魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~ 作:無淵玄白
その殆どが達也によってめちゃくちゃにされる(誤字にあらず)リーナと四葉によって草臥れるUSNA軍だとしても、それら全てを改変していけば、長くなる(泣)
―――どういうことだ。これは何なんだ?―――
あまりもの理不尽に、神田という代議士は、机の中に隠れて震えることしか出来なかった。
既に電気は供給されていない。暗闇の世界、大型のホテルの全てが暗黒に包まれたことで、神田は己がどれだけ無力なのかを察していた。
先程からどういった『トリック』なのかは分からないが、通信機器も全てが不通なのだ。そして、分厚い扉の向こうにて広がる光景と、荒い息を吐きながら徘徊している獣の姿を想像して震える。
震えが止まらない。寒さが底なしに神田という男を捕らえてくる。
「こ、これは悪い夢だ! げ、現実じゃない! この衆院議員の私が死ぬわけがない!! 夢だ! 夢だ!! バンザイーーッ!!」
冬山で遭難した人間のように現実逃避をする神田は、その言葉で既にオートロックが解除されていた扉から出る。
扉から出ると、多くの獣はおらず、『ラバースーツ』―――身体にフィットして媚態を表すものを着込んだ女がいた。
極上の美女だ。羽織るマントも洒脱で、青い髪は月夜においても映えるもの―――そしてコウノトリのように『赤い眼』が真っ直ぐに、こちらを突き刺してきた。
「きさま何者だぁ―――!! 魔法師だとしても、わしに、こんなことをして許されると想っているのかぁ―――!!!!」
こんな状況でなければ寝台にて心ゆくまで悦楽に耽りたくなる美女だが、今はそんなことは出来ない。
(そうだ。許されるわけがない!! たとえ自分より上の人外の『老人』どもであろうと、この私に対して、こんなことをしていいはずがない!!)
内心での自信は底なしに上がっていく。
神田という男を支えているものは、殺された支援者や党員たちへの仇討ちなどではなく、ただの安っぽいプライドであった。
(高校・大学と成績は一番で卒業した! 大学ではアメフト部のキャプテンをつとめ、タックルで相手選手を十人潰してきた!! 社会に出てからも、皆から慕われたからこそ政治家になれた。ハワイに千坪の別荘も持っている25歳年下の元モデルの美女を妻にした! 税金だって他人の50倍は払っている! どんな敵だろうと私はぶちのめしてきた!! いずれ日本の
「ウィルソン・フィリップス・神田衆議院議員だぞ――――!! いいか聞け! このイカレタ女め!! 終身刑など生ぬるい!! 貴様は警視庁管轄の特殊刑場で誰にも知られずー―――――」
人差し指を向けて言い放っていた、ウィルソン・フィリップス・神田という米国の血混じりの男の言葉が途切れた。
「―――あれ?」
「うるさい玩具だ。血袋としては魅力的ではないが、しかしネロが食いまくったせいで、『数』が足りないのだ―――」
そんなW・P・神田の予定など埒外の女は、人差し指を向けていた腕を、雷刃で半ばで切断してから―――。
「まぁいい。その血を飲み干してから『形成』するとしようか」
そんな言葉で、ウィルソン・フィリップス神田の血を頸動脈から飲み干していった。
その際に神田の眼に入ったのは、女の後ろにいくつもの歩く死体がいるという事実だった。
死体の全ては、神田に関わりがあるものたちだった。パーティーに呼んでいた支持者、政党の党員。後援会の名士や資産家たち……出身大学の女子大生。
そしてその後ろには、パーティーを終えた後の『楽しみ』として秘書に用意させておいた『美女』たちが、血塗れの死相で神田を睨むように虚ろに歩いているのだった。
―――その恐怖を味わうと同時に失禁しながら死に果てた神田は、自分が違うものに変わることを認識しながらも、抗えないことを覚えていた……。
「揃った人柱は、二十四か―――」
「いいや、『二十七』だ」
数の合わないことを嘆いていた時に、駆けられた声。
同時にここまで拘束してきたのか、恐怖に震えた『生きている血袋』をホテルの床に投げられる。
「―――これはこれは……趣を少しは分かっているようで、助かるよ朋友」
「貴様に『ダンナ』などと呼ばれるのもアレではあるが、朋友と呼ばれるのも少々違う気がするな」
「違いないね。まぁ女身での再生だなんて、私としても少々不本意なんだよ。どうせならば、シキ=トオノという異能力者で再生してもらいたかったが、あのお嬢さん的には―――こっちが良かったんだろう」
言いながら、己の豊満な肉体に妖しく手を這わせていく蛇を見て、薄く笑みを浮かべる混沌。
「お互い再生された身とは言え、いずれは
「それはいいんだけどね。予想外にこの国の官憲たちも、気付くのに疾い。周と『■■■』に言われて、ここを襲撃したわけだけど、ここで一戦やらかすのも仕方ないかもしれない」
むしろ『やらかす』ことを企図して、血袋を吸い尽くすミハイルを見てから―――身体を強めておくのだ。
錬金術師によって『再生』された所以、はたまた違う要因なのかは分からぬが、『予感』があるのだ。
(いないと分かっていても、何故だ―――我が身を貫いた『死』の予感が、傍に近寄っているような気がする……)
真祖の姫、白き執行者『アルクェイド・ブリュンスタッド』を追ったがゆえにたどり着いた『極東』。その一都市においてネロに死の運命を縫い付けたもの。
蒼き眼をした死神―――その姿を思い出す。
「あり得ぬことがあり得る。それが我らの世界だからな」
備えをしておくべくネロは、己の食事を再開するのだった。
「もっとも霊性が低すぎて『食いで』が無いのは難点だが、粗食もありったけ食えば腹六分にはなるか」
背後に
・
・
・
早駆けのルーンと身体強化の合せ技で、ビルとビルを二段飛ばしで飛び越える刹那の姿を捉えられたものは、殆どいない。
駆け抜けながら『呼びかける』。呼びかけに最初に答えたのは。
『今日こそは決着を着ける!!! 『呼び込んで』倒すんだな!?』
「そうだ! 協力も取り付けたから、そこで『世界』を展開する!!」
『―――分かった―――』
飛んできた魔法の杖の応答に少しの淀み。当然だ。魔法の杖は、刹那の保護者でもあるのだ。大魔術の展開は、刹那の命数を大幅に削る。運命に瑕疵をつける行いなのだ。
出来ることならば、やらせたくない。
「転身!! プリズマキッド!!!」
久々の魔法少年姿となった刹那。その一見すれば不真面目にも取られかねない行動に意味はあったのだ。
事実、既に巨大ホテル―――全ての明かりが堕ちたバベルの塔のごとき場所に警察は規制線を張って、野次馬共を押し留めていた。
ここに学生魔法師―――色々と『業界』で知られているとは言え、自分がここに来ても素直に入れてはくれなかっただろう。ならばUSNAの魔法怪盗としてのネームバリューを利用する。
月夜をバックに魔法怪盗が、混乱の中に降り立つ―――――――。
「あっ、アレは―――!?」
「レディースアンドジェントルメン!!! 今宵は予告状もない推参で申し訳ないが、喫緊の事態ゆえ―――この場における対処―――この私が請け負った!!」
『『『『プ、プリズマキッドだ――――!!!』』』』
警察車両のパトランプに靴を乗せてオーディエンスに一礼をする。よく見ると近くには見知った顔が大勢いたりしたが、全員が呆然としている。
「ニッポンのオーディエンスの皆さん、ミナミタテシマ以来ですがお変わり無いようで、このキッド―――嬉しい限りです」
『『『『―――――!!!!』』』』
最後の方の言葉で流し目の動作にちょっとした
だが『規制線を超えるな』というギアスも目線で混ぜていたことが功を奏して、群衆が雪崩込むことは無かった。
「キッド!! このネクストセンチュリーホテルはどうなったんだ!?」
「先程から入れないんだ!! それどころか……」
「電気が落ちると同時にとてつもない振動が―――……」
「娘が!! 中にいるんです!! 政治家を目指して今日、神田議員のパーティーで勉強して、くるって……」
嗚咽混じりで叫ぶ中年の女性がいた。その言葉を聞いた時に苦衷が胸を疼かせた―――。
最初は警察に訴えていたのだろうが、何も動いてくれないことに業を煮やして叫んだのだろう。
「―――このホテルに他に家族がいると思われる人々は、他にいますか?」
明朗な言葉を掛けると、見える限りでは十人ばかりが手を上げた。その数に謝罪をする。
「―――――すみません。恐らく、このホテルには、もはや生きている人間はいません―――ご家族は―――亡くなられたと思われます」
「―――――――――」
とぎれとぎれの言葉に絶句する。頭を下げた
恐らく携帯端末に緊急を知らせるメール、もしかしたら音声や動画添付があったのだろう。
その泣き顔を見ながら、モノクルを外してORTの仮面を被る。今の自分は人々のために何かをする快活なヒーローとしては振る舞えない。ただの殺人者だ。
水晶蜘蛛の仮面の冷たさが、沸騰しそうな血管に冷気を届けてくるようだ。
「ですが、こんなことをした連中に少々、落とし前をつけなきゃならないな。凶報を先に知らせて申し訳なかったが―――」
言葉の合間に、仮面やヴェールという素顔を見せないものを着けた十数名の男女、背格好から少年少女としか思えない連中が多く現れたことに誰もが驚くが、その
ここから先は鉄火場でありカタギを巻き込んだことを悔やみきれない―――。そういうものを感じた。
言葉など無い。
そしてその背中に、全てを託すことしか出来なかった。
パトカーの向こうにあるホテルの扉に進んでいく。ご丁寧にも『結界』を張っている様子に、苦笑する。
「冥府地獄を作り上げておきながら、
俺を招き寄せたいんだろうが。そう無言で言いながら右手で振るった歪な短剣は結界を切り裂き、そして自動ドアの機構を無くした扉に盛大な魔弾を叩き込む。
高級ホテルらしい贅を尽くした硬化ガラスと豪奢な枠の全てを叩き潰しながら、出入りの人間のように入るのだった。
瞬間、再びの結界による遮断。
「
「虎口に飛び込んだか?」
「でなきゃどうしようもなかった。いざとなれば、グール共をここから吐き出すぐらいはしていただろう」
あちら側の招待に、今は黙って応じるしか無い。
だが、それは―――。
「俺だけで良かったんだぞ」
やってきた
代表して、鎧武者の面頬のようなものを着けている達也が口を開く。
「足手まといか? 俺たちは」
その言葉に少しだけ沈黙。再度、口を開く。
「……今日、俺がやることはお前たちの理解を崩すはずだ。何故ソレだけの力を持ちながら? そう考えるときもあるはずだ」
無人のエントランスホールに刹那の言葉が大きく響く。
それは刹那の力の源泉。容易に触れることは出来ない―――ものだ。
その詳細を知っているわけではないが、その凄まじいまでの『力』、『起こった現象』を知っている達也・深雪は緊張をして―――そして『本当の詳細』を知っているリーナは、魔法の杖を見てから胸の辺りを掻き毟る。
「リーナ……」
「ワタシの未来のオットが決めたことだモノ―――ワタシがソレを否定するわけには行かないのよ」
再度、面子を確認すると―――。
司波兄妹、リーナ、エリカ、レオ、幹比古、美月、ほのか、TPピクシー、愛梨、レティ、レッド……意外なことに七草真由美もいたのだ。
シオンがいないのが、『少々』気がかりだが―――。
「お虎は、
「こんな時になんだが、エイミィから献上されたチョココロネはまだあるのか?」
ラントリアが惨劇の現場で平気な顔でチョココロネを食べている様子に、少しだけ物申す。
「やらないぞ」
王への意見具申は、意味がなかった。
口一杯にチョココロネを頬張るラントリア。
いらないとは言わないが、何か複雑ではある。
この日のために、B組の賑やかしである明智エイミィがバレンタインデーに合わせて準備してきたチョココロネ。明智エイミィは、とんでもない数を騎士王アルトリアに献上していたのだ。
―――王よ。こちらをご賞味していただきたい―――。
B組の教室に収まりきらない『トラック一台』分のチョココロネを持ってきたエイミィを思い出す。
王に対して拝跪をするエイミィ。
本人としては、王に対する敬意を示したかったのかも知れないが、ともあれ―――それらは全てアルトリア達の胃袋に収まりそうだ。
(同じく、ここにいた人々も『死徒』どもの胃袋に収まっちまったようだな)
老若男女問わずの惨劇。同時に血の跡はそこかしこにあるものの、肉片一つも見つからない。
混沌は、どちらかといえば食屍鬼の類。暴食ともいえる性質なのだろうが―――。
「食い足りてないんだろうな―――達也、チームを分けよう」
「各個撃破の好餌にならないか?」
「だが、サーヴァント級の瞬足を持つ人間ばかりじゃない。分けるとしても2つだ」
そう言ってから頭の中で考えたチーム分けを発表する。
特に異論は出なかったが、意図の説明がエリカから出る。
「チームワーク」
その言葉に、誰もが懐疑的な眼をする。言っている刹那も、あんまり信用はしていない。
だが、気心の知れた相手と組んだ方が、不確定要素にも対処しやすい。
具体的に述べれた達也、深雪、エリカ、レオ、ほのか、TPピクシー、レティシア、愛梨―――そしてメイドオルタという分け。
もう1チームは、刹那、リーナ、真由美、幹比古、美月、レッド―――そしてラントリアという分け方だ。
あまり集団が密集して攻撃行動を取れば『詰まる』可能性もある。しかし、突破力を持つものがいれば、自ずと道は切り開かれる。
「意外ね。一色さんは、こちらに入りたいとか言ってくると想ったのに」
「ここまでの修羅場ともなれば、ワタクシとて節度は弁えています。レティシアから教えられたことが事実ならば、合理的な判断なのでしょうし」
七草先輩の言葉に返しながら、後半では挑戦的な笑みを浮かべる一色愛梨。闇の中でも見える煌きに「ああ」と返しておく。
「どの道、終着点は同じなんだ。油断せずに行こう」
物見遊山ではないことは理解できる。しかし、出来ることならば関わらずに東京観光をしてもらいたかったのに―――。
そんな逡巡を切り裂くように、『空間』に揺らぎが走る。
これ以上の問答をしている暇はなさそうだ。
『神殿の主』は、案外我慢弱い―――。
「達也!!」
呼びかけると同時に投げ渡した『歪な短剣』と『頑丈な短刀』が司波達也の手元に渡ると同時に、2つに分かれた道を互いに進む。
「死ぬなよ」
「そっちもな」
その言葉を激発の合図として、不敵な笑みを浮かべる一高2大魔人が
実をいうと初期の構想では。トーコ宇宙要塞のようにロアが張り巡らせた魔術的トラップをルルブレや破魔のルーンで切り裂き、砕きながら寿和、響子など官憲の連中と進んでいく。
イメージとしては踊る大捜査線の劇場版第二作での警報ワイヤーを辿りながら『素人』の犯人を追い詰めるというものにしようかと思っていたのですが―――。
『サーヴァント四騎も運用しておいて、これは無いな』
力の節約とか、そういった『状況』に置くことも考えたんですが、事件簿見ていれば分かる通り、フェイカーさんには幻創種とか苦戦する相手じゃないということは明朗になっちゃったので、ネロの獣やゾンビの大量発生もあんまり。
しかもグランドクラスである橙子の魔術(年季という意味では対象外だが)も、効いていない(対魔力B)ということなので。
シエルならば、サーヴァントでも防衛戦―――色々考えるとあれですが、まぁこんな展開になりました。(苦渋)