魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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はい。というわけで、前話の最後の方にあったことの顛末。


正直、ここまでやると森崎くんも可哀想かなーと思うも、序盤の彼は本当にアレすぎて、ここで人間的成長が無ければ取り戻せるチャンスなくね?

 ぶっちゃけウェイバーみたいにイスカンダルな大物に触れていれば―――とも思うが、あり得ない仮定なので、まぁそんな感じ。


原作主人公サイドに対してではありませんが、アンチ・ヘイトのタグを付けるかどうか、検討中です。


第15話『魔法使いの誓いと狂気』

 

 

初登校一日目。それが終わると思うと少しの感慨もある。

 何というか普通の学校である。授業のカリキュラムは確かに高等学校に無いものだが――――。

 ユミナの食人植物(アインナッシュ系)が暴れて対応に出動したり、呪術の授業でガンドの打ち合いを始めて講堂が全壊したり、動物科から逃げ出したコカトリスを相手に視線を合わせないように処理したり……。

 

「平和だぁ……」

 泣きそうになるぐらい平和である。

 そんな時計塔の日常に兄弟子二人と姉弟子二人があれこれやって破壊の規模が大きくなるなどもないのだ。

 

 ああ、穂群原で黒豹が教師をやっていた時よりも平和である。

 

 ちなみに母は黒豹が教師をやっていることに―――。『世も末ね……』と涙を流して日本の教育行政の先行きを危ぶんでいた。

 そんな風にしていた所に、一人の闖入者が現れる。トミィよりも何だか委員長らしい存在。このB組における『お嬢』である存在が刹那に声を掛けてきた。

 

「変なヤツね。始業初日からそんな風に感慨深くなるなんて」

「桜小路、お前は自立で歩く人間大の植物と戦った事あるか? つぶらな瞳でみつめておきながら大口開けてこちらを丸呑みしようとする犬の擬態をした獣と戦ったことがあるか? そういうことだ」

「いや、わけわかんないわよ」

 

 桜と紅葉という落ちていく定めの女には分からぬ生と死の狭間にあるもの―――ぶっちゃけ宇宙。まぁそんな所で何用か尋ねる。

 

「あ―――何から言えばいいのかしらね……とりあえず遠坂、アンタからいちゃつきを止めようという考えはないの?」

 びしっ! とでも擬音が付きそうな勢いで人差し指を突きつける桜小路紅葉(あかは)

 

 高校生にもなって―――と偏見かもしれないがゴシックロリータで使うようなデカいリボンで髪を纏めてショートにしている女が言ってくる。

 身長は短躯と言ってもいい。椅子に掛けている刹那と殆ど変らないかもしれない。内側に跳ねた髪を揺らしながら言う桜小路に返す。

 

「とりあえず俺とて四六時中。そうしたいわけではない―――が、恋人からの求めに応えないなど出来ない。リーナとて、常識は弁えているさ」

「何でその常識があんたと一緒の時だけ適用されないのかしら?」

「……俺があまりにも『弱いからだな』。情けない男で申し訳ない限りだ」

「のろけてるようにしか聞こえないわよ……まぁ、あんまりこれ以上あれこれ言えないんだけどね」

 

 明後日の方向に呆れるように嘆息する桜小路。何故そうなのか聞くと―――リーナと刹那が食堂であれこれやっていた時に二年生の先輩二人がB組にやってきたそうである。

 

『ここにバカップルがいると聞いて参上したぁ!!』

『ちょっと『カノン』、一年生の皆が怖がっているからもう少し穏便に、ごめんね。B組のみんな』

 

 小豆色の髪をした女が開口一番にドスを効かせて言うが、それを宥める黒髪の―――中性的な男。

 聞く限りではそいつらは、『我らこそが一高ナンバーワンのカップル!! 貴様ら新参者などに、この学校のタイトルを渡してなるものか!!』(主に女生徒だけが発言)

 九つの魔法科高校の一つ一つにベストなカップルやら呆れるような仲良しカップルがいるわけでもないのに、何故かそいつらは、リーナと自分にケンカを売って来たそうだ。

 ともあれいないと分かった途端に去っていったそうだが、迷惑な限りであるが、そういった愛が濃すぎるカップルは珍しくないということが分かった瞬間だった。

 

「あーあ…、アタシもあんな風な『中性的な女の子』と付き合いたいわ……どこかにいないかしら―――」

「お前が『五十里』先輩に対して出した感想を聞かせてあげたい…」

 

 遠くを見つめる桜小路を、半眼で見ながら言う刹那。

 トミィ曰く五十里啓なる男子の先輩は、その中性的な容姿の末に男友達が少ない事を悩んでいるそうだから―――まぁ人は望んだとおりに生まれてこれるわけではない。

 ――――もしも、自分に『魔術』の才能が無ければ……。

 そんな風なif(もしも)を考えては、一人悩むのである。それをリーナは見抜いているのだろう。

 

「まぁ首筋にキスマーク付けながらの下校とかスリリングでしょうが、やってきなさい」

「うるせ」

 

 言いながら、体育もあることを考えれば『そういうこと』も気をつけなければいけないことに桜小路の言葉で気付かされる。

 リーナの場合、『仮装行列』で隠せるかもしれないが、こちらは―――ドッキリテクスチャーなど持っていないのだ。

 

「セツナ―、そろそろ帰ろー」

 

 所用をすませて戻ってきたリーナが、教室のドアを開けて言ってきた。

 手荷物など無い登校と下校風景。

 自分がいた時代でも『予想されていた』。電子機器による万能の学校教育を受けながらも―――一昔前の建築学生が持つ製図用の図面ケースにも似た『円筒』を担いで出る準備が整う。

 

「んじゃな」

「ええ、気を着けてね。リーナも」

「アカハ、See you tomorrow.です♪」

 

 気楽な様子で挨拶をして下校となる。色々な人やモノ―――それと出会い、どうにかこうにかの始業式を終えたのだが……下校途中に知り合い―――B組の『後藤 (ロウ)』―――皆には通称・後藤君として親しまれている人間に挨拶してから再びの桜並木を歩いていたのだが……。

 

「スライム並みのエンカウント率……」

「あるいは封印の洞窟におけるレッドとブルーの『捕食者』……」

 

 うざいわぁ。とリーナの気持ちとシンクロする。

 まぁた会ったよ。A組の『森友駿』―――もはや、前前前世からの因縁ではないかと達也たちを不憫に思う。

 校門前で迷惑な問答を続けるグループ二つ。ガンドでもぶち込んだろか。と思いながら、事態の推移を見守るだけにはいかなくなる。

 

 後に深雪に聞いたところ―――『北山』なるダウナー系少女が、こっちに気付いた。

 

「………」

 居心地悪い視線だ。沈黙しながらこっちを見てきて、なんでさ。とか叫びだしたい気分だよ。

 

「大丈夫よセツナ。私の方がスタイル勝っているから!! 今までのあなたの感じてきたことを思い出して!!」

「思い出したら不味くないかな!?」

 

 リーナも北山の視線に対して気付き、少し勘違いをする。しかしながら、そのやり取りが原因でA組中心の連中が、こちらに気付く。

 その中で珍しいC組出身の五十嵐 鷹輔が、こちらに気付き顔を赤くする。

 

「ア、アンジェリーナさん……」

「死ね。むしろ五十嵐(いがらし)というより木枯し(こがらし)(ひぐらし)になれ」

「なんでだよ遠坂!? ひどすぎないか!! い、いくらお前がアンジェリーナさんの彼氏だからって―――!! ヒトの恋路を何だと思っているんだよ!?」

「コンクリートで埋め立てるべきじゃないかしら? 気分はタカマツキャッスル、後はヒデヨシ・オーバー・リターン♪」

「もしくは聖帝十字陵でせきとめるべきだな。最後にはターバンの少年にアッー!される運命。これぞ人類選択のデスティニープラン」

 

 五十嵐 鷹輔―――完全沈黙(リタイア)。容赦ない二人の口撃に、五十嵐のガラスの少年時代は砕けてしまったようだ。

 

 煤けた木枯しのような姿になった五十嵐は―――。蜩のよう(?)に叫びながら走り出した。

 

「こんなに苦しいのなら悲しいのなら……愛などいらぬぅううう!!」

「お、おいひぐらし……じゃない五十嵐―――ィ!?」

 

 使った状況は違うというのに、逃げ出すように校外に飛びだす五十嵐を止めようとする森友だが、止まらずに出て行った。

 

 呆気に取られる一同を前に自分達も、こそっと出て行こうとしたが―――。

 

「遠坂ァ! お前 よくも木枯し―――五十嵐を!!」

「森友、お前失礼だよな。友人の名前間違えるなんて」

「お前の方が失礼だ! 僕は森崎駿! 覚えておけ!!」

 

 すぐに忘れるからいいです。とは言えず―――とりあえず達也サイドに今度は何だ?と聞くことに―――。

 

 聞くと、食堂でのことと同じく。何というかため息、嘆息。

 

「一科、二科関係なくさ。他人の意思を尊重できないってのは人間としてどうなんだ? 太宰先生に恥の多い生涯を送ってる野郎だと笑われるぞ」

「さっきひぐらs―――五十嵐の恋路をバキバキに砕いた人の言葉とは思えない。別に森本の味方するわけじゃないけど」

「リーナは譲れないからな。あれは人間としてというよりも男としての沽券の問題だ」

 

 きゃっ、などと頬に手を当て、赤く染めたままに向こうを見るリーナ。言ってきた北山は変わらずの無表情。

 ホント、何なのこの子……。げんなりしつつも、そちら側の議論にもげんなりする。

 ともあれ議論は平行線。そして再び深雪の心は無視される。いっそお前が何か領域魔法でも放った方がいいんじゃなかろうかと思うも―――。

 

「いい加減にしてください! 深雪さんはお兄さんと帰るって言ってるんです!! 他人が口を挟むことじゃないでしょ!!」

 

 美月の堪忍袋の緒が切れたかのような発言。どうやら一番にキレていたのは彼女のようだ。

 

 そして次々飛び出す『問題発言』に今度は、深雪が頬を染めて慌てている様子。

 

「私は司波さんと相談したいことがあるのよ! ただ単に話したいだけなのに!!」

「そういうのは自活(自治活動)中にやれよ! ちゃんと時間は取ってあったろうが!」

 

 北山の近くにいた……たしか『光井』とかいうのの言葉とレオの言葉が重なる。

 それに続く形でエリカも挑発する。

 正直、正義と審判の女神―――天秤を司りし『テミス』『ユースティティア』が見ていれば、どちらに論拠があるかなど明白。

 

 大岡越前でも、これに対しては本人の意思を尊重するだろう。ただ……深雪は引っ張り続ける方に対しても遠慮と言うか仲を悪くしたくない想いがある。

 

「どうする?」

「―――俺が出る幕じゃないだろ」

 正直、森本はそろそろ自重した方がいい。と思っていたら―――。

 

「うるさい! 他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!!」

 その言葉。誰もが『森崎』の暴言に対して、色々な表情を浮かべている中―――刹那だけは、その言葉を放った際に『当てこする』様にやった森崎の『行動』に、五指を握りしめて―――足でタップをした。

 

「―――」「?」

 気付いたリーナと、こちらから視線を外していなかった北山とが、表情を変える。刹那の『変化』に気付いたようだ。

「あーもう……いいわ。アナタの好きなようにやりなさい」

「コテンパンにして構わない?」

「もちろん。ションベンちびらせて、二度と立ち直れないぐらいでも構わないわ」

 

 思念での通話。小指に巻いたお互いの髪を用いての意思疎通で呆れつつも同じくムカついていた『総隊長』から許可をもらった刹那。

 行動を開始した―――。

 そして遂に特化型のCADを用いての魔法戦になろうとした際に声を掛けながら―――『殺意』を放ち、森崎にターゲッティング変更を強制させる。

 

「―――ッ!?」

 

「遂に馬脚を現したな。この差別意識だけのノータリンのクソガキが、そいつをお前が日ごろからバカにしている二科に向けて発砲した時点でテメーはクソ以下のゲロ吐き以下の弱虫野郎ってことになる。魔法力の差だの才能の差だの何だのと言いながら結局持ち出すのが武器(エモノ)だっつーんなら、お前は21世紀前どころか原始時代の野蛮人と同等だな。文明人たる俺やリーナと同じ空気を吸わないでくれ。虫唾が走る」

 

「なっなっな―――お、、おお前ぇ!! 遠坂ァ!! 僕をバカにするのか!?」

 

 早口でスラングの限り(三級程度)を言われたことと殺意に敏感に感じたことで、森崎は頭に血が上る。

 

それ(銃型CAD)をお前がウィードだの劣等生だのと馬鹿にしている二科に向けた時点で弱虫以下のチキン野郎なんだよ」

 

 カツンッ! と再びの足によるタップ。渇いた金属音を響かせながら魔法科高校に存在する路面のタイルが鳴り響く。

 挑発―――と受け取った森崎の眼が、こちらを射抜く。

 

「いいさ……正直お前が一番ムカついていたんだ。魔女術だかなんだか知らないが……一科で然程の成績でもないくせに、平均点で一科入り(アベレージ・ワン)のくせに……口先だけ達者で―――この学年総合三位の僕を見下しやがってぇええええええ!!!」

 

「そりゃそうさ。俺はお前たちと違って『口先』を使う『魔術師』なんだからな」

「この口先だけ野郎がァアアア!!!」

 

 向けられる銃口。激昂と共に放たれる起動式。構築された魔法式―――。だが、そんなものが―――どうだというのだ。そんな目をする刹那を達也は見た。

 

「―――Anfang (セット)

 

『呪文』―――という『今の時代』にあるまじきものが聞こえて、その後に左手が閃き―――その手にあるエイドスがあまりにも膨大過ぎて、見えなかった達也が驚愕する。同時に森崎の式は―――『捻じ曲げられて』、ただの魔力塊として刹那の左手に収まっていた。

 

「なっ! え―――え……ど、どういう―――」

 

「お前さん方、魔法師(マギクス)が金科玉条の如く信奉しているCAD(高速演算機)すら持たない。俺に対してこのザマとは……」

 魔法が不発に終わったことで動揺する森崎。当然だ。撃ち抜かれたわけでもなく防がれたわけでもなく―――、『持っていかれた』のだから……。

 

 そんな森崎に対して憐憫。本当に小さなものを見るかのように、『巨人』が哀れんでくる。

 

「俺だったら、もう一度試すね―――俺が動こうとする前にだ……」

 どう考えても忠告でしかなく明確な『反撃宣言』を聞いた森崎が、冷めかけていた体温を逆流。頭に血を昇らせながら魔法を構築しようとする。

「馬鹿にし―――」

 

咲き誇れ。(blÜhen)―――妖花(ガルゲンメンライン)

 森崎から奪った魔力を―――地面に落とす刹那。

 

 その言葉を最後に森崎の眼前を覆うようにタイルを押し退けて大量の土砂と共に何かが飛び出してきた。

 

 何かとしか言いようがない位に急激な変化を前にして森崎は恐慌する。

『GUAAAAAAAAAAA!!!!』

「ひ、ひぃいいいいい!!!」

 何かは、明確な叫びを上げていた。森崎の周囲にいた連中は悲鳴を上げて、退避すると同時に、同じものが森崎を中心に覆うように四つ出る。

 

『何か』の正体は―――『花』の化け物としか言えないものだった。

 

 巨大な樹木の如き蔓を纏め上げた茎を身体にして、先端部分―――恐らく『顔』のつもりか、『八枚花弁』(ブルーム)の青い花を咲かせていた。

『GUAAAAAA!!!』『GUAAAAAA!!!』『GUAAAAAA!!!』『GUAAAAAA!!!』

 

「ひっひっ! く、来るな来るなああああっああああ!!!」

 

 叫び声を上げながらその身にある蔓を森崎に纏わりつかせようと、逃がさないように包囲するように放出してくる。

 蔓は足元にも放たれ、さながら蛇が蠢くような様の前に路上で千鳥足を演じる酔っ払いの如く滑稽なダンスを演じる。

 

 誰もが、達也ですら唖然として、呆然としている中、リーナだけは『失敗したわねアンタ』と言わんばかりの半眼で森崎を見ていた。

「あっ―――ひぃっうぐっ!!」

 

「教えてやるよ『魔法師』(マギクス)―――これが、お前らと(メイガス)の格の違いだ!!」

 魔法を使うことすら忘れていたゆえか、遂に身体を掴まれそのまま喉を締め付けられるままに一体の―――『ガルゲンメンライン』に捕らわれた森崎、全身を拘束されて身じろぎひとつすら出来ない様子に―――『魔術師 遠坂刹那』は、冷たく見ていた。

「刹那。お前―――」

 

「ガルゲンメンライン―――Galgenmännlein。魔術世界における薬草の一つ。マンドレイク、マンドラゴラの『魔術体』―――俗な言葉で言えば『使い魔』だな」

 呼び掛けた達也というよりも、全員に聞かせるかのように、刹那は呟く。その神秘然とした姿は―――『魔法使い』ということをことさら意識させる。

「森崎、お前があーだこーだと下らんことを言っている間に、俺は地中深くに存在する『妖花』の種子に呼びかけて、足で叩き起こしていたわけだ……その間に俺の手札を推測出来ていればよかったが、まぁお前の小さな脳みそでは気付かんわな」

 

「ぐおぅ―――お、お前は、な、なんで『そんな所』まで『干渉』出来るのに―――なぜ、アベレージワンなんだおおおお!!」

『絞首刑』を課すべき罪人の如く締め付ける蔓、いや幹から逃れようともがく森崎の叫びが響く。

 

 もはや四体のガルゲンメンラインは、融合して巨大な木になっていた。頭に咲き誇る八枚花弁の青い花(ブルーム)―――を殊更意識して一科の連中が、まさかこの為かと戦慄する。

 

 皮肉と揶揄のために、このような化け物を使役する『メイガス』に誰もが、差を理解する。

「さぁな。まぁあんまり本気でやるのは嫌いなんだ。第一、CADも市販の何の調整品でもないもの使っていたしな。どうせならば『素手』でやらせてほしかった」

 それは、何でもないことのように言う刹那の姿は、本当に―――「こんなもの別に力じゃない」と言わんばかりだ。

「お前さんが日ごろから自分達はブルームだ。貴い、ジーニアスだと自負しているんだ。『葬花』は、その八枚花弁の青い花をプレゼントしてやるよ。遠慮をするな。マンドレイクの花は―――お前にはぴったりだよ」

 

『GUOOOAAAAA!!!!』

 

「――――」

 妖花の叫びか、刹那の冷静さか、に絶句して歯をがちがち鳴らして小便を漏らし、涙を流し、鼻水を垂らす森崎―――だがすぐさま、それを水分として吸収したのか渇き果てて―――巨大となる木。

 

 現実をことごとく無視したものに誰もが唖然としていた時間が動き出す。

「―――や、やめろよ! 遠坂!! いや止めてくれ!! お願いだ!! 頼むよ!! あいつの短慮さは今に始まった話じゃなくて、どうしようもないバカで、俺じゃ止められなくて……けれど、そこまで罪深いなんて言わないでくれよぉ!!!」

「友情に篤いねぇ田丸。―――だがダメだ。口は災いの元という言葉の体現とは、こいつのことだ。そして止められなかったお前たちも同罪だ。断罪の刃を翳す

スペクター(死神)なんて、どこにでもいるんだよ。たまたまそれが俺だっただけだ」

 

 土が巻き上がったタイルに膝を突き、土下座して告白する一科生の一人に対して冷たい目。その眼は―――虹色に輝く。

 

「な、なんでだよぉ!? そこまで、こいつは罪深いのかよ!? お前に悪口を言ったとしても、それだけで―――」

「ああ、こいつには『恨み』があるからな」

「う、恨み―――な、まだお前とこいつは知り合って一日も経っていないはずなのに!!」

 

 田丸のあまりにも焦りきった表情。

 手で仮面を作るかのようにして、指で覆ってから、眼だけを晒して下から森崎をねめつける刹那の酷薄さ。達也は思う。この意図的な二重人格―――自分とは正反対だ。と。

 

 そして断罪の理由が告げられる。

「ブルームだ。ウィードだ。アホみたいに九官鳥かオウムみたいに叫ぶならば、まだ見逃してやったが、こいつはそれに応じて『やってはならんこと』をやった」

 

 何だ。森崎の行動―――ここに刹那達が来てからのモノを思い出す達也。その中に―――一つの推理が導き出される。

 

 ―――うるさい! 他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!!―――

 

 そういった後に森崎は地面にある『雑草』を蹴りあげて、踏みつけていた。その『当て擦り』―――。

 

「路面から生える草木に対する扱い!? それか!」

 

「正解だよ司波達也。そして終わりの時だ。――――俺の育ての親。最後のアルスターの戦士、現代の赤枝の騎士『バゼット・フラガ・マクレミッツ』との誓いでね―――オレの前で、『人間』と同時に『草木』を粗雑に扱ったものにはドルイドの呪いで例外なくぶち殺すことを決めている」

 

 ぞわっ、というしかない殺気。そしてその育ての親の教育は―――確かに『間違い』ではないだろう。自然に存在しているものを粗末に扱うことは生命への冒涜。

 

 同時に、人間に対する尊厳も確かに教育されている。

 だが……その二つが重なり、こんな不幸な結果になるなど―――誰が想像出来ようか。

 

 そして誰も『魔法を発動できない空間』に――――。

 

「待ってくれ! 遠坂君! 君の作り上げたその妖花では何も―――」

「そうですよ! 強がりは止して下さい! もういいんです。 その妖花は人食いの―――」

「ミ、ミキ!? それに美月も何を言って―――」

 

 不意の闖入者。自分達のクラスで履修登録を終えた後に出て行った男だと気付いた達也。その後に続いた美月の言葉で――――。

 まさかと気付き眼を輝かせた達也だったが―――遠方から、魔弾が飛ぶ。

 

 校舎方向から来たサイオンの弾丸を―――『強化』して―――狙い通りに『ガルゲンメンライン』に当たった。

 

(こいつ……)

 

 その結果に―――他ならぬ魔弾の射手が驚いた。しかしながら、やるべきことは変わらぬ。

 砕け散るガルゲンメンライン。解放される森崎―――。首を締め上げられていた跡に手をやり―――大量の汗をかく。

 見上げるとそこには眼を―――『虹色』に輝かせる『魔法使い』の姿。

 

「―――」

 

 その面相が恐怖で歪む。自分が生きているのは、全てはこの男の気紛れなのだと気付き――――どうしようもない『差』を知る。

 自分など尋常の世で生きる『唯人』であって―――このような『魔人ども』に関わるべきでないと―――この時が初めて思い知った瞬間であった……。

 ようやくおっとり刀でやってきた生徒会長と―――。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ……が、何から言えばいいか分からんが、とりあえずお前ら全員正座だ!! そこに直れ―――ッ!!」

「あっ、その前に、ここ『直していいですか』?」

「何だ元凶スリー!? お前が工事業者でも呼ぶのか!?」

 

「いいえ―――Anfang―――」

 

 渡辺委員長の激昂の言葉を前にしても構わず再びの呪文。何かを投げた刹那。宝石―――それが地面に落ちると―――何かの逆回し―――映像機器による『早戻し』のごとく先程の『現実』を『無』にするかのように、元通りになっていく。

 誰もが唖然とする。土埃と石まみれだったタイルは元の位置へと戻り元通りの校門前へとなる。自分達の制服の汚れも無くなっている。

 

 悉く『魔法理論』を無視した遠坂刹那の手並みの鮮やかさに達也は頭を痛めつつも……どうしようもなく『渇望』するものを刹那は持っているように感じるのだ。

「では正座させてもらいます。流石に俺のせいでみんなの制服を土まみれにするのは忍びなかったからな」

「いつみても壮観ねセツナ。流石は稀代の魔術師。『全てを壊し』『全てを癒す』―――正しく破壊と創造の魔人よ」

 

 先程までのことなど忘れたように、見事な『正座』をする二人。外国人であるリーナが、それをやっているのを見て、続々と正座をする。

 何か色々と忘れちゃならんことが多すぎるが、一先ず―――この流れに乗らざるを得ない。先程までの『争い』などどこにいったのか、一科二科が気持ちを合わせるのだった。

 

「途中参加なのに、なんで僕まで……」

 そんな風に愚痴るE組男子生徒の嘆きも余所に―――釈明の時が始まるのだった。

 

 

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