魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

263 / 414
躍動―――ヘビーリピートで聞いていました。いやぁいい曲ですねぇ。

ただamazonから買ったものはすごい文字化け状態であった。

まぁちゃんとプレーヤーは認識してくれたんですけどね。

多くのFGOユーザーが欲しくてほしくてたまらないキャストリアを手に入れたからには

慎まねばならない。慎まねばならない……(うろ覚え劉備)

というわけで新話どうぞ。


第244話『Farce/melty blood‐7』

 

 人間だれしも、その状況に至ってみなければ分からぬことは多い。

 

 外野から見れば、何でここで上手くやれないんだ? もうちっと賢くなれよ。

 そう言えることは多い。

 

 例えばそれは野球、サッカー、テニスなどなどのプロスポーツのプレーヤー達に対する野次として多い。

 

 次点としては、昔にあった低俗なクイズバラエティ番組などで『〇〇大卒』と呼ばれている人間が、初歩的な問題をポカミスで間違えると、うるさい野次が飛ぶこともある。

 

 歴史で見れば、日露戦争における旅順攻略の責任者『乃木希典』に対する散々の敗走を受けての日本国民からの批判。

 越前攻略の是非で、信長陣営から離脱して盟友 朝倉家のために動いた『浅井長政』ーーー後に浅井家は妻娘を残して滅ぼされる。

 

 その『判断』の是非は後世の歴史家たちにアレコレ言われるも、彼らも様々なことを考えて懊悩して、決断を下したのだ。

 

 ―――現地に立ち、彼らと同じような世情でものを見ていなければ本質は見えてこない。

 

 遠くから、外野から見れば―――何とかなりそうな光景であっても、実際にその現場に降り立たなければ分からないことはある。

 

 

 つまりは……。

 

 黒羽貢及び黒羽一門衆は、横浜での戦いを『遠景』で『動画越し』に見ただけで、サーヴァントというものの実力を『見切った』と思い込んでいただけの『阿呆』なのだった。

 

 何もかもが見当違いの戦いが絶望感をあおる……。

 再びの轟音が、鼓膜を破りかねない勢いで破壊をもたらしていく……。

 

 

 

「ハアアアアッ!!!」

 

 気合一勢。大上段に構えて振るわれた剣から放たれる『飛ぶ斬撃』が、部下たちに襲いかかる。

 

 魔力と物理の複合攻撃……現代魔法においては魔力で起こした『物理現象』というものは、それ即ち『魔法攻撃』として処理されている。

 

 防御を展開する上で対物障壁及び情報強化こそが要となるのは、魔法を相手に透す(とお)上で、どちらかを突破されなければダメージとはならないからだ。

 

 特にサイオン光が『物理的な切断力』を持つことなど『殆ど』有り得ない。だからこそ、それを真正面から防御しようとすれば、どちらにおいても規格外のものが必要だということだ。

 

 要は……ただのサイオン弾を当てられた程度では、魔法師には何の痛痒もないはずなのだが、その理屈を軽く無視していた。

 

「もはや魔力斬撃(スラッシャー)というレベルではないな。ビームカッターも同然だ……!!」

 

 大地を揺るがしながら地を這う系統の斬撃もまた脅威。

 

 あちこちで舞い上がる粉塵すらも紫炎で焼き尽くす攻撃は、一切の抵抗をこちらにさせていなかった。

 

「父さん……! あのサーヴァントはまだ2割も力を出していないよ……」

 

「その場に『とどまり』飛ぶ斬撃を放っているだけです……!! 術ですらない!! ただの魔力光で私達は封殺されているのです!!」

 

 息子と娘の悔しそうな声が斬撃の轟音に邪魔されながらもはっきりと聞こえる。

 

 攻撃と防御を『一手』で行えるという理不尽。だったらば、魔法師なんて何のためにいるのだ? 

 

 そう作った連中(研究所)に文句を着けたくなるほどに隔絶したスペックの違いが、絶望感を醸し出す。

 

 攻撃(爆撃)が少し止み、少女剣士の声が黒羽の全員に通る―――。

 

 

「どうしたマギクスとやら? 私にかすり傷一つ着けられないのか? ローマ皇帝『ルーシャス』が擁した大陸魔術師団は呪殺、破壊術を行使し、スワシィの谷の霊力全てをシーザー・ルーシャスに渡した恐ろしい連中だったが―――貴様らからは何ひとつ怖さを感じないな」

 

 あからさまな嘲り。ローマ皇帝ルーシャスというのが何なのかは知らないが、それでもアーサー王という英雄が戦った中では『強かったのだろう』。

 

 そう思える口ぶりであった。実際の所、こうしている間にも長距離用のCADで測距をした上で術を放っている連中もいたのだが、それら全てが発動一つしなかったのだ。

 

 移動魔法だろうがなんだろうが意味を成さない。移動魔法で動いた木石も、届く前にサーヴァントの周囲4m以内で力を失ったかのように落着するのだ。

 

 黒羽の人間、部下など全員が奥歯を噛み締めて怒りと悔しさを押し殺す。

 

「父さん……どうするの?」

 

「―――第2段階に移行。マスター殺しをする」

 

 その言葉に、双子は眼を伏せる。別に遠坂刹那への攻撃や殺傷を躊躇したわけではない。

 

 これだけ強力な『使い魔』を相手にマスターへの殺害など、容易な話ではない。

 

『決死の覚悟で足止めをする雑兵』が必要なのだ。

 

 ちょっと違うが殿(しんがり)としてサーヴァントを翻させないようにするために、黒羽の黒服……家の部下たちに『死んでこい』というほかないのだ。

 

 慈悲がないと思われても仕方ない。それでも、それしか方法はないのだ。

 

 目的を達成しようとするならば―――。

 

(そもそも、どういった人間ならば召喚を果たして契約を結べるかすら、なんもかんも理解していないってのに、こんな無茶なことをやっても意味がないはずなのに!!)

 

 絶え間なく続く攻撃の間、既に身体のあちこちに打撲の跡が出来て、火傷での水ぶくれも出来ている文弥は嘆くような気持ちでいた。

 

 もちろん、ここに至るまで黒羽の家も何の調査もしてこなかったわけではない。

 

 横浜以来、自分よりも上位の霊的『情報体』を使役するということをもとめてきたのだ。

 

 古式における『召喚術』という眉唾なものの資料や魔導書―――リーガルな手段と、イリーガルな手段、硬軟交ぜて、その手の知識を洋の東西を問わず集めて、可能な限り噛み砕いて実践してきたのだが―――。

 

 望んだ結果は得られなかった……。精緻に素早く手早く描いた魔法陣から出てきたのが、カエル一匹であった時点で絶望したりした。

 

 昨年の11月初旬から始まった黒羽家の試みは―――

 

 出来ませんでした。という一言に集約されるのだった……。

 

 

(数ヶ月の試みが無駄ということではなかったからな。最終的には、現代魔法師にはその手の『センス』は無かったという『結論』を得られたのだから)

 

 その一方で英霊の力を得られるという別側面はあったのだが……それは、決して『普遍』のものではないのだから、現代魔法師としては、あまり受け入れざるものだった。

 

 

 よって―――今回の事となり、タタリの霊体とやらも見つけ出せないことから、こうなったのだ。

 

(ランサー・長尾景虎よりも何というか隙が無さすぎる。あの越後の龍は、剣や槍から『ビーム』を放つことは無かったけれど、こっちのサーヴァントは、構わずに飛び道具を放ってくる)

 

(もしも、この方が全力の斬撃……魔力と膂力ともにフルパワーで放てば、防御も回避も無理でしょう―――あまりにも、隔たりがありすぎる)

 

 だが、それでも父が、家の繁栄のために、自分たちの為に何かをしてくれるならば、それを手助けしたいのが子の心だ。

 

 同時に部下達も、この時点で裏切れるような心地になれるほど、ボスである貢から冷遇されてきたわけではない。

 

 だからこそ―――。

 

「全力射撃!!! 撃って撃って撃ちまくれ!!!」

 

「ボスがあのオカルト小僧を殺すまで、俺達が時間を稼ぐんだ!!!」

 

 いつもは黒服にサングラスという出で立ちの家人たちが、目出し帽にアーミージャケットを羽織って軍人のような服。

 

 ―――その心は一つ。恩義ある家の為に戦うのだった。

 

 そして放たれるハイパワーライフルの弾丸が、七草及びインディアな女の子に向かったのを見て、オルタが立ちふさがる。

 

 同時に打ち出される銃弾を―――剣で『打ち返した』。

 

『超』・神速の神業。『剣の腹』を使って超スラッガーの如く打ち返した打球(弾丸)は、意図したピッチャー返しとなるのだった。

 

 打ち出した銃弾と返された銃弾がぶつかり合って跳弾となり、それでも、引き金を引くのが遅かった人間のハイパワーライフルが弾詰まり(ジャム)を起こす。

 

 悪いものでは暴発をして大怪我をする。

 

「くっ―――!! ひ、怯むんじゃねー!!! ボスとお嬢達が作戦を完了させるまで撃ち続けろ!!」

 

「いつまでもその『器物』を扱わせると思ったか?」

 

 瞬間、ゾッとするほどに優しい死神の声が聞こえた。

 

 ―――声の美しさに、死を実感してしまう。

 

 その嫋やかな指を竜の(アギト)のごとく縮めてこちらに伸ばす英霊アルトリア。

 

卑王竜息(ヴォイドブレス)

 

 そしてその口中(掌中)に闇光が灯り、指を開いた時には―――、一帯に闇が広がり、次には熱く滾った溶鉄に投げられたかのように、紅く溶けて崩れるハイパワーライフル。

 服すらも溶けていくような気分。闇は明らかな熱を持って苛む。呼吸すら出来ぬ……火災現場における黒煙を吸い込んで逃げ惑う避難者のごとく、今の黒羽の家人たちは無力化されてしまった。

 

(だが、これだけの時間が稼げたならば、若とお嬢―――ボスならば……!?)

 

 薄れいく意識の中で黒羽の若頭補佐(自称)である硯樹春隆は、仰向けで倒れるのを拒否しようとして、それでも倒れてしまう様子を見てしまうのだった……。

 

 ・

 ・

 ・

 

 サーヴァントが戦う様子に比べれば、刹那と黒羽の親子との戦いなど地味なものだった。

 

 公園を広く駆け回りながらも用意しておいた術を解き放つ戦い。

 

 現代魔法の大半は、刹那には効かない。その伝承防御とでも呼ぶべきなのか、はたまた何なのか、魔力を充足させた遠坂刹那には効かないはずなのだが―――。

 

(魔弾の煌めきが、弱い?)

 

 こちらを穿とうとする魔弾は、何というか『へっぴり腰』なものにしか思えなかった。

 

 勢いが足りないというか魔力の光が弱いといえばいいのか。

 

(サーヴァント四騎の運用は、この人でもやはり『腰』に来るものなのか?)

 

 文弥なりの下世話な想像ならば、魔力供給のために五人もの美女に『ヒエロスガモス』で魔力の直渡しをしているかもしれないのだ。

 

 そう考えると何かムカつきを覚える。許せないとまではいかなくとも―――。

 

「やっぱり許せるかー!!!!」

「ヤミ!?」

 

 真正面から挑もうとする文弥()を見て、亜夜子()は少しだけ瞠目する。

 魔眼対策として特殊な仮面を着けている姉弟だが、真正面から挑みかかるなど愚策。

 

 だが、これは文弥なりのフォローであった。この男で一番の脅威は、魔弾でも『転送』で出す魔剣でもない。

 

『見た』だけで相手を呪える(縛れる)魔眼なのだ。それを分かっていただけに文弥は、姉と父の捨て石となるべく真正面に立つことを選んだのだ。

 

「男だねぇ。けれど―――」

 

 それでも身を低くして足さばきだけを見て対処しようとした文弥の目に照準を合わせるべく、刹那はバックステップ。

 

 カツンッ! と一際大きく響くブーツの音、瞬間文弥は足元が濡れるのも構わずにピーカブースタイルで挑みかかる。

 

 ―――つもりだった。

 

 『水』で濡れたことと姿勢を低くしていたことで理解をする。

 

(水たまり―――しまっ―――)

 

 月光で詳細に見える―――覗き込む遠坂刹那の顔が、水たまりに写っていた。

 

『緑色』に輝く魔眼の魔力が、『水たまり』という触媒を介して文弥の目に入り込み―――全ての活動が止まる。

 

 黒羽文弥という人間が『止まる』(停滞)ことを認識して、己を留められなかった。

 

 

「―――ッ!!!」

 

 崩れ落ちた少年の身体を受け止めて、それを瞠目している姉の方に乱暴に投げ渡す。

 

 流石に意識を失った弟を躱すつもりはないのか、受け止めた瞬間。いつの間に仕掛けていたのか、文弥の身体からルーンの縛鎖が出現して、亜夜子すらも縛り付けていた。

 

 

(文弥を受け止めると同時に、ルーンを仕込んでいた? 疾すぎる。そんな予兆、どこにも無かったのに……)

 

 だが、それはルーン魔術に関して亜夜子の知識が半端すぎるからであった。

 

 バゼットから教えられたルーン魔術の応用で、マンナズを利用してルーン文字を『増やしていた』のだ。

 

 あとは、時限式爆弾となるように、亜夜子のもとに送ったのである。

 そうして、相対するのは黒帽子を被った男だけである。

 

 仮面で顔は見えないが、怒りを覚えているのが分かる。

 遠坂刹那が一番『やり辛い』相手だ。

 

 

「君には現代魔法が効かないというのは本当のようだな?」

 

「さぁ? 効くものもあるかもしれませんよ」

 

 それを調べている内に、敗れ去るのがオチだろう。

 

 そう続ける前に―――。

 

「アンタたちお得意の精神干渉魔法(チャーマーエンパシー)ならば効くかもしれないがな」

 

 あからさまな挑発を聞く前に、貢は動き出していた。暗殺者として鳴らしていた貢の足さばきは音を出さない。

 

 本来ならば相手に気づかれる前に刺し貫くことが、肝要なのだが。

 この男の眼法は普通ではない。阿修羅のように三面六手を用いて、どこに逃げても貢を真正面に見据えるのだ。

 

(軸足を変更することで、スイッチしているのか―――プロボクサーならば世界チャンピオンにでもなれるだろうに)

 

 自己加速魔法でも放とうとすれば、『魔眼』という『ボディブロー』でこちらを痺れさすだろう。

 

 ―――已むを得ない―――スマートに勝ちたかったが―――。

 

 コートの肩口を引っ掴み、それを目眩ましとして遠坂刹那に投げつける。その間に貢の双手十指の間には、小さいラペルピンのようなものが握られていた。

 

 合計で八本のピン、それを遠坂刹那の心臓に突き刺す。

 

 本来ならば、四葉の秘伝ともいえる『リーパー』を使えれば、それが一番なのだが……。

 

 

「―――Anfang(セット)―――」

 

 そんな言葉が聞こえたような気がした。貢の耳に入る文言。

 その後には―――貢のコートを突き破って黒弾がやってくる。

 片腹ぐらいくれてやる。一撃を耐えた後に、見えない位置から突き刺してやる。

 

 などという思惑は、簡単に崩される。頬に黒弾が掠った。それだけで貢の身体に言い知れない倦怠感が襲った。

 

(な、んだこれは―――)

 

 身体の不調からではない。『精神』(こころ)に対する干渉が『身体』()を苛んでいるのだ。

 

 自分の『毒蜂』以上の干渉を、肌身を持って体験した貢に追い打ち。コートを突き破って飛んでくる黒弾が十発も当たった時には、息子と娘の声を聞いても、貢は倒れるしかなかったのだ……。

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 呆気ない勝利を終えて、これからどうしたものかと考える。

 

「一体全体、どういうことなんでしょうか……?」

 

「もしかして、こいつらが連日都内を騒がせている吸血鬼なの!? だとしたらば―――」

 

「それはないな。とにかくもうじきお前の姉貴がやってくる。それまでおとなしくしていろ。そして、ラニを置いて逃げようとしたことを謝りなさい」

 

 その言葉に、痛いところを突かれたみたいに呻く双子。

 だが結局最後には謝るところ。気にはしていたようである。

 

 

「マスター、雑兵達は全て制圧したが、どうするんだ?」

「とりあえず後詰めとして、七草家の人々が来るまで陣地を維持していたいんだが……『無理』か?」

「ああ、囲まれつつある」

 

 なぜだか分からないが、日本という国では『公園』というのが、魔導を心得るものたちの決闘場所になることが多い。

 

 特に示し合わせたわけではないが、そういうことは多い。

 

 まぁ魔術戦をする上でそれなりの広さを持ち、尚且つ隠蔽するにも都合がいい場所。それが公園というものなのだろう。

 

 そう考えてから、あちらにも通信を飛ばす。すると結構な窮地のようである……。

 

『スマン、セツナ! こっちにもグールが現れた!! 槍兵の騎士王殿と迎撃する!!』

 

 モードレッドとラントリアのチームが答え……。

 

『セツナ! こっちも同じくよ! アシストはいらないけれど、そっちには出せない!!』

 

 リーナとお虎の『ツヴァイウイング』(マリア&SAKIMORI)からも答えが返り―――。

 

『こちらDチーム。メイド・オルタさんと一緒なのですが、『巣穴』から燻されたようで、グールが大挙―――ただしV シオンと弓塚さつきの姿は確認されず 』

 

 明瞭かつ明朗な念話が放たれたのは、最後のシオンからであり、その通信に、こっちがババを引いたということかもしれないと考える。

 

 何よりここまでのグールをよく溜め込んだものだと思える。

 

『推測ですが、電脳街網(インターネット)を通じて、そういった『自粛行動中』の若者たちを『路地裏』などに誘い込んだものかと。ここに来るまでに街路カメラの映像を見てみましたが』

「ラミアか、エキドナみたいなやり方だな……」

 

 つくづく、こちらの狙いを崩してくれる。そしてなによりそれだけの『攻勢』に出る機会を願っていたなど普通ではない。

 

(なんかありやがるな……何を以て穴倉にいながら、ここまでの筋書きを書けたんだ?)

 

「包囲網の一角を崩す。その間に全員を脱出させろ」

 

 ラニの肩を叩き耳元に小声で話す。これが最上かどうかなど分からない。だが、足手まといをこの場において死徒と血戦を演じるなど下策だ。

 

「導師はどうなさるのですか?」

「シオン達が合流するまでの時間稼ぎだから、何とかそれまでは、粘ってみせるさ」

 

 こちらを心配そうに見るラニに出来るだけ笑顔を作っておく。

 

 100鬼以上の食屍鬼の群れ。どうやら下級死徒程度にまでなったのもいる。

 魔法師か魔法師の素質がある人間が犠牲になったのだろう。

 

 魔眼のセンサーが敵の数と脅威度を示してくる……。

 完全に押し込まれるまでは時間があるが、そろそろ立ち上がってもらわなければならない。

 

「呪いは全て解いた。部下も回復させている……申し訳ないが一時的に七草殿の幕営にまで走ってもらいましょうか。黒羽殿」

 

「―――手際がいいと言えばいいのか、それとも好き勝手やっておいて……と文句を言えばいいのか……分からんな」

 

 スーツ姿の中年男性は息子・娘に肩を貸されながらも、こちらに声を掛けてきた。

 だが、今は身の安全が優先されるのだ。それをあちらも分かっている。

 

「遠坂先輩―――」

 

「いまは何も聞くな。ただ命を守ることを優先して動け」

 

 香澄を冷たくとも黙らせながら、呪刻させた宝石を六種類手に持った上で、タイミングを図る。

 

「―――ボス、お嬢と若も無事で……」

 

「春隆、どうやら我々は蛇の巣穴に手を突っ込んだようだ。すまない―――私の無能でお前たちを犠牲にすることを許容するところだった」

 

「いえ、自分たちは黒羽の家に拾われた身です。先代からのものも、ボスに助けられたものも……」

 

 頭を下げる後ろの黒羽の一門衆のやり取りを聞きながらも、刹那は呪文に集中する。

 

 気配で察する。コレ以上は無理だ。

 

 

「―――セイバー! 『焼き払え』!!」

 

「御意」

 

 黒赤の光を放つ『超大剣』と化したエクスカリバー・モルガンを手にしたアルトリア・オルタは、刹那の合図で―――。

 赤い魔力光を叩き出した。扇状に放射されたそれはもはや大口径のレーザービーム砲と称するに違わない。

 それがただの『剣』。原始的な武器を用いて放たれたなど、現代魔法の理からすれば受け入れられないだろう。

 

 とりわけアビゲイルは、頭を抱えて『だったらばコロニーレーザー級の魔法を』などと意気込むかもしれないが。

 

 全員が眼を眩むほどの圧倒的にして暴力的な(ことわり)(ふぶんりつ)もない魔力の吐き出しは、公園の一画を焼き払い、撹拌し、何もかもを破壊し尽くした。

 

 その様子を見て、安全圏までの道のりにルーンの加護を作り出す。

 

「行けっ!!! この道の先が安全圏だ!!」

 

「七草さん。あなた達が前を、殿は我々黒羽が勤めますので、春隆など使用人たちのことお願いしますううう!!」

 

「問答する前にとっとと行け、ハリーハリー! だ」

 

 言葉を続けていた亜夜子ちゃんのケツを叩いてルーンの道路に叩き出したアルトリアに、色んな視線が届く。

 だが、問答をしている暇はなくなる。それを理解したらしく、亜夜子ちゃんが双子と共に先導していく。

 ドラクロア作の『民衆を導く自由の女神』のように旗を振り上げているかのようだ。

 

「若! ボス!! お早く!!」

 

「ああ……遠坂君―――」

 

「いいから行ってくれ。文弥くん―――親父さんに孝行しなよ。あとは―――『親不孝者どうし』で何とかしておくから」

 

 こちらに助けをもたらしたのか『ご親族』に対してなのかは分からぬが、パチもんのスパイダーマンのような格好をした御仁が空中より刹那の近くにやってきた。

 

 素顔こそ知れないが、その姿こそが黒羽文弥にとっての憧憬すべき最強の魔法師なのだから、それに安堵するのは当然だった……。

 

「捕らえられて辱めを受けても仕方ないというのに、重ね重ね、かたじけない―――……よろしくおねがいします」

 

 その言葉を最後に黒羽の一門は去っていった。

 

 去りゆく背中を見送ってから、スパイダーマン(司波達也)は口を開いた。

 

「迷惑をかけたな」

 

「気にしちゃいない―――が、魔法師にとっては随分と魅力的に思えるんだな。サーヴァントの力は」

 

「―――『これだけのこと』を『剣一本』でやれるなんて知れればな」

 

 あちこちで炎が爆ぜて草木と土塊を焼き尽くす様が広がり、その向こうより食屍鬼たちの唸り声が聞こえるかのようだ。

 

 同時に達也の唸り声も仮面の向こうから聞こえてくるような気がした。

 

「ぐだぐだ言っている暇はないぞマスター、来る」

 

『直感』が働いたようで、アルトリアの言う通り数秒後には、一斉に押しつぶすかのように食屍鬼の群れは手を振り上げながら襲いかかってきたのだ。

 

 

「たかだか五十鬼ばかりで我がマスターを害そうなど、騎士王アルトリアの勇名、舐められたものだな!!」

 

 魔力放出の猛りの限りで、突進してきたグールの群を壊乱させるは、黒竜魔竜の顕現であった。

 噴きあがる魔力がそのままに暴虐の限りとなりてグールを壊す。

 

 例えるならば、飛行機のジェットエンジン。その回転ファン部分に鳥が吸い込まれる現象。

 バードストライク現象のようにグールの群れには何も出来ないのだ。

 

 回転ファン……専門用語でエアインテークという部分の回転力は、動き出せば近場にいる人間であっても容易く吸い込み―――『大惨事』となる。

 

 それこそが、現在目の前で行われているアルトリアとグールの戦闘だ。アルトリアの猛烈な魔力の回転は、一切の抵抗を許さずグールを吸い込んでズンバラリンと切り裂いていくのだ。

 

 まさしく『嵐の王』―――ワイルドハントである。

 

(ウチの先生も、そりゃ参謀役としてステゴロにははっきり加わらないタイプだったが……)

 

 グレイ姉弟子と先生の関係のようなものだと思っていたのは大甘だ。はっきり言えば―――。

 

「俺たち暇だな」

「俺は魔力供給という仕事があるけどな」

「暇人仲間になりやがれ」

「断る」

 

 男子2人ヒマであった。しかし、これぞ最良の策である……。

 

 暴走列車に踏み潰される哀れな犠牲者を見かねて、十人には満たないが死徒に成ったものたちが出てくる……。

 

 ―――仕事(狩り)の時間である……。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。