魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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禁断の課金ガチャにて、水着ジャンヌをゲット―――かかった枚数、諭吉一枚。

手に入れた水着ジャンヌ―――プライスレス―――ということで最新話どうぞ。


第14話『1と2の間にいる魔法使い』

 日本の魔法師社会は、ある意味で血統主義が蔓延るふるめかしい貴族のような家系ばかりが連なる。

 

 

 これは、自分が生まれる前に行われていた日本政府の魔法師研究―――『十』の研究所の実験体達が、それぞれに『家』を作り、それらの血統が、様々な紆余曲折を経て造り出した制度の一つである。

 

 

 十の師族―――『氏族』という名称を付けなかったのは己が魔法界のマスターであるという自負か、それとも本当の血統の人達に遠慮したのか……真相は分からないが……まぁ十の師族家を選出して、日本の魔法師界の健全なる発展に寄与する組織である。

 

 一種の互助組織であるこれは、その血や思想を硬直化させたりさせないよう、行動に一定の『変数』を着けるために『師補十八家』と呼ばれる十師族に選出されなかった『数字付きの家』に支えられ、その下に『百家』がいるという構造である。

 

 

『ピラミッド型組織』でありながらも、その権威や力は絶対ではない……と『建前』では語る組織。

 

 

 外の人間には見えない構造の下、魑魅魍魎が蠢く伏魔殿。同じ十師族といえども力は均衡していない。同時に相性の良し悪しもある……。

 

 

 そんな風な組織。幼いころからそれなりにそこの暗部を知って、自分も魔法師の中の最優の一人(エリート)であろうと努力する十三束家に生まれた男子『十三束 鋼』は、少しだけ頭を悩ませていた。

 

 

「で、こうしてこう―――キーボードを叩くときは、こうだから、ね。簡単でしょ?」

 

「脳波誘導も、視線アシストも何でか俺の場合はダメだからなぁ……」

 

「セツナの場合、脳髄も眼も『色々』だからね。それと、『オニキス』に任せていたツケよ。自戒して精進しなきゃ」

 

「……『帰ってきた時』に、『おおっ! なんたるハルマゲドン!! 人理は崩壊した!!』とか言いかねない」

 

 

『分かっている』2人の会話。それを誰もが側耳を立てながら聞いている。誰かと話をしながらも、二人の会話を逃さないようにしている。

 

 そう―――窓際に寄り掛りながら聞いている鋼は、二人を観察していた。

 

 

 この第一高校の新入生の中で、有名人なのは、『三人』ほどいる。

 

 一人は総代の司波深雪。

 

 彼女は一躍学校だけでなく、時代のスターになれるだけの美貌と魔法技能を有していた。

 

 誰もが彼女をアイドルとして崇めている。そんな彼女は隣のクラスのA組である。

 

 

 残念な思い一つしながらも入試の時に目立っていたのは彼女ばかりではない。次席を取った生徒―――彼女も、アイドルになれる『力』を持っていた。

 

 アンジェリーナ・クドウ・シールズ。

 

 出身がUSNA―――そのクォーターとは思えぬ見事なブロンドヘアとブルーアイズ。特徴的な髪型。ロールのツインテールと言えばいいものをした娘は、既に司波深雪と『双璧』の『女王』として皆から認識されていた。

 

 俗な言葉で言えば、スクールカーストにおける『クイーン・ビー』というヤツだろうか。

 

 

 そんなクイーンの一人は、既に誰かの手に落ちていた。チャンスは無いのか、もうダメなのか。

 

 そう考えて多くの男子が睨むのは、もう一人の有名人であった。

 

 

 遠坂刹那。

 

 

 一般的に見れば、面構えは美形だろう。まだ15歳にしては180cmはあるのではないかという身長に、服越しにも『見える』筋肉質な肉体。

 

 マーシャル・マジックアーツという『荒事』の技術を収めている十三束だからこそ分かる。こいつは―――『隠している』。と

 

 多くの人間は、アンジェリーナに気に入られている『側仕え』が『ラッキー』なテスト結果で『一科入学』(ワン)出来た程度に考えているだろうが、違う。

 

 

(単純に、クドウの家系のボディガードと考えられれば良かったんだけどね)

 

 目端の利くものたちは、何とか正体を掴もうとするも―――擬態なのか―――いや擬態ではなく本物のバカップルとして殆ど多くの人間を寄せ付けない二人を前にしては、どうしようもなかった。

 

 

 そしてバカップルの発する空気が甘ったるく、自然と顔を赤くさせてしまう。悪気はないのだろうが、少しは自重してほしい―――が、『一例』を知っている十三束は言えなく、他に頼むしかなかった。

 

 

「はー……終わったぁ。同時に『爆発』しなくて良かったぁ……」

 

「お疲れさま。しかし、何とか進歩したじゃない。感心よ。いつかはワタシの手もいらなくなるかもね」

 

 

 どういう意味だよ!? こちとらお前たちの発する甘い空気で色々爆発しそうだったってのに、という皆の内心の文句もなんのその。

 

 端末の画面を閉じて机に突っ伏す遠坂刹那に笑い掛けるアンジェリーナの会話で何も察せられない。

 

 そんな風にしていたところに――――。

 

 

「第一高校の探偵兼ブロンダー(金雌)が、この1年B組に新しい風を巻き起こす!! 具体的には朝からイチャこらしているカップルに一喝入れる!」

 

「むっ、すまないな。何というか機械端末は苦手で、どうしてもリーナの手助けが欲しかったんだ」

 

 

 豊かな赤毛を持ち、特徴的な眉毛をした子。何だか小動物のリスみたいに忙しない印象を受ける明智英美が、二人に吶喊していった。

 

 それに対して、刹那はB組一堂を視界に収めてから周りに手を立てての謝罪、何だか仏僧みたいなポーズだと思う。

 

 

「へぇ、珍しいね」

 

「田舎暮らしでね。まぁUSNAに来てからも、都会に振り回されっぱなしだったよ」

 

「セツナは、それに加えて魔法も『古臭かった』からね。本当に初めて見るものばかりだった」

 

「うるせ」

 

「まぁそういう『神秘的』なものが、ワタシは嫌いじゃなかったけどね♪」

 

 

 不貞腐れるような刹那に対してフォローとも言えるのかを満面の笑みで言うアンジェリーナ。本当に仲がいいんだな。と大半の男子ががっくり肩を落とした。

 

 ハートブレイクした音が現実に聞こえてきそうだった。

 

 

「うわぁ。ヘビー級の恋が見事に角砂糖と一緒に砕けたわ…」

 

「「???」」

 

 

 二人に疑問符を三つは出している明智英美の言葉だが、実らない恋―――横恋慕などあまりいいものではないだろう。

 

 そして勇気を出して、十三束も歩き出した。

 

 

「君の彼女は、学内注目の的なんだよ。おまけに十師の一つ『九島』の系譜だから―――まぁ離さずに、変な虫がつかないようにしとくことだね」

 

「―――君は?」

 

「ごめん。自己紹介がまだだった。十三束 鋼―――よろしく遠坂君、シールズさん」

 

 

 闖入者と見られたのか、問われて答える鋼。特に何も無くお互いに自己紹介。

 

 

 色々聞くも、何というか―――見えてこない。見えてくるのは―――この二人の絆レベル(?)のみ。

 

 

「それじゃ二人とも、いずれは帰化するかもしれないから、こちらで学位を?」

 

「そういうことだ。A級ライセンスを取ったり顔を売ったりするには、こっちの方がいいだろうって、流石にそろそろ故郷に根を張って生きようと思ってな」

 

 

 将来設計がしっかりしているという感想を持つ一方で、どことなく嘘くさい感じもする。いや、本心が含まれていないわけではないだろうが。

 

 なんだろうか、この違和感は―――。

 

 

「リーナもそうなの?」

 

「魔法師の国際結婚があれこれ言われるのは分かるけど、それでもセツナと一緒にいたいって願ったから―――シアトルのパパとママには、『とりあえず三年間日本で生活しろ』って言われて」

 

「なんだか我が身に対しては恥ずかしい話だなぁ……私の両親もそんな風に『愛の赴くままに』国際結婚したからね」

 

「エイミィの両親だって好きあったから一緒になったんだろ―――いいじゃないか、夫婦として健全だよ」

 

 

 少しだけ羨望らしきものを感じる刹那の言葉―――それを受けたエイミィは問い返す。

 

 

「そうかな?」

 

「そうだよ」

 

 

 刹那の短い言葉。その奥に少しの寂しさとでも言えばいいものを感じる。それは、両親を持つものだからこそ感じられる違和感だった。

 

 十三束は、遠坂刹那の過去を少しだけ推測して、そこには踏み込まず―――察して刹那の両手を掴んで慰めようとしたリーナだったが、その前に指導教官がやってきて教壇に立つ。

 

 席に忙しなく戻って、オリエンテーリングが行われる。

 

 

((知りたいな。色々なことを……))

 

 

 明智英美と十三束 鋼―――共に何故か遠坂刹那の眼差しが気になる……それが純粋な友情だけでないことに自己嫌悪をしながらであったが―――。

 

 

 

 † † † †

 

 

 オリエンテーリングの結果、周った様々な魔法の実践授業の数々―――それを見て……何だかアレであった。

 

 

「やれやれ、あの「森嶋」とか言うのうざかったな……」

 

「まさかA組とバッティング(鉢合わせ)するなんてね。けれどあれじゃミユキが可哀想じゃないかしら?」

 

「気持ちは俺と同じだろうな」

 

 

 気が無いように手を振る。何かを投げる仕草をする刹那は、お手上げか―――事態がこちらに食い込むまでは放置する態度だ。

 

 

 それを知っているリーナと隣り合って歩く。向かっているのは大食堂。本当ならば弁当でも作るべきだったんだが、時間が無かった。

 

 

「さてさて、あいつらも食堂に来るよな。どうしたものか?」

 

「ミユキは、タツヤと食べたい。けれどタツヤは、クラスメイト―――多分、昨日の二人は一緒よね?」

 

 

 両手に華で羨ましい限り―――だが、恐らく男でも興味を持つだろうと思えた。誰かしら男友達が出来ているはず、そのぐらい達也は、刹那と同じイレギュラーだ。

 

 そんなことを考えると、深雪の側にいた―――小柄で少し眠たそうな眼をした少女が、刹那を見ていたことを思い出す。

 

 その子は、入学式の時にも前の方の席から刹那を時々見ていた子だった。何か恨みを買っただろうかと思う。

 

 嘆息。思索を終えて食堂へと向かう途中で端末にコールが入った。

 

 

「想定するに、事態は好ましくない方に移るだろうな。と―――噂をすればだな。達也からだ」

 

「なんだって?」

 

「席は取っているそうだ。お誘いだね―――」

 

「それじゃ―――そこに来るよねぇ……イッツアヘイトだわ。セツナ……今だけはそのイケてる面構えでミユキを連れ出すことを許可するわよ――あんまりやってほしくないけど」

 

 

 がっくし項垂れるリーナ。その言葉に―――否定をする。先程、その森崎一味(命名:刹那)をあしらうために『Sorry,先約があるから、またね』などといった事を後悔しているようだ。

 

 その後で先約の『理由』が深雪を連れ出すのは間が悪いだろう。

 

 だからこそ―――セツナは別の案でいくことにした。

 

 

 

「俺たちは何も『間違っちゃいない』んだ。堂々としていよう。達也ならば無用なトラブルを避けるために…忍従を強いるかもしれないが、俺はやんない」

 

「――――」

 

「行こうぜ。やって来るならば返り討ちにするだけだ」

 

「……恨みを買うわよ? いいのー?」

 

「心の贅肉だが、別に友人一人の苦境を見て見ぬ振りも出来んわな」

 

 

 絶句してからの面白そうな笑みを浮かべるリーナ。どうやら自分のやることを察してくれたマイハニーに少しだけやる気を出す。

 

 第一、『森沢』の取り巻きの一人。『五十嵐』とかいうのが、リーナに色目を使っていたことが少し腹立たしかった。

 

 

 貴族主義と優性主義を取り違えた愚か者を論破するぐらいは、容易い話だ。ガキを叱りつけるには頬桁殴り飛ばすなんてことをしなくてもいい。

 

 

 どうせ。そういうことなのだから―――。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

「はー、西城は殴り合いに適した魔法を持っているのか、結構興味あるね」

 

「レオでいいぜ刹那。しかし意外だな。お前は純粋な遠距離型かと思ったんだが」

 

「まぁ人を呪ったり呪ったり―――陰湿な『魔術』を専攻しているが、荒事となれば育ての親の技術が生きるからな」

 

 

 育ての親という単語に興味を惹かれたのか、エリカが野次馬根性で聞いてくる。それは―――少しの優しさもあった。

 

 

「育ての親ってどんな人?」

 

「一言で言えないかな……国籍人種なんかはアイルランド系、出身もアイルランド。親父やお袋の友人?みたいなものだったらしくてお袋の葬儀の後に後見人になってくれたんだ。不器用な人で、家事・料理全てにおいてダメな人だった」

 

 

 世話させるために引き取ったんじゃない。と涙目で言うも、いや無理がある。だから大人しく『ルーン』でも刻んでいろと言った記憶を思い出す。

 

 本当に戦うこととか以外はダメな人だった……。

 

 

「―――両親は、もういないのか?」

 

「まぁね。ただ……受け継いだものぐらいはあるかな」

 

 

 言葉で察した達也。なるたけ深刻にならないように気を付けて返すも難しい話だ。

 

 

「ふぅん。随分と苛烈な人生送ってるのね……少し親近感は湧いたかも」

 

 

 どうやらエリカには、一科の変なヤツ程度に思われていたようだ。別にいいけど。マーボー丼を掻きこみながらとりとめのない話。

 

 リーナの系統魔法の程度や、レオにはルーンのあれこれを聞かれて、教えられることを教えていく。原初のルーンはまだ『無理』だ。

 

 そんなこんなで騒がしくも賑やかな食事―――育ち盛りなのか、二杯目の肉うどんを取ってきたレオがやってきた所で一悶着が起こる。

 

 

「ミユキ! こっちよ!!」

 

「リーナ……申しわけありません。私はお兄様たちと食事を取りますので、ここで失礼させていただき『おい君達、この席を譲ってくれないか』―――」

 

 

 出てきた森沢の一団の中に深雪の姿を見つけたリーナが呼びかける。それで何とか抜けるチャンスを得たと思って言うが、出しゃばりクソ野郎の森川くんが、口を開く。

 

 その言い方の割には全く以て何も申しわけなさを感じない言い方に―――全員が苛立つ。あの美月ですら、そんな風で他の所にいた……『誰か』。名前は知らないが髪を撫でつけた―――何か神職らしき髪型の少年からも険しさを感じる。

 

 

「何の権限があってそんなこと言うんだ。この席に先に座っていたのは、達也たちであり、後から来たお前たちは他の席に座るのが、常識じゃないか?」

 

「遠坂、アメリカにいたお前には分からないかもしれないが、この学校―――魔法科高校において、一科二科の差は絶対的。二科はただの『補欠』。授業でも食堂でも一科生が使いたいと言えば、譲るのが筋なんだよ」

 

「生徒校則にはそんなの無いけど、どうしてそんな事言えるのかしら? 『スジ』って明文化されていないルールのことだけど、それはあくまで両者が納得した上での話でしょ? 居丈高に誰かのものを奪うならばそれは『強盗』(バンディッツ)と同じよ。最低ねアンタ」

 

 

 電子端末を開いて眼を薄く開きながら気が無いように言うリーナ。絶世のブロンド美少女が不機嫌な様子で言うのが、森川をたじろがせる。

 

 というか全員―――深雪除いてそうなった。

 

 

「……だけどね。シールズさん。俺たちは司波さんと親交を深めたいんだよ。その為に、席とテーブルを―――」

 

「だから、それを了承するかどうかは深雪の意思次第だろうが、それとそうだとしても他の席に行くのが『スジ』だろうが、ただ単に達也と会食したい深雪の意思を曲げるために、そういうことを言っている風にしか聞こえねぇ。小物の中の小物(ミニマム・オブ・ミニマム)だな。お前」

 

「―――」

 

 

 言葉の最後で素早く『レンゲ』を短刀のように喉元に突きだした刹那の行動に森川は完全な後退り。

 

 とりあえず総合三位らしき森川の面相の変化は、本当に多彩だ。こんなんで大丈夫かね? と思う。

 

 論では旗色悪し。というか当然なのだが……。まさかマーボー丼のレンゲで圧されると思わなかったのか、全員が森川と刹那を交互に見やっている。

 

 

「くっ……何なんだよお前らは! 一科だってのに、二科の肩を持つってのかよ!!」

 

 

 もはや感情論でも何でもないただ屁理屈を持ちだした森川に、刹那とリーナは畳みかける。

 

 

「当たり前田のクラッカー。そもそもお前の言葉に何の根拠も無ければ、心ある人間ならば、どちらに理があるかなんて、一目瞭然だ。どんな服を着て、どんな歌を聴いて、どんなものを食べて、誰と友情を育むか―――誰を愛するかを、誰かに強要される筋合いなんてない」

 

「民主主義国家の代表として言わせてもらうならば、アンタの言葉は人間性への冒涜と人権の蹂躙であって、少なくともこの国はひと昔前どころかふた昔前のエド・ショーグネイト時代の横柄な武士が戻ったように感じるわ」

 

 

 最後の方で、リーナを見て渡り台詞よろしくとなる形。その息と『意』の掛けあわせに、森川はもはや何も言えなくなる。

 

 

 そして結審であり決心の時となる。

 

 

「だが……ここまで言っといてなんだが、最後に決めるのは深雪」

 

「アナタだけよ。アナタの本心を聞かせて―――」

 

「刹那君、リーナ………」

 

 

 こちらに言ってから、達也を見る。達也のランチセットがまだ残されているのを見て―――深雪は本心を吐き出す。それで全ては決した。

 

 これ以上、食堂に居たくないと思ったのか何なのか、まぁとりあえず去っていく森川達一団。

 

 

 その中の女子二人―――、一人は達也に少し心ある視線を向けていたが、もう一人は―――やっぱり何だか無表情ながらもこちらを睨んでいるように見えた。

 

 誰だか知らないが、随分と憎まれたものである。仕方ないけど。

 

 

「ありがとう」

 

「礼を言われるとは思わなかった。そして本当ならばお前の役目だと思うんだがな」

 

 

 余計なお世話だろうが―――何だか達也は、理知的な行動が多い。確かに控えるべき所は控えるべきかもしれないが、譲れぬ所は譲ってはいけないはずだ―――。

 

 

(ここで一悶着起こして深雪に悪印象を持たれても『マズイ』と考えたのか?)

 

 そうとしか思えなかった。美月、リーナと会話をして綻ぶ深雪を見て笑顔を向ける達也を見て、そう考える。

 

 

「いやいや、ありがとうどころか愉快にして痛快だったぜ二人とも、粋だな! イカスぜ!!」

 

「全くね! しかし、あそこまで森川が後退りするなんて、刹那君、剣術もやっているの?」

 

 

 レオとエリカの言葉。本当はこいつら仲いいんだろうか?と思うも、正直エリカの針の振れ方が、悪女のようにも思える。昨日の達也への視線を考えるに―――。

 

 

「多少はな。正当なものじゃない―――と、レオ? 肉うどん冷めてないか?」

 

「まぁそれぐらいは仕方ないって、いいもの見たことでチャラに―――」

 

 

 そういう訳にもいかず。少しの秘密の暴露といく。手を一振りしてどこからともなくハンカチ一枚を取り出す。

 

 奇術師の技のような手並みに誰もが目を奪われるも、それに魔力を通してテーブルに敷く。

 

 

「いいの?」

 

「流石に肉うどんを冷めたままで食わせる訳にはいかない」

 

 

 冷えた蝋のような脂が出ていないとはいえ、腹を下す可能性もある。リーナの言葉に返しながら、レオに丼を置くように言う。

 

 

「すぐ熱くなるよ」

 

「―――って、本当に熱い!? どういうトリックだ?」

 

「それもルーン魔術か刹那?」

 

 

 達也の言葉に、その通りとしておく。ハンカチの中央にはソウェルのルーンが刻まれており、それが一種のホットプレートの如くしていた。

 

 そんないきなり出てきたおもちゃを前に誰もが、温めを行う。達也は興味深そうにあれこれ聞きながら、『ケルトの戦士の皿』と言う言葉で更に興味を持つ。

 

 

 

 そうして楽しい昼食を終えて午後の授業と言うか再度のオリエンテーリング―――。

 

 

 今度のは一科二科関係ないとはいえ、先に到着していた二科を相手に再びの森川のあれこれ―――ケンカ犬か、こいつは……。内心で頭を悩ませながらも、結局―――。『射撃場』における観客席で達也たちは席を移動せず、森川及び有象無象の一科生の凝視を受ける。

 

 どうでもいいと思えないのか、と思いつつ今度はフォロー出来ないが、開き直った四人の様子に人の悪い笑みを浮かべると森川の睨みつけ。

 

 だがセツナには何の意味も無い。

 

 むしろ―――視線を合わせたことで、刹那に存在する『魔眼』の深淵を見たのかすぐに、向き直り頭痛をこらえるような仕草。

 

 

(ほぅ……『頭痛』で終わるとはな。嘔吐するぐらいは予想していたんだが……)

 

 

 言葉は横柄だが決して無能で無い辺り―――面倒な男だなと感じつつ、遠隔魔法の射撃訓練場の『女王』―――七草会長が、達也と刹那を交互に見ながら黒いオーラ……は出していない。

 

 

『では一年生の皆さん!! 誰か私と競ってみませんか!?』

 

 

 大声で拡声器みたいなことが出来る魔法で階下から呼びかけてくる七草会長。昨日の邪神フォームはどこに!? ドロップキックしなくていいんだろうか―――。

 

 などと考えていると、午前の授業の座学でよろしくなかった森川が、手を挙げた。

 

 

 十三束―――トミィ(命名エイミィ)曰く、森沢は『クイックドロウ』とかいう魔法発動が早い―――読んで字の如く、『抜き撃ち』が出来る手合いだと……呆れるように言っていた。

 

 どうやら、トミィの眼から見ても、『殺しの技にもなれない大道芸』という評価らしい。

 

 

 とはいえ、射撃場ではそれなりに出来ると思っているのか、銃型のCADを持ち七草会長の隣に赴く。

 

 

 緊張しているようだが、『コンセントレーション』は出来ている。出てくるターゲットの数は100、そして出てくるタイミングと『強度』はランダム。

 

 

 腕輪型のCADを着けている七草会長とでどっちが上か――――60秒間の死闘が幕を開けて―――あっけなくダブルスコアとなった。

 

 無論、森沢の負けであった。森沢の呆気なさに『フラストレーション』を溜め込む様子の七草会長。

 

 

 柔道の乱取のように次ィ! とでも言わんばかりに観客席を睨みつける七草会長に―――。

 

 

「ハイハーイ! ワタシがやりたいデース♪」

 

 

 何でエセ外国人風の語尾? そんな疑問を持ちながらも即座に了承した七草会長。どうやら『戦う相手』を見定めたようである。

 

 

「セツナ、『礼装』プリーズ」

 

「はいはい。がんばってこいよ」

 

「―――もちろんよ♪」

 

 

 二挺拳銃―――森沢と同じく特化型である銃型だが、リーナの印象とは違い若干大型のそれは、この場に中条あずさがいれば、犬のように興奮していただろう代物。

 

 

(マクシミリアンの新型CAD『カンショウ・バクヤ』。あんなものを出してくるとは―――)

 

 

『本業』の『ライバル』として知っていた達也がリーナの持つ黒赤、黒白のごつい銃に驚愕する。

 

 本来の『カン・バク』にあるはずのバレルウェイトの下端に装備される刃は無いが―――、それでもとてつもない武器を出してきたものだ。

 

 と―――達也は驚愕していたが、周囲は受け取る際に首筋か耳たぶかにキスをしていたリーナに驚愕して、次いでの口笛による冷やかしとなる。

 

 

「ふふふ見せつけてくれるわねシールズさん―――けれど、勝負に手心は加えないわよ」

 

「もちろん。それを望んでいますから」

 

 

 火花を散らす美少女二人。時々、リーナはウォーモンガーになると、刹那から聞いていた達也だけに、この勝負の行方は分からなくなる。

 

 

 そしてリーナの射撃フォームは、堂の入ったものだ。恐らく銃社会アメリカ―――その中でも軍隊の射撃訓練をしていたものだと気付く。

 

 

 五指を向けて大砲の筒先か銃口も同然にしている七草真由美はそれに比べれば、何とも原始的だが、その勝負は、『一進一退』の白熱したものとなり一科の引率であった百舌谷教官ですら、時間を忘れてしまっていた。

 

 

 現れるターゲットを前にお互いのサイオン弾や遠距離魔法がヒットしていく。時にはゴノレゴ13のように相手の『射撃』を邪魔する始末。

 

 光が飛び、空気が切り裂かれ、雹弾が、電気弾が、現れるターゲットを砕いていく。

 

 

「―――やるわね」

 

「そっちこそ―――」

 

 

 挑戦的な笑みをお互いに向けての挑発。現れるターゲットの数と速度がレベルアップする前に―――。

 

 

「セツナ、パーーース!! ちゃんと受け取って!!」

 

 

 上着を脱ぎ、動きやすい恰好。ノースリーブの露出多い下の衣装に男子がどよめき、女子が白眼視。投げ渡された制服の上着を受け取った刹那は手早く畳んだ。

 

 その手際は、家事がほとんど自動化された現代においてついぞ見ない堂としたものだった。

 

 

「刹那君、パーーース!! 私の匂いを嗅いでもいいわよ♪」

 

「達也、パーーース!! 七草会長の匂い付きだ。深雪にばれない様に嗅いでおけ!!」

 

 

 いたずらっ子な七草会長のからかいに対して冷静な『スルーパス』。というよりも、受け取る前に―――何かの『術』を使ったのか、重量ある衣装が風に流れるように達也の膝へと、ほぼ流体力学を無視した動きでやってきた。

 

 

 その事実に目敏い人間達は気付き、何をしたのかと、鋭い疑問を持つ。

 

 

(やばっ、やりすぎたか?)

 

 

 孫太郎(?)の如く―――刹那からすれば簡単な気流操作と重量操作で行ったのだが、どうやら全員の注目を浴びたことに気付く。

 

 しかし、それが功を奏したのか、目敏い人間の一人だった七草会長の動きに乱れが生じて―――最後のターゲットを撃ち終えた時には、リーナの勝ちが決まった。

 

 

「スタミナとサイオンを消費していたとはいえ、ワタシの勝ちですよ。サエグサ先輩」

 

「そうね。妖精姫とか言われていい気になっていたかしら……―――ちなみに勝因は何なのか分かる?」

 

 

 くるくると銃把を西部のガンマンのように回すリーナに、自嘲するかのような会長。

 

 自分が負けた理由など分かっていた。しかし、少しだけ意地悪したくて言ったのだが―――。

 

 

「愛の力です!! 重ねた愛の年月は、どんな神秘よりも貴い、『至高の幻想』(クラウン・ファンタズム)ですから―――」

 

 

 くわっ!! とでも言わんばかりの顔のアップを見せるリーナ。

 

 予想外の答え。ダメだこいつら……はやくなんとかしないと……と思いつつも、達也も刹那もやはり『何か』があるもので―――その動向を面白く見ながら、どうにかして『おもちゃ』にせんと画策するのだった。

 

 

 真由美にとって、その機会は予想外に早く訪れて―――その底知れなさ―――『幻想』『神秘』の一端を知り、少しだけ驚くのだった……。

 

 

 

「教えてやるよ『魔法師』(マギクス)―――これが、お前らと(メイガス)の格の違いだ!!」

 

 

 そうして悲鳴すら上げられず締め上げるままに『森崎駿』を、巨木の中に埋める―――世界と時を超えて現れた魔術師(メイガス)『遠坂刹那』の真の姿を目撃することになるのだった……。

 

 

 


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