魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
長台詞でも、すっと読めるような改行やらなにやらというのが、どういうものなのか、いまだに分からない。
ともあれ新話どうぞ。
――――そんな少しの小康状態になった瞬間、ダ・ヴィンチは服についた泥や土を払いながらタタリ・パラサイトを見すえて、口を開く。
それは断罪であり解体の
「気をつけろよ刹那。連中の狙いは『キミ』だ。少しばかり推理が遅れたが、彼らの目的がようやく分かった。ズバリ言えば、彼ら……タタリ・パラサイトの目的とは、『魔法』に挑むことだったんだよ」
「「「「――――」」」」
ダ・ヴィンチの言葉にあからさまな沈黙を果たすタタリ・パラサイト達。
この場で押し黙ることは肯定の意味を発したも同然。大根役者極まれりであった。
「こんなボロボロの姿での推理なんて、サマにならない限りだがね。ともあれ言わせてもらおうか―――元のタタリ、言葉遊びだが、タタリの『元』となったズェピア・エルトナム・『アトラシア』の目的とは『第六法』を手に入れることだった。
その経緯は割愛するが、顛末に関しては、ご覧の通りだね。キミたちは『魔法』に挑んで敗れたんだな?」
「ここでのネタバラシなんて、あまりに滑稽ではないかな。全智の賢者よ?」
「別に誰かが脚本を書いているわけじゃないしね。人生とは筋書きのないドラマという言葉を私は愛するよ。ゆえに今はウチの坊やに全容を教えておくのが一番だ」
タタリの1人が、代表するようにダ・ヴィンチに抗議するが、人類史に名を刻んだ万能の天才は聞く耳を持たない。
「魔法に挑んだ際に、恐らく『抑止力』はキミたちを殺したが、事前に蘇りの方法を設定しておいたことで、キミたちは現象として蘇り、そして度々―――ある種の『条件』を得て顕現。多くの死都を作り上げていた。
ある種の『条件』とは、魔的な要素が溜まりきった場所であり―――『噂』や『都市伝説』、人々の『口端』に登るほどに、決まりきったイメージが蔓延した市町村……昔はまだまだ未開な場所は、あちこちにあったからね。様々な『カタチ』になったんじゃないかな?
更に加えると、具象化するのは『強力な存在』であればあるほど『いいこと』なんだろうね。呪いのビデオやチェーンメールによる『怪異』なんてのは、今の時代に流行らないが、それでも―――形を変えてそういった都市型怪異は生き残った。『現代』で言えばインターネットのあらゆる媒体に存在している。SCP財団なんかがいい例だね」
一息に吐かれた説明を、言われる度に噛み砕いて理解できたものは少ない。
そんな数少ない1人である達也も、それならば、何となくの理解が出来るのだった。
そしてそんな『倒せない怪物』を『具象化』するならば、それは―――決して倒せない存在だということではなかろうかと想う。
如何に達也の分解が、あらゆるものを素子以下の存在に『細断』するとはいえ、『現象』……を分解することは出来ない。
更に言えば、それを構成しているものはそこに住まう『人々』―――タタリは、その姿を変幻自在にさせてしまうのではないだろうか?
「人間が持つ恐怖のイメージを具現化することで、災禍を撒き散らす存在。出来の悪いホラーだな……」
「出来が悪いとは聞き捨てならないな。『魔宝使い』。
古今東西、怪物とは正体不明でなければならない。
一つ、怪物は言葉を喋ってはならない。
二つ、怪物は正体不明でなければいけない。
三つ───怪物は、不死身でなければ意味がない」
「三つ全てを打ち破ったとは想うが?」
タタリを代表して前に出てきた若い男。金髪の男の声に返した刹那だが、途端に目をこする様子が不可解だ。何か見えてはいけないものをみたかのような様子。
だが男の言葉は続く。
だが、嫌な予感が達也と刹那に走りつつあった。
「四つ、怪物の不死身とは―――――再誕・転生・憑依・変化・変生、あらゆるものを以て
その言葉で、達也は己が殺した吸血鬼を見る。
再生はしていない。 しかし取り憑いた霊体とでも言えるものを『妖精眼』で確認した。
「刹那!!!」
達也の呼びかけと同時、刹那は手を翳す。
現代魔法では『魔弾』一つ干渉できぬところにいる霊体に対して、最速で刹那は術を解き放つ。
5つの自然属性を模した光線。有り体な言い方で言えば、マジックミサイルの類が直撃したはずだが―――。
その前に幾何学的な魔法陣が、それらを封殺した。
明らかに『霊体』が行使出来る術のレベルを超えている。もしかしたらば魔術的には苦界から解脱することは能力値を上げることなのかもしれないが……状況は動く。
「しかし、後付設定も同然に……天然痘ウイルスと同盟結んでまでやりたかったことが、まさか『自分を捨てた母』と『選ばれた弟』への『復讐劇』だったなど―――ホラーのなんたるかが、分かっていないとは思わないかね? まぁどんでん返しをするには、些か時間が立ちすぎて、鮮度が落ちたワインにも似ている……」
そんな言葉を残して、ダ・ヴィンチに抗議していたタタリ・パラサイトの代表者は崩れ落ちた。
誰かがなにかしたわけではないならば、それは自発的な憑依の終わりなのだろう。
そんな遺言(?)を聞き、見ながらも達也にはちょっとした驚愕があるだけだ。
刹那の魔術は、殆どの現代魔法の壁を無視して突き刺さる術としての深度があるものだ。それが通じないなど明らかな異常。
霊体が次から次へと増やしていく魔法陣は、達也の対抗魔法でも、刹那のガンドでも崩れ去らない―――。
「カバラ数秘紋―――雷霆術! 上面防御!!」
術の分類と起こり得る結果を予測した言葉に従い、全員が頭上に対して『壁』を作り上げた―――同時に
一定の法則で空に亀裂を入れていく様子から、大地に対して放たれる落雷の勢いは、この中では一番の堅固な壁であった十文字克人をふっ飛ばした。
ゼウスの雷霆、雷神トールの槌撃も同然に放たれたそれを前にしては、防壁など意味はないと言わんばかりだ。
「お兄様!?」
同時に達也も『放電現象』そのものの『分解』を試みたが不可能であった。というよりも硬すぎて『疾すぎた』。瞬間の判断で、魔法の道具でありながら電子機器でもあるシルバー・ホーンを上空に放って避雷針としたが……。
「バックアップで回復するよりも先に、周囲の状況を――――」
あちこちで、人が倒れ込んでいる。マクシミリアンの社員たちは……既に体を無くして、服だけが世界にいた証拠として残るのみ。
どうやらアレはこの近辺にいたタタリ全てが衆合したもののようだ。
状況としては、あれだけ強烈な雷霆を食らっても立ち上がれているのは数名のようだ。
その中の稀有な1人である遠坂刹那は―――真っ直ぐに『一点』、膨大な量の『プシオン』……霊子の塊が集う場所を見ていた。
通用口での騒ぎは、既に学校中に伝わっているが、先程の雷霆によって起きた電子機器の突然のフリーズは、ソレ以上の騒ぎとして校舎内を
ソレに動じず、いつでも飛びかかれる用意をする刹那を見る。
同時に刹那が見ているものに達也も目を向けた。
光の粒子は、一点に集中して形を模る。
その姿が明確な輪郭を伴って、現実世界に『帰還』を果たそうとしていた。
姿は―――横浜の最終戦に見たもの。刹那の刻印……衛宮士郎の記憶でも何度か見たもの。
その姿は、少女騎士。
赤竜の化身として
可憐な顔を血に塗れさせてでも、最後まで戦った栄光の王にして―――最後のブリテンの王。
アルトリア・ペンドラゴンの姿がそこにあった。
だが、その全てが歪んでいく。
最初に見えていた姿が幻であったかのように、その顔は白蝋のように真っ白に。されど、病身の類ではない覇気に溢れる。
戦化粧の極みであった蒼銀の鎧は黒く、
ペイントイットブラック。
そんな言葉が似合う騎士の眼は、深い深い森の中にある『緑色』ではなく『金眼』に変化する。鮮やかな金髪もまた少しだけくすんだ金髪になっていた。
その手に持つべきはずの黄金の輝き持つ聖剣は、黒と赤で禍々しき輝きを放つ魔剣になっていた。
達也では詳細が知れない騎士王の『異質な姿』が足元まで構成されたあとには、大地を確かに踏みしめる様子だ。
「ふむ、この肉体の実感、路上に影を落とす確かな輪郭……猛り狂うような魔力の波動……紛れもなく『私』だ。英霊召喚の類ではなく、このような穢しの影法師の御業で成り立つとは、明確なイメージを作り上げたのは―――」
ぐるりと、周囲を見回す『黒い騎士王』は、その金眼に誰かを視界に入れようとする。
それだけで、全員が面持ちを新たにして緊張せざるを得ない『威』と『圧』を感じてしまう。
明らかに矮躯で短躯ながらも、その視線は明らかに睥睨したものであり、王者としてのものを感じる。
人ならざる王……滅びに瀕した島を栄光に導いた最後の王の視線は、それだけで一つの魔眼に思えた……。
そして―――『一点』。1人を視界に入れた瞬間、王眼と魔剣を向けて口を開いた。
「―――問おう。お前が私の
厳然たる口ぶり、虚言はおろか、言い間違いすら許さぬ王者の言葉に対する返答は―――。
「ランサー!!!」
「承知!!!! 謎のヒロインXオルタ(?)!! その首、頂戴する―――!!!」
一切の躊躇なし。最大戦力の開放であった―――。
「―――まさかのジャポネスクランサーとは、しかし、それは私の『想像主』だ。その首、貰い受ける!!」
聖剣……反転した聖剣と刹那が読んだそれを両手で構え直して、突っかかる景虎に応じるアルトリア。
毘天の槍と
その激突の勢いたるや、タタリたちの『来訪』の表向きの理由である運搬トラックが原型を留めないぐらいに潰された様子からお察しである。
時に貨物部分を遮蔽にして槍衾を放ちある一点。
恐らく内部にある鈍器として使われなかったCAD機器(大型)の中で、お互いの刃が噛み合った。
本来ならば、得物を『引く』ことで仕切り直すところだが、この魔人2騎のやったことは……。
予備動作無しでの肩と手首の『ひねり』で、突きの状態のまま得物をひたすらに回転させていくことだった。
回転斬りの亜種とも言える……。本来ならば殺しの技にもなりはしない棒振り芸、曲芸の類が、CAD機器をフードプロセッサかミキサーにでも掛けたかのように粉微塵にしていき、お互いに突き出していた切っ先が寸分違わず噛み合う。
お互いの身体を押し付け合いながら、得物を動かさないようにする押し相撲。
互いの顔を至近に見ながら、最初にその接触を嫌ったのは、アルトリアからだった。
肩から入る体当たり。鎧のショルダーガードの硬さを存分に味わうそれで押し付けられながらも、景虎は身体の間に捩子入れた槍の柄を回転させて防御。
「―――」
『風車』に弾かれて距離を取るアルトリアは大仰に構える景虎を見ている。
戦いが一時停止している……。
そんな様子をギャラリーとして見ていた達也と刹那は……。
「ああいうのを見ると、本当に自信が無くなる……」
「落ち込むなよブラザー。とはいえ、こちらとしても少しばかり予想外だったな……『再現』『再演』するのが、反転した『アルトリア・ペンドラゴン』だったなんて」
「予想していたのか?」
「半々だな。とはいえ、今は……恨めしげにこちらを見ている十文字先輩及び他の人間たちの回復を優先だ。レオ、棍棒の『片端』使って回復をやってみせろ」
その言葉で、意外な相手がヒーラーとして使われるものだと思った達也の考えを切り裂くように、激突は再度始まり―――爆音が校舎内に響く。
「まさか飛び道具までお持ちだとは恐れ入る!!」
「飛ぶ斬撃―――それすら貴様の加護は打ち消すか?」
高密度の魔力の『霧』で覆われた剣士を相手に槍兵の槍撃は果断無く突き刺さる。中にいる剣士に突き刺さんと毘天の宝槍が霧を打ち払っていく。
その様子を見て回復役の1人たるリーナが、ダ・ヴィンチに疑問を挟む。
「想定外など想定内の
「マスターの将来の奥方に言われては仕方ないね〜」
雷霆術を食らったものたちを回復させていく面子は、この場においては多い。
ロマンを筆頭に手早く術を掛けていく様子が、魔法師の本来的な活躍の場を教えているような気がする。
そう考えながらもダ・ヴィンチの言葉を聞く態勢は崩さない。
「タタリは確かに、人が持つ不安・恐怖を具現化する。私が観測した限りでは、刹那がよく知る殺人貴が、『666の獣』を内包する『吸血鬼』を不安に思い、『条件』が揃ったことで再現されていたよ―――」
その言葉だけで脅威度など分かるわけはないが、それでも……その666匹の獣に『まとも』な原生動物が果たしてどれだけいるのか。そういう考えを巡らすぐらいには、達也も何となく『理解』してきた。
「だが、この『不安』や『恐怖』というのは酷く曖昧でね。例えば普段から『死』や『異常』に近いものにとっては、『そうではないこと』の方が怖いと思えるかも知れない。
例えるならば、そうだねぇ……いつでも朗らかに笑う『割烹着の家政婦』―――彼女がいつでも笑みを浮かべながら『毒』を、『悪企み』をしているならば、そんなことをしない『家政婦』を恐ろしく想うかも知れない。
梅サンドを作り、『あなたを犯人です』などと理解不能な『メイド洗脳探偵』が普通だったり―――ソレに関しては、まぁいいか。蛇足だね失礼。
身近な例で言えば、刹那が達也君クラスに『機械』に明るければ、みんなどう想うよ?」
指先を『くるん』と回して、そんなことを言うダ・ヴィンチ―――。
その言葉に全員が想像力を働かせる。働かせた結果……。
「人類滅亡」
「オイマテ」
なんだか前にもあったような会話である。皆からさんざっぱら言われて落ち込む刹那だが……。
「―――機械に明るい『刹那』に変化しない?」
景虎が立ち会うのは、変わらず騎士王アルトリア(2Pカラー)の姿である……。
タタリの条件が合わなかったのだろうか?解説は、つづく。
「その通り。『残念』ながら、刹那は2020年代ぐらいの機械端末ならば、難なくとまでは言わずとも、それなりに扱える。特に達也君、キミの指導もあってブラインドタッチの精度もあがったからね。つまり―――全員が知りうる刹那のイメージとは違う、『機械をそれなりに扱える刹那』を数名、もしくは十数名ほどが知ることで、このイメージは消える……不安も恐怖もある種、人それぞれなわけだ。
そこを煽るのがタタリの役目ではあるのだが、ユビキタス情報社会はそれを受け入れない、強固なものとなっている……情報ソースの裏取りはネットリテラシーの基本だからね」
今回のダ・ヴィンチはかなりの説明役である。それが悪いわけではないのだが、この辺でオチを入れてくれないと反応に困ってしまう。
そして―――結論が出る……。
「タタリは最優良かつ最優秀の『素体』を欲している。だが彼らに出来るのはいまではたった一つ、不安を煽って『怪物』を出現させようなんて不可能ならば―――それは……」
一拍置いてから、再び指先を向ける万能の天才。全智の賢者にして畢生の芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチの真理の言葉は……。
「―――まんじゅうこわーい。だ!」
全員がズッコケたところで、景虎と相対する黒いアルトリアが、3騎に『増えた』。
「にゃああああ―――!! マ、マスター!! あなたどれだけ私に不満があったんですか―――!? 千影(?)もいいですけど亞里亞(?)だってかわいいじゃないですか!!
お父上と同じくアルトリア・ロマンスに興じたいので―――!?」
んなわけあるか―――!! という言葉を発するより前に、刹那はお虎の援護に向かうのだった。
その背中には……。
「英霊の影とはいえ、それがアーサー王だってんならば、この叛逆の騎士の似姿!! 戦うに値する!! 開帳するぞ! クラレント!!」
喧嘩上等! と書いていそうなインナーガウンを翻しながら駆けるモードレッド。
「ああ、何故に主は、このような試練を与えるのでしょうか? まぁ―――適当に倒せばいいんでしょうし、フランスの血が真っ赤に燃えて、ブリテンの王を打ち倒す!!」
ジャンヌブームは、そこにアリ!! などと言うレティシアがくっついて、戦場は混沌の様相を見せるのだった……。