魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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第247話『ビフォア・バレンタイン』

 キャビネットのニュースサイトは忙しなく、昨夜のことに関して報道をしている。

 

 魔法攻撃の類であることは分かっているが、詳細は不明。

 

 ―――という事後処理の程は知れた。

 

 同時に、破壊の痕跡に対して様々な見識が披露されて、その上で魔法師にとっては『左巻き』な発言をするコメンテーターがわちゃわちゃと言ってくる。

 

 それを聞きながらも、会合場所には重い空気が纏わり付く。まるで海に潜っているかのように呼吸が上手く行かない―――とでも昔の自分ならば思っていただろうが、優雅にティータイムを楽しむぐらいの余裕はあった。

 

「結局、黒羽殿は、英霊を使い魔にしたかったということで?」

 

「……そういうことだ。ある『情報筋』から、タタリ・パラサイトを君が英霊召喚のリソース―――とでも言えばいいのか、にしたのを知ったからな……四葉の分家筋としては、宗家に成り代わりたかったんだよ」

 

「力で以て、主従交代を成す。まぁ過去・現在・未来を通じて、そのやり方の善悪は問いません。ですが、少々『過ぎたもの』を求めすぎかと思います」

 

 刹那の言葉に黒羽貢の眼が鋭くなり、同席している七草家の人々―――弘一、真由美、名倉はそれぞれの表情だ。

 あの後、色々あって黒羽家の人々は七草家の所有する都内の施設で手厚い『おもてなし』を受けて、今日の時点で完全に復調したようだ。

 

 もっともそれは、諸葛孔明が、南蛮の孟獲大王や同じ南蛮の諸将を手厚くもてなすことで、懐柔をしようという風な透けた考えも見えていたが……。

 十文字克人がいないのは、怪我の程度がそれなりに深かったからである。

 

「過ぎたもの、か―――仮に僕らが英霊をサーヴァントとして使役すると、どうなると想う? そもそも契約出来るものなんだろうか?」

 

 弘一の疑問に対して答えるのは、刹那(じぶん)では適当ではないだろうと思えて、『小体化』していたランサー・アルトリアを呼び出す。

 

「ランサー」

 

「話は聞かせてもらっていたが、余としても明言出来かねるところはあるぞマスター」

 

「それでもいい。俺が言うより説得力あるだろ」

 

「承知した―――私見と『死霊』を操りて探らせてもらったのだが、残念ながら令呪による(しるし)の有無とかではなく、単純にアナタ方の『チカラ』の総量では、余を戦闘に赴かせることは不可能だろう」

 

「――――――契約するのが、1人でなくて2人であっても、ですか?」

 

「同じだ。仮に使役者が何かしらの『生贄』(Victim)や『人柱』で不足分を補おうとしても、然程の変化はないだろう」

 

 英霊を現界させて繋ぎ止めているのは、どこかに設置されている『聖杯』。しかし、そこから令呪―――マキリのシステムに似たものを配布している。

 

 そのシステムに魔法師……現代魔法師は選ばれない……のだろうか?

 色んな疑問が衝いてくるも、能力値的な面で言えば魔法師が選ばれる可能性は限りなく低い。

 

 英霊マルタも人の身に憑依することでしか、現界出来なかったのだから。

 

「不確かなものを明らかにしてきたからこその現代魔法なのですから、少々難しいかと。加えて―――英霊一騎とてその人生は、あらゆる国が常在戦場だったころの武人ばかりです。

 クラスによる『逸話』に『差』などもありましょうが……黒羽家が呼び出そうとしている武田信玄=武田晴信なんて、ご存知の通り『武人の中の武人』(最強の戦国大名)にして『謀略家』にして『最高位の為政者』ですよ―――『いい関係』を築けるかは少々疑問ですね」

 

 刹那とて、今のサーヴァント達と上手くやっていけてるかは自信がないと付け加えておくのだが。

 

 そこを言われると、渋い顔をする黒羽 貢。

 

 戦乱があちこちにあり、下剋上を良しとして、今日までの親兄弟が、明日には殺し合う関係すらもあり得る時代の覇者の1人。そんなものが素直に黒羽家の戦力として動いてくれるか分かったものではない。

 

 苦悩する貢氏に少しだけいい情報でありながらも、諦めを与えておくことにする。

 

「いずれにせよ、タタリ・パラサイトは憑依ないし、『何か』に具現しようとしている。それを英霊ないし高位の使い魔として使役出来れば―――というのは分かりますが、中々に難しいかと思います」

 

「君のアドバイスありでも、か?」

 

「私も偶然と幾ばくかの幸運で、騎士王アーサーと契約を結べました。重ねて申しますが、それは本当に幸運なものでしかありません」

 

 横浜でのエクスカリバーの使用。

 そして多くの人が見たアルトリア・ペンドラゴンの影。

 美月が描いた横浜騒乱での絵……アルトリアの姿。

 

 ブリテン島よりやってきた英霊霊媒(キャタリスト)たる『モードレッド・ブラックモア』。

 フランスよりやってきた英霊憑依のデミサーヴァント『レティシア・ダンクルベール』。

 

 多くの『無形』と『具体性』を伴わない噂が蔓延していた一高だからこそ、顕現するのは英霊アルトリアであろうと……。

 

 

「どうにも全てが君に都合良く動いたものだね」

「別に裏で三味線弾いちゃいませんよ」

 

 笑いながらも、言葉だけは痛烈な弘一氏の言葉に返しておく。そう言われれば、幾らでも疑念は持てることだ。魔的なものを引き寄せやすい、そういう人種なのだ。遠坂刹那は。

 

「霊体の方の敵は―――残り三分の一を残して、死徒側に持っていかれた。あの『雷の魔法を使う相手』は、どの程度のものなの?」

 

 真由美からの質問。少しだけ考えてから口を開く。

 

「鉄壁で知られる十文字先輩が展開した壁を貫いて、雷電が身を灼いたんです。少なくとも、マスタークラスはあるでしょうね」

 

 冠位指定級の魔術師―――刹那は知らないのだが、かつて聖堂教会・埋葬機関には、そういった『手合』がいたらしく、そのカバラ数秘術による雷霆は、封印書物として貯蔵されていた。

 パン屋の娘であった『エレイシアさん』は、教会にスカウトされると、それを教えられたそうな。

 

『もしかしたらば、『どこかの世界』では私に『取り憑いて』いたかもしれませんね。この術は相性が良すぎますから』

 

 苦笑しながらアルズベリで自作したカレーパンを頬張る女の顔を思い出す。

 埋葬機関のドラクルアンカー・弓のシエルに、『具現化した女』は似ていたのだから、つくづく何か因縁というものを意識してしまう。

 

 だが―――。

 

(あのカレー眼鏡に『裸マント』なんて趣味があったなんて知りたくなかった)

 

 とはいえ、刹那の知らない未知の死徒が2鬼も現れたのだ。

 

 用心するに越したことはない。

 

 

「以上でよろしいですかね?」

 

「ああ、色々と隠されていることは分かったが、我々のような凡俗では 、英霊とはいい関係を築けないことは分かったよ」

 

「英霊と言ってもピンキリですからね。私のような一国の王や救国の英雄だったものもいれば、市井の侠客、農民、看護()。―――『犬』や『馬』なども座にはいますから、あなた方の呼びかけに応えるものもいるかもしれません」

 

 フォローというわけではないが、ラントリアの諭すような言葉と柔らかな笑顔に、男全員(刹那除き)が少し照れくさそうにする。

 

 一方で、この客間における唯一の女子である真由美は―――。

 

(侠客とか農民は何となく分かるけど、ナースってナイチンゲールとかだとしても……イヌにウマってどういうこと?)

 

 英霊の座にいる『けものフレンズ』に対して、頭を悩ませるのだった。

 そうしていると話題は『家どうし』の交渉ごとに切り替わる。

 

「刹那くん。君は……私に対して、何かの賠償などを求めないのかね?」

「まぁそういうのはあなた方にとって普通なんでしょう。倒すべきものは倒せる時に倒す。溺れる犬は棒で叩けとでも言えばいいのか」

 

 貢氏の探るような言葉に、そうジャブのように返してから口を開く。

 

「が、それは自分が何かの門派、閨閥を組織していればの話ですよ。所詮、根無し草の『はぐれ魔術師』なわけですからね。アレコレと多くを求めはしない方がいいでしょうね」

 

 縄張り……『シマ』があるというのならば、下にいる連中を食わせるためにシノギを―――藤村組の影響を受けすぎだが、組長たる雷画じいちゃんが、如何に孫が気に入ったとはいえ、あんな明らかに普通じゃない『人間』……刹那の血縁関係が無い祖父の所に通うことを許すだろうか?

 

 きっと嗅ぎ取っていたんではなかろうか、衛宮切嗣という男の人生における血の匂いを……憶測でしか無いけど。

 

 そんな雷画じいちゃんと、各派閥に食い千切られないように踏ん張ってきたウェイバー・ベルベット先生のことを刹那は思い出す。

 

「派閥を持たない私は多くを求めはしませんよ。腹蔵無く言わせてもらえば、妙な憶測は呼びたくはありませんから」

 

 独立独歩でいかせてもらう。その態度は好漢侠客の類だが、一歩間違えば、各勢力から袋叩きにされかねない。

 

 ―――お前は『何処の味方』なんだ?―――

 

 そんな風にも見られかねない。例え大義大志を抱いたとしても、それを良く想うべき人間ばかりではないのだ。

 そういうことを先達たる大人3人は、良く分かっていた……特に軍部から除隊処分を受けた名倉三郎は、危うい少年と想うと同時に……。

 

(上手い渡り方だな……)

 

 派閥抗争の末に軍を追われた名倉からすれば、この少年のようでなくてもそれ相応の頭を回していれば、何とかなったのではないかと想う。

 思わず拳を握って苦笑が出てしまう。

 

「まぁ一つ小さな貸しってことにしといてください。実際、召喚の触媒として見せられた信玄公の軍配を、ウチのお虎が『こんなものが晴信の軍配なわけないでしょうが!!』とか言って叩き折りましたし……いや申し訳ない。お宅の資産をぶっ壊してしまって」

 

 

 景虎ちゃん『激おこ』の顛末を思い出す。

 

 武田信玄、武田晴信を呼び出したかったと告白した黒羽貢に対して、サイコな笑顔で『触媒』を見せるように迫る景虎に、若干怯えながら軍配を見せた貢氏だが……。

 

 上記のようなことがあったわけである。

 

「イミテーションだったんだ。構わないさ。

 息子から聞いたんだが、年月を経た武器や武具、英雄が扱っていたモノは、それだけで魔力を帯びると、ね……真夜さんから『送られた』アレには、確かにそういったものは感じなかったからね」

 

 ティーカップを持つ手が少し震え気味の貢氏。お虎曰く『ミツグ殿は、私の兄上に似ていますね』

 いい評価でないのは確かだった。

 

「アレは真夜から『贈られた』ものだったのか……」

 

 刹那が申し訳無さゆえに出した『痛み分け』の提案に、そこは気にしていないとする貢―――そして最後には、『年下』に嫉妬の念を持つ弘一という構図。

 

 送られた。贈られた。

 

 聞こえ方次第なのだが……。何というか未練がましいものを娘に見せないでほしいものだ。

 

「弘一さんは、何かありますか? アナタの娘2人に怖い思いをさせた負い目が私達にはあるんですから……」

 

「泉美と香澄が襲われたこと自体は、ウチの監督不行き届きもあるからな。ただ少し怒ってはいる……。

 だがこちらに、不実があったのも事実だ。隠せば噂は広がる。洗いざらい話して理解を求めるべきだった……」

 

 腕組みして少しだけ唸るように嘆息する弘一。

 

「その辺りはお父さんの失策よ」

 

「面目ないな、情けない父親で。受験時期にこんな事が起これば、何となく心配かけさせたくない気持ちもあるだろ」

 

 ここぞとばかりに父親を攻める娘。先程のやり取りを不満に感じているのだろう。

 

 それを感じた貢は少しだけ苦笑する。2人の妻を貰っても、その心には未だに―――従姉の姿があるかと。

 

「これ以上は2家で話し合った方がいいでしょうね。ぶっちゃけ―――貢さん。あとは『本家』に『下駄』を預けてしまえばよいのでは?」

 

 少年の『あくま』な言葉の『裏』を読んだ黒羽貢は―――眼を輝かせて、刹那の提案に乗ることにした。

 

「それもそうか。弘一さん―――これ以上は当方では決められない話です。

 あとは、私を東京に送り込んだ本家当主であり私の従姉殿と決めてください」

 

 面白がるよう、黒羽貢は『爆弾』を投げつけてから椅子から立ち上がった。逃げ支度である。

 

「―――なっ!?」

 

 驚きの言葉をあげたのは弘一ではなく真由美であり、言葉の意味するところを良く分かっていた。

 

 つまりは、昔の男女で決めなちゃい(爆)。ということである。

 

「番号ぐらいは分かっていると思いますけれど、まぁこれがナンバーですので、掛けて話してください。しばらくは僕らも東京にいますので、その間に済ませられることならば、こちらにもご連絡を―――」

 

「貢くん……」

 

 感極まるのか、かつての弟分を隻眼で見上げる弘一。

 

 からかわれているのは分かるが、そんな風な理由付けでもなければ、スキな女の子にTEL(古っ)することも出来ない情けない男に対する温情であったのも事実。

 

 だからこそ長女があんぐりと口を開けているにも関わらず、おせっかい焼きのスピードワゴンズはクールに去るのだった……。

 

 

 その後の七草の家でどんな事があったかは知らない。

 

 双子達に関しては、黒羽家が四葉の関係者とは知らずとも、遠方よりやってきた『魔法師の家』をエスコートする。

 

 ―――ぶっちゃけ遊びに出るのだった。事が起こった数日後とはいえ、タフな双子である。

 

 最初は、貢氏から『娘と息子を東京観光によろ』と言われたが、生粋のシティーボーイではない刹那とリーナは即座に司波家と七草家に連絡をして、グループデートじみたものを行うことに。

 

 遊びたいざかりの中学生。いや受験シーズン真っ只中でどうなんだ? と想うも、その手の歓待を行わないでいるのは家の度量が知れるという結論で、泉美と香澄の誘いに刹那・リーナ・達也・深雪も付き合うことになるのだった。

 

 

 追記するならば、まぁ楽しかったことは間違いない。

 

 しかし、泉美が深雪に『べったり』すぎて、深雪は疲労困憊であったことは書いておかなければなるまい―――。

 

 そんなビフォアバレンタインデーの一幕がありつつ、『期日』は迫る―――。

 

 金沢の地では……。

 

「遂に出来ました―――待っていてくださいセルナ! お姉様と一緒にアナタに最高の愛を与えますわ!!」

 

 金髪の乙女が鼓動を上げる……。

 

 

 一高の一室では……。

 

 

『ピピピ―――主動力稼働開始。自律行動モード二移行。命令ヲ、サーチ、サーチ、サーチ。

 ドクター、コノ男ヲ殲滅―――………不合理ナ命令ヲ受諾。コレヨリ、フルアーマー二移行スル。Aランクノ追加武装ヲ―――■■さまは、ワタシが守ります』

 

 古きよきメカメイドの魂を宿した存在が、産声をあげる……。

 

 

 バレンタインの第一幕が開演準備を始める―――。

 

 


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