魔法科高校の魔宝使い ~the kaleidoscope~   作:無淵玄白

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ムニエルをカーマちゃんで叩く聖杯戦線。

バニー師匠が、これをやらせるとは、すなわち―――裏切者はムニエル!?

なんてこったぁ……カルデアから続く管制官の1人たるムニエルが―――そんなことだったなんて!

つまり師匠がムニエルを仮想敵にしているのは―――『いざという時に心の揺れなく倒すため』


―――まぁあり得ざる結論だな。

だが、きのこのことだ。何があっても驚きはしない―――

そんな感じで新話どうぞ。


第254話『Fate/stay night(2)』

 現代社会―――その中でも眠らない街と称されるほどに真夜中でも煌々とした、きらびやかな明かりが衛星写真(うちゅう)からも見える街中で、ここまでの暗闇は異様に映る。

 本来ならば、夜の闇は人々を眠りに就かせるものだが、この街においては、暗闇の中にも灯る明かりにこそ安心感を覚えるのだ。

 

 それこそが文明の明かりなのだと、人の心から不明なものを無くすのだと―――。

 ゆえに、暗闇に覆われた世界にて灯りを絶やさぬものは、その不明なものを無くそうとするものに他ならない。

 

 その者たち―――。

 

 

「パンツァー・ルーンブルグ!!」

 

 

 ―――魔法師という新たな開明の文明を世界に打ち立てるものたちである。

 

 高級ホテルの廊下はどこもかしこも横も縦も広々としすぎていて、逆に客間が手狭にならないかと想うほどのそこを圧倒する『壁の波』。

 前面にしか展開出来ないとは言え、多層型の壁は襲いかかるゾンビたちを通さない。

 

 

(九校戦でやった刹那のロー・アイアスによる進撃だな)

 

 

レオの戦術に、そんな感想を出しつつ発想を飛躍させると、食屍鬼ないし死徒の攻撃に定石はない。

 レオの壁波ごとの進撃は、こちらに『殆ど』の攻撃を通していないが……。

 

 

 ―――天井と壁の隙間―――

 

 僅かな覆いきれていない所。天地を逆さにして外壁を這う蜥蜴か、部屋の上隅に巣を張る蜘蛛のようにしている食屍鬼がいた。

 

(ウィルソン・フィリップス・神田議員のパーティー出席者に魔法師はいないという触れ込みだったが、幾らでも偽装することは出来るな)

 

 

そもそも、そういう反魔法師を標榜する俗物とはいえ、監視をしておくのは忘れないのが魔法師の裏側だ。

 他の食屍鬼とは違い、小器用な真似で四つの手足を使っている連中の目論見はわかり易すぎた。

 

「上から来るぞ! 気をつけろ!!」

「言われるまでもないわ!!」

 

 

その状態から襲撃をかけようとしたゾンビにエリカが対処する。蒼金の刃の刀を持ち、横薙ぎに剣を振るったことで、『飛ぶ斬撃』がレオの壁のギリギリを通り抜けて、天井に這うゾンビを大地に落とした。

 勢いよく廊下に叩きつけられるも、エリカに付けられた傷、分断された腕を復元呪詛で戻そうとするのを前にして、分解と神秘解体を放つことで塵へと返す。

 

 

「流石ですお兄様」

「レオとエリカのことも称賛しなさい」

 

 

 棚ぼたも同然にトドメ役を得ただけなのに、それは無いと想いつつも、現在5階層目。

 エレベーターは不起動・不通電なので当然使えないとは言え、趣のためなのか設計されていた長ったらしい階段を上っていく都度、なんとか五階に到達。

 

 その間に殺した食屍鬼の数は、両手の指ではすでに足りない。

 

 

「センチュリーホテルは、ちょっとした大規模ショッピングモールのように、巨大施設2つを連結通路で繋いでいるような構造だ」

 

 

 それによって、東西だか南北だか分からないが、『2つの塔』が、各々の階で行き来が出来るようになっている。

 

 その辺りの構造は、ショッピングモールとは、また違うのだが―――ある種の『迷子』が発生しないようにはなっている。

 問題は、その各階層の行き来を簡便にする通路が現在は―――

 

 

「ですが、その連結通路は巨大な結界式で『仕切り』をされているかのように不通です。恐らく16階層の大会場にて死徒は待ち構えている」

 

 

 何気ない呟きにレスとして、達也に告げたのはレティシアだが。そんなレティシアの様子はいつもと違う。

 

 瞬間、旗を畳んだ状態とはいえ槍を手に前に出てきたレティシアの姿は、以前に見た野暮ったい紫紺色系統の衣装とは違う。

 

 白銀の鎧はそのままだが、紫紺のローブ、ガーブとも言えるものを脱いで、ショルダーガードがなく、ブレストプレートがない―――英霊―――サーヴァントにはありがちの『不合理』な『露出』がある防具。

 全体的に白銀色の衣装のレティシアは、これ以上無く力が高まっているようにも見える。

 

 

「レティもそんなことになっていたとは。フフ、これもセルナの導きですかね?」

 

「私はそんなもの望んじゃいないんですよ。それなのに、ステゴロ聖女やリヴァイアサンと弁天様のミックスサーヴァントの力を得るわ……」

 

 

 面白がるように刹那との縁を快いものであると言う一色愛梨に、不満顔で抗議する深雪。

 そう言いながらも達也が苦心して登録したものを纏うぐらいには、妹もこの場で頑迷なまでに己の主義主張だけを押し通さないようだ。

 

『白無垢の花嫁姿』の美少女3人が前に出てきたことで、ロールチェンジとなるようだ。

 

 

「五階までの踏破ありがとうございますね。レオ」

「もう少し押し込みたかったんだがな。無茶は禁物か」

 

 

 笑顔での労いの言葉をレティから掛けられて、顔を赤くするレオが術を解いて下がる。

 競争しているわけではないが、どうやら刹那たちは既に七階まで到達しているようだ。

 

(力を蓄えているんだろうな―――俺の浅い推測では、現れた死徒の能力値やパラメーターが分からないが、それでもなにかを狙っていることは分かる)

 

『なにか』

 

 曖昧な表現ではあるが、そうでなければ、ここまで大それたことは出来まい。

 

 

「では行きますよ! アイリス!! ミユキさん!! 御旗のもとに!!」

 

 

 奥の廊下から押し寄せようとしてきた食屍鬼たちが怯むほどの、黄金の光輝を纏うレティに合わせるように、一色愛梨、司波深雪とがオーラを発して進撃を開始する。

 その様子は正直、言葉が出ないものだった。白無垢の花嫁たちは、天井や横の壁にも張り付いてやってこようとする相手たちに一切の攻撃を許さない。

 

 何故ならば―――旗槍を、炎雷の剣を、脚甲槍を―――『位置』を『回転』させながら振るっていたのだ。

 

 

「なんて力尽く。ゴーインすぎる……というか三人が『回転』することで発生するエネルギーが、竜巻も同然……」

 

 

 同然にして呆然としか言えないのだろうエリカの感想。ちょうど、銃身のらせん構造のように、斜め下―――ちょうどホテルの窓側の壁や客間の壁を蹴り上げるように上に登っていき、頂点に達した段階でその逆の機動で下がっていく様子。

 

 それの連続で食屍鬼の眼を惑わす思惑を含めて武技だ。廊下全てに破壊跡を残しながら、そのエネルギーに巻き込まれて病葉も同然に砕かれていく。

 

 超スピードと超パワーを持つサーヴァントの力を使うからこそ出来る芸当だ。それでいながら、その力で床も壁も、強化ガラスも完全には砕けていないのだ。

 

(もしかしたらば、この辺りは吸血鬼の城作りゆえの効果かもしれないが)

 

 

破壊跡、移動や武器の影響で抉られたところが、元の形へと戻ろうとしていた。具体的には、床に落ちた建材や剥がれた床が、自動的に元の位置に戻ろうとしていたのだ。

だが、そんな事実は血塗れの花嫁衣装に身を包む三人には関係がない。

 

 

「この剣舞!! 遠坂刹那に捧げる!!!」

 

 

 時に天地を逆さまにした状態でも剣戟を放つ一色愛梨。食屍鬼たちがまとめて吹き飛び、消滅。

 

 

「主よ! この不浄に正罪を!!!」

 

 

 床に降り立っていたレティシアが、逆袈裟に払った槍の奇蹟(軌跡)に従い、壁に張り付く食屍鬼を身体の半ばから消し飛ばす。

 

 

「アン・ドゥ・トロワ!!! 切っ先から逃れられるかしら?」

 

 

 上方―――殆ど、頭上から脚の槍を繰り出す深雪の攻撃は、ステップを踏むように食屍鬼たちの霊核を砕いていく。

 

 死体とはいえ、妹に人殺しをさせたくない達也の甘い考えなどお構いなしに、空中を舞うアイススケーターは、その勢いのままに―――。

 

 

「どっせえええい!!! 皇帝ペンギン!!!」

 

 

 口笛も吹いていないのにどこかから現れたペンギンたちが、深雪の脚槍―――『一直線』に廊下を貫くものに着いていき、食屍鬼の他に『獣』らしきものも一緒に吹き飛ばしていた。

 

 鎧袖一触とは、このことか―――。七階に行くまでの障害が取り除かれると……。

 

 

「後ろからの敵はやって来ていない。構わずに進め」

「分かりました」

 

 

 真正のサーヴァント。英霊アルトリアの別側面が―――趣味感溢れるメイド姿で後方から追いつくなり言ってきた。

 モップと水鉄砲を手にしたミニスカメイドの姿に何かしら想うところがあるのか、TPピクシーは『じーっ』と見ている。

 

 ともあれ道は開かれたわけであり、レティシアの先導に従い吸血鬼の城を登っていく。

 上がりながら考えることは刹那の吸血鬼殺しの鬼札(ジョーカーエース)のことだ。

 

 

 (刹那……お前のオヤジさんが残した『魔法』は、お前を―――)

 

 

 羨望の想いを抱くのは―――その魔法が、描く『奇蹟』がどんな魔法よりも――――。

 

 

 ―――キレイだからだ―――。

 

 

 そして自分がお袋より受け取ったものは、どんな魔法よりも―――。

 

 

 ―――おぞましく思えるからだ―――。

 

 

 † † † † †

 

 

 14階までやって来た時点で、鼻を突く据えた血の匂いは、この上なく不快感を増す。

 

 だが、そんな空気ごと撹拌するかのように赤金と蒼黒の疾走は止まらない。

 

 

「オラオラオラオラ!!! そこのけそこのけ! モードレッド様のお通りだ!!!」

 

 

 鎧を獅子型ゴーレムにして、それに跨るモードレッドは時に重力や慣性を無視した機動で襲いかかる獣―――主に、絶滅した狼目を張っ倒していく。

 朱雷を巻きながら振り抜いた一撃は、轟音と共に14階全体を揺らしたようにも思える。

 

 だが、それと同じぐらい常識を(はず)した機動をするのは、『黒馬』を駆るランサー・アルトリア・オルタことラントリアである。

 

 

「モードレッド、如何にここが吸血鬼によって『強化』された城とは言え、万一がある。マスターのプランと足場を崩すなよ」

「も、申し訳ないロンゴミニアドのアーサー王。セツナ!! ワリーな!!」

 

 

 狂犬のようなレッドも、ドリルのような槍を持つアーサーに対しては平伏するようだ。いや、まぁいいけど。何というかアーサー王のファンが刹那の周りには多いような気がする。

 

 

「刹那君、さっきのモーちゃんの攻撃とかで発生した魔力、浄めますね」

「頼む」

 

 魔眼と月鏡を用いて澱んだ魔力を浄化(はんてん)する美月に感謝をしつつ、ある意味では、彼女の身体を穢すことに幹比古に申し訳無さを感じる。

 

 だが、今は―――『この充填』が鍵を握る……。握ると分かっているからこそ―――。

 

 

「―――気負いすぎると、マタ逃げられちゃうわヨ?」

 

 

 ―――雷系統の術で、こちらに襲いかかるグールを焼却したリーナが内心を見透かして言ってきた。

 その言葉に少しだけ詰まってから、反論する。

 

 

「……そりゃ分かるんだけどさ、みんなが粉骨砕身しているってのに、俺が動かずにいることに焦燥感を覚えるんだよ」

 

 それに反論するも、どうしても尻すぼみになるのは仕方ない。どうやっても刹那は後ろでじっとしていられない存在なのだ。

 

 

『人ってのは最善策が、必要不可欠である。どれだけ犠牲を伴うものだとしても、中々受け入れられないんだな。それは人が持つ性であり、どうしても切り離せぬ社会性だ。特に自分に『全てを解決する術』があるとすならば、尚更だ』

 

 

「分かっちゃいるんだが」

 

 

『分かっていないから、こうなっているんだ。自覚したまえ』

 

 中々に厳しい言葉が魔法の杖から飛んでくる。苛立つのも分かる。

 今からやることは、刹那の運命を、星の理を脅かす異界現象だから。この魔法の杖は、そこまでのことを考えているのだ……。

 

 

「なんというか、魔法の杖が保護者だなんて刹那くんらしいのかしら?」

「オニキスさん、ダヴィンチちゃんは刹那君のお母さんですね」

 

 

 真由美と美月の感想に苦笑してしまう。この魔法の杖は、色々あって自分に寄り付いてくれたが、それ以上に色々と心配を掛けすぎているのは確かではある。

 

 

『まぁそれは仕方ない。なんせ私こそが刹那が初めて契約した使い魔だからね。どうしても親心というものを抱いてしまう』

 

 

 歴代のカレイドステッキにはあるまじき、なんというか面白がる性根が無いのは少しばかり嬉しいが……。

 

 

『全ては、後に生まれる刹那の娘2人に契約を迫らんがためにあり! 私と契約してさくらカード(?)を手に入れよう―――とか言うために、いわば天災ダヴィンチちゃんの五カ年計画というやつだ』

 

 

 強く生きるのだ。未だ見ぬ我が娘よ……(涙)。日本刀とか弓矢とか継承させれば、どこぞの夜叉姫のごとくなれるだろう。

 カレイドステッキはどこまでいっても、こういうのばかりなのだ(涙)

 

 とはいえ緊張がほぐれたのは事実だ。ここまでたどり着けたのもある種の僥倖だ。

 あちらがどんな手を打ってこようと倒せるはずだ。

 

 

「見せてもらうよ刹那。あの時、八王子クライシスに直接迎えなかった僕と美月さんが見れなかった秘術を―――」

「そのつもりだ」

 

 呪符を用いて突撃突破する2人が残した残敵(死に体)を倒す幹比古に言いながら、歩を進める。

 

 15階まで来れば強力なガーディアンが一体でもいるかと思えば何もなく、血と澱んだ魔力の混合の颶風(かぜ)が鼻を突き、身を突き刺してくる。

 

 ―――誘っている。

 

 分かっていたことだ。壁に染み付いていただろう『血の跡』を見て美月が息を呑んだが、それを呑み込んで手を握りしめている。

 霊感が強すぎる彼女にとってこの空間は、気分の良くないものだろうが―――。

 

 

「美月!」

「エリカちゃん!!」

 

 

 15階まで来た時点で合流は必定だったが、予想外のハイペースに驚く。見知った顔で一番親しい女友達(番長)が見えたことで、美月に喜色が交じる。

 

 精神清涼剤がやってきたことに安堵しつつ、反対側の『塔』の攻略を任せていた全員の無事を確認する。

 

 

「場合によっては渡り廊下の結界を砕いて、こちらに呼び寄せるつもりだったんだがな」

 

「そこまでの子守はいらんな。俺たちの獅子奮迅の勇戦をお前にも見せたかったぐらいだ」

 

 

 ソレに関しては『覗き見』が勝手に録画しているだろう。抜け目のない『女』だ。リーナの『はとこ』のサ○マンを思い出しながら達也の言葉に返した。同時に最後の階への階段が見える。

 

 全員が固唾を呑んで、その上階から濃く匂ってくる(・・・・・)血の香と邪悪な魔力を睨みつける。惨劇の主を睨み殺す勢いで―――。

 

 

「―――――――ここから先に行くのか?」

 

 

 その様子に、しつこいかもしれないが、再度の警告。受けた達也は呆れた顔をしてから口を出す。

 

 

「足踏みして留まることも必要だろうけどな。ここでソレはないだろ―――たとえ、ホテルの外にグールを出さないための両棟攻略だったとはいえな」

 

「俺やお前はともかく光井や美月は、どう考えても―――気を遣わなければいけないだろ」

 

「そうだな。いまのお前ならば、帰路の安全確保のため、サーヴァントを就けて外界に送り返すことも出来るだろうが―――」

 

「が?」

 

「ここまで来た以上、全てを見る―――美月もその心なんだろ?」

 

 強く頷く美月、次いで光井ほのかは……。

 

「正直言えば怖い思いは一杯ある―――けれど、いまは……達也さんの傍にいたいから」

 

 それだけではないだろうということは、刹那には分かった。きっと、これからやることは、北米にいる雫にも伝わるだろうことも……。

 そして、その事実は―――雫のご両親にも伝わる。

 

 

 それを嘆くわけではないが、少しの『寂しさ』を覚える。

 

 しかし決断の時はやってくるのだ。

 

 

 ―――階段を登る……その一段一段を踏みしめるたびに、『運命』と出会う予感を覚えさせながら―――道程を刻んでいく。

 

 

 


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