き出すことを願う。

 

 今日は、いつもとは違い大きめの『製図ケース』 『アジャスターケース』だろうものを担いでやってきたモードレッドは、違っていた。

 

「随分とお疲れみたいだねー。どうしたのモーちゃん?」

 

「ああエイミィ……いやぁなんつーか。昨日、ついに『ヤッてしまったんだよ』。すっごい『タイケン』だったんだぜ」

 

 寝ぼけ眼を擦ってから赤い顔のままニヤけながら言うモードレッドの様子に、B組の面子の表情が色々になる。

 

「―――だ、誰とヤッたの!?」

 

 そこを聞きに行くか―――!? 探偵勇者エイミィの命知らずの行いに、B組の誰もが拍手喝采! 粉砕玉砕大喝采! な未来もあり得るのだが、ともかく詳細を語ってもらわなければならない。

 

「そりゃセツナに決まってるじゃないか。とてつもなく『熱い所』で、『汗だく』になりながら延々と『打ち付けあって』。リーナの『協力』ありで、明け方近くまで『ヤッてたんだぜ』……」

 

 男どもがワナワナと震えて、女子が一部を除いて生ゴミを見るような目で刹那を見るのだが、当の刹那は、半覚醒の状態のままに同じく机に顔を預けているのだ。

 

「―――いい加減、弁明しないとアレじゃないですかセツナ? 私とレティは分かっちゃいますが、分かっていない面子も多いのですから」

 

 そんな刹那に話しかけるは、後ろの席にいるレティによって髪を弄られていたシオンであった。

 

 前にもエイミィの手で弄られていたが、今度はレティである。

 確かに紫苑色の髪というのは珍しいから分からなくもないが―――。

 

「ツインテールにメガネっ娘なシオン……超萌ゆる……」

 

「死んだ魚のような目で言われても嬉しく感じてしまうこの気持ち……まさしく『マイフレンド』(マンドリカルド)!!―――まぁ私から聞きましょう。モードレッド、アナタは『何』を打ち付けていたんですか?」

 

「そりゃ『金槌』(スミスハンマー)に決まってるじゃないか。ニホンでは、大槌(オオヅチ)小槌(コヅチ)って言うんだっけかな? 頼んでおいた最高の刀剣作り―――ウヘヘヘへ! いま思い出しても凄い『大剣』(クレイモア)だぜ!!」

 

 言いながら製図ケースに頬ずりするモードレッドの姿に、B組一同、若干引き気味である。

 顔が崩れっぱなしで、もはや『変態』したヤンキーだが、その言葉で何人かが思い出した。

 

「エクスカリバーのこと?」

 

「……まぁな。とはいえ、モノホンは作れない。当たり前だが、『湖の妖精』ニムェが作ったものを、現代の鍛造技術では再現は不可能だ」

 

「そりゃそうだよね」

 

 エイミィの呆れるような納得の顔が見える。

 

 そもそも『本物』のエクスカリバーは現存していないのだ―――。

 

 という『虚言』で刹那はエイミィを躱していく。

 

(聖剣は星の内部で生まれ、星の手で鍛え上げられた神造兵器―――いわば、この惑星が作り上げた星を滅ぼす『外敵』(セファール)を想定して作られたもの。容易に振るえるものではない)

 

 そんな謂れは殆ど誰にも話していない。

 

 しかし、エクスカリバーを使った際の『揺り戻し』は、人理版図(テクスチャ)が打ち付けられた惑星の地表では耐えきれないものであるのかもしれない。

 

「紙一枚」ほどの見えぬ境界で成り立つ危ういもの……それが我々の生きている星の真実なのだから。

 

 閑話休題(それは兎も角)

 

 モードレッドに対して鍛えると約束したものは、錆びついた『支配の魔剣』を『星の聖剣』と同格に鍛える―――言うなればオヤジからの挑戦だった。

 

(元カノ未練剣がなんぼのもんじゃい! オレはオレの手でアンタを超えてやる……!)

 

 アラヤとガイアの両方から『承認』されるその剣は―――。

 

「しっかし、鍛冶仕事を終えた後にシャワーを借りたんだが、リーナ、お前育ち過ぎだぜ。 どんだけセツナに躾けられてんだよ?」

 

「チョットー!! た、確かにもはや周知で公然の秘密とはいえ―――こんな真っ昼間から、そんなワイダンするんじゃないわよー!!」

 

 頬杖を突き、猫のように笑みを浮かべながら言うモードレッドの言葉。

 

 ソレに対して顔を真赤にして猛烈に抗議するリーナの姿。

 だが、周囲にいる男子一同が鼻を押さえて妄想したのは―――この金髪美少女2人は、一緒にバスルームに入っていたということだ。

 

 ようは―――モードレッドも妄想の世界で登場していたわけで、ちょっとした百合百合しい世界が展開されていたりする。

 

 ということは―――昨夜……凡そ午前2時半にバスルームで騒ぐ女子2人の嬌声(?)を聞いていた刹那でなくとも、当然想像出来るものだった。

 

タスケテー(Help me)!! セツナー!!

 ボーイズたちにエッチな想像(イマジン)されちゃウー!!」

 

「ガンド打ってもいいならば」

 

 もはや見慣れてしまうぐらいに、禁断の兄妹カップルと同じく一高の様式美となりつつあるリーナの「HELP!」という名の抱きつき(ハグ)

 

 ビートルズ……作詞家であるジョン・レノンのように、「誰でもいいから」ではない特定の個人(遠坂刹那)に対して求めた助け。

 

 遠坂刹那というオノ・ヨーコと共に歩むリーナの図であったのだが―――。

 

 

 ――――びくんっ――――。

 

 世界が。

 震えた。

 

 そうとしか言いようのない感覚が一高にいる霊感(・・)強い連中を貫いた瞬間。

 

 ふいに刹那の目が「虹色」に輝く様、リーナも気づき抱きついていた首を更にしっかり掴む。

 姿勢保持のためだ。同時に刹那も背中と足に手を回しておく―――。

 

 ……姫抱きに変更をしてB組の教室窓を開け放ち飛び立つ。

 

 まさしく全員が唖然とするような速度、脱兎の如く駆け抜けた2人は直感の信じるままに赴く……。

 

(確かに死徒と違って霊体に昼も夜も無いだろうが―――)

(このタイミングはバッドよ!!!)

 

 心中でシンクロさせた2人の言葉は現実のものとなり、噴き上がる魔力の元へと急行させる。

 

 先行して景虎も赴いたが、即座に霊体化を指示。

 

 何故? という疑問が明朗ではないが刹那の中に伝わるも、説明している暇はないとして『温存』を強行する。

 魔力をカットしての強制的なものに、景虎の不満が溜まるが―――『最悪の場合』を考えての行動なのだ……。

 

 曇天のもとでの暗闘が望まぬ形で始まる―――。

 

 

 

 


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