魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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難産でした。

予定ではもう少しピクシーに『はっちゃけ』をさせる予定でしたが、収拾がつかないなぁと思いつつ、こんなオチに。まぁレオと美月の『片鱗』を書けたので、これで一先ずは良かったと思いつつ、久方ぶりの新話どうぞ。


第249話『バレンタインパニックⅡ』

「イタタタタ……あー……手加減された上で筋肉痛だなんて、情けない限りだわ」

「サーヴァント相手に無茶するね」

「―――安全圏に居たならば、掴めるものも掴めないからね」

 

E組の机に突っ伏しながら、ボヤくエリカ。俗に『どうしようもないことに不満を募らせるエリカちゃん状態』となったエリカを一同見ながら、なんとも言えぬ気分だ。

 

「あっ忘れていたけど、ミキ、レオ―――これ義理チョコー」

「すっげぇぞんざいな渡し方だな。まぁ貰うけどよ」

「いいじゃない。どうせ放課後の校門前にはウサミンの姿があるんだからー。一高初の出待ちが行われる男子生徒という名誉をありがたく受けときなさいよ」

 

名誉なんだか不名誉なんだかよく分からないが、それでも逆に出待ちされているかもしれないヴァーチャルアイドル雪兎ヒメの中の人こと「宇佐美 夕姫」が、そんな大胆なことをするだろうかと想う。

 

とはいえ、アホなことに現生徒会メンバーの数名は、金沢の三高よりやってくるかもしれない『稲妻』の動向を気にしているとか何とか。

 

まるで使徒の来襲に備える特務機関のような様子に、何ともアホばっかりかと想う。

 

「実際、どうなのかしらねー?」

「現代の交通事情は昔に比べれば簡便なものだけど、まさか手渡しするためだけに刹那に会いに来る……やりそうだよね……」

「ホントだよな」

 

幹比古とレオの男子2人は、そんな風に納得していて、この後の展開を予想していたのだが―――。

 

「―――ううん?」

「美月? どうしたの?」

 

眼鏡をあげて眼をこする美月の様子に、エリカも机から顔を上げて見る。

 

そして眼―――刹那が言う所の『魔眼』の効果が発動。

 

瞳孔の黒目を少しだけ残して殆どが『銀色』になったことを受けて、4人が警戒をする。

 

その時……。いきなりな端末の震えでレオがその通信に出る。

 

『スマン西城、病み上がりで悪いがヘルプ頼む!!』

 

「何かあったんすね?」

 

端末から聞こえる声は、服部会頭のようだ。映像はノイズだらけで見えない。

 

『ああ、ロボ研のピクシーが、なんと言えばいいのか……『機械の反乱』が起こったんだ。ターミネーターが、シュワちゃんがあああ!!! 機界昇華が始まる!!』

 

完全に錯乱状態の服部会頭の言葉が途切れたあとには、盛大な爆発音が響くのだった。

 

方向としては、部室棟の方だろうか。そう感じた面子が飛び出す。先刻の『アルトリア・パニック』の際の達也と深雪のように、飛行魔法での飛び出しではないが、それなりに疾い動き出しに周囲の眼が向くのは仕方なかった。

 

爆心地たる場所はロボ研だろうか。もうもうと立ち込める煙をかき分けて、たどり着いた面子の前に見えたのは……。

 

 

『ピピピピ 貴女ヲ犯人デス(DEATH)

 

ジェットを噴射して飛んでいるメイドロボが、目からビームを放ちながら、光井ほのかを抱いて逃走する司波達也を追っている絵図であった。

 

「狙いは、ほのかさん?」

「達也を狙っているのか、どうなのか?―――ともあれなんとかするぜ!!!」

「仕切るんじゃないわよ!!」

 

美月の疑問に考える間もなく、自分たちよりも先に来ていた、違う方向から爆心地を見ている刹那と真由美が動き出す。

 

真由美が攻撃の術―――ドライアイスの弾丸を編んで誰よりも速く放ち、幹比古は、飛んでいるメカメイドに対して拘束のための術式を編んでいる。

 

誰もがやることを理解している。本来的には校内でCADを常備していないとはいえ、それでも放課後となっただけに、半ば当然の如くそれらは解禁されていた。

 

先日の『アルトリア・パニック』も、ある種の規定の緩さに繋がっていた。

 

追い回されている達也とほのかは、反撃の糸口を見いだせないようだ。

 

真由美のドライアイス弾が、四方八方からメカメイドを叩こうとするが、メカメイドは周囲に球状のバリアー……薄紫のものを発生させて、ドライアイス弾を無効化する。

 

封殺されたことは予想外だが、次手を打つためにすかさずCADをなぞろうとした真由美に対して、メカメイドは赤い子弾をスカートの裾から解き放つ。

 

赤い子弾―――恐らくフレア弾かチャフのような役目を持っていただろうそれは、恐ろしい『追尾弾』として真由美の周囲数メートルを覆う。

 

回避するには、術式のキャンセルを行わなければならない。物理障壁で耐え抜くことは不可能だ。

 

それを察した―――わけではないだろうが、用意していた術式を解き放つは―――。

 

 

「パンツァー・ルーンブルグ!!!」

 

 

相撲取りの張り手のように、五指を一杯に広げて真由美の方向に向けた西城レオンハルトの術。円状の壁―――いや、盾が真由美を追尾弾の脅威から完全に封じた。

 

展開された積層型の(まほう)の姿に、助けられた真由美は驚く。そんな真由美に構わず状況は動く。

 

攻撃を封じられたことで論理思考に一瞬の隙が出来たことを悟った幹比古が、メカメイドを拘束するべく魔法的な拘束を掛ける。

 

地面から直立して伸びていく鎖が、縦横無尽に伸びていく。

 

「捕縛―――!」

 

身体に食い込む鎖が、メカメイドを衣服ごと動きを止めようとしたのだが。

 

『チェーンソー展開』

 

言葉で全身から回転刃を展開するメカメイド。術の鎖が森林伐採の工具で斬り裂かれる様子は、幹比古にとってショックだった。

 

そのままに上昇をして、こちらの攻撃がそうそう当たらぬ位置に移動をする。

 

『ビーム、ビーム、ビーム』

 

言葉の意味はあるのか。目から放たれるビーム。ブライトバーンないしスーパーマン、サイクロプスのような攻撃が地上を襲う。

 

「空対地攻撃!!!」

 

「これが服部会頭を叩きのめした攻撃か!?」

 

言いながらもレオの防御盾は、それらの攻撃を届かせていなかった。

その様子に何人かは舌を巻く思いばかりに囚われる。

コレほどまでの防御術を複数、そして多面的かつ立体的に構成して防御しきれるとは……。

 

とはいえ、攻勢に転じるには中々に難儀なものを放ってくるメカメイドだけに、防御に集中するのだが、そんなフレアビットを封じきるレオが待つのは―――。

 

最大攻撃力を持つ存在の反撃(リベンジ)があると信じているからだ

 

 

刹那が遅れたのは、その魔術構成がひときわ複雑なものだったからだ。全員が息を呑んだ。

刻印神船。九校戦でその力を見せつけた砲門が、キッチリとメカメイドに照準を合わせて対空砲を放つのだった。

 

幾重にも地面から噴き上がる光柱は、メカメイドの逃げ場を失わせて―――されど機敏に3次元的に動く原因、ジェットスクランダーが、メカメイドの逃走を手助けする。

 

しかし、その逃走は不意に止まる。

 

上空より飛来する光柱。刹那の放った術が反射されてメカメイドを撃ち抜こうとしたのだ。

 

よく見ると上方に『鏡』のような円盤が多数展開されており、それらが刹那の攻撃を反射したようだ。

 

バリアを展開して反射攻撃を防御しようとしたメカメイドだが、魔力の圧が物理的な圧としてバリアを歪ませ―――数瞬後には、ガラスが砕けるかのごとくバリア機能が不全となった。

 

『想定外ノ物理衝撃。『最終自爆機構キカクイチジン』ヲ発動―――タツヤ様、アナタガイル世界二私モ生キテル―――アナタノ眼ハ■■様二似テイル』

 

ジェットを潰されて飛行が不可能となったことで、地上に落着したメカメイドが、不穏当な言葉を発する。その言葉通りにメカメイドが力を充足させていく。

 

「ダメコンが不能になったメカが自爆するのは、ロマンか?」

「んなこと言っている場合!?―――ミキ、拘束しておいて!!」

「今度こそ!!」

 

言葉通り、動きを束縛した幹比古の拘束布。力さえも抑え込もうとする術。だが―――『触れた感覚』から、メカメイドがタタリ・パラサイトの類だと気づき、それでも駆け抜けたエリカの剣がメカメイド―――『ピクシー』の動力……『ムネーモシュネーエンジンがぁあああ!!!』と嘆くようなロボ研の部員+シオンと顧問のダ・ヴィンチ女史の言葉で―――エリカの剣の切っ先に突き刺さる動力源の名称を知り―――。

 

『自爆装置不全。次世代エンジン『ヘルメス』に移行―――』

 

まだ戦う気か!? と全員が瞠目するぐらいに、再び眼に光を灯らせたピクシーだが……。

 

次の瞬間、何かが起きたのか、ありったけの武器を身体から落としていく様子。手を向けている達也がいるからには、達也が何かをしたのだと数名が気づけた。

 

無力化されたピクシー。それは糸が切れたマリオネットのような様子。

 

何かのコントのように次から次へと、どこにこれだけの武器と弾薬を備えていたんだという不条理の後には―――。

 

ピクシーの衣服……エプロンドレスのみだが、それすらも破られて下着姿のメカメイドの姿があった。

 

(そこまで徹底することもなかろうに……)

 

ロボ研の部員の趣味か? と想うも―――その姿になったことで顔を『真っ赤』にしたピクシーは……。

 

 

タツヤ(シキ)様のエロ学派―――!!!!』

 

「ぶごぉあああ!!!!」

 

メカメイド―――否、『メイドロボ』の最終武器『掃除道具』、その中でも古めかしい『竹箒』を手に達也をぶっ飛ばすのだった。

 

往年の王〇治も同然の一本足打法で吹き飛ぶ達也の姿に……。

 

 

「一高の2大魔神の一柱が吹き飛んだ………」

「これぞまさしく―――」

「科学の勝利ね。シオン……」

 

感極まったかのように泣きながら、全員がハイタッチをするロボ研の面々。

完全にスクラムを組むかのような有り様に、何だかなぁと思いながらも、ロボ研の女子部員平河千秋は、ピクシーに替えの衣服を与えるのだった。

 

「流石は我が終生のライバル。アンバーが作り上げた最高傑作!! しかしあれにゃ。お主アンバー的な面もひろいあげてにゃいかー?」

 

青狸のポケットよろしく、その衣服がネコのようなナマモノの口から出していなければ、色々と納得出来たのだが―――。

 

ともあれ―――事態を聞きつけたらしき生徒会の面子に軽く手を上げながら、刹那は色々と吹き飛んだ施設の復旧に取り組むのだった。

 

ある種の現実逃避であるのは、まぁ間違いなかったわけである―――。

 

だって……。

 

「刹那君、なにがどうしてこうなったのか、キッチリと説明してもらえませんか?」

 

「いやー俺は特に何もしていないし、むしろ騒動を収めた側ー。詳しく聞きたければ、アシモフサーキット(ロボット三原則)を軽く無視したメイドロボにぶっ飛ばされたお前の兄貴に聞けー」

 

「お、お兄様ーーー!!!」

 

親指で示すと、瓦礫の中に埋まる達也の元に駆け寄る深雪の姿。

 

それを見ながら、今後のことを考える……魔眼が自動発動。家庭用メイドロボの姿に―――いつぞや手紙を届けたことで、泣かせてしまった双子の片方に似たメイドロボ(?)らしきものを見る。

 

な、何を言っているんだか分からねーとは思うが、降霊術だとか獣性魔術だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ……。

 

(仮にこれもタタリ・パラサイトだと仮定して、サブカル的(武内・奈須 風)に言えば『メイドロボ』―――専門的に言えばガイノイド、メカメイドなんて開発出来るほどの技術力なんてあっただろうか?)

 

一度だけしか訪れず、一度だけしか会っていない混血の王『遠野』の家―――あとで調べてわかったことだが、遠野グループというのは表経済でも、かなりの勢力を持っているらしく―――。

 

(2020年代ならば、メイドロボぐらい作れるのか……?)

 

そんなもんが家の中にいたり、家の外で吸血鬼たちとズンバラリンしている街―――三咲町……。

 

世界が違えど、相当な地獄にいたのではなかろうかと、少しだけ遠野志貴を見直すのだった。

 

 

「あっ、ピクシーの中にタタリ・パラサイトの霊体が憑いている。しかも、ほのかさんにパターンが似ている」

 

刹那としては断言してほしくなかったとんでもない事実。

 

ほろりと涙を流す一方で、瓦礫の中から出てきた会頭など2年生数名を癒やすレオの姿を『じっ』と見ている七草先輩の姿を見る。

 

「助けてもらっておいてなんだが―――西城、お前なにか七草先輩とあったのか?」

 

「いや、達也とかと違って、そこまで接点が無いはずですけど……」

 

服部の質問に、見られている方も困惑しているのは当然だった。とはいえ、刹那も思い当たる節がないわけではない。

 

だが、この場での騒ぎを大きくするわけにもいかず黙っておくことにした。

 

「「「まふたー、もぐもぐ―――無事か―――!?」」」

 

明らかに遅すぎる登場(チョココロネ嚥下済み)でやってきたアルトリアズに頭を痛めつつ―――。

 

「「オートスコアラー(?)を従えた魔法少女(?)がいるのは、ここか―――!!!???」」

 

やってきたギア奏者(?)に、更に頭を痛めつつ……。

 

 

(まさか―――『彼女』まで来ていないよな……)

 

一高の校門前に行くのが、本当におっかない限りだが、今はタタリ・パラサイトを優先すべきだと思っておくのだった―――。

 

現実逃避と言うなかれ。と、誰ともしれぬ相手に言い訳をしつつ、物語は―――再動をする……。

 

 


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